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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-70767(P2021-70767A)
(43)【公開日】2021年5月6日
(54)【発明の名称】エラストマー成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 15/02 20060101AFI20210409BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20210409BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20210409BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20210409BHJP
【FI】
   C08L15/02
   C08K3/04
   C08L27/12
   C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-199234(P2019-199234)
(22)【出願日】2019年10月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】上野 真寛
(72)【発明者】
【氏名】武山 慶久
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC121
4J002BD141
4J002BD151
4J002DA016
4J002DA038
4J002DA047
4J002EC047
4J002EC057
4J002EK007
4J002EU197
4J002FA056
4J002FD016
4J002FD018
4J002FD147
4J002GJ02
(57)【要約】
【課題】ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性に優れるエラストマー成形体を提供する。
【解決手段】ケイ素化合物からなる被接触部材に接触して用いる、エラストマー架橋物からなるエラストマー成形体であって、前記エラストマー架橋物は、含フッ素エラストマーと、炭素材料と、架橋剤とを含む架橋性エラストマー組成物を架橋してなり、前記炭素材料は、繊維状炭素ナノ構造体を含み、前記エラストマー架橋物の体積抵抗率の変動係数が0.20以下であり、前記エラストマー架橋物に対して300℃で24時間の熱老化試験を行った際に、前記熱老化試験前の前記エラストマー架橋物の表面硬度(H)と、前記熱老化試験後の前記エラストマー架橋物の表面硬度(H)とが、H>Hを満たす、エラストマー成形体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物からなる被接触部材に接触して用いる、エラストマー架橋物からなるエラストマー成形体であって、
前記エラストマー架橋物は、含フッ素エラストマーと、炭素材料と、架橋剤とを含む架橋性エラストマー組成物を架橋してなり、
前記炭素材料は、繊維状炭素ナノ構造体を含み、
前記エラストマー架橋物の体積抵抗率の変動係数が0.20以下であり、
前記エラストマー架橋物に対して300℃で24時間の熱老化試験を行った際に、前記熱老化試験前の前記エラストマー架橋物の表面硬度(H)と、前記熱老化試験後の前記エラストマー架橋物の表面硬度(H)とが、H>Hを満たす、エラストマー成形体。
【請求項2】
前記含フッ素エラストマーが、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、四フッ化エチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル系ゴム(FFKM)、テトラフルオロエチレン系ゴム(TFE)の少なくともいずれかを含む、請求項1に記載のエラストマー成形体。
【請求項3】
前記炭素材料がさらにカーボンブラックを含み、
前記架橋性エラストマー組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して5質量部以上40質量部以下である、請求項1または2に記載のエラストマー成形体。
【請求項4】
前記繊維状炭素ナノ構造体が、カーボンナノチューブである、請求項1〜3のいずれかに記載のエラストマー成形体。
【請求項5】
前記架橋性エラストマー組成物中の前記カーボンナノチューブの含有量が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して0.1質量部以上15質量部以下である、請求項4に記載のエラストマー成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラストマー成形体に関し、特にケイ素化合物からなる被接触部材との粘着や固着を抑制しつつ、200℃以上の高温条件下でも繰り返し使用可能なエラストマー成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造装置などで用いられるOリングやパッキン等のシール材として、耐熱性や耐薬品性の観点から含フッ素エラストマー成形体が多く用いられている。
【0003】
一方、半導体製造装置に含まれるチャンバーや覗き窓等には、不純物の混入を極力抑制することができ、かつ高温での運転に耐えうる石英等のケイ素化合物が用いられている。
【0004】
しかし、含フッ素エラストマー成形体は耐熱性に優れるものの、長期間使用するとケイ素化合物からなるチャンバー等の被接触部材に対して粘着や固着現象を引き起こしてしまうため、装置の作動不具合や装置メンテナンスの負荷が大きいという欠点を有していた。
【0005】
例えば特許文献1には、含フッ素エラストマー成形体の表面に、アミド系ワックス被膜からなる固着防止層を形成したシール材を用いることにより、被接触部材に対する含フッ素エラストマー成形体の粘着および固着を抑える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−181602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示すシール材では、装置メンテナンス時に含フッ素エラストマー成形体から固着防止層が剥離することがあり、当該シール材の繰り返し使用が困難な場合がある。また、固着防止層は、含フッ素エラストマー成形体に比べて耐熱性の点で劣るため、シール材としての耐熱性が低下し、200℃以上の高温条件下では使用できない場合がある。
【0008】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、ケイ素化合物からなる被接触部材との粘着や固着を抑制しつつ、200℃以上の高温条件下でも繰り返し使用可能な(即ち、ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性に優れる)エラストマー成形体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、所定の組成を有する架橋性エラストマー組成物を架橋してなり、且つ、体積抵抗率の変動係数が所定値以下であると共に、熱老化処理の前後における表面硬度が所定の関係式を満たすエラストマー架橋物からなるエラストマー成形体が、ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性に優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のエラストマー成形体は、ケイ素化合物からなる被接触部材に接触して用いる、エラストマー架橋物からなるエラストマー成形体であって、前記エラストマー架橋物は、含フッ素エラストマーと、炭素材料と、架橋剤とを含む架橋性エラストマー組成物を架橋してなり、前記炭素材料は、繊維状炭素ナノ構造体を含み、前記エラストマー架橋物の体積抵抗率の変動係数が0.20以下であり、前記エラストマー架橋物に対して300℃で24時間の熱老化試験を行った際に、前記熱老化試験前の前記エラストマー架橋物の表面硬度(H)と、前記熱老化試験後の前記エラストマー架橋物の表面硬度(H)とが、H>Hを満たすことを特徴とする。このように、含フッ素エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体を含有する炭素材料と、架橋剤とを含む架橋性エラストマー組成物を架橋してなり、且つ、体積抵抗率の変動係数が上記値以下であると共に、熱老化処理の前後における表面硬度が上記の関係式を満たすエラストマー架橋物からなるエラストマー成形体は、ケイ素化合物からなる被接触部材に対して優れた非固着性を発揮することができる。
なお、本発明において、エラストマー架橋物の「体積抵抗率の変動係数」は、厚み2mmのエラストマー架橋物(幅150mm、長さ150mm)を測定サンプルとし、JIS K7194に準拠した方法で同一測定サンプル内において体積抵抗率を10点測定することで算出した。
また、本発明において、エラストマー架橋物の「表面硬度」は、厚み2mmのエラストマー架橋物(幅20mm、長さ30mm)を測定サンプルとし、JIS K6253−2に準拠した方法で評価した国際ゴム硬さ(IRHD)である。
【0011】
ここで、本発明のエラストマー成形体は、前記含フッ素エラストマーが、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、四フッ化エチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル系ゴム(FFKM)、テトラフルオロエチレン系ゴム(TFE)の少なくともいずれかを含むことが好ましい。含フッ素エラストマーが、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、四フッ化エチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル系ゴム(FFKM)、テトラフルオロエチレン系ゴム(TFE)の少なくともいずれかを含めば、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高めることができる。
【0012】
また、本発明のエラストマー成形体は、前記炭素材料がさらにカーボンブラックを含み、前記架橋性エラストマー組成物中の前記カーボンブラックの含有量が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して5質量部以上40質量部以下であることが好ましい。架橋性エラストマー組成物中のカーボンブラックの含有量が上述の範囲内であれば、エラストマー架橋物およびエラストマー成形体の耐圧縮永久歪み性を高めることができる。また、エラストマー成形体のシール性を十分に高く確保することができる。
【0013】
さらに、本発明のエラストマー成形体は、前記繊維状炭素ナノ構造体が、カーボンナノチューブであることが好ましい。繊維状炭素ナノ構造体としてカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう。)を含めば、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高めることができる。
【0014】
また、本発明のエラストマー成形体は、前記架橋性エラストマー組成物中の前記カーボンナノチューブの含有量が、前記含フッ素エラストマー100質量部に対して0.1質量部以上15質量部以下であることが好ましい。架橋性エラストマー組成物中のCNTの含有量が上述の範囲内であれば、エラストマー成形体の伸びが悪化することを抑制すると共に、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性に優れるエラストマー成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明のエラストマー成形体は、エラストマー架橋物からなる成形体であり、被接触部材に接触して用いられる。そして、エラストマー架橋物は、架橋性エラストマー組成物を架橋してなる。
【0017】
<被接触部材>
被接触部材は、例えば半導体装置等において、エラストマー成形体と接触している部材であり、ケイ素化合物からなる。ケイ素化合物としては、特に限定されず、既知のものを用いることができる。具体的には、ケイ素化合物としては、石英、ガラス、窒化ケイ素(Si)などが挙げられる。これらの中でも、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高める観点から、ガラス、窒化ケイ素が好ましい。なお、ケイ素化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
<架橋性エラストマー組成物>
架橋性エラストマー組成物は、架橋可能なエラストマー組成物であり、上述したエラストマー架橋物を製造する際に用いられる。そして、架橋性エラストマー組成物は、含フッ素エラストマーと、炭素材料と、架橋剤とを含む。なお、架橋性エラストマー組成物は、上記成分以外に、エラストマーの加工分野において通常使用される添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
<<含フッ素エラストマー>>
そして、含フッ素エラストマーとしては、特に限定されることなく、既知のものを用いることができる。具体的には、含フッ素エラストマーとしては、例えば、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、四フッ化エチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル系ゴム(FFKM)、テトラフルオロエチレン系ゴム(TFE)などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
また、含フッ素エラストマーは、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高める観点から、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、四フッ化エチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)、四フッ化エチレン−パーフルオロメチルビニルエーテル系ゴム(FFKM)、テトラフルオロエチレン系ゴム(TFE)の少なくともいずれかを含むことが好ましい。そして、上述した中でも、含フッ素エラストマーとしては、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、四フッ化エチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)を用いることがより好ましく、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)を用いることが更に好ましい。
【0021】
ここで、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)は、フッ化ビニリデンを主成分とし、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐溶剤性、加工性などに優れるフッ素ゴムである。FKMとしては、特に限定されないが、例えば、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとからなる二元共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとからなる三元共重合体、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンと加硫サイトモノマーとからなる四元共重合体などが挙げられる。市販品としては、例えば、ケマーズ株式会社の「バイトン(登録商標)」、ダイキン工業株式会
社の「ダイエル(登録商標)G」などが挙げられる。中でもフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとからなる二元共重合体が好ましい。当該二元共重合体は、例えば、市販品「バイトン A−500」(ケマーズ株式会社製)として入手可能である。
なお、本明細書において、「フッ化ビニリデンを主成分」とするとは、フッ化ビニリデン系ゴム中に含まれるフッ化ビニリデン単位が50質量%以上であることをいう。そして、フッ化ビニリデン系ゴム中に含まれるフッ化ビニリデン単位は、好ましくは50質量%超、より好ましくは100質量%である。
【0022】
また、四フッ化エチレン−プロピレン系ゴム(FEPM)は、テトラフルオロエチレンとプロピレンとの交互共重合体をベースとし、耐熱性、耐薬品性、耐極性溶剤性、耐スチーム性などに優れるフッ素ゴムである。FEPMとしては、特に限定されないが、例えば、テトラフルオロエチレンとプロピレンとからなる二元共重合体、テトラフルオロエチレンとプロピレンとフッ化ビニリデンからなる三元共重合体、テトラフルオロエチレンとプロピレンと架橋点モノマーとからなる三元共重合体などが挙げられる。テトラフルオロエチレンとプロピレンとからなる二元共重合体の市販品としては、例えば、AGC株式会社
の「アフラス(登録商標)100」及び「アフラス150」が挙げられる。テトラフルオロエチレンとプロピレンとフッ化ビニリデンとからなる三元共重合体の市販品としては、例えば、AGC株式会社の「アフラス200」が挙げられる。テトラフルオロエチレンとプロピレンと架橋点モノマーとからなる三元共重合体の市販品としては、例えば、AGC株式会社の「アフラス300」が挙げられる。
【0023】
そして、架橋性エラストマー組成物中の含フッ素エラストマーの含有割合は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、92質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、86質量%以下であることが更に好ましい。架橋性エラストマー組成物中の含フッ素エラストマーの含有割合が上記範囲内であれば、得られたエラストマー成形体において、含フッ素エラストマーの優れた効果が十分に発揮され得る。
【0024】
<<炭素材料>>
架橋性エラストマー組成物に用いられる炭素材料は、繊維状炭素ナノ構造体を含み、任意に、繊維状炭素ナノ構造体以外のその他の炭素材料を含む。
【0025】
[繊維状炭素ナノ構造体]
繊維状炭素ナノ構造体としては、例えば、カーボンナノチューブ等の円筒形状の炭素ナノ構造体や、炭素の六員環ネットワークが扁平筒状に形成されてなる炭素ナノ構造体等の非円筒形状の炭素ナノ構造体が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても良い。
【0026】
ここで、繊維状炭素ナノ構造体は、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高める観点から、カーボンナノチューブであることが好ましい。
【0027】
そして、架橋性エラストマー組成物中のカーボンナノチューブの含有割合は、含フッ素エラストマー100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。カーボンナノチューブの含有割合が含フッ素エラストマー100質量部当たり0.1質量部以上であれば、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高めることができる。また、カーボンナノチューブの含有割合が含フッ素エラストマー100質量部当たり15質量部以下であれば、架橋性エラストマー組成物を用いて形成したエラストマー成形体の伸びが悪化することを抑制することができる。
【0028】
―カーボンナノチューブ―
そして、繊維状炭素ナノ構造体としてのCNTとしては、単層CNTのみからなるCNTであってもよいし、多層CNTのみからなるCNTであってもよいし、単層CNTと多層CNTの混合物であってもよい。
【0029】
ここで、本発明のエラストマー成形体の、ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性を一層高める観点からは、繊維状炭素ナノ構造体中、単層CNTの含有割合は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0030】
〔単層CNT〕
ここで、炭素繊維状炭素ナノ構造体が単層CNTを含む場合、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示すことが好ましい。吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示す繊維状炭素ナノ構造体であれば、本発明のエラストマー成形体の柔軟性を向上させることができる。
なお、上記繊維状炭素ナノ構造体は、CNTの開口処理が施されておらず、t−プロットが上に凸な形状を示すことがより好ましい。
【0031】
ここで、一般に、吸着とは、ガス分子が気相から固体表面に取り去られる現象であり、その原因から、物理吸着と化学吸着に分類される。そして、t−プロットの取得に用いられる窒素ガス吸着法では、物理吸着を利用する。なお、通常、吸着温度が一定であれば、繊維状炭素ナノ構造体に吸着する窒素ガス分子の数は、圧力が大きいほど多くなる。また、横軸に相対圧(吸着平衡状態の圧力Pと飽和蒸気圧P0の比)、縦軸に窒素ガス吸着量をプロットしたものを「等温線」といい、圧力を増加させながら窒素ガス吸着量を測定した場合を「吸着等温線」、圧力を減少させながら窒素ガス吸着量を測定した場合を「脱着等温線」という。
【0032】
そして、t−プロットは、窒素ガス吸着法により測定された吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することにより得られる。即ち、窒素ガス吸着層の平均厚みtを相対圧P/P0に対してプロットした、既知の標準等温線から、相対圧に対応する窒素ガス吸着層の平均厚みtを求めて上記変換を行うことにより、繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットが得られる(de Boerらによるt−プロット法)。
【0033】
ここで、表面に細孔を有する試料では、窒素ガス吸着層の成長は、次の(1)〜(3)の過程に分類される。そして、下記の(1)〜(3)の過程によって、t−プロットの傾きに変化が生じる。
(1)全表面への窒素分子の単分子吸着層形成過程
(2)多分子吸着層形成とそれに伴う細孔内での毛管凝縮充填過程
(3)細孔が窒素によって満たされた見かけ上の非多孔性表面への多分子吸着層形成過程
【0034】
そして、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットは、窒素ガス吸着層の平均厚みtが小さい領域では、原点を通る直線上にプロットが位置するのに対し、tが大きくなると、プロットが当該直線から下にずれた位置となり、上に凸な形状を示すことが好ましい。かかるt−プロットの形状は、繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、繊維状炭素ナノ構造体に多数の開口が形成されていることを示している。
【0035】
なお、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のt−プロットの屈曲点は、0.2≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5を満たす範囲にあることがより好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0を満たす範囲にあることが更に好ましい。t−プロットの屈曲点の位置が上記範囲内にあると、繊維状炭素ナノ構造体の特性が向上し、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高めることができる。
ここで、「屈曲点の位置」とは、t−プロットにおける、前述した(1)の過程の近似直線Aと、前述した(3)の過程の近似直線Bとの交点である。
【0036】
更に、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、t−プロットから得られる全比表面積S1に対する内部比表面積S2の比(S2/S1)が、0.05以上であることが好ましく、0.06以上であることがより好ましく、0.08以上であることが更に好ましく、0.30以下であることが好ましい。S2/S1が0.05以上0.30以下であれば、繊維状炭素ナノ構造体の特性を向上させ、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を一層高めることができる。
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、特に限定されないが、個別には、S1は、600m/g以上1400m/g以下であることが好ましく、800m/g以上1200m/g以下であることがより好ましい。一方、S2は、30m/g以上540m/g以下であることが好ましい。
ここで、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の全比表面積S1および内部比表面積S2は、そのt−プロットから求めることができる。具体的には、まず、上述した(1)の過程の近似直線の傾きから全比表面積S1を、上述した(3)の過程の近似直線の傾きから外部比表面積S3を、それぞれ求めることができる。そして、全比表面積S1から外部比表面積S3を差し引くことにより、内部比表面積S2を算出することができる。
【0037】
因みに、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の吸着等温線の測定、t−プロットの作成、および、t−プロットの解析に基づく全比表面積S1と内部比表面積S2との算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0038】
そして、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は0.7〜15nmであることが好ましい。単層CNTの平均直径(Av)が上記範囲内であれば、多層CNTより少量の添加量で高い補強性を得られるため、エラストマー架橋物およびエラストマー成形体の硬度が上昇しにくく配合設計の自由度を上げることができる。
【0039】
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体としては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.80未満の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることがより好ましく、3σ/Avが0.70超の繊維状炭素ナノ構造体を用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.80未満の単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体を使用すれば、本発明のエラストマー成形体のケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性を一層高めることができる。
なお、「繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)」および「繊維状炭素ナノ構造体の直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径(外径)を測定して求めることができる。そして、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られた繊維状炭素ナノ構造体を複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0040】
更に、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、本発明のエラストマー成形体のケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性を一層高めることができる。なお、上記G/D比は、2以上であってもよいし、3以上であってもよく、また、10以下であってもよいし、5以下であってもよい。
【0041】
また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、合成時における繊維状炭素ナノ構造体の平均長さは100μm以上であることが好ましい。なお、合成時の繊維状炭素ナノ構造体の長さが長いほど、分散時に繊維状炭素ナノ構造体に破断や切断などの損傷が発生し易いので、合成時の繊維状炭素ナノ構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
そして、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比(長さ/直径)は、10を超えることが好ましい。なお、繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した繊維状炭素ナノ構造体100本の直径および長さを測定し、直径と長さとの比(長さ/直径)の平均値を算出することにより求めることができる。
【0042】
更に、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積は、600m/g以上であることが好ましく、800m/g以上であることがより好ましく、2500m/g以下であることが好ましく、1200m/g以下であることがより好ましい。単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が600m/g以上であれば、本発明のエラストマー成形体の耐熱性を向上させることができる。また、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のBET比表面積が2500m/g以下であれば、エラストマー成形体のケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性を一層高めることができる。
【0043】
そして、上述した性状を有する単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体は、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行うことで、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0044】
なお、スーパーグロース法により製造した単層CNTは、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTと、非円筒形状の炭素ナノ構造体とから構成されていてもよい。具体的には、単層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体には、内壁同士が近接または接着したテープ状部分を全長に亘って有する単層または多層の扁平筒状の炭素ナノ構造体(以下、「グラフェンナノテープ(GNT)」と称することがある。)が含まれていてもよい。
【0045】
〔多層CNT〕
また、多層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の平均直径(Av)は10〜60nmであることが好ましい。多層CNTの平均直径(Av)が上記範囲内であれば、単層CNTよりも分散性が高いため、エラストマー架橋物およびエラストマー成形体の可撓性が向上する。なお、「多層CNTの平均直径(Av)」は、上述の「単層CNTの平均直径(Av)」と同様の方法を用いて求めることができる。
【0046】
また、多層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体のアスペクト比(長さ/直径)は50以上であることが好ましく、100以上であることがより好ましく、2万以下であることが好ましい。アスペクト比が50未満であると、多層CNTは補強性に劣る。なお、「多層CNTのアスペクト比」は、上述の「単層CNTのアスペクト比」と同様の方法を用いて求めることができる。
【0047】
そして、エラストマー成形体における多層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の配合量は、0.1〜15.0質量%であることが好ましい。多層CNTを含む繊維状炭素ナノ構造体の配合量が0.1質量%未満だと補強性に劣り、15質量%を超えると混練が難しくなる。
【0048】
[繊維状炭素ナノ構造体以外のその他の炭素材料]
繊維状炭素ナノ構造体以外のその他の炭素材料としては、特に限定されることなく、既知の炭素材料を用いることができる。具体的には、その他の炭素材料としては、粒子状炭素材料、繊維状炭素材料などを用いることができる。
粒子状炭素材料としては、特に限定されることなく、例えば、人造黒鉛、鱗片状黒鉛、薄片化黒鉛、天然黒鉛、酸処理黒鉛、膨張性黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛、およびカーボンブラックなどを用いることができる。また、繊維状炭素材料としては、繊維状炭素ナノ構造体以外であれば、特に限定されることなく、例えば、気相成長炭素繊維、有機繊維を炭化して得られる炭素繊維、およびそれらの切断物などを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
そして、その他の炭素材料としては、粒子状炭素材料を用いることが好ましく、カーボンブラックを用いることがより好ましい。その他の炭素材料としてカーボンブラックを使用すれば、エラストマー架橋物およびエラストマー成形体に適度な強度を付与し、エラストマー架橋物およびエラストマー成形体の耐圧縮永久歪み性を高めることができるからである。
また、架橋性エラストマー組成物中のカーボンブラックの含有量は、含フッ素エラストマー100質量部当たり、5質量部以上であることが好ましく、10質量部以上であることがより好ましく、40質量部以下であることが好ましく、35質量部以下であることがより好ましい。架橋性エラストマー組成物中のカーボンブラックの含有量が上記下限値以上であれば、エラストマー架橋物およびエラストマー成形体の耐圧縮永久歪み性を高めることができる。また、架橋性エラストマー組成物中のカーボンブラックの含有量が上記上限値以下であれば、エラストマー架橋物およびエラストマー成形体の柔軟性を良好に維持し、エラストマー成形体のシール性を十分に高く確保することができる。
【0050】
<<架橋剤>>
架橋剤は、上述した含フッ素エラストマーの分子同士を架橋することにより、得られるエラストマー架橋物およびエラストマー成形体に十分な弾性を与え、良好な耐圧縮永久歪み性を付与し得る成分である。
【0051】
そして、架橋剤としては、特に限定されることなく、架橋性エラストマー組成物に含まれている架橋性エラストマーを架橋可能な既知の架橋剤を用いることができる。具体的には、架橋剤としては、例えば、硫黄、ポリオール系架橋剤、パーオキサイド系架橋剤、トリアリルイソシアヌレートなどを用いることができる。これらの中でも、エラストマー架橋物およびエラストマー成形体の耐圧縮永久歪み性を高める観点から、ポリオール系架橋剤を用いることが好ましい。なお、これらの架橋剤は、1種単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
<<添加剤>>
架橋性エラストマー組成物に任意に配合される添加剤としては、例えば、架橋助剤や受酸剤を用いることができる。そして、架橋助剤としては、特に限定されることなく、例えば亜鉛華などを用いることができる。また、受酸剤としては、特に限定されることなく、例えば水酸化カルシウムや酸化マグネシウムを用いることができる。なお、これらの添加剤は、1種単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0053】
<エラストマー架橋物>
本発明のエラストマー成形体に用いられるエラストマー架橋物は、上述した架橋性エラストマー組成物を架橋してなる。そして、架橋性エラストマー組成物を架橋物とすることで、得られるエラストマー架橋物に所望の属性を付与することができる。
【0054】
[体積抵抗率の変動係数]
ここで、エラストマー架橋物の体積抵抗率の変動係数は、0.20以下であることが必要であり、0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることが更に好ましい。エラストマー架橋物の体積抵抗率の変動係数が0.20以下であることにより、CNT等の繊維状炭素ナノ構造体が均一に分散され、被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を十分に改善できる。
なお、エラストマー架橋物の体積抵抗率の変動係数は、エラストマー架橋物の形成に用いる架橋性エラストマー組成物中の成分の種類および/または量、架橋性エラストマー組成物の調製条件を変更することにより、調整することができる。例えば、架橋性エラストマー組成物中の炭素材料(CNTおよびカーボンブラックなど)の量を増やすことで変動係数を低下させることができる。また例えば、架橋性エラストマー組成物の調製に際し、高圧分散装置を用いた処理で当該組成物中の成分を分散させることで変動係数を低下させることができる。
【0055】
[表面硬度]
また、エラストマー架橋物の表面硬度は、熱老化試験前におけるエラストマー架橋物の表面硬度をH、熱老化試験後におけるエラストマー架橋物の表面硬度をHとすると、H>Hを満たすことが必要である。H>Hであることにより、熱老化によるエラストマー架橋物の軟化劣化が抑制され、ケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性を十分に改善できる。
なお、エラストマー架橋物のHとHの関係は、エラストマー架橋物の形成に用いる架橋性エラストマー組成物中の成分の種類および/または量、架橋性エラストマー組成物の調製条件を変更することにより、調整することができる。例えば、架橋性エラストマー組成物中の繊維状炭素ナノ構造体(CNTなど)の量を増やすことで、H>Hを満たすエラストマー架橋物を形成しうる架橋性エラストマー組成物の調製が容易となる。
【0056】
(エラストマー成形体)
本発明のエラストマー成形体は、エラストマー架橋物を成形してなり、被接触部材と接触する環境下で用いられる。ここで、本発明のエラストマー成形体は、上述したように体積抵抗率の変動係数が0.20以下であり、熱老化前と比較して熱老化後の表面硬度が増加する(すなわち、H>Hである)エラストマー架橋物を用いることにより、被接触部材に対して優れた非固着性を発揮することができる。
【0057】
ここで、本発明のエラストマー成形体がケイ素化合物からなる被接触部材に対して優れた非固着性を発揮することができる理由は、明らかではないが、300℃で24時間の熱老化処理によって、エラストマー成形体を形成するエラストマー架橋物の表面硬度が増加することで、エラストマー成形体と被接触部材との接触面積の増加を抑制し、エラストマー成形体と被接触部材との密着力を小さくすることができるためと推測される。
【0058】
本発明のエラストマー成形体の用途は特に限定されないが、通常、本発明のエラストマー成形体はケイ素化合物からなる被接触部材の表面と接触する環境下で使用される。具体的には、本発明のエラストマー成形体は、半導体製造装置、半導体搬送装置、液晶製造装置、真空機器等に用いるシール材として良好に使用することができる。そして、本発明のエラストマー成形体は、被接触部材の表面と接触する環境下で使用されたとしても、被接触部材の表面に固着し難いため、長寿命であり、再利用性に優れる。さらに、本発明のエラストマー成形体は、被接触部材の表面に固着し難く、被接触部材の表面から容易に剥がせるため、部品交換等の作業時間を短縮することができる。また、本発明のエラストマー成形体は、被接触部材の表面に固着し難く、エラストマー成形体を被接触部材の表面から剥がした際に母材破壊が生じ難いため、エラストマー成形体由来のエラストマー架橋物の一部が被接触部材の表面に残存して汚染が発生することを良好に防止することができる。したがって、本発明のエラストマー成形体を取り付けた装置および機器等は、メンテナンス性に優れている。
また、本発明のエラストマー成形体を、各種装置等における回転運動、往復運動、および繰り返し着脱等をする可動部に使用した場合、エラストマー成形体が当該可動部の被接触部材の表面に固着することによる動作上の問題が発生し難い。したがって、本発明のエラストマー成形体を用いれば、上述した可動部を安定的に制御することができる。
【0059】
本発明のエラストマー成形体は、用途に応じた任意の形状を有し得る。また、本発明のエラストマー成形体は、例えば、Oリング、パッキン、およびガスケットなどのシール材等として用いることができる。
【0060】
[架橋性エラストマー組成物の調製方法]
架橋性エラストマー組成物は、上述した成分を既知の方法で混合することにより調製することができる。例えば、含フッ素エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体を含む炭素材料とを混合してなる混合物を調製する混合工程を行なった後に、当該混合物と、架橋剤と、任意の添加等とを混練する混練工程を行なうことにより、架橋性エラストマー組成物を効率良く調製することができる。
【0061】
―混合工程―
混合工程では、含フッ素エラストマーと、炭素材料としてのCNTとを混合してなる混合物を調製する。
【0062】
含フッ素エラストマーとCNTとの混合物の調製は、含フッ素エラストマー中にCNTを分散させることが可能な任意の混合方法を用いて行うことができる。
例えば、有機溶媒などの分散媒に含フッ素エラストマーを溶解または分散させてなるエラストマー分散液に対し、CNTを添加し、既知の分散処理を行って、分散処理液を得ることができる。あるいは、CNTを、含フッ素エラストマーを溶解または分散することができる有機溶媒または分散媒に添加して分散処理を行い、得られたCNT分散液に含フッ素エラストマーを添加して、溶解または分散させて分散処理液を得ることもできる。
このようにして得られた分散処理液から、既知の方法により有機溶媒または分散媒を除去することより、含フッ素エラストマーとCNTとの混合物を調製することができる。
【0063】
当該分散処理は、既知の分散処理方法を用いて行うことができる。そのような分散処理方法としては、特に限定されず、例えば、高圧分散装置や超音波ホモジナイザーや湿式ジェットミルや高速回転せん断分散機やなどが挙げられる。
【0064】
そして、得られた分散処理液から分散媒を除去して、混合物を取得する。なお、分散媒を除去する方法としては、凝固法、キャスト法、および乾燥法などの既知の方法を用いることができる。
【0065】
―混練工程―
混練工程では、混合物と、架橋剤と、任意の添加剤等とを混練することにより、架橋性エラストマー組成物を取得する。
具体的には、上述の混合工程で得られた混合物に、架橋剤と、任意の添加剤、例えば、架橋助剤、および受酸剤などを更に含有させて、混練することによって、架橋性エラストマー組成物を得ることができる。当該混合物と架橋剤と任意の添加剤との混練は、例えば、ミキサー、一軸混練機、二軸混練機、ロール、加圧ニーダー、ブラベンダー(登録商標)、押出機などを用いて行うことができる。
なお、混練の際には、上述した成分に加えて、CNT以外の炭素材料(例えば、カーボンブラックなど)、および含フッ素エラストマーを更に添加してもよい。
【0066】
[エラストマー架橋物(エラストマー成形体)の製造方法]
エラストマー架橋物は、上述した架橋性エラストマー組成物を架橋することにより製造することができる。このとき、エラストマー架橋物を所望の形状とすることで、エラストマー成形体を製造することができる。具体的に、エラストマー成形体は、架橋性エラストマー組成物を加熱することにより、架橋反応を行ない、得られるエラストマー架橋物の形状を固定化することにより製造することができる。この場合において、例えば、架橋性エラストマー組成物を所望の形状の金型に投入して加熱することで、プレス成形と架橋とを同時に行なうことができる。なお、架橋は、一次架橋のみの1段階で行ってもよく、実施例に示すように一次架橋および二次架橋の2段階で行ってもよく、3段階以上で行ってもよい。例えば、架橋性エラストマー組成物を所望の形状の金型に投入して加熱することで、プレス成形と一次架橋とを同時に行なった後に、得られた一次架橋物をギヤー・オーブン等の加熱装置により再度加熱することで二次架橋を行なうこともできる。
なお、架橋反応の温度および時間等の条件は、本発明の所望の効果が得られる範囲内で適宜設定することができる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。そして、実施例および比較例において、エラストマー架橋物の体積抵抗率の変動係数、熱老化試験の前後におけるエラストマー架橋物の表面硬度、およびケイ素化合物からなる被接触部材に対するエラストマー成形体の非固着性は、以下の方法で評価した。
<体積抵抗率の変動係数>
実施例および比較例で得られたエラストマー架橋物としての架橋ゴムシート(幅150mm、長さ150mm、厚み2mm)について、抵抗率計(「ロレスタ−GX MCP−T700」、三菱ケミカルアナリテック社製)およびLSPプローブを用いて、同一サンプル内において体積抵抗率(Ω・cm)を計10点(列理方向5点、反列理方向5点)測定し、変動係数を算出した。
<表面硬度>
実施例および比較例で得られたエラストマー架橋物としての架橋ゴムシート(幅150mm、長さ150mm、厚み2mm)から試験片(幅20mm、長さ30mm)を打ち抜いて測定サンプルとし、表面硬度計(「全自動IRHDマイクロゴム硬さ測定システム」、ASKER社製)を用いて「熱老化試験前の表面硬度(H)」を測定した。さらに、ギヤー・オーブン(「ギヤー・オーブン S60」、東洋精機製作所社製)を用いて、測定サンプルを300℃で24時間熱老化処理してから23℃で16時間以上放冷した後、表面硬度計を用いて同様にして「熱老化試験後の表面硬度(H)」を測定した。
<非固着性の評価>
実施例および比較例で得られた成形体としての架橋ゴムシート(幅150mm、長さ150mm、厚み2mm)から試験片(幅5mm、長さ20mm)を打ち抜いて測定サンプルを作製した。測定サンプルを被接触部材上に静置し、さらにアルミホイル(剥離膜)およびアルミニウム板(A5052P)を載せた後、測定サンプルの圧縮率が10〜20%となるように加圧した。加圧した状態で、250℃に加熱したギヤー・オーブン内に90時間静置することで熱老化処理した後、速やかにギヤー・オーブンから取り出して圧力を開放し、測定サンプルを被接触部材から引き剥がした。その後、被接触部材の表面を目視で観察し、以下のように評価した。
○:測定サンプルの被接触部材の表面への固着なし
×:測定サンプルの被接触部材の表面への固着あり
【0068】
(実施例1)
<架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)の調製>
[混合物の調製]
有機溶媒としてのメチルエチルケトン(MEK)27.0kgに、「含フッ素エラストマー」としてのフッ化ビニリデン系ゴム(FKM;バイトン A500、ケマーズ社製)3.0kgを投入し、攪拌機を用いて23℃で8時間以上攪拌して溶解させて、含フッ素エラストマー溶液を調製した。この含フッ素エラストマー溶液に、「繊維状炭素ナノ構造体」としてのカーボンナノチューブ(ゼオンナノテクノロジー社製、製品名「ZEONANO SG101」、単層CNT、比重:1.7、平均直径:3.5nm、平均長さ:400μm、BET比表面積:1324m/g、G/D比:2.1、t−プロットは上に凸)を120g添加して、攪拌機で10分間攪拌した。
次いで、高圧分散装置(「ナノジェットパル(登録商標)JN1000」、常光社製)を使用して、圧力10MPaで1回分散処理した後、圧力50MPaで1回分散処理し、さらに圧力100MPaで5回分散処理して、分散処理液を得た。次いで、得られた分散処理液を120kgの水へ滴下し、凝固させて黒色固体を得た。そして、得られた黒色固体を80℃で12時間減圧乾燥し、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)とCNTとの混合物(FKM:CNT(質量比)=100:4)を得た。
[混練]
その後、水冷のオープンロールを用いて、上記で得られたフッ化ビニリデン系ゴム(FKM)とCNTとの混合物26部、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)75部、「カーボンブラック」としてのMT−CB(「サーマックスMT」、Cancarb社製)20部、酸化マグネシウム(「キョーワマグ150」、協和化学工業社製)3部、水酸化カルシウム(「CALDIC1000」、近江化学工業社製)6部、および「架橋剤」としてのポリオール系架橋剤(「バイトン キュラティブ VC#50」)2.5部を混練し、「架橋性エラストマー組成物」としてのゴム組成物を得た。
<エラストマー架橋物(エラストマー成形体)の調製>
さらに、得られた架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)を、温度170℃、圧力10MPaで15分間架橋して(一次架橋)、厚さ2mmのシート状の一次架橋物を得た。次いで、得られたシート状の一次架橋物を232℃で24時間架橋して(二次架橋)、本発明の「エラストマー架橋物(エラストマー成形体)」としての架橋ゴムシートを得た。
得られた架橋ゴムシートについて、上述の方法で「体積抵抗率の変動係数」および「表面硬度」を測定し、さらに被接触部材として窒化ケイ素(Si)を用いて「非固着性」を評価した。評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例2)
「非固着性」の評価時に、被接触部材としてガラスを用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)およびエラストマー架橋物(エラストマー成形体)を調製し、「体積抵抗率の変動係数」、「表面硬度」および「非固着性」を評価した。評価結果を表1に示す。
【0070】
(実施例3)
架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)の調製時に、MT−CB添加量を0質量部とした以外は、実施例2と同様にして架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)およびエラストマー架橋物(エラストマー成形体)を調製し、「体積抵抗率の変動係数」、「表面硬度」および「非固着性」を評価した。評価結果を表1に示す。
【0071】
(実施例4)
以下のようにして調製した架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)を使用した以外は、実施例2と同様にしてエラストマー架橋物(エラストマー成形体)を調製し、「体積抵抗率の変動係数」、「表面硬度」および「非固着性」を評価した。評価結果を表1に示す。
<架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)の調製>
[混合物の調製]
実施例1と同様にして、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)とCNTとの混合物を得た。
[混練]
その後、水冷のオープンロールを用いて、上記で得られたフッ化ビニリデン系ゴム(FKM)とCNTとの混合物104部、酸化マグネシウム(「キョーワマグ150」、協和化学工業社製)3部、水酸化カルシウム(「CALDIC1000」、近江化学工業社製)6部、および「架橋剤」としてのポリオール系架橋剤(「バイトン キュラティブ VC#50」)2.5部を混練し、「架橋性エラストマー組成物」としてのゴム組成物を得た。
【0072】
(比較例1)
以下のようにして調製した架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)を使用した以外は、実施例1と同様にしてエラストマー架橋物(エラストマー成形体)を調製し、実施例1と同様にして「体積抵抗率の変動係数」、「表面硬度」および「非固着性」を評価した。評価結果を表1に示す。
<架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)の調製>
[混合物の調製]
フッ素ゴムとCNTとの混合物の調製は行わなかった。
[混練]
水冷のオープンロールを用いて、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)100部、MT−CB(「サーマックスMT」、Cancarb社製)30部、酸化マグネシウム(「キョーワマグ150」、協和化学工業社製)3部、水酸化カルシウム(「CALDIC1000」、近江化学工業社製)6部、および「架橋剤」としてのポリオール系架橋剤(「バイトン キュラティブ VC#50」)2.5部を混練し、「架橋性エラストマー組成物」としてのゴム組成物を得た。
【0073】
(比較例2)
「非固着性」の評価時に、被接触部材としてガラスを用いた以外は、比較例1と同様にして架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)およびエラストマー架橋物(エラストマー成形体)を調製し、「体積抵抗率の変動係数」、「表面硬度」および「非固着性」を評価した。評価結果を表1に示す。
【0074】
(比較例3)
架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)の調製時に、高圧分散装置を用いた分散処理を実施しなかった以外は、実施例3と同様にして架橋性エラストマー組成物(ゴム組成物)およびエラストマー架橋物(エラストマー成形体)を調製し、「体積抵抗率の変動係数」、「表面硬度」および「非固着性」を評価した。評価結果を表1に示す。
【0075】
なお、以下に示す表1中、
「FKM」は、フッ化ビニリデン系ゴムを示し、
「CB」は、カーボンブラックを示し、
「BpAF」は、ポリオール系架橋剤を示し、
「MgO」は、酸化マグネシウムを示し、
「Ca(OH)」は、水酸化カルシウムを示し、
「Si」は、窒化ケイ素を示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1より、含フッ素エラストマーと、繊維状炭素ナノ構造体を含有する炭素材料と、架橋剤とを含む架橋性エラストマー組成物を架橋してなり、且つ、体積抵抗率の変動係数が所定値以下であると共に、熱老化試験前の表面硬度(H)および熱老化試験後の表面硬度(H)がH>Hを満たすエラストマー架橋物を用いた実施例1〜4では、ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性に優れるエラストマー成形体を作製できていることが分かる。
一方、繊維状炭素ナノ構造体を含まない架橋性エラストマー組成物を架橋してなり、且つ、熱老化試験前の表面硬度(H)および熱老化試験後の表面硬度(H)がH>Hを満たさないエラストマー架橋物を用いた比較例1および2では、ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性に優れるエラストマー成形体を作製できていないことが分かる。
また、体積抵抗率の変動係数が所定値よりも大きいエラストマー架橋物を用いた比較例3では、ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性に優れるエラストマー成形体を作製できていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、ケイ素化合物からなる被接触部材に対する非固着性に優れるエラストマー成形体を提供することができる。