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特開2021-67199真空排気装置および真空排気装置の起動方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-67199(P2021-67199A)
(43)【公開日】2021年4月30日
(54)【発明の名称】真空排気装置および真空排気装置の起動方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20210402BHJP
【FI】
   F04D19/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-191225(P2019-191225)
(22)【出願日】2019年10月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(74)【代理人】
【識別番号】100202854
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 卓行
(72)【発明者】
【氏名】芦田 修
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA11
3H131CA40
(57)【要約】
【課題】チャンバ容積を予め記憶させるという準備作業を必要としない、操作性に優れた真空排気装置の提供。
【解決手段】真空排気装置1は、ターボ分子ポンプ10と、補助ポンプ20と、補助ポンプ20の起動時から補助ポンプ20の吸気口側圧力がターボ分子ポンプ起動可能圧力P2よりも高い所定圧力P1となるまでの経過時間t1を計測する計測部としての圧力スイッチ30および計時部413と、計測された経過時間t1に基づいて、補助ポンプ20の起動時から吸気口側圧力がターボ分子ポンプ起動可能圧力P2となるまでの経過時間t2を算出する演算部411と、補助ポンプ20の起動時から経過時間t2が経過したならばターボ分子ポンプ10を起動する起動制御部412と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボ分子ポンプと、
前記ターボ分子ポンプの排気側に接続された補助ポンプと、
前記補助ポンプの起動時から前記補助ポンプの吸気口側圧力がターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高く大気圧よりも低い所定圧力となるまでの第1の経過時間を計測する計測部と、
前記計測部で計測された前記第1の経過時間と、前記大気圧と、前記所定圧力とに基づいて、前記補助ポンプの起動時から前記吸気口側圧力が前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力となるまでの第2の経過時間を算出する演算部と、
前記補助ポンプの起動時から前記第2の経過時間が経過したときに前記ターボ分子ポンプを起動する起動制御部と、を備える真空排気装置。
【請求項2】
請求項1に記載の真空排気装置において、
前記計測部は、
前記補助ポンプの吸気口側圧力を測定する圧力計または前記吸気口側圧力と大気圧との差圧を測定する差圧計と、
前記補助ポンプの起動から前記圧力計の測定圧力が前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高い所定圧力に達するまでの時間、または、前記補助ポンプの起動から前記差圧計の測定差圧が前記所定圧力と大気圧との差圧に達するまでの時間を、前記第1の経過時間として計時する計時部と、を備える真空排気装置。
【請求項3】
請求項1に記載の真空排気装置において、
前記計測部は、
前記補助ポンプの吸気口側圧力と大気圧との差圧が、前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高い所定圧力と大気圧との差圧に達したことを報知する信号を出力する圧力スイッチと、
前記補助ポンプの起動から前記圧力スイッチから前記信号が出力されるまでの時間を前記第1の経過時間として計時する計時部と、を備える真空排気装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の真空排気装置において、
前記所定圧力と大気圧との差圧は−75kPaから−95kPaまでの範囲に設定される、真空排気装置。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の真空排気装置において、
前記第1の経過時間をt1、大気圧をP0、前記所定圧力をP1、前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力をP2および前記第2の経過時間をt2としたとき、t2は下記式に基づいて算出される、
t2={log e(P0/P2)/ log e(P0/P1)}×t1
真空排気装置。
【請求項6】
ターボ分子ポンプと、前記ターボ分子ポンプの排気側に接続された補助ポンプとを備える真空排気装置の起動方法であって、
前記補助ポンプの起動時から前記補助ポンプの吸気口側圧力がターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高く大気圧よりも低い所定圧力となるまでの第1の経過時間を計測し、
前記第1の経過時間と、前記大気圧と、前記所定圧力とに基づいて、前記補助ポンプの起動時から前記吸気口側圧力が前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力となるまでの第2の経過時間を算出し、
前記補助ポンプの起動時から前記第2の経過時間が経過したときに前記ターボ分子ポンプを起動する、真空排気装置の起動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空排気装置および真空排気装置の起動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、任意の容積の真空容器をターボ分子ポンプと補助ポンプとの組合せで高真空または超高真空まで排気する場合、まず、補助ポンプを起動し、真空容器の圧力がターボ分子ポンプの連続運転可能な圧力(およそ10-1000Paの範囲)まで下がったならば、ターボ分子ポンプを起動する方法が採用されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、補助ポンプを起動した後の真空容器の圧力変化を推定し、補助ポンプ起動から推定圧力が上述した連続運転可能な圧力になるまでの経過時間を演算する。そして、実際に補助ポンプを起動してからその経過時間が経過した時点においてターボ分子ポンプを起動するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019−044746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の起動方法では、推定演算に必要なチャンバ容積、補助ポンプの排気速度を予め求めて記憶しておく必要がある。ターボ分子ポンプと補助ポンプとを備える真空排気装置は種々の真空容器の排気に利用されるものであり、特許文献1に記載の起動方法では、真空容器が異なるたびにチャンバ容積を調べて記憶させるという作業を行わなければならない。そのため、真空排気装置の起動前の準備作業に手間がかかり、仮にチャンバ容積記憶作業を忘れてしまった場合、ターボ分子ポンプが適切なタイミングで起動されないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様による真空排気装置は、ターボ分子ポンプと、前記ターボ分子ポンプの排気側に接続された補助ポンプと、前記補助ポンプの起動時から前記補助ポンプの吸気口側圧力がターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高く大気圧よりも低い所定圧力となるまでの第1の経過時間を計測する計測部と、前記計測部で計測された前記第1の経過時間と、前記大気圧と、前記所定圧力とに基づいて、前記補助ポンプの起動時から前記吸気口側圧力が前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力となるまでの第2の経過時間を算出する演算部と、前記補助ポンプの起動時から前記第2の経過時間が経過したときに前記ターボ分子ポンプを起動する起動制御部と、を備える。
本発明の第2の態様による真空排気装置の起動方法は、ターボ分子ポンプと、前記ターボ分子ポンプの排気側に接続された補助ポンプとを備える真空排気装置の起動方法であって、前記補助ポンプの起動時から前記補助ポンプの吸気口側圧力がターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高く大気圧よりも低い所定圧力となるまでの第1の経過時間を計測し、前記第1の経過時間と、前記大気圧と、前記所定圧力とに基づいて、前記補助ポンプの起動時から前記吸気口側圧力が前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力となるまでの第2の経過時間を算出し、前記補助ポンプの起動時から前記第2の経過時間が経過したときに前記ターボ分子ポンプを起動する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、チャンバ容積を予め記憶させるという準備作業を必要とせずに、ターボ分子ポンプを適切に起動することができ、操作性に優れた真空排気装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、真空排気装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、補助ポンプ起動後のチャンバ圧力変化の一例を示す図である。
図3図3は、チャンバ容積が異なる場合の排気曲線を示す図である。
図4図4は、起動処理の一例を示すフローチャートである。
図5図5は、標高と気圧との関係を示す図である。
図6図6は、圧力計測により経過時間t1を取得する場合の起動動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、真空排気装置1の概略構成を示す図である。真空排気装置1は、排気系としてターボ分子ポンプ10と、ターボ分子ポンプ10の排気側に設けられた補助ポンプ20とを備える。ターボ分子ポンプ10は、真空排気装置1により真空排気を行う真空チャンバ100に接続される。真空排気装置1は、さらに、補助ポンプ20の吸気口側の圧力を検出する圧力スイッチ30と、ターボ分子ポンプ10を駆動制御するTMP制御部11と、真空排気装置1の全体の制御を行うコントローラ40と、オペレータによって操作されるスイッチ等が設けられた入力操作部50とを備えている。図示は省略したが、入力操作部50には、真空排気装置1の電源をオンオフ操作するための電源スイッチ、排気系を起動させる起動スイッチ、排気系を停止させる停止スイッチ等が設けられている。
【0009】
ターボ分子ポンプ10および補助ポンプ20の起動および停止は、コントローラ40によって制御される。コントローラ40は、CPU41、RAMやROM等の記憶部42などを備えたマイクロコンピュータで構成される。CPU41は、記憶部42に格納されている制御プログラムに従い演算部411、起動制御部412、計時部413として機能し、TMP制御部11および補助ポンプ20を制御する。
【0010】
圧力スイッチ30は、補助ポンプ20の吸気口側の圧力と大気圧との差圧(ゲージ圧)を計測し、計測される差圧が予め設定した設定圧未満の場合にはオフ信号またはオン信号を出力し、差圧が設定圧に達するとオン信号またはオフ信号を出力する。以下では、差圧が設定圧未満の場合にはオフ信号を出力し、差圧が設定圧に達するとオン信号を出力する場合を例に説明する。起動制御部412は、圧力スイッチ30の出力信号に基づいてターボ分子ポンプ10の起動制御を行う。
【0011】
本実施の形態では、補助ポンプ20を起動してから補助ポンプ20の吸気口側圧力Pが所定圧力P1になるまでの排気時間、すなわち、補助ポンプ20の起動から吸気口側圧力Pが所定圧力P1になるまでの経過時間t1に基づいて、ターボ分子ポンプ10の起動タイミング(経過時間t2)を推定演算する。そして、補助ポンプ20の起動から経過時間t2が実際に経過した時点でターボ分子ポンプ10を起動する。ここで、補助ポンプ20の吸気口側の圧力とは、図1の補助ポンプ20の吸気口から真空チャンバ100の入口までの排気経路における任意の場所の圧力を意味する。すなわち、圧力スイッチ30は、補助ポンプ20の吸気口から真空チャンバ100の入口までの排気経路の任意の位置に設けることができる。
【0012】
図1に示す構成では、補助ポンプ20の吸気口からターボ分子ポンプ10の排気口までの排気経路の圧力を圧力スイッチ30により検出している。なお、ターボ分子ポンプ10が停止している状態においては、ターボ分子ポンプ10は、補助ポンプ20の排気に対して単なる排気経路として機能するだけである。
【0013】
図2は、図1の構成における補助ポンプ起動後の真空チャンバ100の圧力変化(すなわち、排気曲線)の一例を示したものである。図2の横軸は排気時間tを表し、縦軸は真空チャンバ100の圧力(絶対圧)を表す。排気曲線L1は真空チャンバ100の容積が1000(L)の場合を示しており、排気開始時の真空チャンバ100の圧力は大気圧P0(≒100,000Pa)で、t=t1には圧力スイッチ30がオンとなる所定圧力P1となり、t=t2にはターボ分子ポンプ10の起動可能圧力P2となる。前述したように、ターボ分子ポンプ10の連続運転可能な圧力は大気圧P0よりも低く、本実施の形態では、この連続運転可能な圧力のことを起動可能圧力P2と称することにする。
【0014】
圧力スイッチ30は吸気口側圧力Pと大気圧P0との差圧(すなわちゲージ圧)に応じてオンオフする。真空チャンバ100を補助ポンプ20で真空排気する場合、真空チャンバ100を含む補助ポンプ吸気口側の圧力Pは大気圧P0よりも低下するので、ゲージ圧である差圧P−P0(=−|P−P0|<0)はマイナスの値、すなわち負圧となる。図2に示す例では、圧力スイッチ30の設定差圧は−|P1−P0|に設定されている。t=0〜t1では検出される差圧の絶対である差圧の大きさ|P−P0|は設定差圧の大きさ|P1−P0|より小さく、圧力スイッチ30はオフ状態となっている。そして、t=t1にP=P1となると|P−P0|=|P1−P0|となり、圧力スイッチ30はオンする。
【0015】
補助ポンプ20の排気速度をS、チャンバ容積をVとすると、大気圧P0から圧力Pまでの排気時間tは次式(1)で算出される。
t=(V/S)log e(P0/P) …(1)
よって、吸気口側圧力Pが圧力スイッチ30がオンとなる所定圧力P1に達する時間t1(経過時間t1)は次式(2)で表され、吸気口側圧力Pがターボ分子ポンプ10の起動可能圧力P2に達する時間t2(経過時間t2)は次式(3)で表される。
t1=(V/S)log e(P0/P1) …(2)
t2=(V/S)log e(P0/P2) …(3)
【0016】
式(3)に示すように、吸気口側圧力Pが起動可能圧力P2に達する時間t2は、チャンバ容積Vおよび補助ポンプ20の排気速度Sに依存している。図3は、4種類の真空チャンバ100に対する排気曲線を示したものである。曲線L21,L22およびL23は、真空チャンバ100の容積が100(L),200(L)および342(L)の場合の排気曲線を示す。曲線L21,L22およびL23の圧力が起動可能圧力P2に達する時間は、それぞれt21,t22およびt23である。
【0017】
このように、真空チャンバ100の容積が異なると起動可能圧力P2に達する時間も異なるので、特許文献1のようにチャンバ容積Vおよび排気速度Sに基づいて時間t2を推定する方法の場合、接続する真空チャンバ100が変更されるたびに、真空チャンバ100に応じたチャンバ容積Vを計算して記憶させる必要があった。なお、チャンバ容積Vは、真空チャンバ100の容積と、真空チャンバ100と補助ポンプ20との間の排気経路の容積(すなわち、ターボ分子ポンプ10の容積と配管の容積)とを含む。
【0018】
ところで、式(3)に式(2)を適用すると、補助ポンプ20の起動から吸気口側圧力Pが起動可能圧力P2となるまでの経過時間t2は、次式(4)のように表される。式(4)はチャンバ容積Vや補助ポンプ20の排気速度Sに依存していないので、容積の異なる種々の真空チャンバ100に対して適用することができる。本実施の形態では、経過時間t1を測定により取得することで、チャンバ容積Vや補助ポンプ20の排気速度Sが未知であっても経過時間t2を推定することができる。
t2=K×t1 …(4)
ただし、K=log e(P0/P2)/ log e(P0/P1)である。
【0019】
定数Kに含まれる大気圧P0は、真空排気装置1が設置される環境の実際の圧力であるが、図1の記憶部42には、標準的な大気圧P0(例えば、100,000Pa)および搭載されているターボ分子ポンプ10の起動可能圧力P2に基づく定数Kが記憶されている。また、時間t1は補助ポンプ20の起動から圧力スイッチ30がオンとなるまでの経過時間であり、圧力スイッチ30からオン信号が出力されるタイミングを計時部413により取得することができる。すなわち、取得された経過時間t1を式(4)に代入して経過時間t2を算出し、補助ポンプ20の起動から経過時間t2が経過した時点でターボ分子ポンプ10を起動すれば良い。
【0020】
圧力スイッチ30や圧力スイッチ30の代わりに用いる真空計は、少なくとも大気圧P0から所定圧力P1までの圧力範囲が測定可能でなければならない。より安価な真空計を利用するためには、大気圧〜500Pa程度が測定可能な低真空用の真空計を用いるのが好ましい。差圧を検出する圧力スイッチであれば、低真空用の真空計に比べてより安価に入手することができる。
【0021】
(所定圧力P1の設定方法)
ところで、圧力スイッチ30を用いる場合、大気圧P0と吸気口側圧力Pとの差圧の大きさである絶対値|P−P0|が、設定差圧の大きさ|P1−P0|以下になることが必要である。しかしながら、大気圧P0は真空排気装置1の設置環境によって変化する。
【0022】
例えば、図5に示す標高と気圧との関係のように、標高0mでの大気圧P0が101,325Paであったとしても、標高に応じて大気圧P0の値が変化する。図5によれば標高2000mの大気圧P0は80kPaなので、計算上は設定差圧の大きさ|P1−P0|を80kPa未満に設定すれば、補助ポンプ20の排気により圧力スイッチ30からオン信号が出力され得る。
【0023】
例えば、設定差圧の大きさ|P1−P0|を75kPaに設定した場合には、排気開始時に0Paであった差圧の大きさ|P−80kPa|が75kPaに到達した時点で、すなわち、吸気口側圧力Pが5kPaまで低下した時点で、圧力スイッチ30からオン信号が出力される。一方、設定差圧の大きさ|P1−P0|を85kPaに設定した場合、|P−80kPa|における吸気口側圧力P(絶対圧)を仮にP=0Paまで排気できたとしても、差圧(ゲージ圧)の大きさ|P−80kPa|は80kPaまでしか増加することができない。すなわち、設定差圧を−85kPaに設定した場合には、補助ポンプ20による真空排気をどんなに長時間行っても圧力スイッチ30からオン信号が出力されることはなく、オペレータが手動でターボ分子ポンプ10を起動させる必要がある。
【0024】
すなわち、真空排気装置1を標高2000mでも使用できるためには、設定差圧の大きさを80kPa未満に設定する必要がある。設定差圧をそのように設定すれば、標高2000m以下の種々の大気圧環境において真空排気装置1を使用可能である。また、設定差圧の大きさを80kPa未満に設定した場合には、標高100m程度であれば、低気圧や台風の接近により気圧が低下した場合でも十分に対応することができる。
【0025】
なお、上述した設定差圧の設定方法は一例を示したものであり、設定差圧についてはある程度幅を持たせることができる。例えば、使用可能な標高を2500m程度まで拡大しようとした場合には設定差圧を−75kPaとすれば良く、逆に、使用可能な標高を600m程度まで制限しようとした場合には設定差圧を−95kPaに設定すれば良い。さらに、設定差圧を−75kPa〜−95kPaに設定することで、経過時間t1を測定誤差が問題とならない十分な長さに設定することができる。なお、ここでは、標高の変化に対して大気圧が標高0mの101,325Paから標高2000mの80kPaまで直線的に変化すると仮定し、標高が1m高くなると気圧が10.66Pa低下するとして計算した。
【0026】
また、極端な大気圧環境状況において、予め設定されている設定圧条件で圧力スイッチ30が適切に動作しない場合に備えて、ユーザが入力操作部50を操作して設定差圧を変更できるような構成としても良い。そのユーザ設定差圧は記憶部42に記憶され、予め記憶されている設定差圧の代わりに使用される。
なお、図4のテーブルを記憶しておき、真空排気装置1が使用される標高を作業者が入力し、その標高でテーブルを参照して大気圧P0を算出してもよい。あるいは、真空排気装置1に高度計を実装し、高度計からの標高データでテーブルを参照して大気圧P0を算出してもよい。
【0027】
(起動動作)
図4は、起動制御部412で実行される起動処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、入力操作部50に設けられた真空排気開始のための起動スイッチがオンされるとスタートする。ステップS10では、補助ポンプ20を起動すると共に、計時部413による計時を開始する。ステップS20では、圧力スイッチ30から出力される信号がオン信号か否か、すなわち検出される差圧「−|P−P0|」が設定差圧「−|P1−P0」に達したか否かを判定し、オン信号と判定されるとステップS30へ進む。差圧が設定差圧に達していない場合にはステップS20の処理が繰り返し実行され、差圧が設定差圧に達するとステップS30へ進む。なお、設定差圧の設定方法については後述する。
【0028】
ステップS30では、差圧が設定差圧に達するまでの計時部413の計時時間、すなわち、補助ポンプ20を起動してから圧力スイッチ30がオンとなるまでの時間を、経過時間t1として取得する。ステップS40では、取得された経過時間t1と式(4)とに基づいて、補助ポンプ起動から吸気口側圧力Pがターボ分子ポンプ10の起動可能圧力P2に達するまでの経過時間t2、すなわち、補助ポンプ起動からターボ分子ポンプ10の起動までの経過時間t2を推定演算する。
【0029】
ステップS50では、補助ポンプ20の起動からの経過時間である計時部413の計時時間が、ステップS40で推定演算した経過時間t2に達したか否かを判定し、t=t2となったならばステップS60へ進む。ステップS60では、ターボ分子ポンプ10を起動すると共に、計時部413の計時を停止する。
【0030】
このように、本実施の形態では、補助ポンプ20を起動してから圧力スイッチ30がオンとなるまでの時間を計測して、その計測値に基づいて吸気口側圧力Pがターボ分子ポンプ10の起動可能圧力P2に達するまでの経過時間t2を算出している。そのため、特許文献1に記載の起動方法のようにチャンバ容積Vを予め記憶部42に記憶させておく必要がなく、真空排気装置1を異なる真空チャンバ100に装着する度に行われるチャンバ容積Vの記憶設定作業を省略することが可能となる。
【0031】
(変形例)
上述した実施の形態では、圧力スイッチ30のオン・オフ信号を利用して経過時間t2の推定演算を行った。しかし、圧力スイッチには、差圧に対応したアナログ出力(電圧)が出力されるものもあり、そのアナログ出力値が設定差圧に対応する値に達した時の計時時間を経過時間t1として取得するようにしても良い。また、補助ポンプ20の動作圧力範囲が計測可能な低真空用の真空計で圧力を計測して、経過時間t1を取得するようにしても良い。
【0032】
図6は、吸気口側圧力を計測して経過時間t1を取得する場合の起動動作の一例を示すフローチャートである。図6のフローチャートは、図4のフローチャートのステップS20の処理を、ステップS25に示すような処理に変更したものである。すなわち、ステップS10で補助ポンプ20を起動した後の吸気口側圧力Pが、図2に示す所定圧力P1に達したか否かを判定する。そして、P=P1となったならば、ステップS30に進んで計時部413の計時時間を経過時間t1として取得する。ステップS40〜ステップS60までの処理は、上述した図4の場合と同様なので説明を省略する。なお、圧力スイッチ30のアナログ出力(電圧)を利用して経過時間t1として取得する場合も、絶対圧ではなく差圧を用いる点が異なるだけで、図6の場合と同様な処理となる。
【0033】
上述のように、図4に示す起動動作における圧力スイッチ30のオンオフ動作は、吸気口側圧力Pと大気圧P0との差圧であるゲージ圧に基づいている。そのため、真空排気装置1の設置環境を考慮して設定差圧(P1−P0)を設定する必要がある。
【0034】
一方、図6に示す起動動作のように圧力スイッチ30の差圧信号に代えて真空計で計測される絶対圧を吸気口側圧力Pに用いる場合には、ステップS25のように吸気口側圧力Pが所定圧力P1に達したか否かを判定して経過時間t1を取得する。そのため、所定圧力P1の設定に関しては、圧力スイッチ30を用いる場合の差圧設定に関する上記問題は生じない。ただし、一般的に圧力スイッチ30に比べて、絶対圧を計測するピラニー真空計等の真空計は高価であるため、コスト上昇を招くという欠点がある。
【0035】
上述した例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0036】
[1]一態様に係る真空排気装置は、ターボ分子ポンプと、前記ターボ分子ポンプの排気側に接続された補助ポンプと、前記補助ポンプの起動時から前記補助ポンプの吸気口側圧力がターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高く大気圧よりも低い所定圧力となるまでの第1の経過時間を計測する計測部と、前記計測部で計測された前記第1の経過時間と、前記大気圧と、前記所定圧力とに基づいて、前記補助ポンプの起動時から前記吸気口側圧力が前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力となるまでの第2の経過時間を算出する演算部と、前記補助ポンプの起動時から前記第2の経過時間が経過したときに前記ターボ分子ポンプを起動する起動制御部と、を備える。
【0037】
すなわち、計測部である図1の圧力スイッチ30および計時部413により計測される第1の経過時間t1に基づいて、補助ポンプ20の起動時から補助ポンプ20の吸気口側圧力がターボ分子ポンプ10の起動可能圧力P2となるまでの第2の経過時間t2を算出し、補助ポンプ20の起動時から第2の経過時間t2が経過したタイミングでターボ分子ポンプ10を起動する。したがって、経過時間t2の算出にチャンバ容積データを必要としない。そのため、従来のように、接続される真空容器が異なるたびにチャンバ容積を調べて記憶させる作業を必要とせず、起動操作が簡単な操作性に優れた真空排気装置1とすることができる。
【0038】
[2]上記[1]に記載の真空排気装置において、前記計測部は、前記補助ポンプの吸気口側圧力を測定する圧力計または大気圧と前記吸気口側圧力との差圧を測定する差圧計と、前記補助ポンプの起動から前記圧力計の測定圧力が前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高い所定圧力に達するまでの時間、または、前記補助ポンプの起動から前記差圧計の測定差圧が前記所定圧力と大気圧との差圧に達するまでの時間を、前記第1の経過時間として計時する計時部と、を備える。
【0039】
例えば、第1の経過時間t1を計測する計測部としては、図1に示す圧力スイッチ30および計時部413のように、圧力スイッチ30から出力される差圧信号(吸気口側圧力と大気圧との差圧を表す信号)が差圧=所定圧力P1−大気圧P0を表す差圧信号に達するまでの経過時間t1を計時部413で計時する構成でも良いし、圧力計で測定された吸気口側圧力がターボ分子ポンプ10の起動可能圧力P2よりも高い所定圧力P1に達するまでの経過時間t1を計時部413で計時する構成でも良い。
【0040】
[3]上記[1]に記載の真空排気装置において、前記計測部は、前記補助ポンプの吸気口側圧力と大気圧との差圧が、前記ターボ分子ポンプ始動可能圧力よりも高い所定圧力と大気圧との差圧に達したことを報知する信号を出力する圧力スイッチと、前記補助ポンプの起動から前記圧力スイッチから前記信号が出力されるまでの時間を前記第1の経過時間として計時する計時部と、を備える。
【0041】
例えば、計測部として圧力スイッチ30と計時部413とを備え、補助ポンプ20の起動から圧力スイッチ30から報知信号が出力されるまでの時間、すなわち、補助ポンプ起動から吸気口側における差圧(P−P0)が所定圧力P1と大気圧P0との差圧(P1−P0)に達するまでの時間を第1の経過時間t1として計時するような構成であっても良い。
【0042】
[4]上記[2]または[3]に記載の真空排気装置において、前記所定圧力と大気圧との差圧は−75kPaから−95kPaまでの範囲に設定される。すなわち、計測部として圧力スイッチ30と計時部413とを備える構成において、差圧(P1−P0)を−75kPaから−95kPaまでの範囲に設定することで、経過時間t1を測定誤差が問題とならない十分な長さに設定しつつ、真空排気装置1の使用環境圧力に幅を持たせることができる。
【0043】
[5]上記[1]から[4]までのいずれか一項に記載の真空排気装置において、前記第1の経過時間をt1、大気圧をP0、前記所定圧力をP1、前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力をP2および前記第2の経過時間をt2としたとき、t2は式「t2={log e(P0/P2)/ log e(P0/P1)}×t1」に基づいて算出されるのが好ましい。
【0044】
[6]一態様に係る真空排気装置の起動方法は、ターボ分子ポンプと、前記ターボ分子ポンプの排気側に接続された補助ポンプとを備える真空排気装置の起動方法であって、前記補助ポンプの起動時から前記補助ポンプの吸気口側圧力がターボ分子ポンプ起動可能圧力よりも高く大気圧よりも低い所定圧力となるまでの第1の経過時間を計測し、前記第1の経過時間と、前記大気圧と、前記所定圧力とに基づいて、前記補助ポンプの起動時から前記吸気口側圧力が前記ターボ分子ポンプ起動可能圧力となるまでの第2の経過時間を算出し、前記補助ポンプの起動時から前記第2の経過時間が経過したときに前記ターボ分子ポンプを起動する。
【0045】
すなわち、計測された第1の経過時間t1と、大気圧P0と、圧力スイッチ30がオンする所定圧力P1とに基づいて、補助ポンプ20の起動時から吸気口側圧力がターボ分子ポンプ10の起動可能圧力P2となるまでの第2の経過時間t2を式(4)により算出し、第2の経過時間t2に基づいてターボ分子ポンプ10を起動する。したがって、経過時間t2の算出にチャンバ容積データを必要としない。そのため、従来のように、接続される真空容器が異なるたびにチャンバ容積を調べて記憶させる作業を必要としない。
【0046】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1…真空排気装置、10…ターボ分子ポンプ、20…補助ポンプ、30…圧力スイッチ、40…コントローラ、42…記憶部、50…入力操作部、100…真空チャンバ、411…演算部、412…起動制御部、413…計時部
図1
図2
図3
図4
図5
図6