【解決手段】ニッケル系金属構造体139が複数枚収容された反応室132内において反応ガスを所定の方向に流通させる水素生成装置131であって、少なくとも特定の2つの隣接するニッケル系金属構造体139が、前記所定の方向に対して垂直な断面を視たとき、同じ向きに、同じ曲率で湾曲して配置されている水素生成装置である。
【背景技術】
【0002】
従来、メタン直接分解による水素ガス製造に使用される触媒金属としては、ニッケルが知られているが、メタン直接分解の高温反応時におけるニッケル微粒子同士の焼結による凝集を防ぐため、シリカ上に担持させたもの(特許文献1、非特許文献1)、ゼオライトに担持させるもの(特許文献2、特許文献3)、チタニアに担持させるもの(特許文献4)、担体を使用することなく、ニッケル粒子間に炭素粒子を介在させたもの(特許文献5)などが提案されている。
【0003】
しかしながら、担持法による場合、メタン分解時の生成炭素が触媒の活性点を物理的に覆ってしまい短時間で失活するという問題があった。
【0004】
ニッケル触媒の失活を回避するため、2000年代後半以降、様々な提案がなされている。例えば、流動性のニッケル触媒を採用した装置について、流動層反応器の側壁にナノ炭素排出路を設けることにより、ナノ炭素排出路からオーバーフローさせるとともに、排ガスに混入したものについてはサイクロンで分離する方式(特許文献6)、スクリューフィーダーを使用して触媒と生成する超微粉炭素との混合物を攪拌する方式(特許文献7)が提案されている。しかしながら、これらの流動性のニッケル触媒を採用した装置では、いずれも流動触媒と生成炭素とは混合状態で排出され、ニッケル触媒と生成炭素との分離工程について検討がなされていない。
【0005】
他にも、反応炉内部に複数段設けられた触媒棚上に触媒を充填し、反応時に触媒棚を回転させながら触媒を振動させこすり合わせることで、触媒上に付着したカーボンを真下に振り払い、カーボンを回収すると共に触媒を再生させる方法(特許文献8)が提案されている。しかしながら高温に熱した反応炉において、気密性を保ちながら、炉外に設けたモータを介して炉内の触媒棚を回転させることは現実的とはいえない。
【0006】
以上は、いずれも流動層反応器を採用した文献であるが、固定層反応器においても、反応器に供給される炭化水素と水分を間欠的に供給すると同時に低温プラズマを生成することにより、析出した炭素が長く成長しないうちに触媒表面から剥離する提案がなされている(特許文献9)。しかしながら、この文献において、固定床に使用するのは5〜30mmの大粒径粒子であり、構造体ではなく、その材料が具体的に何であるかについての言及はない。
【0007】
他にも、例えば、低級炭化水素に低濃度の二酸化炭素、酸素、水、水素等の共存ガスを共存させて反応に供することで、低級炭化水素の反応により触媒上に生成される機能性ナノ炭素の前駆体や副生物の無定形炭素を選択的に反応させて触媒上からガス化・除去する方法(特許文献10)、触媒の詰め替え等のための運転中断が必要なく、作業効率及びエネルギー効率の高い連続運転を目的として、触媒粉体を低級炭化水素ガスと共に反応管内に併流に流し、炭素析出済みの触媒粉体を分解生成ガスと共に回収する方法(特許文献11)が提案されている。しかしながら、前者の方法では、共存ガスの適正濃度範囲が様々な要因に左右されることから、その決定や制御が困難であり、後者の方法の実現には、装置が大掛かりになり、オンサイトステーション等には不向きなばかりか、触媒分別装置の具体的装置構成に依然検討の余地がある。また、サイクロン等の触媒分離装置を持続的に運転するための動力を要することから、維持コストが著しく高くなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を実施するための形態について以下に適宜図面を参照して説明する。
本発明の水素生成装置は、炭化水素の直接分解反応にニッケル系金属構造体を使用した装置である。
本明細書において、「ニッケル系金属構造体」とは、少なくとも一部の露出表面にニッケル系金属を構成材として含む構造体である。
本明細書において、「ニッケル系金属」は、ニッケル系金属は、ニッケル単体またはニッケルを含む金属であり、炭化水素の直接分解反応への触媒作用を有する金属を意味する。ニッケル系金属は、ニッケル単体であってもよいし合金であってもよく、ニッケルのほか、Rh、Ru、Ir、Pd、Pt、Re、Co、Feから選択される一つ以上の金属を含んでいてもよい。ニッケル系金属には、ニッケル含有量が鉄より多いパーマロイ(例えば、JIS規格でいうパーマロイA、パーマロイC)のみならず、ニッケルより鉄が多く含まれる一部のパーマロイ(例えば、JIS規格でいうパーマロイB、パーマロイD)も含まれる。
本明細書において、「構造体」とは、それ単独で全体として任意の一定形状を保持しているとともに、構造体を構成する物質の構造体内における位置も固定されている物体を意味する。構造体は、粉体または粒子を原料としていてもよいが、その場合、構造体内での粉体または粒子の位置は、粉体または粒子同士を焼結等によって固着させることで固定されている。
【0016】
上記水素生成装置の原料ガス供給口から導入する炭化水素は、好ましくは直鎖状炭化水素であり、より好ましくは、メタン、エタンまたはプロパンであり、さらに好ましくはメタンである。
【0017】
ニッケル系金属構造体は、好ましくは、板、多孔体、フェルト、メッシュ、ファブリックまたはエキスパンドメタルから選択される構造体そのものであるか、または、当該構造体を基材とするものである。
板は、単一層で構成されていても、異なる材料からなる2以上の層の合板であってもよく、コア−シェル構造を有するものであってもよい。
多孔体は、連続気孔を持つ多孔体である。多孔体は、好ましくは3次元網目構造を有する。気孔径は、通常300〜4000μm程度、好ましくは400〜3500μm、気孔率は、80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、比表面積は、200m
2/m
3〜6000m
2/m
3、好ましくは500m
2/m
3〜8500m
2/m
3、多孔体層の厚みは、1mm〜15mm、好ましくは2mm〜10mmである。代表的なものとしては、住友電工社製のセルメット(登録商標)、ラネー(登録商標)ニッケル等が挙げられる。
フェルトとは、ファイバー状の構成材をランダムに交絡させて積層し、必要に応じて焼結したものであり、ニードルパンチウェブ、繊維焼結体が含まれる。ニードルパンチウェブおよび繊維焼結体は、繊維径10〜150μm、空隙率が約50〜80%、目付け量(weight)にして50〜±50,000g/m
2、厚み(thickness)0.1mm〜5.0mmとすることができる。
メッシュとは、ファイバー状の構成材を平織もしくは綾織の別、または、緯編みもしくは経編みの別を問わず、任意の織り方で織るか任意の編み方で編り、適宜交点を融着させたものであり、線径にして30〜800μm、メッシュ数にして5〜300/インチのものを好適に採用することができる。
ファブリックとは、メッシュ同士を任意の編み方で連結した編み物である。
エキスパンドメタルとは、金属板を特殊な機械によって所定間隔で千鳥状に切れ目を入れて押し広げ、菱形あるいは亀甲形の網目状に加工したものである。メッシュ寸法は、通常、SWが25mm〜130mm、LWが20mm〜320mm、ストランド寸法は、板厚が1mm〜8.5mm、Wが1.2mm〜9.5mmである。
構造体は、上記列挙したもののうちの1種であってもよいし、2種以上を組み合わせた複合構造体であってもよい。
【0018】
ニッケル系金属構造体は、ニッケル系金属を含まない基材上に形成されていてもよい。基材は、少なくともニッケル系金属構造体を形成する表面上に金属または非金属を備えており、金属または非金属としては、例えば、ステンレス、アルミ、アルミナ、チタン等が挙げられる。
【0019】
ニッケル系金属構造体は、露出した非担持ニッケル含有層を備えていることが好ましい。「非担持」とは、触媒成分としてのニッケル系金属が、活性炭や多孔性酸化物等の多孔性担体上で粒子として分散して存在しているのではなく、組織化されて存在することを意味する。「組織化」とは、粒子同士が一部領域において溶着していることであってもよいし、全部領域で溶着していることであってもよいし、全体が溶融した後、冷却固化していることであってもよい。ニッケル系金属構造体は、好ましくはmmレベル、より好ましくはμmレベル、さらに好ましくはnmレベルで組織化している。
【0020】
ニッケル系金属構造体は、表面が多孔質であることが好ましい。多孔質とは、以下の(ア)〜(ウ)の少なくともいずれか1つであることを意味する。(ア)気孔率が80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、(イ)比表面積は、200m
2/m
3〜6000m
2/m
3、好ましくは500m
2/m
3〜8500m
2/m
3、表面の層の厚みは、0.05mm〜1mm、好ましくは0.1mm〜0.8mmである。
ニッケル系金属構造体は、露出した非担持ニッケル含有層であり、なおかつ表面が多孔質である場合、ニッケル含有層自体が多孔質であることを意味し、基材は必ずしも多孔質でなくてもよいが、基材が多孔質であってもよい。
【0021】
以上のようなニッケル系金属構造体の製造方法には、原構造体に対して、溶射、ポーラスメッキ、ニッケルメッキおよび/またはブラスト加工を施す工程が含まれる。ニッケル系金属構造体は、原構造体が非ニッケル系金属からなるものであれば、通常ポーラスメッキ加工またはニッケルメッキ加工によってニッケルを含む層を構造体表面に積層することで製造することができ、次いで適宜ブラスト加工を行えば、表面が多孔質状のニッケル系金属構造体を製造することができる。一方、原構造体がニッケル系金属からなるものであれば、ブラスト加工を行うことで、表面が多孔質状のニッケル系金属構造体を製造することができる。ニッケルメッキ加工は、電解もしくは無電解のいずれであってもよく、その条件は、所望の厚みや表面粗度に応じて、当業者により適宜設定される。原構造体がニッケル−アルミニウム合金であれば、アルカリ溶解処理する方法を採用することもできる。
【0022】
原構造体は、一般には、ニッケル系金属構造体または非ニッケル系金属構造体であるが、後工程で除去される芯材であってもよい。例えば、ニッケル系金属の発泡体はウレタンフォーム等を芯材とし、そのフォーム表面にニッケル層を電解メッキ等によって形成した後に、芯材であるウレタンフォームを焼成により除去することで製作することができる。
【0023】
以下、上述したニッケル系金属構造体を使用した装置の実施例について詳述する。
(第1実施形態)
図1に示す本発明の水素生成装置1は、反応区画3、シューター区画5および反応室下部開口12を有する反応容器2と、反応容器2の上部を閉塞する蓋4と、蓋4の側面から下面に向かって蓋内部を貫通し原料としての炭化水素ガスを反応区画3に導入する原料ガス供給管6と、蓋4の中央部を貫通し反応区画3の中心部を占有するように鉛直方向に延びる排出管8と、反応区画3の空間を画定するように反応容器2の内壁7に沿って配置された、両端が開口した円筒形のニッケル系金属構造体9と、原料ガス供給管6を通じて原料ガスが反応区画3の空間に導入される際、ニッケル系金属構造体9と原料ガスとの接触を促進する整流筒11と、反応区画3を加熱するため反応容器2の外壁を覆うヒーター10とを備える。
【0024】
上記水素生成装置1においては、以下のような固体生成物の分離方法が利用できる。すなわち、(1)装置内に底面から離れた状態で保持したニッケル系金属構造体に対して反応ガスおよび/または生成ガスを噴射する方法である。本方法は、原料ガス供給管6とは別に、反応区画3において反応容器の内壁7と触媒9との間に先端が位置するようにテーパー形状の噴射用ノズル(図示せず)を備え付けて、該ノズルを反応容器外に設けた圧縮機(図示せず)と連結することによって実現できる。生成ガスや反応ガスと生成ガスとの混合物を噴射する場合、原料ガスや反応ガスと生成ガスとの混合物の一部を圧縮機に導入する管を設けることで実現できる。
【0025】
図1に示す水素生成装置1は、ニッケル系金属構造体9を用いた炭化水素の直接分解反応によって生成した固体生成物を排出し回収するシステム101を結合している。
排出回収システム101は、水素生成装置1の反応室下部開口12にベント孔14を介して連絡する減圧チャンバ13と、ベント孔14を開閉可能な第1開閉弁17と、減圧チャンバ13にチャネル16を介して連絡する回収箱18と、減圧チャンバ13を開閉可能な第2開閉弁19と、回収箱18に連絡する減圧ポンプ15とを備えている。本システムでは、第1開閉弁17の配置位置は、シューター区画5の最下点にある固体生成物の排出口12に設けているので、固体生成物の排出口12が排気口を兼ねている。
【0026】
本システムによれば、(ア)第1開閉弁17を閉じ、第2開閉弁19を開く。(イ)減圧ポンプ15で減圧チャンバ13および回収箱18内を減圧する。(ウ)第2開閉弁19を閉じる。(エ)第1開閉弁17を開く。(オ)第1開閉弁17を閉じる。(カ)第2開閉弁19を開く、という一連の作業により、固体生成物が適宜シューター区画5を滑って反応室下部開口12から減圧チャンバ13、回収箱18に重力を利用しつつ順次吸引される形で排出回収される。
【0027】
(第2実施形態)
図5に示す水素生成装置21では、蓋44の中央部を貫通し反応区画33の中心部を占有するように鉛直方向にヒーター30を延ばし、該ヒーター30の周りに円筒状のニッケル系金属構造体29を固定し、さらに反応容器2の内壁27上部に円環状に付設した棚31の上には、ニッケル系金属構造体29の上端よりも上方に位置するようにバネ32を介して衝撃印加部材34を支持させる一方、反応容器2の内壁27下部に反応容器2の外部と連絡する水平な第1チャネル22を連結し、第1チャネル22内にベント孔24と、当該ベント孔24を開閉する開閉弁26とを備える。
【0028】
上記水素生成装置21においては、以下のような固体生成物の分離方法が利用できる。すなわち、(工程2−1)装置外の気圧に比べて、装置内の気圧を相対的に高くした状態で直接分解反応を行うこと、(工程2−2)所望のタイミングで装置の内外の気圧を等しくすることにより、気圧変化を直接的または間接的要因とする打撃をニッケル系金属構造体に加え、ニッケル系金属構造体に付着した固体生成物を分離することを含む方法である。
(工程2−1)の直接分解反応の際は、装置内に十分な圧力で反応ガス等を導入できるのであれば、装置の内から外へ向かう気体の流れを必ずしも遮断する必要はないが、遮断することが好ましい。気体の流れの遮断は、開閉弁26を閉じることで実現できる。一方、(工程2−2)において所望のタイミングで装置の内外の気圧を強制的に等しくすることは、閉じていた開閉弁26を瞬間的に開くことで実現できる。
「装置外の気圧に比べて、装置内の気圧を相対的に高くした状態」とは、一般に気圧差にして、+0.01MPa〜+0.5MPa、好ましくは、+0.01MPa〜+0.2MPa、より好ましくは、+0.02MPa〜+0.1MPa、さらに好ましくは、+0.03MPa〜+0.08MPaである。上記気圧差は、装置外の気圧を下げること、および/または、反応物としての気体の供給圧や生成物としての気体の量を調整して装置内の気圧を上げることによって実現することができる。
「気圧変化を直接的または間接的要因とする打撃」とは、気圧変化自体によって打撃を加えるか、気圧変化の力学的作用で動く物体を介して打撃を加えるかのいずれかを意味する。
【0029】
図5の装置構成は、蓋44の側面から蓋内部を貫通するように原料ガス供給管46を設けている点では、
図1の装置構成と同じであるが、蓋の下面を貫通する位置がヒーター30の近傍であり、排出管48が反応区画33の下部の内壁を貫通するように設けている点において相違する。
【0030】
図5に示す水素生成装置21は、ニッケル系金属構造体29を用いた炭化水素の直接分解反応によって生成した固体生成物を排出し回収するシステム121を結合している。
図5に示す排出回収システム121では、反応区画33と減圧チャンバ23とを水平に連絡する第1チャネル22を設け、該減圧チャンバ23に連絡する減圧ポンプ25を設け、第1チャネル22の途中にベント孔24を設けてこれを開閉する開閉弁26を設ける一方、シューター区画35の最下点に位置する下部開口43に開閉弁なしで連絡する回収箱28を設けている。
【0031】
本システム121によれば、ベント孔24を閉じて水素生成装置21を運転しているときは、衝撃印加部材34とニッケル系金属構造体29とがバネ32によって所定の間隔を保持している一方、ベント孔24を開いたときは、反応区画33内に充満するガスが反応区画33外に放出される際の気圧変化によって、衝撃印加部材34がニッケル系金属構造体29の上端に当接するように作用し、やがて気圧が反応区画33外と等しくなればバネ32の復元力によって元の所定間隔を保持する位置に戻るように作用する。したがって、(サ)開閉弁26を閉じる。(シ)減圧ポンプ25で減圧チャンバ23を減圧する。(ス)開閉弁26を開ける、という作業を任意のタイミングかまたは定期的に繰り返すことで、その都度衝撃印加部材34による衝撃がニッケル系金属触媒29に加わり、分離した固体生成物が、適宜シューター区画35を滑って反応室下部開口43から重力落下し、回収箱28に回収される。固体生成物が回収箱にある程度溜まった後は、反応炉を停止し、回収を行う。
図5のシステムは、
図1のシステムに比べて小規模の水素生成装置に好適なシステムであるといえる。
【0032】
(第3実施形態)
図6に示す水素生成装置51は、原料ガス供給管76の流路内に原料ガスの供給圧で動作するシリンダ66を設けた点、反応容器52内に吊り下げたラック72内にニッケル系金属構造体59を搭載した点、シリンダ66とともにシリンダ室67を画定するピストン68が、ラック72を揺動する力を加えるように構成した点、で
図5に示す水素生成装置21と異なる。
【0033】
図8(a)には、シリンダ66の詳細な構造を示しており、ピストン68が最下端に下がった際、シリンダ室67と反応区画63とが連絡するように、シリンダ66の側方に脱気孔71を設けてある。すなわち、シリンダ66は、原料ガス供給管76とは別系統で原料ガスを供給するように構成している。
【0034】
図7(a)に示すラック72は、概ね円柱状の輪郭形状で、上端面81と下端面83にある大径リング82a,82bを鉛直方向上下に延びる2本のポール84、90で相互に固定した構造を有する。大径リング82は、ヒーター収容部60の外径より大きな内径を有する小径リング85とブリッジ86を介して同一面上で一体化している。大径リング82と小径リング85とは中心を共有しており、当該中心から放射方向(径方向)に沿って向かい合う位置に合計30箇所、等間隔に切り欠き溝87が設けられている。下端面83上のブリッジ86bの中程からは、鉛直下方に垂下支柱88が2本延びており、垂下支柱88の下端には、大径リング82bおよび小径リング85bと同軸上に足場リング89が吊り下げられている。なお、ポール90は、上端面81の高さを超えて鉛直上方に延びており、その上端にはピストン当接フランジ91を備えている。小径リング85a上には揺動支点としての軸受92が設けられ、ラック72は、軸受92を中心として、反応容器52および/またはヒーター収容部60に固定された図示しない棒によって揺動可能に支持されている。
【0035】
図7(b)は、板状のニッケル系金属構造体59を30枚、ラック72の上端面81から切り欠き溝87に嵌合するように収容した状態を示す。ここで、ニッケル系金属構造体59は、板厚を切り欠き溝87より薄くしてあり、板幅は大径リング82および小径リング85の切り欠き溝87間の距離にほぼ等しく、板の高さはラック72の上端面81から足場リング89までの距離よりやや長い程度にしてある。これによりラック72が幾分揺れたり傾いたりしてもニッケル系金属構造体59の位置がずれたり脱落したりしないようになっている。
【0036】
ピストン68の動きとラック72の位置との関係について以下に説明する。
シリンダ室67に反応ガスが充填されていない状態では、ラック72は、
図6で見て、上端面81が左側に向くように傾いており、その結果、反応容器52の内壁57にポール90の下端が当接した状態となっている(標準位置)。予め傾けておく方法としては、例えば、ブリッジ86aの上に重りを載せる方法等を採用することができる。このとき、ピストン68の下端は、ピストン当接フランジ91と常に当接しながら、上昇した状態にある。原料ガス供給孔69を通じてシリンダ66に徐々に反応ガスを導入するにつれ、シリンダ室67内の圧力が高まるとともに、ピストン68の降下が始まり、
図8(a)に示す位置で、ピストン68の下端が、ラック72のピストン当接フランジ91と当接する。原料ガス供給孔69を通じてさらに原料ガスを供給すると、ピストン68の下端面は徐々にピストン当接フランジ91を押し込み、
図8(b)のようにピストン当接フランジ91の上面と面接触した状態となる。このとき、ラック72の姿勢は、ポール90の中心軸が鉛直方向と一致した状態に変化している。さらに原料ガスを供給し、シリンダ室67内の圧力を高めると、
図8(c)のように、シリンダ室67と反応区画63とが連通するとともに、ポール84の下端が反応容器52の内壁57に当接した状態に達する。このとき、脱気孔71から反応区画63に向けて急激に反応ガスが放出され、シリンダ室67の急激な内圧低下と重り等による付勢によって、ピストン68は
図8(a)の位置に戻る。
以上のラックによれば、シリンダ室67への反応ガスの供給速度を維持する場合、ピストン68は
図8(a)と
図8(c)の状態を行き来し、その結果、
図6で見て、反応容器52の左側の内壁57をポール84の下端で小突くことを繰り返す。その衝撃は、ポール84を通じてラック72全体、ひいては搭載されたニッケル系金属構造体59にまで伝わり、反応に伴って生成した微細な付着物を振り落とす効果をもたらす。なお、シリンダ66への反応ガスの供給は、衝撃を断続的に加えたいときに、間歇的に行ってもよいし、衝撃を持続的に加えたいときは、運転中連続的に行ってもよい。いずれにしても、反応ガスを利用するため、反応に全く悪影響なく効果的な衝撃を加えることができる。
一方、反応ガスのシリンダ66への供給を止めたとき、ピストン68の上端が脱気孔71より低ければ、ラック72は、重力により右に揺動し、ピストン68もラック72からの力に屈して上方に変位し、
図8(a)の位置で止まる。ピストン68の上端が脱気孔71より高ければ、ラック72はそのままの姿勢を保つ。
【0037】
(第4実施形態)
図9に示す水素生成装置131は、反応容器132を覆う蓋134の下面に、上下端面を開放された円筒周壁を有する円筒型ラック142が接合されており、当該円筒型ラック142にニッケル系金属構造体139を搭載し、蓋134の上面から蓋134の内部を貫通し、円筒型ラック142の内側空間143に連絡するように原料ガス供給管136を設けている。また蓋134の上面には、原料ガス供給管136を覆うように熱交換器135を設け、反応容器132の内周壁上端に排出管138を設けている。本構成により、反応ガスは原料ガス供給管136を通る際に熱交換器135から供給される熱で予備加熱されつつ円筒型ラック142の内側空間143に導入され、ニッケル系金属構造体139に接触しながら鉛直下方に流通する一方、生成ガス(反応ガスとの混合ガスであり得る)は反応炉内筒145の周壁と反応容器132の内壁とで画定される触媒が存在しない空間を鉛直上方に流通し、排出管138から反応容器132の外部に逃げる管型連続式反応器として機能するようになっている。
【0038】
円筒型ラック142には、ニッケル系金属構造体139が複数枚収容されている。
本実施形態では、
図10に示すように、反応ガスを流通させる方向に対して垂直な断面を視たとき、隣接する2つのニッケル系金属構造体の間隔が、径方向に沿ったいずれの間隔計測位置144a,144b,144cでもほぼ等間隔になるように、ニッケル系金属構造体139を同じ向きに、同じ曲率で湾曲させて配置している。
本実施形態は、ガス流路137が円筒型ラック142の内側空間143に限定されており、かつワンパスであることから、ガスが流通する過程でニッケル系金属構造体139の全体に均一な流速で接触することが好ましいが、ニッケル系金属構造体139を湾曲させて配置したことで、ガスの流量が径方向外側ほどより多く流通するといった流量ムラが生じることなく、均一な流量で鉛直下方に流通することになり、特に連続式反応器として有用となる。
【0039】
(実施例1−水素生成装置試作機T7の開発と2日間無触媒昇温試験)
触媒を配置しなかったほかは
図1に示す水素生成装置と同様の構成を有する、セラミック製の円筒形断熱材で周囲を被覆したヒーターで周囲を覆った、反応区画の容積が約30Lの円筒形炉内に、メタンを圧力0.14MPa、流量3.0L/分で導入しながら装置温度を上げていき、
図2に示す2箇所に設置した熱電対1−A−2、1−A−6によって常時温度計測を行いつつ、気体熱伝導式ガスアナライザ1−A−10(品番KD−12C−T1、ゼロガス:清浄大気100%、スパンガス:水素100%、ゼロ点未調整、新コスモス電機社製)を大気放出するパイプに取付けて計測した。ここで、水素ガスの濃度は、生成した水素ガスを常温にまで下げてから計測したが、ガスアナライザ1−A−10は、メタンガス中の水素濃度を測るものではなく、空気中の水素濃度を測るものであったため、初期値が大きく、バックグラウンドを差し引いた値で
図3を作成した。なお、メタンの直接分解反応は、反応ギブス自由エネルギーΔGr=50.8kJ/molであり、900℃における平衡定数K=exp(−50.8/RT)=0.998であり、吸熱反応であることから、ルシャトリエの原理により、加熱すると、無触媒でも分解反応が進行するものである。
【0040】
図3および以下の表1から表3の生データに示すように、装置加熱開始から5時間程度でヒーター制御温度1−A−6、触媒表面温度1−A−2がほぼ870℃に到達し、その後3時間程度ほぼ一定のまま保たれた。その間、気体熱伝導式ガスアナライザ1−A−10で測定したところ、約16%前後で安定し、維持されていることがわかった。これは生成炭素が触媒の働きをしているものと推察される。さらに、炉内には、フィルム状の生成炭素が堆積していた。
【0042】
(実施例2−ニッケル多孔体を用いた昇温試験)
ニッケル多孔体を反応炉内壁に沿って設けた水素生成装置T7を用いた以外は、実施例1と同様の条件で昇温実験を行った。ヒーター温度が実験開始から4時間で約960℃に到達した後は、約870℃に下げて2時間保持し、約800℃で3時間保持した。なお、水素濃度が最初の時間ほとんど0になっているのは、生成ガスを大気放出しているので、反応炉の温度がある程度上昇するまではメタンを大気中に放出するだけになるので、大気放出するバルブを閉めていたからである。結果を
図4に示す。
【0043】
図4に示すように、ニッケル多孔体は、従来ニッケルが関与する不均一系反応において露出表面積を増やすために常識的に行われてきたニッケル粒子担持法に比べて、9時間以上にわたり、意外にも安定的に活性を維持することができることがわかった。また、水素濃度は、ヒーター温度を下げることで順次低下したが、800℃でも30%前後の値を維持することができた。この原因は明らかではないが、生成炭素そのものが触媒の働きをしたか、生成炭素によって、触媒を担持する担体の孔が塞がれることがないためと考えられる。
【0044】
(実施例3−ニッケルパーマロイを用いた連続的昇温実験3)
ニッケルパーマロイ(パーマロイB、YFN-45-R、DOWAメタル社製)を使用し、実施例3と同様の条件で昇温実験を行った。その結果、ニッケル多孔体を使用した場合に比べて、ヒーター温度が825℃付近までの水素濃度や、ヒーター温度950℃(触媒表面温度にして900℃)での安定性の観点では幾分劣るものの、
図11に示すように、800℃で16日間という長期間にわたり連続的な運用が可能であることが実証された。
【0045】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記実施形態に説明される構成のすべてが本発明の必須要件であるとは限らない。本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当該技術的範囲に属する限り種々の改変等の形態を採り得る。例えば、上記実施形態では、メタンガスが反応容器上部から順次下部まで充満していくことや、生成した炭素が重力によって落下し触媒から分離することを考慮し、ニッケル系金属構造体を両端が開口した円筒形状とし、その反応器内における位置を反応器の内周壁に沿った位置に配置したが、それに代えて、平板状の触媒を反応区画内で並列に立て置きや立てて吊るすこともできる。また、
図1の水素生成装置1に
図5の排出回収システム121を結合してもよいし、
図5の水素生成装置21に排出回収システム101を結合してもよい。そのほか、
図6に示す水素生成装置51ではラックを吊り下げて(すなわち、重心の上に揺動支点を設けて)反応室の内壁に衝突するように構成したが、特に大型の装置の場合は、反応室の下部に揺動する支点を設けて(すなわち、重心の下に揺動支点を設けて)ラックを反応室内に固定した障害物(ストッパー)に衝突するように構成してもよい。また、
図6に示す水素生成装置51と異なり、反応容器52の内壁57にポール90の下端が当接した状態で、ピストンが、ピストン当接フランジと接していない状態であってもよい。さらに、ラックを傾けておくことは、ニッケル系金属構造体のラック内配置を等間隔とせず、揺動支点に対して重心を偏らせることによっても可能である。さらに、
図10では、ニッケル系金属構造体を同じ向きおよび曲率で湾曲させて配置したが、隣接するニッケル系金属構造体同士の間隔が任意の間隔計測箇所でほぼ等間隔になるのであれば、必ずしも湾曲させる必要はなく、反応容器の構造によって様々な形状をとり得る。