特開2020-76130(P2020-76130A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧
<>
  • 特開2020076130-ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 図000004
  • 特開2020076130-ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 図000005
  • 特開2020076130-ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-76130(P2020-76130A)
(43)【公開日】2020年5月21日
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20200424BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20200424BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20200424BHJP
【FI】
   C22B23/00 102
   C22B3/08
   C22B3/44 101A
   C22B3/44 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-210406(P2018-210406)
(22)【出願日】2018年11月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 範幸
(72)【発明者】
【氏名】早田 二郎
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA03
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】 浸出液に対する中和処理時のpHを従来よりも高めても固液分離性を悪化させることなく硫化反応の反応効率を促進できる方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル酸化鉱石を浸出処理して浸出液を得る浸出工程S1と、該浸出液を中和反応槽11で中和処理することで得た中和後スラリーを固液分離装置12で固液分離する中和工程S2と、該中和工程S2で得た中和後液を硫化処理することでニッケルの硫化物を生成する硫化工程S3とを含む湿式製錬方法であって、該中和後スラリーは、該中和反応槽11と固液分離装置12とを接続する送液ライン13においてノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤及び凝結剤が添加された後、該固液分離装置12で固液分離され、該硫化物を含むスラリーを固液分離により回収したときに排出される反応終液のpHが1.8以上2.0以下となるように該中和工程の中和処理条件を調整する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石に硫酸を添加して浸出処理した後、固液分離により浸出残渣を除去して浸出液を得る浸出工程と、該浸出液を中和反応槽に装入し、中和剤を添加して中和処理を施した後、得られた中和後スラリーを固液分離装置に導入して固液分離する中和工程と、該中和工程で液相側として得た中和後液に対して硫化処理を施すことによってニッケル及びコバルトから硫化物を生成する硫化工程とを含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、
前記中和後スラリーは、前記中和反応槽と前記固液分離装置とを接続する送液ラインにおいてノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤及び凝結剤が添加された後、該固液分離装置で固液分離され、前記硫化物を含むスラリーを固液分離により回収したときに排出される反応終液のpHが1.8以上2.0以下となるように前記中和工程の中和処理条件を調整するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項2】
前記中和後液のpHが3.2以上3.5以下となるように前記中和剤の添加量を調整する、請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項3】
前記中和剤として炭酸カルシウムを用いる、請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【請求項4】
前記固液分離装置内における上澄み液の濁度が50NTU以下である、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関し、より詳しくは、ニッケル酸化鉱石の硫酸による浸出処理で得た浸出液に対して中和処理を施して中和澱物を含む中和後スラリーを生成し、この中和後スラリーを固液分離して得た中和後液に硫化処理を施してニッケル及びコバルトを硫化物として回収するニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料としての低ニッケル品位のニッケル酸化鉱石から湿式製錬法によりニッケル、コバルト等の有価金属を回収する方法として、高温高圧下において硫酸を用いて該ニッケル酸化鉱石を浸出処理する高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)法が実用化されている。このHPAL法によってニッケル酸化鉱石から浸出された有価金属を含む硫酸水溶液からなる浸出液は、中和処理により不純物を澱物として除去した後、加圧下で硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理することで、有価金属を硫化物として回収することができる。
【0003】
上記のニッケル酸化鉱石中には上記ニッケルやコバルト以外に、マグネシウム、アルミニウム、鉄、クロムなどの金属成分も含まれているため、上記HPAL法では、これらの金属成分も下記式1の浸出反応によって浸出される。これら金属成分のうち、3価の金属イオンは、上記硫化処理を行う前に炭酸カルシウム等の中和剤を用いた中和処理によって下記式2に示す中和反応を生じさせて除去され、そのため該中和処理によって得られる中和終液はpH3.0〜3.2前後に調整される。この中和処理により得られる中和終液に含まれる有価金属は、上記硫化処理において下記式3の硫化反応を生じさせて硫化物として回収される。
[式1]
MO+HSO=MSO+H
(M=Ni、Co、Mg、Al、Fe、Cr)
[式2]
(SO)+4HO=2MO(OH)+3HSO
(M3+=Al、Fe、Cr)
[式3]
MSO+HS=MS+HSO
(M=Ni、Co、Zn)
【0004】
上記式3の硫化反応を生じさせる硫化処理において、プロセス液中に溶存可能な硫化水素ガス量は、下記式4及び式5に示す硫化水素の酸解離定数により計算することができる。また、これら式4及び式5から、下記式6に示すようにプロセス液中に溶存可能なSイオン濃度を求めることができる。
[式4]
S=H+HS=1.0×10−7
[式5]
HS=H+S2−=1.0×10−14
[式6]
[S2−]=(K×[HS])÷[H]
【0005】
上記式6において、硫化水素の濃度を示す[HS]が飽和状態の0.10mol/Lであると仮定すると、pH3.1及びpH3.3における[S2−]は、それぞれ下記式7及び式8のように求めることができる。
<pH3.1のとき>
[式7]
[S2−]=[(1.0×10−7)×(1.0×10−14)×0.10mol/L]÷[10−3.1]=1.58×10−15mol/L
<pH3.3のとき>
[式8]
[S2−]=[(1.0×10−7)×(1.0×10−14)×0.10mol/L]÷[10−3.3]=3.98×10−15mol/L
【0006】
このことから、プロセス液中に溶存可能な硫化水素ガス量は、pHに依存することがわかる。例えば、上記のようにプロセス液のpHが3.1のときのS2−の濃度が1.58×10−15mol/Lであるのに対して、pHが3.3のときはS2−の濃度は3.98×10−15mol/Lであるため、プロセス液中に溶存可能な硫化水素ガス濃度は約2.5倍に増加する。
【0007】
このように、pH上昇によりプロセス液中に溶存可能な硫化水素ガス量が増加することから、硫化反応は極力高いpHで行うことが望ましい。しかしながら、プロセス液のpHが上昇すると、上述した式2に示す反応のほかに、下記式9に従って石膏(CaSO)が生成する反応も進行する。石膏や例えばアルミニウムなどの一部の三価金属の澱物は粒径が非常に小さいことで知られており、これら石膏等の生成により、後段の固液分離処理における固液分離性が悪化することがある。
[式9]
SO+CaCO+HO=CaSO・HO+CO
【0008】
そのため、中和処理では該固液分離性が悪化しない程度にプロセス液のpHを制御することが行われており、具体的にはpHの上限を3.0〜3.2程度にとどめているのが現状である。従って上記のpH3.0〜3.2よりも高いpH領域において、固液分離性を向上させる技術が求められていた。固液分離性を向上させる場合は、一般的には中和反応で生成した微粒子を捕捉すべく高分子ポリマーなどの凝集剤や凝結剤を反応溶液に添加することが行われている。
【0009】
例えば特許文献1には、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、脱亜鉛処理で生成される亜鉛硫化物を分離する際の濾過性を改善し、濾布の寿命を延長させるため、中和反応後のスラリーに凝集剤を添加する技術が開示されている。また、特許文献2には、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬プロセスにおいて、濾過不良や濾過速度の低下を抑制して中和澱物を効果的に分離除去するために、ニッケル及びコバルトを含む浸出液に対してマグネシウム酸化物を中和剤として用いて中和処理を施し、その中和スラリーに対してカチオン系凝集剤を添加して中和澱物を分離除去する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2014−074233号公報
【特許文献2】特開2014−101548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献1や2に開示されている技術により、中和澱物を含むスラリーを濾過により固液分離する際の濾過性を向上させることができるものの、高pH領域において固液分離性を良好に保つことは容易ではなく、プロセス液の組成に応じて好適な薬剤を選定することが必要であった。これに関し、上記の特許文献1や2には、硫化処理において硫化反応の効率性を高めるべくpHを上昇させる場合において、固液分離性を悪化させることなく硫化物の収率を向上させる技術については開示されていない。
【0012】
この場合、代替案として、硫化処理においてNaSHを添加することによって直接pHを上昇させる方法が考えられるが、この場合はかえってコストがかかるおそれある。本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、浸出液に対する中和処理の際のプロセス液のpHを従来よりも高めても固液分離性を悪化させることなく硫化反応の反応効率を促進させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石に硫酸を添加して浸出処理した後、固液分離により浸出残渣を除去して浸出液を得る浸出工程と、該浸出液を中和反応槽に装入し、中和剤を添加して中和処理を施した後、得られた中和後スラリーを固液分離装置に導入して固液分離する中和工程と、該中和工程で液相側として得た中和後液に対して硫化処理を施すことによってニッケル及びコバルトから硫化物を生成する硫化工程とを含むニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法であって、前記中和後スラリーは、前記中和反応槽と前記固液分離装置とを接続する送液ラインにおいてノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤及び凝結剤が添加された後、該固液分離装置で固液分離され、前記硫化物を含むスラリーを固液分離により回収したときに排出される反応終液のpHが1.8以上2.0以下となるように前記硫化処理の処理条件を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において、固液分離性を悪化させることなく硫化反応の反応効率を促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の工程フロー図である。
図2】本発明の実施形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法を好適に実施可能な中和処理設備の一具体例の模式的な構成図である。
図3】硫化物のpHに対する溶解度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の実施形態について、硫酸溶液を用いた高圧酸浸出法(HPAL法)によりニッケル及びコバルトを回収する場合について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明においては、「x〜y」(x、yは任意の数値)との表記は、特に断らない限り「x以上y以下」を意味している。
【0017】
1.ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法
本発明の実施形態に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、図1に示すように、原料のニッケル酸化鉱石のスラリーに対して高温高圧下で硫酸を添加して浸出処理を施す浸出工程S1と、該浸出処理により得た浸出液に対して中和処理を施して不純物を除去する中和工程S2と、該中和処理により得た中和後液に硫化剤を添加して硫化処理を施すことでニッケル及びコバルトを混合硫化物として回収する硫化工程S3とを含んでいる。この原料のニッケル酸化鉱石には、例えばリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱を用いることができる。ラテライト鉱のニッケル含有量は、0.8〜2.5質量%程度であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含まれている。以下、これら一連の工程の各々について具体的に説明を行う。
【0018】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、一般的なHPALプロセスに従って例えばオートクレーブと称する高温加圧容器にニッケル酸化鉱石のスラリーを硫酸と共に装入し、例えば240〜260℃程度、3MPa〜5MPa程度の高温高圧雰囲気で撹拌しながら浸出処理を施す。これにより、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーが生成される。上記浸出スラリーには洗浄水が加えられて洗浄処理されると共に、固液分離によりヘマタイトを主成分とする浸出残渣が除去され、ニッケルやコバルト等を含む浸出液が得られる。この浸出液は、次工程の中和工程S2に移送される。一方、浸出残渣は洗浄処理等が施された後、系外に排出される。
【0019】
上記の洗浄処理及び固液分離には、浸出スラリーを洗浄液と混合してから固液分離することが可能なシックナー等の固液分離設備を用いるのが好ましい。例えばシックナーを用いる場合は、シックナーに装入した浸出スラリーを洗浄液により先ず希釈した後、沈降分離を行うことで、該希釈したスラリー中の浸出残渣を沈降濃縮物としてシックナーの底部から除去することができる。なお、シックナー等の固液分離設備を用いる場合は、複数の固液分離設備を直列に連結し、浸出スラリーを上流側から下流側に順次移送すると共に、洗浄液を該浸出スラリーに対して向流に流すことで、多段洗浄しながら固液分離するのが好ましい。
【0020】
(2)中和工程
中和工程S2では、上記浸出工程S1で得た浸出液の酸化を抑制しながら、中和剤を添加して浸出液中の余剰酸を中和すると共に、浸出液中に含まれる3価の鉄やアルミニウム等の不純物成分から中和澱物を生成する。この中和処理により得た中和澱物を含む中和後スラリーは、シックナー等の固液分離装置に導入され、固液分離により該中和澱物が中和澱物スラリーとして分離除去される。これにより、ニッケル及びコバルトを回収するための母液となる中和後液が得られる。上記の中和剤には一般的なもの使用することができ、例えば、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム等を好適に用いることができ、これらの中では炭酸カルシウムが特に好ましい。
【0021】
中和工程S2における上記中和処理は、浸出液に中和剤を添加して中和反応を生じさせることで中和処理を行う中和反応槽と、該中和処理により得た中和後スラリーを中和後液と中和澱物とに分離する固液分離装置とからなる中和処理設備で行われる。本発明の実施形態においては、この中和反応槽から固液分離装置に向けて中和後スラリーを送液する送液ラインにおいて凝集剤及び凝結剤を添加し、この送液ラインで凝集剤及び凝結剤が添加された後の中和後スラリーが固液分離装置で固液分離されることを特徴としている。
【0022】
かかる構成により、上記中和処理において中和後液のpHを3.2以上3.5以下の範囲内にすることができる。このpHが3.5を超えると、ニッケルから水酸化物が生成することがあり、この場合は中和澱物として該ニッケルの水酸化物が除去されるので、ニッケルの回収ロスとなる。また、固液分離性が低下することがある。逆に中和後液のpHが3.2未満になると、次工程の硫化工程S3において添加した硫化水素ガスの溶存可能量が減少し、硫化反応の効率が低下するおそれがある。この中和処理設備の具体的な構成については後で詳しく説明する。
【0023】
(3)硫化工程
硫化工程S3では、上記中和工程S2で得た中和後液に対して硫化水素ガス、硫化ナトリウム、水素化硫化ナトリウム等の硫化剤を添加して硫化処理を施し、該中和終液に含まれるニッケル、コバルト、亜鉛等から硫化物を生成する。この硫化物を含むスラリーを固液分離することで固相側に硫化物を回収することができ、一方、液相側として硫化後液が排出される。なお、上記の硫化処理ではスカンジウム等は硫化物を生成しないので硫化後液に含まれることになる。なお、反応槽内の圧力などの硫化処理条件を調整することで亜鉛硫化物とニッケル・コバルト混合硫化物を別々に生成することができ、これにより不純物成分の少ないニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)を生成することができる。
【0024】
上記の硫化工程S3における硫化処理では、硫化反応により生成したニッケル・コバルト混合硫化物を含むスラリーをシックナー等の固液分離装置(沈降分離装置)に導入して分離処理を施し、ニッケル・コバルト混合硫化物をシックナー底部より分離回収するのが好ましい。この場合、ニッケル濃度を低い水準で安定させた水溶液成分である硫化後液がオーバーフローにより排出される。この硫化後液は、前述した浸出工程S1で排出される浸出残渣等と共に洗浄処理や(最終)中和処理等が施された後、系外に排出される。
【0025】
2.中和処理設備
次に図2を参照しながら、上記した中和工程S2の中和処理が好適に実施される中和処理設備の一具体例について説明する。この図2に示す中和処理設備10は、上記浸出工程S1で得た浸出液に中和剤を添加して中和反応を生じさせることで中和処理を行う中和反応槽11と、得られた中和後スラリーを中和後液と中和澱物とに分離する固液分離装置12とから主に構成されている。これら中和反応槽11と固液分離装置12とは送液ライン13により互いに接続されており、中和反応槽11にて生成した中和後スラリーはこの送液ライン13を介して固液分離装置12内に装入される。この送液ライン13を流れる中和後スラリーに対して後述するようにノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤及び凝結剤が添加される。すなわち、固液分離装置12には送液ライン13で上記凝集剤及び凝結剤が添加された後の中和後スラリーが装入される。以下、これらの構成要素の各々について詳細に説明する。
【0026】
(1)中和反応槽
中和反応槽11は、例えば縦型円筒形の容器からなり、前段の浸出工程S1において浸出スラリーを固液分離することで得た浸出液が中和処理のための中和剤と共に該中和反応槽11内に連続的に装入される。この中和反応槽11には、撹拌軸11aと、その先端部に位置する撹拌翼11bとを備えた撹拌装置が設けられており、これにより浸出液は撹拌されながら中和処理されるため、効率よく中和反応を生じさせることができる。
【0027】
中和反応槽11には、その側部の上側にオーバーフロー口が設けられており、このオーバーフロー口に送液ライン13の一端部が接続している。中和反応槽11内で生成した中和後スラリーは、このオーバーフロー口から抜き出された後、送液ライン13を介して固液分離装置12に移送される。なお、このオーバーフロー口には、中和反応槽11に装入された浸出液がショートパスしないように中和反応槽の底部から液面上部にまで延在する両端が開口したガイド部材が設けられているのが好ましい。
【0028】
(2)固液分離装置
固液分離装置12には、例えばシックナー等の重力沈降装置が好適に用いられる。シックナーの場合は、上記の中和反応槽11における中和処理により生成した中和反応後のスラリー(中和後スラリー)が、円筒形状の沈降分離槽の略中央部に連続的に導入され、不純物成分からなる中和澱物は重力沈降により濃縮スラリーの形態で底面に堆積した後、中央部から抜き出される。一方、ニッケル回収用の母液となる中和後液は上澄み液としてオーバーフローする。
【0029】
より具体的に説明すると、シックナーは中央部が最も深くなるように円錐状に傾斜した底面を有する略円筒形状の沈降分離槽からなり、その中央部の液面をまたぐ位置に固液分離対象となる中和後スラリーが導入される両端部が開口した円筒形状のフィードウェル部12aが設けられている。また、この沈降分離槽の上端周縁部には、中和澱物が除去された中和後液がオーバーフローにより流れ込むオーバーフロー樋12bが設けられている。上記の中和反応槽11に一端部が接続する送液ライン13の他端部は、上記のフィードウェル部12aの側面に接続しており、これにより中和反応槽11から移送される中和後スラリーがフィードウェル部12aを介して固液分離装置12の沈降分離槽内に装入される。
【0030】
この沈降分離槽内に装入された中和後スラリーは、該沈降分離槽内の中央部から外周部に流動し、その際、該中和後スラリーに含まれる中和澱物が重力の作用により沈降する。これにより、図2に模式的に示すように、下層側に中和澱物の濃縮スラリー相が形成され、上層側は中和後液の液相となる。この液相を構成する中和終液は上澄み液として該沈降分離槽の上端部をオーバーフローし、上記のオーバーフロー樋12bを介して例えば付設された貯留槽等に移送される。一方、濃縮スラリー相を構成する中和澱物は低速回転するレーキ12cで沈降分離槽の底面中央部に掻き集められた後、濃縮スラリーの形態で沈降分離槽の底部から抜き出される。この抜き出された中和澱物の濃縮スラリーは、スラリーポンプ12dにより反応槽等に移送されて処理されたり、前工程の設備に繰り返されたりする。
【0031】
(3)送液ライン
送液ライン13は、上記の中和反応槽11と固液分離装置12とを連結する樋や配管等により構成された送液ラインであり、中和反応槽11にて生成した中和後スラリーを重力を利用して固液分離装置12に送液する役割を担っている。すなわち、送液ライン13の一端部が中和反応槽11に接続する位置は、該送液ライン13の他端部が固液分離装置12のフィードウェル部12aに接続する位置よりも高くなっており、このように高さの異なる位置同士を好ましくは直線状に接続するため、送液ライン13は傾斜した状態で設置されている。中和反応槽11内からオーバーフローにより排出した中和後スラリーは、傾斜した送液ライン13に流れ込み、斜め下に位置するフィードウェル部12aの接続部に向かって好ましくは層流状態で送液ライン13内を流れ、その後、固液分離装置12のフィードウェル部12aの内側に流れ込む。
【0032】
3.凝集剤及び凝結剤
本発明の実施形態の湿式製錬法は、上記の中和反応槽11から固液分離装置12に至る送液ライン13内の中和後スラリーに対して凝結剤及び高分子ポリマーからなる凝集剤を添加する。固液分離装置12のフィードウェル部12aには、これら凝結剤及び凝集剤が添加された状態の中和後スラリーが装入されるので、固液分離装置12では極めて効率のよい固液分離が可能になる。
【0033】
従来の中和処理設備においては、中和反応槽内の攪拌状態の処理液に凝結剤を添加して中和処理を行いながら凝結させると共に、固液分離装置のフィードウェル部に凝集剤を添加していた。しかしながら、凝結剤や高分子ポリマーからなる凝集剤は、それらの官能基によって微粒子を捕捉する性質を有するため、これら薬剤の分散性の観点からは薬剤濃度を低くする方が有利であり、また、凝結剤や凝集剤と微粒子とが結合して生成する凝集体は、撹拌翼によるせん断応力などの機械的な力によって容易に破壊されてしまう。
【0034】
そこで、本発明者は凝集剤及び凝結剤の添加方法について鋭意研究を行った結果、上記のように中和反応槽11から固液分離装置12に至る中和後スラリーの送液ライン13の途中に凝集剤及び凝結剤の添加位置を設けることによって、固液分離装置12における中和後スラリーの固液分離性を顕著に向上させることを可能にした。これら凝集剤及び凝結剤の具体な添加位置は、図2に矢印Pで示すように、送液ライン13の延在方向の中間点よりも上流側が好ましく、中和反応槽11にできるだけ近い位置であるのがより好ましい。なお、一般的には送液ライン13は全長10〜25m程度であり、その底面の傾斜角は5〜15°程度である。また、送液ライン13上において多段階に亘って凝集剤や凝結剤を添加してもよい。
【0035】
このように、送液ライン13において、できるだけ上流側の位置に凝集剤及び凝結剤を添加することによって、中和後スラリーが送液ライン13内を流れている間に凝集剤及び凝結剤を該中和後スラリーにほぼ均一に分散させることができるので、固液分離装置12において凝集効果を十分に発揮させることができる。また、送液ライン13内においては、中和反応槽11のような高速回転する撹拌装置による機械的な力の影響を受けないため、生成した凝集体が破壊され難く、よって固液分離装置12における固液分離性を高めることができる。
【0036】
上記の高分子ポリマーからなる凝集剤には、ノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤を使用する。ノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤は凝集性に優れており、中和後スラリーの固液分離性をより高めることができる。ノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤としては、例えば、BASF社製Magnafloc333等を挙げることができる。この凝集剤の添加量には特に限定はなく、中和後スラリーに含まれる固形分量に応じて適宜調整すればよい。一般的には、送液ライン13を流れる例えばスラリー濃度10〜30質量%の中和後スラリー1トンに対して、凝集剤を30〜270g/t程度添加するのが好ましく、40〜60g/t程度添加するのがより好ましい。
【0037】
また、上記凝結剤としては、カチオン系凝結剤、アニオン凝結剤、ノニオン系凝結剤、両性系凝結剤等を用いることができる。これらの中ではカチオン系凝結剤が好ましく、例えば、SNF社製型式FL4540として市販されているポリジアリルジメチル塩化アンモニム等を好適に用いることができる。
【0038】
4.中和後液の硫化工程
上述した中和後スラリーの固液分離により中和澱物を除去して得た硫化反応始液としての中和後液に対して、硫化工程では硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化反応を生じさせる硫化処理を行うことで、ニッケル及びコバルトを混合硫化物として回収する。この硫化処理における反応効率は、中和後液中に添加する硫化剤の溶存量に依存する。例えば硫化剤として硫化水素ガスを用いた反応では、溶液中に溶存し得る硫化水素ガス量が多いほど硫化反応が効率的に進行し、中和後液中のニッケル等を効果的に硫化物にすることができる。一方で、硫化剤の溶存可能量は、中和後液のpHに依存する。
【0039】
そこで、本発明の実施形態においては、前述したように中和後液のpHを好適な範囲として3.2以上3.5以下の範囲となるように中和処理時のpHを制御しており、中和後液を始液として用いる硫化処理において、添加する硫化水素ガス等の溶存可能量を高めることができ、硫化反応効率を向上させて、高い回収率でニッケルを回収することができる。また、中和後液のpHが3.2以上3.5以下程度と従来よりも高く設定しているにもかかわらず、中和後スラリーの固液分離性が悪化することを効果的に防ぐことができる。
【0040】
すなわち、本発明の実施形態では、中和反応槽11から固液分離装置12に中和後スラリーを送液する送液ライン13において、ノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤と凝結剤とを添加し、これら凝集剤と凝結剤が添加された中和後スラリーを固液分離装置12に装入して固液分離しているので、上記のようにpH3.2以上3.5以下の従来よりもpHの高い中和後液を含む中和後スラリーであっても、固形分を効率的に凝集させて分離することができ、結果的に濁度の低い中和後液を得ることができる。具体的には、中和後液の濁度としては、濁度計(例えば、HACH社製2100P型散乱光式濁度計)による測定数値で50NTU以下とすることができる。
【0041】
上記の硫化反応の始液となる中和後液の濁度は、硫化処理により回収されるニッケル及びコバルトの回収率と相関関係があるため、ニッケル及びコバルトの回収率を、硫化反応始液である中和後液の濁度で管理することができる。すなわち、硫化反応始液の濁度が低いほど(透明度が高いほど)、固形分の凝集が十分に進行しており、また、固形分に付着した付着水に含まれる不純物の除去も十分に行われていると考えることができる。従って、かかる濁度の低い硫化反応始液に対して硫化処理を行うことにより、高い回収率でニッケルを回収することができ、また生成する硫化物に含まれる不純物含有量も極めて低く抑えることができる。
【0042】
このように、本発明の実施形態においては、固形分を効率的に凝集させて分離することができることから、濁度の低い中和後液を得ることができ、高い回収率でニッケルを回収することができる。また、硫化反応がより促進されるので上記の式3の反応により副成する硫酸の量が増加するが、上記したように硫化反応始液のpHが3.2以上3.5以下程度と従来よりも高いので、反応終液のpHを1.8〜2.0程度まで高めることができる。
【0043】
その結果、図3に示すように、硫化物の再溶解を抑え、かつ残渣洗浄に適した反応終液を得ることができる。よって、硫化工程における有価金属のロスを削減でき、実収率の向上が可能になる。以上、本発明のニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法について、実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更例や代替例が可能である。
【実施例】
【0044】
[比較例1]
図1に示すニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法の工程フロー図に沿って、浸出工程S1においてニッケル酸化鉱石に対して硫酸で浸出処理を施して浸出液を生成した後、中和工程S2及び硫化工程S3により該浸出液を処理してニッケル及びコバルトの混合硫化物を得た。該中和工程S2では、図2に示すような、浸出液を中和する中和反応槽11と、中和後スラリーを中和後液と中和澱物とに固液分離する固液分離装置12とからなる中和処理設備10を使用して浸出液を中和処理した。
【0045】
この中和反応槽11での中和処理においては、中和剤として炭酸カルシウムを用いた。この中和反応槽11には、更にカチオン系凝結剤として栗田工業製クリフィックスDC−302を添加した。一方、固液分離装置(シックナー)12のフィードウェル部12aには、ノニオン系凝集剤として栗田工業製クリファームPN901を添加した。
【0046】
上記の湿式製錬方法を連続的に行っている際、固液分離装置12の上澄み液の濁度を濁度計(2100P型散乱光式濁度計,HACH社製)を用いて測定したところ、23NTUであった。また、中和後液のpHは3.17まで上昇させることができた。このようにして得られた中和後液に対して硫化工程S3において硫化水素ガスを吹き込んで硫化処理を施したところ、中和後液(硫化反応始液)中に溶存している硫化水素ガス濃度は、2.19×10−16mol/Lであった。
【0047】
上記にて得た硫化物を含むスラリーを濾過により硫化物と反応終液に固液分離した。この反応終液中の溶存したニッケル濃度は0.108g/Lであった。従って硫化反応始液に対する有価金属であるニッケルの回収率は97.3%であった。また、予め蛍光X線分析法により分析しておいた原料のニッケル酸化鉱石のニッケル品位から算出した結果、浸出工程S1における原料に対するニッケルの浸出率は93.0%、硫化工程S3での原料に対するニッケルロスは0.4%であった。これらを考慮にいれた原料に対するニッケルの実収率は90.2%であった。
【0048】
[比較例2]
カチオン系凝結剤及びノニオン系凝集剤を、中和反応槽11から固液分離装置12に至る送液ライン13を流れている中和後スラリーに添加したこと以外は、上記比較例1と同様にして処理した。この添加の位置は、図2の矢印Pに示すように送液ライン13の延在方向の中間点よりも上流側にした。比較例1と同様に固液分離装置12の上澄み液の濁度を濁度計を用いて測定したところ、37NTUであり、比較例1と比べて若干上昇したものの、中和後液のpHは3.27まで上昇させることができた。
【0049】
中和後液(硫化反応始液)中に溶存している硫化水素ガス濃度は3.47×10−16mol/Lであった。また、硫化物を含むスラリーを濾過して得た反応終液中の溶存したニッケル濃度は0.084g/Lであった。従って硫化反応始液に対するニッケルの回収率は97.9%であった。また、浸出工程S1における原料に対するニッケルの浸出率は93.0%、硫化工程S3での原料に対するニッケルロスは0.4%であった。これらを考慮にいれた原料に対するニッケルの実収率は90.8%であった。このように、比較例1よりも有価金属の回収率を高めることができた。
【0050】
[実施例1]
使用する薬剤をノニオン系凝集剤からノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤のBASF社製Magnafloc333に変更したこと以外は、比較例2と同様にしてそのカチオン系凝結剤及びノニオン系ポリアクリルアミド凝集剤を送液ライン13を流れている中和後スラリーに添加した。比較例1と同様に固液分離装置12の上澄み液の濁度を濁度計を用いて測定したところ、27NTUであり、中和後液のpHは3.37まで上昇させることができた。
【0051】
中和後液(硫化反応始液)中に溶存している硫化水素ガス濃度は5.49×10−16mol/Lであった。また、硫化物を含むスラリーを濾過して得た反応終液中の溶存したニッケル濃度は0.068g/Lであった。従って硫化反応始液に対するニッケルの回収率は98.3%であった。また、浸出工程S1における原料に対するニッケルの浸出率は93.0%、硫化工程S3での原料に対するニッケルロスは0.3%であった。これらを考慮にいれた原料に対するニッケルの実収率は91.1%であった。上記比較例1〜2、及び実施例1の結果をまとめたものを下記表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
上記表1の結果から分かるように、中和反応槽から固液分離装置に至る中和後スラリーを送液する送液ラインにおいて凝集剤を添加することによって固液分離性を低下させることなく中和後液のpHを効果的に上昇させることができ、よって硫化処理によるニッケル等の有価金属の回収率を高めることができる。また、硫化反応終液のpHは、比較例1では1.61、比較例2では1.86であったが、実施例1では2.00まで上昇しており、反応性の向上に加えて再溶解を抑えることが可能になり、実施例1では反応終液中のニッケル濃度を低く抑えることができた。これにより硫化工程でのニッケル回収率が向上するので、実施例1ではニッケル実収率を高めることができた。
【符号の説明】
【0054】
10 中和処理設備
11 中和反応槽
11a 撹拌軸
11b 撹拌翼
12 固液分離装置
12a フィードウェル部
12b オーバーフロー樋
12c レーキ
12d スラリーポンプ
13 送液ライン
図1
図2
図3