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特開2021-109515サスペンション制御装置及びサスペンション装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-109515(P2021-109515A)
(43)【公開日】2021年8月2日
(54)【発明の名称】サスペンション制御装置及びサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20210705BHJP
   B60G 17/016 20060101ALI20210705BHJP
【FI】
   B60G17/015 AZYW
   B60G17/016
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-2135(P2020-2135)
(22)【出願日】2020年1月9日
(11)【特許番号】特許第6766278号(P6766278)
(45)【特許公報発行日】2020年10月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】一色 研
(72)【発明者】
【氏名】田上 杏一
(72)【発明者】
【氏名】グエン ノン ヴァン
(72)【発明者】
【氏名】石丸 詠之
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA04
3D301AA05
3D301CA01
3D301DA33
3D301DA35
3D301DA38
3D301DA66
3D301DA67
3D301EA10
3D301EA12
3D301EA14
3D301EA15
3D301EA21
3D301EA22
3D301EA31
3D301EA34
3D301EA35
3D301EA50
3D301EA65
3D301EA76
3D301EA77
3D301EA78
3D301EB13
3D301EB24
3D301EC01
(57)【要約】
【課題】車両のロールとピッチとを同期させることが可能なサスペンションの制御を実現する。
【解決手段】サスペンションの減衰力を制御するサスペンション制御装置において、ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部(891)と、サスペンションの減衰力の制御に参照されるロール姿勢目標制御量を、操舵トルク信号と目標ピッチ角とを参照して算出する目標制御量演算部(894)とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションの減衰力を制御するサスペンション制御装置であって、
ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部と、
サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を、操舵トルク信号と、前記目標ピッチ角とを参照して算出する目標制御量算出部と、
を備えているサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記目標制御量算出部は、前記目標制御量を、前記操舵トルク信号を参照して得られる操舵トルク由来目標制御量と、前記目標ピッチ角とを参照して算出する、請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記目標制御量算出部は、実ピッチ角を更に参照して、前記目標制御量を算出する請求項2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記目標制御量算出部は、前記目標ピッチ角と前記実ピッチ角との差に応じて、前記目標制御量を算出する請求項3に記載のサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記目標ピッチ角算出部は、
前記ロール角信号に対してゲインを乗じることによって前記目標ピッチ角を算出するゲイン乗算部を備えている請求項1から4の何れか1項に記載のサスペンション制御装置。
【請求項6】
前記目標ピッチ角算出部は、
横加速度を参照して前記ゲインの値を変更する第1のゲイン変更部を備えている
請求項5に記載のサスペンション制御装置。
【請求項7】
前記目標ピッチ角算出部は、
前後加速度を参照して前記ゲインの値を変更する第2のゲイン変更部を備えている
請求項5又は6に記載のサスペンション制御装置。
【請求項8】
サスペンションと前記サスペンションの減衰力を制御する制御部とを備えたサスペンション装置であって、
前記制御部は、
ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部と、
サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を、操舵トルク信号と、前記目標ピッチ角とを参照して算出する目標制御量算出部と、
を備えているサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション制御装置及びサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の走行状態の制御において、車両の走行における安全性を高める観点から、ブレーキまたはサスペンションを制御する技術を用いて、車両運動としてロールとピッチとを同期化させる制御が開示されている。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0024504号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献には、ロールとピッチとを同期化させる制御について、具体的な制御方法は開示されていない。
【0005】
本発明の一態様は、車両のロールとピッチとを同期させることが可能なサスペンションの制御を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るサスペンション制御装置は、サスペンションの減衰力を制御するサスペンション制御装置であって、ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部と、サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を、操舵トルク信号と、前記目標ピッチ角とを参照して算出する目標制御量算出部と、を備えている。
【0007】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るサスペンション装置は、サスペンションと前記サスペンションの減衰力を制御する制御部とを備えたサスペンション装置であって、前記制御部は、ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部と、サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を、操舵トルク信号と、前記目標ピッチ角とを参照して算出する目標制御量算出部と、を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、サスペンションの制御によって車両のロールとピッチとを同期させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態1における車両の構成の一例を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態1におけるサスペンション制御部の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態1におけるロール姿勢制御部の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態1におけるロール姿勢目標制御量の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態1における目標ピッチ角算出部の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図6】車両のロール角とピッチ角とのピーク間における時間差が小さい例を示す図である。
図7】車両のロール角とピッチ角とのピーク間の時間差が大きい例を示す図である。
図8】本発明の実施形態2における目標ピッチ角算出部の機能的構成の一例を示すブロック図である。
図9】本発明の実施形態3におけるロール姿勢目標制御量の機能的構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、車両のロールとピッチとを同期させることを可能とするサスペンションの制御を鋭意検討した。その結果、車両のロールとピッチとを同期させることを可能とするようにサスペンションを制御することにより、車両の運転者が感じる車両との一体感を高めることが可能であることを見出した。
【0011】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。まず、本発明の一実施形態に係るサスペンション装置及びサスペンション制御装置が採用される車両について説明する。なお、本明細書において「〜を参照して」との表現には、「〜を用いて」「〜を考慮して」「〜に依存して」等の意味が含まれ得る。また、本明細書における「制御量」の具体例として、電流値、デューティー比、減衰率、減衰比等が挙げられる。
【0012】
[車両の構成]
図1は、本実施形態に係る車両900構成の一例を模式的に示す図である。図1に示すように、車両900は、懸架装置(サスペンション)100、車体200、車輪300、タイヤ310、操舵部材410、ステアリングシャフト420、トルクセンサ430、舵角センサ440、トルク印加部460、ラックピニオン機構470、ラック軸480、エンジン500、ECU(Electronic Control Unit)(制御装置、制御部)600、発電装置700及びバッテリ800を備えている。ここで、懸架装置100及びECU600は、本実施形態に係るサスペンション装置を構成する。
【0013】
タイヤ310が装着された車輪300は、懸架装置100によって車体200に懸架されている。車両900は、4輪車であるため、懸架装置100、車輪300及びタイヤ310は、4輪のそれぞれに設けられている。
【0014】
なお、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪及び右側の後輪のタイヤ及び車輪をそれぞれ、タイヤ310A及び車輪300A、タイヤ310B及び車輪300B、タイヤ310C及び車輪300C、並びに、タイヤ310D及び車輪300Dとも称する。以下、同様に、左側の前輪、右側の前輪、左側の後輪及び右側の後輪にそれぞれ付随した構成を、符号「A」「B」「C」及び「D」を付して表現することがある。
【0015】
懸架装置100は、油圧緩衝装置(アブソーバ)、アッパーアーム及びロアーアームを備えている。また、油圧緩衝装置は、一例として、当該油圧緩衝装置が発生させる減衰力を調整する電磁弁であるソレノイドバルブを備えている。ただし、これは本実施形態を限定するものではなく、油圧緩衝装置は、減衰力を調整する電磁弁として、ソレノイドバルブ以外の電磁弁を用いてもよい。例えば、上記電磁弁として、電磁流体(磁性流体)を利用した電磁弁を備える構成としてもよい。
【0016】
エンジン500には、発電装置700が付設されており、発電装置700によって生成された電力がバッテリ800に蓄積される。
【0017】
運転者の操作する操舵部材410は、ステアリングシャフト420の一端に対してトルク伝達可能に接続されており、ステアリングシャフト420の他端は、ラックピニオン機構470に接続されている。
【0018】
ラックピニオン機構470は、ステアリングシャフト420の軸周りの回転を、ラック軸480の軸方向に沿った変位に変換するための機構である。ラック軸480が軸方向に変位すると、タイロッド及びナックルアームを介して車輪300A及び車輪300Bが転舵される。
【0019】
トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に印加される操舵トルク、換言すれば、操舵部材410に印加される操舵トルクを検出し、検出結果を示すトルクセンサ信号をECU600に提供する。より具体的には、トルクセンサ430は、ステアリングシャフト420に内設されたトーションバーの捩れを検出し、検出結果をトルクセンサ信号として出力する。なお、トルクセンサ430として、ホールIC、MR素子、磁歪式トルクセンサ等の周知のセンサを用いてもよい。
【0020】
舵角センサ440は、操舵部材410の舵角を検出し、検出結果をECU600に提供する。
【0021】
トルク印加部460は、ECU600から供給されるステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを、ステアリングシャフト420に印加する。トルク印加部460は、ステアリング制御量に応じたアシストトルク又は反力トルクを発生させるモータと、当該モータが発生させたトルクをステアリングシャフト420に伝達するトルク伝達機構とを備えている。
【0022】
なお、上述の説明において「トルク伝達可能に接続」とは、一方の部材の回転に伴い他方の部材の回転が生じるように接続されていることを指す。例えば、一方の部材と他方の部材とが一体的に成形されている場合、一方の部材に対して他方の部材が直接的又は間接的に固定されている場合、及び、一方の部材と他方の部材とが継手部材等を介して連動するよう接続されている場合を少なくとも含む。
【0023】
また、上記の例では、操舵部材410からラック軸480までが常時機械的に接続されたステアリング装置を例に挙げたが、これは本実施形態を限定するものではない。例えば、本実施形態に係るステアリング装置は、例えばステア・バイ・ワイヤ方式のステアリング装置であってもよい。ステア・バイ・ワイヤ方式のステアリング装置に対しても本明細書において以下に説明する事項を適用することができる。
【0024】
ECU600は、車両900が備える各種の電子機器を統括制御する。例えば、ECU600は、トルク印加部460に供給するステアリング制御量を調整することにより、ステアリングシャフト420に印加するアシストトルク又は反力トルクの大きさを制御する。
【0025】
また、ECU600は、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブに対して、サスペンション制御量を供給することによって当該ソレノイドバルブの開閉を制御する。この制御を可能とするために、ECU600からソレノイドバルブへ駆動電力を供給する電力線が配されている。
【0026】
また、車両900は、車輪300毎に設けられ各車輪300の車輪速を検出する車輪速センサ320、車両900の横方向の加速度を検出する横Gセンサ330、車両900の前後方向の加速度を検出する前後Gセンサ340、車両900のヨーレートを検出するヨーレートセンサ350、エンジン500が発生させるトルクを検出するエンジントルクセンサ510、エンジン500の回転数を検出するエンジン回転数センサ520、及びブレーキ装置が有するブレーキ液に印加される圧力を検出するブレーキ圧センサ530を備えている。これらの各種センサによる検出結果は、ECU600に供給される。
【0027】
なお、図示は省略するが、車両900は、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐためのシステムであるABS(Antilock Brake System)、加速時等における車輪の空転を抑制するTCS(Traction Control System)、及び、旋回時のヨーモーメント制御又はブレーキアシスト機能等のための自動ブレーキ機能を備えた車両挙動安定化制御システムであるVSA(Vehicle Stability Assist)制御可能なブレーキ装置を備えている。
【0028】
ここで、ABS、TCS、及びVSAは、推定した車体速に応じて定まる車輪速と、車輪速センサ320によって検出された車輪速とを比較し、これら2つの車輪速の値が、所定の値以上相違している場合にスリップ状態であると判定する。ABS、TCS、及びVSAは、このような処理を通じて、車両900の走行状態に応じて最適なブレーキ制御又はトラクション制御を行うことにより、車両900の挙動の安定化を図るものである。
【0029】
また、上述した各種のセンサによる検出結果のECU600への供給、及び、ECU600から各部への制御信号の伝達は、CAN(Controller Area Network)370を介して行われる。
【0030】
[サスペンション制御部]
以下では、参照する図面を替えて、ECU600について具体的に説明する。ECU600は、サスペンション制御部650を備えている。ECU600は、本実施形態のサスペンション制御装置の一態様である。
【0031】
サスペンション制御部650は、CAN370に含まれる各種のセンサ検出結果を参照し、懸架装置100に含まれる油圧緩衝装置が備えるソレノイドバルブ105に対して供給するサスペンション制御量の大きさを決定する。「制御量の大きさを決定する」との処理には、制御量の大きさをゼロに設定する、すなわち、制御量を供給しない場合も含まれる。
【0032】
続いて、図2を参照してサスペンション制御部650についてより具体的に説明する。図2はサスペンション制御部650の機能的構成の一例を示すブロック図である。
【0033】
サスペンション制御部650は、図2に示すように、CAN入力部660、車両状態推定部670、操縦安定性・乗心地制御部680、及び制御量セレクト部690を備えている。
【0034】
CAN入力部660は、CAN370を介して各種の信号を取得する。例えば図2に示すように、CAN入力部660は、以下の信号を取得する(括弧書きは取得元を示す)。
・4輪の車輪速(車輪速センサ320A〜D)
・ヨーレート(ヨーレートセンサ350)
・前後G(前後Gセンサ340)
・横G(横Gセンサ330)
・ブレーキ圧(ブレーキ圧センサ530)
・エンジントルク(エンジントルクセンサ510)
・エンジン回転数(エンジン回転数センサ520)
・舵角(舵角センサ440)
・操舵トルク(トルクセンサ430)
【0035】
車両状態推定部670は、CAN入力部660が取得した各種の信号を参照して車両900の状態を推定する。車両状態推定部670は、推定結果として、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、ロールレート、転舵時ロールレート、及び、加減速時ピッチレートを出力する。
【0036】
車両状態推定部670は、図2に示すように、加減速・転舵時補正量算出部671、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673、及び、状態推定用一輪モデル適用部674を備えている。
【0037】
加減速・転舵時補正量算出部671は、ヨーレート、前後G、4輪の車輪速、ブレーキ圧、エンジントルク、及びエンジン回転数を参照して、車体前後速度、内外輪差比、及び調整ゲインの算出を行い、算出結果を状態推定用一輪モデル適用部674に供給する。
【0038】
加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、前後G、及び横Gを参照して、転舵時ロールレート、及び加減速時ピッチレートを算出する。算出結果は、操縦安定性・乗心地制御部680に供給される。
【0039】
加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、制御量セレクト部690の出力するサスペンション制御量を更に参照する構成としてもよい。また、ロールレート値は、車両900の傾きが所定の微小時間変化しなかった場合の基準値として「0」をとる構成とし、当該基準値からのずれとしてロールレートを表すものであってもよい。さらに、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673は、転舵時ロールレートに±0.5程度の不感帯を設けてもよい。ここで、符号は、例えば、車両900の左側を「+」、右側を「−」とする。
【0040】
状態推定用一輪モデル適用部674は、加減速・転舵時補正量算出部671による算出結果を参照して、各輪に対して状態推定用一輪モデルを適用し、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、及びロールレートを算出する。算出結果は、操縦安定性・乗心地制御部680に供給される。
【0041】
操縦安定性・乗心地制御部680は、スカイフック制御部681、ロール姿勢制御部682、ピッチ姿勢制御部683、及び、バネ下制御部684を備えている。
【0042】
スカイフック制御部681は、路面の凹凸を乗り越える際の車両の動揺を抑制し、乗り心地を高める乗り心地制御(制振制御)を行う。スカイフック制御部681は、一例として、4輪のバネ上速度、4輪のストローク速度、ピッチレート、及びロールレートを参照して、スカイフック目標制御量を決定し、その結果を制御量セレクト部690に供給する。
【0043】
より具体的な一例として、スカイフック制御部681は、バネ上速度に基づいてバネ上−減衰力マップを参照することにより減衰力ベース値を設定する。また、スカイフック制御部681は、設定した減衰力ベース値に対してスカイフックゲインを乗じることによりスカイフック目標減衰力を算出する。そして、スカイフック目標減衰力とストローク速度とに基づいてスカイフック目標制御量を決定する。
【0044】
ロール姿勢制御部682は、転舵時ロールレート、舵角を示す舵角信号、及び、操舵トルクを示す操舵トルク信号を参照してロール姿勢目標制御量を算出することによってロール姿勢制御を行う。算出されたロール姿勢目標制御量は、制御量セレクト部690に供給される。ロール姿勢制御部682の具体的構成については後述する。
【0045】
ピッチ姿勢制御部683は、加減速時ピッチレートを参照してピッチ制御を行い、ピッチ目標制御量を決定し、その結果を制御量セレクト部690に供給する。
【0046】
バネ下制御部684は、4輪の車輪速を参照して、車両900のバネ下の制振制御を行い、バネ下制振制御目標制御量を決定する。決定結果は、制御量セレクト部690に供給される。
【0047】
制御量セレクト部690は、スカイフック目標制御量、ロール姿勢目標制御量、ピッチ目標制御量及びバネ下制振制御目標制御量のうち、最も大きい値を有する目標制御量を選択し、サスペンション制御量として出力する。
【0048】
[ロール姿勢制御部]
以下では、図3を参照して、ロール姿勢制御部682についてより具体的に説明する。図3は、本実施形態におけるロール姿勢制御部682の機能的構成の一例を示すブロック図である。ロール姿勢制御部682は、ロール角信号、実ピッチ角信号、舵角信号、舵角速信号、ロールレート信号及び操舵トルク信号を参照してロール姿勢目標制御量を算出する。
【0049】
ここで、ロール姿勢制御部682が参照するロール角信号としては、例えば、車両900がロール角センサを備える構成とし、当該ロール角センサからの出力をロール角信号として用いる構成とすることができるが、これに限定されない。例えば、車両状態推定部670が算出するロールレートを車両状態推定部670にて積分する構成とし、当該積分により得られるロール角をロール角信号として用いる構成としてもよい。
【0050】
また、ロール姿勢制御部682が参照する実ピッチ角信号としては、例えば、車両900がピッチ角センサを備える構成とし、当該ピッチ角センサからの出力をピッチ角信号として用いる構成とすることができるが、これに限定されない。例えば、車両状態推定部670が算出するピッチレートを車両状態推定部670にて積分する構成とし、当該積分により得られるピッチ角を実ピッチ角信号として用いる構成としてもよい。
【0051】
また、ロール姿勢制御部682が参照する舵角速信号としては、CAN入力部660が出力する舵角信号を例えば操縦安定性・乗心地制御部680にて微分する構成とし、当該微分によって得られる舵角速を舵角速信号として用いる構成としてもよい。
【0052】
ここで、ロール姿勢目標制御量は、サスペンション制御量の候補となる目標制御量、換言すれば、サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量となり得る。例えば、ロール姿勢制御部682が算出するロール姿勢目標制御量は、制御量セレクト部690によって選択された場合、サスペンション制御量となる。したがって、ロール姿勢制御部682はサスペンション制御量を算出する、と表現することもできる。
【0053】
図3に示すように、ロール姿勢制御部682は、舵角目標制御量算出部81、舵角速目標制御量算出部82、ロールレート目標制御量算出部83、操舵トルク目標制御量演算部84、操舵トルク速算出部85、操舵トルク速目標制御量算出部86、操舵トルク由来目標制御量選択部87、ロール姿勢由来目標制御量選択部88、及びロール姿勢目標制御量算出部89を備えている。
【0054】
舵角目標制御量算出部81は、舵角信号の示す舵角を参照して舵角目標制御量を算出する。舵角速目標制御量算出部82は、舵角速信号を参照して舵角速目標制御量を算出する。舵角目標制御量算出部81及び舵角速目標制御量算出部82は、いずれも、舵角信号を参照して、車両900のロールを抑え、車両900の姿勢がよりフラットに近づくような目標制御量を算出する。
【0055】
ロールレート目標制御量算出部83は、加減速・転舵時ピッチ・ロールレート算出部673から供給される転舵時ロールレートを参照してロールレート目標制御量を算出する。
【0056】
操舵トルク目標制御量演算部84は、操舵トルク信号の示す操舵トルク信号を参照して操舵トルク目標制御量を算出する。操舵トルク速算出部85は、操舵トルク信号の示す操舵トルクの時間変化を参照することによって操舵トルク速を算出する。操舵トルク速目標制御量算出部86は、車両900の4輪のそれぞれについて、操舵トルク速算出部85が算出した操舵トルク速を参照して操舵トルク速目標制御量を算出する。
【0057】
このように操舵トルク目標制御量演算部84及び操舵トルク速目標制御量算出部86は、いずれも、操舵トルク信号を直接または間接に参照して、車両900のロールを抑え、車両900の姿勢がよりフラットに近づくような目標制御量を算出する。
【0058】
操舵トルク由来目標制御量選択部87は、操舵トルク目標制御量と操舵トルク速目標制御量とのうち、より高い値を有する目標制御量を、操舵トルク由来目標制御量として選択する。
【0059】
ロール姿勢由来目標制御量選択部88は、舵角目標制御量、舵角速目標制御量、ロールレート目標制御量、及び、操舵トルク由来目標制御量、のうち、より高い値を有する目標制御量を、ロール姿勢由来目標制御量として選択する。本実施形態では、サスペンションの制御量の算出のうち、ロール姿勢由来目標制御量選択部88がロール姿勢由来目標制御量を選択するまでの制御を、「操舵トルク応動制御」とも言う。
【0060】
(ロール姿勢目標制御量算出部)
図4は、本実施形態におけるロール姿勢目標制御量算出部89の機能的構成の一例を示すブロック図である。ロール姿勢目標制御量算出部89は、図4に示されるように、目標ピッチ角算出部891、減算部892、ピッチモーメント演算部893及び目標制御量演算部894を備えている。
【0061】
目標ピッチ角算出部891は、ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する。図5は、本実施形態における目標ピッチ角算出部の機能的構成の一例を示すブロック図である。例えば、目標ピッチ角算出部891は、図5に示されるように、絶対値演算部91及びゲイン乗算部92を備えている。絶対値演算部91は、ロール角信号の示すロール角の絶対値を算出し、ゲイン乗算部92に供給する。ゲイン乗算部92は、絶対値演算部91から供給されたロール角の絶対値に対してゲインを乗じることによって、目標ピッチ角を算出する。
【0062】
図4に示すように、ロール姿勢目標制御量算出部89は、実ピッチ角を更に参照して目標制御量を算出する。より具体的には、ロール姿勢目標制御量算出部89は、目標ピッチ角と実ピッチ角との差に応じて、目標制御量を算出する。
【0063】
減算部892は、目標ピッチ角算出部891が算出した目標ピッチ角から実ピッチ角を引いた差を算出する。
【0064】
ピッチモーメント演算部893は、減算部892が算出したピッチ角の差に応じた車両900のピッチモーメントを演算する。ピッチ角の差に応じた車両900のピッチモーメントを演算することによって、実ピッチ角を参照せずにピッチモーメントを演算した場合に比べて、姿勢制御の観点においてより好適なピッチモーメントを演算することができる。
【0065】
目標制御量演算部894は、ピッチモーメント演算部893が演算したピッチモーメントと、ロール姿勢由来目標制御量選択部88が選択したロール姿勢由来目標制御量とを参照して目標制御量を演算する。この演算により求められる目標制御量とは、前述したロール姿勢目標制御量であり、前述したロール姿勢制御部682の出力値である。
【0066】
ここで、目標制御量演算部894は、ロール姿勢由来目標制御量が操舵トルク由来目標制御量である場合には、例えば、ロール姿勢由来目標制御量としての操舵トルク由来目標制御量を受け付け、受け付けた操舵トルク由来目標制御量にピッチモーメントを加算してロール姿勢目標制御量を算出する。
【0067】
操舵トルク由来目標制御量は、前述したように、操舵トルク信号を参照して得られる制御量である。また、ロール姿勢目標制御量は、サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量である。このように、目標制御量演算部894は、当該目標制御量を、操舵トルク信号と目標ピッチ角とを参照して算出する。たとえば、目標制御量演算部894は、ロール姿勢目標制御量を、操舵トルク信号を参照して得られる操舵トルク由来目標制御量と、目標ピッチ角とを参照して算出することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、ロール姿勢由来目標制御量が操舵トルク由来目標制御量であり、ロール姿勢由来目標制御量とピッチモーメントとを参照してロール姿勢目標制御量を算出する制御を、「操舵トルク参照制御」とも言う。
【0069】
ここで、本実施形態によるサスペンションの制御を、運転者の操舵からより具体的に説明する。
【0070】
まず、運転手が操舵部材410を旋回させると、運転手による操舵部材410の旋回動作により、操舵トルクが発生し、操舵トルク信号が発生する。発生した操舵トルク信号に応じた舵角となるように車輪300A及び車輪300Bが転舵され、車両900は、舵角に応じて旋回する。
【0071】
車両900の旋回時では、ロール運動によるアブソーバ(前輪側アブソーバ及び後輪側アブソーバ)の変位速度に応じて減衰力が発生し、伸び側の減衰力と縮み側の減衰力との差に応じて車軸を押し下げる力が発生する。また、前後輪の減衰力差によりピッチモーメントが発生する。したがって、車両900の旋回時には、ロール運動とピッチ運動とが複合した運動が車両900に発生する。車両900の運動は、前述したように、上述した各種のセンサによって種々の状態量として検出される。検出結果は、前述したようにCAN入力部660に入力され、前述した懸架装置100の動作の制御に用いられる。
【0072】
本実施形態では、ロール角とピッチ角とを参照して旋回感覚をより良好にするための制御を実施することができる。例えば、車両900におけるロール角のピークに対するピッチ角のピークの時間差をより小さくなるように、サスペンションを制御する。この制御により、車両900の運転者が良好な旋回感覚を感じることができる。
【0073】
より具体的には、目標制御量演算部894は、車両900のロール角と、ピッチモーメント演算部893が演算したピッチモーメントとを参照する。そして、車両900におけるロール角の位相と当該ピッチモーメントから求められるピッチ角の位相との差分をより小さくするロール姿勢目標制御量を算出する。
【0074】
ここで、目標制御量演算部894によるロール姿勢目標制御量の算出において、ロール角の位相とピッチ角の位相との差は、運転者が良好な旋回感覚を得るのに十分に小さい範囲において、適宜に設定することができる。当該差分は、運転者が良好な旋回感覚を得る観点から、小さいほど好ましく、例えば、1/4周期以下であることが好ましく、1/8周期以下であることがより好ましく、ゼロであることが最も好ましい。なお、「周期」とは、ロール角の周期であってもよいし、ピッチ角の周期であってもよいが、上記の観点から、ロール角の周期及びピッチ角の周期のうちのより小さい周期であることが好ましい。
【0075】
図6は、車両900のロール角とピッチ角とのピーク間における時間差が小さい例を示す図である。図6に示される位相差であれば、車両900の運転者は、一般に良好な旋回感覚を得ることができる。なお、ピーク間の時間差とは、時間軸において最も近いロール角のピークとピッチ角のピークとの間の時間差である。当該時間差を位相差と言い、当該時間差がゼロであるときに、ロール角とピッチ角とは同期する、と言う。
【0076】
目標制御量演算部894は、ロール角の位相とピッチ角の位相との差分を十分に小さくするロール姿勢目標制御量を演算する。そして、演算したロール姿勢目標制御量を参照し、ロール姿勢由来目標制御量選択部88で選択されたロール姿勢由来目標制御量に基づいて、ロール姿勢目標制御量を算出する。例えば、目標制御量演算部894は、ロール姿勢由来目標制御量選択部88で選択されたロール姿勢由来目標制御量に上記のロール姿勢目標制御量を加算して、ロール姿勢目標制御量を算出する。なお、上記のような、ロール角の位相と前述のピッチモーメントに基づくピッチ角の位相との差を小さくする上記の制御を「位相差参照制御」とも言う。
【0077】
一方で、車両900のロール角とピッチ角とのピーク間の時間差が大きいと、車両900の運転者は、一般に良好な旋回感覚を得られない。図7は、車両900のロール角とピッチ角とのピーク間の時間差が大きい例を示す図である。図7に示される位相差では、車両900の運転者は、例えば自身が行う操舵とそれにより得られる旋回感覚との間に何等かの違和感を得ることがある。このようなロール角の位相とピッチ角の位相との差分に基づいて演算されたロール姿勢目標制御量を、ロール姿勢由来目標制御量選択部88で選択されたロール姿勢由来目標制御量に加算しても、車両900の運転者は、良好な旋回感覚を得られない。
【0078】
(操舵トルク応動制御の作用効果)
本実施形態では、操舵トルク由来目標制御量選択部87は、操舵トルク目標制御量と操舵トルク速目標制御量とのうち、より高い値を有する目標制御量を、操舵トルク由来目標制御量として選択する。一般に、操舵トルク信号の示すトルクよりも、当該トルクの時間変化であるトルク速のほうが信号の立ち上がりが早いという傾向がある。同様に、舵角信号の示す舵角よりも、当該舵角の時間変化である舵角速のほうが信号の立ち上がりが早いという傾向がある。そして、ロール姿勢由来目標制御量選択部88が、舵角目標制御量、舵角速目標制御量、ロールレート目標制御量、及び、操舵トルク由来目標制御量、のうち、より高い値を有する目標制御量を、ロール姿勢由来目標制御量として選択する。よって、本実施形態によれば、操舵状況の変化に対し機敏に応答した、より適切なサスペンション制御を行うことができる。
【0079】
また、ロール姿勢制御部682は、操舵トルク信号と、舵角信号とを参照して、サスペンション制御量の候補となるロール姿勢由来目標制御量を算出するので、サスペンションの減衰力の制御を操舵状況に応じて適切に行うことができる。
【0080】
また、ロール姿勢制御部682は、転舵方向とは反対側のサスペンションの減衰力が大きくなるように操舵トルク由来目標制御量を算出することが可能である。この場合、操舵状況に応じた良好な乗り心地と車両900の安定性とを実現することができる。
【0081】
(位相差参照制御の作用効果)
車両900の旋回時では、車両900にロール運動とピッチ運動とが複合した運動が発生する。この場合に左右、前後の減衰力差を適切に設定することにより、ロール角に対するピッチ角のゲイン特性を設定することができる。また、ロールレートとアブソーバ変位速度とを適切に設定することにより、ロール角に対するピッチ角の位相差を設定することができる。さらに、これらの運動の位相を最適に設定又は制御することにより、運転者の旋回感覚を向上させることができ、その結果、運転者による車両900の挙動が認識し易くなる。なお、旋回感覚とは、車両の挙動の変化を運転者の五感で感じるものである。
【0082】
本実施形態によれば、ロール角の周期とピッチ角の周期との位相差がより小さくなるように、前輪側アブソーバ及び後輪側アブソーバの減衰特性が設定される。その結果、車両900におけるロール運動とピッチ運動とを複合した運動の位相が最適になり、過渡的な運動でのロール運動とピッチ運動との一体感のある車両挙動を実現することが可能となる。よって、ドライバの運転負担を軽減することができる。
【0083】
(操舵トルク参照制御の作用効果)
前述したように、運転手が操舵部材410で車両900を操舵すると、操舵開始時点で操舵トルクが発生し、操舵トルク信号が発生する。発生した操舵トルク信号は、操舵トルク由来目標制御量として、ロール姿勢目標制御量算出部89で参照される。目標制御量演算部894は、前述のロール姿勢由来目標制御量選択部88が選択したロール姿勢由来目標制御量とピッチモーメントとを参照してロール姿勢目標制御量を算出する。
【0084】
本実施形態によれば、運転者の旋回感覚を高める目標制御量であるロール姿勢目標制御量は、操舵トルク信号が検出された時には用意される。したがって、本実施形態では、運転者が操舵部材410で実際に操舵し始め、車両900が旋回運動を行う前から、ロール姿勢目標制御量が用意され、サスペンションの制御に供される。そして、操舵部材410の操舵量が大きくなるにつれて、ロール姿勢目標制御量によるサスペンションの制御効果が強まる。
【0085】
ロール姿勢目標制御量は、操舵トルクの発生時から増加する。このように、本実施形態では、操舵部材410の切り始めから、運転者の旋回感覚を高めるようにサスペンションが制御される。よって、運転者の旋回感覚が操舵部材410の操舵操作の当初から高められ、運転者が感じる車両900との一体感がますます高められる。
【0086】
一方で、車両900が旋回運動を開始したことに起因する車両900のロール運動の発生を検出したことを条件にする場合のように、車両900の状態に応じて運転者の旋回感覚を高める制御を行った場合では、運転者が操舵部材410の操舵動作を開始してから所定の時間経過後に、ロール姿勢目標制御量によるサスペンション制御が実質的に作用する。したがって、車両900の状態に応じて運転者の旋回感覚を高める制御を行う場合では、操舵部材410の旋回動作が車両900の挙動に実質的に反映され始めた後に、運転者の旋回感覚の向上が高められる。旋回動作から旋回感覚の向上までの間では、旋回感覚を高めるサスペンション制御は反映されず、この間では、運転者が感じる車両900との一体感は高められない。
【0087】
上記の説明から明らかなように、本実施形態は、ロール姿勢目標制御量を常に算出しつつ、操舵トルクに由来する別の目標制御量を常に加算する形態、とも言える。
【0088】
一般に、操舵トルクを入力した後では、車両にヨー運動が発生し、次いでロール運動及びピッチ運動が発生する。本実施形態では、車両挙動を表すロール関連値やピッチ関連値よりも早い、運転者が操舵することにより算出された操舵トルクを用いてロール姿勢目標制御量を算出する。このため、車両挙動を表すロール関連値あるいはピッチ関連値に応じてロール姿勢の制御を行う場合と比べて、より早く、具体的には操舵トルクの入力が車両挙動に反映され始めるのとほぼ同時に、運転者の旋回感覚を高める制御を反映させることができる。このように、本実施形態では、サスペンションの制御によって車両のロールとピッチとを同期させることが可能であり、また、運転者との一体感を高めることができる。
【0089】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0090】
本実施形態は、目標ピッチ角算出部891に代えて目標ピッチ角算出部991を備える点で実施形態1と異なる。図8は、本実施形態における目標ピッチ角算出部991の機能的構成の一例を示すブロック図である。目標ピッチ角算出部991は、ゲイン乗算部92に代えてゲイン乗算部95を備える。また、目標ピッチ角算出部991は、ゲイン設定部96をさらに備える。これらの点において、目標ピッチ角算出部991は、実施形態1における目標ピッチ角算出部891と異なる。ゲイン乗算部92及びゲイン設定部96は、ゲイン変更部を構成している。
【0091】
ゲイン設定部96は、車両900の横方向の加速度を示す横G信号、及び車両900の前後方向の加速度を示す前後G信号を参照してゲインの値を設定する。ゲイン乗算部95は、ゲイン設定部96が設定したゲイン値を参照し、当該ゲイン値に応じて、乗じるべきゲインを変更する。そして、ゲイン乗算部95は、絶対値演算部91が演算したロール角の絶対値に、変更したゲインを乗じて、目標ピッチ角を算出する。
【0092】
路面に凹凸が存在する場合、当該凹凸は、直接的に、又は操舵トルク等を介して間接的に、車両900の横G及び前後Gを変動させる。したがって、目標ピッチ角の算出に車両900の横G及び前後Gを参照することは、路面状況を適切に反映するサスペンションの制御を実施する観点から有利である。
【0093】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0094】
本実施形態は、ロール姿勢制御部682が操舵トルク目標制御量演算部84、操舵トルク速算出部85、操舵トルク速目標制御量算出部86及び操舵トルク由来目標制御量選択部87を備えておらず、ロール姿勢目標制御量算出部89における目標制御量演算部894が操舵トルク信号を参照するように構成されている以外は、前述した実施形態1と同様である。図9は、本発明の実施形態3におけるロール姿勢目標制御量算出部の機能的構成の一例を示すブロック図である。
【0095】
目標制御量演算部894は、ロール姿勢由来目標制御量およびピッチモーメントを参照するとともに、操舵トルク信号を参照する。たとえば、目標制御量演算部894は、ロール姿勢由来目標制御量およびピッチモーメントを参照して第一の目標制御量を算出する。そして、目標制御量演算部894は、操舵トルク信号を参照し、第一の目標制御量を補正して第二の目標制御量を算出する。そして、目標制御量演算部894は、算出した第二の目標制御量をロール姿勢目標制御量として出力する。
【0096】
操舵トルク信号を参照する目標制御値の補正は、例えば以下のように行われる。目標制御量演算部894は、操舵トルク信号を参照してゲインの値を設定する。例えば、操舵トルク信号の値(例えば単位時間当たりの変位量)が大きければ、それに応じてゲイン値も大きくする。目標制御量演算部894は、当該ゲイン値に応じて乗じるべきゲインを変更し、変更したゲインを第一の目標制御量に乗じて、第二の目標制御量を算出する。なお、ゲインは、第一の目標制御量が算出される前のロール姿勢由来目標制御量に乗じられてもよいし、ピッチモーメントに乗じられてもよいし、その両方に乗じられてもよい。
【0097】
あるいは、本実施形態では、操舵トルク信号の閾値が設定されていてもよい。例えば、目標制御量演算部894は、操舵トルク信号が当該閾値を超える場合に、ロール姿勢由来目標制御量にピッチモーメントを加算する処理を行ってもよいし、上記の操舵トルク信号に応じたゲインを乗じる処理を行ってもよい。
【0098】
本実施形態によれば、運転者による操舵動作に応じて操舵トルク参照制御を実行することが可能となる。例えば、より強い操舵動作に対してより強く操舵トルク参照制御を実行することが可能である。したがって、運転者の旋回感覚に合う車両900との一体感を運転者に提供する観点からより一層効果的である。
【0099】
本実施形態では、操舵トルク信号の参照に加えて、車両900の他の状態量をさらに参照してもよい。たとえば、本実施形態では、操舵トルク信号に加えて、車両900の横G信号及び前後G信号をさらに参照してもよい。横G信号及び前後G信号は、第一の目標制御量または第二の目標制御量の算出において前述した実施形態2と同様に参照すればよい。このような他の状態量をさらに参照することにより、上記の本実施形態の効果に加えて前述の実施形態2の効果をさらに発現させることができる。
【0100】
〔ソフトウェアによる実現例〕
車両900の制御ブロック(例えばロール姿勢目標制御量算出部89)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0101】
後者の場合、車両900は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。
【0102】
上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路等を用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)等をさらに備えていてもよい。
【0103】
また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワーク及び放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0104】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0105】
例えば、前述の実施形態において、操舵トルク信号を参照するにあたり、操舵トルク信号の閾値を設定してもよい。例えば、操舵部材410に設定されている遊びよりも大きな任意の移動量で発生する操舵トルク信号を閾値としてもよい。この構成によれば、運転手が操舵部材410を実質的に操舵操作した場合に本実施形態の制御が実施されるので、本実施形態における過剰な制御の発生を抑制することが可能である。
【0106】
また、前述の実施形態において、ECU600は取得する車両900の状態量の種類に応じて、ロール姿勢由来目標制御量に特定の目標制御量を選択する構成としてもよい。例えば、ECU600が操舵トルク信号を受け付けた場合に、ロール姿勢由来目標制御量選択部88は、操舵トルク信号を参照して、ロール姿勢由来目標制御量として操舵トルク由来目標制御量を選択する構成とすることができる。
【0107】
一例を挙げると、一般に、路面状態によっては、操舵トルク信号由来の目標制御量を出力せずに、舵角信号由来の目標制御量を出力することにより、より快適な乗り心地を実現できる場合がある。取得する車両900の状態量の種類に応じて、ロール姿勢由来目標制御量に特定の目標制御量を選択する構成をとることによって、路面状態に応じて、運転者の意図により、より好適な目標制御量を出力することができる。したがって、この構成によれば、より快適な乗り心地を実現することができる。
【0108】
前述の実施形態において、旋回感覚を高めるための制御は、ロール角の位相とピッチ角の位相の差を小さくさせる制御に限定されない。例えば、当該位相差以外にも、ロール角とピッチ角との関係を適宜に制御することによって運転者の旋回感覚が高められることが知られている。前述の実施形態において、そのようなロール角とピッチ角との関係となるようにロール姿勢目標制御量を算出してもよい。
【0109】
例えば、ロール時の車両における前後の傾斜量を、旋回加速度によらず前下がりに設定することにより、運転者の旋回感覚が良好になることが知られている。この場合のロール角とピッチ角との関係は、以下の式で表される。なお、式中、θはピッチ角であり、φはロール角である。また、下記式では、前下がりのピッチ角を正とする。
【0110】
【数1】
【0111】
また、ロール時の車両におけるロール角とピッチ角に、常に位相差がない状態であると、旋回感覚が良好になることが知られている。この場合、ロール角とピッチ角とは、比例の関係にあると考えられ、以下の式で表される。式中、krpは、比例定数である。
【0112】
【数2】
【0113】
また、ロール角速度とピッチ角速度の比率が一定であると、旋回感覚が良好になることが知られている。この場合は、下記式で表される。式中、θドットはピッチ角速度を表し、φドットはロール角速度を表す。
【0114】
【数3】
【0115】
また、前述の実施形態において、ロール姿勢目標制御量算出部89は、実ピッチ角を参照せず、目標ピッチ角算出部891が算出した目標ピッチ角及びロール角を参照してロール姿勢目標制御量を算出してもよい。この構成によれば、ロール姿勢目標制御量を算出する制御の負荷をより軽減することが可能となる。
【0116】
なお、前述した実施形態において、車両900の状態量は、各種センサによる計測値(実測値)であってもよいし、推定値であってもよい。
【0117】
また、前述した実施形態において、本実施形態の効果が得られる範囲において、運転者の旋回感覚を高めるための他の制御を併行してもよい。例えば、ロール運動とピッチ運動とを複合した運動の位相を最適にするに、車両900にロールが発生した場合に、前輪側アブソーバにおける伸び側の減衰力と縮み側の減衰力との差が、後輪側アブソーバにおける伸び側の減衰力と縮み側の減衰力との差よりも大きくする制御を、前述したサスペンションの制御においてさらに追加してもよい。
【0118】
また、前述した実施形態2において、ゲイン変更部は、横G及び前後Gの一方又は両方を用いてもよい。さらに、横G及び前後G以外の他の状態量に基づいてゲイン値を設定してもよい。
【0119】
あるいは、前述した実施形態2において、本実施形態の効果が得られる範囲において、車両900の状態に応じた特定の制御を併行してもよい。例えば、操舵時のロールに関する快適性が重要となる運動領域、例えば、横加速度が0.2G(Gは重力加速度を表わす)又は0.2Gを含む所定範囲内となる運動領域において、サスペンションストローク速度に対する前輪側アブソーバ及び後輪側アブソーバの減衰係数を、縮み側から伸び側に線形的に増加させてもよい。あるいは、当該線形的な増加をステップ的な増加に近似させて、当該運動領域における当該減衰係数を増加させてもよい。
【0120】
〔まとめ〕
本発明の実施形態に係るサスペンション制御装置は、サスペンションの減衰力を制御する。当該サスペンション制御装置は、ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部(891)と、サスペンションの減衰力を制御する際に参照されるロール姿勢目標制御量を、操舵トルク信号と、前記目標ピッチ角とを参照して算出する目標制御量算出部(例えば目標制御量演算部894)とを備えている。この構成によれば、車両のロールとピッチとを同期させることが可能なサスペンションの制御を実施することが可能である。よって、上記の構成によれば、運転者が感じる車両との一体感を高めることが可能である。
【0121】
目標制御量算出部は、ロール姿勢目標制御量を、操舵トルク信号を参照して得られる操舵トルク由来目標制御量と、目標ピッチ角とを参照して算出してもよい。この構成によれば、ロール姿勢由来目標制御量である操舵トルク由来目標制御量を算出する際の操舵トルク信号の参照を、ロール姿勢目標制御量の算出時における操舵トルク信号の参照に代えて適用することができ、操舵トルク信号の参照に係る処理の重複が防止される。よって、この構成は、操舵状況の変化に対し機敏に応答したサスペンション制御を行う観点から、より一層効果的である。
【0122】
目標制御量算出部は、実ピッチ角を更に参照して目標制御量を算出してもよい。この構成によれば、目標ピッチ角のうち、実際のピッチ角と重複しない量のピッチ角に応じて、ロール姿勢目標制御量を算出することが可能となる。よって、上記の構成は、運転者の旋回感覚を高めるためのサスペンションの減衰力の制御の精度を高める観点からより効果的である。さらに、目標制御量算出部は、目標ピッチ角と実ピッチ角との差に応じて目標制御量を算出してもよい。この構成は、上記の観点からより一層効果的である。
【0123】
目標ピッチ角算出部は、ロール角信号に対してゲインを乗じることによって目標ピッチ角を算出するゲイン乗算部を備えていてもよい。この構成によれば、ロール角とピッチ角との関係を利用して目標ピッチ角を簡易に算出することができ、制御の負荷増加を抑制する観点からより一層効果的である。
【0124】
目標ピッチ角算出部は、横加速度を参照して前記ゲインの値を変更する第1のゲイン変更部を備えていてもよい。また、目標ピッチ角算出部は、前後加速度を参照してゲインの値を変更する第2のゲイン変更部を備えていてもよい。これらの構成は、サスペンションの制御において、路面状況を適切に反映させる観点からより一層効果的である。
【0125】
本発明の実施形態に係るサスペンション装置は、サスペンション(懸架装置100)と当該サスペンションの減衰力を制御する制御部(ECU600)とを備える。そして、当該制御部は、ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部と、サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を、操舵トルク信号と、前記目標ピッチ角とを参照して算出する目標制御量算出部とを備えている。この構成によれば、車両のロールとピッチとを同期させることが可能なサスペンションの制御を実施することが可能であり、よって、運転者が感じる車両との一体感を高めることが可能である。
【符号の説明】
【0126】
81 舵角目標制御量算出部
82 舵角速目標制御量算出部
83 ロールレート目標制御量算出部
84 操舵トルク目標制御量演算部
85 操舵トルク速算出部
86 操舵トルク速目標制御量算出部
87 操舵トルク由来目標制御量選択部
88 ロール姿勢由来目標制御量選択部
89 ロール姿勢目標制御量算出部
91 絶対値演算部
92、95 ゲイン乗算部
96 ゲイン設定部
100 懸架装置
105 ソレノイドバルブ
200 車体
300、300A、300B、300C、300D 車輪
310、310A、310B、310C、310D タイヤ
320、320A 車輪速センサ
330 横Gセンサ
340 前後Gセンサ
350 ヨーレートセンサ
370 CAN
410 操舵部材
420 ステアリングシャフト
430 トルクセンサ
440 舵角センサ
460 トルク印加部
470 ラックピニオン機構
480 ラック軸
500 エンジン
510 エンジントルクセンサ
520 エンジン回転数センサ
530 ブレーキ圧センサ
600 ECU
650 サスペンション制御部
660 CAN入力部
670 車両状態推定部
671 転舵時補正量算出部
673 ロールレート算出部
674 状態推定用一輪モデル適用部
680 乗心地制御部
681 スカイフック制御部
682 ロール姿勢制御部
683 ピッチ姿勢制御部
684 バネ下制御部
690 制御量セレクト部
700 発電装置
800 バッテリ
891、991 目標ピッチ角算出部
892 減算部
893 ピッチモーメント演算部
894 目標制御量演算部
900 車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2020年6月8日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションの減衰力を制御するサスペンション制御装置であって、
ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部と、
サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を、操舵トルク信号を参照して得られる操舵トルク由来目標制御量と、前記目標ピッチ角と実ピッチ角との差に応じて算出されるピッチモーメントとを加算して算出する目標制御量算出部と、
を備えているサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記目標制御量算出部は、実ピッチ角を更に参照して、前記目標制御量を算出する請求項に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記目標制御量算出部は、前記目標ピッチ角と前記実ピッチ角との差に応じて、前記目標制御量を算出する請求項に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記目標ピッチ角算出部は、
前記ロール角信号に対してゲインを乗じることによって前記目標ピッチ角を算出するゲイン乗算部を備えている請求項1からの何れか1項に記載のサスペンション制御装置。
【請求項5】
前記目標ピッチ角算出部は、
横加速度を参照して前記ゲインの値を変更する第1のゲイン変更部を備えている
請求項に記載のサスペンション制御装置。
【請求項6】
前記目標ピッチ角算出部は、
前後加速度を参照して前記ゲインの値を変更する第2のゲイン変更部を備えている
請求項又はに記載のサスペンション制御装置。
【請求項7】
サスペンションと前記サスペンションの減衰力を制御する制御部とを備えたサスペンション装置であって、
前記制御部は、
ロール角信号を参照して、目標ピッチ角を算出する目標ピッチ角算出部と、
サスペンションの減衰力を制御する際に参照される目標制御量を、操舵トルク信号を参照して得られる操舵トルク由来目標制御量と、前記目標ピッチ角と実ピッチ角との差に応じて算出されるピッチモーメントとを加算して算出する目標制御量算出部と、
を備えているサスペンション装置。