(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5794193
(24)【登録日】2015年8月21日
(45)【発行日】2015年10月14日
(54)【発明の名称】太陽電池素子の製造方法及びスクリーン印刷機
(51)【国際特許分類】
B41F 15/44 20060101AFI20150928BHJP
H01L 51/42 20060101ALI20150928BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20150928BHJP
【FI】
B41F15/44 B
H01L31/04 100
H05K3/34 505C
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-93860(P2012-93860)
(22)【出願日】2012年4月17日
(65)【公開番号】特開2013-220599(P2013-220599A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2014年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(72)【発明者】
【氏名】三田 怜
(72)【発明者】
【氏名】渡部 武紀
(72)【発明者】
【氏名】大塚 寛之
【審査官】
亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−062079(JP,A)
【文献】
特開2010−149301(JP,A)
【文献】
特開2002−103563(JP,A)
【文献】
特開2000−062140(JP,A)
【文献】
特開2000−094637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 15/44
H01L 51/42
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン版にペーストをコーティングするスクレッパと、先端部が前記スクリーン版を押圧した状態で移動しながら前記スクリーン版上にコーティングされたペーストを該スクリーン版の開口部からその下の被印刷物に押し出して印刷するスキージを備えるスクリーン印刷機を用いて、太陽電池素子用の基板上に導電性ペーストをスクリーン印刷して電極を形成する太陽電池素子の製造方法であって、前記スキージは、該スキージの印刷移動方向前面において印刷の際にペーストと接触する領域に、該ペーストの流動を規制する複数の凸部と凹部をスキージ長さ方向に所定の間隔で交互かつ一列に配列して有することを特徴とする太陽電池素子の製造方法。
【請求項2】
前記太陽電池素子用の基板は、半導体基板に拡散層を形成し、その上に反射防止膜を形成したものであって、該反射防止膜上に前記スクリーン印刷機を用いて導電性ペーストをスクリーン印刷して電極を形成することを特徴とする請求項1に記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項3】
隣接する前記凸部同士及び凹部同士の隣接間隔が1〜100mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項4】
前記複数の凸部及び凹部は、スキージの前記先端部の外縁に対して平行に配列されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項5】
前記凸部は、円柱形状を有していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項6】
前記凹部は、丸穴であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の太陽電池素子の製造方法。
【請求項7】
スクリーン版にペーストをコーティングするスクレッパと、先端部が前記スクリーン版を押圧した状態で移動しながら前記スクリーン版上にコーティングされたペーストを該スクリーン版の開口部からその下の被印刷物に押し出して印刷するスキージを備えるスクリーン印刷機であって、前記スキージは、該スキージの印刷移動方向前面において印刷の際にペーストと接触する領域に、該ペーストの流動を規制する複数の凸部と凹部をスキージ長さ方向に所定の間隔で交互かつ一列に配列して有することを特徴とする太陽電池素子の電極形成用スクリーン印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクリーン印刷法により電極形成を行う太陽電池素子の製造方法及び太陽電池素子の電極形成用スクリーン印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、太陽電池素子は
図1に示す構造を有する。
図1において、1は、大きさが100〜150mm角、厚みが0.1〜0.3mmの板状で、かつ多結晶や単結晶シリコン等からなり、ボロン等のp型不純物がドープされたp型の半導体基板である。
【0003】
太陽電池素子の製造に当たっては、この半導体基板1に、リン等のn型不純物をドープしてn型拡散層2を形成し、SiN(窒化シリコン)などからなる反射防止膜兼パッシベーション膜3を設け、次にスクリーン印刷法を用いて、裏面に導電性アルミニウムペーストを印刷した後、乾燥−焼成することで裏面電極6とBSF(Back Surface Field)層4を同時に形成する。また、表面に導電性ペーストを印刷後、乾燥して焼成し、表面電極5を形成する。
【0004】
また、この表面電極5は、太陽電池素子で生じた光生成電流を外部へ取出すためのバスバー電極とこれらのバスバー電極に接続される集電用のフィンガー電極とからなる。以下、太陽電池素子の受光面側となる基板の面を表面(オモテ面)、受光面側と反対側になる基板の面を裏面(ウラ面)とする。
【0005】
このような方法で製造される太陽電池素子にあっては、上記のように、電極形成にスクリーン印刷法を用いることが一般的である。スクリーン印刷法は、感光性材料を扱うフォトリソグラフィ法などに比べて、厚膜の電極を歩留まりよく大量生産することに向いており、比較的設備費が少なくてすむという利点がある。そのため、スクリーン印刷法は太陽電池素子の電極形成の他、プラズマディスプレイパネルや液晶ディスプレイパネル等の大面積ディスプレイの電極層、抵抗層、誘電体層、あるいは蛍光体層などのパターン形成を含め、電子工業界で広範囲に使用されている。
【0006】
従来のスクリーン印刷法について図面を用いて説明する。
図2は一般的なスクリーン印刷機の主要部の側面模式図であり、
図3は一般的なスクリーン印刷法によるペーストの動きをスクリーン版の上から見た平面模式図である。スクリーン印刷に関する一連の印刷動作を、
図2を用いて説明する。
まず、形成したいパターンが開口されたスクリーン版7の上に、ペーストが供給される(
図2ではペーストは図示されていない)。次に、このペーストの上を、スクレッパ8が上部から圧力をかけられながら一定方向(
図2において左方向)に動くことで、スクリーン版7の開口部のパターンにペーストを充填する。次に、スクレッパ8が上昇し、スキージ99が下降してその先端部がスクリーン版7を印刷ステージ10側に押圧する。次に、この押圧状態でスキージ99がスクレッパ8の前記移動方向とは反対方向(
図2において右方向)に動くことで、スクリーン版7の開口部のパターンに充填されたペーストを印刷ステージ10上に設置された被印刷物11に転写する。続いて、今度はスキージ99が上昇し、スクレッパ8が下降してスクリーン版7表面に当接し、該スクレッパ8がスキージ99の前記移動方向とは反対方向に移動しながら、スクリーン版7上に残ったペーストを再度該スクリーン版7の開口部のパターンにペーストを充填する。スクリーン印刷機では、以上の一連の動作が繰り返し行われることにより、被印刷物11に所定パターンのペーストが厚塗りされる。
【0007】
図3にて、従来のスクリーン印刷法について更に詳しく説明する。
図3(a)はスキージ99がスクリーン版7のペースト12が充填された位置に配置され、スクリーン版7を押圧し、移動する前の状態を示している。スキージ99はこの位置からスクリーン版7を押圧し、
図3において下方向に移動し、スクリーン版7の下にある被印刷部にペーストを転写して印刷する。このとき、スキージ99の移動方向側のスクリーン版7上に存在するペースト12は、スキージ99の移動方向前面(掻き出し面)に掻き出されてスキージ99とともに移動する。
【0008】
図3(b)はスキージ99の移動が終了し印刷が完了した直後の状態を示している。このとき、
図3(b)に示すように、ペースト12の一部がスキージ99の掻き出し面上を流動してスキージ99の両端からはみ出してしまい、スクリーン版7上ではみ出しペースト13となってしまう。このはみ出しペースト13は、スキージ99やスクレッパ8の動作範囲の外にあるため、このままではそれ以後の印刷に使用されなくなってしまう。
【0009】
上記のように、従来のスクリーン印刷法では、供給されたペーストの一部がスキージ動作の後、スキージの両端にはみ出して残留してしまうために、印刷回数を重ねるにつれて、使用されなくなるペーストが増加する一方で、転写印刷可能なペーストが少なくなり、被印刷物上の印刷部がかすれて印刷不良になるという問題があった。この印刷不良を防止するために、従来では、作業者がはみ出したペーストを中央部に掻き寄せて集めるか、又は必要量以上にペーストを供給する必要があり、太陽電池素子の製造において工程の煩雑さや製造コストの点で問題となっていた。
【0010】
この問題を解決するために、例えば、特開平5−77393号公報(特許文献1)に示される方法では、スキージのスクレッパ側の側面の両端に八の字型の補助スクレッパをもうけて印刷する方法が開示されている。しかしこの方法は、補助スクレッパの制御が必要になり、印刷条件の制御が複雑になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平5−77393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、スクリーン印刷法による電極形成を効率的に行うことが可能な太陽電池素子の製造方法、及びスクリーン版の印刷領域からのペーストのはみ出しを抑制する太陽電池素子の電極形成用スクリーン印刷機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、下記の太陽電池素子の製造方法及びスクリーン印刷機を提供する。
〔1〕 スクリーン版にペーストをコーティングするスクレッパと、先端部が前記スクリーン版を押圧した状態で移動しながら前記スクリーン版上にコーティングされたペーストを該スクリーン版の開口部からその下の被印刷物に押し出して印刷するスキージを備えるスクリーン印刷機を用いて、太陽電池素子用の基板上に導電性ペーストをスクリーン印刷して電極を形成する太陽電池素子の製造方法であって、前記スキージは、該スキージの印刷移動方向前面において印刷の際にペーストと接触する領域に、該ペーストの流動を規制する複数の凸部
と凹部をスキージ長さ方向に所定の間隔で
交互かつ一列に配列して有することを特徴とする太陽電池素子の製造方法。
〔2〕 前記太陽電池素子用の基板は、半導体基板に拡散層を形成し、その上に反射防止膜を形成したものであって、該反射防止膜上に前記スクリーン印刷機を用いて導電性ペーストをスクリーン印刷して電極を形成することを特徴とする〔1〕に記載の太陽電池素子の製造方法。
〔
3〕 隣接する前記凸部
同士及
び凹部同士の隣接間隔が1〜100mmであることを特徴とする〔1〕
又は〔2〕に記載の太陽電池素子の製造方法。
〔
4〕 前記複数の凸部及
び凹部は、スキージの前記先端部の外縁に対して平行に配列されていることを特徴とする〔1〕〜〔
3〕のいずれかに記載の太陽電池素子の製造方法。
〔
5〕 前記凸部は、円柱形状を有していることを特徴とする〔1〕〜〔
4〕のいずれかに記載の太陽電池素子の製造方法。
〔
6〕 前記凹部は、丸穴であることを特徴とする〔1〕〜〔
5〕のいずれかに記載の太陽電池素子の製造方法。
〔
7〕 スクリーン版にペーストをコーティングするスクレッパと、先端部が前記スクリーン版を押圧した状態で移動しながら前記スクリーン版上にコーティングされたペーストを該スクリーン版の開口部からその下の被印刷物に押し出して印刷するスキージを備えるスクリーン印刷機であって、前記スキージは、該スキージの印刷移動方向前面において印刷の際にペーストと接触する領域に、該ペーストの流動を規制する複数の凸部
と凹部をスキージ長さ方向に所定の間隔で
交互かつ一列に配列して有することを特徴とする太陽電池素子の電極形成用スクリーン印刷機。
【発明の効果】
【0014】
本発明の太陽電池素子の製造方法によれば、スクリーン印刷法による電極形成の際に、作業者がはみ出したペーストを中央部に掻き寄せる手間を低減でき、太陽電池素子の生産効率を向上させることができる。また、本発明のスクリーン印刷機によれば、スキージの印刷移動方向前面(ペースト掻き出し面)に凸部及
び凹部を設けてスキージ両端からはみ出そうとするペーストの流動を規制するので、作業者がはみ出したペーストを中央部に掻き寄せる手間を低減でき、ペースト供給装置と併用すれば長時間無人運転することも可能で、印刷条件の設定が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】従来のスクリーン印刷機の概略構成を示す断面図である。
【
図3】
図2のスクリーン印刷機によるスクリーン印刷の際のペーストの状態を示す模式図であり、(a)は印刷開始時の状態、(b)は印刷終了時の状態である。
【
図4】本発明に係るスクリーン印刷機の概略構成を示す断面図である。
【
図5】本発明に係るスクリーン印刷機で用いるスキージの構成を示す斜視図であり、(a)は第1の構成例、(b)は第2の構成例である。
【
図6】
図4のスクリーン印刷機によるスクリーン印刷の際のペーストの状態を示す模式図であり、(a)は印刷開始時の状態、(b)は印刷終了時の状態である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、本発明は下記説明に加えて広範な他の実施形態で実施することが可能であり、本発明の範囲は、下記に制限されるものではなく、特許請求の範囲に記載されるものである。更に、図面は原寸に比例して示されていない。本発明の説明や理解をより明確にするために、関連部材によっては寸法が拡大されており、また、重要でない部分については図示されていない。
【0017】
ここでは、
図1に示した一般的な構造を有する太陽電池素子を例にとり、その製造工程を説明する。
(半導体基板の準備)
まず、半導体基板1を用意する。この半導体基板1は、単結晶又は多結晶シリコンなどからなり、p型、n型いずれでもよいが、ボロンなどのp型の半導体不純物を含み、比抵抗は0.1〜4.0Ω・cmのp型シリコン基板が用いられることが多い。そこで、以下ではp型シリコン基板を用いた太陽電池素子の製造方法を例にとって説明する。
【0018】
半導体基板(シリコン基板ともいう)1の大きさは100〜150mm角、厚みは0.05〜0.30mmの板状のものが好適に用いられる。そして、太陽電池素子の受光面となるp型シリコン基板の表面に、例えば酸性溶液中に浸漬してスライスなどによる表面のダメージを除去してから、更にアルカリ溶液で化学エッチングして洗浄、乾燥することで、テクスチャとよばれる凹凸構造を形成する。凹凸構造は、太陽電池素子受光面において光の多重反射を生じさせる。そのため、凹凸構造を形成することにより、実効的に反射率が低減し、変換効率が向上する。
【0019】
(拡散層の形成)
その後、例えばPOCl
3などを含む、850〜1,000℃の高温ガス中にp型半導体基板1を設置し、p型半導体基板1の全面にリン等のn型不純物元素を拡散させる熱拡散法により、シート抵抗が30〜300Ω/□程度のn型拡散層2を半導体基板1のオモテ面に形成する。なお、n型拡散層2を熱拡散法により形成する場合には、p型半導体基板1の両面及び端面にもn型拡散層が形成されることがあるが、この場合には、必要なn型拡散層のオモテ面を耐酸性樹脂で被覆したp型半導体基板1をフッ硝酸溶液中に浸漬することによって、不要なn型拡散層を除去することができる。その後、例えば希釈したフッ酸溶液などの薬品に浸漬させることにより、拡散時に半導体基板の表面に形成されたガラス層を除去し、純水で洗浄する。
【0020】
(反射防止膜兼パッシベーション膜の形成)
更に、上記p型半導体基板1のオモテ面側に反射防止膜兼パッシベーション膜3を形成する。この反射防止膜兼パッシベーション膜3は、例えばSiNなどからなり、例えばSiH
4とNH
3との混合ガスをN
2で希釈し、グロー放電分解でプラズマ化させて堆積させるプラズマCVD法などで形成される。この反射防止膜兼パッシベーション膜3は、p型半導体基板1との屈折率差などを考慮して、屈折率が1.8〜2.3程度になるように形成され、厚み500〜1,000Å程度の厚みに形成され、p型半導体基板1の表面で光が反射するのを防止して、p型半導体基板1内に光を有効に取り込むために設けられる。また、この反射防止膜(SiN膜)は、形成の際にn型拡散層2に対してパッシベーション効果があるパッシベーション膜としても機能し、反射防止の機能と併せて太陽電池素子の電気特性を向上させる効果がある。
【0021】
(BSF層、表裏面電極の形成)
次に、半導体基板1のウラ面に、例えばアルミニウムとガラスフリットとワニスなどを含む導電性ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。しかる後、オモテ面に、例えば銀とガラスフリットとワニスなどを含む帯電性ペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。この後、各電極用ペーストを500〜950℃程度の温度で焼成することで、BSF層4と表面電極5と裏面電極6とを形成する。
【0022】
上記のような典型的な結晶シリコン太陽電池素子の製造方法においては、電極形成をスクリーン印刷法にて行う。従来のスクリーン印刷法では、
図2、
図3により前述したように、供給されたペースト12の一部がスキージ動作の後、スキージ99の両端にはみ出してスクリーン版7上に残留してしまうために、印刷回数を重ねるにつれて、使用されなくなるペーストが増加する一方で、転写印刷可能なペーストが少なくなり、半導体基板上の電極パターンがかすれて印刷不良になり、歩留まりが低下するという問題があった。この印刷不良を防止するために、従来では、作業者がはみ出したペーストを中央部に掻き寄せて集めるか、又は必要量以上にペーストを供給する必要があり、工程の煩雑さや製造コストの点で問題となっていた。
【0023】
本発明者らはこの問題を解決すべく、スキージに関して鋭意検討を行い、本発明を成すに至った。即ち、本発明に係るスクリーン印刷機は、
図4に示すように、スクリーン版7にペーストをコーティングするスクレッパ8と、先端部が前記スクリーン版7を押圧した状態で移動しながら前記スクリーン版7上にコーティングされたペーストを該スクリーン版7の下の被印刷物11に押し出して印刷するスキージ9を備えるスクリーン印刷機であって、前記スキージ9は、該スキージ9の印刷移動方向前面(ペースト掻き出し面)において印刷の際にペーストと接触する領域に、該ペーストの流動を規制する複数の凸部及び/又は凹部(
図4においては凸部14)をスキージ長さ方向に所定の間隔で一列に配列して有することを特徴とするものである。なお、スキージ長さ方向とは、スキージの印刷移動方向に対して垂直となる方向である。
【0024】
ここで、スキージ9の形状は、平型スキージ、角型スキージ、剣型スキージ、先端カット型スキージなどのいずれでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0025】
また、スキージ9の主な素材は、ウレタンゴムなどの弾性材料が好適に用いられるが、金属製のものを使用してもよく、またこれらに限定されるものではない。なお、弾性材料からなるスキージ9の硬度は、JIS A硬さで60〜95度が好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0026】
また、スキージ9の大きさは、例えば厚さ3.0〜10.0mm、幅10〜100mm、長さ50〜2000mmであればよく(スキージ9の形状(厚さ、幅、長さ)は、
図5(a)を参照のこと)、例えば一辺15cmの正方形の板状の半導体基板1に対して電極パターンを印刷する場合は、厚さ6.0mm、幅50mm、長さ200mmのスキージが好適に用いられる。
またここで使用されるスキージは、スクレッパとしても用いることができる。
【0027】
なお、本発明において、被印刷物11は太陽電池素子用の基板であり、該基板においてこのような電極形成用のスクリーン印刷を行う対象となる面は、前述した反射防止膜兼パッシベーション膜3のような反射防止膜形成面、又は反射防止膜や拡散層を形成していない半導体基板面である。
【0028】
図5は、本発明の実施の形態におけるスキージの構造例を示す斜視図である。ここでは平型スキージを例にとって説明する。
図5(a)に示すように、スキージ9は、スクリーン版7にペーストを印刷するためのペースト掻き出し面(印刷移動方向前面)9aに複数の凸部14をスキージ長さ方向に所定の間隔で一列に配列して設けている。また、凸部14は、ペースト掻き出し面9aにおいて印刷の際にペーストと接触する領域に配置されている。
【0029】
また、凸部14の形状は、ペースト掻き出し面9aから突起していればその先端部は丸型や多角形型、波型など任意の形状でよく、
図5(a)に示すように円柱形状でよい。更に、凸部14の大きさは、ペースト掻き出し面9aに一定の間隔をあけて複数の凸部14を設けることができる範囲で任意の大きさでよい。また、凸部14同士の隣接間隔は1〜100mmが好ましく、10〜50mmがより好ましい。凸部14の隣接間隔が1mm未満ではペースト掻き出し面9aを遡るペーストが凸部14の間を通過することができない場合があり、100mm超ではペーストの流動抑制効果が不十分となるおそれがある。
【0030】
また、複数の凸部14は、スキージ9の前記先端部(スクリーン版7を押圧する先端部)の外縁に対して平行に配列されていることが好ましい。これにより、ペーストの流動を効率的かつ均一に抑制することができる。
なお、この凸部14は、ペーストを印刷するためのペースト掻き出し面9aとは反対の面にも同様に形成されていてもよい。
【0031】
このようなスキージ9を用いると、印刷時にスキージ9に掻き出されたペーストはペースト掻き出し面9a上を流動しようとするが凸部14に絡め取られやすくなり、その流動が規制されるようになる。このとき、凸部14同士はある一定の間隔で離間した状態で配置されていることから、ペーストがペースト掻き出し面9aを上方に遡ることが完全に制限されるわけではなく、ある程度の割合のペーストは凸部14の間を通ってペースト掻き出し面9aを上方に遡り、スキージ長さ方向に若干流動した後に再度スクリーン版7側に降りてくるのでスキージ9の長さ方向におけるスクリーン版7へのペーストの供給量の均一化を図ることができる。従って、凸部14のない従来のスキージ99を使用している場合と比較して、スキージ表面(ペースト掻き出し面9a)にペーストが残存しやすくなり、スキージ両端にペーストがはみ出しにくくなるとともに、スクリーン版7にペーストが均等に供給されて部分的な印刷のかすれが抑制される。更にそれだけでなく、印刷時のペースト利用効率が向上し、ペースト塗出量増大も見込める。また、このスキージ9を使用するときの印刷条件は、既存のスキージ99の使用時の印刷条件から変更する必要がない。
【0032】
このように、スキージ9を用いることで、太陽電池素子の製造工程のうち、スクリーン印刷法による電極形成工程において、スクリーン印刷領域からはみ出したペーストを作業者がその印刷領域の中央部に掻き寄せる手間を低減しペーストを有効に利用することができ、例えばペースト供給装置と併用すれば長時間無人運転することも可能である。更に、このスクリーン印刷機により、ペースト塗出量が増大し、印刷条件の設定が容易なスクリーン印刷を行うことができる。
【0033】
また、本発明で用いるスキージ9は、
図5(a)に示す構造に限るものではなく、例えば
図5(b)に示す構造としてもよい。
図5(b)では、スキージ9は、ペースト掻き出し面(印刷移動方向前面)9aに複数の凸部14と凹部15をスキージ長さ方向に所定の間隔で交互かつ一列に配列して設けている。これにより、スキージ9のペースト掻き出し面9a全体へ均一に、ペーストをより多く残存させることが可能になる。
【0034】
なお、凹部15の形状は、ペースト掻き出し面9aから凹んでいれば開口部において丸型や多角形型、波型など任意の形状でよく、
図5(b)に示すように丸穴でよい。
【0035】
また、隣接する凸部14同士及び凹部15同士の隣接間隔が1〜100mmであることが好ましく、10〜50mmがより好ましい。両者の隣接間隔が1mm未満ではペースト掻き出し面9aを遡るペーストが凸部14と凹部15の間を通過することができない場合があり、100mm超ではペーストの流動抑制効果が不十分となるおそれがある。
【0036】
以上のように、スキージ9のペースト掻き出し面(印刷移動方向前面)9aに複数の凸部14及び/又は凹部15を所定の配置パターンで形成することで、ペーストの利用効率の向上が見込める。
【0037】
なお、凸部14や凹部15を形成する対象は、スキージ9だけである必要は無く、スクリーン印刷時にペーストと接触し、そのままであればペーストがその接触領域で流動して印刷領域からはみ出してしまう箇所でもよい。例えば、スクリーン印刷機において、スキージを固定するクランプ部に、凸部14及び/又は凹部15を形成したカバーをスキージ9の印刷移動方向前面側に配置されるように取り付けた態様であっても同様の効果が見込める。これによれば、該凸部14及び/又は凹部15を形成したカバーがスクリーン印刷時に残存ペーストに接触することで、カバー表面にペーストが残存しやすくなり、端部にペーストがはみ出しにくくなるだけでなく、印刷時のペースト利用効率が上がり、ペースト塗出量の増大も見込める。なお、この凸部14及び/又は凹部15を形成したカバーと凸部14及び/又は凹部15を形成したスキージ9を併用してもよい。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明の実施例及び比較例を挙げて、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
まず、ボロンがドープされ、0.2mm厚にスライスして作製された比抵抗が約1Ω・cmのp型の単結晶シリコンからなるp型シリコン基板に外径加工を行うことによって、一辺15cmの正方形の板状とした。そして、このp型シリコン基板をフッ硝酸溶液中に15秒間浸漬させてダメージエッチングし、更に2質量%のKOHと2質量%のIPA(イソプロピルアルコール)を含む70℃の溶液で5分間化学エッチングした後に、純水で洗浄し、乾燥させることで、p型シリコン基板表面にテクスチャ構造を形成した。
【0040】
上記p型シリコン基板に対して、POCl
3ガス雰囲気中において、850℃の温度で30分間の条件で熱拡散処理を行うことにより、p型シリコン基板に拡散層(n層)を形成した。ここで用意したp型シリコン基板表面の熱処理後のシート抵抗は、一面が約80Ω/□、n層の拡散深さは0.3μmであった。
【0041】
その後、n層上に耐酸性樹脂を形成した後に、p型シリコン基板をフッ硝酸溶液中に10秒間浸漬することによって、耐酸性樹脂が形成されていない部分のn層を除去した。その後、耐酸性樹脂を除去することによって、p型シリコン基板の表面のみにn層を形成した。続いて、SiH
4とNH
3、N
2を用いたプラズマCVD法により、p型シリコン基板のn層が形成されている表面上に、反射防止膜兼パッシベーション膜となるSiNを厚さ1,000Åで形成した。
次に、p型シリコン基板のウラ面に、スクリーン印刷法を用いて、導電性アルミニウムペーストを印刷し、150℃で乾燥させた。次いで、p型シリコン基板のオモテ面に、スクリーン印刷法を用いて、導電性銀ペーストを印刷し、150℃で乾燥させてフィンガー電極を形成した。更に、これらのフィンガー電極と直交するように、バスバー電極を、スクリーン印刷法を用いて、導電性銀ペーストを印刷し、150℃で乾燥させた。
なお、このときのスクリーン印刷法では、
図4に示す構成のスクリーン印刷機を用いた。また、スキージ9の構成は、
図5(b)に示す厚さ6.0mm、幅50mm、長さ200mmのものであり、凸部14が径0.5mm、高さ0.5mmの円柱形状のもの、凹部15が径0.5mm、深さ0.5mmの丸穴である。
最後に、これまでの処理済の基板を、最高温度800℃で導電性ペーストを焼成して電極を形成することで、太陽電池素子を作製した。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、スクリーン印刷法による導電性ペースト印刷に使用するスキージを一般的な平スキージに代え(即ち、
図2の構成とし)、それ以外は実施例1の条件で太陽電池素子を作製した。
【0043】
以上のように、実施例1、比較例1の条件でそれぞれ1,000枚ずつの太陽電池素子を作製し、そのときの導電性ペーストのスクリーン印刷工程の基板1枚あたりの処理タクト、太陽電池素子の外観検査合格率、太陽電池素子の平均変換効率を求めた。なお、太陽電池素子の外観検査は電極の不良の有無を目視で検査するものであり、その目視検査で合格した割合を外観検査合格率とした。また、太陽電池素子の変換効率は該太陽電池素子をセル25℃、100mW/cm
2、スペクトルAM1.5グローバルの擬似太陽光照射時の電気特性を測定して求めた。
表1にその結果を示す。スクリーン印刷処理タクトは平均値である。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、本発明のスクリーン印刷機により印刷した実施例1では、比較例1と比較すると、良好な太陽電池素子の外観検査合格率や変換効率は維持したまま、太陽電池素子の導電性ペーストのスクリーン印刷工程における処理タクトを低減することが可能であった。また、スキージ両端にペーストがはみ出しにくくなることから作業者がはみ出したペーストを中央部に掻き寄せる手間を低減することができ、将来的に処理枚数を増やした場合の省人化も見込める。この印刷方法は、一般的なスクリーン印刷法に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 半導体基板
2 n型拡散層
3 反射防止膜兼パッシベーション膜
4 BSF層
5 表面電極
6 裏面電極
7 スクリーン版
8 スクレッパ
9、99 スキージ
9a ペースト掻き出し面
10 印刷ステージ
11 被印刷物
12 ペースト
13 はみ出しペースト
14 凸部
15 凹部