特開2021-103170(P2021-103170A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2021-103170転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法及びはく離進展解析装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-103170(P2021-103170A)
(43)【公開日】2021年7月15日
(54)【発明の名称】転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法及びはく離進展解析装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 13/04 20190101AFI20210618BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20210618BHJP
   F16C 41/00 20060101ALI20210618BHJP
   F16C 19/52 20060101ALI20210618BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20210618BHJP
【FI】
   G01M13/04
   G01H17/00 Z
   F16C41/00
   F16C19/52
   F16C33/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2021-26339(P2021-26339)
(22)【出願日】2021年2月22日
(62)【分割の表示】特願2020-567996(P2020-567996)の分割
【原出願日】2020年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2019-27618(P2019-27618)
(32)【優先日】2019年2月19日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成31年1月21日に日本精工株式会社が発行したカタログ「NSK TECHNICAL JOURNAL No.691」にて掲載。
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 康
(72)【発明者】
【氏名】千布 剛敏
(72)【発明者】
【氏名】溝口 大木
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
3J217
3J701
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024CA13
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC42
2G064DD02
3J217JA02
3J217JA14
3J217JA15
3J217JA24
3J217JB23
3J217JB26
3J217JB70
3J217JB84
3J217JB88
3J701BA77
3J701FA24
3J701FA48
3J701GA24
3J701GA36
3J701GA41
(57)【要約】      (修正有)
【課題】微小はく離発生後のはく離の進展速度に基づいて、経過時間とはく離部の形状との関係を予測することができ、適切なタイミングでの軸受交換を可能とする転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法及びはく離進展解析装置を提供する。
【解決手段】はく離取得手段によって軌道輪のはく離部の有無及び形状を取得する工程と、少なくとも取得されたはく離部の形状、転がり軸受の諸元、及び転がり軸受の運転条件に基づいて、転動体(が軌道輪のはく離部の出口部を通過するときの、転動体に作用する転動体荷重Fを算出する工程と、はく離部の出口部における転動体荷重Fに基づいて、進行するはく離部の形状を考慮したはく離部の進展速度Vを算出する工程と、はく離部の進展速度Vに基づいて、転がり軸受の経過時間とはく離形状との関係を算出する工程と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械に使用される、内外軌道輪と両軌道輪間の転動体を有する転がり軸受の軌道輪のはく離の進展を予測するはく離進展解析方法であって、
はく離状況取得手段によって前記軌道輪のはく離の有無及び形状を取得する工程と、
少なくとも取得されたはく離部の形状、前記転がり軸受の諸元、及び前記転がり軸受の運転条件に基づいて、前記転動体が前記軌道輪の前記はく離部の出口部を通過するときの、前記転動体に作用する転動体荷重を進行する前記はく離部の形状を考慮して算出する工程と、
前記はく離部の出口部における転動体荷重に基づいて、進行する前記はく離部の形状を考慮した前記はく離の進展速度を算出する工程と、
前記はく離の進展速度に基づいて、経過時間とはく離部の形状との関係を算出する工程と、
を備える、
転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
【請求項2】
前記はく離部の形状は、前記はく離部の周方向長さであり、
前記はく離部の出口部における転動体荷重の算出工程は、はく離部の周方向長さに応じた力のつり合いを計算することで与えられる、請求項1に記載の転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
【請求項3】
前記はく離の進展速度算出工程は、前記はく離部の出口部における転動体荷重を用いた有限要素解析によって得られた前記はく離部の出口部における応力の変動を応力拡大係数範囲としたき裂進展速度によって与えられる、請求項2に記載の転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
【請求項4】
予め指定した前記はく離部の形状になるまでの残存時間を残存寿命として出力する工程をさらに備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
【請求項5】
回転機械に使用される、内外軌道輪と両軌道輪間の転動体を有する転がり軸受の軌道輪のはく離の進展を予測する転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析装置であって、
前記軌道輪のはく離の有無及び形状を取得するはく離状況取得手段と、
少なくとも取得された前記はく離部の形状、前記転がり軸受の諸元、前記転がり軸受の運転条件に基づいて、前記転動体が前記軌道輪のはく離部の出口部を通過するときの、前記転動体に作用する転動体荷重を進行する前記はく離部の形状を考慮して算出し、前記はく離部の出口部における転動体荷重に基づいて、進行する前記はく離部の形状を考慮した前記はく離の進展速度を求め、前記はく離の進展速度に基づいて、経過時間とはく離部の形状との関係を算出する演算部と、
を備える転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析装置。
【請求項6】
前記転がり軸受の諸元に応じて、前記経過時間と前記はく離部の形状との関係は、予め記憶部に格納されている、請求項5に記載の転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法及びはく離進展解析装置に関し、より詳細には、風力発電装置や、運搬車両を含む鉱山設備、圧延機のような鉄鋼設備などに用いられる転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法及びはく離進展解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受が荷重を受けて回転すると、内輪と外輪の軌道面及び転動体の転動面は絶えず繰返し荷重を受けるので、材料の疲れによってはく離と呼ばれるうろこ状の微小な損傷が現れることがある。一般的にこのはく離によって使用不能に至るまでを軸受寿命として定義している。しかし、風力発電装置用軸受のような大形軸受の場合、交換が容易ではなく、軸受にはく離が発生しても交換部品を調達し、実際に交換できるまでに多くの期間が必要となる。このため、部品の交換ができるまでの間、発電出力を制限するなどの対策を取った上で運転が続けられることがある。しかし、交換時期が遅れることで、はく離が急速に進んでしまうと、大量のはく離片がギヤに噛み込んだり、内外輪が割れたりして、最悪の場合、装置を長期間に亘って停止するようなメンテナンス作業が必要となる場合がある。
【0003】
このため、定期検査の際に、次の検査までは正常運転又は出力を制限した運転が可能か、又はどの時点で交換する必要があるかの判定が必要となってくる。このような判定の方法として、例えば、特許文献1に記載の状態監視装置は、振動センサにより検出された波形を複数の損傷フィルタ周波数帯域に分割して抽出するフィルタ処理部と、フィルタ処理後の波形からスペクトルデータを得る演算処理部と、転がり軸受の回転速度に基づいて算出した軸受損傷周波数と演算処理部で得られたスペクトルデータを比較して転がり軸受の異常部位を特定する精密診断部と、損傷フィルタ周波数帯域毎に算出される振動実効値に基づいて異常部位の損傷の程度を診断する損傷レベル診断部と、異常部位、異常部位の損傷の程度、及び回転部品の運転環境から異常部位の残存寿命を予測する残存寿命予測部と、を備え、異常部位の残存寿命を予測している。
【0004】
また、特許文献2に記載の転がり軸受の状態監視装置では、転がり軸受の内外輪間のラジアル方向の相対変位を検出する変位センサが設けられ、検出された内外輪間の相対変位が、予め設定されたしきい値を超えると、転がり軸受に異常が生じたものと判定する。しきい値は、転がり軸受の負荷域中央を通過中の転動体が負荷を受けず、かつ、負荷域を通過中の残余の転動体が荷重を受けているとした場合の内外輪間の相対変位を基準変位として、該基準変位に基づいて設定される。特に、隣接する2つの転動体が同時に損傷部を通過するまでに損傷が軌道面周方向に拡大すると、荷重を受ける転動体が減少することによって転動体荷重が増大し、損傷の進展速度が上昇する点を考慮して設定された、しきい値との比較により、軸受交換時期が判定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国特開2017−219469号公報
【特許文献2】日本国特開2017−26445号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1では、転がり軸受の残存寿命予測について記載されているが、これを実際に稼動している機械(特にはく離が生じても継続使用されるケース)に適用する場合には、下記の課題が生じている。
1. 軌道面に発生した初期はく離が周方向に拡大すると、転動体がはく離を通過する際に、転動体と内外輪とのすきまにより荷重を受けることができなくなる。そのため、負荷圏にある全ての転動体が荷重を受ける理想的な転動体荷重分布に対して、荷重を支える転動体が減少し、はく離を通過する転動体の近隣の転動体荷重が増加する。しかしながら、特許文献1では、転動体荷重の増加を考慮していないため、はく離の急激な拡大を予測できない。
2. 残存寿命を予測する際に、き裂の進展速度の式に用いられる応力拡大係数範囲ΔKを算出するには,一般的に具体的な計算対象の形状が必要となる。しかしながら、はく離形状の記載がないため、寿命の予測精度が低い。
【0007】
また、特許文献2では、軸受交換の時期を明確にするためのしきい値の設定方法については記載されているが、はく離の進展を予測するものではなく、交換までの残存寿命が予測できず交換用軸受を事前に手配することができない。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、微小はく離発生後のはく離の進展速度を算出して、経過時間とはく離部の形状との関係を予測し、適切なタイミングでの軸受交換を可能とする転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法及びはく離進展解析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転機械に使用される、内外軌道輪と両軌道輪間の転動体を有する転がり軸受の軌道輪のはく離の進展を予測するはく離進展解析方法であって、
はく離状況取得手段によって前記軌道輪のはく離の有無及び形状を取得する工程と、
少なくとも取得されたはく離部の形状、前記転がり軸受の諸元、及び前記転がり軸受の運転条件に基づいて、前記転動体が前記軌道輪の前記はく離部の出口部を通過するときの、前記転動体に作用する転動体荷重を算出する工程と、
前記はく離部の出口部における転動体荷重に基づいて、進行する前記はく離部の形状を考慮した前記はく離の進展速度を算出する工程と、
前記はく離の進展速度に基づいて、経過時間とはく離部の形状との関係を算出する工程と、
を備える、
転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
(2) 回転機械に使用される、内外軌道輪と両軌道輪間の転動体を有する転がり軸受の軌道輪のはく離の進展を予測する転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析装置であって、
前記軌道輪のはく離の有無及び形状を取得するはく離状況取得手段と、
少なくとも取得されたはく離部の形状、前記転がり軸受の諸元、前記転がり軸受の運転条件に基づいて、前記転動体が前記軌道輪の前記はく離部の出口部を通過するときの、前記転動体に作用する転動体荷重を算出し、前記はく離部の出口部における転動体荷重に基づいて、進行する前記はく離部の形状を考慮した前記はく離の進展速度を求め、前記はく離の進展速度に基づいて、経過時間とはく離部の形状との関係を算出する演算部と、
を備える転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の軌道輪のはく離進展解析方法及び軌道輪のはく離進展解析装置によれば、転動体が軌道輪のはく離部の出口部を通過するときに作用する転動体荷重から、進行するはく離部の形状を考慮したはく離の進展速度を求めて、経過時間とはく離部の形状との関係を予測するようにしたので、適切なタイミングでの軸受交換が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る軌道輪のはく離進展解析装置の概略構成を示すブロック図である。
図2A】円筒ころ軸受の内輪におけるはく離の進展状況の一例を示す図である。
図2B】円筒ころ軸受の内輪におけるはく離の進展状況の一例を示す図である。
図2C】円筒ころ軸受の内輪におけるはく離の進展状況の一例を示す図である。
図2D】円筒ころ軸受の内輪におけるはく離の進展状況の一例を示す図である。
図3】はく離進展解析の手順を示すフローチャートである。
図4】転がり軸受の運転経過時間とはく離部の形状との関係を算出する手順を示すフローチャートである。
図5A】はく離発生前における転動体荷重の大きさを示す概念図である。
図5B】はく離発生後における転動体荷重の大きさの変化を示す概念図である。
図6A】はく離部と転動体との関係を示す拡大図である。
図6B】はく離部と転動体との関係を示す拡大図である。
図7】はく離長さとはく離部の出口部における転動体荷重の関係を示すグラフである。
図8A】はく離部の出口部を転動体が通過する状態を示す要部拡大図である。
図8B図8Aの状態でのはく離部の形状を考慮したFEM解析により、任意の位置での応力分布を示す図である。
図9】経過時間とはく離部のサイズの関係を、本実施形態による解析結果と試験結果とを比較して示すグラフである。
図10A】円筒ころ軸受の内輪における初期のはく離部を転動体が通過する状態を示す斜視図である。
図10B】有限要素解析を3次元で行う際のはく離部の出口部について説明する内輪の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法及びはく離進展解析装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態の軌道輪のはく離進展解析装置1は、機械設備20に組み込まれた転がり軸受10の軌道輪(即ち、内輪11又は外輪12)に発生したはく離部を解析するものである。はく離進展解析装置1は、転がり軸受10のはく離の有無及び形状を取得するはく離状況取得手段21と、はく離状況取得手段21で取得した信号をデータ伝送手段22を介して受信し、信号処理を行って転がり軸受10の軌道輪のはく離の有無、及びはく離進展解析を行う演算処理部31、機械設備20を駆動制御する制御部32、及び解析結果などを記憶する記憶部33を有する制御装置30と、モニタや警報機等からなり、はく離進展解析結果や転がり軸受10の残存寿命を出力する出力装置40と、を備えている。
【0014】
転がり軸受10は、機械設備20の回転軸に外嵌される内輪11と、ハウジング14等に内嵌される外輪12と、内輪11及び外輪12との間で転動可能に配置された複数の転動体13と、転動体13を転動自在に保持する不図示の保持器と、を有する。
【0015】
なお、本実施形態では、転動体13と内輪11及び外輪12の軌道面が線接触し、図2A図2Dに示すように、内輪11のはく離の進展(11a→11b→11c→11d)が、周方向長さAの変化(Aa→Ab→Ac→Ad)として一次元で近似できるころ軸受を想定し、内輪11の軌道面にはく離が発生する場合を例に説明する。
【0016】
はく離状況取得手段21は、はく離状況の取得方法に応じて、任意のものが選択される。例えば、はく離状況取得手段21をファイバースコープやカメラとして、はく離部の形状を直接観察してもよい。或いは、本出願人が考案した日本国特願2018−156535に記載のはく離部の長さを検出する方法の場合には、はく離状況取得手段21は振動センサや荷重センサであってもよく、また、特許文献2に記載のはく離の長さを検出する方法の場合には、はく離状況取得手段21は変位センサであってもよい。さらに、はく離状況取得手段21は、温度や、潤滑油中の鉄粉量(濃度)などを検出するものであってもよい。なお、振動センサ、荷重センサ、変位センサは、転がり軸受10の固定輪である外輪12が取り付けられたハウジング14の負荷圏に固定される。
【0017】
制御装置30は、マイクロコンピュータ(ICチップ、CPU、MPU、DSP等)により構成されており、後述する各処理をこのマイクロコンピュータのプログラムにより実行する。
【0018】
制御装置30は、演算処理部31で解析された転がり軸受10のはく離部の解析結果を、記憶部33に記憶すると共に、機械設備20の動作を制御部32へ出力し、解析結果に応じた機械設備20を駆動する制御信号を機械設備20の動作にフィードバック(回転数を落とすなどの安全運転動作)する。さらに、制御装置30は、有線又はネットワークを考慮した無線を利用したデータ伝送手段34により解析結果を出力装置40に送る。
【0019】
出力装置40は、転がり軸受10の解析結果をモニタ等にリアルタイムで表示する。また、異常が検出された場合に、ライトやブザー等の警報機を用いてオペレータに異常であることの注意を促すようにしてもよい。また、信号のデータ伝送手段22は、はく離状況取得手段21からの信号を的確に送受信可能であればよいので、有線でも良いし、ネットワークを考慮した無線を利用してもよい。
【0020】
図3は、はく離進展解析の手順を示すフローチャートである。まず、はく離状況取得手段21によりはく離の有無及び形状を取得する(ステップS1)。例えば、はく離状況取得手段21が、ファイバースコープの場合、軌道面が直接観察される。そして、軌道面に初期はく離部が観察された場合には、ステップS2で、はく離有りとして、本実施形態では、観察されたはく離部の形状から、はく離部の形状の周方向長さA(図2A図2D参照)を取得する。そして、図4を用いて詳述する残存寿命計算に移行する(ステップS3)。残存寿命計算の処理の後、本処理フローを終了する。一方、ステップS2で、はく離無しの場合には、本処理フローを終了する。図3に示す処理を所定時間毎に実行する。
【0021】
図4は、転がり軸受10の運転経過時間とはく離部の形状との関係を算出する手順を示すフローチャートであり、図3のステップS3の工程に対応する。したがって、上記ステップS2ではく離部15の発生を検知した場合に、本フローの計算を開始し(ステップS11)、はく離形状、軸受諸元、運転条件を演算プログラムに入力する(ステップS12)。
【0022】
運転条件の一つである軸受荷重としては、一定の軸受荷重、直接測定した軸受荷重、発電出力や軸の回転トルクなどから間接的に求めた軸受荷重などが入力される。また、予め想定された運転荷重パターンを入力してもよい。また、回転速度としては、現在の回転速度で継続運転した場合を想定して、現在の回転速度が入力されてもよいし、初期はく離部が観察された時点で、運転速度を減速する場合には、減速した回転速度が入力されてもよい。
【0023】
次いで、ステップS12で入力した指標(即ち、初期はく離形状、軸受諸元、運転条件)に基づいて、はく離部15の拡大に伴って変化する、はく離部の出口部を通過する転動体13の転動体荷重Fを算出する(ステップS13)。ここでは、ISO/TS16281に準じた計算方法により転動体荷重Fを計算する。軸荷重Pが内輪11を押し各転動体13を同時に押すため、力のつりあい式を解くことで、はく離部の出口部の転動体荷重Fを算出する。
【0024】
図5Aに示すように、軸荷重Pにより内輪11にラジアル軸受荷重が作用した状態で転がり軸受10が回転すると、負荷圏Qareaに位置する各転動体13には、転動体13の位置に応じた大きさの転動体荷重F0が発生する。
【0025】
一方、転動体13と内輪11の軌道面との接触面圧が最大となる負荷圏Qarea中央において、内輪11の軌道面にはく離が発生すると、図5Bに示すように、はく離部15を通過している転動体13は軸受荷重を支持することができず、図5Aに示した負荷圏Qareaの転動体13よりも少ない数の転動体13で軸受荷重を支持するため、その他の負荷圏Qareaに位置する各転動体13に増大した転動体荷重F1が負荷される。したがって、図5Aにおける各転動体13の転動体荷重F0の関係を用いて、図5Bにおける力のつりあい式を解くことで、初期はく離部が生じた状態での、はく離部の出口部の転動体荷重Fが算出される。具体的には、転動体荷重F0及びF1は、ISO/TS16281に準じた計算方法により求められる。また、はく離部15を通過している転動体13の転動体荷重F1は、荷重を受けないものとして計算される。
【0026】
また、負荷圏Qarea中央に生じた初期はく離部は、軌道面の円周方向(本発明に示した例においては転動体13の通過方向)に拡大していく。通常、はく離部15の出口部におけるき裂15a(図6A図6B参照)に転動体荷重が繰り返し負荷されることで、き裂15aは円周方向に徐々に進展し、その後、所定の長さのはく離片15bが段階的に発生する。そして、図6Bに示すように、はく離部15の周方向長さAが、隣り合う2つの転動体13が同時に入る長さ(周方向長さA=転動体ピッチ間距離d)になると、はく離部15の出口部おける転動体荷重F1は増大して負荷されるようになる。
【0027】
その後、転動体荷重Fは、図7に示すように、はく離部15の周方向長さAが、転動体ピッチ間距離d、その2倍、3倍となる毎に転動体荷重を受ける転動体数が減少していくので階段状に増大する。したがって、はく離部15の出口部における転動体荷重Fと、はく離部15の周方向長さAとの関係が、与えられる。
【0028】
そして、ステップS13で算出された転動体荷重Fに基づいて,進行するはく離部の形状を考慮したき裂進展解析を行い,き裂の進展速度をはく離部15が拡大する速度(はく離進展速度V)として算出する(ステップS14)。
【0029】
疲労現象におけるき裂進展挙動は、き裂長さとき裂に働く応力で表される線形破壊力学パラメータK(応力拡大係数)に支配され、き裂が安定して進展する領域では、応力拡大係数Kの変動範囲ΔK(応力拡大係数範囲)と応力1サイクルあたりのき裂進展量da/dNは両対数直線関係となることが、下記するParis則として知られている。
【0030】
da/dN=C(ΔK)m
但し、C、mは、実験定数
従って、上式にΔKを代入することで、本発明では、き裂進展速度をはく離進展速度Vとして演算により求めることができる。具体的には、図8Aおよび図8Bに一例を示すように、ステップS13で算出された転動体荷重Fが転がり軸受に作用した場合のFEM解析(有限要素解析)により、転動体13をはく離部15の出口部である、はく離部15の出口端面からき裂先端を越えた付近まで(図8B参照)左から右に少しずつ動かした複数の位置で、内輪11に作用する各応力σを算出し、はく離部15の出口部における応力σの変動から応力拡大係数範囲ΔKを算出する。なお、実際には、荷重を受ける転動体の数は、軸受の回転に応じて変動するが、ここでは、最大値を転動体荷重Fとして入力している。また、FEM解析による応力σの算出から応力拡大係数範囲ΔKを算出する過程は、定式化することができ、定式化した後は、該式を用いて計算することで、その都度のFEM解析は不要となる。
なお、はく離進展速度(き裂進展速度)Vは、破壊力学で一般的なJ積分値を予め定式化して用いてもよい。
【0031】
そして、求められた応力1サイクルあたりのき裂進展量da/dNに、円筒ころ13の数などの軸受諸元、回転速度などの運転条件を適用して、運転時間とはく離サイズAとの関係を、下記式を用いた理論計算から算出して、図9に示すグラフを作成する。
【0032】
A=A0+da/dN×n
A0:観察された時点のはく離部の周方向長さ
n:転動体が、負荷圏内ではく離部の出口部を負荷する回数
【0033】
図7において説明したように、転動体荷重Fは、はく離部15の周方向長さAが転動体ピッチ間距離dの倍数になる(負荷圏Qareaに存在する転動体13のうち、正しく負荷を受ける転動体が1つ減る)ごとに階段状に増大するので、はく離進展速度Vもはく離部15の周方向長さAが転動体ピッチ間距離dの倍数になるごとに速くなる。この転動体ピッチ間距離dごとのはく離進展速度Vの変化は、図9において屈曲点Bとして現れる。
【0034】
詳細には、はく離部15の周方向長さAが転動体ピッチ間距離d未満のときに、はく離部の長さAは図9(両対数グラフ)において直線L1に沿って直線的に増大する。また、はく離部15の周方向長さAが転動体ピッチ間距離dに達すると、はく離部15の周方向長さAは、直線L1より勾配の大きな(はく離進展速度Vが速い)直線L2に沿って直線的に増大する。直線L1と直線L2との交点が、はく離部15の周方向長さAが転動体ピッチ間距離dに達したときの屈曲点Bとなる。そして、屈曲点Bを越えるとはく離進展速度Vが急激に変化(増加)する。
【0035】
図9には、図3のフローチャートに従って求めたはく離進展解析結果と、運転時間とはく離サイズとの関係を調べたはく離進展試験の試験結果とを比較して示している。図9から分かるように、解析結果と試験結果とは、近似した傾向を示しており、本実施形態のはく離進展解析方法により転がり軸受10の残存寿命を精度よく予測可能であることが分かる。
【0036】
なお、初期はく離が発生した後の転がり軸受10の使用可能時間、即ち、残存寿命は、その後に発生する障害(例えば、音や振動)の許容可能な程度によって決まるため、使用者ごとに異なる。従って、経過時間とはく離形状との関係を予め知ることは、転がり軸受10を適切に管理する上で重要である。
【0037】
次いで、図9に基づいて、転がり軸受10を使用可能なはく離部の周方向長さALを指定することで、観察された時点のはく離部15の周方向長さA0からはく離部15が指定した形状(はく離部15の周方向長さAL)になるまでのToからの経過時間TLを求め、転がり軸受10の残存寿命(即ち、TL−To)を算出する(ステップS15)。
【0038】
このように、残存寿命を、はく離進展速度Vが急激に大きくなる屈曲点Bに達するまでの残り時間から求めれば、急激なはく離進展による想定外の障害発生を防止することができるので好ましい。なお、指定するはく離部15の周方向長さALは、転動体ピッチ間距離dの前後に限定されず、転がり軸受10が使用可能な状態であれば、転動体ピッチ間距離dを越える値(例えば2倍や3倍)に設定することもできる。
【0039】
なお、上述した図4のフローチャートの手順は、各転がり軸受の諸元ごとに、所定の運転条件に対して、軸受寿命として想定される最大はく離部の長さまで予め計算しておき、その計算結果のデータをテーブル化して記憶部33に記憶しておいてもよい。
【0040】
このように、はく離部15の周方向長さAの拡大による転動体荷重Fの増加を考慮した解析により、はく離進展の急上昇、及びはく離の急上昇時期(はく離部15の周方向長さAが転動体ピッチ間距離dの倍数になる時期)を精度よく予測することができる。これにより、転がり軸受10の交換の事前手配などの準備を効率的に行うことが可能となる。
【0041】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、上記実施形態では、FEM解析による応力の変動を2次元で計算しているが、3次元で計算することもできる。この場合、内輪11の軌道面11aに発生する初期のはく離部15の形状が、図10Aに示すように、軸方向に長い長円状であって、上記実施形態のように、周方向長さAの変化としてはく離の進展を近似しない場合であっても、応力の変動を計算することができる。
ここで、3次元で応力の変動を計算する際には、図10Bに示すように、初期のはく離部15の出口部は、はく離部15の周方向中央位置よりも転動体の通過方向となる。
【0042】
また、この場合も、転動体13がはく離部15内に位置した際には、荷重を受けないことから、はく離部15の周方向長さが転動体ピッチ間距離dの倍数となる毎に、転動体荷重Fが階段状に増大し、併せて、はく離進展速度が急激に変化する点は、上記実施形態と同様である。
【0043】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 回転機械に使用される、内外軌道輪と両軌道輪間の転動体を有する転がり軸受の軌道輪のはく離の進展を予測するはく離進展解析方法であって、
はく離状況取得手段によって前記軌道輪のはく離の有無及び形状を取得する工程と、
少なくとも取得された前記はく離部の形状、前記転がり軸受の諸元、及び前記転がり軸受の運転条件に基づいて、前記転動体が前記軌道輪のはく離部の出口部を通過するときの、前記転動体に作用する転動体荷重を進行する前記はく離部の形状を考慮して算出する工程と、
前記はく離部の出口部における転動体荷重に基づいて、進行する前記はく離部の形状を考慮した前記はく離の進展速度を算出する工程と、
前記はく離の進展速度に基づいて、経過時間とはく離部の形状との関係を算出する工程と、
を備える、
転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
この構成によれば、初期はく離発生後に転動体がはく離部の出口部を通過するときの転動体荷重に基づいて、進行するはく離部の形状を考慮してはく離の進展速度を算出するので、転がり軸受の経過時間とはく離部の形状との関係を精度よく予測することができる。
【0044】
(2) 前記はく離部の形状は、前記はく離部の周方向長さであり、
前記はく離部の出口部における転動体荷重の算出工程は、はく離部の周方向長さに応じた力のつり合いを計算することで与えられる、(1)に記載の転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
この構成によれば、はく離部の周方向長さに応じてはく離部の出口部における転動体荷重を算出するので、転がり軸受における経過時間とはく離部の形状との関係を精度よく予測することができる。
【0045】
(3) 前記はく離の進展速度算出工程は、前記はく離部の出口部における転動体荷重を用いた有限要素解析によって得られた前記はく離部の出口部における応力の変動を応力拡大係数範囲としたき裂進展速度によって与えられる、(2)に記載の転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
この構成によれば、Paris則に基づいてはく離の進展速度を解析することができる。
【0046】
(4) 予め指定した前記はく離部の形状になるまでの残存時間を残存寿命として出力する工程をさらに備える、(1)〜(3)のいずれかに記載の転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析方法。
この構成によれば、転がり軸受の残存寿命を精度よく予測することができる。
【0047】
(5) 回転機械に使用される、内外軌道輪と両軌道輪間の転動体を有する転がり軸受の軌道輪のはく離の進展を予測する転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析装置であって、
前記軌道輪のはく離の有無及び形状を取得するはく離状況取得手段と、
少なくとも取得されたはく離部の形状、前記転がり軸受の諸元、前記転がり軸受の運転条件に基づいて、前記転動体が前記軌道輪の前記はく離部の出口部を通過するときの、前記転動体に作用する転動体荷重を進行する前記はく離部の形状を考慮して算出し、前記はく離部の出口部における転動体荷重に基づいて、進行する前記はく離部の形状を考慮した前記はく離の進展速度を求め、前記はく離の進展速度に基づいて、経過時間とはく離部の形状との関係を算出する演算部と、
を備える転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析装置。
この構成によれば、転がり軸受の運転経過時間とはく離部の形状との関係を精度よく予測することができる。
【0048】
(6) 前記転がり軸受の諸元に応じて、前記経過時間と前記はく離部の形状との関係は、予め記憶部に格納されている、(5)に記載の転がり軸受の軌道輪のはく離進展解析装置。
この構成によれば、記憶部に格納された経過時間とはく離部の形状との関係を用いることで、はく離進展解析の演算時間を短縮することができる。
【0049】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0050】
なお、本出願は、2019年2月19日出願の日本特許出願(特願2019−027618)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0051】
1 はく離進展解析装置
10 転がり軸受
11 内輪(軌道輪)
12 外輪(軌道輪)
13 円筒ころ(転動体)
15 はく離部
15a はく離部の出口部のき裂
20 回転機械(機械設備)
21 はく離状況取得手段
31 演算処理部
33 記憶部
A はく離部の周方向長さ
F,F、F 転動体荷重
K 応力拡大係数
t 運転経過時間
V はくり離進展速度(き裂進展速度)
ΔK 応力拡大係数範囲
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B