特許第5817244号(P5817244)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ いすゞ自動車株式会社の特許一覧
特許5817244可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両
<>
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000002
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000003
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000004
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000005
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000006
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000007
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000008
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000009
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000010
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000011
  • 特許5817244-可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5817244
(24)【登録日】2015年10月9日
(45)【発行日】2015年11月18日
(54)【発明の名称】可変慣性質量フライホイール及びそれを搭載する車両
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/31 20060101AFI20151029BHJP
   F16F 15/30 20060101ALI20151029BHJP
   F16D 43/18 20060101ALI20151029BHJP
【FI】
   F16F15/31 B
   F16F15/30 U
   F16F15/30 W
   F16F15/30 R
   F16F15/30 E
   F16D43/18
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2011-140199(P2011-140199)
(22)【出願日】2011年6月24日
(65)【公開番号】特開2013-7432(P2013-7432A)
(43)【公開日】2013年1月10日
【審査請求日】2014年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】山本 康
(72)【発明者】
【氏名】岩男 信幸
(72)【発明者】
【氏名】尾▲ざき▼ 将
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−261291(JP,A)
【文献】 実開昭59−047145(JP,U)
【文献】 特開2011−074788(JP,A)
【文献】 実開昭53−068809(JP,U)
【文献】 特開平10−026186(JP,A)
【文献】 実開昭51−053338(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/31
F16D 43/18
F16F 15/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトと一体回転する主フライホイール、前記主フライホイールに隣接する少なくとも1つの補助慣性質量体と、前記主フライホイール及び前記補助慣性質量体の間に介設された複数の遠心クラッチ機構とを備え、
前記補助慣性質量体に、複数の前記遠心クラッチ機構の前記補助慣性質量体の回転軸の周方向に設けた摩擦面から回転が伝達される回転伝達部を備え、
前記主フライホイールと前記補助慣性質量体とが複数の前記遠心クラッチ機構を介して、内燃機関が低回転のときに一体に回転し、前記内燃機関の高回転のときに切り離され、前記内燃機関の回転に応じて慣性重量を変化させる可変慣性質量フライホイールにおいて、
前記補助慣性質量体を前記内燃機関と変速装置のハウジングのどちらか一方に固定された固定軸にベアリングを介して回転自在に配置し、
前記補助慣性質量体の前記主フライホイールと対向する面に凹部を設け、前記凹部内に前記遠心クラッチ機構の少なくとも一部を配設すると共に、前記凹部の前記回転軸側の外周面又は前記補助慣性質量体の外側の内周面の少なくともどちらか一方に前記回転伝達部を備え、
各前記遠心クラッチ機構が、前記摩擦面を有した遠心ブレーキと、前記主フライホイールに軸着する回転軸と、ねじりコイルばねとを備え、
前記摩擦面の周方向の両端部が前記摩擦面に垂直な方向から付勢されるように、前記ねじりコイルばねのコイル部に前記回転軸を挿通すると共に、前記ねじりコイルばねの一端を前記遠心ブレーキの前記摩擦面の一方の端部に係止し、前記ねじりコイルばねのもう一端を隣の遠心ブレーキの摩擦面のもう一方の端部に係止することを特徴とする可変慣性質量フライホイール。
【請求項2】
前記固定軸と前記補助慣性質量体との間で、前記ベアリングよりも、前記ハウジング側と前記主ホイール側のそれぞれにオイルシールを設け、前記オイルシールの間に配置される前記ベアリングのみを潤滑するように、前記内燃機関又は前記変速装置から潤滑油を供給する潤滑油供給路を設けることを特徴とする請求項1に記載の可変慣性質量フライホイール。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の可変慣性質量フライホイールを搭載する車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトの回転数に応じて、慣性質量を変える可変慣性質量フライホイールにおいて、クランクシャフトの回転数が高回転のときに、クランクシャフトとの摩擦力を低減して、車両の燃費性能を向上する可変慣性質量フライホイールとそれを搭載する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジン(内燃機関)には回転を安定させるためにフライホイールを付けている。このフライホイールの機能はエンジンの回転を安定させることと、発進時のエンストを防止する役割がある。これら回転の安定、及びエンスト防止の機能はエンジンが低回転のときに必要となるが、エンジンが高回転になると重要な機能ではなくなる。従ってフライホイールの慣性質量は低回転では大きく、高回転では小さくなることが望ましい。
【0003】
そこで、フライホイールに遠心クラッチを組み込み、エンジンの回転数が高くなると遠心クラッチが切り離されフライホイールの慣性重量を軽くする装置(例えば特許文献1参照)がある。この可変慣性質量フライホイールについて、図9及び図10を参照しながら説明する。
【0004】
図9に示すように、可変慣性質量フライホイール1Xを、クラッチハウジング2に設け、エンジン3とトランスミッション4との間に配置する。この可変慣性質量フライホイール1Xは、主フライホイール11X、補助慣性質量体12X、リングギア13、及び補助慣性質量体12Xの回転の軸を支えるベアリング14を備える。また、主フライホイール11Xのクランクシャフト5と反対側には、クランクシャフト5の動力をトランスミッション4のインプットシャフト6に伝達又は遮断するためのクラッチ20を設ける。クラッチ20は、レリーズベアリング21、ダイヤフラムスプリング22、プレッシャープレート23、ライニング、トーションダンパー、及びスラストなどからなるクラッチディスク24、及びクラッチカバー25を備える。
【0005】
主フライホイール11Xと補助慣性質量体12Xとを結合する遠心クラッチ機構30Xは、図10に示すように、遠心ブレーキ31Xと遠心クラッチ用回転軸34Xとスプリング35Xとを備え、遠心ブレーキ31Xには摩擦面を有する摩擦部材32Xを備える。補助慣性質量体12Xの主フライホイール11Xに対向する面に、凹部40を設け、この凹部40内に遠心クラッチ機構30Xの摩擦面から回転を伝達されるドラムブレーキ面(回転伝達部)41を備える。
【0006】
この可変慣性質量フライホイール1Xの動作を説明する。図9に示すように、エンジン3を始動する際に、クラッチ20が動作して、主フライホイール11Xの回転をインプットシャフト6に伝達可能になる。クラッチ操作により、レリーズベアリング21を動作させ、ダイヤフラムスプリング22がプレッシャープレート23を介してクラッチディスク24を主フライホイール11Xに押し付ける。これにより、クラッチディスク24と主フライホイール11Xとが係止され、主フライホイール11Xとインプットシャフト6とが締結する。これでクランクシャフト5の動力を主フライホイール11Xとクラッチ20を介してインプットシャフト6が受け取ることができる。
【0007】
図10に示すように、エンジン3が低回転のときには、遠心クラッチ機構30Xの摩擦部材32Xはスプリング35Xにより補助慣性質量体11Xの中心に向かって、押し付けられており、摩擦部材32Xとドラムブレーキ面41との摩擦力により、主フライホイー
ル11Xと補助慣性質量体12Xとは一体に回転する。そのため、可変慣性質量フライホイール1Xの慣性質量は大きくなり、クランクシャフト5の回転を安定させ、エンストを防止することができる。
【0008】
エンジン3が高回転のときには、遠心クラッチ機構30Xの遠心ブレーキ31Xが主フライホイール11Xの回転による遠心力によって、遠心クラッチ用回転軸34Xを回転軸として回動する。よって、摩擦部材32Xの摩擦面とドラムブレーキ面41とが離れることになり、主フライホイール11Xと補助慣性質量体12Xとを切り離すことができる。これにより、可変慣性質量フライホイール1Xの慣性質量は小さくなり、加速性能を向上させることができる。
【0009】
しかしながら、補助慣性質量体12Xを主フライホイール11Xから切り離しても、クランクシャフト5上に補助慣性質量体12Xが回転可能に支持されており、この構造では遠心クラッチを切り離した後もクランクシャフト5と補助慣性質量体との間の回転を支持しているベアリング14で摩擦力が発生する。主フライホイール11Xと補助慣性質量体12Xとの時間毎の回転数を示した図11から明らかなように、補助慣性質量体11Xとクランクシャフト5との間に摩擦力が発生しているため、徐々にエンジン3に直結の主フライホイール11Xと補助慣性質量体12Xとの回転数が同期してゆく。補助慣性質量体12Xに働く回転抵抗は空気抵抗だけであるため、最終的にはエンジン3に直結の主フライホイールと補助慣性質量体12Xの回転数は略同一の回転数となる。つまり、回転数が同期するまでクランクシャフト3は補助慣性質量体11Xとの摩擦抵抗を引きずり続けることになる。従って、この構造では車両の加速性能は向上するが、燃費が向上しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭59―47145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、可変慣性質量フライホイールの補助慣性質量体とクランクシャフトとの摩擦力を低減して、加速性能と共に燃費を向上させることができる可変慣性質量フライホイールとそれを搭載した車両を提供することである。また、補助慣性質量体とクランクシャフトとの摩擦力が低減しても、エンジンの低回転時には、確実に主フライホイールと一体回転することができる可変慣性質量フライホイールとそれを搭載した車両を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための可変慣性質量フライホイールは、クランクシャフトと一体回転する主フライホイールを備えると共に、前記主フライホイールに隣接する少なくとも1つの補助慣性質量体を備え、前記補助慣性質量体に、遠心クラッチ機構の前記補助慣性質量体の回転軸の周方向に設けた摩擦面から回転が伝達される回転伝達部を備え、前記主フライホイールと前記補助慣性質量体とが複数の前記遠心クラッチ機構を介して、内燃機関が低回転のときに一体に回転し、前記内燃機関の高回転のときに切り離され、前記内燃機関の回転に応じて慣性重量を変化させる可変慣性質量フライホイールにおいて、前記補助慣性質量体を前記内燃機関と変速装置のハウジングのどちらか一方に固定された固定軸にベアリングを介して回転自在に配置し、前記補助慣性質量体の前記主フライホイールと対向する面に凹部を設け、前記凹部内に前記遠心クラッチ機構の少なくとも一部を配設すると共に、前記凹部の前記回転軸側の外周面又は前記補助慣性質量体の外側の内周面の少なくともどちらか一方に前記回転伝達部を備えて構成される。
【0013】
この構成によれば、補助慣性質量体の回転支持をクランク軸上ではなく、固定されたケース(ハウジング)側とすることで、遠心クラッチが切り離されれば補助慣性質量体とクランク軸の間に一切摩擦力が働くことがない。そのため、クラッチが切り離された後にはエンジンに直結の主フライホイールと補助慣性質量体の間に引きずりトルクが発生せず、加速性能及び燃費性能を共に向上させることができる。
【0014】
また、遠心クラッチの摩擦面から受ける力が補助慣性質量体の回転軸の半径方向に向くため、回転軸方向に力が加わることがなく、ベアリングにかかる回転抵抗を低減することができる。仮に回転軸方向と直角となる方向に摩擦面を設けると補助慣性質量体を支えるベアリングに軸方向の荷重がかかり、回転抵抗が増加する。
【0015】
加えて、補助慣性質量体に設けた凹部の回転軸側の外周面又は外周側の内周面に回転伝達部を設けることで、摩擦面との接触面積を大きくすることができ、その分摩擦力が大きくなりエンジンの低回転時に主フライホイールと補助慣性質量体とを確実に一体回転させることができる。さらに、補助慣性質量体内に設けた凹部に遠心クラッチ機構を設けることで、フライホイールの回転軸方向の大きさをコンパクトにすることができる。
【0016】
また、上記の可変慣性質量フライホイールは、前記固定軸と前記補助慣性質量体との間で、前記ベアリングよりも、前記ハウジング側と前記主ホイール側のそれぞれにオイルシールを設け、前記オイルシールの間に配置される前記ベアリングのみを潤滑するように、前記内燃機関又は前記変速装置から潤滑油を供給する潤滑油供給路を設けて構成される。
【0017】
この構成によれば、補助慣性質量体のベアリングに内燃機関のオイルポンプから潤滑オイルを供給することができる。そのため、補助慣性質量体のベアリングを潤滑することができ、ベアリングの耐久性を向上することができる。加えてオイルがベアリングのみを潤滑するように、ベアリングの両側をオイルシールしているため、オイルが他に流出することがない。
【0018】
さらに、上記の可変慣性質量フライホイールは、前記遠心クラッチ機構が、前記摩擦面を有した遠心ブレーキと、前記主フライホイールに軸着する回転軸と、ねじりコイルばねとを備え、前記摩擦面の周方向の両端部が前記摩擦面に垂直な方向から付勢されるように、前記ねじりコイルばねのコイル部に前記回転軸を挿通すると共に、前記ねじりコイルばねの一端を一方の前記ねじりコイルばねの前記摩擦面の端部に、もう一端をもう一方の前記ねじりコイルばねの前記摩擦面の端部に係止して構成される。
【0019】
この構成によれば、補助慣性質量体をクランク軸とは別の固定軸に回転支持しているため、エンジンの低回転時に主フライホイールと補助慣性質量体とを一体回転させるために、従来よりも大きい摩擦力が必要となる。そこで、遠心クラッチにねじりコイルばね(トーションばね)を使用することで、ねじりコイルばねの両端がブレーキを押すことができ、且つ押し付け方向を摩擦面に垂直にすることができる。そのため、ばね力を効率良く摩擦力に変換することができ、摩擦力を大きくすることができる。また、ねじりコイルばねの取り付けスペースもコンパクトにすることができ、レイアウト性を向上することができる。
【0020】
上記の目的を達成するための車両は、上記に記載の可変慣性質量フライホイールを搭載して構成する。この構成によれば、内燃機関の回転数が上がり、遠心クラッチにより主フライホイールと切り離された補助慣性質量体と、クランクシャフトとの摩擦抵抗がなくなり、加速性能を向上させると共に、燃費性能を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、可変慣性質量フライホイールの補助慣性質量体とクランクシャフトとの摩擦力を低減して、加速性能と共に燃費を向上させることができる。また、補助慣性質量体とクランクシャフトとの間の摩擦力が低減しても、エンジンの低回転時には、両者を確実に主フライホイールと一体回転することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】エンジンが低回転のときの、本発明に係る第1の実施の形態の可変慣性質量フライホイールを示した断面図である。
図2図1の一部を示した拡大図である。
図3図1のIII−IIIで示した断面図である。
図4】エンジンが低回転のときの、本発明に係る第1の実施の形態の可変慣性質量フライホイールの遠心クラッチを示した拡大図である。
図5】エンジンが高回転のときの、本発明に係る第1の実施の形態の可変慣性質量フライホイールの遠心クラッチを示した拡大図である。
図6】エンジンが高回転のときの、本発明に係る第1の実施の形態の可変慣性質量フライホイールを示した断面図である。
図7】エンジンが高回転のときの、本発明に係る第2の実施の形態の可変慣性質量フライホイールを示した断面図である。
図8】エンジンが高回転のときの、本発明に係る第2の実施の形態の可変慣性質量フライホイールの遠心クラッチを示した拡大図である。
図9】従来の可変慣性質量フライホイールを示した断面図である。
図10図9のX−Xを示した断面図である。
図11】従来の可変慣性質量フライホイールの時間毎の回転数を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態の可変慣性質量フライホイールとそれを搭載した車両について、図面を参照しながら説明する。なお、図9及び図10に示した従来の可変慣性質量フライホイール1Xと同一の構成及び動作については同一の符号を用いて、その説明を省略する。
【0024】
本発明に係る第1の実施の形態の可変慣性質量フライホイール1について、図1及び図2を参照しながら説明する。可変慣性質量フライホイール1を、図1に示すように、エンジン(内燃機関)3とトランスミッション(変速装置)4との間のクラッチハウジング2に設ける。
【0025】
また図9で示した構成に加えて、図1に示すように、エンジン3に固定軸3aとオイルポンプ7とオイルパン8とを備える。また、この可変慣性質量フライホイール1は、主フライホイール11、補助慣性質量体12、リングギア13、及び補助慣性質量体12の回転の軸を支えるベアリング14を備え、主フライホイール11と補助慣性質量体12とを摩擦力で一体に回転可能な遠心クラッチ機構30を備える。
【0026】
主フライホイール11に主フライホイール用回転軸11aとボス部11bを備え、補助慣性質量体12に凹部40を備える。また、補助慣性質量体12と固定軸3aの間にオイルシール51、52を備え、固定軸3aとクランクシャフト5との間にもオイルシール53を備える。さらに、固定軸3aの内部に潤滑油供給路54、55を備える。
【0027】
上記のエンジン3、トランスミッション4、リングギア1、及びクラッチ20などは一般的な構造であり、例えばエンジン3はディーゼルエンジンやガソリンエンジンを用いることができる。また、ベアリング14、及び他のベアリングをボールベアリングで形成し、それぞれが設けられた部分を回転可能に支持している。加えて、クラッチ20も上記の構造に限らず、乾式クラッチや湿式クラッチなどを用いることができる。
【0028】
固定軸3aを、クランクシャフト5又は主フライホイール11の主フライホイール用回転軸11aが内部に配設される中空部を有した円筒状に形成し、エンジン3のハウジングと一体に形成する、若しくはボルトなどで一体的に固定する。この固定軸3aはクランクシャフト5とはベアリングを介しており、主フライホイール11とは接触していない。
【0029】
主フライホイール11を、クランクシャフト5に同心的な円板形状に形成し、クランクシャフト5のトランスミッション4側の端面に主フライホイール用回転軸11aを突合わせて、ボルトで固定する。この主フライホイール11はその外周に向かって肉厚に形成され、その外周にはスタータ(図示せず)に噛合可能なリングギア13を備える。さらに、エンジン3側の面には、遠心クラッチ機構30を回転支持するためのボス部11aも備える。
【0030】
補助慣性質量体12を、主フライホイール11と同様に、固定軸3aに同心的な円板形状に形成し、固定軸3aにベアリング14を介して、回転可能に支持する。この補助慣性質量体12の主フライホイール11に対向する面に凹部40を備え、外周に向かって肉厚になるように形成する。
【0031】
上記の主フライホイール11と補助慣性質量体12は形状、機能を限定せずに、例えば発電機能を有したフライホイールなどを用いることができる。また、主フライホイール11の内外にクランクシャフト5からの振幅を減衰することができる減衰装置を設けてもよい。
【0032】
凹部40は、補助慣性質量体1の主フライホイールに対向する面に円環状に形成された凹状の溝であり、補助慣性質量体12の回転軸である固定軸3a側の外周面41と補助慣性質量体12の外周側の内周面42とを備える。また、この凹部40を、その内部に遠心クラッチ機構30を配設することができる大きさに形成する。外周面41は、回転軸の周方向の面であり、遠心クラッチ機構30が作用し、主フライホイール11の回転を受け取るドラムブレーキ面(回転伝達部)41として動作する。
【0033】
オイルシール51を、図2に示すように、補助慣性質量体1と回転軸3aとの間で、エンジン3側のベアリング14aよりもエンジン3寄りに設け、オイルシール52を、主フライホイール11側のベアリング14bよりも主フライホイール11寄りに設ける。このオイルシール51、52によって、外側に液体が漏れないようにシールしている。オイルシール53を、回転軸3aとクランクシャフト5との間に設ける。
【0034】
潤滑油供給路54を、固定軸3aの内部に設け、オイルポンプ7と接続する。潤滑油供給路55も同様に固定軸3aの内部に設け、オイルパン8と接続する。これにより、オイルポンプ7から潤滑オイルが潤滑油供給路54を通って、ベアリング14a及びベアリング14bを潤滑し、その潤滑オイルが潤滑油供給路55を通って、オイルパン8に戻ることができる。この潤滑油供給路54及び55は、固定軸3aの内部に少なくとも1本ずつ設ければよい。
【0035】
上記の構成によれば、補助慣性質量体12がクランクシャフト5ではなく、エンジン3に固定された固定軸3aによって回転支持されているため、遠心クラッチ機構30により主フライホイール11から切り離されたときに、補助慣性質量体12とクランクシャフト5との間に一切摩擦力が働かない。そのため、遠心クラッチ機構30により切り離された後はクランクシャフト5と補助慣性質量体12との間に引きずりトルクが発生しないため
、加速性能と燃費性能を共に向上することができる。
【0036】
また、補助慣性質量体12の凹部40を設け、その内部に遠心クラッチ機構30を配設することができるため、可変慣性質量フライホイール1の回転軸方向の長さを短くすることができる。これにより、コンパクトな可変慣性質量フライホイール1を提供することができる。
【0037】
加えて、遠心クラッチ機構30から回転を伝達されるドラムブレーキ面41を回転軸の周方向に設けるため、補助慣性質量体1の回転軸、つまりベアリング14a、14bに軸方向の荷重がかからずに、回転抵抗を低減することができる。軸方向の荷重がかからないため、補助慣性質量体1が回転軸方向に移動してしまうことがない。
【0038】
さらに、オイルシール51、52と潤滑油供給路54、55とを設けることにより、ベアリング14a、14bのみを潤滑オイルによって潤滑することができるため、ベアリング14a、14bが焼き付くこともなくなり、ベアリング14a、14bの耐久性を向上することができる。なお、潤滑オイルを導いてもオイルシール53、54によってシールされているため、オイルは外部へと流出することがない。
【0039】
上記の可変慣性質量フライホイール1の補助慣性質量体12はトランスミッション4に
固定軸を設けて、主フライホイール11とトランスミッション4との間に配設してもよい。また、補助慣性質量体12と固定軸3aとの間のベアリング14はその個数を限定しないが、補助慣性質量体12の厚みを考慮すると2列以上が好ましい。加えて、ドラムブレーキ面を補助慣性質量体1の外周面に設けることもできる。その場合は補助慣性質量体1に凹部40を形成しなくともよい。さらに、リングギア13を補助慣性質量体1の外周面に設けることもできる。
【0040】
次に、遠心クラッチ機構30について、図3を参照しながら説明する。遠心クラッチ機構30は、遠心ブレーキ31、摩擦面を備えた摩擦部材32、カウンターウエイト33、遠心クラッチ用遠心クラッチ用回転軸34、及びひねりコイルばね(トーションばね)35を備える。この遠心クラッチ機構30を、補助慣性質量体1の凹部40のドラムブレーキ面41と内周面42との間に、ドラムブレーキ面41の外周上に等間隔なるように複数配置する。遠心クラッチ機構30を等間隔に配置することで、回転時の偏心を防ぐことができる。
【0041】
摩擦部材32とカウンターウエイト33は遠心ブレーキ31に設けられ、それらを一体に形成する。摩擦部材32の摩擦面は補助慣性質量体1のドラムブレーキ面41と接触し、そのときに発生する摩擦力で主フライホイール11の回転を補助慣性質量体1に伝えて、補助慣性質量体1を回転することができる。この摩擦部材32は、耐摩耗性能に優れ、摩耗特性が高い部材で形成するとよい。例えば、レジンモールド材や焼結材などが好ましい。また、摩擦部材32の摩擦面はエンジン3の回転による遠心力の作用が大きく無い場合は常に補助慣性質量体1の回転軸の周方向となる。
【0042】
カウンターウエイト33は、ドラムブレーキ面41を外周面41にする場合は、設けなくとも良いが、ドラムブレーキ面を内周面42にする場合は必須となる。
【0043】
また、カウンターウエイト33を設けることで、遠心力の作用を小さくすることができる。そのため、特にトラック用などの回転直径が大きい遠心クラッチ機構30では遠心力の作用が非常に大きくなるため、カウンターウエイト33を付けないと、ばねを非常に硬いばねにする必要があり、結果、ばねにかかる応力が高くなりすぎるため、カウンターウエイト33を設けることが好ましい。
【0044】
遠心クラッチ用回転軸34を、遠心ブレーキ31を回転可能に支持するように主フライホイール11のボス部11bに軸着する。
【0045】
ねじりコイルばね35は、図4に示すように、圧接部35a、35bとコイル部35cとを備え、コイル部35cで巻かれ、コイル部35cのコイル軸まわりにねじりモーメントを受ける。このねじりコイルばね35を、ねじりコイルばね、円形コイルばね、又は重ね巻きねじりコイルばねなどで形成する。また、コイル部35cに遠心クラッチ用遠心クラッチ用回転軸34を挿通する。
【0046】
ねじりコイルばね35は、図4に示すように、通常回転による遠心力を受けていない場合は圧接部35a、35bがドラムブレーキ面41に向かう方向にばね力が作用している。そのため、圧接部35aは自身が設けられた遠心クラッチ機構30の摩擦部材32の端部32bをドラムブレーキ面41へ押し付け、圧接部35bは自身が設けられた遠心クラッチ機構30と隣接する遠心クラッチ機構30の摩擦部材32の端部32aをドラムブレーキ面41へ押し付けている。
【0047】
このねじりコイルばね35は、図2に示すように、遠心ブレーキ31の両側に設けるとより摩擦力を強くすることができる。また、上記の構成に限らず、図4に示すように、摩擦部材32の両端部32a、32bをドラムブレーキ面41へ押し付けることができればよく、コイルの巻き数や、材質は特に限定されない。
【0048】
本発明においては、補助慣性質量体12とクランクシャフト5との間に摩擦力が働かないため、エンジン3の低回転時に主フライホイール11と補助慣性質量体12とが一体に回転するためには、より大きな摩擦力を必要とする。しかし、上記の構成によれば、ねじりコイルばね35の圧接部35a、35bが摩擦部材32の回転軸の周方向の両端部32a、32bをドラムブレーキ面41に押さえつけ、且つ押し付け方向が摩擦部材32の摩擦面に垂直なため、ばね力を効率よく摩擦力に変換することができる。そのため、エンジン3の低回転時に、主フライホイール11と補助慣性質量体12とを確実に一体に回転させることができる。また、ねじりコイルばね35を用いることで、ばねの取り付けスペースもコンパクトにすることができるため、レイアウト性を向上することができる。
【0049】
次に、本発明に係る実施の形態の可変慣性質量フライホイール1の動作を説明する。クラッチ20によって、クランクシャフト5の回転をインプットシャフト6へ伝える動作までは従来技術の説明で説明した通りである。エンジン3の回転数が低回転(エンジン3の始動直後など)の動作を図1図4に示す。エンジン3の回転、つまりクランクシャフト5の回転により、主フライホイール11が回転する。同時に、主フライホイール11のボス部11bに軸着している遠心クラッチ機構30も回転する。遠心クラッチ機構30は補助慣性質量体1の凹部40の内部を回転しようとするが、摩擦部材32の摩擦面とドラムブレーキ面41とが接触しており、摩擦力によって、補助慣性質量体12も一体に回転する。
【0050】
上記の動作によれば、エンジン3が低回転のときは、遠心クラッチ機構30を介して主フライホイール11と補助慣性質量体12とが一体に回転し、可変慣性質量フライホイール1の慣性質量が大きいため、エンジン3の回転を安定させて、エンストなどを防止することができる。
【0051】
また、エンジン3が始動しているため、合わせてオイルポンプ7も動作をしており、ベアリング14a、14bに潤滑油供給路54を通して潤滑オイルを移送し、潤滑オイルがベアリング14a、14bを潤滑している。この潤滑オイルはベアリング14a、14b
を潤滑した後、潤滑油供給路55を通り、オイルパン8へと戻る。このように潤滑オイルはエンジン3が始動している間はベアリング14a、14bを潤滑するため、循環している。
【0052】
よって、補助慣性質量体12の回転によって消耗するベアリング14a、14bにオイルポンプ7から潤滑するためのオイルを導くことができるため、ベアリング14a、14bの消耗を防ぐことができる。さらに、遠心クラッチ機構30にねじりコイルばね35を用いているため、ばね力を効率よく摩擦力に変換することができるため、主フライホイール11と補助慣性質量体12とを確実に一体に回転することができる。
【0053】
次に、エンジン3の回転数が高回転(遠心クラッチ機構30に大きな遠心力がかかるとき)の動作を図5及び図6を参照しながら説明する。図5に示すように、遠心クラッチ機構30には遠心力がかかり、そのため、遠心クラッチ用回転軸34を回転軸にして、回動を開始する。この回動で摩擦部材32に遠心力がかかりドラムブレーキ面41から離れる方向へ動き、カウンターウエイト33がドラムブレーキ面41に近づく方向へ動く。これにより、ねじりコイルばね35の圧接部35a、35bを摩擦部材32で押し上げる。結果、摩擦部材32の摩擦面とドラムブレーキ面41との接触が解除され、主フライホイール11と補助慣性質量体12とを切り離すことができる。
【0054】
主フライホイール11から切り離された補助慣性質量体12は、図6に示すように、別々に回転動作を行う。主フライホイール11はクランクシャフト5と一体に回転し、一方、補助慣性質量体12は、回転動力がなくなり、慣性により回転し、空気抵抗を受け、しばらく時間が経つと停止する。このとき、補助慣性質量体12とクランクシャフト5との間に摩擦力は一切かからないため、従って摩擦抵抗もかからない。
【0055】
上記の動作によれば、エンジン3が高回転のときは、主フライホイール11と補助慣性質量体12とが切り離されると共に、補助慣性質量体12とクランクシャフト5との間に摩擦力が一切かからず、クランクシャフト5に引きずりトルクが発生することがないため、加速性能と燃費性能を向上することができる。
【0056】
次に本発明の第2の実施の形態の可変慣性質量フライホイール1を、図7及び図8を参照しながら説明する。上記の構成のドラムブレーキ面41と遠心クラッチ機構30とに換えて、内周面42をドラムブレーキ面42とし、そのドラムブレーキ面42に接する遠心クラッチ60を設ける。遠心クラッチ60は、遠心ブレーキ61、摩擦部材62、カウンターウエイト63、遠心クラッチ用回転軸64、及びひねりコイルばね65を備える。摩擦面が内周面42になり、遠心クラッチ60が内周面42に向いただけで、動作などは上記と同様である。
【0057】
この構成によれば、上記の構成に加えて、ドラムブレーキ面を内周面42にした場合、摩擦面の直径が大きくなるため、発生させる摩擦力を小さくしても同じトルクを発生させることができる。同時にカウンターウエイト63の作用で遠心力自体を小さくできるので、結果としてばね力を非常に小さくでき、ひねりコイルばね65の小型化と耐久性を向上することができる。
【0058】
また、補助慣性質量体1の凹部40の外周面41と内周面42のそれぞれをドラムブレーキ面41及び42として、遠心クラッチ機構30と遠心クラッチ60の両方を設けることもできる。
【0059】
上記に記載の可変慣性質量フライホイール1を搭載した車両は、エンジン3が低回転のときにエンジン3の回転を安定させ、エンストなどを防止し、エンジン3が高回転のときに慣性質量を小さくすることで加速性能を向上させることができる。また、これに加えて、補助慣性質量体1とクランクシャフト5に摩擦力が働かないため、燃費性能を向上させることができる。
【0060】
また、補助慣性質量体1の回転を支持するベアリング14a、14bを潤滑オイルで潤滑するため、耐久性が向上し、車両のメンテナンス性も向上させることができる。加えて、エンジン3の低回転のときに遠心クラッチ機構30及び60の摩擦力が大きいため、確実に主フライホイール11と補助慣性質量体12とを一体に回転させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の可変慣性質量フライホイール1は、エンジンが低回転のときに遠心クラッチの摩擦力を大きくして、確実に主フライホイールと補助慣性質量体とが一体に回転するため、従来の性能を損なわずに、エンジンが高回転のときに、補助慣性質量体からクランクシャフトへの摩擦抵抗が一切ないため、加速性能と燃費性能を向上することができる。加えて、補助慣性質量体のベアリングに潤滑オイルで潤滑するため、高い耐久性を実現することができる。そのため、ディーゼルエンジンを搭載したトラックなどの車両に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 可変慣性質量フライホイール
2 クラッチハウジング
3 エンジン(内燃機関)
3a 固定軸
4 トランスミッション(変速装置)
5 クランクシャフト
6 インプットシャフト
7 オイルポンプ
8 オイルパン
11 主フライホイール
12 補助慣性質量体
13 リングギア
14 ベアリング
20 クラッチ
30、60 遠心クラッチ機構
31、61 遠心ブレーキ
32、62 摩擦部材
33、63 カウンターウエイト
34、64 遠心クラッチ用回転軸
35、65 ひねりコイルばね(トーションばね)
40 凹部
41 外周面(回転伝達部、ドラムブレーキ面)
42 内周面(回転伝達部、ドラムブレーキ面)
51、52、53 オイルシール
54、55 潤滑油供給路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11