特開2020-36784(P2020-36784A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-36784(P2020-36784A)
(43)【公開日】2020年3月12日
(54)【発明の名称】人工血管
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/06 20130101AFI20200214BHJP
【FI】
   A61F2/06
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-165849(P2018-165849)
(22)【出願日】2018年9月5日
(71)【出願人】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(71)【出願人】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(71)【出願人】
【識別番号】310001067
【氏名又は名称】ストローブ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】大澤 晋
(72)【発明者】
【氏名】中谷 達行
(72)【発明者】
【氏名】今井 裕一
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097CC01
4C097CC02
4C097CC03
4C097DD06
4C097EE06
4C097EE08
4C097FF05
4C097MM03
4C097MM04
4C097MM08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】内壁における微細凹凸が小さく、免疫系細胞が吸着されにくい人工血管を提供する。
【解決手段】人工血管10は、人工血管本体12と、人工血管本体12の内壁を被覆する炭素質膜11とを備えている。炭素質膜11に被覆された内壁は、水蒸気吸着等温線が脱離ヒステリシスを有する。また、圧力を調整可能なチャンバ内に、多孔性の人工血管本体を配置し、原料ガスを供給し、人工血管本体の内部にプラズマを発生させて、内壁を炭素質膜により被覆する工程を備え、人工血管本体は、非導電性の外筒内に収容された状態でチャンバ内に配置し、外筒は、一方の端部に放電電極が配置され、他方の端部は開放されており、放電電極と、外筒から離間して設けられた対向電極との間に断続的に交流バイアスを印加することにより製造される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工血管本体と、前記人工血管本体の内壁を被覆する炭素質膜とを備え、
前記炭素質膜に被覆された内壁は、水蒸気吸着等温線が脱離ヒステリシスを有する、人工血管。
【請求項2】
前記炭素質膜に被覆された内壁は、画像解析による微細算術平均粗さが2.5以下である、請求項1に記載の人工血管。
【請求項3】
前記炭素質膜に被覆された内壁は、免疫系細胞吸着量が、20個/mm以下である、請求項1又は2に記載の人工血管。
【請求項4】
内部圧力を調整可能なチャンバ内に、多孔性の人工血管本体を配置し、炭化水素を含む原料ガスを供給した状態において、前記人工血管本体の内部にプラズマを発生させて、前記人工血管本体の内壁を炭素質膜により被覆する工程を備え、
前記人工血管本体は、内径が前記人工血管本体の外径よりも大きい非導電性の外筒内に収容された状態で前記チャンバ内に配置し、
前記外筒は、一方の端部に放電電極が配置され、他方の端部は開放されており、
前記放電電極と、前記外筒から離間して設けられた対向電極との間に断続的に交流バイアスを印加し、
前記炭素質膜により被覆された内壁は、水蒸気吸着等温線が脱離ヒステリシスを有する、人工血管の製造方法。
【請求項5】
内部圧力を調整可能なチャンバと、
前記チャンバ内に炭化水素ガスを供給するガス供給部と、
前記チャンバ内に設けられた放電電極及び対向電極と、
前記放電電極と前記対向電極との間に断続的に交流電圧を印加する電源部とを備え、
前記放電電極を、人工血管本体を収容する外筒の一方の端部に取り付け、前記対向電極を前記外筒から離間した状態として放電させることにより、前記外筒内にプラズマを発生させて、前記人工血管本体の内壁に炭素質膜を形成し、
前記炭素質膜に被覆された内壁は、水蒸気吸着等温線が脱離ヒステリシスを有する、人工血管の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は人工血管及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年需要が増大している医療用材料に、人工血管がある。一般的に用いられている人工血管は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を延伸して多孔質化したePTFE(expanded-polytetrafluoroethylene)からなる。ePTFEは生体適合性に優れた材料であるが、細径人工血管の開存性の面では十分ではない。特に、直径6mm未満のePTFE製人工血管の使用は非常に閉塞リスクが高い。
【0003】
細い人工血管として、ヒトや動物由来の材料を用いたものが存在するが、安全性や安定供給の面で問題がある。このため、生体由来ではない閉塞しにくい細い人工血管が求められている。
【0004】
ePTFEからなる人工血管を閉塞しにくくするために、人工血管の内壁に対して種々の改質が試みられている。例えば、ePTFEの内壁に生体適合の樹脂層を設けることが検討されている(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−167822号公報
【特許文献2】特開2006−263144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような樹脂層は、ePTFEの内壁から剥離しやすく、人工血管を長期に使用する上で問題となる。また、人工血管の内壁に微細な凹凸を形成してしまうため、マクロファージ等の免疫系細胞が表面に吸着され、厚い内膜が不均一に形成され、逆に閉塞しやすくなるという問題がある。
【0007】
本開示の課題は、内壁における微細凹凸が小さく、免疫系細胞が吸着されにくい人工血管を実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の人工血管の一態様は、人工血管本体と、人工血管本体の内壁を被覆する炭素質膜とを備え、炭素質膜に被覆された内壁は、水蒸気吸着等温線が脱離ヒステリシスを有する。
【0009】
人工血管の一態様において、炭素質膜に被覆された内壁は、画像解析による微細算術平均粗さが2.5以下とすることができる。
【0010】
人工血管の一態様において、炭素質膜に被覆された内壁は、免疫系細胞吸着量が、20個/mm以下とすることができる。
【0011】
人工血管の製造方法の一態様は、内部圧力を調整可能なチャンバ内に、多孔性の人工血管本体を配置し、炭化水素を含む原料ガスを供給した状態において、人工血管本体の内部にプラズマを発生させて、人工血管本体の内壁を炭素質膜により被覆する工程を備え、人工血管本体は、内径が人工血管本体の外径よりも大きい非導電性の外筒内に収容された状態でチャンバ内に配置し、外筒は、一方の端部に放電電極が配置され、他方の端部は開放されており、放電電極と、外筒から離間して設けられた対向電極との間に断続的に交流バイアスを印加し、炭素質膜により被覆された内壁は、水蒸気吸着等温線が脱離ヒステリシスを有する。
【0012】
人工血管の製造装置の一態様は、内部圧力を調整可能なチャンバと、チャンバ内に炭化水素ガスを供給するガス供給部と、チャンバ内に設けられた放電電極及び対向電極と、放電電極と対向電極との間に断続的に交流電圧を印加する電源部とを備え、放電電極を、人工血管本体を収容する外筒の一方の端部に取り付け、対向電極を外筒から離間した状態として放電させることにより、外筒内にプラズマを発生させて、人工血管本体の内壁に炭素質膜を形成し、炭素質膜に被覆された内壁は、水蒸気吸着等温線が脱離ヒステリシスを有する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の人工血管によれば、免疫系細胞が吸着されにくく、長期間に亘り閉塞を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係る人工血管を示す断面図である。
図2】人工血管の製造装置を示す模式図である。
図3】放電電極の接続部分を示す断面図である。
図4】放電電極の接続部分の変形例を示す断面図である。
図5】放電電極の接続部分の変形例を示す断面図である。
図6】対向電極の変形例を示す断面図である。
図7A】実施例1における人工血管の表面を示す電子顕微鏡写真である。
図7B】比較例1における人工血管の表面を示す電子顕微鏡写真である。
図7C】比較例2における人工血管の表面を示す電子顕微鏡写真である。
図8A】実施例1における人工血管の水蒸気吸着等温線である。
図8B】比較例1における人工血管の水蒸気吸着等温線である。
図9A】実施例1における人工血管の窒素吸着等温線である。
図9B】比較例1における人工血管の窒素吸着等温線である。
図10A】実施例1における人工血管の埋め込み後の状態を示す顕微鏡写真である。
図10B】比較例1における人工血管の埋め込み後の状態を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、実施形態の人工血管10は、細孔13を有する多孔質化したePTFE(expanded-polytetrafluoroethylene)からなる人工血管本体12と、本体12の内壁を被覆する炭素質膜11とを備えている。
【0016】
本開示において炭素質膜とは、国際標準化機構(ISO)による規格化が進められている水素化アモルファスカーボン膜及びポリマーライクカーボン膜に代表される炭素を含む膜である。
【0017】
ePTFEからなる人工血管本体12の内壁には微細な凹凸が存在しており、この微細な凹凸はマクロファージ等の免疫系細胞が人工血管内壁に吸着する足場となる。表面平滑性が高い炭素質膜を形成することにより、免疫系細胞が吸着しにくい表面とすることができる。
【0018】
本開示において免疫系細胞とは、好中球、好酸球、マクロファージ、及びリンパ球等を含む白血球細胞を意味する。
【0019】
具体的に、炭素質膜11により被覆された人工血管10の内表面(炭素質膜11の表面)は、画像解析による微細算術平均粗さ(IARa)が好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下である。また、画像解析による微細二乗平均平方根高さ(IARq)が好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。また、未処理の人工血管の表面粗さにより規格化した、規格化算術平均粗さ(SIARa)は好ましくは0.9以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下であり、規格化二乗平均平方根高さ(SIARq)は好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.5以下である。IARa及びIARqは、実施例において述べる方法により測定することができる。
【0020】
炭素質膜11により被覆された人工血管10は、水蒸気吸着等温線が、脱離ヒステリシスを示し、窒素吸着等温線が脱離ヒステリシスを示さないことが好ましい。水蒸気吸着等温線及び窒素吸着等温線は、実施例において述べる方法により測定することができる。
【0021】
また、炭素質膜11により被覆された人工血管10の内表面における水に対する接触角が好ましくは105°以下、より好ましくは103°以下、さらに好ましくは100°以下である。ここでいう水に対す接触角は、実施例において述べる方法により測定することができる。
【0022】
炭素質膜11により被覆され、内表面における平滑性及び親水性が炭素質膜11に被覆されていない人工血管本体12よりも向上した本実施形態の人工血管10は、免疫系細胞の吸着量を大幅に低減し、閉塞しにくくすることができる。具体的に、炭素質膜11により被覆された人工血管10の内表面への免疫系細胞の吸着量は、好ましくは20個/mm以下、より好ましくは15個/mm以下、さらに好ましくは10個/mm以下、よりさらに好ましくは6個/mm以下である。免疫系細胞の吸着量は、実施例に示す方法により測定することができる。
【0023】
本実施形態の人工血管10は、炭素質膜を形成した場合に、人工血管内における炭素質膜のばらつきを小さく抑えることができ、人工血管10の両端部及び中央部のいずれにおいても、上記の表面状態を維持することができる。具体的に、長さが150mmの人工血管10を約2cmずつに分割した場合、内表面のIARa、IARq、親水性度合い、及び内表面への免疫系細胞の吸着量は各部位においてほぼ一定である。
【0024】
図1においては、人工血管本体12を貫通する貫通孔として細孔13を記載しているが、人工血管本体12はこのような構成に限らず、網目状に細孔が存在する多孔質構造とすることができ、細孔13内にも炭素質膜11が被覆されていてよい。また、人工血管本体12の外壁についても炭素質膜11により被覆されていてもよい。
【0025】
人工血管本体12の内壁への炭素質膜11の被覆は以下のようにして行うことができる。図2は、炭素質膜11の成膜装置の一例を示している。成膜装置は、内部に成膜対象の人工血管本体12を収容するチャンバ101を有している。チャンバ101には、真空排気部110と、チャンバ101内に成膜用のガスを供給するガス供給部115とが接続されており、内部の圧力を調整することができる。
【0026】
本実施形態において、真空排気部110は、真空ポンプ112とバルブ113とを有している。本実施形態において、ガス供給部115は、ボンベ116とマスフローコントローラ117とを有している。ガス供給部115は、複数のガスを供給するようにもできる。
【0027】
本実施形態において、電源部120は、電圧発生器121と増幅器122とを有しており、放電電極125と対向電極との間に交流電圧を印加する。対向電極は、接地電極であり、チャンバ101の内壁となっている。
【0028】
チャンバ101内には、外筒104内に収容された人工血管本体12が配置される。外筒104は、内部にプラズマを発生させるために、人工血管本体12と同様に非導電性とする。具体的には、プラスチック等とする。外筒104は可撓性を有する軟質の材料により形成することも、硬質の材料により形成することもできる。透明又は半透明とすることによりプラズマの発生を目視により確認できるという利点が得られる。
【0029】
外筒104の一方の端部を、放電電極125の位置に配置し、他方の端部は開放状態とする。チャンバ内を減圧した後、ガス供給部115から炭化水素を含む原料ガスを供給し、交流電圧を放電電極125と対向電極であるチャンバ101の内壁との間に印加する。交流電圧の印加により放電電極125の周囲において温度が上昇する。これにより外筒104内の圧力が、外筒104外よりも若干低くなり、放電電極125付近において炭化水素のプラズマが発生する。外筒104の他端は解放されているため、生成したプラズマは外筒104内を解放端側へ移動し、外筒104内の全体にプラズマが発生する。これによって、外筒104内に収容された人工血管本体12の内壁面に炭素質膜11が形成される。
【0030】
外筒104の内径は人工血管本体11の外径よりも太く、長さは人工血管本体12の全体を収容できる長さ以上であればよい。壁面に細孔等が存在しない外筒104内に、人工血管本体12を収容することにより、壁面に細孔を有し内側と外側とに圧力差が生じにくい多孔性の人工血管本体12の内壁に炭素質膜11を形成することができる。
【0031】
外筒104の内径を人工血管本体12の外径とほぼ一致させ、人工血管本体12の外壁面と外筒104の内壁面との間にほぼ隙間がない状態とすることにより、実質的に人工血管本体12の内側にのみプラズマが存在し、内壁面のみに成膜することができる。人工血管本体12の外壁面と外筒104の内壁面との隙間を大きくすることにより、人工血管本体12の外側にもプラズマが存在する状態となり、人工血管本体12の内壁面だけでなく外壁面にも成膜することができる。
【0032】
チャンバ101内を原料ガスで十分に置換する観点から、成膜前にチャンバ内を一旦1×10-3Pa〜5×10-3Pa程度まで減圧することが好ましい。原料ガスに含まれる炭化水素は、通常のCVD法において用いられる、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、アセチレン及びベンゼン等を用いることができ、取り扱いの観点からメタンが好ましい。また、原料ガスには、テトラメチルシラン等の有機ケイ素化合物や、ヘキサメチルジシロキサン等の酸素含有有機ケイ素系化合物を気化させて用いることもできる。原料ガスは、必要に応じてアルゴン、ネオン及びヘリウム等の不活性ガスにより希釈して供給することができ、取り扱いの観点からアルゴンにより希釈することが好ましい。希釈する場合、炭化水素と不活性ガスとの比率は、10:1〜10:5程度とすることが好ましい。
【0033】
人工血管本体12の内壁に均一に炭素質膜を形成する観点から、原料ガスを供給した状態で、チャンバ101内の圧力は5Pa〜200Pa程度とすることが好ましい。また、原料ガスのフローレートは50sccm〜200sccm程度とすることができる。
【0034】
成膜の際に放電電極125に印加するバイアス電圧は、1kV〜20kV程度とすることができる。放電電極の損傷や温度上昇を避ける観点から10kV以下とすることが好ましい。交流電圧の周波数は、1kHz〜50kHz程度とすることが好ましい。交流電圧は、温度上昇を抑える観点から、断続的に加えるパルスバイアスとすることが好ましい。交流をバースト波とする場合には、パルス繰り返し周波数を3pps〜50pps程度とすることが好ましい。外筒104の内径、成膜時間、交流印加電圧等にもよるが、パルス繰り返し周波数を30pps程度以下とすることによりチューブ温度を200℃以下とすることができる。成膜速度を高くしたい場合には、パルス繰り返し周波数を高くし、温度上昇を抑えたい場合はパルス繰り返し周波数を低くすればよい。
【0035】
放電を安定させ、炭素質膜の密着性を得るために、放電電極125にオフセット負電圧を印加することが好ましい。オフセット電圧は0〜3kV程度とすることができる。
【0036】
人工血管本体12の材質は、特に限定されないが、多孔性のePTFEとすることができる。この他、ポリエステル及び他の合成樹脂等とすることもできる。
【0037】
人工血管本体12の内径は特に限定されないが、好ましくは10mm以下、より好ましくは6mm以下、さらに好ましくは4mm以下、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上である。人工血管本体12の長さも特に限定されないが、人工血管又はカテーテル等の場合には好ましくは2cm以上、より好ましくは4cm以上、さらに好ましくは10cm以上である。均一に成膜する観点から好ましくは5m以下、より好ましくは3m以下、さらに好ましくは1.5m以下である。但し、成膜条件を調整することにより5m以上の人工血管本体12の内壁に成膜することも可能である。
【0038】
放電電極125は、外筒104の一方の端部に配置されていればよい。本実施形態において、放電電極125が外筒104の端部に配置されている状態は、以下のいずれの状態であってもよい。まず、図3に示すように、放電電極125の少なくとも先端が外筒104の内部に位置している状態とすることができる。この場合、放電電極125の先端が、人工血管本体12の内部に位置していてもよい。また、図4に示すように、外筒104の端部に電極コネクタ103が接続されており、放電電極125の少なくとも先端が電極コネクタ103の内部に位置している状態とすることができる。電極コネクタ103は絶縁性のチューブ等により形成することができる。図4において、電極コネクタ103を、外筒104に外嵌するチューブとしたが、電極コネクタ103を外筒104に内嵌するチューブとすることもできる。また、複数のチューブを組み合わせて電極コネクタ103を形成することもできる。この場合、外筒104との接続部分には硬質の材料を用い、それ以外の部分には可撓性を有する材料を用いれば、取り扱いが容易となる。
【0039】
放電電極125は、外筒104又は電極コネクタ103の内径よりも外径を小さくして、放電電極125側の端部から外筒104内に原料ガスが供給されるようにすることができる。また、図5に示すように、放電電極125を中空として外筒104内に原料ガスが供給されるようにすることもできる。
【0040】
放電電極125は、導電性であればよく、例えば金属とすることができる。金属の場合、耐食性等の観点からステンレス鋼が好ましい。細管を貫通するように金属の電極を挿入すると、電極から細管への金属の移行が生じるおそれがある。しかし、本実施形態の成膜装置の場合、電極コネクタ103を用いれば金属の影響はほとんど生じない。電極コネクタ103を用いない場合においても、放電電極125から5cm程度以上離れた位置においては、金属の影響はほとんど生じない。金属の影響を避ける観点からは、放電電極125を炭素電極とすることが好ましい。本実施形態の成膜装置の場合、炭素電極も容易に形成することができる。
【0041】
本実施形態において、対向電極をチャンバ101の内壁としたが、図6に示すように対向電極126を外筒104を挟んで放電電極125と対向するように配置することもできる。対向電極126をこのように配置することにより、交流電圧を低くしても安定してプラズマを発生させることができる。これに限らず対向電極126はチャンバ内のどの位置に設けてもよい。対向電極126が外筒104と接していてもプラズマを発生させることができる。但し、発熱等の観点からは、外筒104と離間して設けることが好ましい。
【0042】
人工血管本体12の内壁に形成する炭素質膜11の膜厚は特に限定されないが、人工血管100の内表面の平滑性を向上させる観点から、好ましくは3nm以上、より好ましくは10nm以上である。また、剥離等を防止する観点からは好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下である。
【0043】
成膜時間は、長尺細管の内径、交流電圧、パルス繰り返し周波数等の成膜条件にもよるが、人工血管本体12の内壁面が完全に炭素質膜11に覆われるようにする観点から、好ましくは2分以上、より好ましくは3分以上である。また、生産性の観点からは好ましくは60分以下、より好ましくは30分以下、さらに好ましくは10分以下である。
【実施例】
【0044】
<装置>
図2に示す成膜装置により、試料の内壁面に炭素質膜を形成した。チャンバ101は、直径が200mmで、長さが500mmのステンレス容器とした。チャンバ101には真空排気部110及びガス供給部115が接続されており、電源部120は、電圧発生器121(IWATSU製SG-4104)と増幅器122(NF Corporation製HVA4321)とにより構成した。放電電極125は、直径6mm、長さ70mmのステンレス電極とした。ガス供給部115は、メタンガスのボンベ116からマスフローコントローラ117を介して原料ガスを供給する構成とした。バルブの開度及びガス供給量を制御することにより、チャンバ110内の圧力を調整した。
【0045】
<人工血管への成膜>
内径が4mmで長さが150mmのシリコンチューブ製の外筒内に、内径が3mm、厚さが0.35mmで、長さが150mmのePTFE製人工血管(ゴアテックス社製、SGTW-0315BT)を入れて所定の時間成膜を行った。
【0046】
原料ガスはCH4とし、流量は96.2ccm(室温)とし、チャンバ内の圧力は39.06Paとした。成膜の際のバイアス電圧は5kVとし、周波数は10kHzとした。交流電圧の印加は、パルス繰り返し周波数が10pps又は30ppsとなるように断続的に、5分間行った。なお、成膜の際には増幅器により2kVのオフセットを印加した。
【0047】
<微細表面粗さの測定>
微細表面粗さは、人工血管の内壁面を撮影した電解放出型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社、S-4800)写真を画像処理することにより算出した。まず、倍率100K倍の電子顕微鏡写真の1290×960の部分をピクセル数50×50の画像としてコンピュータに取り込んだ。取り込んだ各ピクセルの輝度に基づいて、各ピクセルの相対的な高さの値を算出しこれをピクセル値とした。次に、算出したピクセル値に含まれるノイズをTrend filtering(Tibshirani, R.: Adaptive piecewise polynomial estimation via trend filtering, Annals of Statistics, 42(1), 285-323, 2014を参照。)により除去した。ノイズ除去を行ったピクセル値から、以下の式(1)に基づいて画像解析による微細算術平均粗さ(IARa)を算出し、以下の式(2)に基づいて画像解析による微細二乗平均平方根高さ(IARq)を算出した。なお、nは2500とし、50×50のピクセルすべてを対象として演算を行った。また、得られたIARa及びIARqの値を未処理の人工血管のIARa及びIARqの値で割った値を、それぞれ規格化IARa及び規格化IARqとした。
【0048】
【数1】
【0049】
【数2】
【0050】
<吸着等温線の測定>
長さ10mmに切断した人工血管を試料管に10個入れ、このサンプルについて、ガス吸着装置(マクロトラックベル社製、ベルソープ18)を用いて、水蒸気吸脱着等温線及び窒素吸脱着等温線を求めた。試料は脱ガスを行うため、前処理を行った。処理温度は100℃とした。処理時間は3〜8時間とし、脱ガスが充分にできた状態で終了させた。水蒸気については、吸着温度を25℃とした。0.4kPa〜2.9kPaの圧力範囲(相対圧0.11〜0.91)において、圧力を上げながらほぼ等間隔に20点について吸着量を測定した後、圧力を下げながら11点について測定した。窒素については、吸着温度を−196℃とした。5.3kPa〜101kPaの圧力範囲(相対圧0.05〜1.0)において、圧力を上げながらほぼ等間隔に27点について吸着量を測定した後、圧力を下げながら14点について測定した。
【0051】
<接触角の測定>
接触角測定器(協和界面科学社製、DropMaster500)を用いて、炭素質膜が形成された厚さが0.1mmのePTFEシート表面の水に対する接触角を測定した。水の滴下量は2μLとした。
【0052】
<免疫系細胞吸着量の測定>
体重35kgのオスヤギに全身麻酔・ヘパリン管理下にて左右側頚部にそれぞれ人工血管によりArterial-Venous(A-V)シャントを作成した。人工血管の長さは約5cmとした。
【0053】
ヤギをアスピリン内服管理下にて8週間飼育した後、全身麻酔・ヘパリン管理下において左右の人工血管を動静脈と一塊に摘出した。摘出した血管を、生理食塩水にて洗浄した後、10%ホルマリンにより固定し、パラフィン包埋して切片を作成した。切片は人工血管の横断面が現れるように作成した。作成した切片をHematoxylin-Eosin(HE)染色した後、顕微鏡下において免疫系細胞の個数及び人工血管の壁面長さ(血管長)を測定し、血管長1mm当たりの免疫細胞系吸着量を算出した。7つの切片について血管長1mm当たりの吸着量を測定し、その平均値を求めた。観察時の倍率は100倍とした。
【0054】
(実施例1)
成膜時間を5分として人工血管の内壁に炭素質膜を形成した。得られた、炭素質膜を形成した人工血管の表面状態を図6Aに示す。図7Aに示すSEM画像におけるIARaは0.95、IARqは1.2であった。未処理の人工血管のIARaにより規格化した規格化IARaは0.34、未処理の人工血管のIARqにより規格化した規格化IARqは0.32であった。水蒸気吸着等温線は、脱離ヒステリシスを有していた(図8A)。一方、窒素吸着等温線には、脱離ヒステリシスは認められなかった(図9A)。また、水に対する接触角は98°であった。本実施例の人工血管をヤギの左側頚部に埋め込んだ結果、図10Aに示すように免疫系細胞の吸着は少なく吸着量の平均値は、3個/mmであった。
【0055】
(比較例1)
炭素質膜を形成していない人工血管の表面の表面状態を図7Bに示す。図7Bに示すSEM画像におけるIARaは2.8、IARqは3.6であった。水蒸気吸着等温線及び窒素吸着等温線のいずれにも、脱離ヒステリシスは認められなかった(図8B図9B)。また、水に対する接触角は132°であった。本比較例の人工血管をヤギの右側頚部に埋め込んだ結果、図10Bに示すように人工血管の内壁面に多数の免疫系細胞が吸着しており、吸着量の平均値は、29個/mmであった。
【0056】
(比較例2)
成膜時間を1分とした以外は実施例1と同様にして炭素質膜を形成した。得られた、炭素質膜を形成した人工血管の表面状態を図7Cに示す。水蒸気吸着等温線及び窒素吸着等温線のいずれにも、脱離ヒステリシスは認められなかった。また、水に対する接触角は107°であった。
【0057】
実施例1における炭素質膜を形成した人工血管は、水蒸気吸着等温線の脱離ヒステリシス及び水に対する接触角の値から示されるように、未処理の人工血管及び比較例2における人工血管よりも親水性となっている。また、表面の平滑性が向上しており、免疫系細胞の吸着量を大幅に低減できた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示の人工血管は、内壁における微細凹凸が小さく、免疫系細胞が吸着されにくく、医療用の人工血管として有用である。
【符号の説明】
【0059】
101 チャンバ
102 長尺細管
103 電極コネクタ
104 外筒
110 ガス供給部
120 電源部
121 電圧発生器
122 増幅器
125 放電電極
126 対向電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B