(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5733348
(24)【登録日】2015年4月24日
(45)【発行日】2015年6月10日
(54)【発明の名称】タイヤサイドウォール用ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20150521BHJP
C08L 33/10 20060101ALI20150521BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20150521BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20150521BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20150521BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L33/10
C08L91/06
B60C1/00 B
C08L7/00
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-146192(P2013-146192)
(22)【出願日】2013年7月12日
(65)【公開番号】特開2015-17203(P2015-17203A)
(43)【公開日】2015年1月29日
【審査請求日】2014年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】加藤 学
【審査官】
井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−012111(JP,A)
【文献】
特開平10−324779(JP,A)
【文献】
特開2012−021149(JP,A)
【文献】
特開2013−129816(JP,A)
【文献】
特開2014−055205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
B60C 1/00− 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、ワックスを1〜2.5質量部、ポリアルキルメタクリレートを0.5〜3質量部配合してなることを特徴とするタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリアルキルメタクリレートの重量平均分子量が、10,000〜200,000であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ポリアルキルメタクリレートのアルキル部分の炭素数が1〜20であることを特徴とする請求項1または2に記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数が40以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項5】
前記天然ゴムの配合量が、前記ジエン系ゴム全体に対し、30〜50質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ポリアルキルメタクリレートのSP値が9.3以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のタイヤサイドウォール用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物をサイドウォールに用いた空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、タイヤサイドウォールに求められる諸特性を悪化させることなく、白色化による外観不良の発生を防止可能なゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム組成物においては、オゾンによるゴムのクラック発生を防止するために通常、炭化水素系ワックスが配合されている。しかし、このようなワックスを配合すると、長期の使用に当たって徐々にゴムの表面に溶出(ブリード)して固化し、その結果、ゴム表面が白色化し、外観が悪化するという問題がある。
【0003】
このため、例えば下記特許文献1には、ジエン系ゴム100重量部に対し15〜100重量部の光触媒を含み、かつワックスを含まないゴム組成物が開示されている。また、特許文献2には、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム及びスチレン−ブタジエン共重合体ゴムからなる群より選ばれたゴム成分およびワックスを芯剤とし、芯剤の表面を融点が120〜180℃の熱可塑性樹脂でコーティングしてなるマイクロカプセルをワックスとして含むゴム組成物が開示されている。
しかし昨今のタイヤ品質向上が厳しく要求されている当業界において、タイヤサイドウォールの外観不良の問題点を更に解決し得る技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−284522号公報
【特許文献2】特開2006−328144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、タイヤサイドウォールに求められる諸特性を悪化させることなく、白色化による外観不良の発生を防止可能なゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の組成のゴム成分にワックスの特定量およびポリアルキルメタクリレートの特定量を配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下のとおりである。
【0007】
1.天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、ワックスを1〜2.5質量部、ポリアルキルメタクリレートを0.5〜3質量部配合してなることを特徴とする
タイヤサイドウォール用ゴム組成物。
2.前記ポリアルキルメタクリレートの重量平均分子量が、10,000〜200,000であることを特徴とする前記1に記載の
タイヤサイドウォール用ゴム組成物。
3.前記ポリアルキルメタクリレートのアルキル部分の炭素数が1〜20であることを特徴とする前記1または2に記載の
タイヤサイドウォール用ゴム組成物。
4.前記ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数が40以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の
タイヤサイドウォール用ゴム組成物。
5.前記天然ゴムの配合量が、前記ジエン系ゴム全体に対し、30〜50質量%であることを特徴とする前記1〜4のいずれかに記載の
タイヤサイドウォール用ゴム組成物。
6.前記ポリアルキルメタクリレートのSP値が9.3以下であることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の
タイヤサイドウォール用ゴム組成物。
7.前記1〜6のいずれかに記載のゴム組成物をサイドウォールに用いた空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の組成のゴム成分にワックスの特定量およびポリアルキルメタクリレートの特定量を配合したのでタイヤサイドウォールに求められる諸特性を悪化させることなく、白色化による外観不良の発生を防止可能なゴム組成物およびそれを用いた空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
(ジエン系ゴム)
本発明で使用されるジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)を必須成分とする。NRの配合量は、本発明の効果が向上するという観点から、ジエン系ゴム全体に対し、30〜50質量%が好ましい。なお、NR以外にも他のジエン系ゴムを用いることができ、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0011】
(ワックス)
本発明で使用されるワックスとしては、特に制限されず、従来からゴムのクラック発生を防止する目的で使用されるワックスをいずれも使用することができ、例えば、パラフィン系ワックス、パラフィン系合成ワックス、ポリエチレン系ワックスなどの炭化水素系ワックスが挙げられる。なお、これらワックスは、通常、炭素数20〜50の炭化水素を含有している。中でも本発明の効果が向上するという観点から、ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数が40以下であることが好ましい。
ここで、「ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数」は、例えばガスクロマトグラフにより得られるクロマトグラムの炭素数分布のピークトップから求めることができる。
例えばガスクロマトグラフィー条件としては:
ガスクロマト装置:GC-8A(島津製作所社製)
カラム:OV-1
キャリアガス:N
2
オーブン温度:250℃
検出器:FID
検出器温度:250℃
が挙げられる。
【0012】
(ポリアルキルメタクリレート)
本発明で使用されるポリアルキルメタクリレートは、公知の化合物であり、商業的に入手が可能である。なお本発明の効果が向上するという観点から、ポリアルキルメタクリレートのアルキル部分の炭素数は1〜20であることが好ましい。このようなポリアルキルメタクリレートは、例えば三洋化成工業(株)から商品名アクルーブとして市販されている。
また、本発明の効果が向上するという観点から、ポリアルキルメタクリレートの重量平均分子量(Mw)は10,000〜200,000であるのが好ましく、10,000〜50,000あるのがさらに好ましい。
なおMwはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算により測定するものとする。
さらに、本発明の効果が向上するという観点から、ポリアルキルメタクリレートのSP値(溶解パラメーター)は9.3以下であるのが好ましく、8.7〜9.0であるのがさらに好ましい。
【0013】
本発明者の検討によれば、ポリアルキルメタクリレートは、サイドウォール表面にブリードしたワックスの結晶化を抑制して表面に密着させることによってサイドウォール表面が白色化しないように作用するものであると推測される。
【0014】
(充填剤)
本発明のゴム組成物は、上記以外に各種充填剤を配合することができる。充填剤としてはとくに制限されず、用途により適宜選択すればよいが、例えばカーボンブラック、シリカ、無機充填剤等が挙げられる。無機充填剤としては、例えばクレー、タルク、炭酸カルシウム等を挙げることができる。
【0015】
(ゴム組成物の配合割合)
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対し、ワックスを1〜2.5質量部、前記ポリアルキルメタクリレートを0.5〜3質量部配合してなることを特徴とする。
前記ワックスの配合量が1質量部未満であると、オゾンによるゴムのクラック発生を防止できない。逆に2.5質量部を超えると著しく外観が悪化する。さらに好ましいワックスの配合量は、1.0〜2.0質量部である。
前記ポリアルキルメタクリレートの配合量が0.5質量部未満であると配合量が少な過ぎて本発明の効果を奏することができない。逆に3質量部を超えると外観不良が発生する。さらに好ましいポリアルキルメタクリレートの配合量は、1.0〜3.0質量部である。
【0016】
本発明に係るゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、充填剤、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
また、本発明のゴム組成物は、前述のように、従来の空気入りタイヤの製造方法に従って空気入りタイヤのサイドウォールに導入することが好ましい。
【実施例】
【0017】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0018】
実施例1〜10および比較例1〜3
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練した後、約150℃でミキサー外に放出させて室温冷却した。続いて、該組成物に加硫促進剤および硫黄を加えてオープンロールにて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で170℃、10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を得、以下に示す試験法で加硫ゴム試験片の物性を測定した。
【0019】
外観:40℃のオーブン中で2週間静置する事により、目視にて下記の基準で評価した。
点数1:全体的に白色に変色
点数2:面積で全体の3割程度が白色に変色
点数3:全体的にくすんでいる
点数4:面積で3割程度がくすんでいる。
点数5:不変
これをn=3で実施し平均点を評価点とした。
【0020】
引張試験:JIS K 6251(JIS 3号ダンベル)に準拠して、室温にて引張試験を実施し、引張強度(TB)および切断時伸び(EB)を測定した。比較例1を100として指数で示した。指数が大きいほど強度が高いことを示す。
【0021】
耐オゾン性: 40%伸張、50pphm、40℃、48時間で、JIS K6259に準じた試験条件にて耐オゾン性を試験し、目視にて下記の基準で評価した。
点数1:3mm以上の亀裂または切断
点数2:亀裂が深くて大きいもの(1〜3mm未満)
点数3:亀裂が深くて比較的大きいもの(1mm未満)
点数4:肉眼では見えないが10倍の拡大鏡では確認できるもの
点数5:肉眼および10倍の拡大鏡で亀裂確認なし
これをn=3で実施し平均点を評価点とした。
【0022】
結果を表1に併せて示す。
【0023】
【表1】
【0024】
*1:NR(TSR20)
*2:BR(日本ゼオン(株)製Nipol BR1220)
*3:カーボンブラック(新日化カーボン(株)製ニテロン#10S)
*4:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*5:ステアリン酸(日油(株)製ビーズステアリン酸YR)
*6:老化防止剤−1(FLEXSYS製SANTOFLEX 6PPD)
*7:老化防止剤−2(住友化学工業(株)製アンチゲンRD−G)
*8:ワックス−1(大内新興化学工業(株)製サンノック。ガスクロマトグラフィーで求めた最も多く含まれる炭化水素の炭素数=32)
*9:ワックス−2(日本精鑞(株)製Hi-mac-1080。ガスクロマトグラフィーで求めた最も多く含まれる炭化水素の炭素数=45)
*10:オイル(出光興産(株)製ダイアナプロセスオイルAH−20)
*11:加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製ノクセラーCZ−G)
*12:硫黄(鶴見化学工業(株)製金華印油入微粉硫黄)
*13:ポリアルキルメタクリレート−1(三洋化成工業(株)アクルーブ132、重量平均分子量=50,000、SP値=9.0)
*14:ポリアルキルメタクリレート−2(三洋化成工業(株)アクルーブA1060、重量平均分子量=50,000、SP値=9.4)
*15:ポリアルキルメタクリレート−3(三洋化成工業(株)アクルーブC728、重量平均分子量=50,000、SP値=9.5)
*16:ポリアルキルメタクリレート−4(三洋化成工業(株)アクルーブV4130、重量平均分子量=200,000、SP値=9.3)
【0025】
上記の表1から明らかなように、実施例で調製されたゴム組成物は、特定の組成のゴム成分にワックスの特定量およびポリアルキルメタクリレートの特定量を配合したので、比較例1に比べて、白色化による外観不良の発生を防止し、耐オゾン性も良好であることが分かった。また、タイヤサイドウォールに求められる諸特性に悪影響を及ぼさないことも明らかとなった。なお、実施例5〜6は、ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数が40を超えているので、耐オゾン性が若干悪化している。実施例7〜10はポリアルキルメタクリレートのSP値が9.3を超えているのでTBおよび耐オゾン性が若干悪化している。
これに対し、比較例2は、ポリアルキルメタクリレートの配合量が本発明で規定する上限を超えているので、外観が悪化した。
比較例3はポリアルキルメタクリレートを配合していないので、外観および耐オゾン性が悪化した。