特許第5803830号(P5803830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5803830
(24)【登録日】2015年9月11日
(45)【発行日】2015年11月4日
(54)【発明の名称】銀粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20151015BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20151015BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
   H01B13/00 501Z
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-161449(P2012-161449)
(22)【出願日】2012年7月20日
(65)【公開番号】特開2014-19923(P2014-19923A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2014年10月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083910
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 正緒
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】岡田 美香
(72)【発明者】
【氏名】岡部 良宏
(72)【発明者】
【氏名】村上 明弘
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−077372(JP,A)
【文献】 特開2011−001581(JP,A)
【文献】 特開2006−152327(JP,A)
【文献】 特開2008−088453(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00− 9/30
B22F 1/00− 1/02
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀塩のアンミン錯体溶液と還元剤溶液を混合して銀粒子を得た後、濾過、洗浄、乾燥の各工程を経て銀粉を製造する方法であって、該洗浄工程において、分散剤として水溶性高分子か又は水溶性高分子と界面活性剤を添加し、該水溶性高分子の濃度が銀粒子に対して0.05〜5.00質量%の範囲である洗浄液で銀粒子を洗浄すると共に、少なくとも1回の洗浄時には分散剤と表面処理剤とを添加した洗浄液で銀粒子を洗浄することにより、分散剤が存在する状態で銀粒子に洗浄と表面処理とを同時に施すことを特徴とする銀粉の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤の界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、窒素型界面活性剤、シリコン型界面活性剤、フッ素型界面活性剤から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
前記洗浄液に添加する分散剤の界面活性剤の濃度が、銀粒子に対して0.002〜1.00質量%の範囲であることを特徴とする、請求項2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理剤が脂肪酸又はその塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項5】
前記洗浄液に添加する表面処理剤の脂肪酸又はその塩の濃度が、銀粒子に対して0.01〜1.00質量%の範囲であることを特徴とする、請求項に記載の銀粉の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤溶液に、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、変性シリコンオイル系界面活性剤、ポリエーテル系界面活性剤から選ばれた少なくとも1種の分散維持剤を添加することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【請求項7】
前記銀塩のアンミン錯体溶液が塩化銀をアンモニア水に溶解したものであり、前記還元剤溶液がアスコルビン酸を水に溶解したものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、電子機器の配線層や電極などの形成に利用される銀ペーストの主成分となる銀粉の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器における配線層や電極などの形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀ペーストが多用されている。これらの銀ペーストは、塗布又は印刷した後、加熱硬化あるいは加熱焼成されることによって、配線層や電極などとなる導電膜を形成することができる。
【0003】
例えば、樹脂型銀ペーストは、銀粉、樹脂、硬化剤、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて導電膜とし、配線や電極を形成する。また、焼成型銀ペーストは、銀粉、ガラス、溶剤などからなり、導電体回路パターン又は端子の上に印刷し、600℃〜800℃に加熱焼成して導電膜とし、配線や電極を形成する。これらの銀ペーストで形成された配線や電極では、銀粉が連なることで電気的に接続した電流パスが形成されている。
【0004】
銀ペーストに使用される銀粉は、粒径が0.1μmから数μmであり、形成する配線の太さや電極の厚さによって使用される銀粉の粒径が異なる。また、ペースト中に均一に銀粉を分散させることにより、均一な太さの配線、均一な厚さの電極を形成することができる。
【0005】
銀ペースト用の銀粉に求められる特性としては、用途及び使用条件により様々であるが、一般的で且つ重要なことは、粒径が均一で凝集が少なく、ペーストへの分散性が高いことである。粒径が均一で且つペーストへの分散性が高いことによって、硬化あるいは焼成が均一に進み、低抵抗で強度の大きい導電膜を形成できるからである。粒径が不均一であったり分散性が悪かったりすると、印刷膜中に銀粒子が均一に存在しないため、配線や電極の太さや厚さが不均一となるばかりか、硬化あるいは焼成が不均一となるため、導電膜の抵抗が大きくなったり、導電膜が脆く弱いものになったりしやすい。
【0006】
更に、銀ペースト用の銀粉に求められる事項として、製造コストが低いことも重要である。銀粉はペーストの主成分であり、ペースト価格に占める割合が大きいためである。銀粉の製造コストを低減させるためには、生産性が高いことや、使用する原料や材料の単価が低いだけでなく、製造過程での廃液や排気の処理コストが低いことも重要となる。
【0007】
上記した銀ペーストに使用される銀粉の製造は、バッチ式で行なわれることが多かった。即ち、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体を含む溶液が入った反応槽内に還元剤溶液を投入し、銀塩のアンミン錯体を還元して銀粒子を析出させる方法が一般的であった。しかし、バッチ式では、還元剤の投入されたポイントで還元反応が始まり、還元剤の投入開始から終了までの間に銀粒子の核が随時発生していくため、均一な粒径の銀粉を得ることは難しかった。
【0008】
そこで、バッチ式での還元による場合に、得られる銀粉の粒度分布をシャープにする提案もなされている。例えば、特開平11−189812号公報(特許文献1)には、硝酸銀などの銀塩のアンミン錯体と還元反応の際に媒晶剤として機能する重金属のアンミン錯体とを含むスラリーに、還元剤である亜硫酸カリ及び保護コロイドとしてのアラビアゴムを含む溶液を混合して、銀塩のアンミン錯体を還元する銀粉の製造方法が開示されている。
【0009】
この製造方法によれば、1次粒子の平均粒径が0.1〜1μmであり、低凝集で且つ粒度分布が狭い粒状銀粉が得られるとされている。しかし、この方法では、重金属のアンミン錯体の存在下で銀塩を還元するため、重金属が不純物として混入しやすく、得られる銀粉の純度が低下する可能性がある。
【0010】
また、連続式による銀粉の製造方法としては、銀塩のアンミン錯体を含む溶液と還元剤溶液を連続的に混合する方法も提案されている。例えば、特開2005−48236号公報(特許文献2)には、銀アンミン錯体溶液が流れる流路に還元剤溶液を合流することによって、銀アンミン錯体を還元する銀粉の製造方法が記載されている。しかしながら、この方法は、平均粒径が0.6μmまでの小さい銀粒子の製造方法であるため、用途が限られてしまうという欠点がある。
【0011】
上記した製造方法を含めて、銀源として用いる原料は硝酸銀が一般的である。しかしながら、硝酸銀はアンモニア水等への溶解過程で有毒な亜硝酸ガスを発生するため、これを回収する装置が必要となる。また、廃水中には硝酸系窒素やアンモニア系窒素が多量に含まれるので、これらを除去するための処理装置も必要となる。更に、硝酸銀は危険物であり劇物でもあるため、取り扱いに注意を要する。このように、硝酸銀を銀粉の原料として用いる場合には、環境に及ぼす影響やリスクが他の銀化合物に比べて大きいという問題点を抱えている。
【0012】
そこで、硝酸銀を原料とせずに、塩化銀を還元して銀粉を製造する方法も提案されている。塩化銀は危険物にも劇物にも該当せず、遮光の必要はあるものの、比較的取り扱いが容易な銀化合物であるという利点を有している。また、塩化銀は銀の精製プロセスの中間品としても存在し、電子工業用として十分な純度を有するものが提供されている。
【0013】
例えば、特開平10−265812号公報(特許文献3)には、塩化銀を銀濃度で1〜100g/lとなるようにアンモニア水に溶解した後、この溶液に保護コロイドの存在下で還元剤を加えて撹拌し、溶液中の銀アンミン錯体を液相還元して銀超微粒子を得る方法が記載されている。しかしながら、この方法で得られる銀粉の粒径は0.1μm以下と微細であるため、電子工業用としては用途が限られるものであった。
【0014】
上記した銀粉の製造方法は、いずれも湿式であるため銀粉を乾燥する工程が必要であり、その乾燥時に銀粉が凝集するという問題がある。加えて、出発原料として塩化銀を用いる場合、塩素が焼結を阻害することがあるため、塩素低減のために洗浄を行う必要があるが、この洗浄処理においても銀粉が凝集してしまう問題が生じる。そのため、銀粉の洗浄時を含めた製造過程での凝集抑制を目的として、銀粉に対する種々の表面処理方法が提案されている。
【0015】
例えば、特開平10−088206号公報(特許文献4)には、銀塩と酸化銀の少なくとも一方を含有する水性反応系に還元剤含有水溶液を添加して銀粒子を還元析出させ、銀粒子を還元析出させた後、その銀粉含有スラリーに分散剤として脂肪酸、脂肪酸塩、界面活性剤、有機金属及び保護コロイドのいずれか1種以上を添加する銀粉の製造方法が提案されている。
【0016】
この方法によれば、還元前に分散剤を添加しなくても分散性の優れた銀粉が得られるうえ、分散剤の添加量を任意に制御できるため、銀粉をペースト化して電極や回路導体パターンの形成に好適な塗膜又は焼成膜とすることができるとしている。しかしながら、分散剤の添加量についての検討はなされているものの、粒子表面に分散剤を吸着させる前に生じる銀粒子の凝集については考慮されていないため、凝集が少なく十分な分散性を有する銀粒子の表面に均一に表面処理が施された銀粉を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平11−189812号公報
【特許文献2】特開2005−48236号公報
【特許文献3】特開平10−265812号公報
【特許文献4】特開平10−088206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、銀塩のアンミン錯体を還元して平均粒径が0.1μmから数μmの銀ペースト用の銀粉を製造する際に、銀粒子の還元生成から洗浄までの過程で凝集を防止して、凝集の少ない銀粒子の表面に特性向上のための表面処理を均一に施すことができ、分散性に優れた銀粉の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成するため、銀塩のアンミン錯体を還元して得られる銀粒子の表面処理に関して検討を重ねた結果、還元により得られた銀粒子を分散剤が添加された洗浄液で洗浄すると共に、この洗浄液で表面処理を同時に行うことが有効であることを見出し、本発明に至ったものである。
【0020】
即ち、本発明による銀粉の製造方法は、銀塩のアンミン錯体溶液と還元剤溶液を混合して銀粒子を得た後、濾過、洗浄、乾燥の各工程を経て銀粉を製造する方法であって、該洗浄工程において、分散剤として水溶性高分子か又は水溶性高分子と界面活性剤を添加し、該水溶性高分子の濃度が銀粒子に対して0.05〜5.00質量%の範囲である洗浄液で銀粒子を洗浄すると共に、少なくとも1回の洗浄時には分散剤と表面処理剤とを添加した洗浄液で銀粒子を洗浄することにより、分散剤が存在する状態で銀粒子に洗浄と表面処理とを同時に施すことを特徴とする。
【0021】
上記本発明による銀粉の製造方法において、前記分散剤の界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、窒素型界面活性剤、シリコン型界面活性剤、フッ素型界面活性剤から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。また、前記洗浄液に添加する分散剤の界面活性剤の濃度は銀粒子に対して0.002〜1.00質量%の範囲であることが好ましい。
【0022】
上記本発明による銀粉の製造方法において、前記表面処理剤は、例えばペースト化の際の分散性を向上させるため、脂肪酸又はその塩であることが好ましい。また、前記洗浄液に添加する表面処理剤の脂肪酸又はその塩の濃度は、銀粒子に対して0.01〜1.00質量%の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、洗浄中の銀粒子の凝集を抑制しながら、均一に分散した状態の銀粒子に表面処理を施すことが可能となり、銀粒子表面が均一に表面処理された分散性に優れた銀粉を得ることができる。従って、本発明によって得られる銀粉は、表面処理の状態が均一でバラツキがなく、親油性を付与する表面処理によってペースト化する際に有機溶媒中での分散性が向上するため、電子機器の配線層や電極などの形成に利用される樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストなどのペースト用銀粉として極めて好適なものである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の銀粉の製造方法においては、原料の銀化合物として硝酸銀や塩化銀などの銀塩を用いる。ただし、塩化銀を原料とすることによって、硝酸銀を原料としたときの亜硝酸ガスの回収装置や廃水中の硝酸系窒素の処理装置を設置する必要がなくなり、環境への影響が少ないプロセスになると同時に、製造コストを低減することができるため、塩化銀を原料とすることが好ましい。
【0025】
原料である塩化銀などの銀塩は、アンモニア水に溶解して銀塩のアンミン錯体溶液とする。銀塩の溶解方法としては、例えば銀塩のスラリーを作製してアンモニア水を添加してもよいが、錯体濃度を高めて生産性を上げるためにはアンモニア水中に銀塩を添加して溶解することが好ましい。尚、原料の銀塩は高純度のものを用いることが好ましく、例えば工業用に安定的に製造されている高純度塩化銀などを用いることができる。銀塩を溶解するアンモニア水は、工業的に用いられる通常のものでよいが、不純物混入を防止するため可能な限り高純度のものが好ましい。
【0026】
この銀塩のアンミン錯体溶液に還元剤溶液を添加して還元することにより、銀粒子を生成析出させることができる。還元剤としては、一般的なヒドラジンやホルマリンなどを用いることもできるが、還元力が強いため銀粒子中の結晶が小さくなりやすい。一方、アスコルビン酸は還元作用が緩やかであり、銀粒子中の結晶粒が成長しやすいため、本発明の還元剤として特に好ましい。また、還元反応の均一性あるいは反応速度を制御するため、還元剤を純水で希釈して水溶液とすることが好ましく、特にアスコルビン酸の水溶液が好ましい。
【0027】
このような還元剤溶液には、還元により生成した核や核が成長した銀粒子の凝集を防ぐために、分散維持剤を添加することが好ましい。分散維持剤は水溶性のものが好ましく、後の表面処理後の純水洗浄により除去可能なもの、あるいは、洗浄除去できない場合でもペーストの硬化あるいは焼成を阻害しないものであることが好ましい。具体的には、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンなどの水溶性高分子、あるいは変性シリコンオイル系界面活性剤やポリエーテル系界面活性剤が好ましく、これらの水溶性高分子及び界面活性剤から選ばれた少なくとも1種の分散維持剤を用いることが好ましい。
【0028】
分散維持剤は、銀塩のアンミン錯体溶液に添加混合しておくことも選択肢としてはあり得るが、還元剤溶液に混合しておく方が分散性の良い銀粉が得られることが確認された。この事実は実験的に確認された結果であるが、還元剤溶液と水溶性高分子のポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンを混合しておくことによって、核発生あるいは核成長の場に水溶性高分子が存在し、生成した核あるいは銀粒子の表面に迅速に水溶性高分子が吸着するためと考えられる。
【0029】
還元剤溶液への分散維持剤の添加量は、分散維持剤の種類及び得ようとする銀粉の粒径により適宜定めればよいが、上記いずれの分散維持剤を用いた場合であっても、銀塩のアンミン錯体溶液中に含有される銀に対して3〜10質量%の範囲とすることが好ましい。尚、分散維持剤のポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンは、還元反応時に発泡する場合があるため、銀塩のアンミン錯体溶液又は還元剤溶液に消泡剤を予め添加しておくこともできる。消泡剤は還元時に通常使用されているものでよいが、還元反応を阻害しないように添加量は消泡効果が得られる最小限程度に留めておくことが好ましい。
【0030】
尚、上記銀塩のアンミン錯体溶液及び還元剤溶液を調製する際に用いる水については、得られる銀粉への不純物の混入を防止するため、不純物が除去された水を用いることが好ましく、純水を用いることが特に好ましい。
【0031】
上記のごとく調製した銀塩のアンミン錯体溶液と還元剤溶液とを混合する還元工程により、銀塩のアンミン錯体を還元して銀粒子を析出させる。還元方法としては、バッチ法を用いることも、チューブリアクター法やオーバーフロー法のような連続還元法を用いることもできる。ただし、均一な粒径を有する銀粒子を得るためには、粒成長時間の制御が容易なチューブリアクター法を用いることが好ましい。また、銀粒子の粒径は、銀塩のアンミン錯体溶液と還元剤溶液の混合速度や銀塩のアンミン錯体の還元速度で制御することが可能であり、目的とする粒径に容易に制御することができる。
【0032】
上記還元工程で得られた銀粒子は、表面に分散維持剤などの表面吸着物が存在しており、特に塩化銀や水溶性高分子を用いた場合には多量の塩素イオンや水溶性高分子が吸着している。従って、銀ペーストを用いて形成される配線層や電極の導電性を十分なものとするために、上記還元工程で得られた銀粒子を次の洗浄工程において洗浄し、これらの表面吸着物を洗浄により除去する必要がある。
【0033】
洗浄工程で用いる洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、上記還元工程で得られた銀粒子のスラリーから固液分離して回収した銀粒子を洗浄液に投入し、撹拌機又は超音波洗浄器を使用して撹拌洗浄した後、再び固液分離して銀粒子を回収する方法が一般的に用いられる。また、表面吸着物を十分に除去するために、銀粒子の洗浄液への投入、撹拌洗浄、及び固液分離からなる操作を、数回繰り返して行うことが好ましい。
【0034】
上記洗浄液としては、銀粒子に対して有害な不純物元素を含有していない水が好ましく、特に純水が好ましいが、塩素を効率よく除去するためにアルカリ水溶液を用いることもできる。アルカリ水溶液は、特に限定されるものではないが、残留する不純物が少なく且つ安価な水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。また、水酸化ナトリウム水溶液の濃度は、0.01mol/l未満では洗浄効果が不十分であり、1.0mol/lを超えるとナトリウムが許容量以上に残留することがあるため、0.01〜1.0mol/lの範囲が好ましい。尚、洗浄液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液での洗浄後、ナトリウムを十分に除去するために銀粒子又はそのスラリーを更に水で洗浄することが好ましい。
【0035】
上記洗浄液には分散剤を添加する。銀粒子に吸着していた塩素イオンや水溶性高分子が洗浄除去されても、分散剤の添加により洗浄液中での銀粒子の凝集が抑制され、洗浄液中に分散した状態の銀粒子の表面全体に均一な分散剤の吸着が可能となる。分散剤としては、水溶性高分子及び界面活性剤のいずれか片方又は両方を用いることができる。水溶性高分子としてはポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンが好ましく、界面活性剤としてはアニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、窒素型界面活性剤、シリコン型界面活性剤、フッ素型界面活性剤から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0036】
分散剤の洗浄液への添加は、洗浄液による洗浄後に銀粒子を水洗することにより除去できる濃度範囲、又は水洗で残留してもペーストの焼結を阻害しない濃度範囲で使用する。具体的な分散剤の添加量は、水溶性高分子の場合は、洗浄液中の銀に対して0.05〜5.00質量%の範囲が好ましい。また、界面活性剤の場合は、銀粒子に対して0.002〜1.00質量%の範囲が好ましい。分散剤の添加量が上記範囲より少ないと、銀粒子の凝集抑制あるいは分散剤の吸着性改善の効果が得られないことがある。一方、添加量が上記範囲を超えると、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性が低下するため好ましくない。
【0037】
上記洗浄工程では、1回のみの洗浄でも複数回の洗浄を行う場合であっても、少なくとも1回の洗浄において、分散剤を添加した洗浄液に更に表面処理剤を添加して洗浄することにより、分散剤が存在する状態で洗浄と表面処理とを同時に施すことが必要である。本発明の銀粉の製造方法においては、還元工程及び洗浄工程のいずれでも液中に分散維持剤あるいは分散剤が添加され、銀粒子の分散状態を維持することができるが、更に、その分散状態で銀粒子の表面処理を行うことにより、分散した個々の銀粒子の表面全体に、均一に表面処理剤を吸着させることができる。即ち、凝集が極めて少ない状態で銀粒子表面に分散剤や表面処理剤を吸着させるため、未吸着部がほとんどなくなり、得られる銀粉の分散性を大幅に改善することができる。
【0038】
上記表面処理剤としては、ペースト化の際の有機溶剤中における分散性を向上させるため、脂肪酸又はその塩を用いることができる。また、具体的な脂肪酸としては、ステアリン酸、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、リノレン酸から選ばれた少なくとも1種を好適に使用することができる。これらの脂肪酸は、沸点が比較的低く、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極への悪影響が少ないため特に好ましい。尚、脂肪酸又はその塩は、エマルジョンとして洗浄液に添加することもできる。
【0039】
上記表面処理剤の添加量は、銀粒子に対して0.01〜1.00質量%の範囲が好ましい。表面処理剤の種類により銀粒子への吸着量は異なるが、表面処理剤の添加量が0.01質量%未満では、凝集抑制の効果が十分に得られる量の表面処理剤が銀粒子表面に吸着されないことがある。一方、表面処理剤の添加量が1.00質量%を超えると、銀粒子に吸着される表面処理剤の量が多くなり過ぎ、銀ペーストを用いて形成された配線層や電極の導電性に悪影響を与えることがあるため好ましくない。
【0040】
上記洗浄工程を終えた銀粒子は固液分離し、回収した銀粉を乾燥工程において水分を蒸発させて乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、回収した銀粉をステンレスパッド上に置き、大気オーブン又は真空乾燥機などの市販の乾燥装置を用いて、40〜80℃の温度で加熱する方法などが使用できる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
38℃の温浴中において、液温36℃に保持した25%アンモニア水1045mlに、塩化銀(住友金属鉱山(株)製)146gを撹拌しながら投入して、銀塩のアンミン錯体溶液を作製した。上記銀塩のアンミン錯体溶液に、消泡剤(商品名:アデカノールLG−126、(株)アデカ製)を体積比で100倍に希釈した消泡剤希釈液1.4mlを添加して、温浴中において36℃に保持した。
【0043】
次に、還元剤のアスコルビン酸(関東化学(株)製、試薬)47.1gを、36℃の純水190mlに溶解して還元剤溶液とした。また、分散維持剤のポリビニルアルコール(商品名:PVA205、(株)クラレ製)5.3gと、変性シリコンオイル系界面活性剤(商品名:SS-5602、日本エマルジョン(株)製)0.66gとを分取し、36℃の純水96mlに溶解して分散維持剤溶液とした。この分散維持剤溶液を上記還元剤溶液に添加混合した。
【0044】
上記分散維持剤溶液を添加混合した還元剤溶液と上記銀塩のアンミン錯体溶液とを、モーノポンプ(兵神装備(株)製)を使用して、それぞれ2.12リットル/min及び0.70リットル/minの流速で塩ビ製パイプの樋(内径25mm及び長さ725mm)に送液し、還元反応により銀粒子を析出させた。得られた銀粒子を含むスラリーは、全て樋から受槽内に撹拌しながら回収した。この時の還元速度はAg量で200g/minであった。尚、銀のアンミン錯体溶液の供給速度に対する還元剤溶液の供給速度の比は1.2とした。全ての銀粒子スラリーを回収した後、受槽内での撹拌を30分間継続した。撹拌終了後の銀粒子スラリーを開口径0.1μmのメンブランフィルターを使用して濾過し、銀粒子を固液分離した。
【0045】
続いて、得られた銀粒子を、分散剤のポリビニルアルコール(商品名:PVA205、(株)クラレ製)0.06gを溶解した分散剤溶液50mlと共に、濃度0.01mol/lのNaOH水溶液1054ml中に投入し、15分間撹拌して洗浄した後、開口径0.1μmのメンブランフィルターで濾過して回収する洗浄処理を2回繰り返した。回収した銀粒子と、ポリビニルアルコール0.06gを溶解した分散剤液50mlと、表面処理剤のステアリン酸エマルジョン(商品名:セロゾール920、中京油脂(株)製)2.2gとを、濃度0.01mol/lのNaOH水溶液に投入し、撹拌して洗浄し、濾過して銀粒子を固液分離した。
【0046】
上記3回の洗浄処理が終了して回収された銀粒子を、純水1054ml中に投入し、撹拌して水洗した後、濾過した銀粒子をステンレスパッドに移し、真空乾燥機にて60℃で10時間乾燥して銀粉を得た。分散剤と表面処理剤を添加した洗浄時の銀スラリー中の分散状態をインライン粒子測定器(商品名:FBRM、METTLER TOLEDO社製)で測定したところ、銀粉の平均粒径が15.64μmであり、スラリー中で銀粉が均一に分散した状態で表面処理されていることが確認された。
【0047】
[実施例2]
還元反応で得られた銀粒子を洗浄処理する際に、分散剤のポリビニルアルコール0.55gを溶解した分散剤液50mlと共に、濃度0.01mol/lのNaOH水溶液1054ml中に投入して洗浄したこと以外は、上記実施例1と同様にして銀粉を製造した。
【0048】
上記実施例1と同様に分散剤と表面処理剤を添加した洗浄時の銀スラリー中の分散状態をインライン粒子測定器で測定したところ、銀粉の平均粒径が10.97μmであり、スラリー中で銀粉が均一に分散した状態で表面処理されていることが確認された。
【0049】
[実施例3]
還元反応で得られた銀粒子を洗浄処理する際に、分散剤のポリビニルアルコール5.50gを溶解した分散剤液50mlと共に、濃度0.01mol/lのNaOH水溶液1054ml中に投入して洗浄したこと以外は、上記実施例1と同様にして銀粉を製造した。
【0050】
上記実施例1と同様に分散剤と表面処理剤を添加した洗浄時の銀スラリー中の分散状態をインライン粒子測定器で測定したところ、銀粉の平均粒径が7.35μmであり、スラリー中で銀粉が均一に分散した状態で表面処理されていることが確認された。
【0051】
[比較例1]
還元反応で得られた銀粒子を洗浄処理する際に、分散剤のポリビニルアルコールを溶解した分散剤液をNaOH水溶液中に投入しなかったこと以外は上記実施例1と同様にして銀粉を製造した。
【0052】
洗浄時の銀スラリー中の分散状態をインライン粒子測定器で測定したところ、銀粉の平均粒径が38.69μmであり、上記各実施例による銀粉と比較してスラリー中で銀粉が凝集した状態で表面処理されていることが確認された。