(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5707955
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】浮屋根式タンク用シール材
(51)【国際特許分類】
B65D 88/42 20060101AFI20150409BHJP
【FI】
B65D88/42
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-7277(P2011-7277)
(22)【出願日】2011年1月17日
(65)【公開番号】特開2012-148787(P2012-148787A)
(43)【公開日】2012年8月9日
【審査請求日】2014年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】柴山 聡
【審査官】
白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】
英国特許出願公告第01084976(GB,A)
【文献】
特開平05−293936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 88/42−88/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性材からなる芯体を補強層を埋設したゴムシートで被覆してなり、浮屋根の外周面とタンクの側壁内面との間に挟まれるように設置される浮屋根式タンク用シール材において、
前記ゴムシートの少なくとも前記タンクの側壁内面に当接する外表面と前記補強層との間に、顔料及び/又は蛍光塗料を含有すると共に流動性を有する着色層を配置したことを特徴とする浮屋根式タンク用シール材。
【請求項2】
前記着色層が顔料を含有する場合において、該着色層を前記ゴムシートの厚さ方向に所定の間隔をおいて複数配置すると共に、それら複数の着色層の顔料の色彩を互いに異ならせた請求項1に記載の浮屋根式タンク用シール材。
【請求項3】
前記着色層が、パーオキサイドと、前記パーオキサイドによる分解性を有するポリマーとを含む組成物からなる請求項1又は2に記載の浮屋根式タンク用シール材。
【請求項4】
前記着色層が、ペースト状又はゲル状の組成物からなる請求項1又は2に記載の浮屋根式タンク用シール材。
【請求項5】
前記着色層が、光、紫外線又は空気中の水分により硬化する請求項4に記載の浮屋根式タンク用シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は浮屋根式タンク用シール材に関し、更に詳しくは、シール材の損傷を確実かつ容易に確認することができる浮屋根式タンク用シール材に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や化学溶液などの貯蔵に用いられている浮屋根式構造(フローティング式)の貯蔵タンクには、タンク本体と浮屋根との間隙を密封するためのシール材が取り付けられている。このシール材は、例えば特許文献1に示すように、弾性材からなる芯体を補強ゴムシートで被覆した構造を有しており、浮屋根の外周面とタンクの側壁内面との間に挟まれるようにして浮屋根側に固定される。そのため、タンク内の液面の上下に伴って浮屋根が昇降すると、シール材はタンク側壁内面に押圧されつつ移動するので、摩耗により補強ゴムシートが減肉するなどの損傷を受けることになる。そのため、シール材の点検作業が定期的に行われている。
【0003】
しかし、シール材の点検作業の実施するに際しては、浮屋根をタンクから取り外さなければならないため、事前にタンク内を空にする必要がある。そのため、頻繁に点検作業を行うことは困難であり、シール材の損傷が長期に渡って放置されるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭56−72785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、シール材の損傷を容易かつ確実に確認することができる浮屋根式タンク用シール材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明の浮屋根式タンク用シール材は、弾性材からなる芯体を補強層を埋設したゴムシートで被覆してなり、浮屋根の外周面とタンクの側壁内面との間に挟まれるように設置される浮屋根式タンク用シール材において、前記ゴムシートの少なくとも前記タンクの側壁内面に当接する外表面と前記補強層との間に、顔料及び/又は蛍光塗料を含有する
と共に流動性を有する着色層を配置したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の浮屋根式タンク用シール材によれば、シール材の表面をなすゴムシートにおいて少なくともタンクの側壁内面に当接する外表面と補強層との間に、顔料及び/又は蛍光塗料を含有する着色層を配置するようにしたので、摩耗によりシール材が着色層まで減肉する損傷を受けると、着色層が外表面に露出し側壁内面に擦りつけられて顔料及び/又は蛍光塗料が側壁内面に付着するため、シール材の損傷を容易かつ確実に確認することができる。
【0008】
着色層が顔料を含有する場合には、その着色層をゴムシートの厚さ方向に所定の間隔をおいて複数配置すると共に、それら複数の着色層の顔料の色彩を互いに異ならせることが望ましい。そのようにすることで、シール材の損傷の程度を把握することができる。
【0010】
着色層
は、パーオキサイドと、そのパーオキサイドによる分解性を有するポリマーとを含む組成物から形成することが望ましい。そのようにすることで、着色層が流動性を有するようになって外表面に露出しやすくなるので、シール材の損傷を確実かつ早期に確認することができる。
【0011】
あるいは、着色層をペースト状又はゲル状の組成物から形成することが望ましい。そのようにすることで、着色層が高い流動性を有するようになるため、シール材の損傷をより確実かつ早期に確認することができる。
【0012】
着色層をペースト状又はゲル状の組成物から形成する場合においては、着色層が光、紫外線又は空気中の水分により硬化することが望ましい。そのようにすることで、タンクの側壁内面に付着した顔料が剥離しにくくなるため、点検作業の際に見逃さないようにすることができる。また、硬化したペースト状又はゲル状の組成物により損傷部が覆われるので、損傷部を保護し、かつ損傷の拡大を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態からなる浮屋根式タンク用シール材を浮屋根に設置した状態を示す縦断面図である。
【
図3】本発明の実施形態の変形例からなる浮屋根式タンク用シール材における
図1のX部に相当する部分の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態からなる浮屋根式タンク用シール材を浮屋根に設置した状態を示す。
【0016】
この浮屋根式タンク用シール材1(以下、「シール材1」という。)は、弾性材からなる芯体2を、補強層3が埋設されたゴムシート4からなるエンベロープ5で被覆して浮屋根6から吊設した構造を有している。エンベロープ5の両端部は、浮屋根6の上部にボルト7で固定されており、芯体2は浮屋根6の外周面8上に位置している。芯体2及びエンベロープ5は、浮屋根6の外周面に沿って環状になっている。このようにして、シール材1は浮屋根6の外周面8とタンク9の側壁内面10との間に挟まれるように設置されることで、その弾性反発力によりタンク9内に貯蔵される液体11や気体を密封する。
【0017】
芯体2を形成する弾性材には、ウレタンフォームが好ましく用いられるが、液体や気体などを充填した袋体から形成することもできる。
【0018】
エンベロープ5を形成するゴムシート4は、約1.0〜5.0mmの肉厚を有しており、そのゴム材質にはタンク9内に貯蔵される液体11や気体の種類に応じて適切なものが用いられる。例えば、原油などの石油系の液体11の場合には、芳香族の含有率に応じてNBR系やフッ素系のゴム組成物が用いられる。アルコール系の液体11の場合には、EPDM系のゴム組成物が用いられる。また、貯蔵物が気体である天然ガスの場合には、CR系のゴム組成物が用いられる。
【0019】
また、ゴムシート4の補強層3としては、ナイロン繊維やポリエステル繊維などからなるスダレ織り物や平織り物が好適に用いられる。
【0020】
本発明は、
図2に示すように、上記のシール材1のエンベロープ5における少なくともタンク9の側壁内面10に当接する外表面12と補強層3との間に、少なくとも顔料及び蛍光塗料のいずれかを含有する
と共に流動性を有する着色層13を配置するものである。
【0021】
このようにエンベロープ5内に着色層13を設けることにより、摩耗によりシール材1が着色層13まで減肉する損傷を受けると、着色層13が外表面12に露出しタンク9の側壁内面10に擦りつけられて顔料や蛍光塗料が側壁内面10に付着する。そのため、浮屋根6が下方に移動した際には、顔料や蛍光塗料が付着した側壁内面10が現れるので、浮屋根6を取り外すことなく、目視するだけでシール材1に損傷が発生したことを直ちに確認することができる。それ故、定期点検の時期を待つことなく、シール材1の損傷を容易かつ確実に確認することができる。また、着色層13が蛍光塗料を含有する場合には、夜間でも着色が視認できるという効果もある。
【0022】
着色層13が配置される厚さ方向の位置は、あらかじめ定められた最大許容減肉量を参考に決定すればよいが、通常は補強層の近傍に配置することが好ましい。また、顔料の色彩の種類は特に限定するものではないが、視認性が高い赤色や黄色を用いることが好ましい。
【0023】
また、着色層13が顔料を含有する場合には、
図3に示すように、エンベロープ5の厚さ方向に所定の間隔をおいて複数配置すると共に、それらの着色層13同士で顔料の色彩(濃淡を含む)を互いに異なるようにすることが望ましい。このように複数の着色層13を配置することで、シール材1の減肉の程度を、側壁内面10に付着する顔料の色彩の違いにより把握することができる。
【0024】
図2及び
図3に示す着色層13としては、以下の
2種類を例示することができる。
【0026】
第
1の着色層13は、顔料、パーオキサイド及びそのパーオキサイドによる分解性を有するポリマーを含む組成物からなるシート材を、ゴムシート4となる未加硫ゴムシート及び補強層3と共に積層し、一体的に加硫することで形成される。この着色層13は、シート材の加硫時においてパーオキサイドによりポリマーが分解されるため、加硫後に軟化して高粘弾性流動体となる。そのため、着色層13は流動性を有するようになるので、シール材1が減肉した場合だけのみならず、着色層13に至るクラック等が入った場合でも、着色層13がエンベロープ5の外表面12に流出し、顔料が側壁内面10に付着する。従って、シール材1の損傷を確実かつ早期に確認することができる。
【0027】
パーオキサイドとしては、ベンゾイルパーオキサイドやP−クロロベンゾイルパーオキサイドなどのアシルパーオキサイド類;メチルエチルケトンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;t−ブチルオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエートやt−ブチルパーオキシフタレートなどのパーオキシエステル類;ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシベンゾエートや1、3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのアルキルパーオキサイド類;t−ブチルハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類が例示される。また、パーオキサイドによる分解性を有するポリマーとしては、特に限定するものではないが、ブチルゴム(IIR)やポリイソブチレンが好ましく用いられる。
【0028】
パーオキサイド及びポリマーからなる組成物としては、ポリマー100重量部に対してパーオキサイドを0.2〜20重量部を配合したものが好ましく例示される。なお、この組成物には必要に応じて、パーオキサイドによるポリマーの分解を促進するナフテン酸コバルトなどの触媒、カーボンブラックやシリカなどの無機充填剤、ポリブテンなどの粘着剤、芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルやパラフィン系プロセスオイルなどの可塑剤をそれぞれ添加したり、あるいは安定剤、老化防止剤や加工助剤などの配合剤を配合したりすることができる。
【0029】
第
2の着色層13は、エンベロープ5を加硫する加硫温度(例えば、130〜180℃)でも溶けず、かつ表裏両面又は片面がゴムとは非接着性の樹脂フィルムなどを、ゴムシート4に埋設し加硫することでエンベロープ5内に間隙を設け、その間隙内に、顔料を含有するペースト状又はゲル状の組成物を注入し封入することにより形成される。
【0030】
そのような樹脂フィルムとしては、特に限定するものではないが、ポリエチレンフィルムが好ましく例示される。この着色層13は高い流動性を有するため、シール材1の損傷をより確実かつ早期に確認することができる。
【0031】
ペースト状又はゲル状の組成物としては、特に限定するものではないが、ポリウレタン系又はシリコーン系のシーリング材が好ましく例示される。
【0032】
上記のペースト状又はゲル状の組成物は、光、紫外線又は空気中の水分(湿気)により硬化することが望ましい。そのようにすることで、タンク9の側壁内面10に付着した顔料が剥離しにくくなるため、点検作業の際に顔料を見逃さないようにすることができる。また、硬化したペースト状又はゲル状の組成物により損傷部が覆われるので、シール材1の損傷部を保護し、かつ損傷の拡大を防止することもできる。
【0033】
光により硬化する組成物としては、特開2006−225455号公報に記載されたエポキシ系のシーリング材や変性シリコーン系のシーリング材などが例示される。紫外線により硬化する組成物としては、特開2003−221575号公報に記載されたシーリング材組成物などが例示される。湿気により硬化する組成物としては、特開平11−286602号公報に記載されたポリウレタン系のシーリング材や変性シリコーン系のシーリング材などが例示される。
【0034】
なお、
図3に示すように着色層13を複数設置する場合においては、それら複数の着色層13を上記例示の着色層13を単一又は組み合わせることで構成することができる。
【0035】
その組み合わ
せとしては、
例えば、あらかじめ顔料を配合した未加硫ゴムシートをゴムシート4となる未加硫ゴムシート及び補強層3と共に積層して一体的に加硫することで形成された別の着色層13をエンベロープ5の外表面12に近い位置に
配置し、
上述の第
1又は第
2の着色層13を補強層3に近い位置
に配置すること
ができる。この場合、上述の第1又は第2の着色層13により上述の効果が得られる一方で、別の着色層13は加硫により硬化したゴム層から構成されるため着色層13を長期間に渡って安定的に維持することができるので、シール材1の摩耗の程度を把握しつつ、重大な損傷に備えることが可能になる。
【符号の説明】
【0036】
1 シール材
2 芯体
3 補強層
4 ゴムシート
5 エンベロープ
6 浮屋根
7 ボルト
8 外周面
9 タンク
10 側壁内面
11 液体
12 外表面
13 着色層