特許第5771975号(P5771975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5771975-ギア支持構造 図000002
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  • 特許5771975-ギア支持構造 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5771975
(24)【登録日】2015年7月10日
(45)【発行日】2015年9月2日
(54)【発明の名称】ギア支持構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/17 20060101AFI20150813BHJP
   F16F 15/10 20060101ALI20150813BHJP
【FI】
   F16H55/17 A
   F16F15/10 A
   F16F15/10 C
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2010-280879(P2010-280879)
(22)【出願日】2010年12月16日
(65)【公開番号】特開2012-127455(P2012-127455A)
(43)【公開日】2012年7月5日
【審査請求日】2013年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】小澤 恒
【審査官】 高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−036825(JP,A)
【文献】 特開2006−160168(JP,A)
【文献】 特開2004−052708(JP,A)
【文献】 特開平05−141207(JP,A)
【文献】 特開2007−137251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/10
F16H 55/14
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部にシャフト挿入穴が設けられ、背面に周方向に沿って凹部が形成されたカムシャフト駆動ギアと、
カムシャフト駆動ギアの該シャフト挿入穴に挿入され、先端部にボルト穴が設けられたエンジンのカムシャフトと、
カムシャフトのボルト穴に螺合され、前記カムシャフト駆動ギアを前記カムシャフトの軸と平行な方向に固定するギア固定ボルトと、
前記カムシャフト駆動ギア側から前記カムシャフト側への振動伝達を低減するために、前記凹部に収容されて、前記カムシャフト駆動ギアの背面と前記カムシャフト駆動ギアの背面に対向する前記カムシャフトのフランジ面との間に挟み込まれ、振動減衰率が前記カムシャフト駆動ギア及び前記カムシャフトの材料よりも高いMn−Cu−Ni−Fe系制振合金からなる制振ワッシャーと、
を備えたギア支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心部にシャフト挿入穴が設けられたギアと、該ギアのシャフト挿入穴に挿入され、先端部にボルト穴が設けられたギアシャフトと、該ギアシャフトのボルト穴に螺合され、前記ギアを前記ギアシャフトに固定するギア固定ボルトとを有するギア支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)から放射される騒音(以下、エンジン騒音)は、様々な原因で発生する現象である。動弁系や補機の駆動にギア(以下、タイミングギア)を採用したエンジンでは、ギアの運動がエンジン騒音を発生させる原因の一つとなり、このギアの運動によって発生する成分をギア音と称する。ギアの運動がエンジン騒音の元となるエンジン振動を励起する加振入力を発生させるメカニズムは主に以下の(1)、(2)の二種類がある。
【0003】
(1)噛み合いによるギア対の歯と歯との衝撃によって、加振入力を発生させる。
【0004】
(2)噛み合うギア対に角速度差(以下、相対角速度)が生じた場合に、一方のギアの歯が他方のギアの歯との隙間(バックラッシュ)を移動することによるギア対の歯と歯との衝突(ラトル)によって、加振入力を発生させる。
【0005】
以上の(1)、(2)のどちらの場合も、励起された振動によりギアそのもの、或いはギアシャフトを介して振動が伝達されたエンジン部品からエンジン騒音が放射される。
【0006】
商業車用や産業用のディーゼルエンジンでは、耐久信頼性の観点からタイミングギアが多く採用されている。また、ディーゼルエンジンは優れた出力トルク特性を持つ反面、出力トルクのサイクル内における時間変動(以下、トルク変動)が大きいことや、動弁系や補機の駆動トルクが大きいことにより、タイミングギアに比較的大きな相対角速度が生じる。この相対角速度に起因してラトルによるギア音(ギアラトル音)が発生し、このギアラトル音は、トルク変動が大きい高負荷運転時や、アイドリング時ではエンジン騒音の主要な成分として騒音改善の対象になる。
【0007】
ギアラトル音を低減する場合、上述の加振入力の発生メカニズムに基づく対策として、相対角速度が生じた際のギアの歯の衝突エネルギーの緩和を目的としたバックラッシュの縮小や、ギア対の相対運動そのものを抑制することを目的としたシザーズギア(例えば、特許文献1参照)の装着がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3273720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ギアラトル音の低減を目的とする場合、バックラッシュは極力縮小することが望ましいが、バックラッシュの縮小によって、ギアの歯面への潤滑油の供給状態が悪くなり、摩擦損失(以下、エンジンフリクション)が悪化する虞がある。
【0010】
また、シザーズギアはメインギアとサブギアとで構成されており、サブギアに作用させたバネの弾性力を利用して、噛み合う相手のギアの歯をメインギアの歯とサブギアの歯とで挟み込むことでギア対の相対運動を抑制している。そのため、上述のバックラッシュの縮小による場合と同様に、ギアの歯面への潤滑油の供給状態の悪化やギアの歯の接触面積の増加、さらにはバネの弾性力によってギアの歯が押し付けられることによってギアの歯面の荷重が増加し、エンジンフリクションが増加する虞がある。
【0011】
従って、上述のようなエンジン振動を励起する現象を抑制する改善策(以下、加振源対策)によるギアラトル音の低減は、エンジンフリクションを増加させる一因になっている。
【0012】
そこで、本発明の目的は、ギア側からギアシャフト側への振動伝達を低減させることにより、ギアシャフト軸受を経由してエンジン本体からの騒音放射を低減することができるギア支持構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するために、本発明は、中心部にシャフト挿入穴が設けられ、背面に周方向に沿って凹部が形成されたカムシャフト駆動ギアと、該カムシャフト駆動ギアのシャフト挿入穴に挿入され、先端部にボルト穴が設けられたエンジンのカムシャフトと、該カムシャフトのボルト穴に螺合され、前記カムシャフト駆動ギアを前記カムシャフトの軸と平行な方向に固定するギア固定ボルトと、前カムシャフト駆動ギア側から前記カムシャフト側への振動伝達を低減するために、前記凹部に収容されて、前記カムシャフト駆動ギアの背面と前記カムシャフト駆動ギアの背面に対向する前記カムシャフトのフランジ面との間に挟み込まれ、振動減衰率が前記カムシャフト駆動ギア及び前記カムシャフトの材料よりも高いMn−Cu−Ni−Fe系制振合金からなる制振ワッシャーと、を備えたことを特徴とするギア支持構造である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ギア側からギアシャフト側への振動伝達を低減させることにより、ギアシャフト軸受を経由してエンジン本体からの騒音放射を低減することができるギア支持構造を提供することができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るギア支持構造の概略図である。
図2】振動伝達特性の測定方法の概要を示す説明図である。
図3】本発明による振動伝達特性の改善結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
本実施形態は、本発明をディーゼルエンジンのカムシャフト駆動ギアに適用したものである。
【0019】
本実施形態に係るギア支持構造10を図1に示す。図1に示すように、カムシャフト駆動ギア(ギア)11の中心部12にはカムシャフト(ギアシャフト)13をカムシャフト駆動ギア11の背面14側から挿入(嵌合)するためのシャフト挿入穴15が設けられており、カムシャフト駆動ギア11のシャフト挿入穴15に挿入されたカムシャフト13の先端部16にはカムシャフト駆動ギア11を固定するためのボルト穴17が設けられている。カムシャフト駆動ギア11は、キー18によってカムシャフト13に回転不可に係合された状態で、ワッシャー19を介してギア固定ボルト20によって軸方向からカムシャフト13に固定される。カムシャフト13は、エンジン本体側に設けられたカムシャフト軸受(図2参照)に回転可能に支持される。ギア固定ボルト20は、カムシャフト駆動ギア11の前面21側からカムシャフト13の先端部16のボルト穴17に螺合される。カムシャフト駆動ギア11、カムシャフト13、キー18、ワッシャー19及びギア固定ボルト20は、例えば、鉄系材料からなる。
【0020】
本実施形態に係るギア支持構造10では、カムシャフト駆動ギア11の背面14とカムシャフト駆動ギア11の背面14に対向するカムシャフト13のフランジ面22との間に、カムシャフト駆動ギア11の背面14とカムシャフト13のフランジ面22とにそれぞれ当接するようにMn−Cu−Ni−Fe系等の振動減衰率が比較的高い金属材料(以下、制振合金:例えば、特開2003−253369号公報参照)からなる環状(本実施形態では、円環状)の金属板で構成されるワッシャー(制振ワッシャー)23を挟み込み、この結合面(制振ワッシャー23)で振動を減衰させることで、カムシャフト駆動ギア11側からカムシャフト13側への振動伝達を低減する。即ち、本実施形態に係るギア支持構造10では、制振ワッシャー23は、カムシャフト駆動ギア11、カムシャフト13、キー18、ワッシャー19及びギア固定ボルト20の材料よりも振動減衰率が高い金属材料からなる。
【0021】
また、本実施形態に係るギア支持構造10では、カムシャフト駆動ギア11の背面14に周方向に沿って凹部が形成されており、その凹部に制振ワッシャー23が収容される。
【0022】
要するに、本実施形態に係るギア支持構造10では、エンジン振動を励起する現象を抑制する加振源対策ではなく、噛み合いやラトルによって励起されるカムシャフト駆動ギア11の振動について、カムシャフト13及びカムシャフト軸受を介してエンジン本体側へ伝達する振動を低減させ、エンジン本体側からの騒音放射を低減することを目的とした伝達系における改善策(伝達系対策)を採っている。
【0023】
カムシャフト駆動ギア11とカムシャフト軸受(エンジン本体側)との間の振動伝達特性を測定し、本発明による振動伝達特性の改善結果を確認した。
【0024】
振動伝達特性の測定方法の概要を図2に示す。なお、当該測定方法ではカムシャフト13をシリンダヘッドのカムシャフト軸受に取り付けた状態で測定を行ったが、図2ではシリンダヘッドのカムシャフト軸受のみを図示し、その他のシリンダヘッドの部分を図示省略している。
【0025】
図2に示すように、力センサー付きのインパクトハンマーによってカムシャフト駆動ギア11を打撃し、力センサーによってカムシャフト駆動ギア11に与えた加振力:F[N]を測定する。同時に、カムシャフト軸受に取り付けた振動センサーによって振動速度:v[m/s]を測定する。このときの各センサー(力センサー、振動センサー)の出力を電圧信号として高速フーリエ変換機(FFTアナライザー)に入力し、周波数応答関数:v/F[(m/s)/N]を測定した。
【0026】
本発明を適用した状態(対策後;制振ワッシャー23有)の周波数応答関数と本発明を適用していない状態(対策前;制振ワッシャー23無)の周波数応答関数との比較を図3に示す。この周波数応答関数は単位入力あたりの振動速度を表し、振動伝達し難いほど、そのレベルが低くなる。図3に示すように、本発明を適用することで、2kHz(2000Hz)以上の周波数領域で周波数応答関数のレベルが低下し、カムシャフト駆動ギア11からカムシャフト13を介したカムシャフト軸受(エンジン本体側)への振動伝達の低減効果が確認できる。
【0027】
以上要するに本実施形態に係るギア支持構造10によれば、振動伝達特性の改善により、カムシャフト駆動ギア11からカムシャフト13及びカムシャフト軸受を介してエンジン本体側へ伝達される振動を抑制でき、エンジン騒音を改善することができる。
【0028】
また、本実施形態に係るギア支持構造10では、噛み合うギア対の歯面の接触状態は変化しないため、シザーズギア装着等による加振源対策で見られるエンジンフリクションの悪化を防止することができる。
【0029】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0030】
例えば、本発明は、ディーゼルエンジン以外でも噛み合いやラトルによってギアに加振入力が作用し、ギアシャフトを介して振動が伝達して騒音が発生する装置や機器等に適用することができる。例えば、本発明は、ガソリンエンジンや変速機等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
10 ギア支持構造
11 カムシャフト駆動ギア(ギア)
12 ギアの中心部
13 カムシャフト(ギアシャフト)
14 ギアの背面
15 シャフト挿入穴
16 ギアシャフトの先端部
17 ボルト穴
20 ギア固定ボルト
22 ギアシャフトのフランジ面
23 ワッシャー(制振ワッシャー)
図1
図2
図3