特許第5791517号(P5791517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニーの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5791517
(24)【登録日】2015年8月14日
(45)【発行日】2015年10月7日
(54)【発明の名称】非晶質微多孔性有機ケイ酸塩組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20150917BHJP
   C08G 77/32 20060101ALI20150917BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20150917BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20150917BHJP
【FI】
   C08J5/18CFH
   C08G77/32
   C09K3/18 104
   C09D183/04
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-542556(P2011-542556)
(86)(22)【出願日】2009年12月22日
(65)【公表番号】特表2012-513498(P2012-513498A)
(43)【公表日】2012年6月14日
(86)【国際出願番号】US2009069099
(87)【国際公開番号】WO2010075328
(87)【国際公開日】20100701
【審査請求日】2012年12月12日
(31)【優先権主張番号】61/140,131
(32)【優先日】2008年12月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(72)【発明者】
【氏名】トーマス, ジョン, クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ラコウ, ニール, エー.
(72)【発明者】
【氏名】トレンド, ジョン, イー.
【審査官】 大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−070139(JP,A)
【文献】 特開2007−146106(JP,A)
【文献】 特開平02−248480(JP,A)
【文献】 米国特許第05321102(US,A)
【文献】 国際公開第2007/020878(WO,A1)
【文献】 特開2007−321092(JP,A)
【文献】 特開2001−226171(JP,A)
【文献】 特表2012−513601(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0049044(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00−5/02;5/12−5/22
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/14
C08J 7/04− 7/06
C08G 77/00−77/62
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
孔体積を画定する微小孔を含む疎水性で、非晶質であり、実質的に微多孔性の有機ケイ酸塩組成物を含むフィルムであって、
前記有機官能性ケイ酸塩組成物が、
溶媒と、
少なくとも2つの有機官能性加水分解性シランと、
酸と、を含む前駆体反応混合物から調製される、フィルム。
【請求項2】
前記加水分解性シランが有機官能性アルコキシシランを含
少なくとも1つの有機官能性アルコキシシランが式:
−Si(OR
を有し、式中、R及びRがアルキル又はアリール基である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記加水分解性シランが、有機官能性アルコキシシランを含み、
前記有機官能性アルコキシシランが、
式:
−Si(OR
(式中、R及びRがアルキル又はアリール基である)の有機官能性アルコキシシランと、
式:
(RO)Si−R−Si(OR
(式中、R及びRがアルキル又はアリール基であり、Rがアルキレン、アリーレ
ン又はアラルキレン基である)の有機官能性アルコキシシランと、を含む、請求項に記載のフィルム。
【請求項4】
基材を準備する工程、
前駆体反応混合物であって、
溶媒と、
少なくとも2つの有機官能性加水分解性シランと、
酸と、を含む、前駆体反応混合物を準備する工程、
前記基材上に前記前駆体混合物をコーティングする工程、並びに、
焼成されたフィルムを形成するのに十分な温度に、前記コーティングされた混合物を加熱する工程、を含む、フィルムの調製方法であって、ここで、前記フィルムが、孔体積を画定する微小孔を含む疎水性で非晶質であり、実質的に微多孔性の有機ケイ酸塩組成物を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、有機ケイ酸塩組成物と、有機ケイ酸塩材料から調製されるフィルムなどの微多孔性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質有機ケイ酸塩組成物は、様々な有機化学的変換のための触媒又は触媒担体としての使用に有用な材料(特に、モレキュラーシーブ)として、並びに、電子分野での利用のためのフィルム形成組成物として、認識されている。これらの多孔質材料は、典型的には、メソ細孔性として説明され得る。すなわち、これらの材料の平均孔径直径は2〜50ナノメートルの範囲である。典型的には、これらの組成物は、例えば、事前に作製されたシリカ枠組に有機官能基をグラフトすることにより、又は、−O−Si−R−Si−O−単位を含有する「ビス−シリル」メソ構造の界面活性剤指向的組織化により、調製されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
疎水性、非晶質及び実質的に微多孔性である有機ケイ酸塩材料が、開示される。これらの材料は、ポロゲンを使用せずに、調製される。これらの材料は、広範囲の用途に、例えば、検知用途のための検出層として、好適である。
【0004】
疎水性で、非晶質であり、実質的に微多孔性の有機ケイ酸塩組成物を含むフィルムが開示される。有機ケイ酸塩組成物は、孔体積を画定する微小孔を含む。有機官能性ケイ酸塩組成物は、溶媒と少なくとも2つの加水分解性シランと酸とを含む前駆体反応混合物から調製される組成物を含む。
【0005】
更に、フィルム調製方法が開示される。これらの方法は、基材を準備する工程、溶媒と少なくとも2つの有機官能性加水分解性シランと酸とを含む前駆体反応混合物を準備する工程、基材上に前駆体混合物をコーティングする工程、並びに、焼成されたフィルムを形成するのに十分な温度に、コーティングされた混合物を加熱する工程を含み、ここで、フィルムは、孔体積を画定する微小孔を含む疎水性で非晶質であり、実質的に微多孔性の有機ケイ酸塩組成物を含む。
【発明を実施するための形態】
【0006】
微多孔性有機ケイ酸塩材料を含有するフィルム及び物品が望ましい。典型的には、ポロゲンは、多孔質材料の形成を促進するのを助けるために使用される。ポロゲンの使用は不利であるが、それは、例えば、場合によっては、形成された多孔質材料から除去するのが困難になる恐れがあるからである。更に、ポロゲンを添加すると、多孔質材料を形成するために使用される反応混合物が複雑になり、かつ各バッチで同一量のポロゲンが使用されなかった場合に、バッチ毎に差異を引き起こす恐れがある。したがって、ポロゲンを使用せずに微多孔性材料を調製できることは、望ましいものであり得る。
【0007】
微多孔性材料は、約2ナノメートル未満の平均孔直径サイズを有する多孔質材料である。これは、2〜50ナノメートルの範囲の平均孔直径サイズを有するメソ細孔性材料と対照をなす。微多孔性材料は、特に分析質を検出するためのセンサーにおける使用において、メソ細孔性材料を超える利点を有することができるが、それは例えば、微多孔性材料が分析質に対して改善された感度を有することができるからである。更に、微多孔性有機ケイ酸塩材料は、その有機基のために、自然に疎水性であり、したがって、例えば、ケイ酸塩などの無機材料と比べて、水分の吸着が起きにくい。本開示は、疎水性で、非晶質であり、実質的に微多孔性の有機ケイ酸塩組成物を含むフィルムを提供する。
【0008】
本明細書で使用するとき、用語「メソ細孔性」は、2〜50ナノメートルの範囲の平均孔直径サイズを有する多孔質材料を指す。
【0009】
本明細書で使用するとき、用語「微多孔性」は、約2ナノメートル未満の平均孔直径サイズを有する多孔質材料を指す。
【0010】
本明細書で使用するとき、用語「疎水性」は、水を引き付けない組成物を指す。組成物の疎水性は、所定の相対湿度において所定の時間にわたって水を吸着させることによるなどの様々な方法で測定することができる。このような試験は、実施例の項目で更に詳細に定義する。
【0011】
本明細書で使用するとき、用語「非晶質」は、実質的に結晶質ではない組成物を指す。典型的には、X線回折計で走査されると、組成物は、例えば、0.5〜55度(2θ)で走査された場合に識別可能なX線回折パターンを示さない。
【0012】
本明細書で使用するとき、用語「有機ケイ酸塩」は、いくつかの有機官能基Rと共有結合した三次元シリカ網状組織(−Si−O−Si−)を含有するハイブリッドである組成物を指す(ここで、Rは、少なくとも1個のSi−C結合によりシリカ網状組織に結合された炭化水素又はヘテロ原子置換炭化水素基である)。
【0013】
本明細書で使用するとき、用語「炭化水素基」は、炭素と水素の結合を含有する基を指す。炭化水素基は、直鎖状、分枝状、環状又は芳香族であり得る。炭化水素基の例は、アルキル基及びアリール基である。
【0014】
本明細書で使用するとき、用語「置換炭化水素基」は、酸素、窒素、イオウ、リン、ホウ素、ハロゲン(F、Cl、Br又はI)、ヒ素、スズ又は鉛などの1個以上のヘテロ原子を含有する炭化水素基である。へテロ原子は、側枝又はカテナリーであり得る。
【0015】
本明細書で使用するとき、用語「アルキル」は、飽和炭化水素である、アルカンのラジカルである一価の基を指す。アルキルは、直鎖状、分枝状、環状、又はこれらの組み合わせであることができ、典型的には1〜20個の炭素原子を有する。いくつかの実施形態では、アルキル基は、1〜18個、1〜12個、1〜10個、1〜8個、1〜6個、又は1〜4個の炭素原子を含有する。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、及びエチルヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
本明細書で使用するとき、用語「アリール」は、芳香族及び炭素環式である一価の基を指す。アリールは、芳香環に結合又は縮合した、1〜5個の環を有することができる。その他の環状構造は、芳香族、非芳香族、又はこれらの組み合わせであることができる。アリール基の例としては、フェニル、ビフェニル、テルフェニル、アンスリル、ナフチル、アセナフチル、アントラキノニル、フェナンスリル、アントラセニル、ピレニル、ペリレニル、及びフルオレニルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0017】
本明細書で使用するとき、用語「アルキレン」は、アルカンのラジカルである二価の基を指す。アルキレンは、直鎖、分枝状、環状、又はこれらの組み合わせであることができる。アルキレンは、多くの場合、1〜20個の炭素原子を有する。いくつかの実施形態では、アルキレンは、1〜18個、1〜12個、1〜10個、1〜8個、1〜6個、又は1〜4個の炭素原子を含有する。アルキレンのラジカル中心は、同一炭素原子上に(すなわち、アルキリデン)、又は異なる炭素原子上にあることができる。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「アリーレン」は、炭素環式及び芳香族である二価の基を指す。この基は、結合している、縮合している、又はこれらの組み合わせである1〜5個の環を有する。その他の環は、芳香族、非芳香族、又はこれらの組み合わせであることができる。いくつかの実施形態では、アリーレン基は、5個以下の環、4個以下の環、3個以下の環、2個以下の環、又は1個の芳香環を有する。例えば、アリーレン基は、フェニレンであることができる。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「アラルキレン」は、式−R−Ar−(式中、Rはアルキレンであり、Arはアリーレンである(すなわち、アルキレンがアリーレンに結合している))の二価の基を指す。
【0020】
本明細書で使用するとき、用語「アルコキシ」は、式−OR(式中、Rは、アルキル、アリール又は置換アルキル基である)の基を指す。
【0021】
本明細書で使用するとき、用語「アセトキシ」は、式−OC(O)CH(式中、C(O)は、カルボニル基C=Oを指す)の基を指す。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「アミノ」は、式−NR(式中、Rは、アルキル、アリール又は置換アルキル基である)の基を指す。
【0023】
本明細書で使用するとき、用語「孔径」は孔の直径を指し、用語「孔体積」は孔の体積を指す。
【0024】
本明細書で使用するとき、用語「ポロゲン」は、多孔質構造の形成を促進する材料を指す。溶媒は典型的には、本文脈においてポロゲンであるとは考えない。
【0025】
本明細書で使用するとき、用語「分析質」は、液体又は気体であり得ると共にその存在が検出されることが望ましい有機分子又は一連の分子を指す。
【0026】
本明細書で使用するとき、用語「焼成する」及び「焼成」は、揮発性材料を駆出して、有機ケイ酸塩網状組織を形成させるために、ゾルなどの混合物を融点よりも低い温度に加熱することを指す。
【0027】
本明細書で使用するとき、用語「ゾル」は、焼成すると連続性有機ケイ酸塩網状組織を形成する、溶媒中に反応性有機ケイ酸塩材料を含有する前駆体混合物を指す。
【0028】
本開示のフィルムは、ポロゲンを使用せずに調製される、疎水性で、非晶質であり、実質的に微多孔性の有機ケイ酸塩組成物を含む。このフィルムは、様々な用途で、特に、有機分析質の捕捉及び/又は分析を伴う用途で、有用である。
【0029】
有機ケイ酸塩組成物は、シリカ枠組並びに有機官能基を含有するハイブリッド組成物である。有機ケイ酸塩組成物は、Si−O−Si結合による架橋を介して結合されているRSiO単位を含む(式中、Rは、炭化水素基又は置換炭化水素基であり得る)。R基は、Si−C共有結合によりシリカマトリックスに結合する。
【0030】
本開示の有機ケイ酸塩組成物は、比較的高い有機物含量を有するものとして、説明され得る。有機ケイ酸塩組成物の比較的高い有機物含量は、望ましい特性であるが、それは、下記に示すように、有機ケイ酸塩組成物の疎水性に影響するからである。比較的高い有機物含量は、数々の方法で達成することができる。例えば、高い有機物含量を与えるために、Rがメチル、エチル、プロピルなどの比較的小さな炭化水素基である多数のRSiO単位が存在してもよく、あるいは、Rがアリールなどの比較的大きな炭化水素基である少数のRSiO単位が存在してもよい。
【0031】
非常に様々な有機官能基(RSiO単位におけるR基)が、有機ケイ酸塩組成物における使用に好適である。有機官能基は、メチル、エチル、プロピル、メチレン、エチレン、プロピレン及びこれらに類するものなどの単純なアルキル又はアルキレン基であってもよく、より複雑なアルキル又はアルキレン基であってもよい。有機官能基はまた、アリール、置換アリール、アリーレン又はこれらに類するものなどの芳香族基であってもよい。いくつかの実施形態では、R基は、2個のSiO単位(例えば、−OSi−R−SiO−)に結合するアルキレン又はアリーレン基であり得る。好適なアリール及びアリーレン基の例としては、例えば、フェニル、トリル、フェニレン、トリレン、ビスフェニレン及びこれらに類するものが挙げられる。
【0032】
いくつかの実施形態では、有機ケイ酸塩組成物は、少なくともある程度の芳香族成分(すなわち、アリール及び/又はアリーレン基)を含有し得る。アリーレン基(ここで、アリーレン基は2個のケイ素原子に結合している)は特に好適であるが、それは、剛性芳香環が、望ましい孔構造を提供するのを助けると考えられているからである。中でも特に好適なアリール及びアリーレン基は、フェニル、ナフチル及びビスフェニレンである。
【0033】
有機基が自然に親油性(文字通り「油を好む」)であり、水よりも他の有機官能種と適合性を有することから、有機ケイ酸塩の有機官能性は、組成物を疎水性にする傾向がある。この組成物の疎水性により、これらの材料は、大気からの水分を吸着する傾向が少ない。大気からの水分の吸着は望ましくなく、特に、これらの材料が、有機分子の検知が所望されるセンサー用途に利用される場合には望ましくない。孔が実質的に環境から水分を吸着する場合には、対象とする有機分析質を吸着する孔の能力は、減少する。しかしながら、組成物は疎水性であるので、これにより、環境からの水分に比較的影響されない。
【0034】
疎水性は望ましい特性であるが、それは、特に材料がセンサー用途で使用される場合に、空気からの水分が、所望される分析質への感度を無効にしないことが望ましいからである。例えば、材料が検出層として使用され、それが親水性である場合には、大気からの水分は、材料の孔に容易に吸着し、所望される分析質の吸着を阻害する。
【0035】
疎水性は、様々な方法で測定することができる。特に有用である1つの方法は、疎水性で、非晶質であり、実質的に微多孔性の有機ケイ酸塩組成物を、吸着した水及び大気中の水が平衡に達するように、十分な時間にわたって室温にて相対湿度50%などの所与の相対湿度に曝露することである。この平衡状態は、時間対吸着のグラフをプロットし、プロファイル曲線がプラトーに達する個所を観察することにより、判定することができる。典型的には、フィルムは、平衡において、相対湿度50%にて利用可能な孔体積の65%未満まで水を吸着する。いくつかの実施形態では、フィルムは、平衡において、相対湿度50%にて利用可能な孔体積の50%未満まで水を吸着する。いくつかの実施形態では、フィルムは、平衡において、相対湿度50%にて利用可能な孔体積の30%未満まで水を吸着する。
【0036】
有機ケイ酸塩組成物は、非晶質又は実質的に非晶質であり、つまり、これらは結晶化度を有さない又は本質的に有さない。理論に束縛されるものではないが、非晶質有機ケイ酸塩は、より多様な多孔質構造を含有し、それにより、例えば、検知用途において、広範囲の分析質に対して好適になると考えられている。
【0037】
有機ケイ酸塩組成物の非晶質性は、例えば、X線回折計の使用により、判定することができる。典型的には、X線回折計で走査されると、組成物は、0.5〜55度(2θ)などの低い角度から広い角度までで走査された場合に識別可能なX線回折パターンを示さない。「識別可能なX線回折パターンがない」とは、X線回折データが実質的に無特性であり、構造規則性の存在に対する証拠を全く示さないことを意味する。
【0038】
有機ケイ酸塩組成物は、実質的に微多孔性である。多孔質材料は、多くの異なる方法で分類されている。多孔質材料についてのIUPACの定義は、2ナノメートル未満の平均孔直径を有する多孔質材料は微多孔性として定義し、2〜50ナノメートルの平均孔直径を有する多孔質材料はメソ細孔性として定義し、50ナノメートル超過の平均孔直径を有する多孔質材料はマクロ孔性として定義する。本開示の有機ケイ酸塩組成物では、総孔体積の少なくとも50%は、2.0ナノメートル以下の直径を有する孔を構成する。いくつかの実施形態では、総孔体積の少なくとも50%は、0.6〜1.3ナノメートルの直径を有する孔を構成する。
【0039】
本開示のフィルムは、ポロゲンを含まない前駆体混合物から調製される。この文脈では、ポロゲンは、多孔質構造の形成において助けとなる前駆体混合物に添加される化学的化合物を指す。異なる目的で反応混合物に添加される溶媒及び他の成分は、ポロゲンとは考えない。典型的には、前駆体混合物は、調製され、基材上にコーティングされ、加熱されて乾燥して、及び/又は、前駆体混合物を焼成して、疎水性で非晶質であり、実質的に微多孔性の有機ケイ酸塩フィルムを形成する。
【0040】
前駆体混合物は、様々な異なる材料を含有し得る。中でも好適な材料は、溶媒、少なくとも2つの加水分解性シラン及び酸である。
【0041】
典型的には、前駆体混合物は、少なくとも1つの溶媒を含有する。1つ又は複数の溶媒は、反応物質を可溶化し、希釈し、前駆体混合物中で生じる加水分解及び縮合反応のための反応媒質として機能する。溶媒は、少なくとも部分的に反応物質を可溶化することができるべきである。典型的には、溶媒は、水と少なくとも部分的に相溶性であるが、それは、多くの場合、水性酸などの水性試薬が使用されるからである。好適な溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノールなどのアルコール、アセトン及びメチルエチルケトンなどのケトン、テトラヒドロフランなどのエーテル、エチルアセテートなどのエステル、ジメチルホルムアミドなどのアミド、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
前駆体混合物は、少なくとも1つの加水分解性シランを含有する。加水分解性シランは、一般式R−{Si(Z)4−nの化合物である(式中、Rはx価の炭化水素又は置換炭化水素基であり、xは1以上の整数であり、Zは加水分解性基であり、nは1、2又は3の整数である)。好適な加水分解性基としては、アルコキシ、ハロ、アセトキシ又はアミノ基が挙げられる。いくつかの実施形態では、xは1であり、nは1であり、R基は、アルキル又はアリール基などの炭化水素基であり、Zはアルコキシである。他の実施形態では、Xは2であり、nは1であり、Rはアルキレン、アリーレン、アラルカレン基であり、Zはアルコキシである。
【0043】
いくつかの実施形態では、前駆体混合物は、少なくとも2つの加水分解性シランを含有する。いくつかの実施形態では、前駆体混合物は、一般構造R−Si(ORの加水分解性シラン、並びに、一般構造(RO)Si−R−Si(ORの加水分解性シラン(式中、R、R、R及びRはアルキル又はアリール基であり、Rはアルキレン、アリーレン又はアラルキレン基である)を含有する。好適な加水分解性シランの例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、4,4’−ビス(トリエトキシシリル)−1,1’−ビフェニル及びこれらに類するものが挙げられる。いくつかの実施形態では、前駆体混合物は、フェニルトリメトキシシラン及び4,4’−ビス(トリエトキシシリル)−1,1’−ビフェニルを含有する。
【0044】
前駆体混合物中に存在する加水分解性シランの量は、加水分解性シラン(1つ又は複数)の性質、及び、形成された有機ケイ酸塩組成物の所望の特性に応じて様々である。典型的には、加水分解性シランは、前駆体混合物の総重量に基づいて、約2〜25重量%の範囲で存在する。
【0045】
前駆体混合物は、加水分解性シランの加水分解及び縮合反応を促進するために、酸を含有する。前駆体混合物と相溶性があり、加水分解反応を助ける限り、任意の好適な酸を使用することができる。好適な酸の例としては、例えば、有機酸、ホスホニウム酸、アンモニウム酸及び鉱酸が挙げられる。有機酸としては、例えば、酢酸などのカルボン酸、アルキルスルホン酸などのスルホン酸、一般式RP(O)(OH)(式中、Rはアルキル基である)のアルキルホスホン酸などのホスホン酸、一般式RP(O)(OH)(式中、各Rは独立してアルキル基である)のアルキルホスフィン酸などのホスフィン酸が挙げられる。ホスホニウム酸としては、RPH(式中、各Rは独立して水素又はアルキル又はアリール基である)の型の化合物が挙げられる。アンモニウム酸としては、RNH(式中、各Rは独立して水素又はアルキル又はアリール基である)の型の化合物が挙げられる。鉱酸は、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、ホウ酸、リン酸、フッ化水素酸及びこれらに類するものが挙げられる無機酸である。典型的には、鉱酸は、水性形態で使用され、すなわち、酸は水に溶解される。一般に、これらの入手しやすさ及び使用しやすさにより、水性鉱酸が使用される。いくつかの実施形態では、酸は、水性塩酸である。
【0046】
前駆体混合物は、基材上に付着させて、フィルムを形成することができる。前駆体は、例えば、スピンコーティング、ディップコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティングなどの様々なコーティング技術、並びに、例えば、インクジェット印刷及びスクリーン印刷などの印刷技術を用いて、基材上に付着させることができる。スピンコーティングが特に有用である。
【0047】
基材は、その上に有機ケイ酸塩フィルムを調製することが望ましく、並びに、有機ケイ酸塩フィルムを形成するための焼成工程に耐えることができる、任意の好適な基材であり得る。基材の例としては、例えば、金属、金属酸化物板及び箔、ガラス板、セラミックス板及び物品、シリコンウエファー、ポリイミド及びシリコーンなどの焼成工程に耐えることができるポリマー及びこれらに類するものが挙げられる。
【0048】
いったん基材上に前駆体混合物をコーティングすると、これは、混合物を乾燥及び焼成するために、典型的には、加熱処理にかけられる。加熱工程は、例えば、30〜100℃といったように、比較的低温であり得る。一般に、加熱工程は、より高い温度を伴う。典型的には、コーティングされた前駆体混合物は、約200℃〜約500℃の範囲の温度に加熱される。いくつかの実施形態では、加熱工程は約450℃である。
【0049】
加熱工程に続き、追加的な所望による加工工程が行われてもよい。例えば、処理剤での有機ケイ酸塩フィルムの処理が、望ましいものであり得る。処理剤は、有機ケイ酸塩フィルムを更に改質して、フィルムを例えば、より疎水性にすることができる。好適な処理剤の例は、ヘキサメチルジシラザンなどのアルキルジシラザンのようなオルガノシラン処理剤である。フィルムをヘキサメチルジシラザンの蒸気に曝露することにより、このような処理を行うことができる。
【0050】
本開示の有機ケイ酸塩組成物は、検知装置の一部として微多孔性吸着層を利用するセンサー物品のようなセンサー物品などの非常に様々な物品に使用することができる。このようなセンサーの例は、例えば、米国特許公開第2008/006375号(Rakowら)、同第2004/0184948号(Rakowら)及び同第2007/0184557号(Cruddenら)に提示されている。
【0051】
本開示の組成物の微多孔性及び疎水性により、それらは低濃度での有機化学蒸気などの分析質を吸着するのに好適になっている。有機化学蒸気の吸着は、有機ケイ酸塩フィルムに機械的又は視覚的のいずれかで検出できる変化を引き起こす。
【実施例】
【0052】
これらの実施例は単にあくまで例示を目的としたものであり、添付した「特許請求の範囲」の範囲に限定するものではない。本明細書の実施例及びその他の部分におけるすべての部、百分率、比などは特に注記がない限り、重量による。使用される溶媒及びその他の試薬は、特に記載のない限り、Sigma−Aldrich Chemical Company;Milwaukee,Wisconsinから入手した。
【0053】
【表1】
【0054】
試験方法
孔径の測定
窒素吸着測定法を用いて、孔径の測定を行った。試験する材料を直径100mmのシリコンウエファー上にコーティングした。実施例に記載のように、スピンコーティング法を繰り返し用いてウエファーをコーティングし、続いて焼成した。フィルムを回収し、窒素吸着測定に用いた。総細孔容積は、74ポイント微小細孔分析を使用して製造業者の指示にしたがって操作される商品名「QUANTACHROME AUTOSORB IC」(Quantachrome Instruments,Boynton Beach,FA)として入手可能な気体吸着分析器を使用する窒素吸着によって測定した。
【0055】
疎水性の測定
コーティングされたセンサー片を、湿度制御試験システムの中に配置し、光学的分光法によりモニターした。Ocean Optics光ファイバープローブ、LS−1光源及びUSB−2000光分析装置を、センサーのモニターに使用した。サーモスタット付き水容器を通して空気を流すことにより、制御された百分率の相対湿度で、気流を発生させた。センサーを2.5リットル/分の流速にて湿った空気に曝露したところ、400nm〜800nmの光学反射スペクトルが観察された。続いて、最大(又は最小)スペクトルの波長の変化を、蒸気の濃度の関数としてプロットした。大きな波長変化ほど、多孔質材料内への水蒸気吸着のより大きな量と相関する。
【0056】
相対湿度50%にて孔を充填する水の量は、以下の手順を用いて測定された。平衡における相対湿度50%での孔の中に存在する水の量を、孔に水が空である場合及び孔が水で本質的に充填されている場合に存在する水の量と比較した。これらの比較を行うために、比較的低い相対湿度(相対湿度およそ5%)で孔は本質的に空になり、相対湿度90%の環境下での平衡において孔は本質的に充填されるという仮定を行った。光学ピーク位置における違いを相対湿度5%、50%及び90%にて測定した。相対湿度5%と50%との間のピーク位置の違いはΔ50%として報告し、相対湿度5%と90%との間のピーク移動の違いはΔ90%として報告する。これらの2つの値の比率Δ50%/Δ90%は、相対湿度50%にて孔の中に存在する水の量を示唆する値を与える。これらの比率に100%を積算すると、平衡において相対湿度50%にて孔が水で充填されている百分率が与えられる。
【0057】
X線散乱
X線散乱で試料を試験して、試料の非晶質性を判定した。反射配置データは、Philips垂直回折計、銅Kα放射線及び散乱放射線の比例検出器レジストリを使用することにより、測量走査の形態で収集した。回折計には、可変の入射ビームスリット、固定回折ビームスリット、及びグラファイト回折ビームモノクロメータが装着された。測量走査は、0.04度のステップサイズ及び4秒の滞留時間を使用して5〜55度(2θ)で行った。45kV及び35mAのX線発生装置設定を使用した。Huber 4サイクル回折計、銅Kα放射線及び散乱放射線のシンチレーション検出器レジストリの使用により、更なる反射配置低角度データを収集した。入射光線の視準を700μmピンポールに合わせ、ニッケルフィルターにかけた。走査は、0.01度のステップ間隔及び60秒の滞留時間を使用して0.5〜15度(2θ)で行った。40kV及び20mAのX線発生装置設定を使用した。
【0058】
合成例:試薬溶液の調製:
以下の実施例で前駆体混合物を調製するために使用された一連の試薬溶液を調製した。
【0059】
溶液1
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.044グラム)、BTSBP(0.247グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.050グラム)を組み合わせた。
【0060】
溶液2
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.038グラム)、BTSBP(0.223グラム)、PTMS(0.026グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.047グラム)を組み合わせた。
【0061】
溶液3
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.044グラム)、BTSBP(0.207グラム)、PTMS(0.052グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.052グラム)を組み合わせた。
【0062】
溶液4
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.049グラム)、BTSBP(0.179グラム)、PTMS(0.077グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.048グラム)を組み合わせた。
【0063】
溶液5
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.043グラム)、BTSBP(0.146グラム)、PTMS(0.101グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.052グラム)を組み合わせた。
【0064】
溶液6
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.039グラム)、BTSBP(0.124グラム)、PTMS(0.129グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.050グラム)を組み合わせた。
【0065】
溶液7
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.039グラム)、BTSBP(0.107グラム)、PTMS(0.151グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.050グラム)を組み合わせた。
【0066】
溶液8
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.037グラム)、BTSBP(0.225グラム)、NTES(0.037グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.050グラム)を組み合わせた。
【0067】
溶液9
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.043グラム)、BTSBP(0.199グラム)、NTES(0.076グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.053グラム)を組み合わせた。
【0068】
溶液10
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.046グラム)、BTSBP(0.182グラム)、NTES(0.076グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.050グラム)を組み合わせた。
【0069】
溶液11
ポリエチレンびんの中で、1−メトキシ−2−プロパノール(1.046グラム)、BTSBP(0.154グラム)、NTES(0.155グラム)及び0.2モルのHCl(水溶液)(0.050グラム)を組み合わせた。
【0070】
(実施例1〜7):
実施例1〜7のために、表1に示した溶液を使用した。溶液を室温にて120分にわたって時効処理しておき、次に直径2センチメートルのチャックを有するHeadway Research EC101 DT−R790スピンコーティング機を使用してシリコンウエファー上にスピンコーティングした。スピンに先立って、各シリコンウエファー部分を数滴の溶液で浸した。スピンコーティングは、1500rpmで60秒にわたって行った。コーティングした部分を箱形炉内で空気中において、450℃の温度までは1℃/分の速度で、450℃にて5分保持し、その後段階的に周囲温度に冷却して、焼成させた。上記の「試験方法」に記載した通りに疎水性試験を行ったが、結果は表4に示す。上記の「試験方法」を用いて、実施例6及び7の試料に対してX線散乱分析を行った。試験結果は、構造規則性の存在についての証拠を全く示さなかった。得られた低角度及び広角度データのどちらも本質的に無特性であった。
【0071】
実施例5に使用したコーティング溶液の試料を用いて、孔径測定用試料を調製した。上記「試験方法」に示した孔径測定試験を用いる試験を行った。試験結果は、総孔体積の61%が2.0ナノメートル以下の孔直径を有する孔を含有したことを示した。
【0072】
【表2】
【0073】
(実施例8〜11):
実施例8〜11のために、表2に示した溶液を使用した。溶液を室温にて120分にわたって時効処理しておき、次に直径2センチメートルのチャックを有するHeadway Research EC101 DT−R790スピンコーティング機を使用してシリコンウエファー上にスピンコーティングした。スピンに先立って、各シリコンウエファー部分を数滴の溶液で浸した。スピンコーティングは、1500rpmで60秒にわたって行った。コーティングした部分を箱形炉内で空気中において、450℃の温度までは1℃/分の速度で、450℃にて5分保持し、その後段階的に周囲温度に冷却して、焼成させた。上記の「試験方法」に記載した通りに疎水性試験を行ったが、結果は表4に示す。上記の「試験方法」を用いて、実施例8〜11の試料に対してX線散乱分析を行った。試験結果は、構造規則性の存在についての証拠を全く示さなかった。得られた低角度及び広角度データのどちらも本質的に無特性であった。
【0074】
【表3】
【0075】
(実施例12〜15):
実施例12〜15のために、表3に示した溶液を使用した。溶液を室温にて120分にわたって時効処理しておき、次に直径2センチメートルのチャックを有するHeadway Research EC101 DT−R790スピンコーティング機を使用してシリコンウエファー上にスピンコーティングした。スピンに先立って、各シリコンウエファー部分を数滴の溶液で浸した。スピンコーティングは、1500rpmで60秒にわたって行った。コーティングした部分を箱形炉内で空気中において、450℃の温度までは1℃/分の速度で、450℃にて5分保持し、その後段階的に周囲温度に冷却して、焼成させた。コーティングを、HMDSのリザーバ(1〜2ミリリットル)を有するポリエチレンペトリ皿の中に置いた。ペトリ皿をカバーし、この部分を24時間にわたってHMDS蒸気と反応させておいた。上記の「試験方法」に記載した通りに疎水性試験を行ったが、結果は表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】