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特開2021-72244イオン選択方法及びイオントラップ質量分析装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-72244(P2021-72244A)
(43)【公開日】2021年5月6日
(54)【発明の名称】イオン選択方法及びイオントラップ質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20210409BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20210409BHJP
【FI】
   H01J49/42
   G01N27/62 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-199816(P2019-199816)
(22)【出願日】2019年11月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小寺 慶
【テーマコード(参考)】
2G041
5C038
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041GA06
2G041GA08
2G041GA10
2G041GA13
2G041KA01
2G041KA03
5C038JJ06
5C038JJ07
5C038JJ11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イオントラップにおけるイオンの選択性を向上させる。
【解決手段】3以上の電極からなるイオントラップに捕捉されたイオンの中で、特定のm/zを持つ目的イオンを選択する方法であって、目的イオンを含む広いm/z範囲のイオンを選択的にイオントラップ内に残し、それ以外の不要なイオンを除去する粗分離ステップS13と、引き続いてイオントラップ内に残っているイオンに対するクーリングを行う第1クーリングステップS14と、クーリングが行われた状態のイオンに対して、目的イオンm/zよりも低いm/zのイオンを粗分離ステップよりも高い質量分離能で以て除去する低質量側イオン分離ステップS15及び、目的イオンのm/zよりも高いm/zのイオンを粗分離ステップよりも高い質量分離能で以て除去する高質量側イオン分離ステップS17を、その順序で、又はその逆の順序で行う高分離能分離ステップと、を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上の電極からなるイオントラップに捕捉されたイオンの中で、特定の質量電荷比を有する目的イオンを選択するイオン選択方法であって、
前記目的イオンを含む広い質量電荷比範囲のイオンを選択的にイオントラップ内に残し、それ以外の不要なイオンを除去する粗分離ステップと、
前記粗分離ステップに引き続いて、前記イオントラップ内に残っているイオンに対するクーリングを行う第1クーリングステップと、
前記第1クーリングステップによるクーリングが行われた状態のイオンに対して、前記目的イオンの質量電荷比よりも低い質量電荷比のイオンを前記粗分離ステップよりも高い分離能で以て除去する低質量側イオン分離ステップ、及び、前記目的イオンの質量電荷比よりも高い質量電荷比のイオンを前記粗分離ステップよりも高い分離能で以て除去する高質量側イオン分離ステップ、をその順序で、又はその逆の順序で行う高分離能分離ステップと、
を実行するイオン選択方法。
【請求項2】
前記第1クーリングステップに引き続いて実行される前記低質量側イオン分離ステップ又は前記高質量側イオン分離ステップに引き続いて、前記イオントラップ内に残っているイオンに対するクーリングを行う第2クーリングステップ、をさらに実行する、請求項1に記載のイオン選択方法。
【請求項3】
前記第2クーリングステップに引き続いて実行される前記高質量側イオン分離ステップ又は前記低質量側イオン分離ステップに引き続いて、前記イオントラップ内に残っているイオンに対するクーリングを行う第3クーリングステップと、をさらに実行する、請求項2に記載のイオン選択方法。
【請求項4】
前記イオントラップは、イオンを捕捉する電場を形成するために少なくとも1つの電極に矩形波電圧を印加するデジタル駆動方式のイオントラップであり、
前記粗分離ステップ、前記低質量側イオン分離ステップ、及び前記高質量側イオン分離ステップでは、マチュー方程式に基づく安定領域図上の動作線の位置を変更することで捕捉され得る下限質量又は上限質量を変えて一部イオンを排出するために、前記矩形波電圧のデューティ比を変更する操作を行う、請求項1〜3のいずれか1項に記載のイオン選択方法。
【請求項5】
3以上の電極から成るイオントラップと、
前記3以上の電極にそれぞれ所定の電圧を印加する電圧発生部と、
前記イオントラップの内部にクーリングガスを供給するガス供給部と、
前記イオントラップに試料由来の各種イオンが捕捉されている状態で、特定の質量電荷比を有する目的イオンを含む広い質量電荷比範囲のイオンを選択的に前記イオントラップ内に残し、それ以外の不要なイオンを除去する粗分離操作を行うように、前記電圧発生部で生成される電圧を制御し、該粗分離操作に引き続いて、前記イオントラップ内にクーリングガスを供給してイオンに対するクーリングを行うように前記ガス供給部を制御し、そのクーリングが行われた状態のイオンに対し、前記目的イオンの質量電荷比よりも低い質量電荷比のイオンを前記粗分離操作よりも高い質量分離能で以て前記イオントラップから除去する低質量側イオン分離操作と、前記目的イオンの質量電荷比よりも高い質量電荷比のイオンを前記粗分離操作よりも高い質量分離能で以て前記イオントラップから除去する高質量側イオン分離操作とを、その順序で、又はその逆の順序で実行するように、前記電圧発生部で生成される電圧を制御する制御部と、
を備える、イオントラップ質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電場の作用によってイオンを捕捉するイオントラップにおいて特定のイオンを選択するイオン選択方法、及び、該イオン選択方法を利用したイオントラップ質量分析装置に関する。ここでいうイオントラップ質量分析装置は、イオントラップと飛行時間型質量分析装置と組み合わせたイオントラップ飛行時間型質量分析装置(以下、慣用に従って「IT−TOFMS」と称すことがある)、イオントラップ自体の質量分離機能を利用して質量分析を行うイオントラップ型質量分析装置(以下、慣用に従って「IT−MS」と称すことがある)などを含む。
【背景技術】
【0002】
IT−TOFMSやIT−MSなどにおいてイオントラップは、高周波電場の作用によりイオンを捕捉して閉じ込めたり、特定の質量電荷比(m/z)を有するイオンを選別したり、さらにはそうして選別したイオンを衝突誘起解離(Collision-Induced Dissociation=CID)等の手法により解離させたりするために用いられる。典型的なイオントラップは、内面が回転1葉双曲面形状である1個のリング電極と、このリング電極を挟んで対向配置された内面が回転2葉双曲面形状である一対(2個)のエンドキャップ電極と、を含む3次元四重極型イオントラップであるが、これ以外に、互いに平行に配置された4本のロッド電極とその両端外側に配置されたエンドキャップ電極とを含むリニア型イオントラップも知られている。なお、本明細書では、便宜上、特に明記することなく3次元四重極型イオントラップを例に挙げて説明を進めるが、本発明はリニア型イオントラップにも適用可能である。
【0003】
IT−TOFMSやIT−MSにおいて高い品質のMSnスペクトル(プロダクトイオンスペクトル)を得るには、プリカーサイオンの選択性を高めることが重要である。即ち、プリカーサ分離の行程において、目的とする質量電荷比を含むできるだけ狭い質量電荷比幅のイオンをできるだけ多量に、つまりは効率良く分離してイオントラップ内に残すことが要求される。また、プリカーサイオンの選択性が同程度である場合には、できるだけ短い時間でプリカーサ分離の操作が終了することが望ましい。何故なら、プリカーサ分離に要する時間が短ければ、それだけMSn分析の繰り返しの頻度を高めることができ、分析スループットの向上等において有利であるからである。
【0004】
上記のような要求に対し、従来、様々なプリカーサ分離法が提案されている。例えば特許文献1には、矩形波電圧をリング電極に印加することでイオンの閉じ込めを行うデジタルイオントラップ(Digital Ion Trap、以下「DIT」称すことがある)において、高いイオン選択性を達成し得るイオン選択方法が開示されている。具体的に、特許文献1に記載の一つのイオン選択方法では、試料から生成された各種イオンをイオントラップ内に捕捉したあと、まず選択対象である特定の質量電荷比を含む広い質量電荷比範囲のイオンを選択的にイオントラップ内に残すような粗分離ステップを実行する。そのあとに、上記特定の質量電荷比よりも低い質量電荷比を有するイオンを粗分離ステップよりも高い質量分離能で以て除去する低質量側分離ステップと、上記特定の質量電荷比よりも高い質量電荷比を有するイオンを粗分離ステップよりも高い質量分離能で以て除去する高質量側分離ステップと、を順次実行することにより、最終的に上記特定の質量電荷比を含む狭い質量電荷比範囲のイオンを選択的にイオントラップ内に残すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/038672号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】古橋、ほか6名、「デジタルイオントラップ質量分析装置の開発」、島津評論、島津評論編集部、2006年3月31日、第62巻、第3・4号、pp.141-151
【非特許文献2】ブランシア(F.L.Brancia)、ほか4名、「デジタル・アシンメトリック・ウェイブフォーム・アイソレーション (DAWI) ・イン・ア・デジタル・リニア・イオン・トラップ (Digital Asymmetric Waveform Isolation (DAWI) in a Digital Linear Ion Trap)」、ジャーナル・オブ・アメリカン・ソサイエティ・フォー・マス・スペクトロメトリ(Journal of American Society for Mass Spectrometry)、2010年、21、pp.1530-1533
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した、粗分離ステップ、低質量側分離ステップ、及び高質量側分離ステップを順次実行するイオン選択方法は、原理的には、高いイオン選択性を達成し得るものであり、本発明者らによるシミュレーション実験によってもその性能が確認されている。しかしながら、この方法を実際の装置に適用すると、必ずしも期待されるような性能が得られない場合があることが本発明者らの実験により判明した。即ち、十分な量のイオンをイオントラップに残そうとすると質量分離能が低下し、逆に質量分離能を高くしようとするとイオントラップに残るイオンの量が少ない、という問題が生じ、質量分離能とイオン量(つまりはイオン感度)との両立が難しいという問題がある。
【0008】
本発明はこうした課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、プリカーサイオン等のイオン選択に際して高い質量分離能を確保しながらイオンの損失を抑えて十分な量のイオンをイオントラップ内に残すことができるイオン選択方法及びイオントラップ質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るイオン選択方法の一態様は、3以上の電極からなるイオントラップに捕捉されたイオンの中で、特定の質量電荷比を有する目的イオンを選択するイオン選択方法であって、
前記目的イオンを含む広い質量電荷比範囲のイオンを選択的にイオントラップ内に残し、それ以外の不要なイオンを除去する粗分離ステップと、
前記粗分離ステップに引き続いて、前記イオントラップ内に残っているイオンに対するクーリングを行う第1クーリングステップと、
前記第1クーリングステップによるクーリングが行われた状態のイオンに対して、前記目的イオンの質量電荷比よりも低い質量電荷比のイオンを前記粗分離ステップよりも高い分離能で以て除去する低質量側イオン分離ステップ、及び、前記目的イオンの質量電荷比よりも高い質量電荷比のイオンを前記粗分離ステップよりも高い分離能で以て除去する高質量側イオン分離ステップ、をその順序で、又はその逆の順序で行う高分離能分離ステップと、
を実行するものである。
【0010】
また上記課題を解決するために成された本発明に係るイオントラップ質量分析装置の一態様は、
3以上の電極から成るイオントラップと、
前記3以上の電極にそれぞれ所定の電圧を印加する電圧発生部と、
前記イオントラップの内部にクーリングガスを供給するガス供給部と、
前記イオントラップに試料由来の各種イオンが捕捉されている状態で、特定の質量電荷比を有する目的イオンを含む広い質量電荷比範囲のイオンを選択的に前記イオントラップ内に残し、それ以外の不要なイオンを除去する粗分離操作を行うように、前記電圧発生部で生成される電圧を制御し、該粗分離操作に引き続いて、前記イオントラップ内にクーリングガスを供給してイオンに対するクーリングを行うように前記ガス供給部を制御し、そのクーリングが行われた状態のイオンに対し、前記目的イオンの質量電荷比よりも低い質量電荷比のイオンを前記粗分離操作よりも高い質量分離能で以て前記イオントラップから除去する低質量側イオン分離操作と、前記目的イオンの質量電荷比よりも高い質量電荷比のイオンを前記粗分離操作よりも高い質量分離能で以て前記イオントラップから除去する高質量側イオン分離操作とを、その順序で、又はその逆の順序で実行するように、前記電圧発生部で生成される電圧を制御する制御部と、
を備えるものである。
【0011】
本発明に係るイオン選択方法が実施されるイオントラップ、及び、本発明に係るイオントラップ質量分析装置におけるイオントラップは、3次元四重極型イオントラップ又はリニア型イオントラップのいずれでもよい。また、本発明に係るイオントラップ質量分析装置において、試料由来のイオンを検出するために該イオンを質量電荷比に応じて分離する質量分離操作は、イオントラップ自体で行ってもよいし、イオントラップの外部に配置された飛行時間型質量分離器等の別の質量分離器を用いてもよい。
【発明の効果】
【0012】
イオントラップを備えた質量分析装置では、従来一般的に、イオンが持つ運動エネルギを減じるクーリング操作は、外部からイオントラップ内にイオンを導入して該イオンを捕捉したあと、及び、プリカーサイオンの選択操作が終了し例えば次のイオン解離行程に移行する直前に実施される。これに対し本発明に係るイオン選択方法及びイオントラップ質量分析装置では、目的イオンを含む、或る程度の広い質量電荷比範囲のイオンを選択する粗分離ステップが終了し、その次の、より高い質量分離能である低質量側イオン分離ステップ又は高質量側イオン分離ステップを実行する直前に、第1クーリングステップによるクーリング操作を実行する。
【0013】
粗分離ステップでは、例えば非特許文献1、2等に記載されているDAWI(Digital Asymmetric Waveform Isolation)や共鳴励起排出などの手法により、不要なイオンをイオントラップから除去するが、いずれの方法を用いるにしろ、イオントラップ内に残すべきイオンも少なからず励振されてしまう。そのため、粗分離ステップが終了した時点において、イオントラップ内に捕捉されているイオンは空間的に拡がって存在している。次の低質量側イオン分離ステップ又は高質量側イオン分離ステップにおける操作のための電場がイオントラップ内に形成されたとき、イオントラップの中心点から離れて存在しているイオンに対して作用する電場は必ずしも理想的ではない(理論通りの電場ではない)し、イオンの挙動は該イオンがその時点で有しているエネルギの影響を受ける。その結果として、高分離能分離ステップにおけるイオンの挙動が理論通りにはならず、目的イオン自体の量が減ってしまったり目的イオン以外の不所望のイオンの一部が除去されずに残ったりする。
【0014】
本発明に係るイオン選択方法及びイオントラップ質量分析装置の上記態様では、粗分離ステップが終了した時点においてイオントラップ内に捕捉されているイオンが有しているエネルギが、クーリングによって減じられ、該イオンはイオントラップの内部空間の中央付近に集まる。それにより、次の低質量側イオン分離ステップ又は高質量側イオン分離ステップにおける操作のための電場がイオントラップ内に形成されたとき、各イオンに作用する電場が理想に近いものとなり、且つ、クーリング前にイオンが持っていたエネルギの影響を軽減することができる。その結果、イオントラップから排除したい不所望のイオンを良好に排除するとともに、イオントラップ内に残したい目的イオンが排除されたり消失してしまったりすることを抑えることができる。
【0015】
このようにして本発明に係るイオン選択方法及びイオントラップ質量分析装置の一態様によれば、高い質量分離能で以てイオンを選択する際のイオンの選択性が向上し、目的イオンを高い質量分離能で以て効率良く、つまり大量にイオントラップ内に残すことができる。それにより、例えばイオントラップを用いた質量分析装置において、MSnスペクトルの品質を向上させることができる。具体的には、MSnスペクトルにおいて、目的イオン以外の不所望のプロダクトイオンが混じりにくくなるとともに、各プロダクトイオンの感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態であるDIT−TOFMSの要部の構成図。
図2】本実施形態のDIT−TOFMSにおけるイオン選択時の概略フローチャート。
図3】DAWIによるイオン排出操作を説明するためのマチューの安定領域図。
図4】DITにおいて電極に印加される矩形波電圧波形を示す図。
図5】DAWIによるイオン排出操作の際の矩形波電圧波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るイオントラップ質量分析装置の一実施形態であるデジタルイオントラップ飛行時間型質量分析装置(DIT−TOFMS)について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態によるDIT−TOFMSの要部の構成図である。
【0018】
本実施形態のDIT−TOFMSは、目的試料をイオン化するイオン源1と、3次元四重極型であるイオントラップ2と、飛行時間型質量分離器3と、イオン検出器4と、イオントラップ2の内部にクーリングガスやCIDガス等の所定のガスを供給するガス供給部5と、イオン検出器4で得られたデータを処理して例えばマススペクトル等を作成するデータ処理部6と、イオントラップ2を駆動するイオントラップ駆動部7と、各部を制御する制御部8と、を備える。
【0019】
イオン源1におけるイオン化法は特に限定されない。例えば、試料が液体状である場合には、エレクロトスプレイイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、大気圧光イオン化(APPI)法などの大気圧イオン化法が用いられる。また、試料が固体状である場合には、マトリクス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)などが用いられる。
【0020】
イオントラップ2は3次元四重極型の構成であり、環状であるリング電極21と、リング電極21を挟んで対向配置された一対のエンドキャップ電極22、24と、を含む。両エンドキャップ電極22、24の中心には、略一直線上に、イオン入射孔23とイオン出射孔25とが形成されている。
【0021】
飛行時間型質量分離器3は、その内部にイオンが飛行する飛行空間を形成するドリフトチューブ31を含む。なお、図1では、飛行時間型質量分離器3はリニア型の構成であるが、反射型、多重周回型などの任意の構成とすることができる。
イオン検出器4は例えば、入射したイオンを電子に変換するコンバージョンダイノードと、その変換された電子を増倍して検出する二次電子増倍管とからなるものとすることができる。
【0022】
なお、飛行時間型質量分離器3を設ける代わりに、イオントラップ2自体の質量分離機能を利用して、イオントラップ2から順番(質量電荷比の昇順又は降順)に排出したイオンを直接、イオン検出器4に導入して検出する構成としてもよい。
【0023】
イオントラップ駆動部7は、クロック発生部71、主電圧タイミング制御部72、補助電圧発生部73、主電圧発生部74、などを含む。主電圧発生部74は、リング電極21にイオン捕捉用の矩形波電圧を印加するものであり、第1電圧VHを発生する第1電圧源75と、第2電圧VL(VL<VH)を発生する第2電圧源76と、第1電圧源75の出力端と第2電圧源76の出力端との間に直列に接続された第1スイッチ77及び第2スイッチ78と、を含む。二つのスイッチ77、78は電力用MOSFET等、高速動作可能な電力用スイッチング素子である。
【0024】
主電圧タイミング制御部72は図示しないRF電圧波形記憶部を含み、RF電圧波形記憶部に予め格納されているRF電圧波形データを読み出し、該データに基づく例えば相補的な2系統の駆動パルスを生成して第1スイッチ77及び第2スイッチ78にそれぞれ供給する。第1スイッチ77がオンし第2スイッチ78がオフするとき主電圧発生部74から第1電圧VHが出力され、逆に、第2スイッチ78がオンし第1スイッチ77がオフするとき主電圧発生部74から第2電圧VLが出力される。したがって、主電圧発生部74の出力電圧VOUTは、理想的には、図4に示すような、ハイレベルがVH、ローレベルがVLである所定周波数fの矩形波電圧である。通常、VHとVLとは絶対値が同じで極性が逆の高電圧であり、その絶対値は数百V〜1kV程度である。また、周波数fは通常数十kHz〜数MHz程度の範囲である。
【0025】
また、リング電極21に印加される矩形波電圧は、通常、所定周波数の繰り返し波形であるが、RF電圧波形記憶部に格納するRF電圧波形データを適宜変更する又は切り替えることにより、デューティ比(図4中のd)を適宜に調整したり、2系統の駆動パルスが同時にオンしないように微妙にタイミングを調整したりする(その場合には、厳密にはハイレベル、ローレベル、及びゼロレベルの三値の波形となる)ことが可能である。したがって、デューティ比の調整や波形形状の変更は非常に容易であるとともに、高速に切り替えが可能である。
【0026】
補助電圧発生部73は、一対のエンドキャップ電極22、24にそれぞれ、直流電圧又は低電圧の矩形波信号を印加する。一般に、イオントラップ2内にイオンを導入する際や、イオントラップ2内に捕捉したイオンを飛行時間型質量分離器3に向けて射出する際には、一対のエンドキャップ電極22、24に直流電圧を印加する。また、イオン選択等のためにイオンを励振させる際には、低電圧矩形波信号をエンドキャップ電極22、24に印加する。
【0027】
非特許文献1に記載されているように、DITにおいて共鳴励起排出等を行う際には、通常、リング電極21に印加される矩形波電圧を1/4分周した周波数の低電圧矩形波信号をエンドキャップ電極22、24に印加する。そのためには、主電圧タイミング制御部72は、主電圧発生部74に供給する駆動パルスを1/4(又は適宜の比)で分周したパルス信号を補助電圧発生部73に与え、補助電圧発生部73はそのパルス信号に基づいて、周波数がf/4であって所定の波高値を有する低電圧矩形波信号を生成すればよい。通常、低電圧矩形波信号の波高値は、リング電極21に印加される矩形波高電圧の電圧値VH、VLに比べて格段に低い値であり、例えば、数V〜10V程度である。
【0028】
次に、本実施形態のDIT−TOFMSにおいてMS2分析を実行する際の動作を概略的に説明する。
イオン源1は導入された試料中の成分をイオン化する。生成された各種のイオンはイオン入射孔23を通してイオントラップ2の内部に導入される。このとき、主電圧発生部74から所定周波数の矩形波高電圧がリング電極21に印加される一方、エンドキャップ電極22、24はそれぞれ所定の電位に維持され、それによりイオントラップ2内に形成される捕捉電場によって各種イオンは捕捉される。そのあと、イオントラップ2において後述するようにプリカーサイオンの選択(プリカーサ分離)操作が行われ、特定の質量電荷比を有する目的イオン(プリカーサイオン)のみがイオントラップ2の内部に残される。
【0029】
次いで、ガス供給部5により所定の不活性ガスがCIDガスとしてイオントラップ2の内部に導入されるとともに、捕捉されているプリカーサイオンは電場により励振される。すると、プリカーサイオンは或る程度の大きさのエネルギを持ってCIDガスに接触し、解離を生じて多数のプロダクトイオンが生成される。生成されたプロダクトイオンはイオントラップ2の内部に蓄積される。所定のタイミングで、制御部8の指示に応じて主電圧発生部74からエンドキャップ電極22、24に所定の直流電圧が印加されると、それにより形成される電場によってイオンは初期エネルギを付与され、イオン出射孔25を通して射出される。射出された各種のプロダクトイオンは飛行時間型質量分離器3に導入され、ドリフトチューブ31内の飛行空間を飛行する間に質量電荷比に応じて分離されてイオン検出器4に到達する。
【0030】
質量電荷比が小さいイオンほど飛行速度が大きいため、短い飛行時間でイオン検出器4に到達する。イオン検出器4は、到達したイオンの量(又は数)に応じた検出信号を出力する。データ処理部6はこの検出信号を受けてデジタルデータに変換し、飛行時間とイオン強度との関係を示す飛行時間スペクトルを作成する。さらに、予め求めておいた較正情報を利用して飛行時間を質量電荷比に換算して、マススペクトル(プロダクトイオンスペクトル)を取得する。
【0031】
次に、本実施形態のDIT−TOFMSにおけるプリカーサ分離操作時の処理動作について、図2のフローチャートを参照して詳細に説明する。
上述したように、イオントラップ2の内部には、試料成分由来の各種のイオンが捕捉される(ステップS11)。そのあと、制御部8の指示を受けてガス供給部5は、所定の不活性ガス(ヘリウム、窒素、アルゴンなど)をクーリングガスとしてイオントラップ2内に供給する。捕捉電場によってイオントラップ2内に捕捉されているイオンはクーリングガスに接触し、運動エネルギを奪われる。即ち、捕捉されているイオンはクーリングされ、イオントラップ2の内部空間の中央付近に集まる(ステップS12)。
【0032】
続いて、予め指示されている質量電荷比を有するイオン、つまりはプリカーサイオンのみを選択的にイオントラップ2内に残すようにイオン選択行程が実施される。
まず、第1段階として、プリカーサイオンの質量電荷比を含む或る程度広い所定の質量電荷比範囲に入るイオンを残し、その範囲外の質量電荷比を持つイオンを排除するような粗分離操作を実行する(ステップS13)。この粗分離操作は質量分離能が低くてもよいが短時間でイオン除去が可能であることが望ましく、例えばDAWIなどを利用することができる。
【0033】
DAWIについては特許文献1、非特許文献1、2等に詳しく記載されているが、ここで簡単に説明する。
図3は、よく知られているマチュー方程式の解の安定条件に基づいて作成される、3次元四重極型イオントラップにおける安定領域図である。図3中、βz=0、βz=1(図示せず)、βr=0、及びβr=1で囲まれる斜線で示す範囲が、イオンがイオントラップの内部空間に安定に存在し得る安定領域である。
【0034】
通常のイオン捕捉状態では、図3中のaz=0の横線が動作線となり、幅広い質量電荷比範囲のイオンが安定領域内に入ることになる。つまり、幅広い質量電荷比範囲のイオンをイオントラップ内に安定的に捕捉することができる。DAWIやこれに類似したイオン選択方法によってイオンを排除する際には、動作線を図3中に太線矢印で示すように右上がり斜めに傾ける。すると、例えばその動作線は二点鎖線で示すようになり、その大部分が安定領域の外側に位置し、一部のみが安定領域を横切る。この動作線が安定領域の境界線と交差する点、具体的にはβz=0と交差する点が、イオントラップの内部に捕捉可能であるイオンの上限質量(HMCO=High Mass Cut Off)である。また、βr=1と交差する点が、イオントラップの内部に捕捉可能なイオンの下限質量(LMCO=Low Mass Cut Off)である。
【0035】
DITでは、イオンを捕捉するためにリング電極21に矩形波高電圧を印加しているが、DAWIでは、この矩形波電圧のデューティ比を変えることによって下限質量と上限質量を変化させる。上述したように、主電圧発生部74は短時間で矩形波電圧のデューティ比を変更することができるため、DAWIの手法では比較的短い時間で不要なイオンを排除することができる。
【0036】
上記粗分離操作では、イオントラップ2内に残すイオンの質量電荷比範囲は狭いほうがよいが、これを狭くしすぎると、目的とするプリカーサイオンが粗分離操作によって減少してしまう。そこで一般的に、粗分離操作では、プリカーサイオンの質量電荷比を中心に例えば±3〜5Da程度の範囲のイオンを残すようにするとよい。
【0037】
そのあと、粗分離操作に引き続いて、ステップS12と同様のクーリングを実行する(ステップS14)。即ち、制御部8の指示を受けてガス供給部5は、クーリングガスをイオントラップ2内に供給する。イオントラップ2内に捕捉されている粗分離操作後の所定の質量電荷比範囲のイオンは、クーリングガスに接触しクーリングされる。ステップS13の粗分離操作の際に、上記安定領域を外れる質量電荷比のイオンは大きく振動し、外部に排出されたり、電極21、22、24に接触して消失したりする。一方で、安定領域に含まれる質量電荷比のイオンも粗分離操作の際の電場の影響を多少は受けるため、或る程度の運動エネルギを付与されてイオントラップ2内で振動する。これに対し、粗分離操作に引き続いてクーリングを実施することで、粗分離の過程で励起された状態にあるイオンからエネルギを奪うことができ、それらイオンをイオントラップ2の内部空間の中央付近に集めることができる。
【0038】
ステップS14で十分なクーリングを行ったあと、第2段階の高質量分離能のイオン選択行程の一つとして、プリカーサイオンよりも低質量側に残っている不要イオンを除去する低質量側高分離能分離操作を実施する(ステップS15)。ここでは、この分離操作にもDAWIの手法を用いる。具体的には、制御部8の制御の下に、主電圧タイミング制御部72は、リング電極21に印加される矩形波高電圧のデューティ比がプリカーサイオンの質量電荷比に対応した所定の値になるようなパルス信号を生成し主電圧発生部74へと送る。これにより、主電圧発生部74からリング電極21に印加される矩形波高電圧のデューティ比は、例えば図5に示すように変化する。
【0039】
通常、図5(a)に示すように矩形波高電圧のデューティ比が0.5である場合、それによってイオントラップ2内に形成される捕捉用電場により実現される安定領域図上の動作線は、図3中のaz=0の横線となる。そして、上述したようにデューティ比が変更されると、安定領域図上の動作線は右上がりに傾き下限質量が変化する。したがって、この下限質量が目的のプリカーサイオンの質量電荷比よりも僅かに低くなるようにデューティ比を定めておけば、粗分離操作の結果、プリカーサイオンの質量電荷比よりも低い側に残っている不要なイオンは排除される。なお、このときには上限質量は目的のプリカーサイオンの質量電荷比よりも高い質量電荷比でありさえすればよいから、粗分離操作の際の上限質量よりも高い質量電荷比でよい。
【0040】
そのあと、低質量側高分離能分離操作に引き続いて、ステップS12、S14と同様のクーリングを実行する(ステップS16)。即ち、制御部8の指示を受けてガス供給部5は、クーリングガスをイオントラップ2内に供給する。イオントラップ2内に捕捉されている低質量側高分離能分離操作後の所定の質量電荷比範囲のイオンはクーリングガスに接触しクーリングされる。ステップS15の低質量側高分離能分離操作の際にも、安定領域に含まれる、イオントラップ2内に残すべき質量電荷比のイオンは或る程度励起され、イオントラップ2内で振動する。これに対し、低質量側高分離能分離操作に引き続いてクーリングを実施することで、低質量側高分離能分離の過程で励起された状態にあるイオンからエネルギを奪い、イオントラップ2の内部空間の中央付近に集めることができる。
【0041】
ステップS16で十分なクーリングを行ったあと、第2段階の高質量分離能のイオン選択行程における次の操作として、プリカーサイオンよりも高質量側に残っている不要なイオンを除去する高質量側高分離能分離操作を実施する(ステップS17)。ここでは、この分離操作にもDAWIの手法を用いる。具体的には、制御部8の制御の下に、主電圧タイミング制御部72は、リング電極21に印加される矩形波高電圧のデューティ比がプリカーサイオンの質量電荷比に対応した所定の値になるようなパルス信号を生成し主電圧発生部74へと送る。これにより、主電圧発生部74からリング電極21に印加される矩形波高電圧のデューティ比は変化し、安定領域図上の動作線は右上がりに傾いて上限質量が変化する。したがって、この上限質量が目的のプリカーサイオンの質量電荷比よりも僅かに高くなるようにデューティ比を定めておけば、粗分離操作の結果、プリカーサイオンの質量電荷比よりも高い側に残っている不要なイオンも排除される。なお、このときには下限質量は目的のプリカーサイオンの質量電荷比よりも低い質量電荷比でありさえすればよく、粗分離操作の際の下限質量よりも低い質量電荷比でよい。
【0042】
このように2段階のイオン選択操作によって目的とするプリカーサイオンのみをイオントラップ2内に残したあと、ステップS12、S14、S16と同様のクーリングを実行する(ステップS18)。即ち、制御部8の指示を受けてガス供給部5は、所定の不活性ガスをクーリングガスとしてイオントラップ2内に供給する。イオントラップ2内に捕捉されている粗分離操作後の所定の質量電荷比範囲のイオンはクーリングガスに接触しクーリングされる。
【0043】
こうして、本実施形態のDIT−TOFMSでは、目的とする質量電荷比を有するプリカーサイオンをイオントラップ2内に効率良く残すことができる。特に、イオントラップ2内に捕捉しているイオンの一部を排除するためにイオントラップ2内に形成する電場の状態を変更する際に、その変更に先立ってイオンのクーリングを実施してイオンが持つ運動エネルギを減じ、イオントラップ2の内部空間の中央付近に集めるようにしている。それによって、イオントラップ2内に形成する電場の状態が変更されたときに、イオンの挙動がその変更後の電場の状態に応じた理想に近いものとなる。その結果、排除されるべきイオンは良好に排除される一方、イオントラップ2内に残されるべきイオンは排除されにくく、目的イオンの質量電荷比を中心とするごく狭い質量電荷比範囲のイオンを大量に残すことができる。
【0044】
なお、上記実施形態において、ステップS15とS17とを入れ替え可能であることは明らかである。
【0045】
また、上記実施形態では、ステップS13、S15、S17のイオン選択操作においていずれもDAWIを用いていたが、イオン選択の手法はDAWIに限らない。
具体的には、特許文献1に記載されているような様々な手法を、ステップS13、S15、S17に適用可能である。具体的には、共鳴励起排出、FNF(=Filtered Noise Field)信号やSWIFT(=Stored Wave Inverse Fourier Transform)信号などを利用した方法などを採用してもよい。また、DAWI又はDAWIと同等のイオン選択法を使用する場合に、矩形波高電圧のデューティ比を変えるのではなく、直流的なオフセットを与えるようにしてもよい。
【0046】
また、本発明はDITのみに適用されるものではなく、リング電極等に正弦波高電圧を印加するイオントラップにも適用可能である。その場合には、イオン選択法としてそれに適合したものが選ばれることは当然である。
【0047】
さらにまた上記説明では、イオントラップが3次元四重極型イオントラップであることを前提としていたが、同様の原理でイオンの捕捉やイオン選択を実行可能であるリニア型イオントラップにも本発明を適用でき、上述した効果を奏することは明らかである。
【0048】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0049】
(第1項)本発明に係るイオン選択方法の一態様は、3以上の電極からなるイオントラップに捕捉されたイオンの中で、特定の質量電荷比を有する目的イオンを選択するイオン選択方法であって、
前記目的イオンを含む広い質量電荷比範囲のイオンを選択的にイオントラップ内に残し、それ以外の不要なイオンを除去する粗分離ステップと、
前記粗分離ステップに引き続いて、前記イオントラップ内に残っているイオンに対するクーリングを行う第1クーリングステップと、
前記第1クーリングステップによるクーリングが行われた状態のイオンに対して、前記目的イオンの質量電荷比よりも低い質量電荷比のイオンを前記粗分離ステップよりも高い分離能で以て除去する低質量側イオン分離ステップ、及び、前記目的イオンの質量電荷比よりも高い質量電荷比のイオンを前記粗分離ステップよりも高い分離能で以て除去する高質量側イオン分離ステップ、をその順序で、又はその逆の順序で行う高分離能分離ステップと、
を実行するものである。
【0050】
(第5項)また本発明に係るイオントラップ質量分析装置の一態様は、
3以上の電極から成るイオントラップと、
前記3以上の電極にそれぞれ所定の電圧を印加する電圧発生部と、
前記イオントラップの内部にクーリングガスを供給するガス供給部と、
前記イオントラップに試料由来の各種イオンが捕捉されている状態で、特定の質量電荷比を有する目的イオンを含む広い質量電荷比範囲のイオンを選択的に前記イオントラップ内に残し、それ以外の不要なイオンを除去する粗分離操作を行うように、前記電圧発生部で生成される電圧を制御し、該粗分離操作に引き続いて、前記イオントラップ内にクーリングガスを供給してイオンに対するクーリングを行うように前記ガス供給部を制御し、そのクーリングが行われた状態のイオンに対し、前記目的イオンの質量電荷比よりも低い質量電荷比のイオンを前記粗分離操作よりも高い質量分離能で以て前記イオントラップから除去する低質量側イオン分離操作と、前記目的イオンの質量電荷比よりも高い質量電荷比のイオンを前記粗分離操作よりも高い質量分離能で以て前記イオントラップから除去する高質量側イオン分離操作とを、その順序で、又はその逆の順序で実行するように、前記電圧発生部で生成される電圧を制御する制御部と、
を備えるものである。
【0051】
第1項に記載のイオン選択方法及び第5項に記載のイオントラップ質量分析装置によれば、高い質量分離能で以てイオンを選択する際のイオンの選択性が向上し、目的イオンを高い質量分離能で以て効率良く、つまり大量にイオントラップ内に残すことができる。それによって、例えばMSn分析により得られるMSnスペクトルの品質を向上させることができる。具体的には、目的とするプリカーサイオン以外のイオンから生成されるプロダクトイオンが混じりにくくなるとともに、各プロダクトイオンの感度を向上させることができる。
【0052】
(第2項)第1項に記載のイオン選択方法では、前記第1クーリングステップに引き続いて実行される前記低質量側イオン分離ステップ又は前記高質量側イオン分離ステップに引き続いて、前記イオントラップ内に残っているイオンに対するクーリングを行う第2クーリングステップ、をさらに実行するものとすることができる。
【0053】
第2項に記載のイオン選択方法では、高分離能分離ステップにおいて先に実行される低質量側イオン分離ステップ又は高質量側イオン分離ステップにおいて励振されるイオンがクーリングされたあと、残りの低質量側イオン分離ステップ又は高質量側イオン分離ステップが実行される。したがって、第2項に記載のイオン選択方法によれば、目的イオンの選択性をさらに一層向上させることができる。
【0054】
(第3項)第2項に記載のイオン選択方法では、前記第2クーリングステップに引き続いて実行される前記高質量側イオン分離ステップ又は前記低質量側イオン分離ステップに引き続いて、前記イオントラップ内に残っているイオンに対するクーリングを行う第3クーリングステップと、をさらに実行するものとすることができる。
【0055】
第3項に記載のイオン選択方法では、高分離能分離ステップにおいて励振されるイオンがクーリングされて、次の行程、例えばCID等によるイオン解離行程に移行する。したがって、第3項に記載のイオン選択方法によれば、次の行程でのイオン操作が良好に行われる。
【0056】
(第4項)第1項乃至第3項のいずれか1項に記載のイオン選択方法において、
前記イオントラップは、イオンを捕捉する電場を形成するために少なくとも1つの電極に矩形波電圧を印加するデジタル駆動方式のイオントラップであり、
前記粗分離ステップ、前記低質量側イオン分離ステップ、及び前記高質量側イオン分離ステップでは、マチュー方程式に基づく安定領域図上の動作線の位置を変更することで捕捉され得る下限質量又は上限質量を変えて一部イオンを排出するために、前記矩形波電圧のデューティ比を変更する操作を行うものとすることができる。
【0057】
第4項に記載のイオン選択方法では、例えばDAWIの手法を利用してイオン選択操作を行う。第4項に記載のイオン選択方法によれば、不要なイオンを除去する際に電圧の走査等が不要であるので、短時間で不要なイオンを除去することができる。また、DITでにおいて矩形波電圧のデューティ比の変更は容易に行えるので、制御も簡単である。
【符号の説明】
【0058】
1…イオン源
2…イオントラップ
21…リング電極
22、24…エンドキャップ電極
23…イオン入射孔
25…イオン出射孔
3…飛行時間型質量分離器
31…ドリフトチューブ
4…イオン検出器
5…ガス供給部
6…データ処理部
7…イオントラップ駆動部
71…クロック発生部
72…主電圧タイミング制御部
73…補助電圧発生部
74…主電圧発生部
75…第1電圧源
76…第2電圧源
77…第1スイッチ
78…第2スイッチ
8…制御部
図1
図2
図3
図4
図5