(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記低圧側ピストンの揺動時に前記低圧側ピストンと前記低圧側シリンダとの間に生じる最大隙間よりも前記高圧側ピストンの揺動時に前記高圧側ピストンと前記高圧側シリンダとの間に生じる最大隙間が大きくならないことを特徴とする請求項1に記載の往復動圧縮機。
前記低圧側ピストン及び前記高圧側ピストンは、それぞれ前記モータの回転軸に連結され、回転運動を行うエキセントリックとシリンダ内において空気を圧縮するピストン本体と前記エキセントリックと前記ピストン本体を接続する連接棒とを備え、前記ピストン本体が前記連接棒に固定されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の往復動圧縮機。
前記エキセントリックの中心から前記低圧側ピストンの先端までの長さと前記エキセントリックの中心から前記高圧側ピストンの先端までの長さをほぼ等しくすることを特徴とする請求項3に記載の往復動圧縮機。
前記低圧側ピストンの前記低圧側シリンダ内において空気を圧縮するピストン本体にリップリングを設け、前記高圧側ピストンの前記ピストン本体にピストンリングを設けることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の往復動圧縮機。
前記低圧側ピストンの前記低圧側シリンダ内において空気を圧縮するピストン本体にピストンリングを設け、前記高圧側ピストンの前記ピストン本体にピストンリングを設けることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の往復動圧縮機。
前記低圧側ピストンの揺動時に前記低圧側ピストンと前記低圧側シリンダとの間に生じる最大隙間よりも前記高圧側ピストンの揺動時に前記高圧側ピストンと前記高圧側シリンダとの間に生じる最大隙間を小さくすることを特徴とする請求項9に記載の往復動圧縮機。
前記低圧側ピストン及び前記高圧側ピストンは、それぞれ前記ピストン本体が前記連接棒に固定されていることを特徴とする請求項9または10のいずれかに記載の往復動圧縮機。
前記エキセントリックの偏心運動に伴い、前記ピストン本体が前記高圧側シリンダ及び前記低圧側シリンダ内を揺動しながら往復動することを特徴とする請求項9に記載の往復動圧縮機。
前記低圧側ピストンの前記エキセントリックの中心から前記低圧側ピストンのピストン本体の先端までの長さをl1、前記高圧側ピストンの前記エキセントリックの中心から前記高圧側ピストンのピストン本体の先端までの長さをl2としたときにr1/l1>r2/l2となるように前記低圧側ピストン及び前記高圧側ピストンを形成することを特徴とする請求項9に記載の往復動圧縮機。
前記低圧側ピストンの前記ピストン本体にリップリングを装着し、前記高圧側ピストンの前記ピストン本体にピストンリングを装着することを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の往復動圧縮機。
前記低圧側ピストンの前記ピストン本体にピストンリングを装着し、前記高圧側ピストンの前記ピストン本体にピストンリングを装着することを特徴とする請求項9乃至14のいずれかに記載の往復動圧縮機。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施例について
図1から
図4を参照しつつ説明する。
【0013】
本発明の実施例における圧縮機を
図1を参照しつつ説明する。本実施例における圧縮機はクランクケース1を有しており、クランクケース1には、シャフト(回転軸)2を有したモータ3が取り付けられている。モータ3のシャフト2には、それぞれ回転運動を往復運動へ変換するエキセントリック7、エキセントリック13を介して、連接棒4Aとピストン本体5を備える低圧側のピストン4と、連接棒8Aとピストン本体11を備える高圧側のピストン8とが取り付けられている。低圧側のピストン本体5はリテーナ5Aより構成され、高圧側のピストン本体11はベース11Aとトップ12Aより構成される。
【0014】
低圧側のピストン本体5には、リップリング6が設けられている。高圧側のピストン本体11には、リップリング9およびピストンリング10が設けられている。
【0015】
リップリング6は、シリンダ14との接触面積を増やすためにスカート部(リップ部)が設けられており、スカート部が低圧側の圧縮室を向いた方向に装着されている。これによりピストン4とシリンダ14とのシール性を確保することができる。
【0016】
次に
図2に示す高圧側圧縮部の拡大図を参照しつつ説明する。リップリング6、リップリング9およびピストンリング10は、耐摩耗性および自己潤滑性に優れた樹脂材料によって、ほぼ円環状に形成されている。ピストンリング10は、断面は、ほぼ矩形状であり、径方向幅がほぼ全周にわたって一定となっている。また、ピストンリング10には、その周方向に合口部(図示せず)が形成されており、合口部によってシール性を維持しつつ拡縮径可能となっている。加えて、ピストンリング10は、高圧側のピストン8が上死点位置あるいは下死点位置にあるとき後述する高圧側のシリンダ17の内周面に接触する状態での内径が、ピストンリング10を装着する部分の溝であるピストンリング溝の最小径よりも大径になっている。これにより、ピストンリング10は、高圧側のピストン8に対して、径方向への移動が可能となっている。
【0017】
リップリング9は、リップリング6とは逆向き(スカート部がクランクケース側を向いた方向)に装着されている。この向きに装着することで、リップリング9とピストン本体11の中心が一致する。また、シリンダ17をクランクケース1に組み付けた際に、リップリング9がシリンダ17の内壁面に接触しシリンダ17の組立位置を決定する。よって、シリンダ17とピストン本体11の中心が一致する。これによりピストン本体11上に装着されるピストンリング10とシリンダ17の芯出し(センタリング)をおこなうことが可能になる。また、リップリング9によって、ピストンリング10が摩耗した際のピストン本体11とシリンダ17との接触を防止することができるので、ピストン本体11とシリンダ17の寿命を向上させることができる。また、リップリング9をベース11Aと連接棒8Aとの間に挟み込むことで、シリンダ17内で発生する圧縮熱がピストン本体11から連接棒8Aに伝わるのを防ぐことができ大端部の温度を低減することができる。これによりエキセントリック7、13の外周に設けた軸受の寿命を向上させることが可能である。
【0018】
低圧側のピストン4にはリップリング6を装着することにより、製造コストを抑えることができる。また、高圧側のピストン8にはリップリング9を装着し、ピストンリング10を装着することにより、組み立て性、シール性、耐摩耗性を向上させることができる。
【0019】
クランクケース1には低圧側のシリンダ14、空気弁15、シリンダヘッド16と高圧側のシリンダ17、空気弁18、シリンダヘッド19が取り付けられており、低圧側の連接棒4Aを備えた低圧側のピストン4、および高圧側の連接棒8Aを備えた高圧側のピストン8によってシリンダ内に各々圧縮室が形成されている。
【0020】
本発明の実施形態における圧縮機は、モータ3の駆動によりシャフト2が回転すると、エキセントリック7、13によって低圧側および高圧側のピストン4、8がシリンダ14、17内で往復運動することで、低圧側のピストン4、シリンダ14を備える低圧側圧縮部と高圧側のピストン8、シリンダ17を備える高圧側圧縮部が駆動される。低圧側圧縮部は大気圧からシリンダヘッド16、空気弁15を通じてシリンダ14内へ空気を吸い込み、圧縮して、配管(図示せず)を経由して高圧側圧縮部へと吐き出し、高圧側圧縮部は、低圧側圧縮部が吐き出した圧縮空気を吸い込み、更に圧縮して貯留タンクへと吐き出す二段圧縮構造である。このとき、シャフト2と同軸に取り付けられているファン20の回転により、低圧側および高圧側圧縮部および配管を空冷する構造としている。
【0021】
一般的に、一段圧縮の空気圧縮機の場合、大気圧から空気を吸い込み、ピストンにて空気を最高圧まで圧縮して吐き出すが、圧縮時には圧縮熱が発生して吐出し効率の低下や、モータのトルク変動による騒音・振動等が発生し、モータの性能は大出力が必要で大型化する。高圧化において、圧力比(吐出し絶対圧力/吸込み絶対圧力)の増加により吐出温度が上昇し、吸込み効率が低下するため吐出空気量の確保が困難になる。さらに、吐出温度の上昇は空気弁の変形や漏れを増やす恐れもある。また、簡欠(断続)運転を行う圧縮においては、吸込み空気中の湿分が、凝縮しドレンの発生を増加させ故障の原因になる可能性もある。
【0022】
そこで、例えば、特許文献2における圧縮機では、一例として約1MPa以上に昇圧させる場合は、低圧側は大気圧から空気を吸い込み昇圧し、一旦中間冷却して、高圧側は低圧側が昇圧し中間冷却した空気を吸い込み、更に空気を昇圧して吐出す二段圧縮構造を採用することにより上記問題が生じるのを防止している。特に、携搬型小型圧縮機では、低振動・低騒音・小型化の観点(モータサイズ小、圧縮部の軽量化)の点からも二段圧縮構造を採用している。
【0023】
二段圧縮は、一段圧縮の場合よりも低圧側、高圧側の圧力比が各々小さくなるため、効率が良くなり発生する熱が少なく、前述の発熱による性能低下を低減させることができ、更にはモータのトルクの変動も低減させることができるため低振動・低騒音を実現できる。
【0024】
次に、一般的な二段圧縮機の設計について説明する。
【0025】
ここで、特許文献2の二段式圧縮機では、高圧側において、連接棒をニードルベアリングを介してピストンに接続した往復動ピストン構造を採用していたが、本発明における本実施形態ではニードルベアリングを廃止し、連接棒とピストン本体とを一体的に形成するロッキングピストン機構とすることにより、可動部の削減による耐久性の向上、軽量化と低騒音化、および部品点数削減によるコストダウンを実現した。
【0026】
また、特許文献1の揺動型圧縮機は、低圧側と高圧側のシリンダ内でピストンが傾斜する角度を相対的に考慮せずにピストンを形成していた。従って、低圧側圧縮部においてはピストンの傾斜する角度を高圧側のよりも大きく形成してもシール性、磨耗性に影響が小さいにもかかわらず、ピストンの傾斜する角度を極力小さくするように形成し、ピストンの小型化・軽量化を十分に図ることができていなかった。また、高圧側圧縮部においてはピストンの傾斜する角度を大きく形成しすぎるとシール性・磨耗性への影響が大きくなるにもかかわらず、ピストンの傾斜する角度を十分に小さくせずに設計していたため、ピストンのシール性・寿命の向上を図ることができなかった。
【0027】
以上を考慮して本発明の実施形態では、低圧側のピストン4と高圧側のピストン8を連接棒4A、8Aとピストン本体5(11)とを一体的に形成し、連接棒4A、8Aが傾斜した場合に連接棒4A、8Aと共にピストン本体5(11)が傾斜し、ピストン本体5(11)がシリンダ14、17内を揺動しつつ往復動するロッキングピストン機構とし、低圧側ピストン4と高圧側ピストン8がそれぞれ、シリンダ14、17内で傾斜する角度を考慮して設計を行った。
【0028】
ここで、本実施形態における二段圧縮機の設計について詳細説明する。
【0029】
低圧側、高圧側におけるモータ動力、すなわち軸動力(仕事量W)は、それぞれ吸込圧力と吐出圧力の圧力比の増加に伴い大きくなる。また、二段圧縮機における軸動力は、低圧側と高圧側における軸動力の和に依存し、低圧側における圧力比と高圧側における圧力比が小さくなるほど、軸動力は小さくなる。即ち、低圧側の圧力比と高圧側の圧力比とが等しくなった場合に軸動力は最小となる。以上を考慮して、本実施形態では、低圧側、高圧側におけるピストン4、8の各種寸法(ボア径、ストローク等)は、圧縮機の最高圧力を考慮した軸動力にて設計した。
【0030】
ここで、低圧側、高圧側におけるモータの軸動力について計算する。所要軸動力Lsおよび理論断熱空気動力Ladは、以下の式(1)および(2)で表される。
【数1】
Ls:所要軸動力
ηad:全断熱効率
【数2】
Lad:理論断熱空気動力
Qs:吸込み状態での実風量
Ps:吸込み絶対圧力
Pd:吐出し絶対圧力
κ:比熱比
【0031】
ここで、式(2)内の実風量Qsは以下の式(3)のように圧縮機を構成する部材のパラメータと圧縮機の効率から決まる。
【数3】
D:ボア径
S:ストローク
N:回転速度
ηv:体積効率
【0032】
ここで、前述の通り、2段圧縮の低圧側と高圧側の圧力比、および軸動力の差を小さくした場合にモータ動力(全軸動力)は小さくなるため、以下式(4)、(5)のように、本実施形態では、モータの動力を最小とするために、2段圧縮の低圧側と高圧側の圧力比が等しいと仮定して、低圧側、高圧側におけるピストン4、8の各種寸法を計算する。
L=Ls1+Ls2 ・・・(4)
L:全軸動力
Ls1:低圧側の所要軸動力
Ls2:高圧側の所要軸動力
Pm/P1=P2/Pm・・・・(5)
Pm:中間絶対圧力
P1:低圧側の吸込み絶対圧力
P2:高圧側の吐出絶対圧力
【0033】
ここで、式(1)(2)より、Ls1、Ls2は、
【数4】
Qs1:低圧側における吸込み状態での実風量
【数5】
Qs2:高圧側における吸込み状態での実風量
【0034】
ここで、式(5)を考慮して定数Kを用いて式(6)(7)を変形すると、
Ls1=P1・Qs1×K・・・(8)
Ls2=Pm・Qs2×K・・・(9)
【0035】
式(3)を式(8)(9)に代入すると、
【数6】
【数7】
D1:低圧側のボア径
D2:高圧側のボア径
S1:低圧側のストローク
S2:高圧側のストローク
【0036】
モータの軸動力が最小となるのは、低圧側と高圧側の圧力比、軸動力が等しいときであるから、式(10)および(11)より以下の式が求められる。
【数8】
【数9】
【0037】
以上より、本実施例では、式(12)、式(13)より、低圧側ピストン4、高圧側ピストン8のボア径と各々のストロークを決定する。
【0038】
ここで、式(12)、式(13)において、高圧な圧縮空気を得るためには、P1に対してP2を十分に大きくする必要がある。即ち式(12)において、P1に対してPmを十分に大きくする必要がある。この場合において、式(12)を満たす(少なくとも左辺と右辺の値を近づける)ためには、D1をD2に対して十分に大きくするか、S1をS2に対して十分に大きくする必要がある。
【0039】
ここで、低圧側のボア径Dlと高圧側のボア径D2の関係について説明する。
【0040】
まず、低圧側のボア径Dlと高圧側のボア径D2は、D1>D2とするのが好ましい。これは二段圧縮の場合は低圧側よりも高圧側のほうの圧縮室内の圧力が高くなるため、高圧側のピストン8の面積を小さくし、受ける荷重を小さくすることで、ピストン8の上面から連接棒8A長手方向へ作用するピストン8の荷重Fを低減し、連接棒8Aの中心側のエキセントリック13の外周に設けた軸受のサイズを抑えるためである。
【0041】
一方で、以下で説明するとおり、製品の重心バランスを考慮して本発明の本実施例では低圧側のボア径Dlに対して高圧側のボア径D2が極端に小さくならないようにする必要がある。
【0042】
ここで、特に持ち運びされる可搬型空気圧縮機の場合は製品の重心バランスが重要であり、可搬型空気圧縮機は
図3に示すように、例えば一対の空気タンク22上(のほぼ中心)に、
図1にて説明した低圧側圧縮部および高圧側圧縮部を備える圧縮機本体21とモータ3を搭載し、各補器部品、特に質量の大きい減圧弁23(26)や圧力計24(27)、空気取出し用のカプラ25(28)を圧縮機本体21に対して対称になるように搭載することで、製品の重心バランスを考慮したレイアウトとしている。
【0043】
その中でも最も質量の大きい圧縮機本体21については、それ自体の重心バランスも重要となる。
【0044】
前述のとおり低圧側、高圧側のボア径D1、D2、およびストロークS1、S2は、軸動力、圧力比を等しくするように、各々決定することとなる。
図1に示した今回の実施形態である二段圧縮構造は対向二気筒であり、圧縮機本体21の重心バランスはクランクケース1から突出している低圧側と高圧側のシリンダ14(17)、空気弁15(18)、シリンダヘッド16(19)の長さや大きさに大きく影響を受ける。ここで、前述の通り、高圧側のピストン荷重Fを低減する為にボア径D2を低圧側のボア径D1よりも小さくするのが一般的であるが、ボア径D1とD2に極端に差を設けた場合、連接棒4A(8A)だけでなく、圧縮室を形成しているシリンダ14(17)、空気弁15(18)、シリンダヘッド16(19)の大きさにも差が出る為、圧縮機本体21の左右の重心バランスが偏ることとなり、結果として製品全体の重心バランスが悪化する。これは低圧側と高圧側の連接棒4A(8A)の長さ(エキセントリック7(13)の中心からピストン本体5(11)の先端(上面)までの長さ)lに差がある場合も同様であり、この場合重心バランスが悪化するだけでなく更には、圧縮機本体21からシリンダヘッド16(19)までの距離が長い方には圧縮機本体21に搭載されている冷却ファン20による冷却風が届きにくく、温度上昇を招き、性能低下や寿命低下を引き起こす可能性もある。また、空気タンク22の上に圧縮機本体21を搭載したとき、距離が長い方のシリンダヘッドが空気タンク22から突出し、結果として製品外形が大きくなるというデメリットも発生する可能性もある。
【0045】
したがって、製品バランスの観点からは低圧側と高圧側のボア径Dと、連接棒長さlに極端に差を設けることは避けるのが望ましい。
【0046】
なお、
図3では、シャフト2の軸方向と空気タンク22の長手方向が直交するように圧縮機本体21を搭載することでコンパクト化と重量バランスを両立させていたが、これに限らず、シャフト2の軸方向と空気タンク22の長手方向が同方向を向くように圧縮機本体21を搭載してもよい。この場合は、二つの空気タンク22の中間に、シャフト2が位置するように構成することで重心バランスを確保できる。さらに、空気タンク22からシリンダヘッドの突出しないように寸法を決定することでコンパクト化が実現できる。
【0047】
以上より、高圧側のピストン荷重を低減させるために高圧側のボア径D2を低圧側のボア径D1よりも小さくする必要がある一方で、重心バランスを保つためにはD1をD2に対して極端に大きくしすぎないことが必要である。本実施例では以上を考慮して、D1、D2、S1、S2を決定した。
【0048】
ここで、式(12)で、D1とD2に大きな差を設けず、S1<S2とした場合、P1に対してPmが十分に大きくならず、式(13)より、P1に対してP2が十分に大きくならない。即ち、高圧な圧縮空気を得ることができなくなる。従って、本発明の本実施例では、S1>S2とすることで、低圧側と高圧側の軸動力をほぼ等しくした上で、高圧側と低圧側の重心バランスを大きく崩さないようにし、高圧の圧縮空気を得ることができるようにした。
【0049】
例えば、重心バランスを大きく崩さないためには、D1をD2の2倍以下にすることが好ましい。この場合において、S1<S2とした場合、PmがP1の4倍以下となり、十分に高圧な圧縮空気を得ることができない。従って、十分に高圧の圧縮空気を得るためには、S1をS2に対して大きく設計する必要があり、S1>S2とする必要がある。
【0050】
次にロッキングピストン機構における、ピストン4(8)および連接棒4A(8A)の揺動運動について
図4を参照しつつ説明する。
【0051】
図4に示すように、ピストン4(8)および連接棒4A(8A)は、吸込みおよび吐出し工程において連接棒4A(8A)が上死点および下死点へ向かう途中、連接棒4A(8A)はエキセントリック7(13)の偏心によりシリンダ14(17)の中心軸に対して斜めになる。
【0052】
ピストン4(8)のシリンダ14(17)に対する揺動時における最大傾斜角について説明する。ここで、シリンダ14(17)内でピストン4(8)が揺動時において、シリンダ中心軸に対して連接棒4A(8A)の長手方向軸が傾く最大の角度、または、シリンダ中心軸に対して直角な仮想平面と連接棒の上部側に取り付けたピストン上面が傾く最大の角度を傾斜角θとしたとき、傾斜角θは以下の式(10)のように連接棒4A(8A)の長さ(エキセントリック7(13)の中心からピストン本体5(11)の先端(上面)までの長さ)lとモータ3のシャフト2に対するエキセントリック7(13)の偏心量rによって決まる。
【数10】
l:連接棒長さ
r:偏心量(=ストロークS/2)
【0053】
ここで、前述の通り、S1>S2であるため、低圧側の偏心量をr1、高圧側の偏心量をr2としたとき、r1>r2であり、低圧側圧縮部と高圧側圧縮部とを備える圧縮機の重心を安定させるために低圧側の連接棒長さl1と高圧側の連接棒長さl2はほぼ等しいことから、r1/l1>r2/l2の関係が成立する。従って、式(14)より、低圧側の最大傾斜角をθ1、高圧側の最大傾斜角をθ2としたときに、θ1>θ2の関係が成立する。
【0054】
以上より、前述の圧縮機本体の重心バランスについて、低圧側と高圧側とのボア径Dの差および連接棒長さlの差を考慮しつつ、傾斜角θを極力小さくし、かつ低圧側の最大傾斜角θ1が、高圧側の最大傾斜角θ2よりも小さくならないように、前述した式によって低圧側と高圧側のボア径DおよびストロークS(=2×偏心量r)と、連接棒長さlを決定することで、圧縮空気の漏洩による性能低下が発生しないようにし、特に高圧側での性能低下を防止することが可能となる。更には圧縮機本体の重心バランスを均等にすることで、製品の重心バランスの悪化や冷却の偏りも防止した上で高圧の圧縮空気を得ることが可能となる。
【0055】
ここで、低圧側のピストン4の低圧側シリンダ14に対する最大傾斜角θ1よりも高圧側ピストン8の高圧側シリンダ17に対する最大傾斜角θ2が大きくならないように設計することによりさらに得られる効果について説明する。
【0056】
本実施例では、低圧側のピストン4におけるピストン本体5には、シリンダ14との隙間変化に対して柔軟で追従性の高いリップリング6が装着されており、ピストン4の揺動方向に生じる隙間からの圧縮空気の漏洩による性能低下を発生しにくくしている。一方、高圧側のピストン8におけるピストン本体11には、圧力と温度が高いため剛性が必要なピストンリング10が装着されている。ピストンリング10はリップリング6と比較すると隙間変化に対する追従性が劣るため、圧縮空気の漏洩による性能低下が発生しやすいため、高圧側はピストン8がシリンダ17に対して傾く角度を考慮して圧縮空気の漏洩による影響を防ぐ必要があった。
【0057】
吸込みおよび吐出し工程において連接棒4A(8A)が上死点および下死点へ向かう途中、連接棒4A(8A)はエキセントリック7(13)の偏心によりシリンダ14(17)の中心軸に対して斜めになる。この時、リップリング6(ピストンリング10)とシリンダ14(17)との接触面形状は揺動方向(
図4の左右方向)が長軸となる楕円形状(シリンダの中心軸上方から見て)となるため、リップリング6(ピストンリング10)の揺動方向側6A(9A)とシリンダ14(17)との間に隙間ができやすく、特に上死点へ向かう圧縮工程中では圧縮空気がその隙間から漏れることで性能低下を引き起こす可能性があった。
【0058】
ここで、本実施例では、上述の通り、低圧側の最大傾斜角θ1よりも高圧側の最大傾斜角θ2が大きくならないよう設計したため、低圧側のピストン4とシリンダ14との間に生じる最大隙間T1よりも高圧側のピストン8とシリンダ17との間に生じる最大隙間T2が大きくならないようにすることができた。これにより、特に高圧側圧縮部において圧縮空気の漏洩による性能低下の発生を防止できる。
【0059】
なお、本実施例では、リップリングより剛性の高いピストンリング10を高圧側のピストン本体11に装着したため、磨耗による性能低下も発生しにくくした。
【0060】
また、本実施例では低圧側ピストン本体5にリップリング6を設けた場合について説明したが、リップリングに代えて高圧側と同様にピストンリングを設けてもよい。この場合は、低圧側圧縮部では隙間に対する追従性が低下するが、高圧側圧縮部に比べて圧縮室内の圧力が低いのでピストンリングの厚さを薄くして追従性をあげる等の対策により採用が可能となる。低圧側のピストン本体5にピストンリングを設けた場合は、低圧側圧縮部についてもピストン4の摩耗による性能低下を防止することができる。
【0061】
さらに、高圧側のピストン本体11にリップリング9とピストンリング10とを採用した実施の形態について説明したが、摩耗による性能低下が問題とならない場合は、低圧側のピストン本体5と同様にピストンリング10に代えてリップリングのみを高圧側の圧縮室を向いた方向に設けてもよい。また、リップリング9と併用する構成としてもよい。この場合、高圧側のピストン8のさらなる軽量化・コスト低減を実現することができる。
【0062】
さらに、圧縮室の圧力は、(ピストン本体5(11)を上、連接棒4A(8A)を下としたときの)ピストン上面から連接棒中心軸方向に作用するガス加重Fとその横方向成分fが発生し、リップリング6(9)がシリンダ14(17)へ押し付けられることで、リップリング6(9)もしくはシリンダ14(17)表面の磨耗が進むと、性能低下を引き起こす可能性もある。特に高圧側圧縮部ではガス加重Fが大きいため、高圧側圧縮部においてリップリング9、ピストンリング10、シリンダ17の表面の摩耗を少なくし、性能低下を防止する必要がある。
【0063】
ガス加重Fの横方向成分fは、シリンダ14(17)に対してピストン4(8)が傾く角度である傾斜角θが大きくなるほど大きくなる。本実施例では、上述の通り、低圧側の最大傾斜角θ1よりも高圧側の最大傾斜角θ2が大きくならないよう設計したため、特にリップリング9、ピストンリング10、シリンダ17の表面の摩耗が問題となる高圧側圧縮部においてこれらの摩耗を少なくし、性能低下の発生を防止することができる。
【0064】
以上より、本実施例では上述した寸法関係で低圧側のピストン4と高圧側のピストン8を構成することにより、傾斜角θを極力小さくし、かつ低圧側の最大傾斜角θ1よりも高圧側の最大傾斜角θ2が大きくならないように、前述した式(1)乃至(14)により決定される低圧側と高圧側のボア径DおよびストロークS(=2×偏心量r)と、連接棒長さlを決定することで、圧縮空気の漏洩による性能低下が発生しないようにし、特に高圧側での性能低下を防止することが可能となる。
【0065】
これまで説明してきた実施例は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本発明はその技術思想、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。