(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5705582
(24)【登録日】2015年3月6日
(45)【発行日】2015年4月22日
(54)【発明の名称】樋および樋の冷却方法
(51)【国際特許分類】
C21B 7/14 20060101AFI20150402BHJP
【FI】
C21B7/14 303
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-37338(P2011-37338)
(22)【出願日】2011年2月23日
(65)【公開番号】特開2012-172226(P2012-172226A)
(43)【公開日】2012年9月10日
【審査請求日】2013年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390022873
【氏名又は名称】NSプラント設計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紀彰
(72)【発明者】
【氏名】古舘 昭二
(72)【発明者】
【氏名】村田 義彦
【審査官】
本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−158306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に耐火材が設けられる保持金物を有する樋であって、
前記保持金物は、内壁と外壁との間に冷却ガスが供給される中空部を有し、前記中空部内を複数の冷却ガス流路とする長手方向の横仕切板と、前記中空部内を長手方向に対して垂直な横断面方向に仕切る複数の縦仕切板と、前記複数の冷却ガス流路のそれぞれの冷却ガスの流量を前記縦仕切板に形成された孔の形状または孔の個数により調整する流量調整手段とを有することを特徴とする樋。
【請求項2】
内壁と外壁との間に冷却ガスが供給される中空部を有し、前記中空部内を複数の冷却ガス流路とする長手方向の横仕切板と、前記中空部内を長手方向に対して垂直な横断面方向に仕切る複数の縦仕切板とを有し、内面に耐火材が設けられる保持金物を有する樋の冷却方法であって、
前記複数の冷却ガス流路のそれぞれの冷却ガスの流量を前記縦仕切板に形成された孔の形状または孔の個数により調整することを特徴とする樋の冷却方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば高炉設備の鋳床において高炉から排出される溶銑滓を受銑する出銑樋などの高温物を流す樋および樋の冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から排出される溶銑滓を受銑する出銑樋は、
図9に示すように、溶銑滓を受ける面から順に耐火材であるワーキングライニング材50およびバックライニング材51、並びに保持金物52の構成となっている。また、これらはワーキングライニング材50などの寿命を延長する目的で、冷却されている場合がある。
【0003】
ところが、出銑樋は、受銑時期および休止時期を繰り返して使用されるため、繰り返して使用するに従って、保持金物52が長手方向にわたって上下に凹状に変形したり、左右にバナナ状に変形したりする。この変形のため、高炉出銑口近傍の出銑樋と出銑口ライニング材の切れによる漏銑トラブルや、反出銑口近傍の出銑滓出口周りのライニング材の切れによる漏銑トラブルなどの危険性がある。また、保持金物52の変形が大きくなりすぎると、設備的な干渉問題が発生し、その結果、保持金物52の交換または改造が必要となり、出銑樋の寿命を短くする要因の一つとなっている。
【0004】
従来、出銑樋の冷却による長寿命化については、例えば特許文献1等で提案されている。特許文献1に記載の出銑樋の冷却方法では、出銑樋の受銑部で冷媒流路を絞り、受銑部での冷媒流速を速めることで、出銑樋を冷却し、出銑樋の受銑部の損耗を抑制するが、出銑樋の変形を抑制するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−178621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
出銑樋の長手方向に対する上下方向または左右方向の変形の主要因は、保持金物の長手方向に対して垂直な横断面方向の温度差によって生じる保持金物の横断面方向の不均一な内部応力と、耐火材の長手方向への熱膨張によって保持金物に応じる長手方向の引張応力とが組み合わさることにある。
【0007】
例えば、
図10に示すように、使用中の保持金物の長手方向に対して垂直な横断面方向の温度分布で、上端部の温度が高く、底部の温度が低くなった場合、温度差による保持金物の長手方向の内部応力は上部が圧縮応力a、底部が引張応力bとなり、保持金物の長手方向の変形は凸型となる。これに樋自重および耐火材の膨張が加わると、保持金物には長手方向に引張応力c,dが加わる。これらの引張応力b,c,dの和は大きく、一般的には保持金物の弾性域を超えることになる。
【0008】
これにより、使用中の保持金物の長手方向に対して垂直な横断面方向の温度差による保持金物の長手の内部応力に差が発生するため、保持金物の底部には上端部よりも大きな引張応力が加わることになり、引張の塑性量の差が発生する。したがって、出銑樋の休止により、保持金物の温度が常温付近に戻ると、保持金物の上端部と底部とで異なった塑性変形が残る。この例の場合、底部の方に大きな塑性変形が残るため、出銑樋が長手方向で凹型となる変形が生じる。
【0009】
このような出銑樋の変形を抑制するためには、耐火材の熱膨張量を抑制することも考えうるが、耐火材の本来の目的は溶銑滓を漏らさないために熱膨張すべきものであるため、耐火材の熱膨張量は抑制しないことが望ましい。
【0010】
そこで、本発明においては、耐火材の熱膨張量を抑制することなく、樋の保持金物の変形量を小さくし、漏れの予防および長寿命化を実現した樋および樋の冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の樋は、内面に耐火材が設けられる保持金物を有する樋であって、保持金物は、内壁と外壁との間に冷却ガスが供給される中空部を有し、中空部内を複数の冷却ガス流路とする長手方向の横仕切板と、複数の冷却ガス流路のそれぞれの冷却ガスの流量を調整する流量調整手段とを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の樋の冷却方法は、内壁と外壁との間に冷却ガスが供給される中空部を有し、中空部内を複数の冷却ガス流路とする長手方向の横仕切板を有し、内面に耐火材が設けられる保持金物を有する樋の冷却方法であって、複数の冷却ガス流路のそれぞれの冷却ガスの流量を調整することを特徴とする。
【0013】
これらの発明によれば、長手方向の横仕切板により中空部内に形成された複数の冷却ガス流路のそれぞれの冷却ガスの流量を調整することで、樋の長手方向に対して垂直な横断面方向の温度差を少なくすることができ、樋の保持金物の変形量を小さくすることができる。
【0014】
また、本発明の樋は、中空部内を長手方向に対して垂直な横断面方向に仕切る複数の縦仕切板を有し、流量調整手段が、縦仕切板に形成された孔の形状または孔の個数により流量を調整するものであることが望ましい。これにより、弁などの開閉機構を用いることなく、孔の形状または孔の個数を調整するとした簡単な構造により、下段と上段の流量が適正になるように調整して、樋の長手方向に対して垂直な横断面方向の温度差を少なくすることができる。
【0015】
また、本発明の樋は、冷却ガスを複数の冷却ガス流路に対してそれぞれ供給する複数の冷却配管を有し、流量調整手段は、複数の冷却配管の流量をそれぞれ調整する弁である構成とすることもできる。これにより、冷却ガスを複数の冷却ガス流路に対してそれぞれ供給する複数の冷却配管の流量をそれぞれ弁により調整して、樋の長手方向に対して垂直な横断面方向の温度差を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、内壁と外壁との間に冷却ガスが供給される中空部を有し、中空部内を複数の冷却ガス流路とする長手方向の横仕切板を有し、内面に耐火材が設けられる保持金物を有する樋に対し、複数の冷却ガス流路のそれぞれの冷却ガスの流量を調整する構成により、樋の長手方向に対して垂直な横断面方向の温度差を少なくし、樋の保持金物の変形量を小さくすることができるので、耐火材の熱膨張量を抑制することなく、漏れの予防および長寿命化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態における出銑樋の斜視図である。
【
図2】(a)は
図1の出銑樋の平面図、(b)は正面図である。
【
図5】流量調整手段の別の実施形態を示す説明図である。
【
図6】従来構造の出銑樋と実施例の出銑樋の内壁温度のコンタ図および各リブ位置での平均温度グラフを示す図である。
【
図7】解析条件および出銑樋の横断面方向の温度差と出銑樋の操業時の鉛直方向の変位量との関係を示す図である。
【
図8】出銑樋の横断面方向の温度差と出銑樋の冷却時の鉛直方向の変位量との関係を示す図である。
【
図10】出銑樋の変形メカニズムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の実施の形態における出銑樋の斜視図、
図2(a)は
図1の出銑樋の平面図、(b)は正面図、
図3は
図2のA−A断面図、
図4は
図2のB−B断面図である。
【0019】
図1〜
図3において、本発明の実施の形態における出銑樋1は、溶銑滓を受ける内面から順に耐火材であるライニング材としてのワークライニング材2およびバックライニング材3と、ワークライニング材2およびバックライニング材3を保持する金物の製缶物である保持金物4とを有する樋である。また、保持金物4の長手方向中央下部には、冷却用の冷却ガスとしての冷却空気が供給される冷却ダクト5が接続されている。
【0020】
保持金物4は、内壁10と外壁11とから構成され、内壁10と外壁11との間に冷却空気が供給される中空部12が形成されている。また、内壁10と外壁11との間には、中空部12内を仕切る長手方向の複数の横仕切板13a,13b,13c,13d,13eと、中空部12内を長手方向に対して垂直な横断面方向に仕切る複数の縦仕切板14a,14b,14c,14d,14e,14f,14g,14h,14i,14j,14k,14l,14m,14nとが設けられている。なお、横仕切板13a〜13eおよび縦仕切板14a〜14nは、保持金物4の補強リブを兼ねている。
【0021】
また、縦仕切板14a〜14nには、例えば
図3および
図4に示すように、流量調整手段としての複数の孔15a,15b,15c,15d,15e,15f,15g,15h,15i,15j,15k,15l,15m,15n,15o,16a,16b,16c,16d,16e,16f,16g,16h,16iが設けられている。これらの複数の孔15a〜15o,16a〜16iと、横仕切板13a〜13eおよび縦仕切板14a〜14nと内壁10および外壁11とによって、中空部12内に長手方向に延びる複数の冷却ガス流路17a,17b,17c,17d,17e,17f,17g,17h,17i,17j,17kが形成されている。
【0022】
また、横仕切板13a〜13eにも、冷却ダクト5が接続されている直上の部分および他の部分の適宜位置に、流量調整手段としての複数の孔(図示せず。)が設けられている。これらの複数の孔と、横仕切板13a〜13eおよび縦仕切板14a〜14nと内壁10および外壁11とによって、中空部12内に下方から上方へ延びる複数の冷却ガス流路が形成されている。
【0023】
保持金物4の下方から冷却ダクト5より供給される冷却空気は、保持金物4の中空部12内に入り、横仕切板13a〜13eの直上部分に設けられた複数の孔を通じて上方の冷却ガス流路へ供給される。そして、上下各段の長手方向の冷却ガス流路17a〜17kへ流入した冷却空気は、出銑樋1の長手方向の両端側へ流れていき、保持金物4を冷却する。このとき、複数の冷却ガス流路17a〜17kに対して下段のみに流れることなく、上段にも適正な流量となるように、横仕切板13a〜13eおよび縦仕切板14a〜14nに形成される複数の孔の形状または個数は、予め設定されている。
【0024】
したがって、本実施形態における出銑樋1では、冷却ダクト5から供給された冷却空気が複数の冷却ガス流路17a〜17kの上段へ流れるにつれて温められても、長手方向の冷却ガス流路17a〜17kの下段より上段の流量が多くなるように調整することで、長手方向に対して垂直な横断面方向の温度差を少なくすることができ、出銑樋1の保持金物の変形量を小さくすることが可能である。これにより、本実施形態における出銑樋1では、ワークライニング材2およびバックライニング材3である耐火材の熱膨張量を抑制することなく、漏れの予防および長寿命化を実現している。
【0025】
また、本実施形態においては、横仕切板13a〜13eおよび縦仕切板14a〜14nに形成される孔の形状または孔の個数により流量を調整するものであるため、弁などの開閉機構を用いることなく、簡単な構造により、横断面方向の温度差を少なくしており、開閉機構の故障等の心配もない。
【0026】
なお、上記実施形態においては、流量調整手段を横仕切板13a〜13eおよび縦仕切板14a〜14nに形成される孔の形状または孔の個数により調整するものとしたが、長手方向の複数の冷却ガス流路17a〜17kに対してそれぞれ流入する冷却空気の量を調整する構成とすることも可能である。
【0027】
図5は流量調整手段の別の実施形態を示す説明図である。
図5に示すように、長手方向の複数の冷却ガス流路18a,18b,18c,18d,18e,18f,18g,18h,18i,18jを形成した保持金物19に対し、各冷却ガス流路18a〜18jに対してそれぞれ冷却空気を供給する複数の冷却配管20を設け、各冷却配管20にそれぞれの流量を調整する弁21を設ける。これにより、各冷却配管20の弁21により各冷却配管20へ流れる冷却空気の流量を調整して、出銑樋の長手方向に対して垂直な横断面方向の温度差を少なくすることができる。
【実施例】
【0028】
上記実施形態における出銑樋1について温度解析を行った。
図6は従来構造の出銑樋と実施例の出銑樋の内壁温度のコンタ図および各リブ位置での平均温度グラフを示している。本実施例の出銑樋では、各リブ(縦仕切板)1〜7での平均温度差が低くなるように、各リブ1〜7に形成される孔の形状および孔の個数を最適化した。
図6に示されるように、本実施例の出銑樋では、従来構造の出銑樋と比較して、各リブ位置での平均温度差が約40%低減できることが確認できた。
【0029】
次に、簡易モデルにて出銑樋の横断面方向の温度差と出銑樋の操業時の変位量との関係を導いた。
図7は解析条件および出銑樋の横断面方向の温度差と出銑樋の操業時の鉛直方向の変位量との関係を示している。
図7に示されるように、横断面方向の温度差が40%低減されると、操業時の変位量を60%低減できることが確認できた。すなわち、
図6に示す本実施例の出銑樋では従来構造の出銑樋と比較して、操業時の変位量が60%低減される。
【0030】
次に、簡易モデルにて出銑樋の横断面方向の温度差と出銑樋の冷却時(熱間使用後に常温に戻す場合)の変位量との関係を導いた。
図8は耐火材の熱膨張量として強制変位10mm条件下での出銑樋の横断面方向の温度差と出銑樋の冷却時の鉛直方向の変位量との関係を示している。
図8に示されるように、横断面方向の温度差が40%改善されると、冷却時の変位量の増加は20%改善できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の樋は、例えば高炉設備の鋳床において高炉から排出される溶銑滓を受銑する出銑樋として有用である。
【符号の説明】
【0032】
1 出銑樋
2 ワークライニング材
3 バックライニング材
4,19 保持金物
5 冷却ダクト
10 内壁
11 外壁
12 中空部
13a〜13e 横仕切板
14a〜14n 縦仕切板
15a〜15o,16a〜16i 孔
17a〜17k,18a〜18j 冷却ガス流路
20 冷却配管
21 弁