(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に、ワイヤハーネスにおける絶縁電線の端部には、金属製の圧着端子が取り付けられる。特許文献1,2に示されるように、圧着端子は、被覆圧着部、芯線圧着部及び接点部を有する場合が多い。被覆圧着部は、絶縁電線の端部における絶縁被覆に圧着される部分である。芯線圧着部は、絶縁電線の端部における絶縁被覆から延び出た芯線に圧着される部分である。また、接点部は、相手側の端子と嵌り合うことによって相手側の端子に接続される部分である。
【0003】
なお、被覆圧着部、芯線圧着部及び接点部は、それぞれインシュレーションバレル、ワイヤバレル及びコンタクトと称される。一般に、圧着端子は、銅又は銅の合金など、銅を主成分とする金属材料で構成される。
【0004】
そして、被覆圧着部及び芯線圧着部の各々の一部が曲げられて絶縁被覆及び芯線に対してかしめられることにより、被覆圧着部が絶縁電線の絶縁被覆の部分を把持し、芯線圧着部が絶縁電線の芯線を把持する。その結果、圧着端子は、絶縁電線の端部に固定される。以下、端部に圧着端子が取り付けられた絶縁電線のことを端子付電線と称する。
【0005】
圧着端子において、被覆圧着部は圧着端子を絶縁電線に強固に保持する役割を担い、芯線圧着部は主として圧着端子と絶縁電線の芯線とを電気的に接続する役割を担う。
【0006】
ところで、端子付電線において、絶縁電線の芯線がアルミニウム線である場合、銅を主成分とする圧着端子と接触するアルミニウム線は、雨水又は結露水などの電解液が付着した場合に、異種金属接触腐食によって腐食しやすい。端子付電線における異種金属接触腐食を防止するためには、合成樹脂などの非導電性の部材の被覆によって絶縁電線の芯線における圧着端子から露出した部分を覆うことが有効である。
【0007】
異種金属接触腐食の回避のため、特許文献1,2に示される端子付電線は、絶縁電線の芯線における圧着端子から露出した部分を覆う防食被覆を備える。この防食被覆は、絶縁電線の芯線と圧着端子の芯線圧着部とが接触する部分への液体の浸入を防ぐために設けられている。
【0008】
特許文献1の端子付電線において、防食被覆は、絶縁電線と圧着端子との接続部分に融解した合成樹脂が塗布されることによって形成される。この場合、融解した合成樹脂が滴下されることによって防食被覆が形成される。また、特許文献2の端子付電線において、防食被覆は金型を用いた合成樹脂のインサート成形によって形成される。特許文献1に示される防食被覆は、金型装置を用いることなく簡易に形成可能である点、及び使用樹脂量が少ない点において好適である。なお、特許文献1において、防食被覆の合成樹脂として、シリコン系、アクリル系、ウレタン系、ポリアミド系又はエポキシ系の合成樹脂などを使用できるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に示されるように、防食被覆が融解した合成樹脂の滴下によって形成される場合、融解した合成樹脂の供給位置に対する端子付電線における圧着端子の位置がばらつくと、防食被覆の形成範囲及び厚みの不良(ばらつき)が生じる。
【0011】
防食被覆の形成範囲及び厚みの不良は、防食性能の不良につながる。例えば、防食被覆の厚みが薄すぎると、防食被覆に浅い亀裂が生じただけで、その亀裂が芯線部へ到達し、芯線への液体の浸入経路が形成されてしまう。また、防食被覆の形成範囲が不足している場合も同様である。そのため、従来の端子付電線において、防食被覆は、比較的大きな設計余裕が見込まれた広い範囲及び大きな厚みで形成されることが必要となる。この場合、合成樹脂の必要量が増大する。
【0012】
以上に示されたことから、端子付電線の防食被覆が形成される工程において、端子付電線の圧着端子における絶縁電線との接続部(圧着部)が、高い精度で位置決めされることが重要となる。さらにその場合、端子付電線を位置決めする部材が、滴下される合成樹脂に接触しないことが必要である。
【0013】
ところで、端子付電線における圧着端子は、圧着工程で加わる圧力により、圧着部と接点部との間において若干の曲がり及びねじれが生じることがある。また、圧着工程のばらつきにより、複数の端子付電線において、圧着端子における圧着部と接点部との間の曲がり度合い及びねじれ度合いにばらつきが生じる。
【0014】
従って、防食被覆の形成工程において、端子付電線が接点部の固定によって位置決めされると、圧着端子の圧着部の位置のばらつきが生じやすい。一方、端子付電線が、絶縁電線における圧着端子と接触していない部分、即ち、絶縁被覆の部分の固定によって位置決めされると、絶縁被覆の弾性変形に起因して圧着端子の圧着部の位置のばらつきが生じやすい。
【0015】
以上に示したことから、端子付電線の防食被覆が形成される工程において、滴下される合成樹脂に接触することなく、端子付電線における圧着端子の圧着部を高い精度で位置決めすることは難しい。
【0016】
本発明の目的は、端子付電線において合成樹脂の防食被覆が形成される場合に、滴下される合成樹脂に接触することなく、端子付電線における圧着端子の圧着部を高い精度で位置決めできる位置決め具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1態様に係る端子付電線の位置決め具は、以下に示す各構成要素を備える。ここで、端子付電線は、絶縁電線及びその絶縁電線の端部に圧着された圧着端子を含む。
(1)第1の構成要素は、一の直線に沿う溝を形成し、その溝の内側面に、開口側から底側へ上記一の直線に対し線対称に徐々に間隔が狭まる一対の面からなるテーパ面を含み、そのテーパ面で上記端子付電線の上記圧着端子における上記絶縁電線の絶縁被覆の部分に圧着された被覆圧着部の底面における両側面に繋がる一対の縁部を支える底面位置決め部である。
(2)第2の構成要素は、上記溝に沿って配置される上記圧着端子における相手端子と接続される接点部の先端に接する先端位置決め部である。
(3)第3の構成要素は、上記一の直線に沿って配置される上記絶縁電線における上記圧着端子と接触していない絶縁被覆の部分の両側面に接する側面位置決め部である。
(4)第4の構成要素は、上記一の直線に沿って配置される上記絶縁電線における上記圧着端子と接触していない絶縁被覆の部分を上記溝の深さ方向において押さえることにより、上記圧着端子の上記被覆圧着部を上記テーパ面に押し付ける電線押さえ部である。
【0018】
本発明の第2態様に係る端子付電線の位置決め具は、第1態様に係る端子付電線の位置決め具の一態様である。第2態様に係る端子付電線の位置決め具は、さらに以下に示される構成要素を備えている。
(5)第5の構成要素は、上記底面位置決め部と上記先端位置決め部との間において、上記圧着端子における上記絶縁電線と接触していない部分を上記溝の深さ方向において押さえることにより、上記圧着端子の上記被覆圧着部を上記テーパ面に押し付ける端子押さえ部である。
【発明の効果】
【0019】
上記の各態様において、上記一の直線は、位置決めされる端子付電線における絶縁電線の中心線(軸心)の目標線である。以下の説明において、その目標線に沿う方向、即ち、端子付電線の長手方向のことを第一方向と称する。また、底面位置決め部の溝の幅方向及び深さ方向のことを、それぞれ第二方向及び第三方向と称する。なお、第一方向、第二方向及び第三方向は相互に直交する。
【0020】
上記の各態様において、先端位置決め部が、端子付電線の圧着端子を第一方向において位置決めする。また、側面位置決め部が、端子付電線における絶縁電線の部分を第二方向において位置決めすることにより、圧着端子の圧着部を間接的に第二方向において位置決めする。そして、底面位置決め部のテーパ面が、端子付電線における圧着端子の圧着部を第三方向において直接位置決めするとともに、圧着部が目標線を中心とする回転方向において傾くことを防ぐ。また、電線押さえ部は、圧着端子の底面が底面位置決め部のテーパ面から浮き上がることを防ぐ。
【0021】
上記の各態様に係る端子付電線の位置決め具においては、圧着端子の接点部は、第二方向及び第三方向において位置が規制されていない。そのため、圧着端子における圧着部と接点部との間の曲がり度合い及びねじれ度合いのばらつきは、圧着部の第二方向及び第三方向の位置決め、並びに目標線を中心とする回転方向の傾きに影響しない。さらに、圧着端子の曲がり度合い及びねじれ度合いのばらつきの、第一方向における圧着部の位置への影響はごく小さい。
【0022】
また、上記の各態様に係る端子付電線の位置決め具において、端子付電線を位置決めする各部分は、圧着端子の圧着部における上面及び両側面に接触しない。そのため、圧着部の上方から滴下される合成樹脂が、端子付電線を位置決めする各部分に接触することは回避される。
【0023】
以上に示されたことから、上記の各態様に係る端子付電線の位置決め具によれば、端子付電線において合成樹脂の防食被覆が形成される場合に、滴下される合成樹脂に接触することなく、端子付電線における圧着端子の圧着部を高い精度で位置決めすることが可能となる。
【0024】
また、上記第2態様において、端子押さえ部は、圧着端子の圧着部が接点部側において底面支え部のテーパ面から浮き上がることを防ぐ。これにより、底面支え部による圧着端子の位置決めがより確実になされる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を具体化した一例であり、本発明の技術的範囲を限定する事例ではない。各実施形態における端子付電線位置決め具は、車両に搭載されるワイヤハーネスの製造工程において、そのワイヤハーネスの一部を構成する端子付電線90を位置決めするための用具である。
【0027】
<端子付電線>
端子付電線位置決め具の説明の前に、
図8〜10を参照しつつ、位置決めの対象となる端子付電線90について説明する。端子付電線90は、絶縁電線9と、その端部に取り付けられた圧着端子10とを含む。また、
図8〜10には、絶縁電線9の端部に形成された防食被覆8を含む端子付電線90が示されている。
【0028】
<絶縁電線>
図8〜10に示されるように、絶縁電線9は、長尺な導体である芯線と、その芯線の周囲を覆う絶縁体である絶縁被覆と、を有している。通常、芯線は、細い導体からなる複数の素線が撚り合わされた撚り線であるが、芯線が単線であることも考えられる。圧着端子10が取り付けられる絶縁電線9の端部は、予め一定の長さの分の芯線の周囲から絶縁被覆が剥がれた状態、即ち、一定の長さ分の芯線が絶縁被覆から延び出た状態に加工されている。
【0029】
以下、絶縁電線9の端部において、絶縁被覆の端から延び出た芯線を裸芯線部91と称する。また、絶縁電線9における絶縁被覆の端部の一定の範囲(数ミリメートルから十数ミリメートル程度の長さの範囲)の部分を被覆端部92と称する。また、絶縁電線9における圧着端子10と接触していない絶縁被覆の部分のうち、被覆圧着部20が圧着された被覆端部92寄りの部分のことを非圧着端部93と称する。
【0030】
端子付電線90において、絶縁電線9の芯線は、例えば、銅又はアルミニウムを主成分とする金属の線材である。絶縁電線9は、被覆端部92から裸芯線部91の先端までの領域において圧着端子10と接触している。
【0031】
<圧着端子>
図8〜10に示されるように、圧着端子10は、一列に並んで形成された、被覆圧着部20、第一連結部30、芯線圧着部40、第二連結部50及び接点部60を備えている。
【0032】
以下、圧着端子10における被覆圧着部20から芯線圧着部40及び接点部60へ向かう直線方向を延伸方向と称する。延伸方向は、圧着端子10が取り付けられる絶縁電線9の長手方向でもある。
【0033】
圧着端子10は、銅もしくは黄銅などの銅合金の部材、又はそれらの部材に錫(Sn)メッキもしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金のメッキが施された導体の部材である。
【0034】
<圧着端子:被覆圧着部>
被覆圧着部20は、曲がって形成された板状の部分であり、絶縁電線9に圧着される前の状態において、絶縁電線9の被覆端部92が挿入される溝を形成している。即ち、被覆圧着部20は、被覆圧着部20が形成する溝の内側に挿入された被覆端部92の周囲に沿って曲げられることにより、被覆端部92に対して圧着される。
【0035】
被覆圧着部20は、第一底板部201と、2つの被覆かしめ部202とを有する。第一底板部201は、圧着端子10が取り付けられる対象の絶縁電線9における被覆端部92を一の方向から支える部分である。また、2つの被覆かしめ部202は、第一底板部201から被覆端部92の両側へ起立して形成された部分である。
【0036】
以下、延伸方向に直交し、2つの被覆かしめ部202が対向する方向を幅方向と称する。さらに、延伸方向及び幅方向に直交する方向を高さ方向と称する。従って、第一底板部201は、絶縁電線9における被覆端部92を高さ方向における一方の側から支える。
【0037】
各被覆かしめ部202における先端側の一部の範囲を占める部分は、第一底板部201に対向する向きへ折り曲げられて被覆端部92にかしめられている。また、各被覆かしめ部202における根元側の一部の範囲を占める部分は、被覆圧着部20の両側面を形成している。
【0038】
なお、本明細書において、被覆圧着部20の底面、側面及び上面との用語は、便宜上、被覆端部92の四方の面を区別するために用いられており、端子付電線90が敷設された状態における上下左右の方向とは関係しない。
【0039】
本実施形態に示される被覆圧着部20は、2つの被覆かしめ部202が重ねられて被覆端部92にかしめられる重ね合わせタイプである。しかしながら、被覆圧着部20は、2つの被覆かしめ部202が重ならない突き合わせタイプであること、或いは、筒状に形成されたクローズドバレルタイプであることも考えられる。
【0040】
なお、第一底板部201及び被覆かしめ部202は、いずれも概ね平板状である場合の他、湾曲した周面を形成する被覆端部92の外形に沿うように、湾曲した板状である場合もある。
【0041】
<圧着端子:芯線圧着部>
芯線圧着部40は、絶縁電線9に圧着される前の状態において、曲がって形成された板状の部分であり、絶縁電線9の裸芯線部91が挿入される溝を形成している。そして、芯線圧着部40は、芯線圧着部40が形成する溝の内側に挿入された裸芯線部91に対して圧着される。
【0042】
芯線圧着部40は、第二底板部401と、2つの芯線かしめ部402とを有する。第二底板部401は、圧着端子10が取り付けられる対象の絶縁電線9における裸芯線部91を高さ方向の一方の側から支える部分である。また、2つの芯線かしめ部402は、第二底板部401から裸芯線部91の両側へ起立して形成された部分である。
【0043】
各芯線かしめ部402における先端側の一部の範囲を占める部分は、第二底板部401に対向する向きへ折り曲げられて裸芯線部91にかしめられている。本実施形態に示される芯線圧着部40は、2つの芯線かしめ部402が重ならない突き合わせタイプである。しかしながら、芯線圧着部40は、2つの芯線かしめ部402が重ねられて裸芯線部91にかしめられる重ね合わせタイプであること、或いは、筒状に形成されたクローズドバレルタイプであることも考えられる。
【0044】
第二底板部401及び芯線かしめ部402は、いずれも概ね平板状である場合の他、裸芯線部91の外形に沿うように湾曲した板状である場合もある。
【0045】
圧着端子10は、端子付電線90の製造工程の一部である端子圧着工程において、不図示の端子圧着装置により絶縁電線9の端部に圧着される。端子圧着装置は、絶縁電線9の端部が嵌め入れられた圧着端子10の第一底板部201及び第二底板部401を支持するアンビルと、圧着端子10の被覆かしめ部202及び芯線かしめ部402を内側へ折り曲げてかしめるクリンパとを備える。アンビル及びクリンパは、支持機構により、相互に対向する状態で接近すること及び離隔することが可能に支持されている。
【0046】
アンビル及びクリンパの一方又は両方が、それらが接近する方向へ移動することにより、圧着端子10は、アンビルとクリンパとの間で押しつぶされつつ被覆端部92及び裸芯線部91に圧着される。その際、2つの被覆かしめ部202は、クリンパにおける湾曲した成形面に沿って第一底板部201に対向する向きへ曲がり、被覆端部92へかしめられる。また、2つの芯線かしめ部402は、クリンパの成形面に沿って第二底板部401に対向する向きへ曲がり、裸芯線部91にかしめられる。
【0047】
また、第一底板部201の外側面、即ち、被覆圧着部20の底面は、アンビルにおける予め定められた曲率半径で湾曲した成形面に沿って円弧面状に成形される。
【0048】
<圧着端子:第一連結部>
第一連結部30は、被覆圧着部20と芯線圧着部40とを繋ぐ部分である。第一連結部30は、曲がって形成された板状の部分であり、被覆端部92及び裸芯線部91の境界部分が挿入される溝を形成している。そして、第一連結部30は、第一底板部201と第二底板部401とを繋ぐ第三底板部301と、第三底板部301から絶縁電線9の両側へ延びて起立した2つの側壁部302とを有する。
【0049】
<圧着端子:第二連結部>
第二連結部50は、芯線圧着部40と接点部60を繋ぐ部分である。第二連結部50は、曲がって形成された板状の部分であり、溝を形成している。裸芯線部91の先端部分が、芯線圧着部40から第二連結部50が形成する溝へはみ出す場合もあるが、そうでない場合もある。そして、第二連結部50は、第二底板部401に繋がる第四底板部501と、第四底板部501から延びて起立した2つの側壁部502とを有する。
【0050】
<圧着端子:接点部>
接点部60は、圧着端子10の接続相手となる不図示の相手側端子と嵌り合うことによって相手側端子と直接接触し、相手側端子に接続される部分である。
図8〜10に示される接点部60は、相手側端子が嵌め入れられる孔が形成された筒状の部分である。なお、接点部60が、相手側端子の端子挿入孔に嵌め入れられる棒状の導体である場合もある。
【0051】
<防食被覆>
端子付電線90において、絶縁電線9の芯線(裸芯線部91)と圧着端子10とは、それぞれ異種の金属で構成されていることが考えられる。例えば、芯線が、アルミニウム線、即ち、アルミニウムを主成分とする金属(アルミニウムまたはアルミニウム合金)の線材であることが考えられる。一方、圧着端子10が、銅もしくは黄銅などの銅合金の部材、又はそれらの部材に錫(Sn)メッキもしくは錫に銀(Ag)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)などが添加された錫合金のメッキが施された部材であることが考えられる。この場合、圧着端子10と接触する裸芯線部91は、異種金属接触腐食によって腐食しやすい。
【0052】
端子付電線90における絶縁電線9の端部には、裸芯線部91の腐食を防ぐための防食被覆8が形成されている。端子付電線90において、裸芯線部91の腐食防止のために防食被覆8で覆われるべき領域は、少なくとも絶縁電線9における被覆端部92の末端から裸芯線部91の先端までの領域である。以下、この領域のことを保護領域と称する。
【0053】
端子付電線90において、防食被覆8は、絶縁電線9の保護領域における圧着端子10から露出した部分を覆う合成樹脂の部材である。例えば、防食被覆8は、絶縁電線9の被覆端部92に圧着された被覆圧着部20の中間位置から、第二連結部50の延伸方向における中間位置までの範囲において、その範囲に存在する絶縁電線9における圧着端子10から露出した部分を覆うように形成されている。即ち、防食被覆8は、端子付電線90における芯線の露出部分全体を覆って密封している。
【0054】
端子付電線90の保護領域は、不図示のコネクタのキャビティ内に挿入される。そのため、防食被覆8は、コネクタ内のキャビティを形成する隔壁との干渉を避けるため、十分な防水性能を果たす範囲内で極力薄く形成されることが望ましい。
【0055】
防食被覆8は、例えば、シリコン系、アクリル系、ウレタン系、ポリアミド系又はエポキシ系の合成樹脂である。また、
図8〜10に示される例では、防食被覆8は、透明又は半透明の材料で構成されているが、防食被覆8は、透明ではない樹脂で構成されることも考えられる。防食被覆8が、有色の半透明の材料で構成されていれば、防食被覆8の厚みの確認が容易となる。
【0056】
<第1実施形態>
続いて、
図1〜6を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係る端子付電線位置決め具1の構成について説明する。端子付電線位置決め具1は、防食被覆8が形成される工程において、端子付電線90における圧着端子10の被覆圧着部20から芯線圧着部40までの部分を高い精度で位置決めする用具である。
【0057】
なお、
図1は端子付電線位置決め具1の斜視図である。
図2は後述する電線押さえ部5が固定される前の状態の端子付電線位置決め具1の斜視図である。
図3は端子付電線位置決め具1が備える底面支え部2の斜視図である。
図4は圧着端子10の被覆圧着部20を支える底面支え部2の正面図である。
図5は端子付電線90を位置決めしている状態の端子付電線位置決め具1の平面図である。
図6は端子付電線位置決め具1の側断面図及びこれにより位置決めされている端子付電線90の側面図である。
図1において、端子付電線90が仮想線(二点鎖線)で描かれている。また、
図2には、端子付電線位置決め具1と端子付電線90とが示されている。
【0058】
図1に示されるように、端子付電線位置決め具1は、底面位置決め部2、先端位置決め部3、側面位置決め部4、電線押さえ部5及び電線挟持部6を備えている。以下の説明において、端子付電線位置決め具1において、端子付電線90の絶縁電線9における被覆圧着部20が圧着された部分が目標の位置に配置されたときに、その部分の中心線が沿う直線のことを目標直線L0と称する。
【0059】
<底面位置決め部>
図3,4に示されるように、底面位置決め部2は、目標直線L0に沿う溝21を形成する部分である。底面位置決め部2における溝21の内側面にはテーパ面22が形成されている。このテーパ面22は、溝21の開口212側から溝21の底211側へ目標直線L0に対し線対称に徐々に間隔が狭まる一対の面221,222からなる。本実施形態においては、一対の面221,222各々は平面である。
【0060】
以下の説明において、目標直線L0に沿う方向、即ち、溝21が延在する方向のことを第一方向と称する。また、溝21の幅方向のことを第二方向と称する。また、溝21の深さ方向のことを第三方向と称する。各図に示される座標軸において、X軸方向が第一方向であり、Y軸方向が第二方向であり、Z軸方向が第三方向である。
【0061】
前述したように、端子付電線90の圧着端子10における被覆圧着部20の底面、即ち、被覆圧着部20の第一底板部201の外側面は円弧面である。
図4に示されるように、被覆圧着部20の底面の曲率半径がR0である場合、テーパ面22は、半径R0の円弧面が、一対の面221,222各々における目標直線L0に対して左右対称の位置において接する形状で形成されている。
【0062】
そして、底面位置決め部2は、そのテーパ面22によって、端子付電線90の圧着端子10における絶縁電線9の被覆端部92に圧着された被覆圧着部20の底面における両側面に繋がる一対の縁部2011を支える。
【0063】
底面位置決め部2のテーパ面22の上方において、絶縁電線9の被覆端部92の中心線と目標直線L0とが第三方向(Z軸方向)から見て重なる状態に配置されていれば、圧着端子10の被覆圧着部20は、底面位置決め部2のテーパ面22によって以下のように位置決めされる。
【0064】
即ち、被覆圧着部20の底面がテーパ面22に接することにより、被覆圧着部20は、第三方向において目標位置に位置決めされるとともに、目標直線L0を中心とする周方向の角度(向き)が目標状態に矯正される。
【0065】
なお、
図1,2に示される端子付電線位置決め具1において、複数の端子付電線90を同時に位置決めすることが可能なように、底面位置決め部2には複数の溝21が形成されている。しかしながら、1つの溝21のみが底面位置決め部2に形成されていることも考えられる。
【0066】
<先端位置決め部>
図5,6に示されるように、先端位置決め部3は、底面位置決め部2の溝21に沿って配置される圧着端子10における接点部60の先端601に接する部分である。この先端位置決め部3は、少なくとも端子付電線90の寸法のばらつき(誤差)に起因する接点部60の第二方向及び第三方向の位置のばらつきを矯正しない。従って、端子付電線90の圧着端子10は、先端位置決め部3によって第一方向においてのみ位置決めされる。
【0067】
なお、
図1,2に示される端子付電線位置決め具1において、複数の端子付電線90を同時に位置決めすることが可能なように、先端位置決め部3は、複数の接点部60の先端601が同時に接することが可能な形状で形成されている。しかしながら、先端位置決め部3が、1つの接点部60のみに接する形状で形成されていることも考えられる。
【0068】
<側面位置決め部>
図5に示されるように、側面位置決め部4は、目標直線L0に沿って配置される絶縁電線9における非圧着端部93の両側面に接する部分である。側面位置決め部4は、第三方向(Z軸方向)から見て目標直線L0の両側における目標直線L0から等距離の位置に形成されている。第三方向から見たときの目標直線L0とその両側の側面位置決め部4との間隔は、絶縁電線9の絶縁被覆の部分(非圧着端部93)の半径と同じか、或いはその半径よりも僅かに狭い。なお、非圧着端部93は、絶縁電線9における圧着端子10と接触していない絶縁被覆の部分の一例である。
【0069】
本実施形態において、側面位置決め部4は、第三方向から見て目標直線L0の両側における目標直線L0から等距離の位置に形成された複数の突起部である。絶縁電線9の非圧着端部93は、第三方向から見て目標直線L0に沿う状態でそれら複数の突起部の間に挟み込まれる。
【0070】
絶縁電線9の非圧着端部93が側面位置決め部4によって位置決めされることにより、圧着端子10の被覆圧着部20は、底面位置決め部2のテーパ面22の上方において、絶縁電線9の被覆端部92の中心線と目標直線L0とが第三方向から見て重なる状態に配置される。
【0071】
なお、
図1,2に示される端子付電線位置決め具1において、複数の端子付電線90を同時に位置決めすることが可能なように、複数組の側面位置決め部4が設けられている。しかしながら、1組の側面位置決め部4のみが設けられた構造が採用されることも考えられる。
【0072】
<電線押さえ部>
電線押さえ部5は、目標直線L0に沿って配置される絶縁電線9における非圧着端部93を第三方向において押さえる部分である。電線押さえ部5は、絶縁電線9の非圧着端部93を第三方向において押さえることにより、圧着端子10の被覆圧着部20の底面を底面位置決め部2のテーパ面22に押し付ける。
【0073】
図1,2に示されるように、電線押さえ部5は、受け部51、押し付け部52及び固定部53を含む。受け部51は、絶縁電線9の非圧着端部93を第三方向の一方の側(Z軸正方向の側)から支える部分である。
【0074】
押し付け部52は、非圧着端部93を受け部51に押しつける部分である。押し付け部52は、受け部51に対して接近した状態とそれより離隔した状態とに変位可能である。端子付電線90の絶縁電線9が受け部51に沿って配置されるときに、押し付け部52は、受け部51から大きく離隔した位置に置かれる。その後、押し付け部52は、絶縁電線9の非圧着端部93を受け部51に押し付ける位置、即ち、受け部52に接近した位置で固定される。
【0075】
固定部53は、押し付け部52を受け部52に接近した位置に固定する部分である。
図2に示される例では、固定部53は、板状の押し付け部52に形成された欠け部54に通されるネジ部材によって押し付け部52における欠け部54の縁部を挟持することによって押し付け部52を所定の位置に固定する。
【0076】
なお、
図1,2に示される端子付電線位置決め具1において、複数の端子付電線90を同時に位置決めすることが可能なように、電線押さえ部5は、複数の絶縁電線9の非圧着端部93を同時に押さえることが可能な形状で形成されている。しかしながら、電線押さえ部5が、1本の絶縁電線9の非圧着端部93のみを押さえることが可能な形状で形成されていることも考えられる。
【0077】
<電線挟持部>
電線挟持部6は、端子付電線90の絶縁電線9における絶縁被覆の部分を挟持することによって端子付電線90を補助的に支持する部分である。電線挟持部6は、絶縁電線9の絶縁被覆の部分における非圧着端部93よりも圧着端子10に対し反対側の部分を挟持する。例えば、電線挟持部6は、絶縁電線9を弾性力で挟持する一対の板バネ部材などである。
【0078】
電線挟持部6は、端子付電線90の荷重などによって端子付電線90に作用する引張力が、端子付電線90における非圧着端部93から末端側の部分に作用することを防ぐ。これにより、端子付電線90に作用する引張力によって端子付電線90における非圧着端部93から末端側の部分の位置がずれることが防がれる。
【0079】
なお、
図1,2に示される端子付電線位置決め具1において、複数の端子付電線90を同時に位置決めすることが可能なように、複数の電線挟持部6が設けられている。しかしながら、1つの電線挟持部6のみを備える端子付電線位置決め具が採用されることも考えられる。
【0080】
<第2実施形態>
次に、
図7を参照しつつ、本発明の第2実施形態に係る端子付電線位置決め具1Aについて説明する。
図7は、端子付電線位置決め具1Aの側断面図及びこれにより位置決めされている端子付電線90の側面図である。
【0081】
端子付電線位置決め具1Aは、
図1〜7に示された端子付電線位置決め具1と比較して、1つの構成要素が追加された構成を有している。
図7において、
図1〜6に示される構成要素と同じ構成要素は、同じ参照符号が付されている。以下、端子付電線位置決め具1Aにおける端子付電線位置決め具1と異なる点についてのみ説明する。
【0082】
図7に示されるように、端子付電線位置決め具1Aは、端子付電線位置決め具1が備える全ての構成要素に加え、端子押さえ部7を備えている。端子押さえ部7は、底面位置決め部2と先端位置決め部3との間において、端子付電線90の圧着端子10における絶縁電線9と接触していない部分を第三方向(Z軸方向)において押さえる部分である。
【0083】
端子押さえ部7は、圧着端子10における被覆圧着部20よりも接点部60寄りの部分を溝21の底側の方向(Z軸正方向)へ向けて押さえることにより、圧着端子10の被覆圧着部20の底面を底面位置決め部2のテーパ面22に押し付ける。
【0084】
圧着端子10において、絶縁電線9と接触していない部分は、芯線圧着部40と接点部60とを繋ぐ第二連結部50の中間位置から接点部60の先端601までの部分である。
図7に示されるように、圧着端子10における端子押さえ部7によって押さえられる部分503は、第二連結部50における接点部60の後端602寄りの部分であることが望ましい。
【0085】
また、端子押さえ部7が、圧着端子10を弾性力により押さえる構造を有すれば好適である。例えば、端子押さえ部7がバネ又はゴムなどの弾性部材であること、又は、端子押さえ部7がバネ又はゴムなどの弾性部材によって支持されていることが考えられる。
【0086】
<効果>
端子付電線位置決め具1,1Aにおいて、先端位置決め部3が、端子付電線90の圧着端子10を第一方向(X軸方向)において位置決めする。また、側面位置決め部4が、端子付電線90における絶縁電線9の部分を第二方向(Y軸方向)において位置決めすることにより、圧着端子10の被覆圧着部20を間接的に第二方向において位置決めする。
【0087】
そして、底面位置決め部2のテーパ面22が、端子付電線90における圧着端子10の被覆圧着部20を第三方向(Z軸方向)において直接位置決めするとともに、被覆圧着部20が目標直線L0を中心とする回転方向において傾くことを防ぐ。また、電線押さえ部5は、圧着端子10の底面、即ち、第一底板部201の外側面が底面位置決め部2のテーパ面22から浮き上がることを防ぐ。
【0088】
端子付電線位置決め具1,1Aにおいて、圧着端子10の接点部60は、第二方向及び第三方向において位置が規制されていない。そのため、圧着端子10における被覆圧着部20から芯線圧着部40までの部分と接点部60との間の曲がり度合い及びねじれ度合いのばらつきは、被覆圧着部20の第二方向及び第三方向の位置決め、並びに目標直線L0を中心とする回転方向の傾きに影響しない。
【0089】
さらに、圧着端子10の曲がり度合い及びねじれ度合いのばらつきの、第一方向における圧着部の位置への影響はごく小さい。
図5〜7に示される例では、圧着端子10の第二連結部50における芯線圧着部40との境界部分が、第二方向(Y軸方向及び第三方向(Z軸方向)において比較的大きく曲がっている。圧着端子10の圧着工程において、
図5〜7に示されるような圧着端子10の曲がりが生じやすい。
【0090】
しかしながら、
図5〜7に示されるように、圧着端子10が、目標直線L0に対して所定の角度で第二方向及び第三方向において曲がっていても、その曲がりが圧着端子10の長手方向における寸法に与える影響は小さい。
【0091】
例えば、圧着端子10における屈曲位置から接点部60の先端601までの長さが10ミリメートルである場合を考える。この場合、目標直線L0に対する圧着端子10の屈曲角度が1°以内であれば、その屈曲によって生じる圧着端子10の長手方向の寸法のばらつきは0.06ミリメートル程度以内に収まる。防食被覆8の形成工程において許容される圧着端子10の位置のばらつきは0.1ミリメートル程度である。そのため、圧着端子10の屈曲による寸法のばらつきは、余裕をもって許容範囲内に収まる。
【0092】
また、端子付電線位置決め具1,1Aにおいて、端子付電線90を位置決めする底面位置決め部2、先端位置決め部3、側面位置決め部4、電線押さえ部5及び端子押さえ部7は、圧着端子10の被覆圧着部20から第二連結部50の中間位置までの部分における上面及び両側面に接触しない。そのため、圧着端子10の被覆圧着部20から芯線圧着部40までの部分の上方から滴下される合成樹脂が、端子付電線90を位置決めする各部分に接触することは回避される。
【0093】
以上に示されたことから、端子付電線位置決め具1,1Aが採用されれば、端子付電線90において合成樹脂の防食被覆8が形成される場合に、滴下される合成樹脂に接触することなく、端子付電線90における圧着端子10の圧着部を高い精度で位置決めすることが可能となる。
【0094】
また、端子付電線位置決め具1Aにおいて、端子押さえ部7は、圧着端子10の被覆圧着部20が接点部60側において底面支え部2のテーパ面22から浮き上がることを防ぐ。これにより、底面支え部2による圧着端子10の位置決めがより確実になされる。
【0095】
端子付電線位置決め具1Aにおいて、端子押さえ部7が接点部60の先端601側に配置されると、圧着端子10の第三方向(Z軸方向)の曲がり度合いのばらつきが、端子押さえ部7から圧着端子10へ作用する力へ影響する度合いが大きくなる。
【0096】
端子押さえ部7から圧着端子10へ作用する力が大きすぎると、被覆圧着部20の後端側が底面位置決め部2のテーパ面22から浮き上がる恐れがある。そのため、
図7に示されるように、圧着端子10における端子押さえ部7によって押さえられる部分503は、第二連結部50における接点部60の後端602寄りの部分であることが望ましい。
【0097】
また、圧着端子10の第三方向の曲がり度合いのばらつきの影響が小さくなるように、端子押さえ部7が、圧着端子10を弾性力により押さえる構造を有することが望ましい。
【0098】
<その他>
図3,4に示される例では、底面位置決め部2のテーパ面22を構成する一対の面221,222は平面である。しかしながら、一対の面221,222各々が湾曲面であることも考えられる。例えば、一対の面221,222各々が凸状の円弧面であることなどが考えられる。
【0099】
なお、本発明に係る端子付電線の位置決め具は、各請求項に記載された発明の範囲において、以上に示された各実施形態を自由に組み合わせること、或いは各実施形態を適宜、変形する又は一部を省略することによって構成されることも可能である。