【解決手段】ハイブリッド車両の駆動装置は、ヘリカルギヤを有する遊星歯車機構から出力されたトルクが入力される外側ドラム25と、外側ドラム25に軸方向に隣接して配置された内側ドラム26と、外側ドラム25と内側ドラム26とを一体に結合または分離するクラッチ機構40とを備える。外側ドラム25は、エンジンの駆動時に内側ドラム26から離間し、エンジンの被駆動時に内側ドラム26に接近するように軸方向に移動可能に配置される。ECUは、HVモードから回生・EVモードに移行すると、第1モータジェネレータで回生し、その後、始動モードに移行すると、クラッチ機構40を係合かつ第1モータジェネレータを駆動するように第1モータジェネレータおよびクラッチ機構40を制御する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、
図1〜
図12Bを参照して本発明の一実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る駆動装置は、走行駆動源としてエンジンとモータジェネレータとを備えるハイブリッド車両に適用される。
図1は、本発明の実施形態に係る駆動装置100の全体構成を概略的に示す図である。
【0009】
図1に示すように、駆動装置100は、エンジン(ENG)1と、第1および第2モータジェネレータ(MG1,MG2)2、3と、動力分割用の第1遊星歯車機構10と、変速用の第2遊星歯車機構20とを備える。駆動装置100は車両の前部に搭載され、駆動装置100の動力は車輪(例えば前輪)101に伝達される。
【0010】
エンジン1は、スロットルバルブを介して供給される吸入空気とインジェクタから噴射される燃料とを適宜な割合で混合し、点火プラグ等により点火して燃焼させ、これにより回転動力を発生する内燃機関(例えばガソリンエンジン)である。なお、ガソリンエンジンに代えてディーゼルエンジン等、各種エンジンを用いることもできる。スロットルバルブの開度、インジェクタからの燃料の噴射量(噴射時期、噴射時間)、および点火時期等はコントローラ4により制御される。エンジン1の出力軸1aは、軸線CL1を中心に延在する。なお、エンジン1には逆転防止用のワンウェイクラッチが設けられ、出力軸1aの逆転が防止される。
【0011】
第1および第2モータジェネレータ2,3は、それぞれ軸線CL1を中心とした略円筒形状のロータと、ロータの周囲に配置された略円筒形状のステータとを有し、モータおよび発電機として機能することができる。すなわち、第1および第2モータジェネレータ2,3のロータは、電力制御ユニット(PCU)5を介してバッテリ6からステータのコイルに供給される電力により駆動する。このとき第1および第2モータジェネレータ2,3は、モータとして機能する。
【0012】
一方、第1および第2モータジェネレータ2,3のロータの回転軸2a,3aが外力により駆動されると、第1および第2モータジェネレータ2,3は発電し、電力制御ユニット5を介して電力がバッテリ6に蓄電される。このとき第1および第2モータジェネレータ2,3は、発電機として機能する。なお、通常走行時、例えば定速走行時や加速走行時等には、第1モータジェネレータ2は主に発電機として機能し、第2モータジェネレータ3は主にモータとして機能する。電力制御ユニット5は、インバータを含んで構成され、コントローラ4からの指令によりインバータが制御されることにより、第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3のそれぞれの出力トルクまたは回生トルクが制御される。
【0013】
第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3とは、同軸上に軸方向に互いに離間して配置される。第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3とは、例えば同一のケース7内に収容され、第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3との間の空間SPは、ケース7によって包囲される。なお、第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3とが互いに別々のケースに収容されてもよい。
【0014】
第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3との間の空間SPには、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20とが配置される。より詳しくは、第1モータジェネレータ2側に第1遊星歯車機構10が、第2モータジェネレータ3側に第2遊星歯車機構20がそれぞれ配置される。
【0015】
第1遊星歯車機構10は、それぞれ軸線CL1を中心として回転する第1サンギヤ11および第1サンギヤ11の周囲に配置された第1リングギヤ12と、第1サンギヤ11と第1リングギヤ12との間にこれらギヤ11,12に噛合して配置された周方向複数の第1ピニオン(プラネタリギヤ)13と、第1ピニオン13を自転可能に、かつ、軸線CL1を中心として公転可能に支持する第1キャリア14とを有する。第1遊星歯車機構10の各ギヤ11〜13はそれぞれヘリカルギヤにより構成される。
【0016】
第2遊星歯車機構20も第1遊星歯車機構10と同様に、それぞれ軸線CL1を中心として回転する第2サンギヤ21および第2サンギヤ21の周囲に配置された第2リングギヤ22と、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22との間にこれらギヤ21,22に噛合して配置された周方向複数の第2ピニオン(プラネタリギヤ)23と、第2ピニオン23を自転可能に、かつ、軸線CL1を中心として公転可能に支持する第2キャリア24とを有する。第2遊星歯車機構20の各ギヤ21〜23もそれぞれヘリカルギヤにより構成される。
【0017】
エンジン1の出力軸1aは第1キャリア14に連結され、エンジン1の動力が第1キャリア14を介して第1遊星歯車機構10に入力される。なお、エンジン1を始動させる場合には、第1遊星歯車機構10を介してエンジン1に第1モータジェネレータ2からの動力が入力される。第1サンギヤ11は、第1モータジェネレータ2のロータの回転軸2aに連結され、第1サンギヤ11と第1モータジェネレータ2(ロータ)とは一体に回転する。第1リングギヤ12は第2キャリア24に連結され、第1リングギヤ12と第2キャリア24とは一体に回転する。
【0018】
このような構成により、第1遊星歯車機構10は、キャリア14を介して入力された動力を、第1サンギヤ11を介して第1モータジェネレータ2に出力するとともに、第1リングギヤ12を介して車軸57側の第2キャリア24に出力することができる。すなわち、エンジン1からの動力を第1モータジェネレータ2と第2遊星歯車機構20とに分割して出力することができる。
【0019】
第2リングギヤ22の径方向外側には、軸線CL1を中心とした略円筒形状の外側ドラム25が設けられる。第2リングギヤ22は外側ドラム25に連結され、両者は一体に回転する。外側ドラム25の径方向外側には、ブレーキ機構30が設けられる。ブレーキ機構30は、例えば湿式多板式ブレーキとして構成され、径方向に延在する軸方向複数のプレート(摩擦材)31と、プレート31に対し軸方向交互に配置されるとともに、径方向に延在する軸方向複数(複数の図示は省略)のディスク(摩擦材)32とを有する。
【0020】
複数のプレート31は、その外径側端部がケース7の周壁の内周面に、周方向に回転不能にかつ軸方向に移動可能に係合される。複数のディスク32は、その内径側端部が外側ドラム25の外周面に、外側ドラム25に対し周方向に相対回転不能かつ軸方向に移動可能に係合され、外側ドラム25と一体に回転する。ケース7の周壁の内周面には、ブレーキ機構30の軸方向側方に、外側ドラム25の外周面に面して、外側ドラム25の回転数を検出する非接触式の回転数センサ35が設けられる。
【0021】
ブレーキ機構30は、プレート31とディスク32とを互いに離間させ、ディスク32をプレート31から解放させるような付勢力を付与するばね(不図示)と、ばねの付勢力に抗してプレート31とディスク32とを互いに係合させるような押圧力を付与するピストン(不図示)とを有する。ピストンは、油圧制御装置8を介して供給される油の圧力により駆動される。すなわち、ブレーキ機構30は、油圧力によって作動する油圧アクチュエータを構成する。
【0022】
ピストンに油圧力が作用しない状態では、プレート31とディスク32とが互いに離間してブレーキ機構30が解除(オフ)され、第2リングギヤ22の回転が許可される。一方、ピストンに油圧力が作用すると、プレート31とディスク32とが係合され、ブレーキ機構30が作動(オン)する。この状態では、第2リングギヤ22の回転が阻止される。
【0023】
外側ドラム25の径方向内側には、軸線CL1を中心とした略円筒形状の内側ドラム26が外側ドラム25に対向して設けられる。第2サンギヤ21は、軸線CL1に沿って延在する第2遊星歯車機構20の出力軸27に連結されるとともに、内側ドラム26に連結され、第2サンギヤ21と出力軸27と内側ドラム26とは一体に回転する。外側ドラム25と内側ドラム26との間には、クラッチ機構40が設けられる。
【0024】
クラッチ機構40は、例えば湿式多板式クラッチとして構成され、径方向に延在する軸方向複数のプレート(摩擦材)41と、プレート41に対し軸方向交互に配置されるとともに、径方向に延在する軸方向複数(複数の図示は省略)のディスク(摩擦材)42とを有する。複数のプレート41は、その外径側端部が外側ドラム25の内周面に、外側ドラム25に対し周方向に相対回転不能にかつ軸方向に移動可能に係合され、外側ドラム25と一体に回転する。複数のディスク42は、その内径側端部が内側ドラム26の外周面に、内側ドラム26に対し周方向に相対回転不能にかつ軸方向に移動可能に係合され、内側ドラム26と一体に回転する。
【0025】
クラッチ機構40は、プレート41とディスク42とを互いに離間させ、ディスク42をプレート41から解放させるような付勢力を付与するばね(不図示)と、ばねの付勢力に抗してプレート41とディスク42とを互いに係合させるような押圧力を付与するピストン(不図示)とを有する。ピストンは、油圧制御装置8を介して供給される油の圧力により駆動される。すなわち、クラッチ機構40は、油圧力によって作動する油圧アクチュエータを構成する。
【0026】
ピストンに油圧力が作用しない状態では、プレート41とディスク42とが互いに離間してクラッチ機構40が解除(オフ)され、第2リングギヤ22に対する第2サンギヤ21の相対回転が可能となる。このとき、ブレーキ機構30のオンにより第2リングギヤ22の回転が阻止されると、第2キャリア24に対する出力軸27の回転が増速される。この状態は、変速段が高速段(ハイ)に切り換わった状態に相当する。
【0027】
一方、ピストンに油圧力が作用すると、プレート41とディスク42とが係合してクラッチ機構40が作動(オン)し、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22とが一体に結合される。このとき、ブレーキ機構30のオフにより第2リングギヤ22の回転が許容されると、出力軸27は第2キャリア24と一体となって第2キャリア24と同一速度で回転する。この状態は、変速段が低速段(ロー)に切り換わった状態に相当する。
【0028】
第2遊星歯車機構20と、ブレーキ機構30と、クラッチ機構40とは、第2キャリア24の回転をロー、ハイの2段階に変速して、変速後の回転を出力軸27から出力する変速機構70を構成する。なお、変速機構70を介して第1遊星歯車機構10からワンウェイクラッチ50の上流の出力軸27に至るトルクの伝達経路が、第1動力伝達経路71を構成する。
【0029】
出力軸27は、ワンウェイクラッチ50を介して、軸線CL1を中心とした出力ギヤ51に連結される。ワンウェイクラッチ50は、出力軸27に対する出力ギヤ51の正方向の回転、すなわち車両の前進方向に対応する相対回転を許容し、後進方向に対応する相対回転を禁止する。換言すると、車両前進方向に対応する出力軸27の回転速度が出力ギヤ51の回転速度よりも速いときは、ワンウェイクラッチ50はロックし、出力軸27と出力ギヤ51とが一体に回転する。一方、車両前進方向に対応する出力ギヤ51の回転速度が出力軸27の回転速度よりも速いときは、ワンウェイクラッチ50は解放(アンロック)し、出力ギヤ51は、トルクの引き込みを生じることなく出力軸27に対しフリーに回転する。
【0030】
出力ギヤ51には、第2モータジェネレータ3のロータの回転軸3aが連結され、出力ギヤ51と第2モータジェネレータ3(回転軸3a)とは一体に回転する。出力軸27と回転軸3aとの間にはワンウェイクラッチ50が介装されるため、出力軸27に対する回転軸3aの正方向の相対回転が許容される。すなわち、第2モータジェネレータ3の回転速度が出力軸27の回転速度よりも速いときは、第2モータジェネレータ3は、出力軸27(第2遊星歯車機構20)のトルクの引き込みなく効率よく回転できる。ワンウェイクラッチ50は、回転軸3aの径方向内側に配置される。このため、駆動装置100の軸方向長さを抑えることができ、駆動装置100の小型化も実現できる。
【0031】
第2モータジェネレータ3のロータの径方向内側には、オイルポンプ(MOP)61が配置される。オイルポンプ61は、エンジン1の出力軸1aに連結され、エンジン1により駆動される。したがって、ブレーキ機構30とクラッチ機構40とを係合するために必要なオイルポンプ61からの油圧(係合圧)は、エンジン回転数が所定回転数以上であるときに得られる。エンジン1が停止または低速回転している場合等で、ブレーキ機構30やクラッチ機構40を係合する必要があるとき、バッテリ6からの電力により電動ポンプ(EOP)62を駆動することで、必要な係合圧が得られる。
【0032】
出力ギヤ51には、軸線CL1に対し平行に延在するカウンタ軸52を中心に回転可能な大径ギヤ53が噛合され、大径ギヤ53を介してカウンタ軸52にトルクが伝達される。カウンタ軸52に伝達されたトルクは、小径ギヤ54を介して差動装置55のリングギヤ56に伝達され、さらに差動装置55を介して左右の車軸57に伝達される。これにより駆動輪101が駆動され、車両が走行する。なお、回転軸3a、出力ギヤ51、大径ギヤ53、小径ギヤ54,および差動装置55などが、出力軸27から車軸57に至る第2動力伝達経路72を構成する。
【0033】
油圧制御装置8は、電気信号により作動する電磁弁や電磁比例弁などの制御弁を含む。これら制御弁はコントローラ4からの指令に応じて作動し、ブレーキ機構30とクラッチ機構40への圧油の流れを制御する。これによりブレーキ機構30およびクラッチ機構40のオンオフを切り換えることができる。
【0034】
コントローラ(ECU)4は、CPU,ROM,RAM、その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成され、エンジン制御用ECU4aと、油圧アクチュエータ制御用ECU4bと、モータジェネレータ制御用ECU4cとを有する。なお、単一のコントローラ4が複数のECU4a〜4cを有するのではなく、各ECU4a〜4cに対応して複数のコントローラ4が設けられてもよい。
【0035】
コントローラ4には、外側ドラム25の回転数を検出する回転数センサ35と、車速を検出する車速センサ36と、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ37と、エンジン1の回転数を検出する回転数センサ38と、第1モータジェネレータ2の回転数を検出する回転数センサ39などからの信号が入力される。なお、図示は省略するが、コントローラ4には、第2モータジェネレータ3の回転数を検出する回転数センサや各油圧アクチュエータ(ブレーキ機構30やクラッチ機構40等)に作用する油圧力を検出する油圧センサなどからの信号も入力される。
【0036】
コントローラ4は、これらの入力信号に基づいて、予め定められた車速とアクセル開度などから規定される車両の駆動力特性を示す駆動力マップに従い、走行モードを決定する。さらに走行モードに応じて車両が走行するように、スロットルバルブ開度調整用アクチュエータと、燃料噴射用インジェクタと、電力制御ユニット5と、油圧制御装置8(制御弁)などに制御信号を出力し、エンジン1、第1および第2モータジェネレータ2,3、およびブレーキ機構30とクラッチ機構40の作動を制御する。
【0037】
図2は、本発明の実施形態に係る駆動装置100により実現可能ないくつかの走行モードの例と、各走行モードに対応するブレーキ機構(BR)30、クラッチ機構(CL)40、ワンウェイクラッチ(OWY)50およびエンジン(ENG)1の作動状態とを表形式で示す図である。
【0038】
図2には、代表的な走行モードとして、EVモード、Wモータモード、シリーズモード、およびHVモードが示される。HVモードはローモード(HVローモード)とハイモード(HVハイモード)とに分類される。図中、ブレーキ機構30のオン(係合)、クラッチ機構40のオン(係合)、ワンウェイクラッチ50のロック、およびエンジン1の作動をそれぞれ○印で示し、ブレーキ機構30のオフ(解放)、クラッチ機構40のオフ(解放)、ワンウェイクラッチ50のアンロック(解放)およびエンジン1の停止をそれぞれ×印で示す。
【0039】
EVモードは、第2モータジェネレータ3の動力のみによって走行するモードである。
図2に示すように、EVモードでは、コントローラ4からの指令によりブレーキ機構30とクラッチ機構40とがともにオフされ、エンジン1が停止される。
図3は、EVモードにおけるトルク伝達の流れを示すスケルトン図である。
【0040】
図3に示すように、EVモードでは、第2モータジェネレータ3から出力されたトルクが、出力ギヤ51、大径ギヤ53、小径ギヤ54、および差動装置55を介して車軸57に伝達される。このとき、ワンウェイクラッチ50の作用により出力軸27は停止したままであり、第2モータジェネレータ3の上流側(第2遊星歯車機構側)の回転要素によるトルクの引き込み(回転抵抗)を生じさせることなく、効率よく車両を走行させることができる。
【0041】
Wモータモードは、第1モータジェネレータ2および第2モータジェネレータ3の動力によって走行するモードである。
図2に示すように、Wモータモードでは、コントローラ4からの指令によりブレーキ機構30がオフされ、クラッチ機構40がオンされ、エンジン1が停止される。
図4は、Wモータモードにおけるトルク伝達の流れを示すスケルトン図である。
【0042】
図4に示すように、Wモータモードでは、逆転防止用のワンウェイクラッチによりエンジン1の出力軸1aの逆転が防止された状態で、第1モータジェネレータ2から出力されたトルクが、第1サンギヤ11、第1ピニオン13、第1リングギヤ12、第2キャリア24(第2サンギヤ21および第2リングギヤ22と一体に回転する第2キャリア24)を介して出力軸27に伝達される。出力軸27に伝達されたトルクは、ロック状態のワンウェイクラッチ50を介して出力ギヤ51に伝達され、第2モータジェネレータ3から出力されたトルクとともに車軸57に伝達される。このようにWモータモードでは、第1モータジェネレータ2と第2モータジェネレータ3とからのトルクが車軸57に作用するため、EVモードよりも走行駆動力を大きくすることができる。
【0043】
シリーズモードは、エンジン1で発生した動力で第1モータジェネレータ2を駆動して発電させながら、第2モータジェネレータ3の動力によって走行するモードである。
図2に示すように、シリーズモードでは、コントローラ4からの指令によりブレーキ機構30とクラッチ機構40がともにオンされ、エンジン1が作動される。
図5は、シリーズモードにおけるトルク伝達の流れを示すスケルトン図である。
【0044】
図5に示すように、シリーズモードでは、第1リングギヤ12から出力軸27までの回転が阻止されるため、エンジン1から出力された動力は全て、第1ピニオン13、第1サンギヤ11を介して第1モータジェネレータ2の回転軸2aに入力される。これにより第1モータジェネレータ2が駆動されて発電し、この発電された電力を用いて第2モータジェネレータ3を駆動し、車両を走行させることができる。すなわち、第1モータジェネレータ2で発生した電気エネルギが第2モータジェネレータ3へ供給される電気パスが構成され、これにより、第2モータジェネレータ3による駆動走行を行う。シリーズモードでは、EVモードと同様、ワンウェイクラッチ50の作用によりトルクの引き込みを防止できる。なお、電気パスによる第2モータジェネレータ3への給電量は、電力制御ユニット5の許容出力以下である。
【0045】
HVモードは、エンジン1で発生した動力と第2モータジェネレータ3の動力とによって走行するモードである。このうち、HVローモードは、低速からの全開加速走行に対応するモードであり、HVハイモードは、EV走行後の常用運転に対応するモードである。
図2に示すように、HVローモードでは、コントローラ4からの指令によりブレーキ機構30がオフかつクラッチ機構40がオンされ、エンジン1が作動される。HVハイモードでは、コントローラ4からの指令によりブレーキ機構30がオンかつクラッチ機構40がオフされ、エンジン1が作動される。
【0046】
図6は、HVローモードにおけるトルク伝達の流れを示すスケルトン図である。
図6に示すように、HVローモードでは、エンジン1から出力されたトルクの一部が第1サンギヤ11を介して第1モータジェネレータ2に伝達される。これにより第1モータジェネレータ2で発電されてバッテリ6に蓄電され、さらにバッテリ6から第2モータジェネレータ3に駆動電力が供給される。
【0047】
HVローモードにおいて、エンジン1から出力されたトルクの残りは、第1リングギヤ12、第2キャリア24(第2サンギヤ21および第2リングギヤ22と一体に回転する第2キャリア24)を介して出力軸27に伝達される。このときの出力軸27の回転数は第2キャリア24の回転数と等しい。出力軸27に伝達されたトルクは、ロック状態のワンウェイクラッチ50を介して出力ギヤ51に伝達され、第2モータジェネレータ3から出力されたトルクとともに、車軸57に伝達される。これにより第1モータジェネレータ2での発電によって十分なバッテリ残容量を保ちつつ、エンジン1と第2モータジェネレータ3からのトルクにより、高トルクで車両を走行させることができる。
【0048】
図7は、HVハイモードにおけるトルク伝達の流れを示すスケルトン図である。
図7に示すように、HVハイモードでは、HVローモードと同様、例えばエンジン1から出力されたトルクの一部が第1サンギヤ11を介して第1モータジェネレータ2に伝達される。エンジン1から出力されたトルクの残りは、第1リングギヤ12、第2キャリア24、第2サンギヤ21を介して出力軸27に伝達される。このときの出力軸27の回転数は第2キャリア24の回転数よりも大きい。
【0049】
出力軸27に伝達されたトルクは、ロック状態のワンウェイクラッチ50を介して出力ギヤ51に伝達され、第2モータジェネレータ3から出力されたトルクとともに、車軸57に伝達される。これにより十分なバッテリ残容量を保ちつつ、エンジン1と第2モータジェネレータ3からのトルクにより、HVローモードよりは低いもののEVモードよりは高いトルクで車両を走行させることができる。HVハイモードでは、出力軸27の回転が第2遊星歯車機構20で増速されるため、HVローモードよりもエンジン回転数を抑えて走行することができる。
【0050】
走行モードには、
図2に示した以外に、第2モータジェネレータ3により回生エネルギを得る回生モードと、エンジン1を始動する始動モードなどが含まれる。
図8A〜
図8Cは、HVローモードからEVモードを経て始動モードに至る動作に対応する共線図の一例を示す図である。図中、第1サンギヤ11、第1キャリア14、第1リングギヤ12をそれぞれ1S,1C,1Rで示し、第2サンギヤ21、第2キャリア24、第2リングギヤ22をそれぞれ2S,2C,2Rで示す。車両が前進するときの第1リングギヤ12および第2キャリア24の回転方向を正方向と定義し、正方向を+で示すとともに、正方向に作用するトルクを上向きの矢印で示す。なお、
図8B,
図8Cは、本実施形態の比較例としての共線図である。EVモードの代わりに回生モードであるときも、
図8Bと同様の共線図となる。
【0051】
例えば、アクセルペダルの操作量の増加により要求駆動力が増大して、コントローラ4によりHVローモードが選択されると、
図8Aに示すように、ブレーキ機構30(BR)がオフ(解放)かつクラッチ機構40(CL)がオン(係合)される。この状態では、エンジン1により第1キャリア14(1C)が正方向に回転させられ、第1モータジェネレータ2(MG1)が回転駆動されて発電するとともに、第1リングギヤ12(1R)に反力が作用して第1リングギヤ12が正方向に回転する。このとき、第2キャリア24(2C)と第2サンギヤ21(2S)と第2リングギヤ22(2R)とは一体化しているため、第2キャリア24(2C)と等速で第2サンギヤ21(2S)が回転し、この回転トルクと第2モータジェネレータ3(MG2)のトルクとにより車両が走行する。
【0052】
その後、例えばアクセルペダルの操作量が減少してコントローラ4によりEVモードが選択されると、
図8Bに示すように、ブレーキ機構30(BR)およびクラッチ機構40(CL)の双方がオフされる。EVモードでは、エンジン1が停止してエンジン1の回転数が減少するとともに、イナーシャやフリクションの影響で第2キャリア24(2C)および第2リングギヤ22(2R)の回転数が減少する。さらにワンウェイクラッチ50の作用により、第2サンギヤ21(2S)の回転数が第2モータジェネレータ3(MG2)の回転数よりも減少する。この場合の回転数の減少量は、例えば第2サンギヤ21(2S)よりも第2リングギヤ22(2R)の方が大きく、第2リングギヤ22(2R)の回転数は第2サンギヤ21(2S)の回転数よりも減少する。なお、第2サンギヤ21(2S)の回転数の減少量の方が第2リングギヤ22(2R)の回転数の減少量より大きいこともある。
【0053】
この状態から、例えばアクセルペダルの操作量が増加してコントローラ4によりHVローモードが選択されると、始動モードにおいてエンジン1が始動された後、HVローモードに移行する。
図8Cに示すように、始動モードでは、第2モータジェネレータ3(MG2)が正方向に回転駆動されたまま、ブレーキ機構30(BR)とクラッチ機構40(CL)とがともにオンされ、第2サンギヤ21(2S)、第2リングギヤ22(2R)、第2キャリア24(2C)および第1リングギヤ12(1R)の回転が阻止される。この状態で、第1モータジェネレータ2(MG1)が正方向に回転駆動される。これにより、第1キャリア14(1C)を介してエンジン1の出力軸1aが回転させられ、エンジン1が始動される。
【0054】
上述した始動モードでは、ブレーキ機構30およびクラッチ機構40のオン時に、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22の差回転を吸収しながら、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22の回転が阻止される。したがって、第2サンギヤ21と一体に回転する回転体と第2リングギヤ22と一体に回転する回転体とが軸方向に隣り合って配置されていると、これら回転体同士が摺動し、許容レベルを超えた摩擦熱が生じるおそれがある。以下、この点について説明する。
【0055】
図9は、本発明の実施形態に係る駆動装置100の要部構成を示す断面図であり、主に第2遊星歯車機構20の周囲の構成を示す。なお、以下では、軸線CL1の方向に沿って左右方向を定義する。第2モータジェネレータ3の右方に第1モータジェネレータ2が配置される。
【0056】
図9に示すように、第2リングギヤ22は、その左端部に径方向に延在する側壁22aを有し、側壁22aは、径方向に延在する外側ドラム25の側壁25aに、スプラインを介して一体に回転可能に結合される。側壁25aの内径側端部に接続された外側ドラム25の軸部25bは、第2サンギヤ21から左方に延在する出力軸27の外周面に、ローラベアリング28を介して出力軸27に対し相対回転可能にかつ軸方向に移動可能に嵌合される。出力軸27は、エンジン1の出力軸1aの外側に、ボールベアリング29を介して出力軸1aに対し相対回転可能に支持される。外側ドラム25の軸部25bの左方には、内側ドラム26の軸部26aが配置される。軸部26aは、スプラインを介して出力軸27の外周面に、出力軸27と一体に回転可能に結合される。出力軸27に対する軸部26aの軸方向位置は、軸部26aの端部に配置されたシムとスナップリングとにより拘束される。
【0057】
以上のように本実施形態では、第2リングギヤ22と一体に回転する外側ドラム25の軸部25bが、第2サンギヤ21と一体に回転する内側ドラム26の軸部26aに隣接して配置される。さらに、第2サンギヤ21と一体に回転する出力軸27上における軸部26aの軸方向位置は拘束されるのに対し、軸部25bは出力軸27上を軸方向に移動可能に設けられる。
【0058】
ところで、本実施形態では、第1遊星歯車機構10の各ギヤ11〜13と第2遊星歯車機構20の各ギヤ21〜23とがそれぞれヘリカルギヤにより構成される。ヘリカルギヤは、回転時に軸方向荷重(アキシャル荷重)を及ぼすが、本実施形態では、エンジン1によって遊星歯車機構10,20が駆動されるとき、遊星歯車機構10,20を介して第2リングギヤ22に右方向のアキシャル荷重が生じるようにヘリカルギヤが構成される。このため、HVモード(例えばHVローモード)で走行中においては、第2リングギヤ22と一体の軸部25bは右方に押動され、
図9の領域Aで示す箇所の軸部25bの左端部が軸部26aの右端部から離間する。
【0059】
一方、EVモード後の始動モードにおいては、遊星歯車機構10(第1サンギヤ11,第1キャリア14)を介して第1モータジェネレータ2によりエンジン1が駆動される。このため、
図9の矢印Bで示すように、遊星歯車機構10,20を介して第2リングギヤ22から左方にアキシャル荷重が作用する。これにより、軸部25bが左方に押動され、軸部25bの左端部が軸部26aの右端部に接触する。その結果、
図8Cに示すように、始動モードにおいて第2サンギヤ21と第2リングギヤ22との間で差回転(差回転数ΔN)が生じているとき、軸部25b,26a同士が摺動し、領域Aで所定レベル以上の摩擦熱が生じるおそれがある。すなわち、エンジン1が停止したEVモードや回生モードから始動モードに移行するとき、軸部25b,26a同士の摺動により機器が損傷するおそれがある。そこで、このような始動モードにおける摺動による発熱を防ぐため、本実施形態では、以下のように駆動装置100を構成する。
【0060】
図10は、本発明の実施形態に係る駆動装置100のコントローラ4(
図1)で実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばHVモード(HVローモード、HVハイモードのいずれか)が選択されると開始され、所定周期で繰り返し実行される。なお、以下では、HVモードとしてHVローモードが選択された場合についての処理を説明する。
【0061】
まず、ステップS1で、車速センサ36とアクセル開度センサ37とからの信号に基づいて、回生モードおよびEVモードのいずれかが指令されたか否かを判定する。なお、アクセルペダルの操作量が所定値以下(例えば0)になったか否かを判定し、これにより回生モードおよびEVモードのいずれかが指令されたか否かを判定してもよい。ステップS1で肯定されるとステップS2に進み、否定されると処理を終了する。
【0062】
ステップS2では、ステップS1で指令された判定された回生モードおよびEVモードのいずれかに走行モードを切り換える。この場合、インジェクタからの燃料噴射を停止してエンジン1の駆動を停止するとともに、第1モータジェネレータ2での発電を一旦停止する。なお、第1モータジェネレータ2での発電を継続してもよい。ステップS2で回生モードに切り換わったときは、第2モータジェネレータ3で回生エネルギを得る。
【0063】
次いで、ステップS3で、回転数センサ39からの信号に基づいて、第1モータジェネレータ2の回転数(MG1回転数)が所定値N1(例えば0)より大きいか否かを判定する。この判定は、第1モータジェネレータ2で回生エネルギを得ることが可能か否かの判定である。仮にMG1回転数がマイナスである場合には、回生が不能であると判定される。ステップS3で肯定されるとステップS4に進み、否定されるとステップS4をパスしてステップS5に進む。
【0064】
ステップS4では、第1モータジェネレータ2で回生を行い、MG1回転数を所定回転数(例えば0ないし0近傍)まで減少させる。これにより、本実施形態に係る駆動装置100の共線図の一例である
図11Aに示すように、第1キャリア14(1C)を支点として、第1リングギヤ12(1R)の回転数が増加する。すなわち、エンジン1の出力軸1a(クランク軸)にはフライホイールが連結されており、出力軸1a(クランク軸)は第1リングギヤ12(1R)よりもイナーシャが大きい。このため、出力軸1aと一体の第1キャリア14(1C)の回転数は変化しにくく、第1キャリア14を支点にして第1リングギヤ12(1R)の回転数が増加する。これにより、第2キャリア24(2C)の回転数が増加し、それに伴い例えば第2リングギヤ22(2R)の回転数も増加する。その結果、第2サンギヤ21(2S)と第2リングギヤ22(2R)の差回転数ΔNが減少する。
【0065】
次いで、ステップS5で、回転数センサ35と回転数センサ38,39とからの信号に基づいて、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22との差回転数ΔNを算出する。次いで、ステップS6で、算出された差回転数ΔNが所定値ΔN1より大きいか否かを判定する。所定値ΔN1は、隣り合う軸部25b,26a同士の摺動による摩擦熱が許容レベル以下となる差回転数に相当し、予め実験等により求められる。ステップS6で肯定されるとステップS7に進み、否定されるとステップS7〜ステップS9をパスしてステップS10に進む。
【0066】
ステップS7では、回転数センサ38からの信号に基づいて、エンジン1の回転数(ENG回転数)が所定値N2より大きいか否かを判定する。所定値N2は、クラッチ機構40を係合するために必要な係合圧の圧油を吐出することが可能なオイルポンプ61の最小回転数に相当し、予め実験等により求められる。ステップS7で否定されるとステップS8に進み、肯定されるとステップS8をパスしてステップS9に進む。
【0067】
ステップS8では、電動ポンプ62に制御信号を出力して電動ポンプ62を駆動し、電動ポンプ62からクラッチ機構40を係合するために必要な係合圧の圧油を吐出させる。次いで、ステップS9で、油圧制御装置8の制御弁に制御信号を出力し、オイルポンプ61または電動ポンプ62からの吐出油をクラッチ機構40のピストンに導く。これによりクラッチ機構40を係合(オン)させる。その結果、本実施形態に係る駆動装置100の共線図の一例である
図11Bに示すように、第2サンギヤ21(2S)と第2リングギヤ22(2R)の差回転数ΔNが所定値ΔN1以下となる。
【0068】
次いで、ステップS10で、エンジン1の再始動が指令されるまで、すなわち始動モードのフラグが立ち上がるまで待機し、処理を終了する。なお、図示は省略するが、ステップS10の状態から、車速センサ36とアクセル開度センサ37とからの信号に基づいて、例えばHVローモードへの切換が指令されると、始動フラグが立ち上がる。これにより、ブレーキ機構30およびクラッチ機構40が同時に係合させられるとともに、第1モータジェネレータ2によりエンジン1の出力軸1aが回転させられ、エンジン1が始動される。
【0069】
以上では、HVモードとしてHVローモードが選択された場合の処理を説明したが、HVモードとしてHVハイモードが選択された場合も、
図10と同様の処理が行われる。すなわち、HVハイモードから回生・EVモードに切り換わったとき、MG1回転数が所定値N1より大きいと、第1モータジェネレータ2で回生が行われる(ステップS4)。これにより、HVハイモードから回生・EVモードへの切換後の共線図の一例である
図12Aに示すように、第1キャリア14(1C)を支点として、第1リングギヤ12(1R)の回転数が増加し、第2サンギヤ21(2S)と第2リングギヤ22(2R)の差回転数ΔNが減少する。
【0070】
また、HVハイモードから回生・EVモードに切り換わったとき、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22の差回転数ΔNが所定値ΔN1より大きいと、クラッチ機構40がオンされる(ステップS9)。これにより
図12Bに示すように、第2サンギヤ21(2S)と第2リングギヤ22(2R)の差回転数ΔNが所定値ΔN1以下となる。なお、
図12A,
図12Bの点線は、第1モータジェネレータ2での回生を行わない例、すなわち本実施形態の比較例としての共線図である。
【0071】
本実施形態の動作をまとめると以下のようになる。HVローモードまたはHVハイモードで走行中に走行モードがEVモードまたは回生モードに切り換わると、
図11A,
図12Aに示すように、第1モータジェネレータ2で回生が行われ、第1サンギヤ11の回転数が減少する(ステップS4)。これにより、第1キャリア14を支点にして第1リングギヤ12の回転数が増加し、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22の差回転数ΔNが減少する。この状態からエンジン始動フラグが立ち上がると、第1モータジェネレータ2によりエンジン1が回転させられるが、差回転数ΔNが小さいため、外側ドラム25と内側ドラム26の接触箇所(
図9の領域A)における摺動を防止することができる。
【0072】
HVローモードまたはHVハイモードで走行中に走行モードがEVモードまたは回生モードに切り換わるとき、第1モータジェネレータ2の回転数が0以下であれば、第1モータジェネレータ2での回生が不可能であり、差回転数ΔNは所定値ΔN1以下とならない。また、第1モータジェネレータ2で回生を行ったとしても、差回転数ΔNが所定値ΔN1以下まで減少しない場合がある。このような場合には、
図11B,
図12Bに示すように、クラッチ機構40がオンする(ステップS9)。これにより、差回転数ΔNを所定値ΔN1以下に抑えることができ、外側ドラム25と内側ドラム26の接触箇所における所定レベルを超えた摩擦熱の発生を確実に防止することができる。この場合、エンジン回転数が所定値N2以上であるときには、電動ポンプ62を駆動せず、オイルポンプ61からの吐出油によりクラッチ機構40を係合する(ステップS7→ステップS9)。これにより電力消費量を節約できる。
【0073】
本実施によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)ハイブリッド車両の駆動装置100は、内燃機関としてのエンジン1と、第1モータジェネレータ2と、ヘリカルギヤを有し、エンジン1と第1モータジェネレータ2とにそれぞれ接続された第1遊星歯車機構10と、第2キャリア24を介して第1遊星歯車機構10から出力されたトルクが入力される第2リングギヤ22と一体の外側ドラム25と、外側ドラム25に対し相対回転可能に、かつ、外側ドラム25に軸方向に隣接して配置された第2サンギヤ21と一体の内側ドラム26と、外側ドラム25と内側ドラム26とを一体に結合または分離するクラッチ機構40と、内側ドラム26から出力されたトルクを駆動輪101に伝達する第1および第2動力伝達経路71,72を生成する出力軸、27、ワンウェイクラッチ50等と、第1動力伝達経路71に接続された第2モータジェネレータ3と、エンジン1と第2モータジェネレータ3とを駆動するHVモードと、エンジン1を停止して第2モータジェネレータ3を駆動するEVモードまたはエンジン1を停止して第2モータジェネレータ3で回生する回生モード(これらをまとめて回生・EVモードと呼ぶ)と、エンジン1を再始動する始動モードと、を含む複数の走行モードのいずれかを選択するとともに、選択された走行モードに応じて、エンジン1、第1モータジェネレータ2、第2モータジェネレータ3をそれぞれ制御し、かつ、クラッチ機構40の係合を制御するコントローラ4と、を備える(
図1)。外側ドラム25の軸部25bは、遊星歯車機構10,20を介して軸方向一方側および他方側に作用する荷重により、エンジン1が第1遊星歯車機構10を駆動するエンジン駆動時に内側ドラム26の軸部26aの右端部から離間し、エンジン1が第1遊星歯車機構10(第1サンギヤ11、第1キャリア14)を介して駆動されるエンジン被駆動時に内側ドラム26に接近するように軸方向に移動可能に配置される(
図9)。コントローラ4は、HVモードから回生・EVモードに移行すると、第1モータジェネレータ2で回生し、その後、始動モードに移行すると、クラッチ機構40を係合かつ第1モータジェネレータ2を駆動するように第1モータジェネレータ2およびクラッチ機構40を制御する(
図10)。
【0074】
この構成によれば、HVモードから回生・EVモードに切り換わったとき、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22の差回転数ΔNを減少させることができる。これにより、始動モードにおいて遊星歯車機構10を介して外側ドラム25に対し内側ドラム26側にアキシャル荷重が作用するとき、外側ドラム25の軸部25bと内側ドラム26の軸部26aとの間の摩擦熱による発熱を抑えるように構成することができる。その結果、軸部25bと軸部26aとの間にアキシャルベアリング等を設ける必要がなく、部品点数を削減できる。また、軸部25b,26a間にアキシャルベアリングを設ける必要がないため、駆動装置100が軸方向に長尺化することを防止できる。さらに、軸部25b,26a間における発熱を抑制できるため、シムを介した軸部25b,26a間のクリアランスの調整が容易になる。
【0075】
(2)ハイブリッド車両の駆動装置100は、第2リングギヤ22(外側ドラム25)と第2サンギヤ21(内側ドラム26)の回転数の差(差回転数ΔN)を検出するために用いられる回転数センサ35,38,39をさらに備える(
図1)。コントローラ4は、HVモードから回生・EVモードに切り換わったときに、回転数センサ35,38,39からの信号により検出された差回転数ΔNが所定値ΔN1より大きいと、クラッチ機構40を係合する(
図10)。これにより、回生・EVモードにおいて、第1モータジェネレータ2で回生を行うことができずに差回転数ΔNが所定値ΔN1より大きいときや、回生を行ったが差回転数ΔNが所定値ΔN1以下にならなかったときであっても、差回転数ΔNを所定値ΔN1以下に確実に抑えることができる。その結果、始動モードにおいて、軸部25b、26a間の摺動による発熱を抑えることができる。
【0076】
(3)ハイブリッド車両の駆動装置100は、第1モータジェネレータ2に接続された第1サンギヤ11と、第1リングギヤ12と、エンジン1に接続された第1キャリア14と、を有する第1遊星歯車機構10と、内側ドラム26と一体に設けられる第2サンギヤ21と、外側ドラム25と一体に設けられる第2リングギヤ22と、第1リングギヤ12に接続された第2キャリア24と、を有する第2遊星歯車機構20を備える(
図1,
図9)。この構成により、HVモードから回生・EVモードに切り換わったとき、第2サンギヤ21と第2リングギヤ22の差回転数ΔNが減少すると、外側ドラム25の軸部25bと内側ドラム26の軸部26aの間の差回転数が同時に減少するので、軸部25b,26a間の摩擦熱による発熱を抑えることができる。
【0077】
(4)ハイブリッド車両の駆動装置100は、第2リングギヤ22を制動または非制動するブレーキ機構30をさらに備える(
図1)。コントローラ4は、選択された走行モードに応じてさらにブレーキ機構30の係合を制御する。これにより、HVローモードとHVハイモードとを含む種々の走行モードへの切換が可能となる。
【0078】
上記実施形態は種々の形態に変形することができる。以下、変形例について説明する。上記実施形態では、第2遊星歯車機構20の第2リングギヤ22と一体に回転する外側ドラム25を第1回転体として構成し、第2サンギヤ21と一体に回転する内側ドラム26を第2回転体として構成したが、第1回転体と第2回転体の構成はこれに限らない。すなわち、軸方向に互いに隣接して配置されるとともに、クラッチ機構を介してそれぞれが一体に結合または分離するように設けられ、さらに第1回転体が、内燃機関の駆動時に第2回転体から離間し、内燃機関の被駆動時に第2回転体に接近するように軸方向に移動可能に配置されるのであれば、第1回転体と第2回転体とはいかなる構成でもよい。
【0079】
上記実施形態では、制御部としてのコントローラ4が、HVローモードとHVハイモードとを含むHVモード(第1モード)、回生・EVモード(第2モード)、始動モード(第3モード)等に走行モードを切換可能に構成したが、走行モードの種類は上述したものに限らない。例えばエンジンブレーキが作用するモードを走行モードに含んでもよい。エンジンブレーキが作用するモードは、エンジン1が駆動されるため、始動モードと同様、第1モードに含まれる。したがって、回生・EVモードを経てエンジンブレーキが作用する場合においても、上述したのと同様の効果が得られる。
【0080】
上記実施形態では、回転数センサ35,38,39からの信号に基づいて外側ドラム25と内側ドラム26の差回転数ΔNを算出(検出)するようにしたが、差回転検出部の構成はこれに限らない。上記実施形態では、出力軸27やワンウェイクラッチ50等により変速機構70から駆動輪101に至る第1、第2動力伝達経路71,72を生成したが、経路生成部の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、湿式多板式のブレーキ機構30およびクラッチ機構40を設けたが、ブレーキ機構およびクラッチ機構の構成は上述したものに限らない。上記実施形態では、第1遊星歯車機構10と第2遊星歯車機構20とを左右に配置したが、遊星歯車機構の配置はこれに限らない。内燃機関と第1モータジェネレータとに接続された単一の遊星歯車機構を有する駆動装置にも、本発明を同様に適用することができる。
【0081】
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。