特開2021-32268(P2021-32268A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-32268(P2021-32268A)
(43)【公開日】2021年3月1日
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受用内輪の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/64 20060101AFI20210201BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20210201BHJP
   F16C 35/063 20060101ALI20210201BHJP
   B23B 5/00 20060101ALI20210201BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20210201BHJP
【FI】
   F16C33/64
   F16C19/38
   F16C35/063
   B23B5/00 Z
   B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-150195(P2019-150195)
(22)【出願日】2019年8月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 ナンシー尚子
【テーマコード(参考)】
3C045
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3C045CA30
3J117AA01
3J117BA10
3J117CA04
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB08
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA55
3J701BA57
3J701BA69
3J701DA03
3J701DA09
3J701DA20
3J701FA31
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB11
3J701XB50
(57)【要約】
【課題】ハブユニット軸受用内輪を構成する大鍔部の耐久性を向上させることができる製造方法を実現する。
【解決手段】ハブユニット軸受用内輪の製造方法は、大鍔部13の表面のうち、軸方向外側面である軌道側側面18から外周面17を経て軸方向内側面である反軌道側側面19までの連続した範囲を形成すべき箇所に旋削用取り代35を有し、かつ、該旋削用取り代35の肉厚が、反軌道側面取り部21を含む部分である対象部分を形成すべき箇所において他の箇所よりも大きくなっている、内輪素材33を得る工程と、内輪素材33の全体に熱処理を施す工程と、熱処理が施された後の内輪素材33の旋削用取り代35を旋削加工により除去する工程とを含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面の軸方向中間部に形成された、軸方向内側に向かうほど外径寸法が大きくなる方向に傾斜した円すい凸面状の内輪軌道と、該内輪軌道に対して軸方向内側に隣接する軸方向内側端部から径方向外方に突出した大鍔部と、前記大鍔部の外周面と該大鍔部の軸方向外側面との接続部に形成された軌道側面取り部と、前記大鍔部の外周面と該大鍔部の軸方向内側面との接続部に形成された反軌道側面取り部とを有し、ハブユニット軸受の組立状態で、車輪が結合固定されるハブ輪に外嵌され、かつ、該ハブ輪の軸方向内側端部を径方向外方に塑性変形させることにより形成されたかしめ部により軸方向内側面を抑え付けられる、ハブユニット軸受用内輪の製造方法であって、
前記大鍔部の表面のうち、軸方向外側面から外周面を経て軸方向内側面までの連続した範囲を形成すべき箇所に、旋削用取り代を有し、かつ、該旋削用取り代の肉厚が、前記軌道側面取り部と前記反軌道側面取り部とのうちの少なくとも一方を含む部分である対象部分を形成すべき箇所において他の箇所よりも大きくなっている、内輪素材を得る工程と、
前記内輪素材の全体に熱処理を施す工程と、
前記熱処理が施された後の前記内輪素材の前記旋削用取り代を旋削加工により除去する工程と、を含む、
ハブユニット軸受用内輪の製造方法。
【請求項2】
前記内輪素材を得る工程において、前記旋削用取り代の外径寸法を、前記対象部分を形成すべき箇所で軸方向に隣接する箇所よりも大きくする、
請求項1に記載のハブユニット軸受用内輪の製造方法。
【請求項3】
前記対象部分の外径寸法を、前記大鍔部の外周面の軸方向中間部の外径寸法よりも小さくする、
請求項1又は2に記載のハブユニット軸受用内輪の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転可能に支持するためのハブユニット軸受を構成する内輪の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハブユニット軸受では、車輪とともに回転するハブが、車輪を結合固定するハブ輪と、ハブ輪に外嵌された内輪とを含んで構成され、かつ、ハブ輪に内輪を結合固定するために、ハブ輪の軸方向内側端部を径方向外方に塑性変形させてなるかしめ部により、内輪の軸方向内側面を抑え付けた構造が普及している。このような構造では、例えば、ハブ輪の軸方向内側端部に螺合したナットにより、内輪の軸方向内側面を抑え付けた構造に比べて、ハブの部品点数の削減や軽量化を図れるなどの利点がある。なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側であり、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側である。
【0003】
ただし、上述のようなかしめ部を備えたハブユニット軸受では、かしめ部の形成に伴って、かしめ部に隣接するハブ輪の軸方向部分が径方向外側に膨張し、該部分が内輪の軸方向内側端部の内周面を拡径方向に押圧するため、内輪の軸方向内側端部に発生する周方向引っ張り応力であるフープ応力が大きくなりやすい。したがって、かしめ部を形成する段階で、内輪の軸方向内側端部に打痕が形成されていると、該打痕にフープ応力が集中し、内輪の耐久性が低下する原因となる。
【0004】
一方、内輪は、各部の形状を切削加工により成形した後、全体にズブ焼き入れなどの熱処理を施してから、外周面の軸方向中間部に存在する内輪軌道などの所定箇所に、研削加工などによる仕上加工を施すことで製造されるが、この際の仕上加工は、内輪の軸方向内側端部の外周面と軸方向内側面との接続部である面取り部には施されないのが通常である。しかしながら、該面取り部は、角部であるため、例えば搬送時などに周囲の物体にぶつかりやすく、しかも、前記熱処理を施す前の段階では、その硬度が低いため、周囲の物体にぶつかった場合に、打痕(打痕に伴う微小なクラックを含む)が形成されやすい。このような打痕は、内輪の完成後にも残った状態となるため、かしめ部を形成することに伴って、前記打痕にフープ応力が集中し、内輪の耐久性が低下する原因となる。
【0005】
このような不都合を解消するための対策として、特開2005−140181号公報(特許文献1)には、内輪を製造する際に、各部の形状を切削加工により成形した後、全体にズブ焼き入れなどの熱処理を施してから、軸方向内側端部の外周面と軸方向内側面との接続部である面取り部に、再度の切削加工を施す方法が記載されている。この様な方法によれば、前記熱処理を施す前の段階で前記面取り部に打痕が形成されたとしても、再度の切削加工によって該打痕を除去することができるため、上述のような不都合を解消することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−140181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、転動体として円すいころを備えたハブユニット軸受では、軸方向内側面をかしめ部により抑え付けられる内輪は、軸方向内側端部に径方向外方に突出した大鍔部を有する。このような内輪では、軸方向内側端部である大鍔部の外周面と軸方向内側面との接続部である反軌道側面取り部だけでなく、大鍔部の外周面と軸方向外側面(内輪軌道側の軸方向側面)との接続部である軌道側面取り部も、周囲の物体にぶつかりやすい角部になっている。また、大鍔部の軸方向外側面は、径方向外側に向かうほど軸方向外側(内輪軌道側)に向かう方向に傾斜しているため、大鍔部の外周面と軸方向外側面とのなす角度は鋭角になっている。すなわち、前記軌道側面取り部は、露出された状態でその周辺部の肉厚が薄くなっているため、熱処理前の段階で周囲の物体にぶつかった場合に、打痕がより形成されやすい。したがって、このような打痕が形成された場合には、特開2005−140181号公報に記載された方法を実施しても、すなわち、前記反軌道側面取り部に対して、熱処理後に再度の切削加工を施しても、前記軌道側面取り部の打痕を除去することができない。このため、かしめ部を形成することに伴って、該打痕にフープ応力が集中するのを防止することができない。
【0008】
また、大鍔部を有する内輪は、各部の肉厚差が大きいため、全体にズブ焼き入れなどの熱処理を施したときの変形量が大きく、大鍔部は軸方向外側(内輪軌道側)に倒れるように変形する。また、内輪を構成する大鍔部は、軸方向外側面に円すいころの大径側端面が接触して、該円すいころから加わる荷重を支承する部位である。したがって、大鍔部の形状が熱処理に伴う変形によって歪んでいると、その分、円すいころから加わる荷重によって、大鍔部の軸方向外側面と内輪軌道との接続部に存在する逃げ溝に発生する応力分布のバランスが悪くなる。したがって、大鍔部の耐久性を向上させる観点から、改善の余地がある。
【0009】
本発明は、上述のような事情に鑑み、転動体として円すいころを備えたハブユニット軸受を構成し、かつ、軸方向内側面をハブ輪のかしめ部により抑え付けられる内輪に関して、大鍔部の耐久性を向上させることができる製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の製造対象となるハブユニット軸受用内輪は、外周面の軸方向中間部に形成された、軸方向内側に向かうほど外径寸法が大きくなる方向に傾斜した円すい凸面状の内輪軌道と、該内輪軌道に対して軸方向内側に隣接する軸方向内側端部から径方向外方に突出した大鍔部と、前記大鍔部の外周面と該大鍔部の軸方向外側面との接続部に形成された軌道側面取り部と、前記大鍔部の外周面と該大鍔部の軸方向内側面との接続部に形成された反軌道側面取り部とを有し、ハブユニット軸受の組立状態で、車輪が結合固定されるハブ輪に外嵌され、かつ、該ハブ輪の軸方向内側端部を径方向外方に塑性変形させることにより形成されたかしめ部により軸方向内側面を抑え付けられる。
本発明のハブユニット軸受用内輪の製造方法では、前記大鍔部の表面のうち、軸方向外側面から外周面を経て軸方向内側面までの連続した範囲を形成すべき箇所に、旋削用取り代を有し、かつ、該旋削用取り代の肉厚が、前記軌道側面取り部と前記反軌道側面取り部とのうちの少なくとも一方を含む部分である対象部分を形成すべき箇所において他の箇所よりも大きくなっている、内輪素材を得る工程と、前記内輪素材の全体に熱処理を施す工程と、前記熱処理が施された後の前記内輪素材の前記旋削用取り代を旋削加工により除去する工程とを含む。
【0011】
本発明のハブユニット軸受用内輪の製造方法では、前記内輪素材を得る工程において、前記旋削用取り代の外径寸法を、前記対象部分を形成すべき箇所で軸方向に隣接する箇所よりも大きくすることができる。
【0012】
本発明のハブユニット軸受用内輪の製造方法では、前記対象部分の外径寸法を、前記大鍔部の外周面の軸方向中間部の外径寸法よりも小さくすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のハブユニット軸受用内輪の製造方法によれば、ハブユニット軸受用内輪を構成する大鍔部の耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施の形態の第1例の製造対象となる内輪を含むハブユニット軸受の断面図である。
図2図2は、図1の上部拡大図である。
図3図3は、実施の形態の第1例の内輪の部分断面図である。
図4図4は、実施の形態の第1例の内輪素材の部分断面図である。
図5図5は、実施の形態の第1例において、大鍔部中間体の熱処理変形の態様を説明するための部分断面図である。
図6図6は、実施の形態の第2例の製造対象となる内輪を含むハブユニット軸受の断面図である。
図7図7は、実施の形態の第2例の内輪素材の部分断面図である。
図8図8は、実施の形態の第3例の内輪素材の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図5を用いて説明する。
【0016】
(ハブユニット軸受1の構造)
まず、本例の製造対象となる内輪10aを含んで構成されるハブユニット軸受1の構造について、図1図3を用いて説明する。ハブユニット軸受1は、従動輪用であり、使用時にも回転しない外輪2と、使用時に車輪とともに回転するハブ3と、それぞれが転動体である複数個の円すいころ4とを備える。
【0017】
なお、ハブユニット軸受1に関して、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図1及び図2の右側であり、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図1及び図2の左側である。
【0018】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属製であり、複列の外輪軌道5と、静止フランジ6とを有する。複列の外輪軌道5は、外輪2の内周面に形成されている。複列の外輪軌道5のそれぞれは、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど直径が大きくなる方向に傾斜した円すい凹面である。静止フランジ6は、外輪2を懸架装置のナックルに結合固定するために用いられる部位であり、外輪2の軸方向中間部から径方向外側に突出している。
【0019】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に、外輪2と同軸に配置されており、複列の内輪軌道7と、回転フランジ8とを有する。複列の内輪軌道7は、ハブ3の外周面のうち、複列の外輪軌道5に対向する部分に形成されている。複列の内輪軌道7のそれぞれは、軸方向に関して互いに離れる方向に向かうほど直径が大きくなる方向に傾斜した円すい凸面である。回転フランジ8は、ハブ3に車輪及び制動用回転部材を結合固定するために用いられる部位であり、ハブ3の軸方向外側部から径方向外側に突出している。
【0020】
本例では、ハブ3は、ハブ輪9と、1対の内輪10a、10bとを組み合わせることにより構成されている。
【0021】
ハブ輪9は、中炭素鋼などの硬質金属製であり、軸方向外側部に回転フランジ8を有する。また、ハブ輪9は、軸方向中間部の外周面に円筒面状の嵌合面部11を有するとともに、嵌合面部11の軸方向外側端部に軸方向内側を向いた円輪面状の段差面12を有する。
【0022】
内輪10a、10bのそれぞれは、軸受鋼などの硬質金属製であり、全体が筒状に構成されている。内輪10a、10bのそれぞれは、軸方向中間部の外周面に内輪軌道7を有する。また、内輪10a、10bのそれぞれは、軸方向に関して内輪軌道7の大径側に隣接する大径側端部から径方向外側に突出した大鍔部13と、軸方向に関して内輪軌道7の小径側に隣接する小径側端部から径方向外側に突出した小鍔部14とを有する。また、内輪10a、10bのそれぞれは、軸方向に関して大鍔部13側の側面である大径側側面15と、軸方向に関して小鍔部14側の側面である小径側側面16とを有する。大径側側面15及び小径側側面16のそれぞれは、軸方向に対して直交する平坦面である。
【0023】
大鍔部13は、外周面17と、軸方向に関して内輪軌道7側の側面である軌道側側面18と、軸方向に関して内輪軌道7と反対側の側面である反軌道側側面19と、外周面17と軌道側側面18との接続部に形成された軌道側面取り部20と、外周面17と反軌道側側面19との接続部に形成された反軌道側面取り部21とを有する。
【0024】
外周面17は、軸方向に関して外径寸法が変化しない円筒面である。軌道側側面18は、径方向外側に向かうほど軸方向に関して内輪軌道7側に向かう方向に傾斜した円すい凹面である。したがって、外周面17と軌道側側面18とのなす角度は鋭角である。軌道側側面18と内輪軌道7との接続部には、逃げ溝22が形成されている。反軌道側側面19は、大径側側面15の径方向外側部を構成している。したがって、反軌道側側面19は、軸方向に対して直交する平坦面であり、外周面17と反軌道側側面19とのなす角度は、直角である。軌道側面取り部20及び反軌道側面取り部21のそれぞれは、断面形状が円弧形の面取り部である。ただし、本発明を実施する場合、軌道側面取り部及び反軌道側面取り部の断面形状は、直線などの非円弧形状とすることもできる。
【0025】
小鍔部14は、軸方向に関して内輪軌道7側の側面である軌道側側面23を有する。軌道側側面23は、径方向外側に向かうほど軸方向に関して内輪軌道7と反対側に向かう方向に傾斜した円すい凸面である。軌道側側面23と内輪軌道7との接続部には、逃げ溝24が形成されている。
【0026】
軸方向外側の内輪10bは、嵌合面部11の軸方向外側部に圧入により外嵌されるとともに、軸方向外側面である大径側側面15を、段差面12に当接させている。軸方向内側の内輪10aは、嵌合面部11の軸方向内側部に圧入により外嵌されるとともに、軸方向外側面である小径側側面16を、軸方向外側の内輪10bの軸方向内側面である小径側側面16に当接させている。さらに、軸方向内側の内輪10aの軸方向内側面である大径側側面15の径方向内側部は、ハブ輪9の軸方向内側端部を径方向外方に塑性変形させることにより形成されたかしめ部25により抑え付けられている。すなわち、1対の内輪10a、10bは、段差面12とかしめ部25との間に挟み込まれた状態で、ハブ輪9に結合固定されている。
【0027】
円すいころ4は、軸受鋼などの硬質金属製あるいはセラミックス製であり、複列の外輪軌道5と複列の内輪軌道7との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置されるとともに、それぞれの列の保持器26により転動自在に保持されている。さらに、この状態で、円すいころ4は、大鍔部13側の端面である大径側端面を、大鍔部13の軌道側側面18に接触させており、小鍔部14側の端面である小径側端面を、小鍔部14の軌道側側面23に隙間を介して対向させている。
【0028】
また、図示の例では、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する内部空間27の軸方向外側の開口部は、外輪2の軸方向外側端部の内周面と軸方向外側の内輪10bを構成する大鍔部13の外周面17との間に組み付けられた組み合わせシールリング28により塞がれている。外輪2の軸方向外側端面と回転フランジ8の軸方向内側面との間部分は、外輪2の軸方向外側端部に外嵌固定されたシールリング29により塞がれている。外輪2の軸方向内側の開口部は、外輪2の軸方向内側端部に内嵌固定された非磁性材製のキャップ30により塞がれている。軸方向内側の内輪10aを構成する大鍔部13の外周面17に、回転速度検出装置を構成する円環状のエンコーダ31が外嵌固定されている。エンコーダ31は、軸方向内側面にS極とN極とが円周方向に関して交互に配置された被検出面32を有する。ハブユニット軸受1を車両に組み付けた状態で、被検出面32には、キャップ30を介して磁気センサが軸方向に対向する。
【0029】
(内輪10aの製造方法)
次に、図4及び図5を参照して、ハブユニット軸受1を構成する軸方向内側の内輪10aの製造方法について説明する。本例の内輪10aの製造方法は、第1工程と、第2工程と、第3工程とを備える。
【0030】
第1工程では、金属素材に、鍛造加工を施して内輪10aの大まかな形状を成形した後、旋削加工を施すことにより、図4に示すような、内輪素材33を得る。
【0031】
内輪素材33は、完成後の内輪10aとほぼ同様の形状を有するが、大鍔部13に対応する部分に、大鍔部13を一回り大きくしたような部位である、大鍔部中間体34を備えている。大鍔部中間体34は、表層部に旋削用取り代35を有する。旋削用取り代35は、大鍔部13の表面のうち、軸方向外側面である軌道側側面18から外周面17を経て軸方向内側面である反軌道側側面19までの連続した範囲を形成すべき箇所に(該範囲を覆うように)設けられている。換言すれば、旋削用取り代35は、大鍔部13の表面のうち、逃げ溝22から外れた部分の全体を形成すべき箇所に設けられている。なお、本例では、旋削用取り代35は、大径側側面15のうち、反軌道側側面19よりも径方向内側に位置する範囲を形成すべき箇所にも(該範囲を覆うように)連続して設けられている。
【0032】
また、本例では、旋削用取り代35の肉厚が、反軌道側面取り部21を含む部分である対象部分を形成すべき箇所において、他の箇所よりも大きくなっている。本例では、前記対象部分は、反軌道側面取り部21と外周面17の軸方向内側部とを合わせた部分である。すなわち、本例では、旋削用取り代35は、前記対象部分を形成すべき箇所に、他の箇所よりも肉厚が大きい厚肉部36を有する。厚肉部36以外の箇所で、旋削用取り代35の肉厚はほぼ一定である。また、本例では、厚肉部36の肉厚は、反軌道側面取り部21を形成すべき箇所において、反軌道側面取り部21の内径側から外径側に向かうほど徐々に大きくなっているとともに、外周面17の軸方向内側部を形成すべき箇所において、一定の大きさ(反軌道側面取り部21を形成すべき箇所の外径側端部と同じ大きさ)になっている。また、本例では、大鍔部13の外周面17は、軸方向に関して外径寸法が変化しない円筒面であるため、旋削用取り代35の外径寸法は、厚肉部36において、軸方向に隣接する箇所よりも大きくなっている。なお、本発明を実施する場合、旋削用取り代35のうち、厚肉部36と厚肉部36以外の部分との肉厚差は、任意に設定することができるが、例えば、厚肉部36の肉厚の最大値を、厚肉部36以外の部分の肉厚の2倍以上とすることができる。
【0033】
第2工程では、内輪素材33の全体に、ズブ焼き入れなどの熱処理を施す。これにより、内輪素材33の硬さなどの機械的性質を向上させる。
【0034】
第3工程では、前記熱処理を施した後の内輪素材33の旋削用取り代35を、旋削加工(ハードターニング加工)により除去する。これにより、大鍔部13、及び、反軌道側側面19を含む大径側側面15を成形する。また、第3工程では、その後、内輪軌道7と軌道側側面18と外周面17に対して、表面粗さなどの面性状を向上させるための加工である、研削加工や超仕上加工などの仕上加工を施すことにより、内輪10aを完成させる。なお、このような仕上加工を施す部位の寸法は、該仕上加工の前後で、該仕上加工の取り代の分だけ僅かに変化するが、本例では、便宜上、該寸法の変化の図示を省略している。
【0035】
以上のような本例の内輪10aの製造方法によれば、内輪10aを構成する大鍔部13の耐久性を向上させることができる。以下、この理由について説明する。
【0036】
本例のハブユニット軸受1では、かしめ部25の形成に伴って、かしめ部25の軸方向外側に隣接するハブ輪9の軸方向部分が径方向外側に膨張し、該部分が内輪10aの軸方向内側端部の内周面を拡径方向に押圧するため、内輪10aの軸方向内側端部に発生する周方向引っ張り応力であるフープ応力が大きくなりやすい。したがって、かしめ部25を形成する段階で、内輪10aの軸方向内側端部に存在する大鍔部13に打痕が形成されていると、該打痕にフープ応力が集中し、大鍔部13の耐久性が低下する原因となる。
【0037】
一方、内輪10aの大鍔部13のうち、外周面17と軌道側側面18との接続部である軌道側面取り部20と、外周面17と反軌道側側面19との接続部である反軌道側面取り部21とは、角部であるため、周囲の物体にぶつかりやすく、しかも、熱処理を施す前の段階では、その硬度が低いため、周囲の物体にぶつかった場合に、打痕が形成されやすい。
【0038】
これに対して、本例の内輪10aの製造方法では、第1工程において取得した、内輪素材33のうち、大鍔部13に対応する部分を、大鍔部13よりも一回り大きく、表層部に旋削用取り代35を有する大鍔部中間体34としている。旋削用取り代35は、大鍔部13の表面のうち、逃げ溝22から外れた部分の全体を形成すべき箇所に設けられている。そして、第2工程において、内輪素材33の全体に熱処理を施して、硬さなどの機械的性質を向上させた後、第3工程において、旋削用取り代35を旋削加工により除去することで、大鍔部13を成形している。このため、本例では、前記熱処理を施す前の段階で、旋削用取り代35のうち、軌道側面取り部20を形成すべき箇所や、反軌道側面取り部21を形成すべき箇所に打痕が形成されたとしても、第3工程において、旋削用取り代35を旋削加工により除去することにより、当該打痕を除去することができる。したがって、当該打痕にフープ応力が集中するといった不都合が生じることを回避して、大鍔部13の耐久性を向上させることができる。
【0039】
また、本例では、旋削用取り代35は、反軌道側面取り部21を含む部分である対象部分を形成すべき箇所に、他の箇所よりも肉厚が大きい厚肉部36を有する。このため、前記熱処理を施す前の段階で、旋削用取り代35のうち、反軌道側面取り部21を形成すべき箇所(厚肉部36)に大きな打痕が形成された場合でも、旋削用取り代35の除去に伴って、当該打痕を除去することができる。
【0040】
また、転動体として円すいころ4を備えたハブユニット軸受1を構成する内輪10a、及び、内輪10aとほぼ同様の形状を有する内輪素材33は、各部の肉厚差が大きい。このため、内輪素材33は、全体にズブ焼き入れなどの熱処理を施したときの変形量が大きく、大鍔部中間体34は、図5において実線→鎖線の順に示すように、内輪軌道7側に倒れるように変形する。そして、このような大鍔部中間体34の変形に伴い、旋削用取り代35のうち、反軌道側面取り部21を形成すべき箇所の旋削用取り代が減少する傾向となる。ただし、本例では、当該箇所を厚肉部36としているため、熱処理を施した後の当該箇所の肉厚を十分に確保することが容易となる。
【0041】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図6及び図7を用いて説明する。
【0042】
図6は、本例の製造対象となる内輪10aを含むハブユニット軸受1aを示している。本例のハブユニット軸受1aは、軸方向外側の内輪を有しておらず、軸方向外側列の内輪軌道7は、ハブ輪9aの軸方向中間部外周面に直接形成されている。製造対象となる内輪10aは、ハブ輪9aの軸方向内側部の外周面に備えられた嵌合面部11aに圧入により外嵌されるとともに、軸方向外側面である小径側側面16を嵌合面部11aの軸方向外側端部に存在する段差面12aに当接させた状態で、ハブ輪9aの軸方向内側端部を径方向外方に塑性変形させることにより形成されたかしめ部25により、軸方向内側面である大径側側面15の径方向内側部を抑え付けられている。
【0043】
図7は、本例の内輪10aの製造方法において、第1工程で得られる内輪素材33aを示している。本例では、内輪素材33aを構成する大鍔部中間体34aの旋削用取り代35aの肉厚が、軌道側面取り部20を含む部分である対象部分を形成すべき箇所において、他の箇所よりも大きくなっている。本例では、前記対象部分は、軌道側面取り部20と外周面17の軸方向外側部とを合わせた部分である。すなわち、本例では、旋削用取り代35aは、前記対象部分を形成すべき箇所に、他の箇所よりも肉厚が大きい厚肉部36aを有する。厚肉部36a以外の箇所で、旋削用取り代35aの肉厚はほぼ一定である。また、本例では、厚肉部36aの肉厚は、軌道側面取り部20を形成すべき箇所において、軌道側面取り部20の内径側から外径側に向かうほど徐々に大きくなっているとともに、外周面17の軸方向外側部を形成すべき箇所において、一定の大きさ(軌道側面取り部20を形成すべき箇所の外径側端部と同じ大きさ)になっている。また、本例の場合も、大鍔部13の外周面17は、軸方向に関して外径寸法が変化しない円筒面であるため、旋削用取り代35aの外径寸法は、厚肉部36aにおいて、軸方向に隣接する箇所よりも大きくなっている。
【0044】
また、本例の内輪10aの製造方法に関して、第2工程及び第3工程の内容は、実施の形態の第1例と同様である。
【0045】
本例の内輪10aの製造方法では、以下のような作用効果を得られる。
【0046】
まず、転動体として円すいころ4を備えたハブユニット軸受では、内輪10aを構成する大鍔部13の外周面17と軌道側側面18とのなす角度が、鋭角になっている。このため、内輪素材33aの旋削用取り代35aのうち、大鍔部13の外周面17と軌道側側面18との接続部である軌道側面取り部20を形成すべき箇所は、前記熱処理前の段階で周囲の物体にぶつかった場合に、形成される打痕が深くなりやすい。
【0047】
これに対して、本例では、旋削用取り代35aは、軌道側面取り部20を含む部分である対象部分を形成すべき箇所に、他の箇所よりも肉厚が大きい厚肉部36aを有する。このため、前記熱処理を施す前の段階で、旋削用取り代35aのうち、軌道側面取り部20を形成すべき箇所(厚肉部36a)に深い打痕が形成された場合でも、旋削用取り代35aの除去に伴って当該打痕を除去することができ、大鍔部13の耐久性を向上させることができる。
【0048】
また、内輪素材33aは、各部の肉厚差が大きいため、全体にズブ焼き入れなどの熱処理を施したときの変形量が大きく、大鍔部中間体34aは、内輪軌道7側に倒れるように変形する。そして、このような大鍔部中間体34の変形に伴い、軌道側面取り部20及びその周辺部のフープ応力が増加する傾向となる。軌道側面取り部20を形成すべき箇所を厚肉部36aとして、厚肉部36aを除去しない場合、軌道側面取り部20に、脱炭した黒皮が深く形成されやすい。このため、該箇所に打痕が形成されていない場合でも、軌道側面取り部20にフープ応力が集中しやすくなる。これに対して、本例では、旋削用取り代35aのうち、軌道側面取り部20を形成すべき箇所を厚肉部36aとしているため、厚肉部36aを除去することによって、軌道側面取り部20に黒皮が残留することを防止できる。したがって、このような黒皮によって軌道側面取り部20にフープ応力が集中することを防止でき、大鍔部13の耐久性を向上させることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同じである。
【0049】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図8を用いて説明する。
【0050】
図8は、本例の内輪の製造方法において、第1工程で得られる内輪素材33bを示している。本例では、内輪素材33bを構成する大鍔部中間体34bの旋削用取り代35bは、反軌道側面取り部21を含む部分である第1の対象部分を形成すべき箇所と、軌道側面取り部20を含む部分である第2の対象部分を形成すべき箇所とに、他の箇所よりも肉厚が大きい厚肉部36b、36cを有する。本例では、前記第1の対象部分は、反軌道側面取り部21と外周面17aの軸方向内側の端部37とを合わせた部分である。また、前記第2の対象部分は、軌道側面取り部20と外周面17の軸方向外側の端部37とを合わせた部分である。厚肉部36b、36c以外の箇所で、旋削用取り代35bの肉厚はほぼ一定である。
【0051】
本例では、旋削用取り代35bの外径寸法は、厚肉部36b、36cにおいて、軸方向に隣接する箇所(厚肉部36b、36c同士の間に挟まれた箇所)と同じ大きさになっている。その代わりに、本例では、大鍔部13aの外周面17aの外径寸法が、厚肉部36b、36cにより覆われた軸方向両側の端部37において、軸方向の中間部38よりも小さくなっている。そして、このような端部37と中間部38との外径寸法の差の分だけ、旋削用取り代35bの肉厚が、厚肉部36b、36cにおいて、厚肉部36b、36c以外の箇所よりも大きくなっている。
【0052】
また、本例の内輪の製造方法に関して、第2工程及び第3工程の内容は、実施の形態の第1例と同様である。
【0053】
以上のような本例の内輪の製造方法では、内輪素材33bを構成する大鍔部中間体34bの旋削用取り代35bの外径寸法が、軸方向両側部の厚肉部36b、36cだけでなく、厚肉部36b、36c同士の間に挟まれた軸方向中間部でも大きくなっている。すなわち、大鍔部中間体34bの体積が大きくなっている。このため、第2工程において、大鍔部中間体34bの熱処理変形を軽減することができる。したがって、旋削用取り代35b全体の肉厚、すなわち、第3工程における旋削用取り代35bの旋削量を抑えることができる。この結果、内輪の製造コストを低減できる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同じである。
【0054】
本発明は、上述した各実施の形態の構成を、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
また、本発明の製造対象となる内輪を含むハブユニット軸受は、駆動輪用であっても良い。
【符号の説明】
【0055】
1、1a ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4 円すいころ
5 外輪軌道
6 静止フランジ
7 内輪軌道
8 回転フランジ
9、9a ハブ輪
10a、10b 内輪
11、11a 嵌合面部
12、12a 段差面
13、13a 大鍔部
14 小鍔部
15 大径側側面
16 小径側側面
17、17a 外周面
18 軌道側側面
19 反軌道側側面
20 軌道側面取り部
21 反軌道側面取り部
22 逃げ溝
23 軌道側側面
24 逃げ溝
25 かしめ部
26 保持器
27 内部空間
28 組み合わせシールリング
29 シールリング
30 キャップ
31 エンコーダ
32 被検出面
33、33a、33b 内輪素材
34、34a、34b 大鍔部中間体
35、35a 旋削用取り代
36、36a、36b、36c 厚肉部
37 端部
38 中間部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8