特開2021-72399(P2021-72399A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-72399(P2021-72399A)
(43)【公開日】2021年5月6日
(54)【発明の名称】熱電変換材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 35/14 20060101AFI20210409BHJP
   H01L 35/34 20060101ALI20210409BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20210409BHJP
   C22C 5/02 20060101ALI20210409BHJP
   C22C 5/06 20060101ALI20210409BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20210409BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20210409BHJP
   B22F 3/14 20060101ALN20210409BHJP
   B22F 3/15 20060101ALN20210409BHJP
【FI】
   H01L35/14
   H01L35/34
   C01B33/06
   C22C5/02
   C22C5/06 Z
   C22C28/00 B
   B22F9/04 C
   B22F3/14 A
   B22F3/14 101B
   B22F3/15 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2019-199404(P2019-199404)
(22)【出願日】2019年10月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「未利用熱エネルギーの革新的活用技術研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】山本 潔
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴博
(72)【発明者】
【氏名】宗藤 伸治
【テーマコード(参考)】
4G072
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4G072AA20
4G072BB05
4G072HH01
4G072JJ09
4G072MM26
4G072MM37
4G072MM38
4G072MM40
4G072RR13
4G072RR22
4G072UU30
4K017AA02
4K017BA02
4K017BA05
4K017BB11
4K017BB16
4K017EA04
4K018AA02
4K018AA03
4K018BA01
4K018BA02
4K018EA01
4K018EA11
4K018EA21
4K018KA32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの第11族元素)で表されるSi系タイプ1クラスレート化合物を主として含有する熱電変換材料で、n型およびp型のいずれの性能であっても作り分けて製造することを実現した熱電変換材料の製造方法、およびこの製造方法によって製造されたn型およびp型の熱電変換材料を提供する。
【解決手段】本発明の熱電変換材料は、化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a<8.10、4.50<b<6.20、a+b+c=54.00を満たす。)で表されるクラスレート化合物を含んで構成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a<8.10、4.50<b<6.20、a+b+c=54.00を満たす。)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料。
【請求項2】
化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a、4.50<b、a+b+c=54.00を満たす。)で表されるクラスレート化合物と、
Cu化合物、Ag化合物およびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素含有物とを含む熱電変換材料。
【請求項3】
前記熱電変換材料中に占める前記クラスレート化合物の存在割合は、X線回折測定で得られたX線回折ピーク強度において、前記クラスレート化合物の最大ピーク強度に対する前記第11族元素含有物の最大ピーク強度の比率にして、0%超え50%未満の範囲である請求項1または2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
前記Cu化合物が、BaCuSiおよびCu19Siの1種または2種を含む請求項2または3に記載の熱電変換材料。
【請求項5】
前記Ag化合物が、BaAgSiを含む請求項2から4までのいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項6】
前記第11族元素含有物が、前記Auを含む請求項2から5までのいずれか1項に記載の熱電変換材料。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の熱電変換材料の製造方法であって、
Baと、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素と、Siとを含有し、モル比にして、Ba:第11族元素:Si=8:x:y(10≦x≦70、35≦y≦45、x+y>46)である原料を溶融する溶融工程と、
前記溶融工程の後、得られた融液から種結晶を用いた引き上げ法によって前記熱電変換材料の結晶を育成する引き上げ工程と、を含む熱電変換材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項に記載の熱電変換材料の製造方法であって、
Baと、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素と、Siとを含有し、モル比にして、Ba:第11族元素:Si=8:x:y(10≦x≦70、35≦y≦45、x+y>46)である原料を溶融する溶融工程と、
前記溶融工程の後、得られた融液を凝固させて溶製体とする凝固工程と、を含む熱電変換材料の製造方法。
【請求項9】
前記凝固工程の後、
前記溶製体を粉砕して微粒状の粉体とする粉砕工程と、
前記粉体を焼結する焼結工程と、
をさらに含む請求項8に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項10】
前記凝固工程の後、前記粉砕工程の前に、前記溶製体を加熱する均質化熱処理工程をさらに含む請求項9に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項11】
前記粉砕工程の後、前記焼結工程の前に、前記粉体を構成する前記クラスレート化合物と前記第11族元素含有物を分離する分離工程をさらに含む請求項9または10に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼーベック効果を利用した熱電変換モジュールは、熱エネルギーを電気エネルギーに変換することを可能とする。熱電変換モジュールの性質を利用し、産業・民生用プロセスや移動体から排出される排熱を有効な電力に変換することができるため、熱電変換は環境問題に配慮した省エネルギー技術として注目されている。
【0003】
一般に、熱電変換モジュールは、p型の熱電変換材料からなるp型熱電変換素子と、n型の熱電変換材料からなるn型熱電変換素子とを用いて、一般的には複数のp型およびn型熱電変換素子を交互に電気的に直列に接続する構造を有する。
【0004】
熱電変換モジュールに用いる熱電変換材料の無次元性能指数ZTは、下記式(1)で表すことができる。
ZT=ST/ρκ ・・・式(1)
上記式(1)中、S、ρ、κおよびTは、それぞれ、ゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率および測定温度を表す。
【0005】
上記式(1)から明らかなように、熱電変換材料の性能を向上させるためには、ゼーベック係数Sを大きくすること、電気抵抗率ρを小さくすること、および熱伝導度κを小さくすることが重要である。高い性能指数を示す従来の熱電変換材料としては、たとえば、ビスマス・テルル系材料、シリコン・ゲルマニウム系材料、鉛・テルル系材料などが知られている。
【0006】
従来の熱電変換材料は、それぞれ解決すべき課題を有する。ビスマス・テルル系材料は100℃を超えれば、急激にその無次元性能指数ZTが小さくなり、廃熱発電(排出され、大気中や水中に廃棄される熱を利用した発電)のような200〜800℃程度では、熱電変換材料として利用できなくなる。また、ビスマス・テルル系、鉛・テルル系は環境負荷物質の鉛とテルルを含んでいる。
そこで、熱電性能が良好で環境負荷が少なく、軽量な新しい熱電変換材料が求められている。そのような新しい熱電変換材料の1つとしてクラスレート化合物が注目されている。
【0007】
熱電変換材料の主体となるクラスレート化合物にはいくつかの種類が報告されているが、コスト面等から銅を含有させた化学式BaCuSi46−xで表されるSi系のクラスレート化合物が有望と考えられている。
【0008】
たとえば、特許文献1には、化学式BaSi46−x(M=Cu、Ag又はAu、1≦x≦6)で表される優れた熱電変換特性を有するクラスレート化合物及びそれを用いた熱電変換素子が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、化学式BaaM2Sid(M2=Cu、Ni、Ag、a≧7.6、c≧3.0、d≧39、a+c+d=54)で表されるクラスレート化合物でp型またはn型のいずれの熱電変換材料をも実現しうることが開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1では、上記クラスレート化合物の組成式は開示されているものの、性能指数ZTの向上を図るにとどまっており、n型およびp型の各熱電変換特性については全く言及されていない。さらに実施例には計算によって得られたn型およびp型の各熱電変換特性の結果のみが開示され、それらの実験結果については開示されていない。
【0011】
また、特許文献2では、化学式BaaM2Sid(M2=Cu、Ag)で表されるSi系のクラスレート化合物の母相中に第二相としてSi化合物を分散させた熱電変換材料について開示されているものの、上記化学式で、M2=Cu、a=7.9、c=5.0、d=41.1(実施例10)である場合、または、M2=Ag、a=8.0、c=4.9、d=41.1(実施例9)である場合に、それぞれn型の極性を有する熱電変換材料を作製した例が開示されているのみであり、p型の熱電変換材料の作製については全く言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−57124号公報
【特許文献2】特開2016−213373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、鉛やテルルのような環境負荷物質を含まないBaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの第11族元素)で表されるSi系のクラスレート化合物(以下、単に「クラスレート化合物」という場合がある。)を主として含有する熱電変換材料で、n型およびp型のいずれの性能であっても作り分けて製造することを実現した熱電変換材料の製造方法、およびこの製造方法によって製造されたn型およびp型の熱電変換材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、上記BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの第11族元素)で表されるクラスレート化合物を有する熱電変換材料において、上記クラスレート化合物の組成比a、b、cを特定の範囲に設定する、または、上記クラスレート化合物中に、Cu化合物、Ag化合物およびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素含有物を含有させることによって、n型の熱電変換材料だけではなくp型の熱電変換材料も得られること、ひいてはn型およびp型の各熱電変換材料を作り分けて製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a<8.10、4.50<b<6.20、a+b+c=54.00を満たす。)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料。
(2)化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a、4.50<b、a+b+c=54.00を満たす。)で表されるクラスレート化合物と、Cu化合物、Ag化合物およびAuの群から選択される少なくも1種の第11族元素含有物とを含む熱電変換材料。
(3)前記熱電変換材料中に占める前記クラスレート化合物の存在割合は、X線回折測定で得られたX線回折ピーク強度において、クラスレート化合物の最大ピーク強度に対する前記第11族元素含有物の最大ピーク強度の比率にして、0%超え50%未満の範囲である上記(1)または(2)に記載の熱電変換材料。
(4)前記Cu化合物が、BaCuSiおよびCu19Siの1種または2種を含む上記(2)または(3)に記載の熱電変換材料。
(5)前記Ag化合物が、BaAgSiを含む上記(2)から(4)までのいずれか1項に記載の熱電変換材料。
(6)前記第11族元素含有物が、前記Auを含む上記(2)から(5)までのいずれか1項に記載の熱電変換材料。
(7)上記(1)から(6)までのいずれか1項に記載の熱電変換材料の製造方法であって、Baと、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素と、Siとを含有し、モル比にして、Ba:第11族元素:Si=8:x:y(10≦x≦70、35≦y≦45、x+y>46)である原料を溶融する溶融工程の後、得られた融液から種結晶を用いた引き上げ法によって前記熱電変換材料の結晶を育成させる工程を含む熱電変換材料の製造方法。
(8)上記(1)から(6)までのいずれか1項に記載の熱電変換材料の製造方法であって、Baと、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素と、Siとを含有し、モル比にして、Ba:第11族元素:Si=8:x:y(10≦x≦70、35≦y≦45、x+y>46)である原料を溶融する溶融工程の後、得られた融液を凝固させて溶製体とする凝固工程と、を含む熱電変換材料の製造方法。
(9)前記凝固工程後、前記溶製体を粉砕して微粒状の粉体とする粉砕工程と、前記粉体を焼結する焼結工程と、をさらに含む上記(8)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(10)前記凝固工程の後、前記粉砕工程の前に、前記溶製体を加熱する均質化熱処理工程をさらに含む上記(9)に記載の熱電変換材料の製造方法。
(11)前記粉砕工程の後、前記焼結工程の前に、前記粉体を構成する前記クラスレート化合物と前記第11族元素含有物を分離する分離工程をさらに含む上記(9)または(10)に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの第11族元素)で表されるクラスレート化合物を有する熱電変換材料において、上記クラスレート化合物の組成比a、b、cを特定の範囲に設定する、または、上記クラスレート化合物中に、Cu化合物、Ag化合物およびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素含有物を含有させることによって、n型の熱電変換材料だけではなくp型の熱電変換材料も得られること、ひいてはn型およびp型の各熱電変換材料を作り分けて製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に従う第2実施形態の熱電変換材料のX線回折測定結果を示す回折チャートである。
図2】本発明に従う第2実施形態(実施例7)の熱電変換材料のSEM(走査型電子顕微鏡)による表面観察写真を示す図である。
図3】本発明に従う第3実施形態の熱電変換材料の製造方法(引き上げ法)の各工程を行う順番を示したフローチャートである。
図4】本発明に従う第4実施形態の熱電変換材料の製造方法(溶融物の凝固物の製造法)の各工程を行う順番を示したフローチャートである。
図5】本発明に従う第5実施形態の熱電変換材料の製造方法(焼結法)の各工程を行う順番を示したフローチャートである。
図6】比較例3の熱電変換材料のSEMによる表面観察写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
[第1実施形態{熱電変換材料}]
第1実施形態に係る熱電変換材料は、化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a<8.10、4.50<b<6.20、a+b+c=54.00を満たす。)で表されるクラスレート化合物を含む熱電変換材料である。
【0020】
本実施形態に係る熱電変換材料は、クラスレート化合物(Si系タイプ1クラスレート化合物:空間群Pm−3n(No.223))に由来するX線回折ピークを有して構成される。
【0021】
<クラスレート化合物>
本実施形態に係る熱電変換材料に含まれるクラスレート化合物は、化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a<8.10、4.50<b<6.20、a+b+c=54.00を満たす。)で表される。このクラスレート化合物は、主に、Si原子からなる籠状骨格構造(ホスト)が形成され、その中にBa原子(ゲスト)が内包されるとともに、Si原子の一部が、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素の原子で置換された構造を有したSi系タイプ1クラスレート化合物である。
以下では、本発明で、上記BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの第11族元素)で表されるクラスレート化合物の組成比a、b、cを特定の範囲に設定する理由について説明する。
【0022】
本発明者らは、本実施形態に係る熱電変換材料に含まれるクラスレート化合物の組成比a、b、cを変えた種々の試料を作製し、それらの試料の極性を測定したところ、n型およびp型の各極性を有する熱電変換材料が得られた。そして、上記n型およびp型の各極性と、上記組成比a、b、cとの関係について調査したところ、上記組成比a、b、cを特定の範囲に設定することによって、上記n型およびp型の各極性を有する熱電変換材料の作り分けが可能であることが明らかとなった。特に、上記熱電変換材料において、上記クラスレート化合物の第11族元素の組成比bの数値を変えた場合(たとえば、組成比bの数値を4.50から6.20の間で、0.01刻みで変化させた場合)、この組成比bの数値5.33付近を境として、その前後で、n型およびp型の極性の反転が生じるという知見を得た。本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、上記クラスレート化合物(BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの第11族元素)の組成比a、b、cの各数値が、7.60<a<8.10、4.50<b<6.20、a+b+c=54.00を満たすように設定することによって、上記クラスレート化合物を含む熱電変換材料で、n型およびp型を作り分けて製造することが可能となる。
【0023】
[第2実施形態(熱電変換材料)]
第2実施形態に係る熱電変換材料は、化学式BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a、4.50<b、a+b+c=54.00を満たす。)で表されるクラスレート化合物と、Cu化合物、Ag化合物およびAuの群から選択される少なくも1種の第11族元素含有物とを含む熱電変換材料である。
本実施形態の熱電変換材料は、以下に示すような特定の前記第11族元素を含有する第11族元素含有物を含んで構成される。このように構成すれば、後記するXRD測定で得られる上記クラスレート化合物および上記第11族元素含有物の各X線回折の最大ピーク強度比(クラスレート化合物の最大ピーク強度(P1)に対する前記第11族元素を含有する化合物の最大ピーク強度(P2)の比率α(%)が所定範囲となるように上記第11族元素含有物の量を調整することによって、上記Si系タイプ1クラスレート化合物におけるn型およびp型の作り分けが比較的容易かつ確実に行えるようになる。
【0024】
図1は、本実施形態に係る熱電変換材料の1例のX線回折(以下、「XRD」という場合がある。)測定結果を示すX線回折チャートである。本実施形態に係る熱電変換材料は、図1に示すようなクラスレート化合物(Si系タイプ1クラスレート化合物:空間群Pm−3n(No.223))に由来するX線回折ピークを有して構成される。
【0025】
図2は、本実施形態に係る熱電変換材料(実施例7)の表面を、SEMによって観察したときの表面観察写真である。本実施形態に係る熱電変換材料は、図2に示すように、上記クラスレート化合物を主に含むクラスレート化合物1と、第11族元素含有物2とを含み、クラスレート化合物1の上記組成比a、b、cが上記数値範囲に設定されたものである。
【0026】
本発明者らは、BaSi(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素であり、7.60<a、4.50<b、a+b+c=54.00を満たす。)で表されるクラスレート化合物において、原料中のBa成分、M成分およびSi成分の配合割合を変えて、Ba、MおよびSiのモル比が異なる種々のクラスレート化合物を含む熱電変換材料を作製し、それらのゼーベック係数について調査した。表1に、上記第11族元素がCuであるクラスレート化合物(BaCuSi)と、上記第11族元素含有物であるCu化合物(Cu19SiおよびBaCuSi)とを含む熱電変換材料のXRD回折ピーク強度比α(%)の測定結果を示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示す4つの例の結果から、Ba成分、Cu成分およびSi成分からなる原料中のCu成分の配合割合が、組成比(モル比)で6〜12であるときは、n型の極性を示す熱電変換材料を製造することができ、また、原料中のCu成分の配合割合が、組成比(モル比)で30となるように過剰に原料中に添加した場合には、クラスレート化合物中のCu含有割合(モル比)が多くなるとともに、熱電変換材料に占めるCu化合物の面積割合も増加し、その結果、原料の組成をBaCu30Si40としたとき、p型の極性を示す熱電変換材料を製造できることがわかる。
【0029】
本発明は、このように同一の組成系で、熱電変換材料を構成するクラスレート化相1と、第11族元素含有物2(Cu化合物、Ag化合物およびAuの群から選択される少なくとも1種の相)とを含む、上記各成分を有する熱電変換材料であって、上記各成分の配合割合の異なる原料を用いて、クラスレート化合物1と第11族元素含有物2との割合を適切に制御することによって、同一の成分系の熱電変換材料で、n型の熱電変換材料だけではなく、p型の熱電変換材料も製造する、すなわち、n型およびp型の各熱電変換材料を作り分けて製造することができる。本発明で、同一の組成系とは、Ba、M(第11族元素)およびSiの各成分を含む同一の成分系、および上記各成分以外に不可避的不純物を含む上記成分系を意味する。
【0030】
<第11族元素含有物>
本発明は、Cu化合物、Ag化合物およびAuの群から選択される少なくとも1種を有する第11族元素含有物を含んでもよい。
このように構成すれば、600℃という比較的高温の温度領域でも廃熱発電にも利用可能なゼーベック係数(絶対値)を確保することができ、さらにはパワーファクターも向上させることができる熱電変換材料を製造することができる。そして、n型またはp型の各熱電変換材料をより確実に作り分けて製造することが可能となる。これらのCu化合物およびAg化合物は、以下のような組成を有することが好ましい。
【0031】
(Cu化合物)
上記Cu化合物は、BaCuSiおよびCu19Siの1種または2種を含んで構成されることが好ましい。
このように構成すれば、上記2相における上記クラスレート化合物および上記第11族元素含有物の体積割合を、コストを比較的低く抑えて制御することが可能となる。
【0032】
(Ag化合物)
上記Ag化合物は、BaAgSiを含んで構成することが好ましい。
このように構成すれば、600℃という比較的高い温度領域での廃熱発電にも利用可能なゼーベック係数を維持することが可能となる。
【0033】
上記第11族元素含有物は、上記Auを含んで構成してもよい。
このように構成すれば、600℃という比較的高い温度領域での廃熱発電にも利用可能なゼーベック係数を維持することが可能となる。
【0034】
(第11族元素の配合量(モル比))
本発明者らは、上述のn型またはp型の熱電変換材料を制御して製造するために、クラスレート化合物、および該クラスレート化合物に固溶した第11族元素含有物を含む熱電変換材料の製造方法について種々の検討を行った。その結果、上記クラスレート化合物の原料の調製において、Zintl則に基づいて理論的に決定された上記Si系タイプ1クラスレート化合物の化学構造の形成に必要とされる原料(Ba、M(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素)、およびSiの各元素)のモル比よりも、上記第11族元素のモル比を過剰とすることによって、n型またはp型の熱電変換材料を制御して製造することが可能であることを見出した。すなわち、上記第11族元素のモル比を、上記Si系タイプ1クラスレート化合物の形成に必要とされる原料のモル比よりも適度に過剰とすることによって、熱電変換材料を構成するクラスレート化合物と第11族元素含有物の割合(組成比(モル比))を適切に制御することができ、これによって、n型またはp型の各熱電変換材料をより確実に作り分けて製造することが可能となる。
【0035】
本発明では、熱電変換材料中に占める上記クラスレート化合物に対する上記第11族元素含有物の存在割合の指標として、XRD測定で得られた上記クラスレート化合物の最大ピーク強度(P1)に対する第11族元素含有物の最大ピーク強度(P2)の比率α(%)(以下、単に「回折ピーク強度比α(%)」という場合がある。)を用いることができる。すなわち、上記回折ピーク強度比α(%)は、下記式(2)によって算出される。
回折ピーク強度比α(%)=P2/P1×100 ・・・式(2)
図1に示すようなBaCuSi(7.60<a<8.10、4.50<b<6.20、a+b+c=54.00)系のクラスレート化合物、Cu19Si、およびBaCuSiの第11族元素含有物を含む熱電変換材料のXRDチャートを例として説明すると、図1で上記クラスレート化合物の最大ピークのピーク位置は、2θ=32°〜33°であり、上記第11族元素含有物(Cu)の最大ピークのピーク位置は、2θ=37.5°〜38.5°であった。これらの各ピーク位置の各最大ピークP1、P2の強度の数値を上記式(2)に代入して上記熱電変換材料の回折ピーク強度比α(%)を算出すると、α(%)=15が得られる。
本発明では、上記回折ピーク強度比α(%)は、上記熱電変換材料の極性(n型、p型)の指標としても用いることができる。
【0036】
本発明で、熱電変換材料に上記Cu化合物、Ag化合物、およびAuの群から選択される2種以上の第11族元素含有物を含む場合の上記最大ピーク強度P2は、これら2種以上の第11族元素含有物の各最大ピーク強度の和として導出することができる。
【0037】
本発明では、上記回折ピーク強度比α(%)が、0%超え50%未満の範囲(0<α(P2/P1)<50%)であることが好ましい。上記回折ピーク強度比α(%)が0%超え50%未満の範囲であると、クラスレート化合物中の第11族元素含有物の含有割合がより適切となって、同一の組成系でn型およびp型の各極性を示す熱電変換材料の作り分けがより確実に行えるようになる。
【0038】
第2実施形態の熱電変換材料によれば、上記クラスレート化合物以外に上記第11族元素含有物を含んで構成されるので、上記したように、上記XRD測定で得られる上記クラスレート化合物および上記第11族元素含有物の各X線回折の最大ピーク強度比であるクラスレート化合物の最大ピーク強度(P1)に対する第11族元素含有物の最大ピーク強度(P2)の比率α(%)が所定範囲となるように上記第11族元素含有物の量を調整することによって、上記Si系タイプ1クラスレート化合物におけるn型およびp型の構造の作り分けが比較的容易かつ確実に行えるようになる。
【0039】
[第3実施形態{引き上げ法による熱電変換材料の製造方法}]
次に、本発明に従う第3実施形態の熱電変換材料の製造方法について説明する。なお、以下で説明する第3〜第5実施形態では、第1実施形態と重複する部分については、その説明を省略することとし、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0040】
図3は、本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法のフローチャートである。図3に示すように、本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法は、まず、原料であるBa、M(Mは、Cu、AgおよびAuの群から選択される少なくとも1種の第11族元素)、およびSiの各元素を用意し、これらの各元素のモル比が、Ba:第11族元素:Si=8:x:y(10≦x≦70、35≦y≦45、x+y>46)となるように秤量して混合し、原料を調製する原料調製工程(S1)を行った後、該原料を溶融させる溶融工程(S2)を行い、得られた融液から種結晶を用いた引き上げ法によって上記熱電変換材料の結晶を育成する引き上げ工程(S3)を行って熱電変換材料を製造するものである。
【0041】
(原料調整工程)
純度2N以上の高純度のBaと、純度3N以上の高純度のM(=Cu、Ag、Au)、と、純度3N以上の高純度のSiとを、表2の配合比率(モル比)で秤量し、原料混合物を調製した。
【0042】
(溶融工程)
本実施形態では、上記原料の溶融工程(S2)について特に限定するものではなく、当該分野で周知の各種方法を用いることができる。たとえば、溶融工程(S2)として、上記原料を所定のルツボに投入した後、該ルツボ内の原料に対し、抵抗加熱、高周波誘導加熱、アーク放電、プラズマ加熱、電子ビーム加熱等による加熱処理を施す、溶融工程が挙げられる。上記原料を投入する上記ルツボとしては、グラファイト、アルミナ、コールドクルーシブル等を用いることができる。本発明では、溶融工程(S2)は、原料の酸化を防止するために、不活性ガス雰囲気下または減圧下で行うことが好ましい。上記原料を比較的短時間でより均質に混合するために、上記原料を微細な粉末状として溶融することが好ましい。ただし、上記原料に配合するBaとしては、Baの酸化を抑えるために、塊状のBaを使用することができる。また、溶融時に機械的な攪拌または電磁的な攪拌を加えてもよい。
また、上記溶融工程における溶融時間としては、上記原料を構成するすべての成分が液体状で均質に混ざり合う時間が必要とされるが、溶融工程のエネルギーコストを考慮すると、溶融時間はできるだけ短時間であることが望まれる。溶融時間は、好ましくは1分〜100分であり、さらに好ましくは1分〜10分であり、特に好ましくは1分〜5分である。
【0043】
(引き上げ工程)
本実施形態では、溶融工程(S2)で得られた上記原料の融液から、たとえば、チョコラルスキー法を用いて、上記熱電変換材料の結晶を育成し引き上げることによって熱電変換材料を作製することができる。その際、たとえば、Siを種結晶として、引き上げ速度:1mm/h、融液温度:675℃〜800℃、シャフト回転速度:30rpm、および不活性ガス雰囲気下の条件で、上記熱電変換材料の結晶を育成し上記熱電変換材料を引き上げることができる。本発明では、上記クラスレート化合物を含む結晶を育成できるものであれば、上記チョコラルスキー法に限定されない。
このように構成すれば、第11族元素含有物をほぼ含まない上記クラスレート化合物を得ることができるとともに、n型またはp型の極性を有し、なおかつ所望の優れた熱電変換性能を備える、クラスレート化合物および第11族元素含有物を含む熱電変換材料を製造することができる。ここで、上記「第11族元素含有物をほぼ含まない」とは、X線回折測定で得られる回折チャートにおいて、上記「第11族元素含有物」に由来するピークの強度が検出限界以下であることを意味する。本発明は、後記する表1に示すように、上記クラスレート化合物の最大ピーク強度(P1)に対する上記第11族元素含有物の最大ピーク強度(P2)の比率α(%)が多くても1%という極めて低い数値であっても、p型の熱電変換材料を製造することができるという効果を奏する。
【0044】
[第4実施形態{溶融物の凝固物を製造する熱電変換材料の製造方法}]
次に、本発明に従う第4実施形態の熱電変換材料の製造方法について説明する。図4は、本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法のフローチャートである。
本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法は、第3実施形態が、図3に示すように、原料調製工程(S1)および溶融工程(S2)の後、引き上げ工程(S3)を行うのに対し、本実施形態では、図4に示すように、溶融工程(S2)の後、得られた融液を凝固させる凝固工程(S4)を経て溶製体を作製するように構成されたものである。すなわち、第3実施形態は、上記溶融工程(S2)の後、上記引き上げ工程(S3)を行うことによって、上記熱電変換材料を作製しているのに対し、本実施形態は、上記引き上げ工程(S3)に代えて、上記凝固させる凝固工程(S4)を行ってクラスレート化合物のみ、またはクラスレート化合物および第11族元素含有物の両方を含む熱電変換材料を製造するものである。
【0045】
(凝固工程)
本実施形態では、上記原料を溶融させた後の凝固工程(S4)について特に限定するものではなく、当該分野で周知の各種凝固工程を用いることができる。たとえば、上記凝固工程(S4)では、上記融液を投入して凝固させる容器として、所定のルツボや鋳型を用いることができる。該ルツボとしては、上述したような材質を有するルツボを用いることができる。
【0046】
[第5実施形態{焼結法による熱電変換材料の製造方法}]
次に、本発明に従う第5実施形態の熱電変換材料の製造方法について説明する。図5は、本実施形態に係る熱電変換材料の製造方法を示すフローチャートである。本実施に係る熱電変換材料の製造方法は、第4実施形態が、図4に示すように、溶融工程(S2)および凝固工程(S4)を経て、熱電変換材料を製造するように構成されたものであるのに対し、本実施形態は、図5に示すように、上記凝固工程(S4)の後、得られた溶製体を粉砕する粉砕工程(S6)を行って微粒子を作製した後、該微粒子を焼結する焼結工程(S8)を行って焼結体からなる熱電変換材料を製造するように構成されたものである。すなわち、第5実施形態は、第4実施形態の上記凝固工程(S4)の後、さらに上記粉砕工程(S6)、および上記焼結工程(S8)を順次行って、クラスレート化合物および第11族元素含有物を含む焼結体の熱電変換材料を製造するものである。
【0047】
(粉砕工程)
上記粉砕工程(S6)では、第4実施形態の凝固工程(S4)を経て得られた溶製体を、ボールミル等を用いて粉砕することによって、所定の微粒子状のクラスレート化合物を得ることができる。得られる微粒子としては、上記焼結工程(S8)における焼結性を向上させるために粒度を適度に微粒化された微粒子であることが好ましい。本実施形態では、該微粒子の粒径として、150μm以下であることが好ましく、1μm〜75μmであることがさらに好ましい。
【0048】
本発明では、上記微粒子を所望の粒径とするために、当該分野で周知のボールミル等の粉砕手段によって上記溶製体を粉砕した後、得られた粉砕物の粒度を調製することができる。上記粉砕物の粒度の調製方法としては、たとえば、ISO3310−1規格のレッチェ社製試験ふるいとレッチェ社製ふるい振とう機AS200デジットを用いたふるい分けによって行うことができる。
なお、本発明では、上記凝固工程(S4)の後、上記粉砕工程(S6)の前に、上記溶製体を加熱する均質化熱処理工程(S5)をさらに行うことが好ましい。上記均質化熱処理工程(S5)を行えば、上記凝固工程(S4)で得られた上記溶製体が均質化される結果、得られる熱電変換材料の性能をより向上させることができる。上記均質化熱処理の処理時間は、製造時の省エネルギーを考慮すると、なるべく短時間とされることが望まれるが、均質化熱処理の効果を考慮すると、処理時間は、好ましくは1時間以上であり、さらに好ましくは1〜10時間がさらに好ましい。
上記均質化熱処理の処理温度は、好ましくは700〜950℃であり、さらに好ましくは850〜930℃である。処理温度が700℃未満であると、均質化が不十分になるという問題が生じ、処理温度が950℃を超えると、再溶融による濃度偏析が生じるという問題が生じる。
【0049】
以上では、上記微粒子を得るために上記のような粉砕工程(S6)を用いた例について説明したが、本発明では、上記微粒子を得るために、当該分野で周知のガスアトマイズ法等の各種アトマイズ法やフローイングガスエバポレーション法等の各種微粒子形成手段を用いて上記微粒子を製造することも可能である。
【0050】
(焼結工程)
本実施形態の上記焼結工程(S8)では、上記粉砕工程(S6)を経て得られた微粒子状のクラスレート化合物を焼結することによって、比較的均質で空隙の少ない、所定形状の固体からなる熱電変換材料を作製することができる。本発明は、上記焼結工程(S8)で用いる手法について特に限定されるものではなく、当該分野で周知の各種焼結工程の手法を用いることができる。焼結工程(S8)の手法としては、たとえば、放電プラズマ焼結法、ホットプレス焼結法、熱間等方圧加圧焼結法等の各種焼結法を用いることができる。
【0051】
たとえば、上記焼結工程(S8)の手法として上記放電プラズマ焼結法を採用する場合、焼結温度として、600℃〜1100℃とすることが好ましく、900℃〜1000℃とすることがさらに好ましい。焼結時間としては、1分〜10分とすることが好ましく、3分〜7分とすることがさらに好ましい。圧力としては、40MPa〜80MPaとすることが好ましく、50MPa〜70MPaとすることがさらに好ましい。
【0052】
上記焼結工程(S8)の上記焼結温度が600℃未満であると焼結が十分に行われず、焼結温度が1100℃超えでは溶解が生じる。焼結時間は、1分未満では密度が低くなり過ぎて所定の密度が得られず、焼結時間が10分を超えると焼結が飽和してほとんど進行しないため、生産性の阻害要因となる。上記焼結工程(S8)では、微粒子状のクラスレート化合物を上記焼結温度まで加熱した後、該クラスレート化合物を該焼結温度で上記焼結時間保持し、その後、該クラスレート化合物を上記加熱前の温度まで冷却する。その際、上記微粒子状のクラスレート化合物を上記焼結温度まで加熱する工程、および該クラスレート化合物を該焼結温度で保持する工程は加圧状態とし、その後該クラスレート化合物を冷却する工程では上記加圧状態を解除する。このような圧力操作を行えば、上記微粒子状のクラスレート化合物の焼結工程(S8)での割れを防止することができる。
【0053】
なお、得られた熱電変換材料において、上記第11族元素含有物の上記クラスレート化合物に対する体積割合が大きすぎると性能劣化の要因となるので、本発明では、上記粉砕工程の後、上記焼結工程の前に、上記粉体を構成する上記クラスレート化合物と上記第11族元素含有物を分離する分離工程(S7)をさらに含むことが好ましい。分離工程(S7)を行うことにより、上記熱電変換材料中に余剰に含まれる上記第11族元素含有物を分離することができる。
このように構成すれば、上記焼結工程(S8)の前に、余剰の上記第11族元素含有物を分離するので、クラスレート化合物の体積割合を増加させて上記性能劣化を防止することができる。
【0054】
<生成物の分析によるクラスレート化合物および第11族元素含有物の生成の確認>
上述の第3〜第5実施形態の製造方法によって得られた生成物が、上記クラスレート化合物、または上記クラスレート化合物および上記第11族元素含有物の両方を含むものであるか否かの確認を行うための分析手段として、本発明では、当該分野で周知の各種組成分析(EPMA(電子線プローブマイクロアナライザー)等)および粉末X線回折(XRD)を用いることができる。
上記XRD測定の具体的な手順としては、得られた試料を再度粉砕して粉砕物を作製し、該粉砕物についてJIS K0131で規定されるXRD測定を行い、得られたピークがクラスレート化合物(タイプ1クラスレート化合物:空間群Pm−n(No.223))および第11族元素含有物を示すものか否かを確認することによって、得られた生成物がクラスレート化合物、第11族元素含有物を含むものであるか否かの確認を行うことができる。
【0055】
上述の第3〜第5実施形態の製造方法によって得られた生成物では、クラスレート化合物に対する第11族元素含有物の割合が大きすぎても性能劣化の原因となる。そのため、上記粉砕物のXRD測定で得られたX線回折ピーク強度(以下、単に「ピーク強度」という場合がある。)において、クラスレート化合物の最大ピーク強度(P1)に対する第11族元素含有物の最大ピーク強度(P2)の比率は、0%<P2/P1<50%であることが好ましい。
【0056】
また、得られた生成物は、クラスレート化合物および第11族元素含有物以外に酸化物等の不純物相を含む場合がある。このため、上記XRD回折測定で得られたX線回折ピークには、上記不純物相のピークも観察される場合がある。本発明では、上記不純物相の割合が多くなると性能劣化の原因となるため、クラスレート化合物の最大ピーク強度(P1)に対する、不純物相の最大ピーク強度(P3)の比率は、0%≦P3/P1<70%であることが好ましく、0%≦P3/P1<20%であることがさらに好ましく、0%≦P3/P1<10%であることが特に好ましい。
【0057】
ここで、上記XRD回折測定における「ピーク強度」とは、上記粉砕物のXRD回折測定で得られたクラスレート化合物、第11族元素含有物、およびこれら以外の不純物相の各ピーク高さと各ピークの半値幅との積である。
また、上記「最大ピーク強度」とは、上記XRD回折測定で得られた各「ピーク強度」の中で高さが最大のものである。
【0058】
(クラスレート化合物のXRD回折における最大ピーク)
クラスレート化合物のXRD回折測定で得られる最大ピーク強度は、空間群Pm−3n(No.223)を有する(321)面のピーク強度である。
【0059】
(特性(極性)評価)
次に、上述の熱電変換材料の製造方法で得られた熱電変換材料の特性(極性)評価は、試料表面より40℃程度高い温度になるよう加熱したプローブを試料表面に接触させて、そこで得られた電圧を測定することで評価を行うことができる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0061】
<試料の作製>
純度2N以上のBa、純度3N以上のM1(=Cu、Ag、Au)、および純度3N以上のSiを秤量して、表2に示す配合比(モル比)で実施例1〜実施例8、および比較例1〜比較例6の各原料を調製した。
【0062】
【表2】
【0063】
実施例1〜実施例8では、各出発原料中のBa、Cu(第11族元素)およびSiの各成分のモル比が、いずれも本発明で規定する条件(Ba:第11族元素:Si=8:x:y(10≦x≦70、35≦y≦45、x+y>46))を満たしている。それに対し、比較例1ではSiの組成比cが48、比較例2ではCuの組成比bが5、比較例3ではCuの組成比bが4およびSiの組成比cが52、比較例4ではSiの組成比cが48、比較例5ではCuの組成比bが5、比較例6ではCuの組成比bが4およびSiの組成比cが52であり、これらの値はいずれも本発明で規定する条件を満たさないものとなっている。
【0064】
表2に示す各試料の原料を混合した後、不活性ガス雰囲気中、アーク溶解炉中でアーク放電を行って溶融し、溶融物を作製した。その後、上記溶融物に、チョコラルスキー法(引き上げ工程)を行って引き上げ法による熱電変換材料を作製した。
また、上記溶融物に、アーク溶解炉中で冷却(凝固工程)を行って得られた溶製体に、ボールミルを用いて粉砕(粉砕工程)を行い微粒子を作製した後、該微粒子を放電プラズマ焼結法を用いて焼結(焼結工程)を行って焼結法による熱電変換材料を作製した。
【0065】
このようにして得られた実施例および比較例の各試料に対し、電子線マイクロアナライザー(島津製作所製、EPMA−1610)を用いて組成分析、前記の「(C)クラスレート化合物および第11族元素含有物の生成の確認」のXRD測定を行うとともに、室温において、試料表面より40℃程度高い温度になるよう加熱したプローブを試料表面に接触させて、ゼーベック係数の測定を行い、ゼーベック係数の値が正であるか、負であるかによって、極性の評価を行った。
【0066】
(組成分析)
表3に、実施例および比較例の各組成分析の結果および熱電変換材料の極性の評価結果を示し、図2、6のそれぞれに、実施例7および比較例3のSEMによる表面観察写真を示す。
【0067】
【表3】
【0068】
本発明で規定する数値限定の条件(7.60<a、4.50<b、a+b+c=54.00)を満足する実施例1〜実施例8では、n型およびp型の熱電変換材料が得られおり、n型およびp型の熱電変換材料が作り分けられていることがわかる。
一方、比較例1ではBaの組成比aが7.58、比較例2ではCuの組成比bが4.34、比較例3ではCuの組成比bが4.02、比較例4ではBaの組成比aが7.57、比較例5ではCuの組成比bが4.37、比較例6ではCuの組成比bが4.12であり、これらの値はいずれも本発明で規定する条件を満たさないものとなっており、本発明で規定する上記条件を満足しない比較例1〜比較例6では、n型の熱電変換材料しか得られていなかった。
【0069】
また、実施例7は、図2に示すように、クラスレート化合物1に対し、第11族元素含有物2が適度に分散していることがわかる。
それに対して、本発明で規定する上記条件を満足しない比較例3では、図6に示すように、クラスレート化合物1に対する第11族元素含有物2の割合が、実施例7に比べて少なく、しかも第11族元素含有物2の分散性が低くなっていることがわかる。
【0070】
以上の結果より、本発明の熱電変換材料によれば、n型またはp型の熱電変換材料を制御して製造することが可能であることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0071】
1 クラスレート化合物
2 第11族元素含有物
図1
図2
図3
図4
図5
図6