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特開2021-92525微生物汚染の評価方法、洗浄方法の評価方法、洗浄方法、プログラム、微生物汚染の評価装置、洗浄方法の評価装置、及び、洗浄装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2021-92525(P2021-92525A)
(43)【公開日】2021年6月17日
(54)【発明の名称】微生物汚染の評価方法、洗浄方法の評価方法、洗浄方法、プログラム、微生物汚染の評価装置、洗浄方法の評価装置、及び、洗浄装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20210521BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20210521BHJP
【FI】
   G01N27/62 V
   G01N21/64 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2020-16032(P2020-16032)
(22)【出願日】2020年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2019-221866(P2019-221866)
(32)【優先日】2019年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業、「発現マッピング法による細菌叢電気相互作用の追跡と制御基盤の構築」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
【テーマコード(参考)】
2G041
2G043
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA17
2G041EA01
2G041FA24
2G041FA25
2G041GA03
2G041GA06
2G041HA04
2G041JA03
2G041LA08
2G043AA03
2G043BA17
2G043CA05
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】微生物汚染、特に、代謝活性を保持する微生物による汚染、とりわけバイオフィルム汚染の有無をより高感度に検出できる対象物の微生物汚染の評価方法を提供することを課題とする。
【解決手段】対象物をC、及び、Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させることと、前記接触後の前記対象物の表面における前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて二次元的に取得するS601ことと、測定範囲における、前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して、前記安定同位体の濃縮状態を算出するS602ことと、前記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、前記測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を提供するS604ことと、を含む対象物の微生物汚染の評価方法。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させることと、
前記接触後の前記対象物の表面上の評価対象範囲における前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得することと、
前記測定範囲における、前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して、前記安定同位体の濃縮状態を算出することと、
前記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、前記測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を提供することと、を含む微生物汚染の評価方法。
【請求項2】
前記取得することの前に、
細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液と前記対象物とを接触させ、前記表面における前記発色の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記発色している位置が特定された場合、前記位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む請求項1に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項3】
前記検査液が、細胞膜を発色させる発色剤を更に含有し、
前記接触させることの後であって、前記取得することの前に、前記表面における前記発色の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記発色している位置が特定された場合、前記位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む請求項1に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項4】
前記発色剤が、クリスタルバイオレットである、請求項2又は3に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項5】
前記判定の結果、前記発色している範囲が特定されない場合、前記発色液との接触後の対象物をクリスタルバイオレット溶離液と接触させ、前記溶離液への前記クリスタルバイオレットの溶出の有無を判定することと、
前記判定の結果、前記クリスタルバイオレット溶離液への前記クリスタルバイオレットの溶出が確認された場合、細胞膜を発色させる蛍光試薬を含有する蛍光発色液と前記対象物とを接触させ、前記表面における蛍光の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記蛍光している位置が特定された場合、前記蛍光している位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む請求項4に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項6】
前記二次イオン質量分析法が、飛行時間型二次イオン質量分析法である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項7】
前記対象物が内視鏡である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項8】
前記接触は、前記対象物を浸漬させることである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項9】
前記接触の前に、更に、前記検査液を滅菌することを含む、請求項1に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項10】
前記検査液が、15N標識アンモニウム塩、及び、13C標識炭酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体源を含有する請求項1〜9のいずれか1項に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項11】
前記接触させることの後、前記取得することの前に、対象物を水に浸漬することを更に含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項12】
前記接触の際の前記検査液の温度が30〜45℃である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の微生物汚染の評価方法。
【請求項13】
洗浄された対象物を13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させることと、
前記接触後の前記対象物の表面上の評価対象範囲における前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得することと、
前記測定範囲における前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して前記安定同位体の濃縮状態を算出することと、
前記測定範囲における前記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、前記洗浄が不十分であると判断するための情報を提供することと、を含む洗浄方法の評価方法。
【請求項14】
前記接触させることの前、又は、前記接触させることの後であって、前記取得することの前に、
細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液と前記洗浄された対象物とを接触させ、前記表面における前記発色の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記発色している位置が特定された場合、前記位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む請求項13に記載の洗浄方法の評価方法。
【請求項15】
前記検査液が、細胞膜を発色させる発色剤を更に含有し、
前記接触させることの後であって、前記取得することの前に、前記表面における前記発色の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記発色している位置が特定された場合、前記位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む請求項13に記載の洗浄方法の評価方法。
【請求項16】
前記発色剤がクリスタルバイオレットである、請求項14又は15に記載の洗浄方法の評価方法。
【請求項17】
前記判定の結果、前記発色している位置が特定されない場合、前記発色液との接触後の対象物をクリスタルバイオレット溶離液と接触させ、前記溶離液への前記クリスタルバイオレットの溶出の有無を判定することと、
前記判定の結果、前記クリスタルバイオレット溶離液への前記クリスタルバイオレットの溶出が確認された場合、細胞膜を発色させる蛍光試薬を含有する蛍光発色液と前記対象物とを接触させ、前記表面における蛍光の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記蛍光している位置が特定された場合、前記蛍光している位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む、請求項16に記載の洗浄方法の評価方法。
【請求項18】
対象物を13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させることと、
前記接触後の前記対象物の表面上の評価対象範囲における前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得することと、
前記測定範囲における前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して前記安定同位体の濃縮状態を算出することと、
前記測定範囲における前記濃縮状態が予め定めた基準以下となるまで、前記対象物の洗浄と、前記検査液との接触と、前記安定同位体の存在比の取得と、前記濃縮状態の算出とを繰り返すことと、を含む洗浄方法。
【請求項19】
前記接触させることの前、又は、前記接触させることの後であって、前記取得することの前に、
細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液と前記対象物とを接触させ、前記表面における前記発色の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記発色している位置が特定された場合、前記位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む請求項18に記載の洗浄方法。
【請求項20】
前記検査液が、細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液を更に含有し、
前記接触させることの後であって、前記取得することの前に、前記表面における前記発色の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記発色している位置が特定された場合、前記位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む請求項18に記載の洗浄方法。
【請求項21】
前記発色剤が、クリスタルバイオレットである、請求項19又は20に記載の洗浄方法。
【請求項22】
前記判定の結果、前記発色している範囲が特定されない場合、前記発色液との接触後の対象物をクリスタルバイオレット溶離液と接触させ、前記溶離液への前記クリスタルバイオレットの溶出の有無を判定することと、
前記判定の結果、前記クリスタルバイオレット溶離液への前記クリスタルバイオレットの溶出が確認された場合、細胞膜を発色させる蛍光試薬を含有する蛍光発色液と前記対象物とを接触させ、前記表面における蛍光の状態を判定することと、
前記判定の結果、前記蛍光している位置が特定された場合、前記蛍光している位置を含めて前記評価対象範囲を決定することと、を含む請求項21に記載の洗浄方法。
【請求項23】
コンピュータに、
13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面上の評価対象範囲における前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する段階と、
前記測定範囲における前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して、前記安定同位体の濃縮状態を算出する段階と、
前記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、前記測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を提供する段階と、
を実行させるプログラム。
【請求項24】
コンピュータに、
13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた洗浄済み対象物の表面上の評価対象範囲における前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する段階と、
前記測定範囲における前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して前記安定同位体の濃縮状態を算出する段階と、
前記測定範囲における前記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、前記洗浄が不十分であると判断するための情報を提供する段階と、
を実行させるプログラム。
【請求項25】
コンピュータに、
13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面上の評価対象範囲における前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する段階と、
前記測定範囲における前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して前記安定同位体の濃縮状態を算出する段階と、
前記測定範囲における前記濃縮状態が予め定めた基準未満となるまで、前記対象物の洗浄と、前記安定同位体の存在比の取得と、前記濃縮状態の算出と、を繰り返す段階と、
を実行させるプログラム。
【請求項26】
13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面における、前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する対象物情報取得部と、
前記測定範囲における前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して、前記安定同位体の濃縮状態を算出する比較計算部と、
前記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、前記測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を提供する汚染情報提供部と、を有する微生物汚染の評価装置。
【請求項27】
13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた洗浄済み対象物の表面上の評価対象範囲における、前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する洗浄済み対象物情報取得部と、
前記測定範囲における前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して、前記安定同位体の濃縮状態を算出する比較計算部と、
前記測定範囲における前記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、前記洗浄が不十分であると判断するための情報を提供するアラート提供部と、を有する洗浄方法の評価装置。
【請求項28】
13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面中の評価対象範囲における、前記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する対象物情報取得部と、
前記測定範囲における前記存在比と前記安定同位体の天然存在比とを比較して前記安定同位体の濃縮状態を算出する比較計算部と、
前記測定範囲における前記濃縮状態が予め定めた基準以下となるまで、前記対象物の洗浄と、前記安定同位体の存在比の取得と、前記濃縮状態の算出と、を繰り返す洗浄部と、を有する洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物汚染の評価方法、洗浄方法の評価方法、洗浄方法、プログラム、微生物汚染の評価装置、洗浄方法の評価装置、及び、洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療器具を介した感染予防のために、医療器具の洗浄が行われる。
特に、粘膜を傷つけ無菌領域に侵襲する器具や、粘膜を傷つける可能性を有する内視鏡等においては、特に十分な洗浄が求められ、洗浄が不十分であれば、重篤な感染症の原因となる場合があることが知られている。
【0003】
医療器具の洗浄が十分に行われているかを評価する技術として、特許文献1には、「内視鏡の洗浄を行う第1の洗浄手段と、前記第1の洗浄手段で洗浄された前記内視鏡の洗浄レベルが所定基準を満たしているか否かを判定する洗浄評価手段」等を有する内視鏡洗浄消毒装置において、「前記洗浄評価手段は、ATP測定法を用いて前記内視鏡の汚れ具合を検出する汚れ具合検出手段を備えて構成されることを特徴とする」内視鏡洗浄消毒装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
特開2012−71030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されたようなATP(アデノシン三リン酸)測定法による評価では、検出された汚染が代謝活性を保持した微生物によるものか、又は、単に細胞成分が残存しているだけなのかを判別することはできなかった。
特に、微生物がバイオフィルムを形成している場合にあっては、バイオフィルム内に代謝活性を保持した微生物が存在するかを鑑別することは困難だった。
【0006】
特に、内視鏡等のような複雑な形状を有する器具においては、洗浄が不十分になることがあり、このような場合、微生物汚染、とりわけバイオフィルムによる微生物汚染が発生する場合がある。
代謝活性を保持した微生物による汚染は、重篤な感染症の原因となることがあり、対象物における汚染が、代謝活性を保持した微生物によるものなのか否かを鑑別できる技術が求められている。
【0007】
上記の状況に鑑み、本発明は、微生物汚染、特に、代謝活性を保持する微生物による汚染、とりわけバイオフィルム汚染の有無をより高感度に検出できる対象物の微生物汚染の評価方法を提供することを課題とする。
また、本発明は、洗浄方法の評価方法、洗浄方法、プログラム、微生物汚染の評価装置、洗浄方法の評価装置、及び、洗浄装置を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0009】
[1] 対象物を13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させることと、上記接触後の上記対象物の表面上の評価対象範囲における上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得することと、上記測定範囲における、上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して、上記安定同位体の濃縮状態を算出することと、上記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、上記測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を提供することと、を含む微生物汚染の評価方法。
[2] 上記取得することの前に、細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液と上記対象物とを接触させ、上記表面における上記発色の状態を判定することと、上記判定の結果、上記発色している位置が特定された場合、上記位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む[1]に記載の微生物汚染の評価方法。
[3] 上記検査液が、細胞膜を発色させる発色剤を更に含有し、上記接触させることの後であって、上記取得することの前に、上記表面における上記発色の状態を判定することと、上記判定の結果、上記発色している位置が特定された場合、上記位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む[1]に記載の微生物汚染の評価方法。
[4] 上記発色剤が、クリスタルバイオレットである、[2]又は[3]に記載の微生物汚染の評価方法。
[5] 上記判定の結果、上記発色している範囲が特定されない場合、上記発色液との接触後の対象物をクリスタルバイオレット溶離液と接触させ、上記溶離液への上記クリスタルバイオレットの溶出の有無を判定することと、上記判定の結果、上記クリスタルバイオレット溶離液への上記クリスタルバイオレットの溶出が確認された場合、細胞膜を発色させる蛍光試薬を含有する蛍光発色液と上記対象物とを接触させ、上記表面における蛍光の状態を判定することと、上記判定の結果、上記蛍光している位置が特定された場合、上記蛍光している位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む[4]に記載の微生物汚染の評価方法。
[6] 上記二次イオン質量分析法が、飛行時間型二次イオン質量分析法である、[1]〜[5]のいずれかに記載の微生物汚染の評価方法。
[7] 前記対象物が内視鏡である、[1]〜[6]のいずれかに記載の微生物汚染の評価方法。
[8] 上記接触は、上記対象物を浸漬させることである、[1]〜[7]のいずれかに記載の微生物汚染の評価方法。
[9] 上記接触の前に、更に、上記検査液を滅菌することを含む、[1]に記載の微生物汚染の評価方法。
[10] 上記検査液が、15N標識アンモニウム塩、及び、13C標識炭酸塩からなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体源を含有する[1]〜[9]のいずれかに記載の微生物汚染の評価方法。
[11] 上記接触させることの後、上記取得することの前に、対象物を水に浸漬することを更に含む、[1]〜[10]のいずれかに記載の微生物汚染の評価方法。
[12] 上記接触の際の上記検査液の温度が30〜45℃である、[1]〜[11]のいずれかに記載の微生物汚染の評価方法。
[13] 洗浄された対象物を13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させることと、上記接触後の上記対象物の表面上の評価対象範囲における上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得することと、上記測定範囲における上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して上記安定同位体の濃縮状態を算出することと、上記測定範囲における上記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、上記洗浄が不十分であると判断するための情報を提供することと、を含む洗浄方法の評価方法。
[14] 上記接触させることの前、又は、上記接触させることの後であって、上記取得することの前に、細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液と上記洗浄された対象物とを接触させ、上記表面における上記発色の状態を判定することと、上記判定の結果、上記発色している位置が特定された場合、上記位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む[13]に記載の洗浄方法の評価方法。
[15] 上記検査液が、細胞膜を発色させる発色剤を更に含有し、上記接触させることの後であって、上記取得することの前に、上記表面における上記発色の状態を判定することと、上記判定の結果、上記発色している位置が特定された場合、上記位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む[13]に記載の洗浄方法の評価方法。
[16] 上記発色剤がクリスタルバイオレットである、[14]又は[15]に記載の洗浄方法の評価方法。
[17] 上記判定の結果、上記発色している位置が特定されない場合、上記発色液との接触後の対象物をクリスタルバイオレット溶離液と接触させ、上記溶離液への上記クリスタルバイオレットの溶出の有無を判定することと、上記判定の結果、上記クリスタルバイオレット溶離液への上記クリスタルバイオレットの溶出が確認された場合、細胞膜を発色させる蛍光試薬を含有する蛍光発色液と上記対象物とを接触させ、上記表面における蛍光の状態を判定することと、上記判定の結果、上記蛍光している位置が特定された場合、上記蛍光している位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む、[16]に記載の洗浄方法の評価方法。
[18] 対象物を13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させることと、上記接触後の上記対象物の表面上の評価対象範囲における上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得することと、上記測定範囲における上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して上記安定同位体の濃縮状態を算出することと、上記測定範囲における上記濃縮状態が予め定めた基準以下となるまで、上記対象物の洗浄と、上記検査液との接触と、上記安定同位体の存在比の取得と、上記濃縮状態の算出とを繰り返すことと、を含む洗浄方法。
[19] 上記接触させることの前、又は、上記接触させることの後であって、上記取得することの前に、細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液と上記対象物とを接触させ、上記表面における上記発色の状態を判定することと、
上記判定の結果、上記発色している位置が特定された場合、上記位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む[18]記載の洗浄方法。
[20] 上記検査液が、細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液を更に含有し、上記接触させることの後であって、上記取得することの前に、上記表面における上記発色の状態を判定することと、上記判定の結果、上記発色している位置が特定された場合、上記位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む[18]に記載の洗浄方法。
[21] 上記発色剤が、クリスタルバイオレットである、[19]又は[20]に記載の洗浄方法。
[22] 上記判定の結果、上記発色している範囲が特定されない場合、上記発色液との接触後の対象物をクリスタルバイオレット溶離液と接触させ、上記溶離液への上記クリスタルバイオレットの溶出の有無を判定することと、上記判定の結果、上記クリスタルバイオレット溶離液への上記クリスタルバイオレットの溶出が確認された場合、細胞膜を発色させる蛍光試薬を含有する蛍光発色液と上記対象物とを接触させ、上記表面における蛍光の状態を判定することと、上記判定の結果、上記蛍光している位置が特定された場合、上記蛍光している位置を含めて上記評価対象範囲を決定することと、を含む[21]に記載の洗浄方法。
[23] コンピュータに、13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面上の評価対象範囲における上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する段階と、上記測定範囲における上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して、上記安定同位体の濃縮状態を算出する段階と、上記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、上記測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を提供する段階と、を実行させるプログラム。
[24] コンピュータに、13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた洗浄済み対象物の表面上の評価対象範囲における上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する段階と、上記測定範囲における上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して上記安定同位体の濃縮状態を算出する段階と、上記測定範囲における上記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、上記洗浄が不十分であると判断するための情報を提供する段階と、
を実行させるプログラム。
[25] コンピュータに、13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面上の評価対象範囲における上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する段階と、上記測定範囲における上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して上記安定同位体の濃縮状態を算出する段階と、上記測定範囲における上記濃縮状態が予め定めた基準未満となるまで、上記対象物の洗浄と、上記安定同位体の存在比の取得と、上記濃縮状態の算出と、を繰り返す段階と、を実行させるプログラム。
[26] 13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面における、上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する対象物情報取得部と、上記測定範囲における上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して、上記安定同位体の濃縮状態を算出する比較計算部と、上記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、上記測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を提供する汚染情報提供部と、を有する微生物汚染の評価装置。
[27] 13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた洗浄済み対象物の表面上の評価対象範囲における、上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する洗浄済み対象物情報取得部と、上記測定範囲における上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して、上記安定同位体の濃縮状態を算出する比較計算部と、上記測定範囲における上記濃縮状態が予め定めた基準を超える場合、上記洗浄が不十分であると判断するための情報を提供するアラート提供部と、を有する洗浄方法の評価装置。
[28] 13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面中の評価対象範囲における、上記安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて測定範囲ごとに二次元的に取得する対象物情報取得部と、上記測定範囲における上記存在比と上記安定同位体の天然存在比とを比較して上記安定同位体の濃縮状態を算出する比較計算部と、上記測定範囲における上記濃縮状態が予め定めた基準以下となるまで、上記対象物の洗浄と、上記安定同位体の存在比の取得と、上記濃縮状態の算出と、を繰り返す洗浄部と、を有する洗浄装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、対象物における微生物汚染、特に、代謝活性を保持する微生物を含むバイオフィルム汚染の有無を高感度に検出できる微生物汚染の評価方法が提供できる。また、本発明によれば、洗浄方法の評価方法、洗浄方法、プログラム、微生物汚染の評価装置、洗浄方法の評価装置、及び、洗浄装置も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】3電極電気化学セルに15NHClを唯一の窒素源として含有する培養液を加え、それぞれ−0.2V、−0.5Vで安定化された電極の表面にD.ferrophilus IS5細胞を所定量導入したときの生成電流の経時変化を表している。
図2】培養後の電極表面を洗浄し、洗浄後の電極表面に残った細胞を固定して撮像した走査型電子顕微鏡像である。
図3図2と同様の条件で培養した電極上の二次イオン質量分析法によって二次元的に取得した画像である。
図4】本発明の評価装置の第1実施形態のハードウェア構成図である。
図5】上記評価装置の機能ブロック図である。
図6】プログラムに従って動作する上記評価装置の制御部の動作フローである。
図7】本発明の洗浄評価装置の第1実施形態のハードウェア構成図である。
図8】上記洗浄評価装置の機能ブロック図である。
図9】プログラムに従って動作する上記洗浄評価装置の制御部の動作フローである。
図10】本発明の洗浄装置の第1実施形態のハードウェア構成図である。
図11】上記洗浄装置の機能ブロック図である。
図12】プログラムに従って動作する上記洗浄装置の制御部の動作フローである。
図13】評価対象範囲の絞りこみフロー図である。
図14】評価対象範囲の絞りこみの他の実施形態のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
[用語の定義]
本明細書で使用される用語の定義を以下に示す。なお、下記のとおり本明細書で特別に定義される場合を除いて、使用される全ての技術的、及び、科学的用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解する意味と同一の意味を有するものとする。
【0014】
(対象物)
本明細書において、対象物とは、使用等の何らかの原因で微生物による汚染が生じ得るものであって、典型的には繰り返して使用される物品を意味する。このような物品は使用前、及び/又は、使用後に洗浄し、微生物汚染を取り除いてから再使用される。
このような物品としては、スポルディングの分類において「クリティカル」に分類される手術器具、注射器、穿刺器具、縫合器具、インプラント、及び、内視鏡用生検鉗子等;セミクリティカルに分類される人工呼吸器、麻酔器回路、及び、内視鏡等が挙げられる。
上記以外にも、加工食品、及び/又は、発酵食品製造用の器具、配管、及び、タンク等も挙げられる。
【0015】
従来の検知方法ではバイオフィルム内に代謝活性を保持した状態の微生物が存在するかを検知することは困難であったが、本評価方法によればそのような状態の微生物であっても、代謝活性を保持した状態なのかを検知できる。
【0016】
(天然存在比)
本明細書において、安定同位体の天然存在比は、「NIST Atomic Weights and Isotopic Compositions for All Elements」(https://www.nist.gov/pml/atomic−weights−and−isotopic−compositions−relative−atomic−masses)に記載された各安定同位体の天然存在比を意味し、13Cであれば、0.0107、15Nであれば、0.00364を意味する。
【0017】
[微生物汚染の評価装置]
本評価装置は、対象物の表面における検査液に由来する13C、及び/又は15N標識化合物の分布(存在比)を二次イオン質量分析法で測定し、これを天然存在比と比較することで、対象物の表面における微生物の代謝、言い換えれば、代謝活性を有する微生物の存在を検知する点に特徴の一つがある。
【0018】
図1は、3電極電気化学セルに15NHClを唯一の窒素源として含有する培養液を加え、それぞれ−0.2V、−0.5V(vs SHE:標準水素電極)で安定化されたITO(Indium Tin Oxide)電極の表面にD.ferrophilus IS5細胞を所定量導入したときの生成電流の経時変化を表している。
【0019】
図1に示したとおり、−0.2Vの電位を印加した場合、電流は殆ど生成しなかった。一方で、−0.5Vの電位を印加した場合、カソード電流は、最初の12時間で増大し、その後、一定程度に維持された。
この系では、Hの発生によるカソード電流はほとんど検出されないため、この電流生成は細胞から抽出された電子に由来する。すなわち、−0.2Vの電位を印加のもとでは、D.ferrophilus IS5細胞は活性化されていない状態であり、一方、−0.5V印加のもとでは、同細胞が活性化された状態であることがわかる。
【0020】
このITO電極表面を洗浄し、洗浄後の電極表面に残った細胞を固定して撮像した走査型電子顕微鏡(SEM)像を図2に示した。図2によれば、−0.2V、及び、−0.5Vのいずれの培養条件でもD.ferrophilus IS5細胞は電極表面に直接付着していることがわかる。
また、図2からわかるように、−0.2Vで培養した代謝活性を保持しないD.ferrophilus IS5細胞と、−0.5Vで培養した代謝活性を保持するD.ferrophilus IS5細胞とは、SEM像上では、顕著な差はなく、この画像からは、これらの細胞が代謝活性を保持した状態か否かを判別することはできなかった。
【0021】
図3は、上記と同様の条件で培養した細胞について、二次イオン質量分析法(NanoSIMS)によって所定の測定領域を対象に二次元的に取得した画像を表している。図3における黒色の濃淡は15Nの分布を表しており、具体的には、黒色で表された背景に、15Nの存在比(15N/14N)が天然存在比より大きい範囲が白色、天然存在比と同程度の範囲が灰色で示されている。
15Nの存在比が天然存在比より大きい範囲は、細胞による15NHClの取り込みが行われたこと、つまり、細胞が代謝活性を保持していることを示している。
【0022】
このように、活性化されていないD.ferrophilus IS5細胞(−0.2V)における15Nの存在比は天然存在比と同程度であり、活性化された同細胞(−0.5V)では、15Nの存在比が天然存在比より大きくなることで、活性化された状態の同細胞の存在を検知できる。
本評価装置は、上記を基本的な測定原理としており、汚染管理上の問題となり得る代謝活性を保持した状態の微生物の存在を検知して、汚染状態の評価を行うことができる。
【0023】
本発明に係る対象物の微生物汚染の評価装置(以下、単に「評価装置」ともいう。)について、図面を参照して説明する。図4は、本評価装置の実施形態である評価装置400のハードウェア構成図である。評価装置400は、プロセッサ401と、記憶デバイス402と、測定デバイス403と、入力デバイス404と、出力デバイス405と、を有する。更に上記各デバイスはバス406を介して相互にデータを交換可能に構成されている。
【0024】
プロセッサ401、記憶デバイス402、測定デバイス403、入力デバイス404、及び、出力デバイス405は、バス406により接続される。プロセッサ401は、評価装置400を制御する。記憶デバイス402は、プロセッサ401の作業エリアとなる。また、記憶デバイス402は、各種プログラムやデータを記憶する非一時的な、又は、一時的な記録媒体である。
【0025】
プロセッサ401としては、例えば、プロセッサ(CPU)、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application−specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General−purpose computing on graphics processing units)等がある。
【0026】
記憶デバイス402としては、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等がある。
【0027】
測定デバイス403は、二次イオン質量分析器である。二次イオン質量分析器は、イオンビームを対象物に照射し、その表面から発生する二次イオンを質量分析するデバイスであり、質量分析計の方式によって、セクター型、四重極型、及び、飛行時間(Time of Flight)型等があり、中でも、より優れた感度が得られやすい点で、飛行時間型(飛行時間型二次イオン質量分析法)が好ましい。
【0028】
入力デバイス404は、データを入力する。入力デバイス404としては、例えば、キーボード、ボタン、マウス、タッチパネル、テンキー、及び、スキャナ等がある。
出力デバイス405は、データを出力する。出力デバイス405としては、例えば、ディスプレイ、及び、プリンタがある。
【0029】
図5は、評価装置400の機能ブロック図である。
評価装置400は、制御部501と、操作部502と、出力部503と、対象物情報取得部504、記憶部505と、比較計算部506と、汚染情報提供部507と、を有する。
【0030】
制御部501は、プロセッサ401を含んで構成され、以下の各部を制御して評価装置400の機能を実現する。
【0031】
対象物情報取得部504は、測定デバイス403を含んで構成される。
対象物情報取得部504は、記憶部505に記憶されたプログラムがプロセッサ401により実行され、これにより制御された測定デバイス403によって実現される機能である。
【0032】
対象物情報取得部504は、対象物の表面上の評価対象範囲における安定同位体の存在比を測定範囲ごとに二次元的に取得する。言い換えれば、安定同位体の存在比(15N/14N、及び/又は、13C/12C)の対象物の表面上の評価対象範囲における二次元的な分布像を取得する。
なお、評価対象範囲は対象物の表面上の全部であっても一部であってもよい。汚染が生じている可能性ある範囲を予め特定できる場合には、表面上の一部を評価対象範囲とすることで、より迅速に評価ができる。
【0033】
記憶部505は、記憶デバイス402を含んで構成される。記憶デバイス402には、プロセッサ401が各部を制御するためのプログラム、計算を行うためのプログラム等が予め記憶されている。
また、対象物の測定によって得られるデータ、及び、対象物に関連するその他の情報を含むデータセット等も記憶される。
記憶部505は、制御部501により制御された記憶部505によって、これらのデータ等を読み出し、及び、書き込むことができる機能である。
制御部501、及び、記憶部505は、操作部502及び出力部503とともに典型的にはコンピュータを構成している。
【0034】
比較計算部506は、記憶部505に記憶されたプログラムが制御部501により実行されることにより実現される機能である。
具体的には、対象物情報取得部504によって取得された分布像をもとに、測定範囲における安定同位体の存在比の計算を行い、記憶部505に記憶された天然存在比、及び、予め定められた基準が読み出し、上記計算結果と比較して、安定同位体の濃縮状態を算出する機能である。
【0035】
汚染情報提供部507は、記憶部505に記憶されたプログラムが制御部501により実行されることにより実現される機能である。
具体的には、比較計算部506による比較の結果得られた安定同位体の濃縮状態が予め定められた基準を超える場合に、測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を出力部503に表示するよう促す機能である。
【0036】
出力部503は、出力デバイス405を含んで構成され、制御部501に制御された汚染情報提供部507からの指示に従って、測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報を表示する機能である。
また、出力部503は上記以外にも測定手順、及び、測定条件等を必要に応じて表示することもできる。
【0037】
操作部502は、入力デバイス404を含んで構成され、ユーザからの測定開始指示、及び、試料の識別のために必要な情報等の入力を受け付ける機能である。
【0038】
(微生物汚染の評価装置の動作)
次に、評価装置400の動作について説明する。
評価装置400はプログラムに従って、以下のとおり動作する。図6は、上記プログラムに従って動作する評価装置400の制御部501の動作フローである。
【0039】
典型的には、上記動作はユーザによる測定開始の指示を操作部502により受け付けることによって開始される。この際、評価の対象となる対象物は安定同位体を含有する検査液と接触させたもの(以下「接触済み対象物」ともいう。)である。
接触済み対象物は、評価装置400の動作の前に、典型的にはユーザによって準備されるが、対象物を検査液と接触させる機能を評価装置が有していてもよい。
【0040】
対象物が接触される検査液は、13C、及び、15Nからなる群より選択される少なくとも1種の安定同位体を含有する。これらの安定同位体は、典型的には13C、又は、15Nで標識された化合物(標識化合物)として検査液に含有される。
このようは標識化合物を本明細書においては安定同位体源ともいう。
【0041】
このような標識化合物としては、例えば、安定同位体が13Cであれば(13C標識化合物)、検査液中で溶解して13C標識炭酸イオン(13CO2−)を生じる13C標識炭酸塩、及び、13C標識重炭酸イオン(H13CO)を生じる13C標識重炭酸塩等が挙げられる。
【0042】
より具体的には、炭酸ナトリウム、及び、炭酸カリウム等の炭酸アルカリ金属塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び、炭酸バリウム等の炭酸アルカリ土類金属塩;炭酸アンモニウム;炭酸水素カリウム、及び、炭酸水素ナトリウム等の重炭酸アルカリ金属塩;炭酸水素アンモニウム;等が挙げられる。
【0043】
また、上記以外の13C標識化合物としては、例えば、13Cで標識されたアミノ酸、タンパク質、有機酸又はその塩、糖類、及び、脂質等が挙げられる。
【0044】
13C標識化合物としては、13C標識炭酸塩化合物、及び、13C標識重炭酸塩化合物からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、13C標識重炭酸塩化合物がより好ましい。
【0045】
また、15N標識化合物としては、例えば、溶液中で15N標識アンモニウムイオン(15NH4+)を生じる15N標識アンモニウム塩、15N標識硝酸イオン(15NO)を生じる15N標識硝酸塩、及び、15N標識亜硝酸イオン(15NO)を生じる15N標識亜硝酸塩等が挙げられる。
【0046】
このような化合物としては、塩化アンモニウム、リン酸ニ水素アンモニウム、硝酸アンモニウム(15NHNO)、硫酸アンモニウム、及び、硫酸アンモニウム等のアンモニウム塩;硝酸アンモニウム(NH15NO)、及び、硝酸カルシウム、硝酸カリウム等の硝酸塩;亜硝酸ナトリウム等の亜硝酸塩;硝酸ナトリウム等の硝酸塩;等が挙げられる。
【0047】
15N標識化合物としては、15Nアンモニウム塩化合物が好ましい。
【0048】
検査液は、更に溶媒を含有していることが好ましく、溶媒としては水が挙げられる。
また、検査液は、上記以外の成分を含有していてもよいが、検査液が13C標識化合物を含有する場合、他の炭素源(糖類等)を含有しないことが好ましい。
また、検査液が15N標識化合物を含有する場合、他の窒素源(アミノ酸等)を含有しないことが好ましい。
また、検査液が13C標識化合物と15N標識化合物とを含有する場合、他の炭素源及び窒素源を含有しないことが好ましい。
【0049】
検査液中における標識化合物の含有量としては特に制限されず、標識化合物の種類によって適宜調整されてよい。
【0050】
対象物を検査液に接触させる方法としては特に制限されず、対象物を検査液に浸漬する方法が好ましい。この時、検査液が滅菌されていると、より正確な評価結果が得られやすい。検査液の滅菌の方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。滅菌の方法としては、例えば、放射線を照射する方法、加熱する方法、並びに、加熱及び加圧する方法が挙げられる。
検査液を加熱及び加圧する場合、加熱温度、圧力としては特に制限されないが、例えば、121℃20分、2気圧又はそれと同等以上の条件で実施することが好ましい。
【0051】
対象物を検査液に接触させる方法としては特に制限されず、汚染の度合い、及び、対象物の形状等に応じて適宜選択すればよいが、一般に、1秒〜72時間が好ましい。
対象物を検査液に接触させる際の検査液の温度としては特に制限されないが、微生物の活性がより高まりやすい結果、より高感度に検出が可能になる点で、30〜45℃程度が好ましい。
【0052】
対象物は検査液と接触されたあと、そのまま後述する測定を行ってもよいが、より高感度に代謝活性を保持した微生物を検出できる点で、検査液と接触した後、安定同位体の存在比を取得することの前に、接触後の対象物を水(例えば、滅菌水)に浸漬することが好ましい。
水に接触後の対象物を浸漬させることで、対象物の表面における余剰の(微生物の細胞内に固定されていない)安定同位体を除去することができる点で好ましい。
【0053】
図6に戻り、接触済み対象物が準備され、操作部502がユーザによる測定開始の指示を受け付けると、制御部501は、対象物情報取得部504を制御して、安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面上の評価対象範囲における安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて二次元的に取得する(ステップS601)。
【0054】
本ステップにおいて取得されるのは、対象物の表面上の評価対象範囲における安定同位体の存在比の分布像である。
評価対象範囲は対象物の表面全体であってもよいし、その一部であってもよい。評価対象範囲は、例えば、汚染が発生する可能性が高い場所としてユーザが選定する対象物の表面の一部分であってもよく、その場合、評価対象範囲の位置は、操作部502がユーザの指示として受け付ける形態であってもよい。
【0055】
安定同位体の存在比の取得方法としては、一次イオンビームを比較的大きな径に調整して対象物の表面に照射し、発生した二次イオンビームをビーム径のまま質量分析計に導入して取得する方法(投影法)、及び、一次イオンビームをより細く絞り、対象物の表面を走査して、一次イオンのビーム径の大きさ、すなわち二次イオン像の空間分解能でマッピングする方法(走査法)が挙げられる。
【0056】
ここで、安定同位体の存在比とは、検査液に含有されていたのと同一の安定同位体のモル分率を意味する。より具体的には、検査液に13Cが含有される場合、安定同位体の存在比とは測定範囲における12Cの含有量に対する13Cの含有量の含有モル比、すなわち、13C/12Cを意味する。
また、検査液に15Nが含有される場合、安定同位体の存在比とは測定範囲における15Nの含有量に対する15Nの含有量の含有モル比、すなわち、15N/14Nを意味する。
【0057】
なお、測定範囲とは、分布像の取得の際の測定対象範囲を意味する。すなわち、投影法により分布像を取得する場合は、二次イオンビーム径に由来して二次イオン光学系によって定まる最小測定範囲を含む領域である。また、走査法により分布像を取得する場合は、一次イオンビームの大きさ(径)によって定まる最小測定範囲を含む領域である。
【0058】
測定範囲の大きさは特に制限されないが、一般に、100nm〜0.5mm程度が好ましい。なお、測定範囲は、測定ごと、及び、対象物ごとに変更されてもよく、例えば、1回目の測定においては投影法により広い領域を測定範囲とし、2回目の測定においては走査法により測定範囲をより狭く設定し、異常がみられる位置を特定してもよい。
【0059】
ここで、評価対象範囲は対象物の表面のうち、二次イオン質量分析法の測定対象とする範囲を意味し、測定範囲は二次イオン質量分析に使用するハードウェア、及び、パラメータ設定等によって定まる1度に測定できる範囲を意味する。
典型的な例では、評価対象範囲が複数の測定範囲に区画される形態、評価対象範囲と測定範囲が等しい形態、及び、測定範囲が評価対象範囲の全体を覆うような形態等が挙げられる。
【0060】
なお、評価対象範囲は、上記安定同位体の存在比の取得前に、以下の方法により絞り込みを行ってもよい。この評価対象範囲の絞り込みのフローを図13に示した。
【0061】
図13では、まず、対象物を細胞膜を発色させる発色剤を含有する発色液と接触させ、対象物の表面における発色の状態が判定される(ステップS1301)。
細胞膜を発色させる発色剤は、細胞膜に固定されて細胞膜を発色させる機能を有する公知の化合物であり、クリスタルバイオレット等が使用できる。
発色剤を含有する発色液と対象物とが接触すると、対象物の表面に微生物が存在する場合、細胞膜が染色される。
対象物の表面における発色の状態の判定は、典型的には目視によって行われる。
【0062】
なお、検査液が発色剤を含有する場合、対象物と検査液を接触させることで、上記発色液と対象物との接触に代えることができる。この場合、評価対象範囲の絞り込みは、安定同位体の存在比の取得の前に実施される。
【0063】
次に、上記判定の結果(ステップS1302)、発色している位置が特定された場合(ステップS1302:YES)、上記位置を含めて評価対象範囲が決定される(ステップS1303)。
なお、図13では、発色している位置が特定されない場合(ステップS1302:NO)、評価対象範囲が決定されないままフローが終了する、すなわち、対象物の全体を評価対象範囲として、その後の微生物汚染の評価が行われることになるが、このとき、発色剤の種類を変更して再度判定を行ってもよい。
【0064】
図14には、評価対象範囲の絞りこみの別の実施形態のフローを示した。
図14のフローでは、まず、対象物をクリスタルバイオレット(図14中「CV」と示した)と接触させ、対象物の表面におけるクリスタルバイオレットによる発色の状態が判定される(S1401)。
クリスタルバイオレットを含有する発色液と対象物とが接触すると、対象物の表面に微生物が存在する場合、細胞膜が染色される。
【0065】
次に、対象物の表面における発色の状態の判定が、典型的には目視によって行われる(ステップS1402)。
次に、上記判定の結果、発色している位置が特定された場合(ステップS1402:YES)、上記位置を含めて評価対象範囲が決定される(ステップS1403)。
【0066】
一方、上記判定の結果、発色している位置が特定されなかった場合(ステップS1402:NO)、上記発色液と接触させた後の対象物は、クリスタルバイオレット溶離液と接触され、クリスタルバイオレットの溶出の有無が判定される(ステップS1404)。
クリスタルバイオレット溶離液は、細胞膜に固定されたクリスタルバイオレットを溶離させる機能を有する薬液であり、具体的にはエタノール等を用いることができる。
また、クリスタルバイオレット溶離液と対象物とを接触させる方法としては特に制限されないが、例えば、対象物をクリスタルバイオレット溶離液に浸漬させる方法が挙げられる。
なお、クリスタルバイオレット溶離液と接触させる前に、対象物を水(例えば、滅菌水)等に浸漬し、遊離状態のクリスタルバイオレットを除去することが好ましい。
【0067】
対象物をクリスタルバイオレットを含有する発色液と接触させ、発色している範囲が位置が特定されない場合でも、対象物の表面上に代謝活性を有す微生物が付着している可能性がある。典型的には、微生物汚染が生じている範囲が微小な場合に上記の状態が発生する場合がある。
【0068】
このとき、目視はできなくとも、微生物の細胞膜には、クリスタルバイオレットが固定されており、これを溶出させて、溶離液中におけるクリスタルバイオレットの含有量を測定することで、より高感度に微生物汚染を検知できる。
溶離液中におけるクリスタルバイオレットの含有量の測定方法としては特に制限されないが、比色法等が使用できる。
【0069】
対象物をクリスタルバイオレット溶離液と接触させたのち、クリスタルバイオレット溶離液中にけるクリスタルバイオレットの溶出の有無が判定され、この判定の結果、クリスタルバイオレットの溶出が確認された場合(ステップS1405:YES)、対象物は、細胞膜を発色させる蛍光試薬を含有する蛍光発色液と接触され、対象物の表面における発色の状態が判定される(ステップS1406)。
【0070】
蛍光試薬は、クリスタルバイオレットと比較すると、より軽微な微生物汚染であってもより強いシグナルが得られやすいため、クリスタルバイオレットでは検出できなかった微生物汚染を検出できる。
蛍光試薬としては特に制限されず、公知の蛍光試薬が使用できる。このような蛍光試薬としては、例えば、「FilmTfacer(商品名)」シリーズ等が挙げられる。
【0071】
次に、対象物の表面における蛍光の状態が判定され、この判定の結果、蛍光している位置が特定された場合(ステップS1407:YES)、上記蛍光している位置を含めて評価対象範囲が決定される(ステップS1408)。
なお、図14では、発色している位置が特定されない場合(ステップS1405:NO、ステップS1407:NO)、評価対象範囲が決定されないままフローが終了する、すなわち、対象物の全体を評価対象範囲として、その後の微生物汚染の評価が行われることになるが、このとき、発色剤の種類を変更して再度判定を行ってもよい。
【0072】
図6に戻り、次に、測定範囲における安定同位体の存在比と、対応する安定同位体の天然存在比とを比較して、上記安定同位体の濃縮状態が算出される(ステップS602)。
すでに説明したとおり、測定範囲に代謝活性を保持した状態の微生物が存在する場合、検査液に由来する安定同位体が微生物の細胞内に取り込まれるため、対象物の表面に安定同位体が濃縮された状態となる。
【0073】
なお、濃縮状態とは対象とする安定同位体の天然存在比との乖離を意味し、典型的には、測定範囲における安定同位体の存在比と天然存在比との差であるが、上記に制限されず、天然存在比に対する安定同位体の存在比の比(存在比/天然存在比)等であってもよい。
【0074】
次に、濃縮状態が予め定めた基準と比較され、これが予め定めた基準を超える場合、その測定範囲に微生物による汚染が発生していると判断するための情報が提供され(ステップS603:YES、ステップS604)、微生物汚染の評価は終了する。
なお、上記基準は異常判断するための情報の提供が実施されるか否かの閾値であり、所望の検知感度等に動じて適宜設定すればよい。
例えば、存在比と天然存在比との差が0を超えることを基準とすることもできるし、天然存在比に対する存在比の比が1.5を超えることを基準とすることもできる。
【0075】
提供される情報は、典型的には、微生物汚染が生じている可能性がある測定範囲が存在すること、及び、その測定範囲の対象物の表面上の位置の情報を含む。オペレータは、出力部503に出力された上記情報に基づき、対象物に微生物汚染が発生していること、及び、その汚染箇所を判断することができる。
なお、この際の汚染箇所の表示は測定範囲の大きさに対応しており、真の汚染箇所の特定が必要である場合、その測定範囲を新たな評価対象範囲と決定し、更に上記新たに決定した評価対象範囲をより小さな測定範囲に分割して、再度評価を行ってもよい。
【0076】
一方、上記濃縮状態が予め定めた基準を超えない場合(ステップS603:NO)、微生物汚染の評価は終了する。なお、この場合、評価を終了する前に、測定範囲に微生物による汚染が発生していないと判断(正常判断)するための情報を提供してもよい。
【0077】
本装置によれば、上記微生物がバイオフィルム内に存在する場合であっても、検出感度には影響がないため、これまでの方法、及び、装置では困難だったバイオフィルム内の代謝活性を保持した微生物の存在も検知できる。
【0078】
[洗浄方法の評価装置]
本発明に係る対象物の洗浄方法の評価装置(以下、単に「洗浄評価装置」ともいう。)の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0079】
図7は、本洗浄評価装置の一実施形態である洗浄評価装置700のハードウェア構成図である。洗浄評価装置700は、プロセッサ401と、記憶デバイス402と、測定デバイス703と、入力デバイス404と、出力デバイス405と、を有する。上記各デバイスはバス406により相互にデータを交換可能に構成されている。
なお、以下の説明においては、すでに説明した微生物汚染の評価装置が有するハードウェア、及び、機能と同様のハードウェア、及び、機能については、同一の記号を付したうえで、説明を省略する。
【0080】
測定デバイス703は二次イオン質量分析器であり、洗浄済み対象物(以下、「洗浄物」ということがある。)の表面上の評価対象範囲における同位体の組成を二次元的に取得することができる。言い換えれば、洗浄物の表面上の評価対象範囲における同位体の組成に係る分布像を取得できる。
二次イオン質量分析器としては、すでに説明した微生物汚染の評価装置における二次イオン質量分析器と同様のものを用いることができ、好適形態も同様である。
【0081】
図8は、洗浄評価装置700の機能ブロック図である。洗浄評価装置700は、制御部501と、操作部502と、出力部503と、洗浄済み対象物情報取得部(以下「洗浄物情報取得部」ともいう。)804、記憶部505と、比較計算部506と、アラート提供部807と、を有する。
【0082】
洗浄物情報取得部804は、測定デバイス703を含んで構成される。洗浄物情報取得部804は、記憶部505に記憶されたプログラムが制御部501により実行され、これにより制御された測定デバイス703によって実現される機能である。
洗浄物情報取得部804により、洗浄済み対象物の表面上の評価対象範囲における二次イオン質量分析法を用いて測定することにより安定同位体の存在比に関する分布像が取得される。
【0083】
アラート提供部807は、記憶部505に記憶されたプログラムが制御部501により実行されることにより実現される機能である。
具体的には、比較計算部506による比較の結果、測定範囲における安定同位体の濃縮状態が予め定められた基準を超える場合に、洗浄が不十分であると判断するための情報を出力部503に表示するよう促す。
【0084】
出力部503は、出力デバイス405を含んで構成され、制御部501に制御されたアラート提供部807からの指示に従って、洗浄が不十分であると判断するための情報を表示する。
また、出力部503は、安定同位体の濃縮状態が予め定められた基準を超える測定範囲の対象物の全体における位置を表示してもよい。
また、出力部503は上記以外にも測定手順、及び、測定条件等を表示してもよい。
【0085】
(洗浄評価装置の動作)
次に洗浄評価装置700の動作について説明する。
洗浄評価装置700はプログラムに従って、以下のとおり動作する。図9は、上記プログラムに従って動作する洗浄評価装置700の制御部501の動作フローである。
【0086】
典型的には、上記動作はユーザによる測定開始の指示を操作部502により受け付けることによって開始される。
操作部502が測定開始の指示を受け付けると、制御部501は、洗浄物情報取得部804を制御して、安定同位体を含有する検査液と接触させた洗浄済み対象物の表面上の評価対象範囲における安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて二次元的に取得する。
【0087】
ここで、本洗浄評価装置において測定の対象とする物品は洗浄済み対象物である。本洗浄評価装置は洗浄済み対象物の表面における微生物汚染、すなわち、代謝活性を保持した微生物の存在を検知することによって、対象物に対して行われた洗浄が不十分であるかを、言い換えれば、十分なものであったかを判断するための情報を提供できる。
【0088】
洗浄済み対象物は典型的にはユーザが対象物を洗浄することで準備される。
洗浄の方法としては特に制限されないが、対象物が再生利用される医療器具である場合、スポンジ、及び、ブラシ等を用いて汚れをこすり落とす用手洗浄;対象物を洗浄液に浸漬する浸漬洗浄;超音波発生器を用いた超音波洗浄;ウォッシャーディスインフェクターと呼ばれる自動洗浄機を用いた洗浄;及び、これらの組み合わせ等が挙げられる。
【0089】
図9に戻り、制御部501は、操作部502から測定開始の指示を受け付けると、洗浄物情報取得部804を制御して、検査液と接触させた洗浄済み対象物の表面上の評価対象範囲における安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて二次元的に取得する(ステップS901)。
なお、この評価対象範囲は、すでに説明した方法によって絞り込みを行ったものであってもよい。
【0090】
次に、制御部501は比較計算部506を制御して、洗浄物情報取得部804により測定された安定同位体の存在比と天然存在比とを比較し、測定範囲における安定同位体の濃縮状態を算出する(ステップS902)。
なお濃縮状態の計算方法としては、すでに説明した微生物汚染の評価装置における濃縮状態の計算方法と同様であり、好適形態も同様である。
【0091】
次に、制御部501は、アラート提供部807を制御して、測定範囲における安定同位体の濃縮状態が予め定められた基準を超える場合(ステップS903:YES)、洗浄が不十分であると判断するための情報を提供する(ステップS904)。
なお、上記基準は、評価装置の説明において説明した基準と同様であり、好適形態も同様である。
【0092】
アラート提供部807が提供する情報は、測定範囲において安定同位体の濃縮状態が基準を超え、洗浄が不十分である可能性があることを表示するものであれば他の情報を含んでいてもよく、例えば、上記基準を超える測定範囲が、対象物の全体に対してどの範囲に位置するのかを説明するための情報を含んでいてもよい。
【0093】
また、安定同位体の濃縮状態が予め定められた基準を超える測定範囲が存在しない場合(ステップS903:NO)、測定は終了される。なお、このとき、制御部501は、アラート提供部807を制御して、濃縮状態が予め定めた基準を超える測定範囲が存在しないことを出力部503に表示させてもよい。
【0094】
医療器具の洗浄方法は、一般に、対象とする器具の形状及び材料;作業者の感染暴露リスク;洗浄に使用する薬液の種類;洗浄の温度、時間及び手順;汚れの種類等に応じて適宜選択される。一方で、上記の各条件を調整して新たな洗浄方法を適用しようとすれば、その有効性(すなわち、十分に洗浄できるか)を確認する必要もあった。
【0095】
本洗浄評価装置によれば、所定の方法で洗浄した洗浄済み対象物の表面における代謝活性を保持した微生物の存在を検知することにより、この洗浄が十分だったか(不十分だったか)を判断するための情報を提供できるため、洗浄効果を正確に評価できる。そのため、例えば、対象物の形状、及び、汚染状況等が異なる場合であっても、それに応じた洗浄方法の仕様変更等に利用できる。
【0096】
[洗浄装置]
本発明に係る洗浄装置(以下、単に「洗浄装置」ともいう。)の実施形態について、図面を参照して説明する。図10は、本発明に係る実施形態であるの洗浄装置1000のハードウェア構成図である。
洗浄装置1000は、プロセッサ401と、記憶デバイス402と、測定デバイス403と、入力デバイス404と、出力デバイス405と、洗浄デバイス1001と、を有する。各デバイスはバス406を介して互いにデータ交換可能に構成されている。
なお、以下の説明においては、すでに説明した微生物汚染の評価装置、及び、洗浄方法の評価装置が有するハードウェアと同様のハードウェア、及び、機能と同様の機能については、同一の記号を付したうえで、説明を省略する。
【0097】
洗浄デバイス1001は対象物を洗浄可能な機器であり、典型的には、超音波洗浄器、及び、ウォッシャーディスインフェクター等を含む機器である。
なお、洗浄装置1000においては、測定デバイス403、及び、洗浄デバイス1001を別に備えており、洗浄後の対象物を測定デバイス403へと移送し、測定後の対象物を洗浄デバイス1001へと移送可能な図示しない移送デバイスを有している。
【0098】
しかし、本洗浄装置の構成としては上記に制限されず、測定デバイス403と洗浄デバイス1001とは一体に構成されていてもよい。この場合、移送デバイスを設けなくてもよいため、洗浄装置の構成をより簡素化できる。
【0099】
図11は、洗浄装置1000の機能ブロック図である。洗浄装置1000は、制御部501と、操作部502と、出力部503と、対象物情報取得部504、記憶部505と、比較計算部506と、洗浄部1101と、を有する。
【0100】
洗浄部1101は、洗浄デバイス1001を含んで構成され、記憶部505に記憶されたプログラムが制御部501により実行され、これにより制御された洗浄デバイス1001により実行される機能である。
【0101】
(洗浄装置の動作)
次に、洗浄装置1000の動作について説明する。
洗浄装置1000はプログラムに従って、以下のとおり動作する。図12は、上記プログラムに従って動作する洗浄装置1000の制御部501の動作フローである。
【0102】
典型的には、上記動作はユーザによる測定開始の指示を操作部502により受け付けることによって開始される。
操作部502が測定開始の指示を受け付けると、制御部501は、対象物情報取得部504を制御して、安定同位体を含有する検査液と接触させた対象物の表面上の評価対象範囲における安定同位体の存在比を二次イオン質量分析法を用いて二次元的に取得する(ステップS1201)。
なお、以下の説明では対象物が未洗浄である場合について説明するが、対象物は洗浄済み(すなわち洗浄物)であってもよい。
また、上記評価対象範囲は、すでに説明した方法によって絞り込まれたものであってもよい。
【0103】
次に、制御部501は、比較計算部506を制御して、対象物情報取得部504により測定された、測定範囲における安定同位体の存在比と天然存在比とを比較し、測定範囲における安定同位体の濃縮状態を算出する(ステップS1202)。
なお濃縮状態の分析方法としては、すでに説明した微生物汚染の評価装置における濃縮状態の分析方法と同様であり、好適形態も同様である。
【0104】
次に、測定範囲における安定同位体の濃縮状態が予め定められた基準を超える場合(ステップS1203:NO)、制御部501は、洗浄部1101を制御して、対象物の洗浄を行い(ステップS1204)、測定範囲における安定同位体の濃縮状態が予め定められた基準以下となるまで判定と洗浄と(ステップS1201〜ステップS1204)を繰り返させる。
【0105】
一方、測定範囲における安定同位体の濃縮状態が予め定められた基準以下である場合、洗浄は終了する。
このとき、対象物の表面全体を複数の測定範囲に区画する場合、すべての測定範囲における濃縮状態が予め定められた基準以下となるまで、洗浄部1101による洗浄を繰り返せばよい。
【0106】
本洗浄装置によれば、洗浄による効果を測定により評価確認し、代謝活性を有する微生物に由来する信号が検出されなくなるまで洗浄ができるため、より確実な洗浄が可能になる。
【0107】
本評価装置によれば、二次イオン質量分析法を提供すべき評価対象範囲を予め絞ることができるため、より効率的に対象物を洗浄できる。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、微生物汚染、特に、代謝活性を保持する微生物を含むバイオフィルム汚染の有無を高感度に検出できる微生物汚染の評価方法が提供できる。また、本発明によれば、洗浄方法の評価方法、及び、洗浄方法も提供でき、上記は医療器具等の洗浄方法の開発に使用できる。
【符号の説明】
【0109】
400 :評価装置
401 :プロセッサ
402 :記憶デバイス
403 :測定デバイス
404 :入力デバイス
405 :出力デバイス
406 :バス
501 :制御部
502 :操作部
503 :出力部
504 :対象物情報取得部
505 :記憶部
506 :比較計算部
507 :汚染情報提供部
700 :洗浄評価装置
703 :測定デバイス
804 :洗浄物情報取得部
807 :アラート提供部
1000 :洗浄装置
1001 :洗浄デバイス
1101 :洗浄部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14