特許第5825635号(P5825635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5825635
(24)【登録日】2015年10月23日
(45)【発行日】2015年12月2日
(54)【発明の名称】光学測定装置および光学測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/65 20060101AFI20151112BHJP
【FI】
   G01N21/65
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-41169(P2012-41169)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-178115(P2013-178115A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2014年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】多田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】ポボルチィ ウラディミル
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2005/024391(JP,A1)
【文献】 特開2004−219230(JP,A)
【文献】 特開昭58−210546(JP,A)
【文献】 特開2007−193025(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/108510(WO,A1)
【文献】 多田哲也,ストライプ加工したひずみSi層のラマン計測による軸分解応力解析,応用物理学関係連合講演会講演予稿集(CD−ROM),日本,2011年 3月 9日,Vol.58th,Page.ROMBUNNO.24P-KM-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/74
G02B 21/00
G02B 21/06−21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料へ向けて励起光を照射し、励起光によって励起されて試料から放射される信号光を検出器によって検出する光学測定装置であって、
前記試料へ向かう前記励起光の光路上に配置されるZ偏光子と、前記Z偏光子により偏光された励起光を試料面に集光する対物レンズと、前記試料から前記検出器へ向かう前記信号光の光路上に配置される直線偏光子とを備え、前記Z偏光子を用いた偏光と前記対物レンズによる集光とにより、前記試料面に垂直な偏光方向の励起光を前記試料面に入射させると共に、前記直線偏光子を用いた偏光で、前記試料面に垂直な偏光方向の励起光で励起された前記信号光のうちの予め定められた偏光方向の前記信号光を前記検出器に入射させ、検出させるようにしたことを特徴とする光学測定装置。
【請求項2】
前記信号光が前記試料面に垂直な偏光方向の励起光で励起されたラマン散乱光である、請求項1に記載の光学測定装置。
【請求項3】
前記光学測定装置は、前記検出器によって検出されたラマン散乱光のスペクトルのピークのシフト量に基づいて、前記試料に作用する応力を測定する、請求項2に記載の光学測定装置。
【請求項4】
前記Z偏光子は二つの半波長板からなる、請求項1から請求項3の何れか一項に記載の光学測定装置。
【請求項5】
前記試料へ向かう前記励起光の光路上であって前記Z偏光子の後ろに配置される直線偏光子をさらに備え、前記Z偏光子によって偏光された励起光のうちの予め定められた偏光方向の励起光を前記試料面に照射させる、請求項1から請求項4の何れか一項に記載の光学測定装置。
【請求項6】
前記対物レンズの中央部を通る光を遮断し且つ前記対物レンズの中央部の周辺部で励起光の通過を許容する絞りをさらに備える、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の光学測定装置。
【請求項7】
試料へ向けて励起光を照射し、励起光によって励起されて試料から放射される信号光を検出する光学測定方法であって、
Z偏光子で偏光した励起光を対物レンズで試料面に集光し、入射させると共に、直線偏光子を用いた偏光で、前記試料面に垂直な偏光方向の励起光で励起された前記信号光のうちの予め定められた偏光方向の前記信号光を検出するようにしたことを特徴とする光学測定方法。
【請求項8】
前記信号光が前記試料面に垂直な偏光方向の励起光で励起されたラマン散乱光である、請求項7に記載の光学測定方法。
【請求項9】
検出されたラマン散乱光のスペクトルのピークのシフト量に基づいて、前記試料に作用する応力を測定する、請求項8に記載の光学測定方法
【請求項10】
二つの半波長板によってZ偏光子を構成するようにした、請求項7に記載の光学測定方法。
【請求項11】
前記Z偏光子を通った励起光をさらに直線偏光子に通して、前記Z偏光子によって偏光された励起光のうちの予め定められた偏光方向の励起光を前記試料面に照射させる、請求項7又は請求項10に記載の光学測定方法。
【請求項12】
二つの半波長板によってZ偏光子を構成するようにした、請求項8又は請求項9に記載の光学測定方法。
【請求項13】
前記Z偏光子を通った励起光をさらに直線偏光子に通して、前記Z偏光子によって偏光された励起光のうちの予め定められた偏光方向の励起光を前記試料面に照射させる、請求項8、請求項9又は請求項12の何れか一項に記載の光学測定方法。
【請求項14】
前記対物レンズの中央部を通る光を遮断し且つ前記対物レンズの中央部の周囲で励起光の通過を許容するようにする、請求項7から請求項13の何れか一項に記載の光学測定方法。
【請求項15】
前記試料は、ダイヤモンド構造又は閃亜鉛鉱型構造を有する結晶である、請求項8、請求項9、請求項12又は請求項13の何れか一項に記載の光学測定方法。
【請求項16】
前記試料はSi、Ge及びIII−V族結晶からなる群の一つである、請求項8、請求項9、請求項12又は請求項13の何れか一項に記載の光学測定方法。
【請求項17】
前記Z偏光子による偏光と前記対物レンズによる集光とにより前記試料の<110>方向に偏光した励起光を前記試料に入射させて前記信号光を励起し、前記信号光の光路上に配置された前記直線偏光子によって前記試料の<110>方向と垂直な偏光方向の信号光を前記検出器に入射させる、請求項15又は請求項16に記載の光学測定方法。
【請求項18】
前記Z偏光子による偏光と前記対物レンズによる集光とにより前記試料の<100>方向に偏光した励起光を前記試料に入射させて前記信号光を励起し、前記信号光の光路上に配置された前記直線偏光子によって前記試料の<100>方向と平行な偏光方向の信号光を前記検出器に入射させる、請求項15又は請求項16に記載の光学測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料へ向けて励起光を照射し、励起光によって励起されて試料から放射される信号光を検出する光学測定装置および光学測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Siデバイスの性能は、デバイス領域にかかる応力により大きく影響される。例えば、トランジスタのチャネル領域に加わる応力は電子や正孔の易動度に大きな影響を与えるので、近年、意図的に応力をかけることにより、デバイスの特性向上が図られるようになっている。しかしながら、トランジスタごとに加わる応力が異なると、特性がばらついてしまう。特に、シリコンなどの半導体のバンドギャップは応力に敏感に依存するので、応力の変動があると、トランジスタのしきい値電圧が変化し、集積回路が動作しなくなる。したがって、デバイス中にどのような応力が入っているのかを測定する手段の開発が重要な研究開発テーマとなっている。
【0003】
ラマン散乱法は、Siデバイス領域の応力分布を非破壊測定できる方法の一つとして大きな注目を集めている。520cm-1に現れるSiのラマンピークは、引っ張り応力が作用すると低波数側にシフトし、圧縮応力が作用すると高波数側シフトする。したがって、ラマンスペクトルのピーク波数シフトの空間分布を測定することにより、原理的には、応力分布を測定できる可能性がある。
【0004】
ところが、ラマン散乱光のシフト量は、応力の大きさだけでなく、種類(応力が、一軸性あるいは二軸性の張力あるいは圧縮、または剪断応力などのいずれか)や方向に依存するので、通常、ラマンシフト量の測定だけでは、1軸性応力なのか、2軸性応力なのか、まして、どの方向の応力であるのか等の情報は分からず、応力の大きさの定量測定も不可能であった。このような理由により、従来のラマン散乱測定は、応力分布の定性的な測定に留まっていた。
【0005】
ここで、Si等、ダイヤモンド格子の結晶のラマンモードは、3重に縮退しており、縦光学(LO)フォノンに起因する一つのモード(以下、LOフォノンモードと記載する。)と横光学(TO)フォノンに起因する二つのモード(以下、TOフォノンモードと記載する。)とからなる。この縮退は、応力を印加すると分裂し、その分裂の仕方は応力の種類や方向により異なるため、特許文献1や非特許文献1に記載されているように、ラマンモードの分裂の仕方を解析すれば、応力の種類や、方向、大きさを評価することが可能になる。例えば、非特許文献1では、Siの(110)面での測定をもとに応力解析を行っている。(110)面では、LOフォノンモードとTOフォノンモードの双方を測定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−145148号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】T.Tada, V. Poborchii, and T. Kanayama; Journal of Applied Physics, 107, 113539,(2010)
【非特許文献2】VladimirPoborchii, Tetsuya Tada, and Toshihiko Kanayama; Applied Physics Letters, 97,041915, (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
通常、Siデバイスは、Si(001)表面に作製されるが、(001)面での後方散乱配置では、三つのラマンモードのうちLOフォノンモードしか検出することはできない。これは、(001)面における後方散乱配置では、励起光の偏光方向は、試料表面である(001)面に平行になるが、ラマン選択則によると、(001)面に平行な光による励起では、LOフォノンモードしか検出できず、TOフォノンモードは、(001)面に垂直な偏光を用いないと励起できないからである。
【0009】
したがって、Siでも、(001)面に垂直な偏光成分を有する光で励起してやれば、二つのTOフォノンモードを検出することが可能になり、(001)面に平行な偏光で励起して得られるLOフォノンモードの情報と合わせて、応力の種類や方向、大きさに関する解析を行うことが可能になる。
【0010】
ここで、後方散乱配置の顕微ラマン測定では、高い開口数(NA)の対物レンズを用いると、対物レンズ周辺部を通ってきた光は、Si(001)面に浅い角度で入射するため、大きな垂直方向([001]方向)の偏光成分を有することになるため、垂直方向の偏光成分で励起されるTOフォノンモードも検出することが可能になる。
【0011】
ところが、図2(a)に示されているように、対物レンズ中心に対して互いに180度反対側(すなわち対物レンズの中心に関して点対称な位置)を通ってきた光は、焦点において、集光された光の垂直方向(詳細には試料面に垂直な方向)の偏光成分が打ち消される一方、横方向(試料面に平行な方向)の偏光成分は強め合うようになっているため、横方向の偏光で励起されるラマンモードの信号が極めて大きくなり、垂直方向の偏光成分で励起される信号成分が覆い隠されてしまうという問題点があった。
【0012】
よって、本発明の目的は、従来技術に存する問題点を解消して、光学測定において、試料表面に垂直な偏光方向の光で励起することを可能にすることにある。また、他の目的は、ラマン測定において、試料表面に垂直な偏光方向の光で励起して、様々なラマンモードの信号を検出することにより、結晶中の内部応力の方向や種類、大きさを評価することを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的に鑑み、本発明は、第1の態様として、試料へ向けて励起光を照射し、励起光によって励起されて試料から放射される信号光を検出器によって検出する光学測定装置であって、前記試料へ向かう前記励起光の光路上に配置されるZ偏光子と、前記Z偏光子により偏光された励起光を試料面に集光する対物レンズと、前記試料から前記検出器へ向かう前記信号光の光路上に配置される直線偏光子とを備え、前記Z偏光子を用いた偏光と前記対物レンズによる集光とにより、前記試料面に垂直な偏光方向の励起光を前記試料面に入射させると共に、前記直線偏光子を用いた偏光で、前記試料面に垂直な偏光方向の励起光で励起された前記信号光のうちの予め定められた偏光方向の前記信号光を前記検出器に入射させ、検出させるようにした光学測定装置を提供する。
【0014】
上述したように、従来の光学測定装置では、図2(a)に示されているように、対物レンズ中心に関して点対称な位置を通ってきた光は、焦点において、集光された光の垂直方向の偏光成分が打ち消される一方、横方向(試料面に平行な方向)の偏光成分は強め合うようになっており、試料面に垂直な方向の偏光成分を十分に含んだ光を試料に照射することができなかった。そこで、上記光学測定装置では、励起光の光路中にZ偏光子を配置し、対物レンズの中心に関して点対称な位置を通過する光の電場ベクトルの方向(偏光方向)を180度反転させた後に対物レンズで集光させている。これにより、図2(b)のように、試料面に対して垂直方向の偏光成分は強め合い、横方向(試料面に対して平行な方向)の偏光成分は打ち消し合うことになる。したがって、試料面に垂直な方向の偏光成分を十分に含んだ励起光を試料に照射することが可能になる。
【0015】
上記光学測定装置では、前記信号光が前記試料面に垂直な偏光方向の励起光で励起されたラマン散乱光であることが好ましい。この場合、前記検出器によって検出されたラマン散乱光のスペクトルのピークのシフト量に基づいて、前記試料に作用する応力を測定することができる。
【0016】
上述したように、上記光学測定装置では、励起光の光路中にZ偏光子を配置することによって、試料面に対して垂直方向の偏光成分は強め合い、横方向(試料面に対して平行な方向)の偏光成分は打ち消し合うことができるので、信号光としてラマン散乱光を利用するラマン散乱測定において、試料面に垂直な方向の偏光成分で励起されるTOフォノンモードをより強く検出することができるようになり、詳細な応力解析が可能となる。
【0017】
前記Z偏光子は、例えば、二つの半波長板によって構成することができる。
【0018】
上記光学測定装置は、前記試料へ向かう前記励起光の光路上であって前記Z偏光子の後ろに配置される直線偏光子をさらに備え、前記Z偏光子によって偏光された励起光のうちの予め定められた偏光方向の励起光を前記試料面に照射させるようになっていることが好ましい。
【0019】
また、上記光学測定装置は、前記対物レンズの中央部を通る光を遮断し且つ前記対物レンズの中央部の周辺部で励起光の通過を許容する絞りをさらに備えることが好ましい。
【0020】
さらに、本発明は、第2の態様として、試料へ向けて励起光を照射し、励起光によって励起されて試料から放射される信号光を検出する光学測定方法であって、Z偏光子で偏光した励起光を対物レンズで試料面に集光し、入射させると共に、直線偏光子を用いた偏光で、前記試料面に垂直な偏光方向の励起光で励起された前記信号光のうちの予め定められた偏光方向の前記信号光を検出するようにした光学測定方法を提供する。
【0021】
上記光学測定方法では、前記信号光が前記試料面に垂直な偏光方向の励起光で励起されたラマン散乱光であることが好ましい。この場合、検出されたラマン散乱光のスペクトルのピークのシフト量に基づいて、前記試料に作用する応力を測定することができる。
【0022】
例えば、二つの半波長板によってZ偏光子を構成することができる。
【0023】
さらに、前記Z偏光子を通った励起光をさらに直線偏光子に通して、前記Z偏光子によって偏光された励起光のうちの予め定められた偏光方向の励起光を前記試料面に照射させることが好ましい。
【0024】
また、前記対物レンズの中央部を通る光を遮断し且つ前記対物レンズの中央部の周囲で励起光の通過を許容するようにすることが好ましい。
【0025】
前記試料は、ダイヤモンド構造又は閃亜鉛鉱型構造を有する結晶としてもよく、Si、Ge及びIII−V族結晶からなる群の一つとすることもできる。
【0026】
さらに、上記光学測定方法では、例えば、前記Z偏光子による偏光と前記対物レンズによる集光とにより前記試料の<110>方向に偏光した励起光を前記試料に入射させて前記信号光を励起し、前記信号光の光路上に配置された前記直線偏光子によって前記試料の<110>方向と垂直な偏光方向の信号光を前記検出器に入射させてもよく、また、前記Z偏光子による偏光と前記対物レンズによる集光とにより前記試料の<100>方向に偏光した励起光を前記試料に入射させて前記信号光を励起し、前記信号光の光路上に配置された前記直線偏光子によって前記試料の<100>方向と平行な偏光方向の信号光を前記検出器に入射させてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の光学測定装置及び方法によれば、試料面に垂直な方向の偏光成分で励起されるTOフォノンモードをより強く検出することができるようになり、試料面に平行な方向の偏光成分で励起されるLOフォノンモードの情報と併せれば、応力の種類や方法、大きさに関する詳細な応力解析が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態による光学測定装置の全体構成図である。
図2】試料に照射される偏光の状態について、Z偏光子を用いない従来の光学測定装置及び方法とZ偏光子を用いた本発明による光学測定装置及び方法とを対比して示した模式図であり、(a)が従来の光学測定装置における偏光の状態を示し、(b)が本発明による光学測定装置における偏光の状態を示す。
図3】Z偏光子の構造の模式図であり、(a)は8枚の半波長板を組み合わせてZ偏光子を構成した場合、(b)は2枚の半波長板を組み合わせてZ偏光子を構成した場合を示している。
図4】Z偏光子が透過前後で偏光方向をどのように回転するかを示した説明図である。
図5】試料であるSiに入射する励起光を示した模式図である。
図6】Z偏光子を用いない場合と12個の波長板からなるZ偏光子を用いた場合とを比較して示したSiのラマンスペクトルである。
図7】Siのラマンスペクトルの実測データをローレンツ曲線でフィットした結果と共に示しており、(a)はZ偏光子と直線偏光子を用いた場合のラマンスペクトルであり、(b)は直線偏光子のみを用いた場合のラマンスペクトルである。
図8】Z偏光子及び直線偏光子に加えて、対物レンズの中心部を通る励起光を遮断し且つその周辺部において励起光の通過を許容するように絞りを用いた場合に測定されたラマンスペクトルを二つのローレンツ曲線でフィットした結果と共に示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明による光学測定装置及び方法を説明する。
【0030】
最初に、図1を参照して、本発明の一実施形態による顕微光学測定装置の全体構成を説明する。
図1を参照すると、顕微光学測定装置10は、試料12へ向かって励起光を出射する励起用光源14と、Z偏光子16と、第1の直線偏光子18と、ノッチフィルタ20と、対物レンズ22と、第2の直線偏光子24と、分光器26と、検出器28とを備える。励起用光源14としては、連続発振又はパルス発振するレーザー光源が用いられる。顕微光学測定装置10では、励起用光源14から出射された励起光は、励起光光路に沿って試料12へ導かれ、励起光によって励起されて試料から放射された信号光が信号光光路に沿って検出器28に入射されて、検出される。
【0031】
励起光光路上には、Z偏光子16と、第1の直線偏光子18と、ノッチフィルタ20と、対物レンズ22と、ミラー30とが配置されており、Z偏光子16及び第1の直線偏光子18によって偏光された励起光がミラー30及びノッチフィルタ20によって反射されて励起光光路に沿って進み、対物レンズ22によって試料面に集光される。一方、信号光光路上には、対物レンズ22と、ミラー30と、ノッチフィルタ20と、第2の直線偏光子24と、分光器26と、検出器28とが配置されている。励起光によって励起され試料から放射された信号光は、対物レンズ22及びミラー30を介してノッチフィルタ20へ導かれる。ノッチフィルタ20は、特定の波長範囲の光を透過させる一方で、特定の波長範囲以外の光を反射させるフィルタであり、ここでは、励起光を反射させる一方で、励起光の波長以外の光を透過させるように選択されている。すなわち、ノッチフィルタ20は、励起光光路に沿って進んできた励起光や試料12で反射された励起光は反射する一方、励起光によって励起された信号光は透過させて、励起光と信号光とを分離させる。そして、ノッチフィルタ20を透過した信号光は信号光光路に沿って進んで、第2の直線偏光子18によって信号光のうちの特定の偏光方向の信号光が分光器26に入射されて分光された後、検出器28によって測定される。なお、ノッチフィルタ20に代えて、エッジフィルタを用いても同様の作用を得ることができる。
【0032】
ところで、高い開口数(NA)の対物レンズを用いる場合、対物レンズの周辺部(すなわち周縁側)を通ってきた光は、試料面に浅い角度で入射するため、垂直方向の偏光成分が大きくなる。したがって、特に、顕微ラマン測定では、垂直方向の偏光成分で励起されるTOフォノンモードも検出することが可能になる。ところが、図2(a)に示されているように、対物レンズ22の中心に関して点対称の位置(対物レンズ22の中心に対して互いに180度反対側の位置)を通ってきた光は、焦点において、集光された光の垂直方向の偏光成分が打ち消されるようになっていると共に、横方向(試料面に平行な方向)の偏光成分は強め合うようになっている。このため、横方向の偏光で励起される信号光成分が極めて大きくなり、垂直方向の偏光成分で励起される信号光成分が覆い隠されてしまい、例えばTOフォノンモードを実際に検出することは困難であった。そこで、上記顕微光学測定装置10では、励起光光路上においてノッチフィルタ20及び対物レンズ22の前段にZ偏光子16を配置し、図2(b)に示されているように、対物レンズ22の中心に関して点対称の位置を通る光の電場ベクトルの方向(偏光方向)を180度反転させている。これにより、Z偏光子16の進相軸が90度ずれた部分を通った光は、互いに電場ベクトルの位相が180度ずれるため、励起光が対物レンズ22によって試料面に集光される焦点位置では試料面に平行な方向の偏光成分を打ち消す一方で試料面に垂直な方向の偏光成分を強めることができるようになる。
【0033】
なお、図2では、光線が太い実線の矢印で、光の電場ベクトルの方向(偏光方向)が点線の矢印で示されており、また、図2の拡大図中では、細い実線の矢印で平行成分と垂直成分が示されている。
【0034】
ここで、Z偏光子16とは、図3(a)及び(b)に示されているように、中心角が180°/n(nは正の整数)の扇形2n個の半波長板あるいは180°/nの頂点を持つ多角形2n個の半波長板が180°/nの頂点を互いに共有するように接して並べられ、隣合う半波長板の進相軸の角度が右回りに90°/nずつ回転していく構造となっている光学素子である。図3(a)には、8枚の半波長板を組み合わせることによって構成されたZ偏光子16の例が示されており、図3(b)には、2枚の半波長板を組み合わせることによって構成されたZ偏光子16の例が示されている。
【0035】
半波長板は、通過した光の進相軸に平行な電場ベクトル成分の位相が、(進相軸と90°の角度をなす)遅相軸に平行な電場ベクトルの位相に対して180°進むという性質を有している。したがって、Z偏光素子の0°の進相軸に平行な偏光が入射すると、0°のセグメントを通った光の偏光方向は変化しないが、(90°/n)×m(mは1〜nの整数)の進相軸のセグメントを通ると、電場ベクトルの方向が(180°/n)×mだけ回転するため、偏光方向が放射状に広がることになる(図4参照)。このZ偏光子を通ってきた光が、開口数NAの高い対物レンズを透過すると、焦点位置において試料面と平行な偏光成分(平行偏光成分)は焦点位置で互いに打ち消し合う一方、試料面に垂直な方向の偏光は互いに強め合うため、垂直偏光で試料を強く励起することができることになる。Z偏光子で組み合わせる半波長板の枚数は図3(a)及び(b)から分かるように、枚数が多いほど隣り合う半波長板のセグメントを通った偏光方向が、より細かい角度ステップで回転していき、焦点位置でより効率的に垂直方向の偏光が強められる。しかし、後述するように、本目的のためには半波長板が2枚であれば十分である。
【0036】
次に、第1の直線偏光子18と第2の直線偏光子24の作用を説明する。
【0037】
例えば、Siの高空間分解能ラマン顕微分光測定では、波長364nmの励起光が使われるが、この波長におけるSiの屈折率は、nSi=6.5と非常に大きい。そのため、例えば、NA=1.4の高開口数の対物レンズを使っても、実効的な開口数NAeff=NA/nSiが0.22と小さくなってしまう。これでは、浅い角度でSiに励起光が入射しても、図5に示すように、入射角度が屈折により試料面にほぼ垂直になり、垂直偏光成分が非常に小さくなってしまう。このため、平行偏光成分で励起される信号光の強度が垂直偏光成分で励起される信号の強度よりも非常に大きくなってしまう。この結果、ラマン散乱光を用いた応力測定などでは、Z偏光子16で取り切れなかった平行偏光成分で励起されるLOフォノンモードの強度が、垂直偏光成分で励起されるTOフォノンモードよりも非常に大きくなってしまい、結果としてTOフォノンモードの検出が困難になってしまう。
【0038】
ここで、ラマン散乱光は、ラマン選択則により励起光の偏光方向に対してある一定の偏光方向をもっているため、信号光光路上に第2の直線偏光子を配置して、信号光中のLOフォノンモードの信号を遮断すれば、TOフォノンモードのラマン散乱光を選択的に検出することができる。しかしながら、図4に示すように、Z偏光子を挿入すると励起光の偏光方向の試料面に水平な成分は、回転して、一定の偏光方向ではなくなるため、信号光光路上にLOフォノンモードの信号を遮断するように直線偏光子を設置することは不可能である。そこで、図1のように、励起光光路上でZ偏光子16の後段に第1の直線偏光子18を導入し、偏光方向を一定方向に制限すれば、検出光側にLOフォノンモードの信号をカットするように直線偏光子を設置することが可能となる。
【0039】
例えば、Siにおけるラマン選択則によると、[110]に平行な偏光の励起光を入射する場合は、LOフォノンモードの信号の偏光方向は、励起光の偏光方向と垂直な[1−10]方向の偏光方向を有する。したがって、励起光光路上(すなわち入射側)に[110]偏光を透過させる直線偏光子を配置した場合は、[−110]偏光を透過させる直線偏光子を信号光光路上(すなわち出射側)に挿入することにより、LOフォノンモードの信号をカットできる。同様に、[100]偏光の励起光を入射させる場合は、[100]偏光に平行な偏光を通す直線偏光子を励起光光路上と信号光光路上に挿入することによりLOフォノンモードをカットすることができる。
【0040】
なお、図3(b)に示されているように、2枚の半波長板を組み合わせてZ偏光子16を構成している場合は、偏光方向が180°反転するだけなので、励起光光路上の第1の直線偏光子18を省略することも可能である。しかしながら、この場合でも、Z偏光子18を透過した後に偏光が乱れることがあるので、それを修正する観点から第1の直線偏光子18を挿入しておいても良い。
【0041】
また、対物レンズ22の中心部を通過する光は、深い角度で入射するため、平行偏光成分が大きく、垂直偏光成分が小さい。よって、対物レンズ22の中央部を通過する光を遮断し、中央部の周辺部で光の通過を許容するような絞り32を挿入することにより、TOフォノンモードをより選択的に検出することができるようにすることが好ましい。図1に示されている顕微光学測定装置10では、絞り32が対物レンズ22の前段に挿入されているが、絞り32を挿入する位置は、対物レンズ22の後段でもよい。
【0042】
非特許文献2に、高い開口数の対物レンズと直線偏光子のみを用いて、TOフォノンモードを測定する例が記載されているが、この場合、TOフォノンモードの信号強度より、LOフォノンモードの信号強度の方が強く観測されている。これに対して、Z偏光子と直線偏光子を用いる本発明による光学測定装置及び方法によれば、TOフォノンモードをより選択的に検出することができるため、印加されている応力が小さく、TOフォノンモードとLOフォノンモードのピーク位置の差が小さい場合でも、TOフォノンモードをより強く検出できるので、ピーク位置を正確に決めることができ、応力解析に威力を発揮する。
【0043】
また、本発明による光学測定装置及び方法の対象は、Siに限らず、ダイヤモンド構造閃亜鉛鉱型構造をもつ結晶、Ge、III−V族結晶のように、ラマン選択則により、試料面に垂直な偏光をもつ励起光を用いた場合と、試料面に平行な偏光をもつ励起光を用いた場合とでは、異なるラマンモードが検出されるような試料に対しても有効である。さらに、検出する信号光も、ラマン散乱に限らず、試料面に垂直な偏光で励起される信号光が、試料面に平行な偏光で励起される信号が異なる場合、試料面に垂直な偏光で励起される信号を選択的に検出するのに有効である。
【0044】
このように、本発明にの光学測定装置及び光学測定方法によれば、TOフォノンモードのラマン散乱光を検出することができるようになり、検出されたラマン散乱光のスペクトルのピークのシフト量に基づいて、試料に作用する応力を測定することが可能になる。
【0045】
以上、図1に示される顕微光学測定装置10を参照して、本発明による光学測定装置及び方法について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、光学測定装置の構造は、図1に示されている顕微光学測定装置10の構造に限定されるものではなく、例えば第1の直線偏光子18を省略したり、絞り32を省略してもよい。
【実施例1】
【0046】
BOX(Buried Oxicide)層の上に、80nmのSiGe層、その上に、15nmの歪みSi層が形成されたSSGOI基板を試料とした。ラマンスペクトルは、NA=1.4の油浸の対物レンズ22を装着した共焦点顕微ラマン分光システムを用いて測定した。励起光の波長は364nm、偏光方向はSi[110]に平行とした。
【0047】
このSSGOI基板の顕微ラマンスペクトルを、励起用光源14から発せられた励起レーザー光が励起光光路上において対物レンズ22に入射する前に12セグメント(12枚の半波長板)からなるZ偏光子16を挿入した場合と、挿入しなかった場合について測定してみたところ、図6に示されているように、測定された顕微ラマンスペクトルは両者とも同じ形状で、513.3cm-1にピークを有するローレンツ曲線一つでフィットできた。すなわち、何れの場合でも、ほとんど、LOモードしか検出されなかったことがわかる。これは上述したように、Siの364nmにおける屈折率が6.5と非常に大きいため、NA=1.4の対物レンズ22を用いても、実効的な開口数NAeff=NA/nSiが0.22と小さくなって、垂直偏光成分が非常に小さくなってしまい、Z偏光子16で取りきれなかった励起光の平行偏光成分によって励起されたLOモードの信号強度が、TOモードの信号強度に比べ、極めて大きくなってしまうためである。
【実施例2】
【0048】
実施例1で測定した試料において、[110]偏光で励起されたLOモードのラマン散乱光は、[110]方向の偏光成分を有するため、偏光方向が[110]方向になるように励起光光路上であってZ偏光子16の後段に第1の直線偏光子18を設置し、励起光光路上に[110]方向の偏光成分をカットするように第2の直線偏光子24を挿入すれば、TOモードの信号を選択的に検出できる。12セグメント(12枚の半波長板)からなるZ偏光子16と第1の直線偏光子18及び第2の直線偏光子24とを用いて測定した結果を図7(a)に示し、第1の直線偏光子18及び第2の直線偏光子24のみを用いて測定した結果を図7(b)に示す。双方とも、TOモードとLOモードを検出することができているが、Z偏光子16を用いずに第1の直線偏光子18及び第2の直線偏光子24のみを用いた場合は、LOフォノンモードの強度が、TOフォノンモードの強度よりも強いが、Z偏光子16と第1の直線偏光子18及び第2の直線偏光子24とを用いた場合は、TOフォノンモードの方を強く検出することができた。
【0049】
なお、2セグメントからなるZ偏光子16を用いる場合、励起レーザーの偏光方向を正確に[110]方向に調整すれば、励起光光路上の第1の直線偏光子18を省略することが可能である。
【実施例3】
【0050】
実施例2で測定した試料において、Z偏光子16と第1の直線偏光子18及び第2の直線偏光子24に加え、対物レンズ中心部を通過する励起光を遮断し、周辺部(中心部よりも外側の部分)を通過する光を通すような絞り32を、対物レンズ22の前に挿入し、ラマンスペクトルを測定した。図8に示されているように、TOフォノンモードが、LOフォノンモード対して、さらに強く検出することができた。測定された、LOフォノンモード、TOフォノンモードのそれぞれのピーク位置、513.4cm-1、514.9cm-1から、SSGOI基板には1.6GPaの等方的2軸張力が印加されていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、計測機器、半導体産業、例えば、シリコン基板・デバイスのひずみ分布測定装置等に広く利用することが可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 顕微光学測定装置
12 試料
14 励起用光源
16 Z偏光子
18 第1の直線偏光子
20 ノッチフィルタ
22 対物レンズ
26 分光器
28 検出器
30 ミラー
32 絞り
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8