【解決手段】電動車両100は、前輪1および後輪2と、後輪2を駆動する走行モータ4と、走行モータ4に電力を供給するバッテリ45と、を備える。後輪2は、単一の車輪である。バッテリ45の左右方向幅は、後輪2の左右方向幅と略同一に形成される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1A〜
図11を参照して本発明の一実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る電動車両は、例えばシニアカーや電動車椅子などと称される歩道を走行可能な一人乗り用の電動車両として構成され、歩行困難者等の移動手段として用いられる。なお、他の用途の電動車両として構成することもでき、ユーザは歩行困難者以外であってもよい。
【0009】
図1A,
図1Bは、それぞれ本実施形態に係る電動車両(以下、単に車両と呼ぶこともある)100の全体構成を示す斜視図である。なお、以下では、図示のように前後方向、左右方向および上下方向を定義し、この定義に従い各部の構成を説明する。前後方向は車両100の長さ方向、左右方向は車幅方向、上方方向は重力方向である。車両100が水平面上に位置するとき、上下方向は車両100の高さ方向に一致する。
【0010】
図1A,
図1Bに示すように、車両100は、2つの前輪1と1つの後輪2とを有し、後輪2を駆動輪とする3輪車両として構成される。車両100は、前輪1と後輪2の他、車両100の骨格を形成するフレーム10と、フレーム10の周囲を覆うカバー20と、ユーザによって操作されるハンドル30と、ユーザが着座するシート3とを主に有し、全体がほぼ左右対称に構成される。フレーム10は、高強度の金属によって構成されるのに対し、カバー20は、樹脂材により構成される。フレーム10の構成は後述する。
【0011】
カバー20は、大別すると、ハンドル30の下方に設けられ、上下方向に延在するフロントカバー21と、前輪1と後輪2との間に設けられ、前後方向に延在するフロアカバー25とを有する。フロントカバー21は、前輪1の近傍からハンドル30の近傍にかけて延設されたフレーム10(後述のフロントフレーム14)を前後方向に挟み込むように構成された前後一対のカバー、すなわち前面カバー22と後面カバー23とを有する。前面カバー22と後面カバー23とは、いずれも左右方向および上下方向に延設され、全体が略矩形状に構成される。前面カバー22と後面カバー23とは、ボルト等の締結手段を用いて互いに一体に組み合わされ、これによりフロントカバー21が構成される。
【0012】
前面カバー22には、例えば左右方向中央下端部にライト22aが取り付けられるとともに、ライト22aの上方に前かごの取付用のステイ22bが取り付けられる。後面カバー23には、上部にフック23aが取り付けられ、フック23aの下方に左右一対のドリンクホルダ23bが設けられる。さらに後面カバー23には、開閉可能な蓋24が設けられる。蓋24は、左右方向中央部内側に設けられたヒンジ部24aを支点にして上下方向に回動可能に設けられる。蓋24は、城端部のフック23aを操作することで開放可能である。蓋24を開放した状態では、蓋24はヒンジ部24aに設けられた保持機構(不図示)によって水平姿勢に維持され、これにより蓋24の上面に物(例えばフック23aに吊り下げていた物)を搭載することができる。
【0013】
フロアカバー25は、前輪1から後輪2にかけて延設されたフレーム10(後述のメインフレーム11)を上下方向に挟み込むように構成された上下一対のカバー、すなわち上面カバー26と底面カバー27とを有する。上面カバー26と底面カバー27とは、いずれも左右方向および前後方向に延設される。特に、上面カバー26は、左右方向中央部が上方に膨出され、膨出部の左右方向両側に、シート3に着座したユーザが足を乗せるステップ28が設けられる。ステップ28の前端部は、前輪1と干渉しないように斜め上方に向けて延設される。上面カバー26と底面カバー27とは、ボルト等の締結手段を用いて互いに一体に組み合わされ、これによりフロアカバー25が構成される。
【0014】
シート3は、後輪2の前方かつ上方(斜め上方)に位置し、前方に向けて幅が狭くなるように前後方向細長に形成される。ハンドル30は、前輪1のほぼ上方(厳密にはハンドル30の上方かつやや後方)において左右方向に延在する。ユーザは、シート3に着座した状態で、ハンドル30を両手で把持し、かつ、上面カバー26の左右のステップ28に両足を乗せた姿勢で、車両100に乗車する。
【0015】
後輪2の内側には、電力を供給されて駆動する走行モータ4(インホイールモータ)と、ブレーキユニット5とが収納される。例えば左側に走行モータ4が、右側にブレーキユニット5がそれぞれ配置される。ブレーキユニット5は、例えばドラムブレーキを構成するドラムブレーキユニットとして構成される。車両100は、走行モータ4の駆動により走行し、ドラムブレーキの作動により制動力が付与される。走行モータ4は、車両100に搭載された電力制御ユニット47(
図3)により駆動が制御される。電力制御ユニット47は、インバータ回路等を有し、車両100に搭載されたコントローラ(以下、車両コントローラと呼ぶ)から出力される制御信号に応じて動作する。
【0016】
図2は、ハンドル30の周囲の構成を示す正面図(シート3に着座したユーザから見た図)である。
図2に示すように、ハンドル30はステアリングシャフト51の上端部に設けられたステム52(
図6)を介して支持され、左右方向に棒状に延在するバーハンドルとして構成される。ハンドル30は、ステアリングシャフト51を中心として左右方向に回動操作可能であり、ハンドル30の回動操作により左右の前輪1が転舵し、車両100を旋回させることができる。ハンドル30の左右方向の長さ(全長)は、車両100の左側の前輪1の左端面から右側の前輪1の右端面までの長さ(前輪幅)よりも短く(
図4参照)、車幅は前輪幅により規定される。なお、ハンドル長さが前輪幅と等しくてもよく、ほぼ等しくてもよい。
【0017】
ハンドル30の左右両端部には、それぞれユーザが把持するグリップ32L,32Rが設けられる。左側のグリップ32Lの左端部および右側のグリップ32Rの右端部には、それぞれウインカーランプ33が取り付けられる。なお、グリップ32L,32Rの左右内側には、乗車中のユーザが後方を確認するための左右一対のミラー34がそれぞれ取り付けられる。ハンドル30の左右中央部には、車速やバッテリ残量等の車両状態を表示する表示部50が設けられる。
【0018】
表示部50としては、例えばユーザのスマートフォン等の携帯端末60を用いることができ、ハンドル30には、携帯端末60を着脱可能に保持するホルダ61が取り付けられる。携帯端末60の表示部には、車両100に搭載された不図示の通信ユニットと携帯端末60との間で通信を行うことで、車両情報が表示される。なお、通信ユニットと携帯端末60との間の通信は、車両コントローラにより制御される。
【0019】
右側のグリップ32Rの内側(左方)には、車両100のメイン電源のオンオフを指令するスタータスイッチ35と、車両100の前進および後進の切換を指令する前後進切換スイッチ36と、ホーンの作動を指令するホーンスイッチ39とが、それぞれグリップ32Rに隣接して設けられる。スタータスイッチ35と前後進切換スイッチ36とホーンスイッチ39とからの信号は車両コントローラに入力され、車両コントローラによりメイン電源のオンオフ、車両100の前後進およびホーンの作動が制御される。さらにグリップ32Rの前方には、グリップ32Rと略平行にアクセルレバー41が配置される。
【0020】
アクセルレバー41は、その左側の基端部がハンドル30の周面に沿って上下方向に移動可能に支持される。アクセルレバー41の基端部には、アクセルレバー41を上方に付勢するばね等の付勢部材が設けられる。アクセルレバー41の操作は、不図示のセンサ等により検出され、その検出信号が車両コントローラに入力される。ユーザが、付勢部材の付勢力に抗してアクセルレバー41を下方に操作すると、車両コントローラに車両100の走行指令が入力され、走行モータ4が駆動される。ユーザがアクセルレバー41の操作をやめると、アクセルレバー41は付勢部材の付勢力により上方に移動する。これにより、車両コントローラに車両100の走行停止指令が入力され、走行モータ4の駆動が停止される。
【0021】
左側のグリップ32Lの内側(右方)には、右左折を指令するウインカースイッチ37と、最高車速を設定する速度設定スイッチ38と、ホーンの作動を指令するホーンスイッチ39とが、それぞれグリップ32Lに隣接して設けられる。さらにグリップ32Lの前方には、ブレーキレバー42が配置される。ウインカースイッチ37とホーンスイッチ39とからの信号はそれぞれ車両コントローラに入力され、これらスイッチ37,39からの信号に応じてウインカーランプ33の点消灯とホーンの作動が制御される。ブレーキレバー42は、ブレーキワイヤを介してブレーキユニット5に接続され、ブレーキレバー42の操作によりドラムブレーキを作動することができる。
【0022】
速度設定スイッチ38は、所定の上限車速(例えば6km/h)以下の範囲で、所定速度(例えば1km/h)毎に最高車速を設定するように構成される。上限車速は、歩道を走行可能な電動車両100が満たすべき法令等により定められた車速であり、例えば成人男性の早歩きの歩行速度に基づいて定められる。速度設定スイッチ38からの信号は車両コントローラに入力される。速度設定スイッチ38により、上限車速以下の所定車速(例えば5km/h)に最高車速が設定されると、アクセルレバー41の操作時の車両100の最高車速がその所定車速(5km/h)に制限される。
【0023】
以上の操作部材のうち、スタータスイッチ35と、前後進切換スイッチ36と、アクセルレバー41とは、ユーザがグリップ32Rを把持しながら右手で操作可能である。また、ウインカースイッチ37と、速度設定スイッチ38と、ホーンスイッチ39と、ブレーキレバー42とは、ユーザがグリップ32Lを把持しながら左手で操作可能である。したがって、ユーザは、グリップ32L,32Rから手を離すことなく各種の走行操作を行うことができる。
【0024】
図3は、車両100からシート3、カバー20およびハンドル30に設けられた各種の部品を取り外した状態を示す車両100の斜視図であり、主にフレーム10の構成を示す。
図4〜
図6は、それぞれ車両100の平面図(上方から見た図)、底面図(下方から見た図)および側面図(右方から見た図)であり、
図3と同様に主にフレーム10の構成を示す。
【0025】
図3〜
図6に示すように、フレーム10は、車両100の中央部に配置されたメインフレーム11と、メインフレーム11の後端部から斜め上方に延在するシートフレーム12と、シートフレーム12の下方においてメインフレーム11の後端部から後方に延在する左右一対のスイングアーム13と、メインフレーム11の前端部から上方に延在するフロントフレーム14とを有する。
【0026】
本実施形態の車両100は、後輪2が駆動輪として構成される。このため、
図4,
図5に示すように、後輪2の幅(左右方向長さ)は前輪1の幅よりも広く、例えば後輪2の幅は前輪1の幅のほぼ2倍である。なお、後輪2の幅が前輪1の幅の2倍よりも広くあるいは狭くてもよい。後輪2の幅について一例を挙げると、車両の走行安定を考慮して150mm〜200mmの範囲内であることが好ましい。一方、
図6に示すように、後輪2の径は前輪1の径よりも大きく、後輪2の回転中心は前輪1の回転中心よりも上方に位置する。なお、後輪2と前輪1の径を同一としてもよく、後輪2の径を前輪1の径より小さくしてもよい。
【0027】
図4,
図5に示すように、メインフレーム11は、前後方向かつ前方にかけて斜め上方に延在する左右一対のサイドフレーム111,112を有する。左右のサイドフレーム111,112の後端部は、平面視略コ字状のリアフレーム113の両端部にそれぞれ溶接等により固定される。左右のサイドフレーム111,112の前部は、それぞれ左右方向内側に屈曲され、それらの前端部は、前後方向に延在する略板状のフロントブラケット114(
図3)にそれぞれ溶接等により固定される。これによりメインフレーム11は、全体が平面視枠形状に、かつ、上下方向に傾斜して構成される。
【0028】
シートフレーム12は、メインフレーム11の左右後端部にそれぞれボルト等により固定された左右一対の支持フレーム121,122を有する。これら支持フレーム121,122は、それぞれ平面視がサイドフレーム111,112と同一直線上に位置する。支持フレーム121,122は、後方にかけて斜め上方に延在し、後輪の上方(回転中心の上方)において前方かつ左右方向内側に向けて屈曲される。支持フレーム121,122はその前端部同士が接続フレーム123により一体に接続され、接続フレーム123上にシート3が取り付けられる。なお、
図1A,
図1Bに示すように、接続フレーム123の後端部には、ユーザの臀部や腰部を支持するガイド124が取り付けられる。
【0029】
図5に示すように、左右のスイングアーム13は、それぞれ平面視がサイドフレーム111,112と同一直線上に位置する。リアフレーム113の後端部には、それぞれ左右両端面に左右方向に向けてねじ部(雌ねじ)が形成される。左右のねじ部には、それぞれ転倒防止用の左右一対のバー15が螺合される。
図5,
図6に示すように、左右のスイングアーム13の前端部は、それぞれ左右一対のバー15の基端部に回動可能に軸支される。左右のスイングアーム13の後端部は、後輪2の回転軸の左右両端部にそれぞれ回転可能に連結される。左右のスイングアーム13には、後輪2の前方において溶接等によりプレート131が固定され、プレート131を介して左右のスイングアーム13が一体化される。左右の支持フレーム121,122と左右のスイングアーム13との間には、衝撃吸収ユニット16が介装される。
【0030】
図6に示すように、フロントフレーム14は、メインフレーム11の前方において前後方向に延在するベース141と、ベース141から上方に延在するステアリングパイプ142とを有する。ベース141の後端部は、フロントブラケット114の前端部にボルトにより結合され、これによりメインフレーム11とフロントフレーム14とが一体に設けられる。
図5に示すように、ベース141には、左右方向に延在する左右一対の車軸フレーム143が取り付けられ、車軸フレーム143により左右の前輪1が回転可能に支持される。
図6に示すように、ステアリングパイプ142の外周面には、フロントカバー21(
図1A)を取り付けるためのブラケット142aが突設される。
【0031】
ステアリングパイプ142の内部には、ステアリングシャフト51がステアリングパイプ142に対し回転可能に挿通される。ステアリングシャフト51の上端部には、ボルトによりステム52が取り付けられ、ステム52にハンドル30が固定される。ステアリングパイプ142を貫通したステアリングシャフト51の下端部は、
図4に示すように、左右一対のリンク機構53に接続される。ユーザがハンドル30を操舵すると、その操作力はステム52、ステアリングシャフト51およびリンク機構53を介して前輪1に伝達され、前輪1が左右方向に転舵される。
【0032】
以上のように構成された車両100は、走行モータ4等に電力を供給するためのバッテリ45を有する。バッテリ45は重量物であるため、特に本実施形態のように3輪の車両100に搭載する場合には、車両100の姿勢安定性を考慮してバッテリ45を配置する必要がある。本実施形態では、メインフレーム11によりバッテリ45が支持される。以下、バッテリ45の配置について詳細に説明する。
【0033】
図5,
図6に示すように、左右のサイドフレーム111,112の間には、略板状のブラケット115が架設される。ブラケット115の左右両端部は、それぞれサイドフレーム111,112に溶接等により固定される。ブラケット115は、サイドフレーム111,112から鉛直下方に延在した後、左右方向内側に屈曲されて延在し、全体が正面視略コ字状に形成される。ブラケット115の底面は水平方向に延在し、その底面の高さは、リアフレーム113の後端部の高さとほぼ等しい。これにより、メインフレーム11の内側に、サイドフレーム111,112とリアフレーム113とにより囲まれ、ブラケット115を底面とした凹状の空間SPが形成される。
【0034】
空間SPには、可搬式のバッテリ(バッテリパック)45が収容される。
図7は、バッテリ45の斜視図である。
図7に示すように、バッテリ45は、全体が略直方体形状を呈し、その長手方向の端部(バッテリ45の上端部)に持ち運び用の取っ手46が設けられる。バッテリ45を可搬式とすることで、車両100から取り外したバッテリ45を、例えばバッテリ45を収容可能な充電ユニット等に接続して充電することが可能になる。また、車両100から離れた種々の電気機器に対する電力源としてバッテリ45を広く用いることができる。
【0035】
図3に示すように、バッテリ45は、その長手方向を前後方向に向けた状態、すなわち横にした状態で、空間SPに収容される。収容状態では、バッテリ45の側面はブラケット115により支持され、底面はブラケット115と底面カバー27(
図1A,
図1B)とにより支持される。なお、底面カバー27に、バッテリ45の形状に対応した凹部を形成し、凹部にバッテリ45を収容するようにしてもよい。
図6に示すように、バッテリ45を空間SPに収容した状態では、前輪1の上端と後輪2の上端とを接続して得られる仮想平面PLよりも、バッテリ45は下方に位置する。
図3に示すように、バッテリ45の後方におけるプレート131(
図5)の上面には、電力制御ユニット47が配置され、バッテリ45と電力制御ユニット47とは電気的に接続される。
【0036】
図8は、電動車両100の側面図である。
図8に示すように、上面カバー26には、バッテリ45の形状に対応した蓋26aが、蓋26aの後端部に設けられたヒンジ部26bを支点にして矢印方向に開閉可能に設けられ、蓋26aの内側にバッテリ45が収容される。蓋26aには、例えばその裏面に弾性変形可能な押圧部が設けられる。蓋26aを閉じると、バッテリ45の上面は押圧部により押圧され、これによりバッテリ45を、がたつくことなく保持することができる。また、押圧部により保持する構成は、ボルト等により保持する場合に比べてバッテリ45の着脱が容易である。なお、押圧部を介して保持する代わりに、バッテリ45をボルト等によりサイドフレーム111,112や底面カバー27に固定するようにしてもよい。
【0037】
以上の構成によれば、
図5に示すように、後輪2の左右両側に配置された左右一対のスイングアーム13と、メインフレーム11の左右一対のサイドフレーム111,112とが互いに前後方向の同一直線上に配置される。このため、サイドフレーム111,112の内側の収容空間SPにバッテリ45を配置するとき、後輪2の幅とバッテリ45の幅とがほぼ同一となる。これによりバッテリ45を、後輪2の幅からはみ出さないように車両100の中央部に安定的に配置することができる。また、
図6に示すように、収容空間SPには、バッテリ45を横に倒して配置するので、バッテリ45は、前輪1と後輪2とによって規定される仮想平面PLよりも下方に位置する。このため、バッテリ45を起立して配置する場合よりも、バッテリ45の重心位置が下方にずれ、車両100の安定性がより高まる。
【0038】
車両100の重心位置について説明する。
図8の点G1は、ユーザが乗車する前の車両100の重心位置を表し、点G2はシート3に着座した所定体重のユーザ自身の重心位置を表し、点Gtは、ユーザが乗車した状態の車両100の全体の重心位置を表す。本実施形態では、車両100の重心の位置(点G1)が低いため、車両全体の重心の位置(点Gt)も低くなる。点Gtから水平面に対し鉛直下方に垂線を下ろしたときの路面との交点を、車両100の姿勢安定性を示すパラメータである接地点Paと呼ぶ。
【0039】
図9は、車両100の接地領域を示す平面図である。
図9において、左右の前輪1と路面とが接地する領域の中心線(接地線)をそれぞれL1,L2で表し、後輪2と路面とが接地する領域の中心線(接地線)をL3で表す。接地線L1〜L3はそれぞれ左右方向に延在する。各接地線L1,L2の左右方向外側端部の点(接地点)P1,P2と、接地線L3の左右両端部の点(接地点)P3,P4と、を結んで得られる領域、すなわち略台形の領域を、便宜上、安定領域ARと呼ぶ。
【0040】
図8の接地点Paが安定領域AR内に位置すれば、車両100の転倒を防ぐことができる。例えば、車両100が水平面上を走行しているとき、
図9に示すように接地点Paは、車両100の左右方向中心を通る基準線CL上に位置する(Pa0)。一方、車両100の模式的な背面図である
図10に示すように、例えば車両100が右上がりに傾斜した所定傾斜角度θの傾斜面を走行すると、接地点Paは基準線CLよりも左方にずれる(
図9のPa1)。接地点Paの基準線CLからのずれ量は、傾斜角度θが大きいほど大きくなり、傾斜角度θが所定角度以上になると、車両100が転倒するおそれがある。
【0041】
バッテリ45は、所定の傾斜角度θ1(例えば15°〜30°)において接地点Paが安定領域AR内に位置するという要件、すなわち所定の傾斜角度θ1での車両100の転倒を防止するという要件を満たすように配置される。この点、本実施形態では、駆動輪である後輪2の安定した走行駆動力を得るために、後輪2が幅広に形成される。このため、安定領域ARの面積を拡大することができ、傾斜路面での接地点Paの基準線CLからのずれ量を減少させることができる。また、本実施形態では、バッテリ45が、後輪2とほぼ同等の幅に形成されてメインフレーム11の内側に横に倒して配置される。このため、車両100の重心の点Gtの位置が低くなり、傾斜路面での接地点Paの基準線CLからのずれ量を減少させることができる。その結果、所定の傾斜角度θ1において接地点Paを安定領域AR内に設定することができる。
【0042】
本実施形態の電動車両100は、上述したように可搬式のバッテリ45を搭載するため、バッテリ45を車両100から取り外した状態で充電可能である。さらに車両100は充電ポートを備えており、バッテリ45を車両100に搭載した状態でも充電することができる。充電ポートは、例えば後面カバー23の蓋24(
図1A)の内側に設けられる。
【0043】
図11は、後面カバー23の蓋24の内側の構成を示す正面図(後方から見た図)である。なお、蓋24は開放時に水平姿勢に維持されるが、
図11では、蓋24の図示を省略する。
図11に示すように、後面カバー23には、交流電力を出力するコンセント231と、USB端子が接続される複数のUSBコネクタ232と、バッテリ45を充電する充電ポート233とが設けられる。このように後面カバー23にコンセント231とUSBコネクタ232とを設けることで、バッテリ45の電力を種々の用途に用いることができる。また、後面カバー23に充電ポート233を設けることで、バッテリ45の充電も容易である。
【0044】
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る電動車両100は、前輪1および後輪2と、後輪2を駆動する走行モータ(電動モータ)4と、走行モータ4に電力を供給するバッテリ45と、を備える(
図1A、
図1B)。後輪2は、単一の車輪であり、バッテリ45の左右方向幅は、後輪2の左右方向幅と略同一である(
図4)。このように重量物であるバッテリ45が後輪2と略同一幅に構成されることで、後輪2の幅を超えずに車両100にバッテリ45を配置することができる。このため、車両100の安定性が高まり、傾斜路面の走行時における車両100の転倒を抑制することができる。
【0045】
(2)バッテリ45は、その長手方向を前後方向に向けて車両100の左右方向中央部に配置される(
図3)。これによりバッテリ45の重心位置が低くなり、車両100の安定性が一層高まる。
【0046】
(3)車両は、単一の後輪2と、2つの前輪1とにより構成される(
図1A,
図1B)。このように車両100が3輪車両として構成されると、右側の前輪1の右端面から左側の前輪1の左端面までの長さによって車幅が規定され、前輪1側に比べて後輪2側が不安定になりやすい。この点、本実施形態では、バッテリ45の幅を後輪2の幅と同等にしたので、3輪車両の安定性を十分に高めることができる。
【0047】
(4)車両100が左右方向の所定傾斜角度θ1の路面を走行するとき、所定体重のユーザの乗車時の車両100の重心位置(
図8の点Gt)から水平面に対し鉛直下方に下ろした垂線が、後輪2の路面との左右両端側の接地点P3,P4と左側の前輪1の路面との左端側の接地点P1と右側の前輪1の路面との右端側の接地点P2とによって囲まれる略台形状の安定領域AR(
図9)内を通過するように、バッテリ45が配置される。すなわち、接地点Pa(
図8)が安定領域AR内に位置するように、車両100にバッテリ45が搭載される。これにより、所定傾斜角度θ1の路面を走行中の車両100が左右方向に転倒することを防止できる。
【0048】
(5)後輪2は、走行モータ4により駆動される単一の駆動輪である(
図1A,
図1B)。このため、走行モータ4の個数が1つで済み、安価に構成できる。また、バッテリ45の幅が後輪2の幅と同等になるように後輪2を幅広に構成しているので、安定した走行駆動力(グリップ力)を得ることが可能である。これに対し、駆動輪としての後輪が2つの車輪で構成されるとともに前輪が単一の車輪で構成される場合、車両旋回時の抵抗を抑えるために前輪の幅を拡大することは困難であり、したがって、本実施形態のようにバッテリ45の幅を単一の車輪の幅と同等に構成することは難しい。
【0049】
(6)バッテリ45は、その上端部が前輪1と後輪2のそれぞれの頂点を結んで得られる仮想平面PLよりも下方に位置するように配置される(
図6)。すなわち、仮想平面PLからバッテリ45が突出せずに配置される。これにより車両100の重心位置が低くなり、車両100の転倒を抑制することができる。
【0050】
(7)車両100は、歩道を走行可能なように最高速度を所定速度以下に制限する速度設定スイッチ38等の速度制限部をさらに備える(
図2)。これにより車両100を、いわゆるシニアカーなどとして好適に用いることができる。
【0051】
(8)車両100は、上下方向に延在するステアリングシャフト51を介して前輪1を操舵するハンドル30と、ステアリングシャフト51(ステアリングパイプ142)の周囲を覆うフロントカバー21と、をさらに備える(
図1A,
図3)。フロントカバー21は、その後面(後面カバー23)に、開閉可能な蓋24を有する(
図1A)。蓋24の内側に、バッテリ45に電気的に接続可能なコンセント231、USBコネクタ232および充電ポート233等の種々のコネクタ部が設けられる(
図11)。これにより、バッテリ45の電力を容易に他の用途に用いることができるとともに、バッテリ45の充電も容易である。
【0052】
本実施形態は、種々の形態に変形することができる。以下、いくつかの変形例について説明する。上記実施形態では、前輪1が2輪、後輪2が1輪の3輪車両として車両100を構成したが、前輪および後輪の少なくとも一方が単一の車輪であれば、車両の構成は上述したものに限らない。例えば、前輪が1輪、後輪が2輪の3輪車両であってもよく、前輪および後輪がそれぞれ1輪の2輪車両であってもよい。すなわち、単一の車輪である第1輪は後輪以外であってもよく、第1輪と前後方向異なる方向に配置された車輪である第2輪、第3輪は前輪以外であってもよい。
【0053】
上記実施形態では、バッテリ45を直方体形状に構成したが、バッテリの形状はこれに限らず、したがってバッテリ45を横置き以外に配置してもよい。上記実施形態では、バッテリ45を前輪1および後輪2の頂点を通る仮想平面PLの下方に配置したが、仮想平面と交差して配置されてもよい。上記実施形態では、バッテリ45の左右方向幅を、単一の車輪である後輪2の幅と略同一としたが、バッテリの幅が単一の車輪の幅よりも狭くてもよい。上記実施形態では、歩道を走行可能なように速度制限部(速度設定スイッチ38)により車両100の最高速度を所定速度以下に制限するようにしたが、電動車両は歩道以外の道路を走行可能としてもよい。
【0054】
上記実施形態では、シャフト部材としてのステアリングシャフト51とステアリングパイプ142とを介してハンドルを支持するようにしたが、シャフト部材の構成はこれに限らない。上記実施形態では、後面カバー23に開閉可能な蓋24を設けるようにしたが、カバーおよび蓋部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、蓋24の内側にコンセント231とUSBコネクタ232と充電ポート233とを設けるようにしたが、他のコネクタ部を設けるようにしてもよい。
【0055】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。