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特開2021-133491ガラス研磨加工方法およびガラス研磨加工装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-133491(P2021-133491A)
(43)【公開日】2021年9月13日
(54)【発明の名称】ガラス研磨加工方法およびガラス研磨加工装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 7/24 20060101AFI20210816BHJP
   B24B 55/02 20060101ALI20210816BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20210816BHJP
【FI】
   B24B7/24 A
   B24B55/02 B
   C03C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-34375(P2020-34375)
(22)【出願日】2020年2月28日
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】郭 建▲麗▼
(72)【発明者】
【氏名】松澤 雄介
(72)【発明者】
【氏名】三村 秀和
【テーマコード(参考)】
3C043
3C047
4G059
【Fターム(参考)】
3C043BB06
3C043CC01
3C043CC13
3C043DD02
3C043DD04
3C043DD05
3C047FF03
3C047GG11
4G059AA11
4G059AC03
(57)【要約】
【課題】加工液の管理が容易で、コストを抑えることができ、加工後の加工物表面の砥粒の洗浄も簡易化でき、環境への負荷やコスト高を抑えることが可能なガラス研磨加工方法およびガラス研磨加工装置を提供せんとする。
【解決手段】アクリル製のツール2と、ガラス製のワーク9とアクリル製のツール2との間に、純水またはpHを調整した水溶液であって砥粒を含有しない加工液8を供給する加工液供給手段3と、ワーク9とツール2を、互いに加圧接触させる加圧手段4と、加圧手段4による加圧接触状態で、ワーク9とツール2を相対運動させて研磨加工を行う相対動作手段5とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの研磨加工方法であって、
ガラス製のワークとアクリル製のツールとの間に、純水またはpHを調整した水溶液であり、砥粒を含有しない加工液を供給しながら、互いに加圧接触させた状態で相対運動させて研磨加工を行うことを特徴とする、ガラス研磨加工方法。
【請求項2】
前記ツールをアクリル定盤とし、回転する該アクリル定盤の表面に対し、前記ガラス製のワークを加圧接触させて平坦に研磨加工する、請求項1記載のガラス研磨加工方法。
【請求項3】
前記ワークを、前記アクリル定盤の回転軸と平行な軸を中心に回転させながら、前記アクリル定盤の表面に対して加圧接触させる、請求項2記載のガラス研磨加工方法。
【請求項4】
前記加工液を、回転する前記アクリル定盤の表面に供給する、請求項2又は3記載のガラス研磨加工方法。
【請求項5】
アクリル製のツールと、
ガラス製のワークとアクリル製のツールとの間に、純水またはpHを調整した水溶液であって砥粒を含有しない加工液を供給する加工液供給手段と、
前記ワークと前記ツールを、互いに加圧接触させる加圧手段と、
前記加圧手段による加圧接触状態で、前記ワークと前記ツールを相対運動させて研磨加工を行う相対動作手段と、
を備えるガラス研磨加工装置。
【請求項6】
前記ツールがアクリル定盤であり、
前記相対動作手段が、前記アクリル定盤を回転する回転手段を備え、
回転するアクリル定盤の表面に対し、前記ガラス製のワークを加圧接触させて平坦に研磨加工する、請求項5記載のガラス研磨加工装置。
【請求項7】
前記相対動作手段が、前記ワークを、前記アクリル定盤の回転軸と平行な軸を中心に回転させる第2の回転手段を備え、
前記ワークを回転させながら、前記アクリル定盤の表面に対して加圧接触させて平坦に研磨加工する、請求項6記載のガラス研磨加工装置。
【請求項8】
前記加工液供給手段が、前記加工液を回転する前記アクリル定盤の表面に供給してなる、請求項6又は7記載のガラス研磨加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス研磨加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、波長が短い光を用いた光学分野の発展が著しい。次世代半導体露光装置のEUVリソグラフィーでは、波長13.5nmのEUV(Extreme Ultraviolet)光を用い、さらなる集積回路の微細化を目指している。また、SPring8等の大型放射光施設においては、波長0.1nm以下の硬X線を用い、原子・分子レベルの分解能で物質の構造、組成、化学状態を解析している。X線・EUV領域において、優れた光学システムや光学機器を開発するためには、光源性能を損なわない高精度な光学素子(ミラー、レンズ)が不可欠である。
【0003】
このような光学素子に用いるガラス材料の研磨加工には、酸化セリウムやコロイダルシリカに代表される無機材料を遊離砥粒として用いた研磨加工技術が広く用いられている(例えば、特許文献1参照。)。これらの材料は良好な表面粗さを達成することができるが、密度が大きいため加工液中での分散性に欠け、加工の間、撹拌を続ける必要がある。また、加工後に加工物表面に砥粒が残存し、容易に洗浄できないという問題もある。
【0004】
これに対し、本発明者らは既に、アクリルやウレタンなどの有機粒子を遊離砥粒として用いる研磨加工技術であるOrganic Abrasive Machining(OAM法)を開発している(特許文献2を参照。)。有機粒子を用いるメリットは、水と比重が近いため粒子の分散性が非常に高い、工作物と比べて柔らかく加工傷が付きにくい、有機溶剤に溶解するため加工後の除去が容易、安価で入手し易いといった点が挙げられる。上記OAM法では、アクリル粒子を用いて100μm空間分解能の修正研磨加工が達成されている。
【0005】
しかしながら、このような遊離砥粒を用いた研磨加工技術は、加工中の遊離砥粒の濃度、状態などを常に一定に保つ必要があり、管理が難しく、コスト高になるという課題がある。また、加工後に加工物表面の砥粒の洗浄も必要であり、環境への負荷やコスト高の原因にもなるといった課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−160680号公報
【特許文献2】特許第6446590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、加工液の管理が容易で、コストを抑えることができ、加工後の加工物表面の砥粒の洗浄も簡易化でき、環境への負荷やコスト高を抑えることが可能なガラス研磨加工方法およびガラス研磨加工装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、有機粒子を遊離砥粒として用いた上述のOAM法のメカニズムの探査を進める中で、アクリル材料が砥粒の存在しない純水の下でガラス面を精度よく研磨することを発見し、アクリル材料を加工ツールとして用いることで、砥粒を含まない純水のみからなる加工液でガラスを精度よく研磨加工できること、とくに大面積を効率よく平坦に研磨できること、これにより上記した遊離砥粒を用いた研磨加工技術の課題(加工液の管理、コスト、環境負荷などの課題)も解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) ガラスの研磨加工方法であって、ガラス製のワークとアクリル製のツールとの間に、純水またはpHを調整した水溶液であり、砥粒を含有しない加工液を供給しながら、互いに加圧接触させた状態で相対運動させて研磨加工を行うことを特徴とする、ガラス研磨加工方法。
【0010】
(2) 前記ツールをアクリル定盤とし、回転する該アクリル定盤の表面に対し、前記ガラス製のワークを加圧接触させて平坦に研磨加工する、(1)記載のガラス研磨加工方法。
【0011】
(3) 前記ワークを、前記アクリル定盤の回転軸と平行な軸を中心に回転させながら、前記アクリル定盤の表面に対して加圧接触させる、(2)記載のガラス研磨加工方法。
【0012】
(4) 前記加工液を、回転する前記アクリル定盤の表面に供給する、(2)又は(3)記載のガラス研磨加工方法。
【0013】
(5) アクリル製のツールと、ガラス製のワークとアクリル製のツールとの間に、純水またはpHを調整した水溶液であって砥粒を含有しない加工液を供給する加工液供給手段と、前記ワークと前記ツールを、互いに加圧接触させる加圧手段と、前記加圧手段による加圧接触状態で、前記ワークと前記ツールを相対運動させて研磨加工を行う相対動作手段と、を備えるガラス研磨加工装置。
【0014】
(6) 前記ツールがアクリル定盤であり、前記相対動作手段が、前記アクリル定盤を回転する回転手段を備え、回転するアクリル定盤の表面に対し、前記ガラス製のワークを加圧接触させて平坦に研磨加工する、(5)記載のガラス研磨加工装置。
【0015】
(7) 前記相対動作手段が、前記ワークを、前記アクリル定盤の回転軸と平行な軸を中心に回転させる第2の回転手段を備え、前記ワークを回転させながら、前記アクリル定盤の表面に対して加圧接触させて平坦に研磨加工する、(6)記載のガラス研磨加工装置。
【0016】
(8) 前記加工液供給手段が、前記加工液を回転する前記アクリル定盤の表面に供給してなる、(6)又は(7)記載のガラス研磨加工装置。
【発明の効果】
【0017】
以上にしてなる本願発明によれば、砥粒の存在しない加工液で精度よくガラス面を研磨できるので、遊離砥粒を用いた研磨加工技術の課題(加工液の管理、コスト、環境負荷などの課題)を解決できるとともに、大面積を効率よく平坦に研磨できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)は本発明の第1実施形態に係るガラス研磨加工装置の概略図、(b)は加工ツールの写真、(c)はワークの写真。
図2】同じくガラス研磨加工装置の写真。
図3】エステル基を有する樹脂の構造を示す説明図。
図4】アクリルツールによるガラスへの加工原理の説明図。
図5】本発明の第2実施形態に係るガラス研磨加工装置の概略図。
図6a】左側はアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイル。
図6b】左側はPC製ツールによる加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイル。
図6c】左側はABS製ツールによる加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイル。
図6d】左側はPBTツールによる加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイル。
図6e】左側はPTFEツールによる加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイル。
図7】異なる有機材料ツールによる加工痕の表面観察画像。
図8】異なる加工時間でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像。
図9】異なる加工時間でのアクリル製ツールによる加工深さを示すグラフ。
図10】異なる加工荷重でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像。
図11】異なる加工荷重でのアクリル製ツールによる加工深さを示すグラフ。
図12】異なる温度でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像。
図13】異なる種類の加工液でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像。
図14】pHの異なる加工液でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像。
図15】pHの異なる加工液でのアクリル製ツールによる加工深さを示すグラフ。
図16】pHの異なる加工液でのアクリル製ツールによる加工後の表面粗さを示す画像。
図17】pHの異なる加工液でのアクリル製ツールによる加工後の表面粗さを示すグラフ。
図18】pHの異なる加工液でのアクリル製ツールによる加工後の表面粗さを示す画像。
図19】pHの異なる加工液でのアクリル製ツールによる加工後の表面粗さを示すグラフ。
図20a】左側が酸性加工液でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像、右側が深さプロファイル。
図20b】左側が異なる種類の酸性加工液でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像、右側が深さプロファイル。
図21】スルファミン酸水溶液の加工液でのアクリル製ツールによる加工後の表面粗さを示す画像。
図22】酢酸水溶液の加工液でのアクリル製ツールによる加工後の表面粗さを示す画像。
図23a】左側は炭酸ナトリウム水溶液の加工液でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイル。
図23b】左側は水酸化カルシウム水溶液の加工液でのアクリル製ツールによる加工痕の表面観察画像、右側は深さプロファイル。
図24】異なる種類のアルカリ加工液でのアクリル製ツールによる加工後の表面粗さを示す画像。
図25a】左側はアクリル定盤と純水によるガラス基板の平坦研磨加工の加工前の表面粗さを示す画像、右側は深さプロファイル。
図25b】左側はアクリル定盤と純水によるガラス基板の平坦研磨加工の60時間の加工後の表面粗さを示す画像、右側は深さプロファイル。
図25c】左側はアクリル定盤と純水によるガラス基板の平坦研磨加工の120時間の加工後の表面粗さを示す画像、右側は深さプロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0020】
図1は、第1実施形態に係る本発明のガラス研磨加工装置1Aの構成を示しており、図中(a)は装置の概略図、(b)はアクリル固定ツール、(c)は加工対象である合成石英を示している。
【0021】
本実施形態のガラス研磨加工装置1Aは、アクリル製のツール2と、ガラス製のワーク9とアクリル製のツール2との間に加工液を供給する加工液供給手段3と、ワーク9とツール2を、互いに加圧接触させる加圧手段4と、加圧手段4による加圧接触状態で、ワーク9とツール2を相対運動させて研磨加工を行う相対動作手段5とを備えている。
【0022】
ワーク9は、合成石英などのガラスである。アクリル製のツール2は、半球状のツールとされている。形状はとくに半球状に限定されるものではない。アクリルツール2は、棒材20の先端に取り付けた冶具21の下に交換可能に固定されている。
【0023】
加工液供給手段3は、上記振動装置52の上に加工液を入れる容器30が設けられ、その底部にワーク9が取り付けられることで、ワーク9が加工液中に完全に浸漬された状態となる。加工液は、純水、またはpHを調整した水溶液であり、砥粒を含有しない。ツール2とワーク9は、容器30内の加工液中に浸され、該加工液中で加工が行われる。浸漬以外の方法、たとえばワーク9の被加工面に加工液を吹き付ける手段を設けたものでもよい。「pHを調整した水溶液」としては、pHを6以下の酸性水溶液とすることや、pH10程度のアルカリ性の炭酸ナトリウム水溶液を用いることが良好な表面粗さを維持しつつ加工できる点で好ましい。より優れた表面粗さを得るためには、pH4以下、さらに好ましくは3.5〜1の酸性水溶液を用いることが好ましい。ただし、酸性水溶液の場合、pHが低くなるにつれて加工深さが浅くなるので、加工深さも求める場合には、pH3以上のものを用いることが好ましい。また、表面粗さは悪化するが、より優れた加工深さ(加工速度)を得るためには、pH10程度のアルカリ性の水酸化カルシウム水溶液を用いることも好ましい。
【0024】
相対動作手段5として、ツール2の鉛直方向に延びる棒材20を棒材の軸を中心に回転させ、ツール2を回転運動させるモータ51と、棒材20の軸と直交する水平方向にワーク9を容器30とともに往復運動させる振動装置(シェーカー)52とが設けられている。容器30の加工液中でツールは回転運動し、ワーク9は容器30とともに一定距離の区間で往復直線運動する。
【0025】
加圧手段4は、棒材20の上端に皿41を取り付け、重りを載せる。この重りによって、ツール2とワーク9の間にかかる荷重を制御する。また、モータ51は、リニアブッシュ40を介して案内柱に上下移動自在に取り付けられている。これにより、重りと皿41、さらに回転モータ51の総重量が荷重としてツール2とワーク9の間に加える。本実施形態の装置では、回転と往復を組み合わせることで線状のガラス研磨加工を行うことができ、振動装置を止めて回転のみで点状のガラス研磨加工を行うこともできる。
【0026】
次に、本発明の加工原理について説明する。後述する各種実験でも明らかなように、アクリル以外の素材のツールではガラスへの研磨加工が進行しなかった。もし加工が機械的な力のみによって引き起こされるのであれば、工具としてより高い硬度を有するPC等により合成石英を加工することができなければならない。
【0027】
このことは、本発明にかかるアクリルツールによるガラスの研磨加工が、機械的な力に加えて化学的加工効果を持つことを示している。また、加工がガラスの加工液への溶出によってのみ引き起こされる場合、任意の有機材料が加工ツールとして用いることができるはずであるが、図7の結果はそうではなく、アクリル以外の材料は純水中でガラスを加工することができなかった。
【0028】
考察するに、アクリルは、エステル基を含み、そのエステル基が側鎖に位置している。これに対し、ガラスを加工できなかったPBTやPCは、エステル基を含有するが、そのエステル基は主鎖に位置している(図3参照)。側鎖に位置するエステル基は、主鎖に位置する場合に比べて容易に加水分解され、CO−を生成しやすい。したがって、図4に示すように、このCO−に加工液中の水酸化物が結合してヒドロキシル基(−OH)が終端された表面を形成することにより、アクリルツールは、酸素原子を介してガラス内のSiと結合し、ガラス表面からSiがツール側に引き抜かれて除去されると考えられる。
【0029】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。
【0030】
図5は、第2実施形態に係るガラス研磨加工装置1Bの概略構成を示している。
【0031】
本実施形態のガラス研磨加工装置1Bは、ガラスの大面積平坦化に適した装置としたものであり、図5に示すように、アクリル定盤の加工ツール2と、ガラス板のワーク9と加工ツール2の間に加工液8を供給する加工液供給手段3と、ワーク9とツール2を互いに加圧接触させる加圧手段4と、加圧手段4による加圧接触状態で、ワーク9とツール2を相対運動させて研磨加工を行う相対動作手段5とを備えている。
【0032】
相対動作手段5は、本実施形態ではアクリル定盤のツール2を回転させる機構を内蔵した第1の回転手段としての回転台53と、ワーク9をアクリル定盤(ツール2)の回転軸と平行な軸を中心に回転させる第2の回転手段としての回転装置54とを備え、ワーク9を回転させつつ、別途回転するアクリル定盤(ツール2)の表面に加圧接触させて平坦に研磨加工するものである。2つの回転は軸位置および回転径が互いに異なっているため、ワーク加工面とツール(アクリル定盤)の間の相対運動が発生する。
【0033】
回転装置54は、ツール2の表面近くで複数のワークを上下に移動可能な状態で保持する保持穴を備えた保持プレート540と、各保持穴に保持されたワークを上方から加圧してツール2表面に押し付ける加圧手段4としての加圧シリンダ42とを下端部に備え、これらを内臓のモータで一体的に回転させるように構成されている。この回転装置54により、複数のワークが回転軸のまわりを回転し、ツール2によって同時に平坦研磨加工される。
【0034】
加工液供給手段3は、加工液8を回転するツール2(アクリル定盤)の表面に噴霧するポンプとノズルから構成されている。このようにツール2に加工液を吹き付けるものの他、ツール2とワーク9を加工液中に浸すように構成することも可能である。
【0035】
本実施形態の研磨加工装置は、同様の加圧手段4、相対動作手段5、加工液供給手段3を備える公知の平坦研磨加工装置を用いて、加工ツールのみ通常使用される研磨パッドからアクリル定盤に変更して構成することができる。加工液8、ワーク9、その他の構成、加工原理は、基本的に上述の第1実施形態と同じであるので、その説明は省略する。
【実施例】
【0036】
<ツール材料の比較試験1 点状研磨にて>
第1実施形態の装置を用い、ツールの材料のみ変えて、点状研磨加工(振動装置を停止した加工)の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0037】
(加工条件)
加工条件を表1に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。
【0038】
【表1】
【0039】
(結果)
結果を図6(a)〜図6(e)に示す。各図の左側は、各ツールによる点状加工痕の走査型白色干渉計(Zygo社製の白色干渉計NewView 700s)による計測結果、右側は深さプロファイルを示している。加工の結果により、アクリル、PC、ABSツールを用いて明らかな加工痕が得られるが、他は得られなかった。また、最も深い加工痕がアクリルツールによって得られた。PC、ABSツールで加工した加工面は加工スジが多く、アクリルツールで加工した加工面は比較的平滑であった。
【0040】
<ツール材料の比較試験2 線状研磨にて>
同じく第1実施形態の装置を用い、ツールの材料のみ変えて線状研磨加工(回転と往復振動の組み合わせ加工)の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0041】
(加工条件)
加工条件を表2に示す。ツールの先端は、同じく直径10mmの半球状とした。
【0042】
【表2】
【0043】
(結果)
結果を図7(a)〜図7(e)に示す。各図の左側は、各ツールによる線状加工痕の走査型白色干渉計による計測結果である。加工の結果により、アクリルツールを用いて明らかな加工痕が得られ、他の有機材料ツールで加工痕を形成できないことが分かった。
なお、明らかな加工痕が得られたアクリルツールのみ、加工痕全体を計測し、加工痕が得られなかった他のツールは、左端から3.7mm程度の場所のみ測定した。
【0044】
<加工時間の比較試験>
第1実施形態の装置、アクリルツールを用い、加工時間のみ変えて線状研磨加工の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0045】
(加工条件)
加工条件を表3に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。
【0046】
【表3】
【0047】
(結果)
結果を図8図9に示す。図8は走査型白色干渉計(Zygo社製の白色干渉計NewView 700s)による計測結果を示している。また、図9は加工時間と加工深さの関係を示すグラフである。本実験の結果から、加工時間の増加に伴い加工深さが増加することがわかる。
【0048】
<加工荷重の比較試験>
第1実施形態の装置、アクリルツールを用い、加工荷重のみ変えて線状研磨加工(ここでは回転をさせず、振動装置による往復運動のみとした)の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0049】
(加工条件)
加工条件を表4に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。
【0050】
【表4】
【0051】
(結果)
結果を図10図11に示す。図10は走査型白色干渉計(Zygo社製の白色干渉計NewView 700s)による計測結果を示している。また、図11は加工荷重と加工深さの関係を示すグラフである。本実験の結果から、加工荷重を増加させても加工深さは大きな変化がない。物理的摩擦力は荷重に比例するが、本実験の結果は摩擦力が増加しても加工深さにほとんど影響を及ぼさないことから、本発明が化学的な加工であることを示している。
【0052】
<加工液の温度の比較試験>
第1実施形態の装置、アクリルツールを用い、加工液(純水)の温度のみ変えて線状研磨加工の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0053】
(加工条件)
加工条件を表5に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。
【0054】
【表5】
【0055】
(結果)
結果を図12に示す。図12は走査型白色干渉計(Zygo社製の白色干渉計NewView 700s)による計測結果を示している。本実験の結果から、40度の加工条件下では、23度の場合に比べて、加工痕がより大きく、より深くなることがわかる。
【0056】
<加工液の水の有無による比較試験>
純水は水素イオンおよび水酸化物イオンからなる遊離イオンを含んでいる。純水そのものの影響を調べるため、比較対象の加工液として、遊離イオンを含まず、熱伝達能力を有し、不活性で熱的、化学的に安定しているフロリナートを選択し、比較実験を行った。具体的には、第1実施形態の装置、アクリルツールを用い、加工液(純水/フロリナート)のみ変えて線状研磨加工の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0057】
(加工条件)
加工条件を表6に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。
【0058】
【表6】
【0059】
(結果)
結果を図13に示す。図13は走査型白色干渉計(Zygo社製の白色干渉計NewView 700s)による計測結果を示している。本実験の結果から、純水中の合成石英は加工可能であり、フロリナート中では、加工痕ができなかった。この結果から、水の遊離イオンが加工に作用していることが推測される。
【0060】
<加工液を酸性に設定する場合のpHの比較試験1>
第1実施形態の装置、アクリルツールを用い、酸性の加工液のpHのみ変えて線状研磨加工の違いを確認する実験を行った結果について説明する。酸性の加工液は、pHを調整したスルファミン酸水溶液を用いた。
【0061】
(加工条件)
加工条件を表7に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。
【0062】
【表7】
【0063】
(結果)
結果を図14図15図16図17に示す。図14は走査型白色干渉計(Zygo社製の白色干渉計NewView 700s)による計測結果を示しており、図15は、pHと加工深さの関係を示すグラフである。また、図16は合成石英をアクリルツールで酸性加工液中で加工した後の工作物の表面粗さを示し、図17は、酸性加工液のpHと加工面の表面粗さの関係を示す。
【0064】
図14図15から、pHが低くなるにつれて、加工深さは浅くなることがわかる。これは、水酸化物イオンの濃度が減少したことによると考えられる。また、図16図17から、pHが低くなるにつれて、表面粗さは徐々に良好になっていることがわかる。この結果は、pHが低いと加工深さが浅いため、表面粗さが良好であった可能性がある。したがって、次に、加工深さが同じ場合でも、良好な表面粗さとなるかどうか確認する比較実験を行った。
【0065】
<加工液を酸性に設定する場合のpHの比較試験2>
第1実施形態の装置、アクリルツール、加工液としてpH2.7のスルファミン酸水溶液とpH5.6の純水を用い、同じ加工深さとなるように異なる時間で線状研磨加工して、表面粗さの違いを確認する実験を行った。
【0066】
(加工条件)
加工条件を表8に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。スルファミン酸水溶液での加工を5時間まで、純水での加工を1時間で行った。
【0067】
【表8】
【0068】
(結果)
加工後の表面粗さの結果を図18図19に示す。pH2.7のスルファミン酸水溶液での加工の表面粗さは、同じ6nmの加工深さの加工で、pH5.6の純水での加工の表面粗さに比べて良好であった。これにより、同じ加工深さでpHが低いほど表面粗さが良好になることが確認できた。
【0069】
<加工液を酸性に設定する場合のpHの比較試験3>
次に、同じpHの異なる種類の酸性加工液中で、同じ加工深さと表面粗さを得るかどうか確認する比較試験を行った。第1実施形態の装置、アクリルツール、加工液としてpH2.2のスルファミン酸と酢酸を用い、線状研磨加工の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0070】
(加工条件)
加工条件を表9に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。
【0071】
【表9】
【0072】
加工結果を図20図21図22に示す。図20から分かるように、同じpHの異なる種類の酸性液体中で3時間加工され得られた加工痕の幅および深さは実質的に同じであることがわかる。また、図21は、スルファミン酸水溶液での加工前後の表面粗さを示す。図22は、酢酸水溶液での加工前後の表面粗さを示す。
【0073】
結論として、アクリルによる合成石英の加工のためには、より低いpHを有する酸性液体中で良好な表面粗さを得ることが可能であり、そして酸の種類とは関係ないことがわかる。
【0074】
<加工液をアルカリ性に設定する場合のpHの比較試験>
第1実施形態の装置、アクリルツールを用い、アルカリ性の加工液としてpH10の炭酸ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液を用い、線状研磨加工の違いを確認する実験を行った結果について説明する。
【0075】
(加工条件)
加工条件を表10に示す。ツールの先端は、直径10mmの半球状とした。
【0076】
【表10】
【0077】
(結果)
結果を図23図24に示す。図23(a),図23(b)各図の左側は、各ツールによる線状加工痕の走査型白色干渉計(Zygo社製の白色干渉計NewView 700s)による計測結果、右側は深さプロファイルを示している。炭酸ナトリウム水溶液中で加工した結果は、加工痕が深くなく、約8nmであった。水酸化カルシウム水溶液中で加工した結果は、加工痕が70nm以上の深さに達することがわかる。水酸化カルシウムによって合成石英を腐食できるため、加工速度が速くなった可能性がある。
【0078】
図24は表面粗さの加工結果を示す。炭酸ナトリウム水溶液で加工した後の表面粗さは、RMS0.275nmで、PV 5.7nmに低下した。水酸化カルシウム加工液で加工した後の表面粗さは非常に悪い。その理由は、水酸化カルシウムはガラスに腐食作用を及ぼすため、深い腐食ピットを引き起こす可能性がある。また強塩基はアクリルに腐食作用を及ぼし、それがアクリルを工作物の表面に付着させる可能性がある。
【0079】
<平坦加工試験>
次に、アクリル定盤を備えた第2実施形態の装置を用い、アクリル定盤と純水のみによるガラス基板の平坦化加工を行った結果について説明する。
【0080】
(加工条件)
加工条件を表11に示す。回転速度の「(上)」側は、基板側の回転装置の回転速度であり、「(下)」側は、アクリル定盤側の回転速度である。また、基板表面の計測には、走査型白色干渉計(Zygo, NewView 700S)を用いた。
【0081】
【表11】
【0082】
(結果)
結果を図25(a)〜図25(c)に示す。図25(a)は加工前、図25(b)は60時間の加工結果、図25(c)は120時間の加工結果であり、各図の左側は表面粗さ、右側は深さプロファイルを示している。これらの加工結果から、砥粒を含まない純水のみの加工液で、アクリル定盤を用いたガラス基板の大面積平坦化加工が可能であることがわかる。
【符号の説明】
【0083】
1A、1B ガラス研磨加工装置
2 加工ツール
20 棒材
21 冶具
3 加工液供給手段
30 容器
4 加圧手段
40 リニアブッシュ
41 皿
42 加圧シリンダ
5 相対動作手段
51 回転モータ
52 振動装置
53 回転台
54 回転装置
540 保持プレート
8 加工液
9 ワーク

図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図6d
図6e
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20a
図20b
図21
図22
図23a
図23b
図24
図25a
図25b
図25c