【課題】摩擦抵抗の増大を抑制しつつ、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても焼付きを防止することができるラジアル型ころ軸受を提供する。
【解決手段】ころ軸受10の保持器14は、一対の円環部14aの軸方向内端面14bところ13の軸方向外端面13bとの間に隙間S1をそれぞれ有して、軸方向に沿って所定の範囲で移動可能に設けられ、一対の円環部14aの軸方向内端面14bに、潤滑油を保持する保油部材(保油部)20がそれぞれ設けられ、保持器14が軸方向に移動したときに、或いはころ13がポケット14dの内部でスキューしたときに、保油部材20がころ13の軸方向外端面13bに接触可能である。
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数のころと、前記複数のころを周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備え、
前記外輪の軸方向両端部に、前記複数のころを案内する外輪鍔部がそれぞれ設けられ、
前記保持器は、同軸に配置される一対の円環部と、前記一対の円環部を軸方向に連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部と、周方向に互いに隣り合う前記柱部間に形成され、前記ころを転動可能に保持するポケットと、を有するラジアル型ころ軸受であって、
前記保持器は、前記一対の円環部の軸方向内端面と前記ころの軸方向外端面との間に第1隙間をそれぞれ有して、軸方向に沿って所定の範囲で移動可能に設けられ、
前記一対の円環部に、潤滑油を保持する保油部がそれぞれ設けられ、
前記一対の保油部の軸方向内端部と前記ころの軸方向外端面との間に第2隙間をそれぞれ有し、
前記第2隙間の軸方向寸法は、前記第1隙間の軸方向寸法よりも小さく設定され、
前記保持器が軸方向に移動したときに、或いは前記ころが前記ポケットの内部でスキューしたときに、前記保油部が前記ころの軸方向外端面に接触可能であることを特徴とするラジアル型ころ軸受。
前記円環部の軸方向内端面において、前記ころがスキューしたときに前記ころの軸方向外端面が接触しない部分に前記保油部が設けられていないことを特徴とする請求項4又は5に記載のラジアル型ころ軸受。
前記ころがスキューしたときに前記ころの軸方向外端面が接触する部分における前記保油部の前記円環部の軸方向内端面からの突出量が、前記ころがスキューしたときに前記ころの軸方向外端面が接触しない部分よりも大きいことを特徴とする請求項4又は5に記載のラジアル型ころ軸受。
前記ころと前記保持器が前記外輪の軸方向一方側に移動した時に、前記保持器及び前記保油部が前記外輪の軸方向外端面よりも軸方向内側に位置することを特徴とする請求項1に記載のラジアル型ころ軸受。
前記保油部は、連続気泡型の発泡樹脂成形により形成されており、この連続気泡型の発泡樹脂成形により形成された部分は、内側の発泡コア層及び外側のソリッドスキン層を有し、
前記ソリッドスキン層を取り除き、前記発泡コア層を露出させる孔又は溝を設けることを特徴とする請求項1に記載のラジアル型ころ軸受。
前記保油部は、連続気泡型の発泡樹脂成形により形成されており、この連続気泡型の発泡樹脂成形により形成された部分は、内側の発泡コア層及び外側のソリッドスキン層を有し、
予め形成された突起を切り取り、前記発泡コア層を露出させることを特徴とする請求項1に記載のラジアル型ころ軸受。
潤滑油が軸受内部に断続的に供給される、或いは、軸受内部の潤滑油が微量である潤滑環境下で使用されることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載のラジアル型ころ軸受。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の軸受では、ころの軸方向端面と保持器のポケット面のそれぞれに形成した凹部に潤滑油を溜め込むことはできるものの、凹部に潤滑油を溜め込むには、ころの軸方向端面と保持器のポケット面が密着している必要があるため、ころが保持器の一対の円環部に常時挟まれて、摩擦抵抗が増大していた。また、ころが保持器の一対の円環部に挟み込まれないようにすき間を設けると、溜め込んだ潤滑油が漏れ出てしまう背反関係にあった。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の軸受は、外輪に径方向に貫通する給油孔を設けて、オイルエアによる強制潤滑を行うものであるが、この潤滑方式は、微量な潤滑油の潤滑環境下(枯渇潤滑時)における耐焼付き性向上に応用できるものではなかった。
【0007】
また、上記特許文献3は、潤滑油ではなく極圧添加剤を充填させる発明であり、目的は異なるがポケット面に凹部を形成し、極圧添加剤を含浸させた高分子材を埋設している。しかし、金属製の保持器に凹部を施そうとすると、製造が困難な上にポケット面ところとの設置面が小さいため十分な効果を得ることが難しかった。また、高分子材を埋設しているため、ころがスキューして傾くところと接触しなくなるため、極圧添加剤をころに塗布する効果を発揮させることが困難であった。
【0008】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、摩擦抵抗の増大を抑制しつつ、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても焼付きを防止することができるラジアル型ころ軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1)内周面に外輪軌道面を有する外輪と、外周面に内輪軌道面を有する内輪と、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に転動可能に設けられる複数のころと、前記複数のころを周方向に略等間隔に保持する保持器と、を備え、前記外輪の軸方向両端部に、前記複数のころを案内する外輪鍔部がそれぞれ設けられ、前記保持器は、同軸に配置される一対の円環部と、前記一対の円環部を軸方向に連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部と、周方向に互いに隣り合う前記柱部間に形成され、前記ころを転動可能に保持するポケットと、を有するラジアル型ころ軸受であって、前記保持器は、前記一対の円環部の軸方向内端面と前記ころの軸方向外端面との間に第1隙間をそれぞれ有して、軸方向に沿って所定の範囲で移動可能に設けられ、前記一対の円環部に、潤滑油を保持する保油部がそれぞれ設けられ、前記一対の保油部の軸方向内端部と前記ころの軸方向外端面との間に第2隙間をそれぞれ有し、前記第2隙間の軸方向寸法は、前記第1隙間の軸方向寸法よりも小さく設定され、前記保持器が軸方向に移動したときに、或いは前記ころが前記ポケットの内部でスキューしたときに、前記保油部が前記ころの軸方向外端面に接触可能であることを特徴とするラジアル型ころ軸受。
(2)前記保油部は、毛細管現象により潤滑油を保持可能な部材からなることを特徴とする(1)に記載のラジアル型ころ軸受。
(3)前記保油部は、前記円環部の内周面に設けられることを特徴とする(1)に記載のラジアル型ころ軸受。
(4)前記保油部は、前記円環部の軸方向内端面に設けられることを特徴とする(1)に記載のラジアル型ころ軸受。
(5)前記保油部は、前記円環部の内周面及び軸方向内端面に亘って設けられることを特徴とする(1)に記載のラジアル型ころ軸受。
(6)前記円環部の軸方向内端面において、前記ころがスキューしたときに前記ころの軸方向外端面が接触しない部分に前記保油部が設けられていないことを特徴とする(4)又は(5)に記載のラジアル型ころ軸受。
(7)前記ころがスキューしたときに前記ころの軸方向外端面が接触する部分における前記保油部の前記円環部の軸方向内端面からの突出量が、前記ころがスキューしたときに前記ころの軸方向外端面が接触しない部分よりも大きいことを特徴とする(4)又は(5)に記載のラジアル型ころ軸受。
(8)前記ころと前記保持器が前記外輪の軸方向一方側に移動した時に、前記保持器及び前記保油部が前記外輪の軸方向外端面よりも軸方向内側に位置することを特徴とする(1)に記載のラジアル型ころ軸受。
(9)前記保油部は、連続気泡型の発泡樹脂成形により形成されており、この連続気泡型の発泡樹脂成形により形成された部分は、内側の発泡コア層及び外側のソリッドスキン層を有し、前記ソリッドスキン層を取り除き、前記発泡コア層を露出させる孔又は溝を設けることを特徴とする(1)に記載のラジアル型ころ軸受。
(10)前記保油部は、連続気泡型の発泡樹脂成形により形成されており、この連続気泡型の発泡樹脂成形により形成された部分は、内側の発泡コア層及び外側のソリッドスキン層を有し、予め形成された突起を切り取り、前記発泡コア層を露出させることを特徴とする(1)に記載のラジアル型ころ軸受。
(11)前記内輪は、片鍔の内輪であり、軸方向一方側の外部荷重を受けることが可能であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1つに記載のラジアル型ころ軸受。
(12)前記内輪は、両鍔の内輪であり、軸方向両方側の外部荷重を受けることが可能であることを特徴とする(1)〜(10)のいずれか1つに記載のラジアル型ころ軸受。
(13)潤滑油が軸受内部に断続的に供給される、或いは、軸受内部の潤滑油が微量である潤滑環境下で使用されることを特徴とする(1)〜(12)のいずれか1つに記載のラジアル型ころ軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保持器の一対の円環部に、潤滑油を保持する保油部がそれぞれ設けられ、保持器が軸方向に移動したときに、保油部が円筒ころの軸方向外端面に接触するため、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても軸受の焼付きを防止することができる。また、保持器の保油部が円筒ころの軸方向外端面から離れることができ、保油部が円筒ころに常時接触しないため、軸受回転時の摩擦抵抗の増加を抑制することができ、さらに、保油部の摩耗を抑制することができる。また、高度な部品寸法精度などの管理が不要であり、製造コストの増大を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るラジアル型ころ軸受の各実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
まず、
図1〜
図15を参照して、本発明に係るラジアル型ころ軸受である円筒ころ軸受の第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の円筒ころ軸受(ラジアル型ころ軸受)10は、
図1に示すように、内周面に外輪軌道面11aを有する外輪11と、外周面に内輪軌道面12aを有する内輪12と、外輪軌道面11aと内輪軌道面12aとの間に転動可能に設けられる複数の円筒ころ13と、複数の円筒ころ13を周方向に略等間隔に保持する保持器14と、を備える。なお、本実施形態では、ハウジングH(
図23参照)の内部を循環する潤滑油が、潤滑油ポンプP(
図23参照)などにより軸受内部に適宜供給される。なお、
図1は、円筒ころ13及び保持器14が、外輪11に対して軸方向中央に位置した状態(換言すると、外輪11と円筒ころ13と保持器14の各軸方向中心位置が一致した状態)で図示されている。
【0015】
外輪11は、両鍔の外輪であり、その軸方向両端部に、複数の円筒ころ13を案内する鍔部11bがそれぞれ設けられている。内輪12は、鍔なしの内輪であり、軸(アキシアル)方向の外部荷重を支持しない構造である。円筒ころ13は、円筒ころ13の周面である転動面13aと、円筒ころ13の軸方向外端面であるころ端面13bと、を有する。
【0016】
保持器14は、例えば、金属製であり、プレス塑性加工などにより成形されており、同軸に配置される一対の円環部14aと、一対の円環部14aを軸方向で連結し、周方向に略等間隔に設けられる複数の柱部14cと、周方向に互いに隣り合う柱部14c間で、一対の円環部14aにより囲まれて形成され、円筒ころ13を転動可能に保持するポケット14dと、を有する。また、保持器14の一対の円環部14aの外周面は、近接対向する外輪11の各鍔部11bの内周面によりそれぞれ案内されている。
【0017】
そして、
図1〜
図3に示すように、保持器14の一対の円環部14aの内周面には、円環状の保油部材(保油部)20が周方向に亘ってそれぞれ設けられている。なお、保油部材20は、毛細管現象により潤滑油を保持可能な部材からなる保油部である。
【0018】
保油部材20は、断面略矩形状に形成されており、保持器14の円環部14aの内周面に配置される油貯蓄部21と、油貯蓄部21の軸方向内端から円環部14aの軸方向内端面(以下、単に「ポケット面」とも言う)14bよりも軸方向内側に突出する給油部22と、を有する。
【0019】
具体的には、保油部材20の油貯蓄部21は、潤滑油を内部に蓄えると共に、蓄えた潤滑油を給油部22に供給する。保油部材20の給油部22は、円筒ころ13の軸方向外端面であるころ端面13bに接触した際に、保持する潤滑油を円筒ころ13のころ端面13bに給油する。
【0020】
保油部材20の材質としては、毛細管現象を生じるものであればよく、例えば、ポリエステル製フェルトなどの不織布の繊維材、発泡させた樹脂やゴム、又は焼結させた金属やセラミックなどの多孔質材を挙げることができる。これにより、保油部材20は、軸受内に供給される潤滑油を毛細管現象で保持することが可能である。
【0021】
そして、本実施形態では、
図1に示すように、保持器14のポケット14dの軸方向長さ寸法LPは、円筒ころ13の軸方向長さ寸法LRよりも大きく設定されている。このため、保持器14は、一対の円環部14aのポケット面14bと円筒ころ13の各ころ端面13bとの間に軸方向の第1隙間S1をそれぞれ有する。
【0022】
また、一対の保油部材20の給油部22の軸方向内端面(以下、単に「給油面」とも言う)22aと円筒ころ13の各ころ端面13bとの間に軸方向の第2隙間S2がそれぞれ設けられている。そして、第2隙間S2の軸方向寸法D2は、第1隙間S1の軸方向寸法D1よりも小さく設定されている(D2<D1)。このため、保持器14が軸方向に移動したときに、保油部材20の給油部22の給油面22aが、円筒ころ13のころ端面13bに接触可能である。また、換言すると、一対の保油部材20の給油部22の各給油面22a間の軸方向長さ寸法をLTとすると、LP>LT>LRの関係となる。
【0023】
このように、円筒ころ13と保持器14との間に軸方向の第1隙間S1が設けられ、円筒ころ13と保油部材20との間に軸方向の第2隙間S2が設けられるため、保持器14は、軸方向に沿って隙間の総和寸法(軸方向両側の第1隙間S1の軸方向寸法D1の和又は軸方向両側の第2隙間S2の軸方向寸法D2の和)の範囲で移動可能に設けられる。また、本実施形態では、隙間の総和寸法は、厳密な寸法管理は不要で、保持器の一般的な加工精度を考慮して、0.1mmから円筒ころ13の長さ寸法LRの1/10以下の範囲に設定される。また、給油部22のポケット面14bからの突出量Dpは、0.01mmから円筒ころ13の長さ寸法LRの1/5以下が好ましい。
【0024】
また、本実施形態では、
図1に示すように、円筒ころ13は、その両方のころ端面13bと外輪11の両方の鍔部11bとの間に第3隙間S3をそれぞれ設けた状態で、両方の鍔部11bにより案内されている。そして、第3隙間S3の軸方向寸法D3は、
図4に示すように、円筒ころ13と保持器14が外輪11の軸方向一方側(
図4の左側)に移動した時(軸方向一方側の鍔部11bところ端面13bとが当接し、
図4の右側である軸方向他方側のころ端面13bと給油面22aとが当接した状態)に、保持器14及び保油部材20が外輪11の軸方向外端面よりも軸方向内側に位置するような寸法に設定されている。これにより、保持器14及び保油部材20が軸受周辺のハウジングなどに干渉するのを防止することができる。本実施形態では、保持器14の軸方向外端面と保油部材20の軸方向外端面は、軸方向位置が同一である(同一平面上に存在する)。
【0025】
このように構成された円筒ころ軸受10では、軸受に潤滑油が供給され軸受内が潤滑油で満たされている場合、潤滑油が円筒ころ13と保持器14のポケット14dとの間に入り込み油膜を形成する。従って、
図1に示すように、潤滑油の流れの力を受けて、円筒ころ13のころ端面13bと保油部材20の給油面22aとの間に第2隙間S2が形成され、保油部材20がころ端面13bに常時接触しないため、軸受回転時の摩擦抵抗の増加が抑制される。また、軸受に供給された潤滑油は、毛細管現象により、保油部材20の内部に蓄えられる。
【0026】
その一方、軸受に潤滑油が供給されず軸受内の潤滑油が微量である場合、潤滑油の流れは発生せず、保持器14は、円筒ころ13のスキューの分力や車両の前後左右の運動により、軸方向に自由に移動して、保油部材20がころ端面13bに繰り返し接触する(接触状態と非接触状態とが繰り返される)。つまり、軸受内の潤滑油が微量である場合にのみ、保油部材20がころ端面13bに接触し、保油部材20に蓄えられた潤滑油が円筒ころ13に供給される。そして、円筒ころ13に供給された潤滑油は、円筒ころ13の転動面13a、外輪軌道面11a、及び内輪軌道面12aのそれぞれの接触部を潤滑する。なお、本実施形態の円筒ころ軸受10は、保持器14の自由運動を利用して保持器14を移動させるものであるため、水平に設けられる軸(横軸)を支持する構造且つ自動車のように軸受を組み込んだ装置が前後左右に動くものに用いるのが好適である。
【0027】
以上説明したように、本実施形態の円筒ころ軸受10によれば、保持器14の一対の円環部14aに、潤滑油を保持する保油部材20がそれぞれ設けられ、保持器14が軸方向に移動したときに、保油部材20が円筒ころ13のころ端面13bに接触するため、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても軸受10の焼付きを防止することができる。また、保持器14の保油部材20がころ端面13bから離れることができ、保油部材20が円筒ころ13に常時接触しないため、軸受回転時の摩擦抵抗の増加を抑制することができ、さらに、保油部材20の摩耗を抑制することができる。また、高度な部品寸法精度などの管理が不要であり、製造コストの増大を抑制することができる。
【0028】
更に詳細に説明すると、保油部材20は、事前に円筒ころ13に対する接触力(押付け力)が設定されているわけではなく、保持器14が軸方向に移動したときに円筒ころ13と接触するため、接触抵抗を殆ど発生させず、保油部材20の摩耗劣化を最小限に抑えることができる。
【0029】
また、本実施形態の円筒ころ軸受10によれば、保油部材20が保持器14の円環部14aの内周面に設けられるため、軸受回転に伴う遠心力によって保油部材20に蓄えた潤滑油が保持器14の外周側に飛散するのを最小限に抑制することができる。また、保油部材20に作用する遠心力を円環部14aが支持するので、保油部材20の変形や保持器14からの脱落を防止することができる。
【0030】
また、本実施形態の円筒ころ軸受10によれば、潤滑油量を大幅に減らすことができるので、潤滑油の攪拌抵抗を低減することができる。また、例えば、歯車による跳ね掛けなどによって潤滑油を微量でも供給できる構造(
図24参照)とすれば、潤滑油ポンプや給油路を廃止することもでき、これにより、潤滑システム全体の軽量コンパクト化、低コスト化を図ることができる。
【0031】
また、本実施形態の円筒ころ軸受10によれば、潤滑油が軸受内に断続的に供給される、或いは、軸受内の潤滑油が微量である潤滑環境下でも、焼付きを防止して軸受性能や潤滑効果を長期間に亘って維持することができる。このため、本実施形態の円筒ころ軸受10は、例えば、一部のハイブリッド車のトランスミッションのようにエンジン停止時に潤滑油ポンプが一時的に停止する機構に好適に用いることができ、また、自動車の被牽引時に潤滑油ポンプが作動せずに潤滑油の十分な供給が困難な状況などに対応することができる。
【0032】
ここで、本明細書における潤滑油が微量である潤滑環境下について説明する。例えば、自動車などのトランスミッションの場合、潤滑油の供給方法として、
図23に示す潤滑油ポンプPによる潤滑油の圧送と、
図24に示す歯車Gによる潤滑油の跳ね掛けとの2通りが一般的に知られている。
【0033】
潤滑油ポンプPにより潤滑油を圧送する構造としては、
図23に示すように、円筒ころ軸受10の外輪11がハウジングHに内嵌され、内輪12が回転軸Aに外嵌されており、ハウジングHに軸受10に連通する給油路Rが設けられ、この給油路Rに潤滑油ポンプPが接続される構造が一般的に知られている。この構造の場合、潤滑油ポンプPから圧送された潤滑油が給油路Rを介して軸受10に供給される。
【0034】
また、歯車Gにより潤滑油を跳ね掛ける構造としては、
図24に示すように、円筒ころ軸受10の外輪11がハウジングHに内嵌され、内輪12が回転軸Aに外嵌されており、回転軸Aに内輪12と隣接して歯車Gが設けられる構造が一般的に知られている。この構造の場合、歯車Gに付着している潤滑油が軸回転に伴う遠心力により飛散し、飛散した潤滑油が軸受10に付着して給油される。
【0035】
上記した2通りの構造では、軸受の焼付きを防止するため、50cc/minから1000cc/min程度の潤滑油量が供給されている。そして、この潤滑油量が10cc/minを下回ると潤滑油不足に伴う油膜不足により発熱や焼付きが起こりやすくなり、0cc/min(無潤滑油)では焼付きが生じる。本発明は、無潤滑状態ではなく希薄潤滑状態への対応であり、潤滑油が微量である潤滑環境下、具体的には、0.01cc/min〜10cc/min程度の希薄潤滑状態で大きな効果を発揮する。
【0036】
次に、本明細書における潤滑油が断続的に供給される環境について説明する。例えば、ハイブリッド車では、エンジンを停止したまま電動モータで走行するモードがある。このモード中は、エンジンと直結した潤滑油ポンプだけの構造では、軸受に潤滑油が給油されない状態で走行が行われる。このため、数分程度までの無給油走行状態が発生するが、軸受はこの間に焼付きを起こしてはならない。この電動走行時間はバッテリーの進化と共に延長させたいニーズがある。現状では焼付き防止のために一定間隔毎にエンジンを回し、潤滑油ポンプを作動させる制御を行っている車種もある。この課題を解決するには、電動潤滑油ポンプをシステムに追加するか、本発明のような無潤滑で焼付きにくい軸受の採用が必要となる。本発明では、焼付きまでの時間は保油部に蓄えられる保油量と関連があることから、保油量を増やすことで無潤滑適用時間を数十分から数時間と大幅に延長させることが可能である。保油量の拡大には、例えば、気孔率拡大や保油部体積の拡大で対応できる。
【0037】
また、乗用車は、故障時やキャンピングカーなどの大型車両での移動先での補助用車両として牽引されることがある。このようなときは、車両の駆動輪を台車などに載せることで空転を防止することが可能であるが、現実には、駆動輪を空転させながら牽引される事例が起こっている。この場合、駆動伝達はなく無負荷空転のため軸受の負担も軽微であるが、ころ軸受の場合、ころ端面と鍔部との間はすべり接触になっている。そして、この空転状態では、エンジンや電動潤滑油ポンプが稼働せず、潤滑油ポンプは停止しているため、軸受は焼付きを起こしやすい。この対策のために、跳ね掛け給油が起こるように駆動装置に工夫を施している車種もある。本発明では、潤滑油ポンプが停止しても、保油部に蓄えられた潤滑油がなくなるまで軸受に給油を行えるため、跳ね掛けが不十分又は跳ね掛けがないような被牽引状態でも耐焼付き性を大幅に向上することができる。
【0038】
また、極寒環境での始動時には、潤滑油が凍結し、潤滑油ポンプによる給油も跳ね掛けによる給油も起こらない現象が一時的に発生する。この場合は、凍結した潤滑油が温まって溶けるまでの間、軸受自身に付着していた僅かな油分で潤滑を賄わなければならない。そして、本発明では、凍結した潤滑油が保油部に蓄えられているため、軸受の発熱に伴い徐々に溶けながら潤滑するため、耐焼付き性を飛躍的に向上することができる。
【0039】
次に、保油部材の材料について説明する。保油部材は、潤滑油を吸い込みやすく、且つころへ塗油しやすいものが好ましい。これは保油部材が親油性(撥油ではない)を持ち、微小な空間で区切られている場合に生じる毛細管現象(表面張力)の働く原理を利用できる。これにより、保油部材に触れた潤滑油は速やかに保油部材へと吸い込まれる。吸い込まれた潤滑油は、ころ端面と接触する給油部(塗油部)にてころ端面との間にも表面張力が働き、ころ端面へ潤滑油を油性マーカーのごとく少しずつ時間をかけて塗布することができる。このため、ころ端面への給油が数十分〜数時間と長時間持続するため、その間の焼付きを防止することができる。
【0040】
例えば、親油性(撥油ではない)を持つ繊維の集合体で気孔を確保しつつ樹脂で固めた素材を、接着剤を用いて保持器に貼り付けることで保油と塗油の機能を発揮させることができる(繊維を絡ませただけの不織布では耐久性が低い可能性があるので、ある程度樹脂を含浸させて繊維の結合強度を高めた方が好ましい)。材質は、有機・無機を問わず親油性(撥油ではない)を持った繊維であれば同じ効果を発揮できる。但し、保油させるためには潤滑油を蓄えるための気孔部が必要で、気孔率が高いほど同じ保油部材の体積での保油量を高めることができる。このため、気孔率は20%〜90%程度が適している。また、ころ端面と接する給油部は、硬質でも機能を発揮するが、塗油性を向上させるためには柔軟性を持たせた方が好ましい。これは、硬質な素材では接触面積が小さくなってしまうが、柔軟な素材ならば、塗油面全体でころと接触して塗油できるためである。この保油部材は、保持器の強度に関与しないため、保油部材の給油部がポケット面まで(即ち、給油部の突出量が全て圧縮されてポケット面と同一面となる状態まで)圧縮可能な柔軟性があってもよい。もし、繊維に含浸させる樹脂が硬質で柔軟性が低い場合には、成形後に適度な変形をさせて樹脂組織を微細に破砕させることで、繊維に近い柔軟性を発揮させることができる。ここで述べた製法は広く普及している一般的な技術で、安価に大量の生産を容易に実現可能である。また、特に繊維体を金属表面に接着する場合には、熱硬化性の樹脂を接着剤として、熱と圧力により接着させる手法があり、円環状の本保持器に対しても有効な手段である。
【0041】
また、高度な耐熱性や耐薬品性が要求される等の過酷な使用環境に曝される場合には、多孔質素材に焼結金属や発泡セラミックスを保油部材に使うことができる。但し、これら部材は保持器とは別に成形した後に接合する必要がある。
【0042】
次に、本実施形態の保油部材の第1変形例として、
図5に示すように、保油部材20は、円環状の1つの部材ではなく、湾曲した複数の板状部材により構成されていてもよい。この場合、保持器14の全てのポケット14dに対して保油部材20を配置してもよいし、保持器14の一部のポケット14dに対して保油部材20を配置してもよい。
【0043】
また、本実施形態の保油部材の第2変形例として、
図6に示すように、保油部材20は、円環部14aの内周面及びポケット面14bに亘って設けられていてもよい。
【0044】
また、本実施形態の保油部材の第3変形例として、
図7に示すように、保油部材20は、円環部14aのポケット面14bのみに設けられていてもよい。
【0045】
また、本実施形態の内輪の第1変形例として、
図8に示すように、内輪12は、片鍔の内輪であってもよく、内輪12の軸方向他端部(
図8の右端部)に鍔部12bが設けられている。この場合、内輪12は、軸方向一方側に向う外部からのアキシアル荷重(内輪12を
図8の左側に移動する荷重)を受けることが可能である。具体的には、ギヤの噛み合い反力などのアキシアル荷重を、外輪11の軸方向一方側の鍔部11bと内輪12の鍔部12bで支持している。このため、保油部材20による給油効果により、円筒ころ13のころ端面13bと各鍔部11b,12bとの摺接面における耐焼付き性を高めることができ、アキシアル方向に関して許容可能な負荷荷重を高めることができる。
【0046】
また、本実施形態の内輪の第2変形例として、
図9に示すように、内輪12は、両鍔の内輪であってもよく、内輪12の軸方向他端部(
図9の右端部)に鍔部12bが設けられると共に、内輪12の軸方向一端部(
図9の左端部)に鍔輪12cが取り付けられている。この場合、内輪12は、軸方向両方側に向う外部からのアキシアル荷重を受けることが可能である。具体的には、ギヤの噛み合い反力などのアキシアル荷重を、外輪11の軸方向一方側の鍔部11bと内輪12の鍔部12b、及び外輪11の軸方向他方側の鍔部11bと内輪12の鍔輪12cで支持している。このため、保油部材20による給油効果により、円筒ころ13のころ端面13bと各鍔部11b,12bとの摺接面、及び円筒ころ13のころ端面13bと鍔部11b,鍔輪12cとの摺接面における耐焼付き性を高めることができ、アキシアル方向に関して許容可能な負荷荷重を高めることができる。
【0047】
さらに、ラジアル型ころ軸受である円筒ころ軸受10では、円筒ころ13の自転軸が固定されていないため、保持器14のポケット14dの内部で円筒ころ13の自転軸が傾くスキュー現象を起こすことが知られている。このため、例えば、平面状のころ端面13bを有する円筒ころ13がスキューした場合、
図10に示すように、ころ端面13bの外周部が給油部22に接触し、ころ端面13bの中央部が給油部22に接触しない。従って、潤滑油を効果的に供給するためには、ころ端面13bの外周部が接触する位置に給油部22を設けることが望ましい。なお、
図10中の符号Cpは、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触する部分であり、符号Npは、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触しない部分である。
【0048】
そして、円筒ころ13のスキュー現象を考慮した給油部22の周方向の配置として、
図11に示す形態では、円環部14aのポケット面14bにおいて、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触する部分Cp(ポケット面14bの周方向両端部)に給油部22が設けられ、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触しない部分Np(ポケット面14bの周方向中央部)に給油部22が設けられていない。この形態により、円筒ころ13がスキューしていないときの摺動抵抗を低減しつつ、必要最小限の接触で円筒ころ13に潤滑油を効率よく供給することができる。
【0049】
また、
図12に示す形態では、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触する部分Cpにおける給油部22の円環部14aのポケット面14bからの軸方向の突出量が、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触しない部分Npよりも大きく設定されている。この形態により、円筒ころ13がスキューしていないときの摺動抵抗を低減しつつ、必要最小限の接触で円筒ころ13に潤滑油を効率よく供給することができる。
【0050】
図13は、曲面状のころ端面13bを有する円筒ころ13がスキューした状態を示す展開図である。この場合の円筒ころ13のスキュー現象を考慮した給油部22の周方向の配置として、
図14に示す形態では、円環部14aのポケット面14bにおいて、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触する部分Cp(ポケット面14bの周方向中央部)に給油部22が設けられ、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触しない部分Np(ポケット面14bの周方向両端部)に給油部22が設けられていない。この形態により、必要最小限の接触で円筒ころ13に潤滑油を効率よく供給することができる。
【0051】
また、
図15に示す形態では、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触する部分Cpにおける給油部22の円環部14aのポケット面14bからの軸方向の突出量が、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触しない部分Npよりも大きく設定されている。この形態により、円筒ころ13がスキューしていないときの摺動抵抗を低減しつつ、必要最小限の接触で円筒ころ13に潤滑油を効率よく供給することができる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、
図16〜
図22を参照して、本発明に係るラジアル型ころ軸受である円筒ころ軸受の第2実施形態について説明する。なお、上記第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0053】
本実施形態では、保持器14の一対の円環部14aに保油部30がそれぞれ設けられており、この保油部30は、
図16に示すように、連続気泡型の発泡樹脂成形により形成されている。なお、本実施形態では、保油部30は、円環部14aの内周面及びポケット面14bに亘って設けられているが、円環部14aの内周面のみに設けられていてもよいし、円環部14aのポケット面14bのみに設けられていてもよい。また、
図16では、図面の理解を容易にするため、軸方向一方側の円環部14aの周辺を拡大して表している。
【0054】
そして、連続気泡型の発泡樹脂成形により形成された保油部30は、
図16に示すように、内側の発泡コア層31と、発泡コア層31を包み込む外側のソリッドスキン層(以下、単に「スキン層」とも言う)32と、を有する。
【0055】
発泡コア層31は、連続気泡部分であり、潤滑油を貯蓄する油貯留部として機能する。スキン層32は、気泡が閉じた部分であり、発泡コア層31に保持された潤滑油を外部に出さないように閉じ込める壁として機能する。
【0056】
また、
図16及び
図17に示すように、保油部30の軸方向内端面には、1つの第1溝41が形成されている。第1溝41は、有底溝であり、スキン層32を軸方向に貫通し、発泡コア層31に到達する深さに形成されている。つまり、第1溝41は、スキン層32を取り除き、発泡コア層31を露出させる溝である。そして、第1溝41は、発泡コア層31に貯蓄された潤滑油を円筒ころ13に導く出口として機能する。このため、第1溝41には表面張力が強く働く必要があるため、第1溝41は、細く狭い形状であり、具体的には、第1溝41の溝幅(径方向に沿った幅)D5は、0.01mm〜0.5mmに設定されている。また、第1溝41は、それぞれのポケット14dにおいて、周方向に沿って形成されている。なお、第1溝41は、全てのポケット14dに対して設けられてもよいし、一部のポケット14dに対して設けられてもよい。また、第1溝41は、1つに限定されず、複数であってもよい。
【0057】
また、保油部30の内周面には、3つの第2溝42が形成されている。第2溝42は、有底溝であり、スキン層32を径方向に貫通し、発泡コア層31に到達する深さに形成されている。つまり、第2溝42は、スキン層32を取り除き、発泡コア層31を露出させる溝である。そして、第2溝42は、軸受内に流入する潤滑油を発泡コア層31に導く入口として機能する。第2溝42の溝幅(軸方向に沿った幅)D6は、0.01mm〜2.0mmに設定されるのが望ましい。また、第2溝42は、周方向に沿って間欠的に形成されている(例えば、第1溝41と同位相となる周方向位置に形成)。また、第2溝42は、3つに限定されず、1つ以上設けられていればよい。なお、第2溝42は、形成しなくてもよい。この場合、第1溝41が潤滑油の出入口として機能する。
【0058】
保油部30は、保持器14を芯金として親油性(撥油ではない)を持つ発泡樹脂(発泡ゴムであってもよい)をインサート成形させることで、別途接着工程を行わずに製造することができる。また、第1溝41及び第2溝42は、スキン層32をレーザー加工などでエッチングすることにより形成される。発泡コア層31の気泡径は0.005mm〜0.5mm程度が好ましい。硬さは硬質でも機能を発揮するが、塗油性を向上させるためには、柔軟性を持たせた方が好ましい。これは、硬質な素材では接触面積が小さくなってしまうが、柔軟な素材ならば、塗油面全体でころと接触して塗油できるためである。また、この発泡樹脂又は発泡ゴムも、表面張力による潤滑油の吸着を利用しているため、親油性(撥油ではない)のある素材を選ぶ必要があるが、有機・無機等は特に問わない。なお、発泡コア層31を露出させる部分は、溝に限定されず、孔であってもよい。
【0059】
また、本実施形態では、
図17に示すように、第1溝41の周方向の溝端部41aの溝幅D5は、第1溝41の周方向の溝中央部41bの溝幅D5よりも小さく設定されている。そして、第1溝41の各溝端部41aは、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触する部分Cpに設けられる。また、
図18に示すように、第1溝41は、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触する部分Cpに設けられていればよく、第1溝41の周方向中央部の溝はなくてもよい。
【0060】
以上説明したように、本実施形態の円筒ころ軸受10によれば、保持器14の一対の円環部14aに、潤滑油を保持する保油部30がそれぞれ設けられ、保持器14が軸方向に移動したときに、保油部30が円筒ころ13のころ端面13bに接触するため、潤滑油の供給が断続的である潤滑環境下、或いは、潤滑油が微量である潤滑環境下であったとしても軸受10の焼付きを防止することができる。また、保持器14の保油部30がころ端面13bから離れることができ、保油部30が円筒ころ13に常時接触しないため、軸受回転時の摩擦抵抗の増加を抑制することができ、さらに、保油部30の摩耗を抑制することができる。また、高度な部品寸法精度などの管理が不要であり、製造コストの増大を抑制することができる。
【0061】
次に、本実施形態の保油部の第1変形例として、
図19に示すように、保油部30の軸方向内端面において、円筒ころ13がスキューしたときにころ端面13bが接触する部分Cpに膨出部50を設け、この膨出部50に第1溝41を形成してもよい。これにより、円筒ころ13がスキューしていないときの摺動抵抗を低減しつつ、必要最小限の接触で円筒ころ13に潤滑油を効率よく供給することができる。
【0062】
また、本実施形態の保油部の第2変形例として、
図20に示すように、保油部30の射出成形時に、保油部30の軸方向内端面に軸方向内側に突出する突起33aを形成すると共に、保油部30の内周面に径方向内側に突出する突起33bを形成する。その後、突起33a,33bを切取線CLに沿って切り取ることにより、保油部30の軸方向内端面に、発泡コア層31を露出させた第1露出部51を形成すると共に、保油部30の内周面に、発泡コア層31を露出させた第2露出部52を形成する。なお、突起33aを切断する切取線CLは、保油部30の軸方向内端面に沿った線であり、第1露出部51の表面(開口部)は、保油部30の軸方向内端面と面一になるように設定されている。同様に、突起33bを切断する切取線CLは、保油部30の内周面に沿った線であり、第2露出部52の表面(開口部)は、保油部30の内周面と面一になるように設定されている。
【0063】
本変形例によれば、保油部30の軸方向内端面及び内周面まで毛細管力による保油塗油能力を有する発泡コア層31が満たされているため、第1及び第2露出部51,52の溝幅(
図21に示した環状扇形の露出部を参照)や孔径(
図22に示した円形の露出部を参照)を毛細管現象の制約を受けずに大きくすることができる。これにより、第1露出部51から円筒ころ13のころ端面13bに供給される潤滑油量を更に増大させることができるので、軸受寿命を更に向上させることができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【0064】
なお、本発明は、上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、本発明を円筒ころ軸受に適用する場合を例示したが、これに限定されず、棒状ころ軸受や針状ころ軸受などに本発明を適用してもよい。
また、保油部材は、毛細管現象を生じるものであれば、その材質に限定はなく、自動車のオートマチックトランスミッションなどに使われる湿式摩擦材とその接合技術を用いれば、十分な耐久性と結合強度を得ることができる。