(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の光学材料用組成物に用いるエピスルフィド化合物は、エピスルフィド基を有する総ての化合物を包含するが、具体例として鎖状脂肪族骨格、脂肪族環状骨格、芳香族骨格を有する化合物に分けて列挙する。
【0015】
上記鎖状脂肪族骨格を有するエピスルフィド化合物としては、下記一般式(1):
【化1】
(式中、mは0〜4の整数、nは0〜2の整数を表す)で表される化合物が挙げられる。
【0016】
また、上記脂肪族環状骨格を有するエピスルフィド化合物としては、下記一般式(2):
【化2】
(式中、p、qはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す)で表される化合物、及び、下記一般式(3):
【化3】
(式中、p、qはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す)で表される化合物が挙げられる。
【0017】
また、上記芳香族環状骨格を有するエピスルフィド化合物としては、下記一般式(4):
【化4】
(式中、p、qはそれぞれ独立して0〜4の整数を表す)で表される化合物が挙げられる。
【0018】
上記の中でも好ましいエピスルフィド化合物は、鎖状脂肪族骨格を有する上記一般式(1)で表される化合物であり、具体的には、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、ビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィドである。また、特に好ましいエピスルフィド化合物は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(式(1)でn=0)、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(式(1)でm=0、n=1)であり、最も好ましいエピスルフィド化合物は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(式(1)でn=0)である。
【0019】
なお、上記エピスルフィド化合物の含有量は、光学材料用組成物全量に対して、通常は40〜95質量%であり、好ましくは50〜90質量%であり、より好ましくは60〜85質量%である。
【0020】
上記エピスルフィド化合物を含む組成物を重合硬化させる際に、安定剤として、ジブチルスズジクロライドを添加することで重合触媒添加後の粘度上昇を抑制して、作業性を容易にすることが出来る。
【0021】
一般に、ジブチルスズジクロライドは、グリニャール試薬と四塩化スズの反応より得られる。しかしながら、グリニャール試薬と四塩化スズの反応は逐次反応であるため、ジブチルスズジクロライドのみを得ることが出来ず、モノブチルスズトリクロライドが混入する。
nRMgX + SnCl
4 → R
nSnCl
4-n + nMgClX
【0022】
従って、混入したモノブチルスズトリクロライドを除き、ジブチルスズジクロライドを得る精製工程が必要となる。手法としては、蒸留、再結晶、再沈殿、カラム分離操作、吸着剤処理、イオン交換樹脂処理等の精製法が挙げられるが、蒸留が好ましい。該蒸留は、常圧、減圧でも構わないが、好ましくは減圧下であり、より好ましくは0.01〜100Torr、更に好ましくは0.1〜50Torrである。また、蒸留温度は、生成物が分解せずに留出すれば問題ないが、好ましくは50℃〜190℃、より好ましくは100℃〜180℃である。
【0023】
本発明の光学材料用組成物に用いる安定剤は、ジブチルスズジクロライド(Bu
2SnCl
2)とモノブチルスズトリクロライド(BuSnCl
3)との質量比(Bu
2SnCl
2/BuSnCl
3)が97.0/3.0〜100.0/0.0のときに本発明効果が得られるが、好ましくは99.0/1.0〜100.0/0.0、より好ましくは99.5/0.5〜100.0/0.0である。また、本発明の光学材料用組成物に用いる安定剤は、好ましくはジブチルスズジクロライドの含有量が97.0質量%以上で且つモノブチルスズトリクロライドの含有量が3.0質量%以下であり、より好ましくはジブチルスズジクロライドの含有量が99.0質量%以上で且つモノブチルスズトリクロライドの含有量が1.0質量%以下であり、最も好ましくはジブチルスズジクロライドの含有量が99.5質量%以上で且つモノブチルスズトリクロライドの含有量が0.5質量%以下である。また、安定剤中のジブチルスズジクロライドの含有量の上限及びモノブチルスズトリクロライドの含有量の下限は特に制限されず、ジブチルスズジクロライドのみからなる安定剤も使用できるが、通常は、ジブチルスズジクロライドの含有量は99.99質量%以下、モノブチルスズトリクロライドの含有量は0.01質量%以上である。
【0024】
なお、上記安定剤の添加量は、光学材料用組成物全量に対して、通常は0.0001〜5.0質量%であり、好ましくは0.0005〜3.0質量%であり、より好ましくは0.001〜2.0質量%である。
【0025】
本発明の光学材料用組成物に用いるエピスルフィド化合物の重合触媒としては、アミン、オニウム塩やホスフィン化合物が挙げられる。具体例としては、アミン、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、第3級スルホニウム塩、第2級ヨードニウム塩、ホスフィン化合物が挙げられる。これらの中でも、組成物との相溶性の良好な第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩及びホスフィン化合物がより好ましく、第4級アンモニウム塩及び第4級ホスホニウム塩が更に好ましい。より好ましい化合物の具体例としては、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラフェニルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物が挙げられる。これらの中で、更に好ましい化合物は、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドである。これら重合触媒は、単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【0026】
上記重合触媒の添加量は、組成物の成分、混合比および重合硬化方法によって変化するため一概には決められないが、光学材料用組成物全量に対して、通常は0.001質量%以上5質量%以下、好ましくは0.01質量%以上1質量%以下、最も好ましくは0.01質量%以上0.5質量%以下である。重合触媒の添加量が5質量%より多いと、硬化物の屈折率、耐熱性が低下し、着色する場合がある。また、重合触媒の添加量が0.001質量%より少ないと、組成物が十分に硬化せず、耐熱性が不十分となる場合がある。
【0027】
本発明の光学材料用組成物に用いるポリチオール化合物は、チオール基を複数有する総ての化合物を包含するが、具体的には、メタンジチオール、1,2−ジメルカプトエタン、2,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、1,2,3−トリメルカプトプロパン、1,4−ジメルカプトブタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,5−ジメルカプト−3−オキサペンタン、1,8−ジメルカプト−3,6−ジオキサオクタン、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,4−ジメルカプトプロパン、2−(2−メルカプトエチルチオ)−1,3−ジメルカプトプロパン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、1,1,1−トリス(メルカプトメチル)プロパン、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ブタンジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ブタンジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、1,1−ジメルカプトシクロヘキサン、1,2−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ジメルカプトシクロヘキサン、1,4−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトエチル)−1,4−ジチアン、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン等を挙げることができる。以上具体例を示したが、本発明の光学材料用組成物に用いるポリチオール化合物はこれらに限定されるわけではなく、また、これらポリチオール化合物は、単独でも2種以上を混合して使用しても構わない。
【0028】
以上の中で好ましいポリチオール化合物の具体例としては、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、1,1,3,3−テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンが挙げられる。また、更に好ましいポリチオール化合物の具体例は、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンであり、最も好ましいポリチオール化合物は、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼンである。
【0029】
上記ポリチオール化合物の添加量は、光学材料用組成物全量に対して、通常は0.1〜40質量%であり、好ましくは0.5〜30質量%であり、より好ましくは1〜20質量%である。
【0030】
本発明の光学材料用組成物は、更にポリイソシアネート化合物を含有することが好ましく、該ポリイソシアネート化合物は、イソシアネート基を複数有する総ての化合物を包含するが、具体的には、ジエチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、2,6−ビス(イソシアナートメチル)デカヒドロナフタレン、リジントリイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、o−トリジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、3−(2’−イソシアネートシクロヘキシル)プロピルイソシアネート、トリス(フェニルイソシアネート)チオホスフェート、イソプロピリデンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、2、2’−ビス(4−イソシアナートフェニル)プロパン、トリフェニルメタントリイソシアネート、ビス(ジイソシアナートトリル)フェニルメタン、4,4’,4’’−トリイソシアネート−2,5−ジメトキシフェニルアミン、3,3’−ジメトキシベンジジン−4,4’−ジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジイソシアナートビフェニル、4,4’−ジイソシアナート−3,3’−ジメチルビフェニル、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,1’−メチレンビス(4−イソシアナートベンゼン)、1,1’−メチレンビス(3−メチル−4−イソシアナートベンゼン)、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼン、1,3−ビス(2−イソシアナート−2−プロピル)ベンゼン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)ナフタレン、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ビス(イソシアナートメチル)テトラヒドロジシクロペンタジエン、ビス(イソシアナートメチル)ジシクロペンタジエン、ビス(イソシアナートメチル)テトラヒドロチオフェン、ビス(イソシアナートメチル)ノルボルネン、ビス(イソシアナートメチル)アダマンタン、ダイマー酸ジイソシアネート、1,3,5−トリ(1−イソシアナートヘキシル)イソシアヌル酸、チオジエチルジイソシアネート、チオジプロピルジイソシアネート、チオジヘキシルジイソシアネート、ビス〔(4−イソシアナートメチル)フェニル〕スルフィド、2,5−ジイソシアネート−1,4−ジチアン、2,5−ジイソシアナートメチル−1,4−ジチアン、2,5−ジイソシアナートメチルチオフェン、ジチオジエチルジイソシアネート、ジチオジプロピルジイソシアネート等のポリイソシアネート類、さらには上記のイソシアネート類のイソシアネート基の全部または一部をイソチオシアネート基に変えた化合物等を挙げることができる。また、以上のうちポリイソシアネート類については、ビュレット型反応による二量体、環化三量体およびアルコールまたはチオールの付加物等のイソシアネート類を挙げることができる。以上具体例を示したが、本発明の光学材料用組成物に用いることができるポリイソシアネート化合物はこれらに限定されるわけではなく、また、これらポリイソシアネート化合物は、単独でも2種以上を混合して使用しても構わない。
【0031】
以上の中で好ましいポリイソシアネート化合物は、1,3−ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン、m−キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナートメチル)ノルボルネン、2,5−ジイソシアナートメチル−1,4−ジチアン、1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼンであり、最も好ましいポリイソシアネート化合物は、m−キシリレンジイソシアネートである。
【0032】
上記ポリイソシアネート化合物の添加量は、光学材料用組成物全量に対して、通常は0.1〜30質量%であり、好ましくは0.5〜20質量%であり、より好ましくは1〜15質量%である。
【0033】
本発明の光学材料用組成物は、更に硫黄を含有することが好ましい。本発明の光学材料用組成物が硫黄を含む場合、該硫黄の添加量は、光学材料用組成物全量に対して、通常は0.01〜40質量%であり、好ましくは0.1〜30質量%であり、より好ましくは0.5〜25質量%である。
【0034】
また、本発明の光学材料用組成物を重合硬化して光学材料を得るに際して、該組成物に公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤等の添加剤を加えて、得られる材料の実用性をより向上せしめることはもちろん可能である。
【0035】
上記酸化防止剤の好ましい例としては、フェノール誘導体が挙げられる。中でも好ましい酸化防止剤は、多価フェノール類、ハロゲン置換フェノール類であり、より好ましい酸化防止剤は、カテコール、ピロガロール、アルキル置換カテコール類であり、最も好ましい酸化防止剤は、カテコール、ピロガロールである。
【0036】
上記紫外線防止剤の好ましい例としては、ベンゾトリアゾール系化合物が挙げられる。中でも好ましい紫外線防止剤は、ベンゾトリアゾール系化合物であり、特に好ましい紫外線防止剤の具体例は、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ペンチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−tert−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールである。
【0037】
上記ブルーイング剤の好ましい例としては、アントラキノン系化合物が挙げられる。
【0038】
また、本発明の光学材料用組成物は、重合中に型から剥がれやすい場合は、公知の外部及び/又は内部密着性改善剤を使用又は添加して、得られる硬化物と型の密着性を制御向上せしめることも可能である。ここで、密着性改善剤としては、公知のシランカップリング剤やチタネート化合物類などが挙げられ、これら密着性改善剤は、単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。本発明の光学材料用組成物が密着性改善剤を含む場合、該密着性改善剤の添加量は、光学材料用組成物全量に対して、通常は0.0001〜5質量%である。
【0039】
逆に、本発明の光学材料用組成物は、重合後に型から剥がれにくい場合は、公知の外部及び/又は内部離型剤を使用又は添加して、得られる硬化物の型からの離型性を向上せしめることも可能である。ここで、離型剤としては、フッ素系ノニオン界面活性剤、シリコン系ノニオン界面活性剤、燐酸エステル、酸性燐酸エステル、オキシアルキレン型酸性燐酸エステル、酸性燐酸エステルのアルカリ金属塩、オキシアルキレン型酸性燐酸エステルのアルカリ金属塩、高級脂肪酸の金属塩、高級脂肪酸エステル、パラフィン、ワックス、高級脂肪族アミド、高級脂肪族アルコール、ポリシロキサン類、脂肪族アミンエチレンオキシド付加物などが挙げられ、これら離型剤は単独でも、2種類以上を混合して用いてもかまわない。本発明の光学材料用組成物が離型剤を含む場合、該離型剤の添加量は、光学材料用組成物全量に対して、通常は0.0001〜5質量%である。
【0040】
本発明の光学材料用組成物を重合硬化して光学材料を製造する方法は、さらに詳しく述べるならば以下の通りである。前述した各組成成分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合触媒、ラジカル重合開始剤、密着性改善剤、離型剤などの添加剤を、全て同一容器内で同時に撹拌下に混合しても、各原料を段階的に添加混合しても、数成分を別々に混合後さらに同一容器内で再混合しても良い。各原料および副原料はいかなる順序で混合してもかまわない。混合にあたり、設定温度、これに要する時間等は基本的には各成分が十分に混合される条件であれば良い。
【0041】
なお、硫黄を用いる場合は、予めエピスルフィド化合物と硫黄を予備的に反応させておくことが好ましい。この予備的な反応条件は、好ましくは−10℃〜120℃で0.1〜240時間、より好ましくは0〜100℃で0.1〜120時間、特に好ましくは20〜80℃で0.1〜60時間である。予備的な反応を進行させるために触媒を用いることは効果的であり、好ましい触媒の例としては、2−メルカプト−1−メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、3,5−ジメチルピラゾール、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフィンアミド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、1,2,3−トリフェニルグアニジン、1,3−ジフェニルグアジニン、1,1,3,3−テトラメチレングアジニン、アミノグアニジン尿素、トリメチルチオ尿素、テトラエチルチオ尿素、ジメチルエチルチオ尿素、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ピペコリルジチオカルバミン酸ピペコリウム等が挙げられる。更には、この予備的な反応により硫黄を10%以上(反応前を100%とする)消費させておくことが好ましく、20%以上消費させておくことがより好ましい。予備的な反応は、大気、窒素等の不活性ガス下、常圧もしくは加減圧による密閉下等、任意の雰囲気下で行ってよい。なお、予備的な反応の進行度を検知するために液体クロマトグラフィーや屈折率計を用いることも可能である。
【0042】
本発明では、光学材料用組成物に対し、予め脱気処理を行うことが好ましい。脱気処理は、組成成分の一部もしくは全部と反応可能な化合物、重合触媒、添加剤の混合前、混合時あるいは混合後に、減圧下に行う。脱気処理は、好ましくは、混合時あるいは混合後に、減圧下に行う。処理条件は、0.001〜50torrの減圧下、1分間〜24時間、0℃〜100℃で行う。減圧度は、好ましくは0.005〜25torrであり、より好ましくは0.01〜10torrであり、これらの範囲で減圧度を可変しても構わない。脱気時間は、好ましくは5分間〜18時間であり、より好ましくは10分間〜12時間である。脱気の際の温度は、好ましくは5℃〜80℃であり、より好ましくは10℃〜60℃であり、これらの範囲で温度を可変しても構わない。脱気処理の際は、撹拌、気体の吹き込み、超音波などによる振動などによって、樹脂用組成物の界面を更新することは、脱気効果を高める上で好ましい操作である。脱気処理により、除去される成分は、主に硫化水素等の溶存ガスや低分子量のチオール等の低沸点物等であるが、本発明の効果を発現するのであれば、特に種類は限定されない。
【0043】
更には、これらの光学材料用組成物及び/又は混合前の各原料を0.05〜10μm程度の孔径を有するフィルターで不純物等を濾過し精製することは本発明の光学材料の品質を更に高める上からも好ましい。
【0044】
このようにして得られた光学材料用組成物を、ガラスや金属製の型に注入し、加熱や紫外線などの活性エネルギー線の照射によって重合硬化反応を進めた後、型から外すことで、目的とする光学材料を製造することができる。好ましくは、加熱によって光学材料用組成物を重合硬化する。この場合、硬化時間は、通常は0.1〜200時間、好ましくは1〜100時間であり、硬化温度は、通常は−10℃〜160℃、好ましくは−10℃〜140℃である。重合は、所定の重合温度で所定時間のホールド、0.1℃〜100℃/時間の昇温、0.1℃〜100℃/時間の降温及びこれらの組み合わせで行うことができる。また、重合終了後、硬化物を50〜150℃の温度で10分〜5時間程度アニール処理を行う事は、本発明の光学材料の歪を除くために好ましい処理である。さらに必要に応じて染色、ハードコート、耐衝撃性コート、反射防止、防曇性付与等表面処理を行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、評価及び重合硬化は、以下の方法で行った。
【0046】
(脈理の評価方法)
レンズ径が75mm、度数が+10Dのレンズを10枚作製し、シュリーレン法により目視で観察した。総て脈理が観測されないものを◎、9枚脈理が観測されないものを○、7又は8枚脈理が観測されないものを△、脈理が観測されないものが6枚以下のものを×とした。△以上が合格である。
【0047】
(重合方法A)
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド77質量部、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン14質量部、1,3−ビス(1−イソシアナート−1−メチルエチル)ベンゼン9質量部からなる組成物に、重合触媒としてテトラブチルホスホニウムブロマイド0.2質量部、ジブチルスズジクロライドとモノブチルスズトリクロライドからなる安定剤0.1質量部を添加し、室温で均一に混合したのち脱気処理を行いモールドへ注入し、20℃から100℃まで20時間かけて加熱し重合硬化させた。その後脱型し、光学材料を得た。
【0048】
(重合方法B)
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド78質量部、硫黄14質量部にメルカプトメチルイミダゾール0.5質量部を加え、60℃で予備的に反応させた。その後20℃に冷却したのちビス(2−メルカプトエチル)スルフィド7質量部、ジブチルスズジクロライドとモノブチルスズトリクロライドからなる安定剤0.2質量部、重合触媒としてトリエチルベンジルアンモニウムクロライド0.03質量部の混合液を加え、均一に混合したのち脱気処理を行いモールドへ注入し、20℃から100℃まで20時間かけて加熱し重合硬化させた。その後脱型し、光学材料を得た。
【0049】
(重合方法C)
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド80質量部、硫黄1質量部、ペンタエリスリトールテトラメルカプトプロピオネート12質量部、m−キシリレンジイソシアネート7質量部に、重合触媒としてテトラブチルホスホニウムブロマイド0.1質量部、ジブチルスズジクロライドとモノブチルスズトリクロライドからなる安定剤0.05質量部を添加し、室温で均一に混合したのち脱気処理を行いモールドへ注入し、20℃から100℃まで20時間かけて加熱し重合硬化させた。その後脱型し、光学材料を得た。
【0050】
(安定剤の調製)
ジブチルスズジクロライドの含有量が94.0質量%で且つモノブチルスズトリクロライドの含有量が6.0質量%の安定剤を0.1〜50Torr、50〜200℃で、0.5時間〜48時間蒸留して、モノブチルスズトリクロライド含有量が0.4質量%、0.9質量%、2.8質量%の安定剤を調製した(含有量は、ガスクロマトグラフィーで測定した)。
【0051】
(実施例1)
ジブチルスズジクロライドの含有量が99.6質量%で且つモノブチルスズトリクロライドの含有量が0.4質量%の安定剤を用い、重合方法Aの手法で硬化させた。脈理の結果は良好であり◎であった。結果を表1にまとめた。
【0052】
(実施例2、3)
ジブチルスズジクロライドの含有量が99.6質量%で且つモノブチルスズトリクロライド量の含有が0.4質量%の安定剤を用いて、表1に示す重合方法で硬化させた。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例4〜6)
ジブチルスズジクロライドの含有量が99.1質量%で且つモノブチルスズトリクロライドの含有量が0.9質量%の安定剤を用いて、表1に示す重合方法で硬化させた。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例7〜9)
ジブチルスズジクロライドの含有量が97.2質量%で且つモノブチルスズトリクロライドの含有量が2.8質量%の安定剤を用いて、表1に示す重合方法で硬化させた。結果を表1に示す。
【0055】
(比較例1〜3)
ジブチルスズジクロライドの含有量が94.0質量%で且つモノブチルスズトリクロライドの含有量が6.0質量%の安定剤を用いて、表1に示す重合方法で硬化させた。結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1の結果から、ジブチルスズジクロライドとモノブチルスズトリクロライドとの質量比が97.0/3.0〜100.0/0.0の安定剤を使用することで、脈理の発生を抑制できることが分かる。