特許第5708782号(P5708782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5708782
(24)【登録日】2015年3月13日
(45)【発行日】2015年4月30日
(54)【発明の名称】板状ガラスの切断方法及びその切断装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/03 20060101AFI20150409BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20150409BHJP
   B28D 1/00 20060101ALI20150409BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20150409BHJP
   B23K 26/10 20060101ALI20150409BHJP
【FI】
   C03B33/03
   C03B33/09
   B28D1/00
   B23K26/00 G
   B23K26/10
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-267213(P2013-267213)
(22)【出願日】2013年12月25日
(62)【分割の表示】特願2009-277815(P2009-277815)の分割
【原出願日】2009年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-73961(P2014-73961A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2013年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】寺西 妥夫
(72)【発明者】
【氏名】松本 保弘
(72)【発明者】
【氏名】三成 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】古田 隆也
【審査官】 大工原 大二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−269968(JP,A)
【文献】 特開平08−174260(JP,A)
【文献】 特開2006−131490(JP,A)
【文献】 特開2006−199553(JP,A)
【文献】 特開2009−040665(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/093505(WO,A1)
【文献】 特開2006−137168(JP,A)
【文献】 特開平09−150286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/00−35/26
C03B 40/00−40/04
B23K 26/00−26/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状ガラスの切断予定線に沿って少なくとも局部加熱を行うことにより、該板状ガラスを切断する方法において、
前記板状ガラスの切断予定線から両側に離隔した部位を裏面側からそれぞれ支持する支持部材を、前記切断予定線の裏面側に空間が形成されるように相互に離隔して配置すると共に、前記支持部材を、前記板状ガラスを搬送する搬送手段の搬送用部材とし、且つ、前記搬送用部材が前記板状ガラスを搬送しながら、前記板状ガラスの切断予定線に沿って少なくとも局部加熱を行うことにより、該板状ガラスをフルボディ切断することを特徴とする板状ガラスの切断方法。
【請求項2】
前記離隔して配置された各支持部材は、前記板状ガラスの切断予定線から両側に離隔した部位を裏面側からそれぞれ吸着して支持することを特徴とする請求項1に記載の板状ガラスの切断方法。
【請求項3】
前記離隔して配置された各支持部材の相互間の離隔寸法は、前記各支持部材によって前記板状ガラスが支持されている二箇所の部位における何れの部位の前記離隔方向に沿う方向の寸法よりも短くされていることを特徴とする請求項1または2に記載の板状ガラスの切断方法。
【請求項4】
前記板状ガラスの切断予定線上に初期亀裂を形成した後、該切断予定線に沿う局部加熱及びその加熱領域に対する冷却に伴って発生する応力により、前記初期亀裂を進展させて前記板状ガラスをフルボディ切断することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の板状ガラスの切断方法。
【請求項5】
前記板状ガラスの裏面と前記支持部材の支持面との間に有機層を介在させたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の板状ガラスの切断方法。
【請求項6】
前記板状ガラスの厚みが200μm以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の板状ガラスの切断方法。
【請求項7】
前記局部加熱が、炭酸ガスレーザーにより行われることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の板状ガラスの切断方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れかに記載の方法を実施することを特徴とする板状ガラスの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れかに記載の方法を実施することによって少なくとも一辺が切断されてなり且つ厚みが200μm以下である板状ガラスを製造することを特徴とする板状ガラスの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7の何れかに記載の方法を実施することによって少なくとも一辺が切断されてなり且つ切断面の曲げ強度が200MPa以上であると共に厚みが200μm以下である板状ガラスを製造することを特徴とする板状ガラスの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7の何れかに記載の方法を実施することによって切断された切断面及び表裏面の少なくとも一面に有機層が形成された板状ガラスを製造することを特徴とする板状ガラスの製造方法。
【請求項12】
板状ガラスの切断予定線に沿って局部加熱を行う局部加熱手段を備えた板状ガラスの切断装置において、
前記板状ガラスの切断予定線から両側に離隔した部位を裏面側からそれぞれ支持する支持部材を、前記切断予定線の裏面側に空間が形成されるように相互に離隔して配置すると共に、前記支持部材を、前記板状ガラスを搬送する搬送手段の搬送用部材とし、且つ、前記搬送用部材が前記板状ガラスを搬送しながら、前記板状ガラスの切断予定線に沿って少なくとも局部加熱手段により局部加熱を行うことにより、該板状ガラスをフルボディ切断するように構成したことを特徴とする板状ガラスの切断装置。
【請求項13】
前記離隔して配置された各支持部材は、前記板状ガラスの切断予定線から両側に離隔した部位を裏面側からそれぞれ吸着して支持するように構成されていることを特徴とする請求項12に記載の板状ガラスの切断装置。
【請求項14】
前記離隔して配置された各支持部材の相互間の離隔寸法は、前記各支持部材によって前記板状ガラスが支持されている二箇所の部位における何れの部位の前記離隔方向に沿う方向の寸法よりも短くなるように構成されていることを特徴とする請求項12または13に記載の板状ガラスの切断装置。
【請求項15】
前記板状ガラスの切断予定線上に初期亀裂を形成する亀裂形成手段と、前記局部加熱手段により局部加熱された加熱領域を冷却する冷却手段とをさらに備え、前記局部加熱手段及び冷却手段によって応力を発生させることにより、前記初期亀裂を進展させて前記板状ガラスをフルボディ切断するように構成したことを特徴とする請求項12〜14の何れかに記載の板状ガラスの切断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状ガラスの切断予定線に沿って少なくとも局部加熱を行うことにより該板状ガラスを切断するための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、近年における映像表示装置は、液晶ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、有機ELディスプレイ(OLED)などに代表されるフラットパネルディスプレイ(FPD)が主流となっている。これらのFPDは、軽量化が推進されていることから、当該FPDに使用されるガラス基板は、薄板化の一途を辿っているのが現状である。
【0003】
また、有機ELは、ディスプレイのように微細な三原色をTFTにより明滅させず、単色(例えば白色)のみで発光させてLCDのバックライトや屋内照明の光源などの平面光源としても利用されつつある。そして、有機ELの照明装置は、ガラス基板が可撓性を有すれば、自由に発光面を変形させることが可能であるから、この照明装置に使用されるガラス基板も、充分な可撓性確保の観点から大幅な薄板(ガラスフィルム)化が推進されている。
【0004】
これらのFPDや照明装置等に使用されるガラス基板を切断する手法は、ガラス基板の表面または裏面に所定深さのスクライブを刻設するスクライブ工程と、この工程の実行後にスクライブ線を跨ぐように曲げモーメントを加えることによりガラス基板を分断するブレイク工程とから構成されるのが一般的である。
【0005】
この種のガラス基板分断手法の改良例として、特許文献1によれば、ガラス基板の下面の端部に初期クラックを形成すると共に、このガラス基板を局部的に加熱する加熱部と、その加熱された領域を冷却する冷却部とが、ガラス基板の下面を走査することにより、初期クラックから延びるスクライブラインを形成し、その後工程において、ガラス基板を挟んで転動するローラによってスクライブラインを境としてガラス基板を分断する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2によれば、脆性材料からなるワーク(例えばFPD用のガラス基板)に対する熱応力割断を、熱応力の分布と、応力伝播速度を上限とする亀裂拡大とに分離して行うと共に、温度分布の形成を、照射レーザー光による加熱と、熱伝導による冷却との組み合わせで行うようにしたフルボディ割断方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−199553号公報
【特許文献2】特開2009−40665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に開示されたガラス基板の割断方法は、上面が吸着面とされた第1ステージ及び第2ステージを相互に接近及び離反可能に設置すると共に、この両ステージの上面に跨るようにガラス基板を載置し、ガラス基板の割断予定線に対して、初期亀裂の形成やレーザービームの照射及び冷却水の噴射を行うものである。
【0009】
しかしながら、この特許文献1に開示されたガラス基板の割断方法は、一般的手法と同様に、ガラス基板の下面にスクライブを入れて、このスクライブを境としていわゆる折割りを行うものであるため、割断端面に微小クラックが発生するなどしてその面性状が悪化するとういう難点がある。しかも、この割断方法は、初期亀裂を形成する工程と、スクライブラインを進展させる工程と、折割りをする工程との3つの工程が必要となるため、割断作業の煩雑化や装置の複雑化を招き、生産性の低下やコスト高などの致命的な問題を惹き起こす。さらに、この割断方法では、連続的に送られる帯状の板状ガラスを、連続的に割断しようとしたならば、極めて困難な作業を強いられるという難点をも有している。
【0010】
一方、特許文献2に開示された割断方法によれば、初期亀裂を形成する工程と、この初期亀裂を熱応力により進展させてガラス基板をフルボディ切断する工程との2つの工程を実行するだけで、ガラス基板の割断を終えることができるため、割断作業を迅速化することが期待できると共に、割断端面を鏡面もしくはこれに準じる面性状とすることができるため、割断端面を適正化することが期待できる。しかしながら、同公報には、ガラス基板がどのような態様で支持されているかについては、何ら開示も示唆もされておらず、フルボディ熱応力割断を適正に行うための手法の具体性が欠落している。
【0011】
すなわち、フルボディ熱応力割断をより確実に適正化するには、ガラス基板の支持態様が極めて重要な要因となるが、従来においては、図11(a)に示すように、定盤20の上面にガラス基板gを載置して、その上方から、矢印zで示すように、レーザー等による局部加熱と冷却水等による加熱領域の冷却とを行って、初期亀裂を進展させることが一般的とされていた。なお、このような手法は、本発明者等が従来より長期間に亘って実施していた手法であって、刊行物に発表するなどの行為は行っていない。
【0012】
しかしながら、このような単純な手法では、ガラス基板gに対して局部加熱を行った場合に、図11(b)に示すように、当該ガラス基板gの加熱部位gaが膨張によって上方に隆起する一方、その後にガラス基板gに対して冷却を行った場合には、同図(c)に示すように、当該ガラス基板gの冷却部位gbが収縮によって窪むという事態を招く。そして、この定盤20上でガラス基板gに冷却に伴う窪み部gbが発生したならば、定盤20が邪魔になって初期亀裂が蛇行したり方向性に狂いが生じたりして進展する等の事態を招き、これに起因してガラス基板gが割断予定線に沿って正確に割断されなくなるという問題が生じる。しかも、ガラス基板gが定盤20と面接触或いは略面接触することに起因して、熱が定盤20に吸収されて充分な局部加熱が行われ得ず、このような状態で冷却を行っても温度勾配が不十分となって、熱効率が悪化することから、割断予定線に沿う正確な割断をより一層妨げるという不具合を招く。このような事態は、ガラス基板gの厚みが薄くなると顕著になる。
【0013】
そして、フルボディ熱応力割断においては、多量の熱量を必要とするため、局部加熱時における定盤等の支持部材とガラス基板との接触状態が極めて重要となるが、このような観点からは、適切な対策が講じられていないのが実情である。この場合、上述の特許文献1に開示された技術は、フルボディ熱応力割断を行うものではなく、局部加熱時の熱の逃げに対する対策を講じる必要性に乏しいことから、そのガラス基板の支持態様は、このような問題の解決を企図したものではない。
【0014】
すなわち、同公報に開示された技術は、支持部材が第1ステージと第2ステージとに分離しており、ガラス基板の割断予定線上にスクライブラインを形成するために必要な圧縮応力及び引張応力を作用させるために、第2ステージが第1ステージに対して、10μm以上且つ100μm以下の相対移動距離で接近すると共に、10μm以上且つ50μm以下の相対移動距離で離間するように構成されている。
【0015】
したがって、同公報に開示されたガラス基板の支持態様は、ガラス基板の局部加熱時における熱効率を適正に高めるためのものではなく、しかもフルボディ切断をするために充分な温度勾配を付与するためのものでもないため、ガラス基板のフルボディ熱応力切断を適正に行い得るものではない。具体的には、この支持態様は、ガラス基板のフルボディ割断に要する多量の熱量に対処可能であるか否かが不明であるばかりでなく、第2ステージが第1ステージに対して接近移動及び離間移動しなければ、ガラス基板を切断することができないため、支持構造ひいては支持装置の複雑化という致命的な問題が生じる。
【0016】
なお、以上のような問題或いはこれに類する問題は、ガラス基板等を溶断する場合にも同様にして生じ得る。
【0017】
本発明は、上記事情に鑑み、ガラス基板等の板状ガラスを、切断予定線に対して少なくとも局部加熱を行うことにより切断するに際して、支持構造の複雑化や生産性の低下等を招くことなく適正に当該板状ガラスを切断できるようにすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、板状ガラスの切断予定線に沿って少なくとも局部加熱を行うことにより、該板状ガラスを切断する方法において、前記板状ガラスの切断予定線から両側に離隔した部位を裏面側からそれぞれ支持する支持部材を、前記切断予定線の裏面側に空間が形成されるように相互に離隔して配置すると共に、前記支持部材を、前記板状ガラスを搬送する搬送手段の搬送用部材とし、且つ、前記搬送用部材が前記板状ガラスを搬送しながら、前記板状ガラスの切断予定線に沿って少なくとも局部加熱を行うことにより、該板状ガラスをフルボディ切断することに特徴づけられる。なお、「板状ガラスのフルボディ切断」には、板状ガラスの溶断も含まれる(以下、同様)。
【0019】
この場合、前記離隔して配置された各支持部材は、前記板状ガラスの切断予定線から両側に離隔した部位を裏面側からそれぞれ吸着して支持することが好ましい
【0020】
また、前記離隔して配置された各支持部材の相互間の離隔寸法は、前記各支持部材によって前記板状ガラスが支持されている二箇所の部位における何れの部位の前記離隔方向に沿う方向の寸法よりも短くされていることが好ましい
【0021】
以上の構成によれば、板状ガラスは、切断予定線から両側に離隔した部位が、裏面側からそれぞれ支持部材により支持され、且つ、支持されている時には、切断予定線の裏面側に空間が形成されているため、板状ガラスの切断予定線に沿う局部加熱によってフルボディ切断する場合には、支持部材による熱の影響を受け難くなる。詳述すると、局部加熱を利用して板状ガラスをフルボディ切断しようとしたならば、多量の熱量が必要となるため、この熱量の多くが支持部材に吸収されたのでは、無駄が生じるばかりでなく、円滑なフルボディ切断に支障を来たす。そこで、本発明では、支持部材の支持面と板状ガラスとの接触部位を、切断予定線から両側に離隔させ、その双方の接触部位の間に空間を形成しているため、フルボディ切断に必要な多量の熱量で局部加熱を行っても、支持部材による熱の吸収が可及的に低減される。これにより、熱効率が改善された状態で板状ガラスの切断が行われ、フルボディ切断であることとの相乗作用に伴って、迅速化が推進されるため、生産性の向上等を図る上で極めて有利となる。しかも、大きな熱勾配が生じることにより板状ガラスの切断予定線の周辺が変形を来たしても、その裏面側の空間の存在により板状ガラスの支持に支障が生じなくなることから、切断予定線に正確に沿った高精度なフルボディ切断が可能になると共に、切断面の面性状が極めて良好なものとなる。加えて、このようなフルボディ切断であると、双方の支持部材を互いに接近移動及び離反移動させる必要がなくなり、支持構造或いは支持装置の複雑化が回避される。そして、以上のようなフルボディ切断が行われる際には、支持部材が、板状ガラスを搬送する搬送手段の搬送用部材とされるため、板状ガラスは、その搬送用部材によって搬送される。なお、支持部材(搬送用部材)の支持面は平坦面であることが好ましく、また当該支持面は負圧吸引等により板状ガラスを吸着保持可能な吸着面であることが好ましい。また、板状ガラスの厚みが例えば200μm以下のガラスフィルムの場合における支持部材の相互間の離間寸法(空間の幅方向寸法)は、好ましくは2mm〜50mmとされ、より好ましくは上限が20mm、下限が5mmとされる。
【0022】
この場合、前記板状ガラスの切断予定線上に初期亀裂を形成した後、該切断予定線に沿う局部加熱及びその加熱領域に対する冷却に伴って発生する応力により、前記初期亀裂を進展させて前記板状ガラスをフルボディ切断することが好ましい。
【0023】
このようにすれば、板状ガラスに対する局部加熱による加熱領域とその加熱領域に対応する冷却領域とが切断予定線に沿って走査されていくに連れて、応力(熱応力)の発生領域も切断予定線に沿って移動し、これにより初期亀裂が切断予定線に沿って進展して、板状ガラスがフルボディ切断される。このような切断過程においては、板状ガラスの上述の支持態様に由来して、加熱と冷却とに起因する温度勾配を充分に確保できるため、熱量の無駄を可及的に低減させつつ、板状ガラスを円滑かつ適正にフルボディ切断することが可能となる。また、厚みが200μm以下等の薄肉の板状ガラス、即ちガラスフィルムを対象とする場合には、当該板状ガラスの切断予定線近傍の裏面が非接触状態となって支持部材の支持面上における吸着や摩擦により拘束されないことになるため、局部加熱により板状ガラスは最大限膨張し、その後の冷却で最大限収縮し得ることになる。そして、この膨張と収縮との差が初期亀裂を進展させてフルボディ切断を行うための引張応力の主因となることから、極めて効率的な加熱及び冷却によって生じた最大限の歪みを有効利用して板状ガラスを切断(割断)することが可能となる。
【0024】
上記の構成において、前記板状ガラスが、連続的に送られる帯状の板状ガラスであると共に、前記切断予定線が該帯状の板状ガラスの送り方向に沿って延びており、且つ、該帯状の板状ガラスを前記切断予定線に沿って連続的にフルボディ切断するという手法を採用するようにしてもよい。
【0025】
このようにすれば、従来は不可能であった連続的に送られる帯状の板状ガラスの送り方向に沿うフルボディ切断が可能となり、従来のように矩形のガラス基板の一辺の長さが制限された状態で切断を行う必要がなくなるため、切断効率が大幅に向上する。すなわち、既述の支持態様でフルボディ切断を行うが故に、このような連続切断が可能となるのであって、これにより切断後における板状ガラスの取り扱いや使用態様の多様化が図られる。
【0026】
そして、このような連続切断を行う場合には、前記支持部材が、前記帯状の板状ガラスを連続して送るように駆動されることが好ましい。
【0027】
このようにすれば、支持部材の送り駆動に伴って帯状の板状ガラスが送られることになるため、支持部材と板状ガラスとの間に摺動等が生じ難くなり、当該板状ガラスに擦れ傷等が付くおそれがなくなると共に、当該板状ガラスの送りが安定して行われる。これにより、ガラス品位の良質化が図られると共に、切断作業の高速化及び円滑化をも図ることが可能となる。
【0028】
また、このような連続切断を行う場合には、前記切断予定線を、前記帯状の板状ガラスを幅方向の任意の部位で連続的に分断する位置に存在させることができる。
【0029】
このようにすれば、帯状の板状ガラスを幅方向(送り方向と直交する方向)の任意の部位で分割することができるため、幅方向寸法が長く成形された帯状の板状ガラスから、所望の幅方向寸法を有する帯状の板状ガラスを複数得ることが可能となる。これにより、成形装置での帯状の板状ガラスの成形能力を高めつつ、要求に応じた幅の板状ガラスを迅速且つ効率よく製作することが可能となる。
【0030】
さらに、このような連続切断を行う場合には、前記切断予定線を、前記帯状の板状ガラスの幅方向両端に形成された耳部を連続的に切除する位置に存在させることもできる。
【0031】
このようにすれば、成形装置での帯状の板状ガラスの十分な成形効率を維持した上で、当該板状ガラスにおける不要な厚肉部分である耳部を切除する作業が連続的に行えることになるため、耳部の切除作業を効率よく且つ円滑に行うことが可能となる。
【0032】
加えて、以上のような連続切断を行う場合には、前記連続的に送られる帯状の板状ガラスを、成形装置の徐冷ゾーンを経て冷却された後の帯状の板状ガラスとすることができる。
【0033】
このようにすれば、溶融ガラスが成形装置で成形されて徐冷ゾーンを通過して冷却されるという一連の連続した成形工程を経ることにより、帯状となった板状ガラスが連続的に送られている間に、当該板状ガラスが局部加熱を伴って連続的にフルボディ切断されていくことになる。これにより、成形装置による帯状の板状ガラスの成形工程と、その板状ガラスに対するフルボディ切断とが、一連の連続した作業として行われることになり、作業効率が大幅に改善される。なお、成形装置としては、ダウンドロー法、特にオーバーフローダウンドロー法を実施可能な装置であることが好ましい。但し、フロート法等を実施可能な成形装置が排除されるわけではない。
【0034】
更に、以上のような連続切断を行う場合には、前記連続的に送られる帯状の板状ガラスが前記切断予定線に沿って連続的にフルボディ切断されながら、巻芯の廻りにロール状に巻き取られるように構成することもできる。
【0035】
このようにすれば、既述のように耳部が切除された後における帯状の板状ガラス、または幅方向寸法が所望の寸法となるように分割された後におけるそれぞれの帯状の板状ガラスが、巻芯の廻りにロール状に巻き取られることになるので、特に帯状の薄肉板状ガラス、即ちガラスフィルムの収納や梱包をコンパクトに且つ容易に行うことが可能となる。なお、この巻き取りに際しては、帯状の板状ガラスに帯状の保護シート(例えば有機樹脂フィルム)を重ねながらロール状に巻き取っていくことが板状ガラス同士の接触による傷防止の観点から好ましい。また、幅方向において分割された後のそれぞれの帯状の板状ガラスについては、それぞれの送り方向を異ならせて別々の巻芯の廻りにそれぞれをロール状に巻き取っていくことが好ましい。
【0036】
以上の構成において、前記板状ガラスの表面側に、前記支持部材とそれぞれ対向して配置され且つ前記板状ガラスを前記支持部材との間で挟持する押え部材を配設してもよい。
【0037】
このようにすれば、板状ガラスが平置き姿勢にある場合のみならず、縦姿勢にある場合でも、該板状ガラスを支持部材と押え部材とにより挟持して保持した状態で局部加熱を伴うフルボディ切断を行うことが可能となり、板状ガラスの姿勢に関係なく適切な切断が行われ得ることになる。なお、この場合には、押え部材を、実質的に支持部材と同一の部材及び同一の構造とすることができる。
【0038】
以上の構成において、前記板状ガラスの裏面と前記支持部材の支持面との間に有機層を介在させることが好ましく、また押え部材を使用する場合にも、前記板状ガラスの表面と前記押え部材の押え面との間に有機層を介在させることが好ましい。ここで、上記の「有機層」には、有機フィルム(例えば、有機樹脂フィルム)等が含まれる。
【0039】
このようにすれば、有機層の存在により、板状ガラスの切断予定線に対する局部加熱時における支持部材及び押え部材への熱伝導が抑制されると共に、板状ガラスの支持部材及び押え部材との接触に伴う傷の発生が回避される。
【0040】
以上の構成において、前記板状ガラスの厚みは、200μm以下であれば好適である。
【0041】
すなわち、厚みが200μm以下の薄肉の板状ガラス、即ちガラスフィルムであれば、例えばホイールカッターを弱い押圧力で回転させてスクライブを刻設するに際して、当該板状ガラスが粉砕しないようにすることは困難である。また、上記のホイールカッターの押圧力が必要以上に強くなった場合には、折割りに必要な垂直クラックのみならず、切断端面の強度低下の原因となる水平方向のマイクロクラックが容易に発生する。更に、厚みが200μm以下のガラスフィルムをロール状に巻き取りつつ、長手方向に延びる切断予定線に沿って折割りを行う場合には、長距離に亘ってスクライブを形成する必要性が生じ、作業の煩雑化や困難化を余儀なくされる。このように、厚みが200μm以下のガラスフィルムにスクライブを刻設して折割りを行おうとした場合の問題は、上記の本願発明に係る方法によって一挙に解決することができ、その結果、この種の薄肉のガラスフィルムとして曲げ強度が高く且つ高品位のものを得ることが可能となる。なお、ガラスフィルムの厚みは、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。
【0042】
以上の構成において、前記局部加熱は、炭酸ガスレーザーにより行われることが好適である。
【0043】
このように、板状ガラスの切断予定線に対する局部加熱手段として、炭酸ガスレーザーを使用すれば、ガラス(特に無アルカリガラス)がレーザーのエネルギーを効率よく吸収できるので、簡易に安定した状態で局部加熱を行うことができ、且つコストも低廉となる。
【0044】
以上の方法を使用(実施)すれば、それぞれの方法に応じた板ガラスを得る(製造する)ことができる。
【0045】
以上の方法を使用(実施)すれば、少なくとも一辺が切断されてなり且つ厚みが200μm以下である板状ガラスを得る(製造する)ことができる。
【0046】
この板状ガラス、即ちガラスフィルムは、その切断面の曲げ強度が高いことから、小さい曲率半径での曲げ等による強い引張応力に耐えることができ、従来に比して広範囲に亘って利用可能になると共に、取り扱い性に優れたものとなる。
【0047】
また、以上の方法を使用(実施)すれば、少なくとも一辺が切断されてなり且つ切断面の曲げ強度が200MPa以上であると共に厚みが200μm以下である板状ガラスを得る(製造する)ことができる。
【0048】
この板状ガラス、即ちガラスフィルムは、切断面の曲げ強度が200MPa以上であることから、より小さい曲率半径での曲げ等によるより強い引張応力に確実に耐え得ることができると共に、200MPa以上という高い値として曲げ強度が明確になることにより、この板状ガラスの取り扱いを適切な態様で具体化することができる。
【0049】
更に、以上の方法を使用(実施)すれば、巻芯の廻りにロール状に巻き取られてなる板状ガラス巻回体を得ることができる。
【0050】
この板状ガラス巻回体によれば、収納やハンドリングが容易化されると共に、輸送効率も向上する。なお、一の板状ガラス巻回体から帯状の板状ガラスを引き出しつつ他の巻芯の廻りにロール状に巻き取る手法(ロールtoロール)を実行しつつ、長手方向に延びる切断予定線に沿ってフルボディ切断する場合のプロセスが、円滑且つ容易に行い得ることになる。
【0051】
また、以上の方法により得られた(製造された)板状ガラスの切断面及び表裏面の少なくとも一面に有機層を形成するようにしてもよい。
【0052】
すなわち、得られた板状ガラスの切断面や表面或いは裏面に有機層を形成した場合には、その切断面や表裏面の強度が高められるため、例えば厚みが200μm以下の板状ガラス、即ちガラスフィルムにおいては、撓みに対して十分な強度を確保することができ、薄肉の板状ガラスが有するフレキシビリティを有効に活用することが可能となる。
【0053】
上記技術的課題を解決するために創案された本発明に係る装置は、板状ガラスの切断予定線に沿って局部加熱を行う局部加熱手段を備えた板状ガラスの切断装置において、前記板状ガラスの切断予定線から両側に離隔した部位を裏面側からそれぞれ支持する支持部材を、前記切断予定線の裏面側に空間が形成されるように相互に離隔して配置すると共に、前記支持部材を、前記板状ガラスを搬送する搬送手段の搬送用部材とし、且つ、前記搬送用部材が前記板状ガラスを搬送しながら、前記板状ガラスの切断予定線に沿って少なくとも局部加熱手段により局部加熱を行うことにより、該板状ガラスをフルボディ切断するように構成したことに特徴づけられる。
【0054】
この場合、前記離隔して配置された各支持部材は、前記板状ガラスの切断予定線から両側に離隔した部位を裏面側からそれぞれ吸着して支持するように構成されていることが好ましい
【0055】
また、前記離隔して配置された各支持部材の相互間の離隔寸法は、前記各支持部材によって前記板状ガラスが支持されている二箇所の部位における何れの部位の前記離隔方向に沿う方向の寸法よりも短くなるように構成されていることが好ましい
【0056】
以上の構成を備えた装置についての作用効果を含む説明事項は、これらの装置と実質的に構成要素が同一である上述の本発明に係る方法について説明した事項と本質的に同一である。
【0057】
これらの装置については、前記板状ガラスの切断予定線上に初期亀裂を形成する亀裂形成手段と、前記局部加熱手段により局部加熱された加熱領域を冷却する冷却手段とをさらに備え、前記局部加熱手段及び冷却手段によって応力を発生させることにより、前記初期亀裂を進展させて前記板状ガラスをフルボディ切断するように構成してもよい。
【0058】
この構成を備えた装置についての作用効果を含む説明事項も、この装置と実質的に構成要素が同一である上述の本発明に係る方法について説明した事項と本質的に同一である。
【発明の効果】
【0059】
以上のように本発明によれば、支持部材の支持面と板状ガラスとの接触部位を、切断予定線から両側に離隔させ、その双方の接触部位の間に空間を形成しているため、切断予定線に沿うフルボディ切断に必要な多量の熱量で局部加熱を行っても、支持部材による熱の吸収が可及的に低減され、これにより熱効率が改善された状態で板状ガラスの切断が行われ、フルボディ切断であることとの相乗作用に伴って、迅速化が推進されるため、生産性の向上等を図る上で極めて有利となる。しかも、大きな熱勾配が生じることにより板状ガラスの切断予定線の周辺が変形を来たしても、その裏面側の空間の存在により板状ガラスの支持に支障が生じなくなることから、切断予定線に正確に沿った高精度なフルボディ切断が可能になると共に、切断面の面性状が極めて良好なものとなる。加えて、このようなフルボディ切断であると、双方の支持部材を互いに接近移動及び離反移動させる必要がなくなり、支持構造或いは支持装置の複雑化が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0060】
図1】本発明の第1実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略斜視図である。
図2】本発明の第2実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す要部斜視図である。
図3】本発明の第3実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す要部斜視図である。
図4】本発明の第4実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略側面図である。
図5】本発明の第5実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略側面図である。
図6】本発明の第6実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略側面図である。
図7】本発明の第7実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略側面図である。
図8】本発明の第1〜第7実施形態における切断装置によって切断された板状ガラスの切断面に有機層を形成した状態を示す断面図である。
図9】本発明の第1〜第7実施形態における切断装置によって切断された板状ガラスの表面に有機層を形成した状態を示す断面図である。
図10】板状ガラスの評価を行っている状態を示す概略図である。
図11】(a)、(b)、(c)はそれぞれ、従来の問題点を示す概略正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態においては、FPDや有機EL照明装置或いは太陽電池に使用される厚みが200μm以下の板状ガラス、即ちガラスフィルムを対象とする。
【0062】
図1は、本発明の基本的構造をなす第1実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略斜視図である。同図に示すように、この切断装置1は、相互に離隔して配置された一対の支持部材2と、これらの支持部材2の支持面2a上に跨って載置された板状ガラスGに表面側からレーザービームLを照射して局部加熱を施す局部加熱手段3と、この局部加熱手段3により加熱された加熱領域Hに表面側から冷却水Wを噴射する冷却手段4とを備える。この場合、一対の支持部材2はそれぞれ、直方体状の定盤またはこれに準じる部材からなる。この実施形態では、局部加熱手段3として、炭酸ガスレーザーが使用されているが、電熱線や熱風噴射などの他の局部加熱を行い得る手段であってもよい。また、冷却手段4は、エアー圧等により冷却水Wを冷媒として噴射するものであるが、この冷媒は、冷却水以外の冷却液、またはエアーや不活性ガス等の気体、もしくは気体と液体を混合したもの、更にはドライアイスや氷等の固体と前記気体及び/又は前記液体とを混合したもの等であってもよい。
【0063】
一対の支持部材2は、板状ガラスGの切断予定線5から両側に同一寸法だけ離隔した部位をそれぞれ裏面側から支持すると共に、板状ガラスGの切断予定線5の裏面側は空間Sとされ、且つ、板状ガラスGは両支持部材2の支持面2a上で相対移動しないように負圧吸引等により吸着して保持されている。この実施形態では、一対の支持部材2が矢印a方向(切断予定線5に沿う方向)に同速度で移動するように構成され、局部加熱手段3及び冷却手段4が定置保持されているが、一対の支持部材2を定置保持し、局部加熱手段3及び冷却手段4を移動させるように構成してもよい。
【0064】
局部加熱手段3のレーザー照射による加熱領域Hと、冷却手段4の冷却水噴射による冷却領域Cとについては、加熱領域Hが冷却領域Cを先行しつつ板状ガラスGの一端部側から切断予定線5上を走査していく。この場合、板状ガラスGの一端部における切断予定線5上には、図外の亀裂形成手段(クラック付与手段)によって予め初期亀裂6aが形成されているので、上述の加熱領域Hと冷却領域Cとの走査時に発生する応力(熱応力)によって初期亀裂6aが進展し、これにより切断予定線5上に表面から裏面に貫通する切断面6が進展しつつ形成されていく。このような態様で、板状ガラスGが切断予定線5に沿ってフルボディ切断(フルボディ熱応力割断)される。
【0065】
以上のような切断過程においては、支持部材2の支持面2aと板状ガラスGとの接触部位が、切断予定線5の裏面側で10〜20mm離隔しており、且つその双方の接触部位の間に空間Sが形成されているため、切断予定線5に沿うフルボディ切断に必要な多量の熱量で局部加熱を行っても、支持部材2への熱の伝導が可及的に低減される。これにより、熱効率が改善された状態で板状ガラスGの切断が行われ、フルボディ切断であることとの相乗作用に伴って、迅速化が推進されるため、生産性の向上等を図る上で極めて有利となる。しかも、大きな熱勾配が生じることにより板状ガラスGの切断予定線5の周辺に変形が生じても、その裏面側の空間Sの存在により板状ガラスGの支持に支障が生じないことから、切断予定線5に正確に沿う高精度な切断が行われ得ると共に、切断面6の面性状が極めて良好になる。加えて、このようなフルボディ切断であると、一対の支持部材2を互いに接近移動及び離反移動させる必要がなくなり、支持構造ひいては支持装置1の複雑化が回避される。また、厚みが200μm以下等の薄肉の板状ガラスGを対象とする場合には、その板状ガラスGの切断予定線5近傍の裏面が非接触状態となって支持部材2の支持面2a上における吸着や摩擦により拘束されないことになるため、局部加熱により板状ガラスGは最大限膨張し、その後の冷却で最大限収縮し得ることになる。そして、この膨張と収縮との差が初期亀裂6aを進展させてフルボディ切断を行うための引張応力の主因となることから、極めて効率的な加熱及び冷却によって生じた最大限の引張応力を有効利用して板状ガラスGを割断することが可能となる。
【0066】
なお、支持部材2と板状ガラスGとの間には、両者の接触による板状ガラスGの傷防止の観点から、有機層(例えば有機樹脂フィルム)を介在させることが好ましい。また、同図によれば、初期亀裂6aが、板状ガラスGの表面における切断予定線5上の一端部に形成されているが、この初期亀裂6aは、板状ガラスGの表面一端部から端面に亘って形成されていてもよい。
【0067】
また、図1から明らかなように、一対の支持部材2の相互間の離隔寸法(空間Sの幅方向寸法)は、一対の支持部材2によって板状ガラスGが支持されている二箇所の部位における何れの部位の離隔方向に沿う方向の寸法(幅方向寸法)よりも短く設定されている。
【0068】
図2は、本発明の第2実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す要部斜視図である。同図に示すように、この第2実施形態に係る切断装置1は、一対の支持部材が、搬送手段としてのコンベア7の搬送ベルトからなる搬送用部材(搬送手段としてのローラコンベアの複数の搬送ローラからなる搬送用部材でもよい)8によってそれぞれ構成され、これらの搬送ベルト8は、帯状の板状ガラスGを切断予定線5に沿う方向に送るように矢印a方向にそれぞれ同速度で駆動される。これらの搬送ベルト8は、それぞれの外周面が帯状の板状ガラスGを吸着等により保持する支持面8aとされ、且つ、帯状の板状ガラスGの幅方向中央部に存在する切断予定線5から両側に離隔した部位を下方から支持すると共に、帯状の板状ガラスGの切断予定線5の裏面側には、コンベア7の長手方向全長に亘って空間Sが形成されている。そして、この切断装置1は、帯状の板状ガラスGの切断予定線5上に、レーザービームLにより局部加熱を施す局部加熱手段3と、冷却水Wを噴射供給する冷却手段4とを備えている。以上のような構成によれば、コンベア7の搬送ベルト8が帯状の板状ガラスGを送ることにより、局部加熱手段3による加熱領域Hが冷却手段4による冷却領域Cに先立って帯状の板状ガラスGの切断予定線5上を一端部側から走査していく。これにより、帯状の板状ガラスGの一端部に形成された初期亀裂6aが進展して、切断予定線5上に表面から裏面に貫通する切断面6が形成され、これに伴ってフルボディ切断(フルボディ熱応力割断)が連続的に行われる。その他の構成及び作用効果や補足的説明事項は、上述の第1実施形態と同一であるので、ここでは、それらについての説明を省略すると共に、共通の構成要素については同一の符号を使用する。
【0069】
図3は、本発明の第3実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す要部斜視図である。同図に示すように、この第3実施形態に係る切断装置1は、帯状の板状ガラスGの幅方向両端に存する相対的に厚肉の耳部Gxを切除するものであって、これらの耳部Gxの僅かに幅方向中央側位置にそれぞれ切断予定線5が存在している。そして、これらの切断予定線5のそれぞれから両側に離隔した部位には、裏面側より帯状の板状ガラスGを支持して送る各一対のコンベア7が配置されると共に、切断予定線5の裏面側には空間Sが設けられている。また、帯状の板状ガラスGの表面側には、これらの切断予定線5上に局部加熱を施す局部加熱手段3と冷却水Wを噴射する冷却手段4とがそれぞれ配設されている。なお、帯状の板状ガラスGの幅方向中央部領域における裏面側には、該板状ガラスGの垂れ下がりを防止するための一本または複数本(図例では1本)の補助コンベア9が設置されている。なお、帯状の板状ガラスGの幅方向寸法が短い場合には、補助コンベア9が不要であるばかりでなく、二対のコンベア7のうち幅方向中央側寄りにそれぞれ配置されている二つのコンベア7を共用することにより、計三つのコンベア7を配置する構成であってもよい。このような構成によれば、コンベア7(及び補助コンベア9)によって帯状の板状ガラスGが送られている間に、局部加熱手段3による加熱領域Hと冷却手段4による冷却領域Cとがそれぞれ切断予定線5上を走査していくことにより、初期亀裂6aの進展に伴って帯状の板状ガラスGが有効部Gaと耳部Gxとの間でそれぞれフルボディ切断され、これにより耳部Gxがそれぞれ連続的に切除されていく。その他の構成及び作用効果や補足的説明事項は、上述の第1実施形態と同一であるので、ここでは、それらについての説明を省略すると共に、共通の構成要素については同一の符号を使用する。
【0070】
図4は、本発明の第4実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略側面図である。同図に示すように、この第4実施形態は、帯状の板状ガラスGを成形する成形装置10と、その成形後の帯状の板状ガラスGを巻芯11aの廻りにロール状に巻き取る巻取装置11との間に、上述の図3に示す切断装置1を介設したものである。すなわち、この成形装置10は、オーバーフローダウンドロー法を実施するものであって、上方から順に、成形炉内に成形体10xを有する成形ゾーン10Aと、アニール手段(アニーラ)を有する徐冷ゾーン10Bと、冷却手段を有する冷却ゾーン10Cとを備えている。そして、この成形装置10の冷却ゾーン10Cから下方に向かって引き出される帯状の板状ガラスGは、変換ローラ12によって滑らかに湾曲して横方向に送られ、切断装置1のコンベア7における搬送ベルト8上に吸着等により支持された状態となる。このように、帯状の板状ガラスGが搬送ベルト8によって支持され且つ横方向に送られている間に、局部加熱手段3と冷却手段4とによって切断予定線5上に局部加熱及び冷却が施され、これにより帯状の板状ガラスGが有効部Gaと耳部Gxとの間でフルボディ切断されていく。この後においては、板状ガラスGの有効部Gaが巻取装置11の巻芯11aの廻りにロール状に巻き取られ、ロール外径が所定値となった時点で、板状ガラスGを幅方向に切断する。この切断は、例えばカッターにより板状ガラスGの幅方向にスクライブを入れて折割ることにより行われる。その結果、最終製品たるロール状のガラス巻回体が得られる。なお、この実施形態では、巻取装置11の巻芯11aの上方に保護シート巻回体13が配設されると共に、この保護シート巻回体13から引き出された保護シート14が板状ガラスGの有効部Gaの表面側に重ねられた状態で巻芯11aの廻りにロール状に巻き取られる。一方、帯状の板状ガラスGの耳部Gxは、下方に送られて、廃棄処分とされる。この場合、切断装置1の構成及びその作用効果は、実質的に上述の第3実施形態と同一であるので、ここでは、その説明を省略し、共通の構成要素については同一の符号を
使用する。
【0071】
図5は、本発明の第5実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略側面図である。この第5実施形態が、上述の第4実施形態と相違するところは、成形装置10の冷却ゾーン10Cから引き出された帯状の板状ガラスGを耳部Gxを切除することなくロール状に巻き取ってなる元ガラス巻回体15を作製した後、この元ガラス巻回体15から引き出した帯状の板状ガラスGを横方向に送りつつ、切断装置1での耳部Gxの切除工程を経て、巻取装置11の巻芯11aの廻りにロール状に巻き取ることにより、最終製品たるガラス巻回体を得るようにした点にある。この場合、帯状の板状ガラスGの耳部Gxの切除工程を実行する切断装置1の構成及びその作用効果は、実質的に上述の第3実施形態に係る切断装置1と同一であるので、ここでは、その説明を省略し、共通の構成要素については同一符号を使用する。なお、この第5実施形態においても、巻取装置11の巻芯11aの上方に保護シート巻回体13が配設されると共に、この保護シート巻回体13から引き出された保護シート14が板状ガラスGの有効部Gaの表面側に重ねられた状態で巻芯11aの廻りにロール状に巻き取られ、最終製品たるガラス巻回体が得られる。
【0072】
図6は、本発明の第6実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略側面図である。この第6実施形態が上述の第4実施形態または第5実施形態と相違するところは、成形装置10の冷却ゾーン10Cまたは元ガラス巻回体15から引き出した帯状の板状ガラスGを横方向に送りつつ、板状ガラスGの耳部Gxを切除した後、さらに切断装置1での二分割工程を経て、巻取装置11の二本の巻芯11aの廻りにそれぞれロール状に巻き取ることにより、最終製品たる二つのガラス巻回体を得るようにした点にある。この場合、帯状の板状ガラスGの二分割工程を実行する切断装置1の構成及びその作用効果は、実質的に上述の第2実施形態に係る切断装置1と同一であるので、ここでは、その説明を省略し、共通の構成要素については同一符号を使用する。なお、この第6実施形態では、各保護シート巻回体13から引き出された保護シート14が、板状ガラスGの有効部Gaの裏面側にそれぞれ重ねられた状態で巻芯11aの廻りにロール状に巻き取られる。
【0073】
図7は、本発明の第7実施形態に係る板状ガラスの切断装置及びその切断方法の実施状況を示す概略側面図である。この第7実施形態に係る切断装置1が上述の第2〜第6実施形態と相違するところは、基本的には、一のコンベア7における支持部材としての搬送ベルト8と、他のコンベア7zにおける押え部材としての搬送ベルト8zとによって、帯状の板状ガラスGが挟持された状態で支持されている点にあり、更なる相違点として、帯状の板状ガラスGが縦姿勢で下方に向かって送られている点にある。従って、支持部材としての搬送ベルト8と、押え部材としての搬送ベルト8zとの構造は実質的に同一であって、この両搬送ベルト8、8zは対向して配置され、それぞれがa方向及びb方向に同速度で送り駆動されている。なお、押え部材としての搬送ベルト8zが帯状の板状ガラスGの有効部Gaに接触する態様となる場合等には、その両者8z、Gの相互間に有機フィルム(例えば有機樹脂フィルム)を介在させることが好ましい。上記切断装置1により帯状の板状ガラスGをフルボディ切断するための構成及びその作用効果は、実質的に上述の第2〜第6実施形態と同一であるので、ここでは、その説明を省略し、共通の構成要素については同一符号を使用する。なお、帯状の板状ガラスGの姿勢は、特に限定されず、平置き姿勢(水平姿勢)であっても、また、板状ガラスGの長さ方向の中心線が水平に対して傾いていても、この構成を適用することが可能である。
【0074】
図8は、以上の実施形態における切断装置1によって切断された板状ガラスG(Ga)の切断面6に、有機層(好ましくは有機樹脂層)16を形成したものである。なお、図例では、板状ガラスG(Ga)の幅方向両端に切断面6を有するため、当該両端に有機層16を形成したが、板状ガラスG(Ga)の幅方向一端にのみ切断面6を有する場合には、当該一端にのみ有機層16を形成してもよい。このようにすれば、板状ガラスGの切断面6の強度が高められるため、厚みが200μm以下の板状ガラスGにおいては、撓みに対して十分な強度を確保することができ、薄肉の板状ガラスGが有するフレキシビリティを有効に活用することができる。
【0075】
図9は、以上の実施形態における切断装置1によって切断された板状ガラスG(Ga)の表面に、有機層(好ましくは有機樹脂層)16を形成したものである。このようにした場合であっても、板状ガラスG(Ga)の表面の強度が高められることにより、撓みに対して十分な強度を確保することができ、薄肉の板状ガラスG(Ga)が有するフレキシビリティを有効に活用することができる。
【0076】
以上の実施形態では、板状ガラスGをいわゆる熱応力割断によってフルボディ切断したものであるが、板状ガラスGを溶断によってフルボディ切断する場合にも同様にして本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0077】
本発明の[実施例1]では、長辺が460mm、短辺が360mm、厚みが200μmであり、且つ熱膨脹係数が38×10-7/℃の無アルカリガラス板を、その切断予定線の裏面側に幅20mmの空間を設けて配置されたステンレス製ワークベンチからなる一対の支持部材の支持面上に、有機層としての発泡ポリエチレンシートを介して載置した(基本的には図1に示す状態)。そして、切断予定線上に例えば超鋼合金製ホイールチップなどで初期亀裂を入れた後、局部加熱手段として炭酸ガスレーザーを使用して、出力60wにて、長さが20mmで幅が3mmの楕円形のレーザースポットを、切断予定線上に照射し、続いて、冷却手段として、空気と水とを混合した冷媒を、0.05MPaのエアー圧、0.3ml/分の水量で吹き付けながら、200mm/秒の速度でフルボディ切断した。この局部加熱と冷却とを幅方向15mm間隔おきの部位で繰り返し実行することにより、幅15mm、長さ360mmの板状ガラスからなるサンプルSaを50本製作した。その後、図10に示すように、これらのサンプルSaを順次、二枚の板状体17で挟み且つU字状に50mm/分の速度で長手方向に曲げが生じるように押し曲げていく二点曲げにより強度を評価した。この評価は、押し曲げにより破壊したときの二枚の板状体17の間隔に基づいて破壊強度を算出することにより行い、その破壊強度は、最低値が200MPa、平均値が500MPaという結果を得た。この破壊強度は、後述する比較例1のように超鋼合金製ホイールチップによるスクライブ形成後の折割りにより得られた端面の破壊強度と比較すれば、平均値で3倍以上という結果を得た。
【0078】
本発明の[実施例2]では、長辺が460mm、短辺が360mm、厚みが50μmであり、且つ熱膨脹係数が38×10-7/℃の無アルカリガラス板について、上述の実施例1と同様の方法により、炭酸ガスレーザーの出力を100wとし、且つ切断速度を700mm/秒としてレーザー割断を実施した。その結果、フルボディ切断により、幅15mm、長さ360mmの板状ガラスからなるサンプルSaを50本製作することができた。これらのサンプルSaについても順次、上述の実施例1と同様の手法により評価を行った結果、それらの破壊強度は、最低値が220MPa、平均値が600MPaであって、後述する比較例1と対比すれば、平均値が3倍以上であった。
【0079】
本発明の[実施例3]では、長辺が460mm、短辺が360mm、厚みが100μmであり、且つ熱膨脹係数が38×10-7/℃の無アルカリガラス板について、上述の実施例1と同様の方法により、炭酸ガスレーザーの出力を40wとし、且つ切断速度を150mm/秒としてレーザー割断を実施した。その結果、フルボディ切断により、幅15mm、長さ360mmの板状ガラスからなるサンプルSaを50本製作することができた。そして、これらのサンプルSaの長手方向に沿う切断面に紫外線硬化タイプのアクリル樹脂を厚さ10μmで塗布し、100Wの高圧水銀灯を1分間照射することにより硬化させた。その硬化後に、#2000のサンドペーパーを用いて紫外線硬化樹脂の上から1Nの荷重で加傷し、更にその後、上述の実施例1と同様の手法により評価を行った結果、それらの破壊強度は、最低値が200MPa、平均値が530MPaであって、切断面の強度低下は生じなかった。
【0080】
本発明の[実施例4]では、長さが250m、幅が600mm、厚みが100μmであり、且つ熱膨脹係数が38×10-7/℃の無アルカリガラスからなる帯状の板状ガラスを巻芯の廻りに巻き取ることによりガラス巻回体を製作し、然る後、そのガラス巻回体から帯状の板状ガラスとして引き出していく間に、その幅方向両端を既述の図3に示す態様と実質的に同様の態様でそれぞれ50mm切除した。そして、これによって得られた幅500mmの帯状の板状ガラスに、幅が550mm、厚みが20μmのPETフィルムを重ねた状態で、新たに直径100mmのアクリル製の巻芯に巻き取った。この巻き取った帯状の板状ガラスをサンプリングして、上述の実施例1と同様の手法により評価を行った結果、それらの破壊強度は、最低値が210MPa、平均値が515MPaであって、後述する比較例1と対比すれば、平均値が3倍以上であった。
【0081】
本発明の[実施例5]では、長辺が460mm、短辺が360mm、厚みが300μmであり、且つ熱膨脹係数が38×10-7/℃の無アルカリガラス板について、上述の実施例1と同様の方法により、炭酸ガスレーザーの出力を10〜200wとし、且つ切断速度を50mm/秒〜700mm/秒としてレーザー割断を試みた。その結果、厚みが大きいことが原因となって、フルボディ切断を行うことに困難性が見られた。但し、炭酸ガスレーザーの出力や切断速度を調整すれば、フルボディ切断を行い得るものであった。
【0082】
[比較例1]では、長辺が460mm、短辺が360mm、厚みが50μmであり、且つ熱膨脹係数が38×10-7/℃の無アルカリガラス板を、単一の定盤上に設置すると共に、刃先角度が95°の超鋼合金製のホイールチップを用いて、2Nの押し圧及び50mm/秒の速度で、該ガラス板に幅15mm間隔でスクライブを刻設し、手作業で折割りを行った。このようにして得られた50本のサンプルSaのうち、10本はスクライブを刻設する途中で水平クラックが四方に進展してサンプル採取が実質的に不可能であった。残りの40本については上述の実施例1と同様の手法により評価を行った。その結果、それらの破壊強度は、最低値が60MPa、平均値が130MPaであって、極めて低い値を示した。
【符号の説明】
【0083】
1 切断装置
2 支持部材
2a 支持面
3 局部加熱手段
4 冷却手段
5 切断予定線
6 切断面
6a 初期亀裂
8 搬送ベルト(支持部材)
8a 支持面
10 成形装置
11 巻取装置
11a 巻芯
14 保護シート
G 板状ガラス(ガラスフィルム)
Ga 有効部
Gx 耳部
H 加熱領域
C 冷却領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11