特許第5830540号(P5830540)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧
特許5830540非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた非水電解質二次電池
<>
  • 特許5830540-非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた非水電解質二次電池 図000002
  • 特許5830540-非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた非水電解質二次電池 図000003
  • 特許5830540-非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた非水電解質二次電池 図000004
  • 特許5830540-非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた非水電解質二次電池 図000005
  • 特許5830540-非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた非水電解質二次電池 図000006
  • 特許5830540-非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた非水電解質二次電池 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5830540
(24)【登録日】2015年10月30日
(45)【発行日】2015年12月9日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極材料およびそれを用いた非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20151119BHJP
【FI】
   H01M4/58
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-532403(P2013-532403)
(86)(22)【出願日】2012年5月28日
(86)【国際出願番号】JP2012003452
(87)【国際公開番号】WO2013035222
(87)【国際公開日】20130314
【審査請求日】2014年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-197188(P2011-197188)
(32)【優先日】2011年9月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100310
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 学
(74)【代理人】
【識別番号】100098660
【弁理士】
【氏名又は名称】戸田 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100091720
【弁理士】
【氏名又は名称】岩崎 重美
(72)【発明者】
【氏名】浅利 裕介
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 雄二
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−221690(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035572(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/031331(WO,A1)
【文献】 特表2006−523930(JP,A)
【文献】 特許第3624205(JP,B2)
【文献】 特開2010−260761(JP,A)
【文献】 特表2009−538495(JP,A)
【文献】 特開2011−040311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成式がA2−xMP7−δδを主成分とする非水電解質二次電池用正極材料であって、Aはアルカリ金属から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、Mは2価以上の多価イオンとなりうる遷移金属から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、Zはハロゲン元素から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、xは0≦x<2の範囲にあり、δは0<δ≦1.47の範囲にあることを特徴とする非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項2】
前記遷移金属Mは、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Wからなる群から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項3】
前記ハロゲン元素Zは、F、Cl、Brからなる群から選ばれた少なくとも一つであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項4】
前記アルカリ金属AがLiであり、前記遷移金属MがFeであり、ハロゲン元素がFであり、前記化学組成式がLi2−xFeP7−δδで表されることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項5】
前記アルカリ金属AがLiであり、前記遷移金属MがMnであり、ハロゲン元素がFであり、前記化学組成式がLi2−xMnP7−δδで表されることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項6】
前記アルカリ金属AがLiであり、前記遷移金属MがV、Cr、Mn、Co、Niからなる群から選ばれた少なくとも1つであり、ZがF、Cl、Brからなる群から選ばれた少なくとも1つであり、前記化学組成式がLi2−xMP7−δδで表されることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項7】
前記アルカリ金属AがNaであり、前記遷移金属MがFeであり、前記化学組成式がNa2−xFeP7−δδで表されることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項8】
原料の一部にモノフルオロリン酸リチウム(LiPOF)を用いた、前記化学組成式で表される化合物からなることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項9】
前記アルカリ金属AがLiであり、前記xが1以上2以下であることを特徴とする請求項8に記載の非水電解質二次電池用正極材料。
【請求項10】
前記正極には、請求項1〜9のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用正極材料が用いられることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項11】
正極と負極とを備えた非水電解質二次電池において、
前記正極は、化学組成式がA2−xMP7−δδを主成分とし、Aはアルカリ金属から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、Mは2価以上の多価イオンとなりうる遷移金属から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、Zはハロゲン元素から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、xは0≦x<2の範囲にあり、δは0<δ≦1.47の範囲にある正極材料を含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項12】
前記正極材料はLi、Feを含み、前記ハロゲン元素はFであることを特徴とする請求項11に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池(再充電可能電池)用正極材料およびそれを用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、マグネシウム等のアルカリ土類金属、あるいはこれらの合金、化合物などを負極材料とする非水電解質二次電池は、負極金属イオンを正極材料へインサーションもしくはインターカレーションすることにより、その電気容量と充電可逆性を確保している。正極材料および負極材料をホストと呼び、ホストに対してインサーション・インターカレーションする可動金属イオンをゲストと呼ぶ。このようなホスト・ゲスト型の非水電解質二次電池の代表例としては、リチウムイオン二次電池が挙げられる。二次電池については、例えば、特許文献1や2、非特許文献1〜5に開示されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、従来型の二次電池に比べてエネルギ密度が高く、電池の安全性を確保することが重要である。特に、正極材料の熱安定性は、リチウムイオン二次電池における安全性を決定する要因のひとつである。加熱、圧壊、短絡などの外的要因により温度が上昇し、正極材料の熱分解温度を超えると、発熱あるいは酸素放出が起きる。放出された酸素は、可燃性の有機電解質あるいは負極材料と反応し、電池の安全性が損なわれる虞がある。
【0004】
熱安定性の問題は特に充電状態において顕著となる。充電状態では、リチウムイオンは負極材料に蓄積されており、正極材料は脱リチウム化されている。脱リチウム化された正極材料は化学的にエネルギの高い状態であり、熱分解温度はより低い。このため、正極材料は高温保存時に劣化しやすく、また温度上昇に伴って熱分解する可能性がある。
【0005】
金属酸化物型の正極材料である層状岩塩型LiMO(ただしMは遷移金属)においては、例えばLiCoOにおいては過充電状態において構造の不安定性が増加するために熱分解温度が下降し、200℃以上の温度において熱分解反応が発生し、正極材が自己発熱することで酸素が放出される可能性がある。また、スピネル型金属酸化物LiMnにおいては、高温保存時にマンガンが電解液中に溶出し、溶出したマンガンがセパレータの目詰まりをおこしたり、負極上に被膜を形成したりして電池抵抗の上昇を招き、材料が劣化する虞がある(特許文献1を参照)。以上のような正極群を用いたリチウムイオン二次電池では、信頼性および安全性の確保のため、保護回路によって過充電を防止する必要がある。このような保護回路および機械的諸機構は、現在の電池パックの相当体積を占めている。熱安定性が高い正極材料を採用して二次電池を構成することができれば、本質的な安全化が可能になると共に電池機構の簡略化、実効的エネルギ密度の向上に繋がる。
【0006】
オリビン型化合物LiFePOでは熱安定性が高いことが知られている。LiFePOの充電相であるFePO(Heterosite)は加熱に対して極めて安定であり、620℃以上に加熱しても、熱力学的により安定であるQuartz相に相転移するだけであり、酸素を放出しない。このように高い熱安定性を示す理由は、オリビン型化合物がリン酸骨格を有しているためである。リン酸型構造においてはリン(P)と酸素(O)が強固な共有結合で結ばれている。すなわち、酸素はリンによって固定化されており、発熱による酸素放出が起こりづらく、熱に対する安定性が高い。
【0007】
以上のことから、リンと酸素との共有結合は、正極材料の熱安定性を確保するために有効な手段であると考えられる。熱安定性に優れた正極材料としては、リン酸型構造(P)を含有するポリアニオン正極群が最適であると考えられる。ポリアニオン正極材料としては、オリビン酸化合物LiMPO(例えば、非特許文献1、5を参照)、ピロリン酸化合物LiMP(例えば、非特許文献2〜4を参照)などが提案されている。上記のリン酸型正極材料に関する詳細を以下に述べる。
【0008】
オリビン酸化合物LiMPOは、ポリアニオン(化学式(XO)y)で表される一連の正極材料群の一部として知られる。オリビン酸化合物はX=P(リン)である。化学組成式LiMPOに対して、M=Fe、Mn、Co、Ni等が用いられる。中でもオリビン型含リチウムリン酸鉄(LiFePO、0<x<1、以下オリビンFe)は、実用性が立証され、以降の研究が加速されてきた。オリビン型LiFePOは化学組成式あたりリチウムが1原子を含んでおり理論電気容量は160mAh/gである。実験でもその理論電気容量のほぼ全てを利用することができる。
【0009】
ピロリン酸化合物LiMPはMとしてFe、Mn、Co等を用いた正極材料である。M=FeはM=Mnよりも充放電特性が良く、電気容量の実験値は80〜110mAh/gに達する(非特許文献2および4を参照)。しかしながら、この値は1電子反応に相当する容量であって、化学組成式LiMPにおけるリチウムイオン1つしか利用できていないことを意味する。ピロリン酸化合物が全てのリチウムイオンを充放電に利用できた場合の電気容量を理論電気容量と言い、それは220mAh/gである。
【0010】
以上から、電気容量についてまとめる。オリビン型正極の理論電気容量は160mAh/gであって実験でもその容量を利用することが可能である。一方、ピロリン酸型正極の理論電気容量は220mAh/gであるが、実験ではその半分の110mAh/gしか利用することができない。電気容量が大きいほど、リチウムイオン電池の小型化・軽量化が可能になるため、もしピロリン酸型正極の容量を最大限に引き出すことができれば、オリビン型正極を上回る正極材料となり得る。
【0011】
高容量を実現させるための要因について、オリビン型正極材料LiFePOを例にして論じる。オリビン型LiFePOは一般的に理論容量よりもずっと低い実験電気容量しか持たないが、正極材料の粒子を微粒子化し、粒径を小さくすることで、電気容量が増大することが知られている。電極として動作するために必要な微粒子サイズは200nm以下である。LiFePOの理論容量160mAh/gを達成するためには、正極材料をさらに微粒子化することが必須である。
【0012】
このような微粒子化による容量増大の理由は、インサーションされたリチウムイオンの移動距離に関係すると考えられている。粒径が大きければ、正極材料の粒子内におけるリチウムイオンの移動距離は長い。このような場合は、粒子内にある不純物や、原子位置交換欠陥(アンチサイト欠陥)、原子空孔によるイオンのトラップ、粒界などの不整合面に起因するイオン拡散経路の遮断など、様々な要因でリチウムイオンの運動が妨害される可能性が高い。
【0013】
LiFePOではリチウムの拡散経路が1次元的であることが知られている。このような1次元の拡散経路は、上記のような結晶欠陥の影響を受けやすい。すなわち1次元ネットワーク状リン酸化合物では、リチウムイオンは材料におけるネットワークを1次元的に動くため、結晶欠陥によりネットワークが容易に遮断されてしまう欠点がある。ひとつのリチウムの拡散ネットワークにアンチサイト欠陥などの結晶欠陥がひとつ存在しても、ネットワークの利用率はほとんど変わらない。ネットワークの利用率が変わらないことは、電気容量も減少しないことを意味する。
【0014】
しかし2個以上の結晶欠陥が発生すると、1次元ネットワークにおける欠陥間のリチウム格納サイトを利用することができなくなり、ネットワーク利用率が低下し、電気容量が低下する。2個以上の結晶欠陥をもつ1次元ネットワークの数は、微粒子サイズが増加するとともに急激に増加する。例えば、0.1%のアンチサイト欠陥を仮定した場合であっても、100%のネットワーク利用率を達成するためには粒径100nmが必要である。一方、粒径が1μmのオリビン型正極の微粒子では、ネットワーク利用率の理論値は50%まで低下し、大幅な電気容量低下をもたらす(非特許文献5)。
【0015】
一方、LiMPにおいては、微粒子化などの粒径制御することなしに、1μm程度の大きなサイズの粒子においても1電子理論容量が達成されている(非特許文献2)。粒径制御が不要で大きいサイズの粒子で充放電が可能であれば、微粒子化の加工プロセスを省略でき、表面修飾処理の制約が大幅に緩和され、電池のコスト低下、行程管理の容易化、性能障害要因の排除につながる。オリビン正極材料で必須であった黒鉛等の導電性材料による表面修飾処理が不要であれば、同様にコスト低下、行程容易化に加え、電極結着加工の容易性等の多くの利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−232001号公報
【特許文献2】特表2006−523930号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】J. Electrochem.Soc.148、A224(2001)
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc.132、13596(2010)
【非特許文献3】J.Solid−State Chem.181、3110(2008)
【非特許文献4】Chem.Mater.23、293 (2011)
【非特許文献5】Nano letters 10、4123(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、ピロリン酸型正極は、電気容量だけでなく生産性の面からもオリビン型正極を上回る正極活性物質となり得る。正極の微粒子の粒径を極微細にすることなく、電気容量を増大させるためには、リチウムイオンの拡散ネットワークの次元を1より上げることが重要であると考えられる。ピロリン酸正極材料LiMPにおけるリチウムイオンの拡散ネットワークの次元は1より大きいと予想される。即ち、LiMPにおいてリチウムイオンは層状の構造をとっており、遷移金属層との交互積層構造となっており、オリビン型とは異なる次元のリチウム拡散ネットワークの存在が予想される。リチウムイオンが層内で2次元的に動いていれば、1より高い次元のリチウムイオン拡散ネットワークと言える。以上を纏めると、安全性及び電気容量への要求を満足する正極材料の条件としては、(1)潜在的に電気容量が大きいピロリン酸型結晶構造を持つ正極材料であること、(2)熱安定性の高いリン酸に基づく骨格を持つこと、(3)110mAh/gより高い電気容量を持つことである。しかしながら、これらの特徴を持つピロリン酸型正極材料はまだ実現されていない。
【0019】
本発明は、ピロリン酸型正極材料における放電容量向上のために提案されたものであり、その目的は、熱安定性の高いピロリン酸型P構造を基本骨格とした結晶構造を有し、高放電容量が得られる二次電池用正極材料およびそれを用いた二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するための一実施形態として、化学組成式がA2−xMP7−δδを主成分とする二次電池用正極材料であって、Aはアルカリ金属から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、Mは2価以上の多価イオンとなりうる遷移金属から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、Zはハロゲン元素から選ばれる少なくとも一種類の元素であり、xは0≦x<2の範囲にあり、δは0<δ≦1.47の範囲にあることを特徴とする二次電池用正極材料とする。
【0021】
また、正極と負極とを備えた二次電池において、前記正極には、前記二次電池用正極材料が用いられることを特徴とする二次電池とする。
【0022】
また、正極と負極とを備えた二次電池において、前記正極は、ピロリン酸型P構造を基本骨格とした結晶構造を有し、前記ピロリン酸型P構造を構成する酸素の一部がハロゲン元素で置換された正極材料を含むことを特徴とする二次電池とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、熱安定性の高いピロリン酸型P構造を基本骨格とした結晶構造において、ピロリン酸型P構造を構成する酸素の一部をハロゲン元素で置換することにより、高放電容量が得られる二次電池用正極材料およびそれを用いた二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】ピロリン酸型LiMP結晶構造を示す図である。
図2】ピロリン酸型LiMP結晶構造におけるA層リチウムイオン拡散ネットワークを示す図である。
図3】ピロリン酸型LiMP結晶構造におけるC層リチウムイオン拡散ネットワークを示す図である。
図4】ピロリン酸型LiMP結晶構造における孤立電子対付き酸素の存在を示した図である。
図5】実施の形態の例であるコイン型電池構造の断面図である。
図6】第一原理計算により評価したリチウムの結合エネルギの比較を行った図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、ピロリン酸型正極材料の充放電反応に伴うリチウム脱離および結晶構造変化について検討を重ねた。その結果、リチウムが脱離しづらい原因が単結合酸素の存在にあることを発見し、単結合酸素を異種元素で置換することにより結晶構造の不安定性を低下させ、これまでより大きな充放電容量を実現する方法を着想した。以下に充放電容量向上に至る正極材料設計の詳細を述べる。なお、リチウムが最も実用的なためリチウムを例に説明するが、アルカリ金属であれば適用可能である。
【0026】
まずピロリン酸型正極材料の結晶構造を図1に示す。結晶構造はbc面に沿ったリチウム層および遷移金属層(特に、2価以上の多価イオンとなりうる遷移金属であり、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Nb、Mo、Wからなる群の少なくとも一つの層)の交互積層構造からなる。遷移金属Mは周囲に酸素原子が配位してMO多面体構造(符号6に対応)をとる。MO多面体構造は、MOとMOの2種類が存在し、それらは辺共有結合したクラスタ形状をとる。MOとMOが結合した多面体クラスタの間にはリン酸構造(多面体)P(符号5に対応)が配置されており、クラスタ同士が接合されている。このため遷移金属層は充放電の際に層状構造を維持することができる。
【0027】
一方、リチウム層は独立な二層が存在する。結晶学的に独立なリチウムサイトをLi1サイト1、Li2サイト2、Li3サイト3、Li4サイト4とすると、Li1サイト1とLi2サイト2のみからなるリチウム層と、LI3サイト3とLi4サイト4のみからなるリチウム層に分けられる。Li1サイト1とLi2サイト2からなるリチウム層をA層、Li3サイト3とLi4サイト4からなるリチウム層をC層とする。A層とC層に含有されるリチウムサイトの数は、単位胞7内にそれぞれ8ずつであり、リチウム密度は等しい。ただしリチウムサイトの配列(リチウム拡散ネットワークの形状)は異なる。
【0028】
A層のリチウム拡散ネットワークを図2に示す。符号21はLi1サイト、符号22はLi2サイト、符号23は単位胞を示す。それぞれのリチウムサイトは他の3つのリチウムサイトと隣接している。リチウムの正極内拡散現象の素過程は、あるリチウムサイトから隣接する他のリチウムサイトへのイオンホッピングであると考えられる。従って、隣接サイトの数によって、リチウムイオン拡散ネットワークの次元を判断できる。例えば、よく知られているオリビン型正極材料LiFePOでは、隣接するリチウムサイトの数は2であるから、リチウムイオン拡散ネットワークは1次元的なトポロジを持っていると言える。一方、ピロリン酸型正極材料では、隣接サイト数が3であるから、リチウムイオン拡散ネットワークのトポロジは2次元的であると考えられる。同様に、C層のリチウム拡散経路ネットワークを図3に示す。符号31はLi3サイト、符号32はLi4サイト、符号33は単位胞を示す。Li3サイト31の隣接リチウムサイト数は4であり、Li4サイト32の隣接リチウムサイト数は3である。リチウム拡散ネットワークのトポロジは、A層と同様に2次元的であると考えられる。
【0029】
A層とC層におけるリチウム拡散ネットワークの相違が、どのように充放電特性に影響するかを調べるため、本発明者らは、第一原理計算理論に基づく計算機数値解析技術を用いて、ピロリン酸におけるリチウムの結合エネルギを計算した。なお、結合エネルギとは、リチウムがそのリチウムサイトと結合することによる安定化の指標であり、基準点として0eVを負極の状態(黒鉛にインターカレーションしたリチウムイオン)とした。計算結果を図6に示す。リチウムサイトLi1、Li2、Li3、Li4のそれぞれについて、結合エネルギは4.40eV、3.93eV、3.80eV、3.61eVとなった。結合エネルギが高いほど、リチウムイオンを引き抜きづらいことを意味する。従ってA層のリチウムイオンは引き抜きづらく、C層のリチウムイオンは引き抜きやすい。A層とC層に含有されるリチウムイオンの数は等しいため、現状で確認されている1電子反応は、C層へのリチウム脱挿入であることが示唆される。
【0030】
次に、A層とC層におけるリチウムイオンの動きやすさを検討する。A層ではLi1サイト21とLi2サイト22の両サイト間のエネルギ差は0.47eVである。リチウム拡散ネットワーク(図2)によると、リチウムイオンが拡散するためにはLi1サイト21とLi2サイト22の両方を通過しなくてはならないことが分かる。すなわち、リチウムイオンの拡散に際してエネルギは少なくとも0.47eV以上必要である。これはリチウムイオンが高いエネルギを持たなければA層では拡散できないことを示唆する。また、A層におけるリチウムイオンの律速に関連するサイトがLi1サイト21であることを意味している。一方、C層ではLi3サイト31とLi4サイト32の両サイト間のエネルギ差は0.19eVであり、A層におけるエネルギ差よりもずっと小さい。すなわちC層においてリチウムイオンは、A層に比べてずっと動きやすいことが示唆される。このエネルギ差は、ピロリン酸の充放電実験で確認されている1電子反応がC層で起こっていることを裏付ける。
【0031】
次に、Li1サイト21がA層におけるリチウムイオン拡散を律速する機構について検討する。各リチウムサイトでは、リチウムには酸素が配位している。結晶構造から検討した結果、Li1サイト21では4つ、Li2サイト22では4つ、Li3サイト31では5つ、Li4サイト32では4つの酸素が配位していることが分かった。酸素はリチウムを吸着し固定化する働きを担う。しかし、リチウムサイトを取り囲む酸素の数は、どのサイトにおいても高々4個あるいは5個であって、大きな差はない。従って、リチウムイオンの吸着エネルギを決定している要因は、配位している酸素原子の数ではなく、酸素原子の化学的性質である。
【0032】
全ての酸素は、リン(P)と共有結合しており、熱的安定性を高める。また、多くの酸素は、リン以外に遷移金属とも結合しており、MO多面体とPO多面体との頂点共有結合、あるいはMO多面体とPO多面体の頂点共有結合を担っている。ところが、酸素の中には、リンのみと結合し、MO、MOとの結合を持たないものが存在することが分かった。特徴的な結晶の部分構造を図4に示す。符号41は孤立電子対付き酸素イオン、符号42は酸素イオン、符号43はリン酸(PO)多面体、符号44は酸化鉄多面体(MOx多面体)である。酸素は多面体構造の頂点位置を占有している。このうち、MOおよびMO(符号44に対応)のどちらにも配位していない酸素原子が存在する。このような酸素原子は、リンのみと単一の結合を持っており、リチウム脱離時(充電状態)では極めて不安定であると考えられる。以後、このようにリンのみと結合する酸素を孤立電子対付き酸素と呼ぶ。
【0033】
リチウムサイトに配位する孤立電子対付き酸素の数を調べた結果、Li1サイト21では3つ、Li2サイト22では1つ、Li3サイト31では1つ、Li4サイト32では1つであった。なお、孤立電子対付き酸素の数は従来技術(結晶構造観察)で求めることができる。この結果から、本発明者らは、リチウムイオンの結合エネルギが高いLi1サイト21では孤立電子対の数が多いことを発見した。リチウムイオンの結合エネルギが高くなる理由は以下のように理解できる。このような孤立電子対付き酸素はリンのみとしか結合していないため、化学的に不安定な状態である。従って孤立電子対にリチウムイオンが配位すると、酸素が化学的に大きく安定な状態になる。このため、孤立電子対の数が多いサイトでは、リチウムイオンの結合エネルギが大きい。これは孤立電子対の数が多いLi1サイト21の配位環境が、リチウムイオン拡散を律速していることを意味する。
【0034】
孤立電子対はリチウムイオンの拡散に影響を与えているだけではなく、結晶構造の劣化にも影響している。脱リチウム状態では、孤立電子対は化学的に不安定な状態であるため、周囲の鉄イオンと配位して安定化しようとする。特に遷移金属に酸素が5つ配位している多面体MOに対して配位することでMOとなり、結晶構造全体を安定化する。リチウムを吸着せずに結晶構造が変化することで自発的に安定化することは、すなわち正極材料が劣化したことを意味する。このように多面体がMOになってしまうと、電池の放電時にリチウムを吸着することができず、不可逆容量の発生を引き起こす。従って結晶構造劣化を抑えるためには、孤立電子対の反応性を抑えることが必要である。
【0035】
本発明者らは、上記のように明確にされた問題点を解決するため、孤立電子対付き酸素(手が2本)をハロゲン元素(手が1本)で置換することにより、反応性を抑えることを着想した。具体的には、ピロリン酸構造を形成しているP部分をPZ(Zはハロゲン元素)で置換することにより、孤立電子対の反応性を抑え、リチウムイオンの拡散性を向上させ、結晶構造の劣化を防止する。Zはハロゲン元素であって、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)などが適当である。特に、結晶構造を崩さない程度の大きさを持つイオンとして、フッ素あるいは塩素が好ましい。
【0036】
次に、置換するハロゲン元素の量について述べる。ピロリン酸型LiMPの結晶構造の単位胞には、8組成式に相当する12×8=96の原子が存在する。そのうち酸素原子の数は、7×8=56である。酸素原子のうち孤立電子対を有する酸素の数は12である。従って、ハロゲン元素置換が適切である酸素原子の割合の上限は、12/56=21%である。化学組成式では7つの酸素原子が存在するため、7×0.21=1.47個の酸素原子が置換可能である。この数値を用いると、化学組成式におけるハロゲン元素数の範囲を以下のように決定できる。添加するハロゲン元素Zの量をδとし、ハロゲン元素Zにより置換されたピロリン酸正極の化学組成式をLi2−xMP7−δδのように表記すると、0<δ≦1.47となる。ただし、ハロゲン元素の置換量が多すぎると、電気容量の低下につながり、また開回路電圧が低下する虞がある。従ってδは0.5以下が好ましい。
【0037】
本実施の形態に係る正極材料である化合物は、公知の一般的方法を用いて製造することができ、その方法も、種々の方法が採用できる。具体的には、例えばLiFeP7―δδの場合は、酸化鉄(Fe)とリン酸リチウム化合物およびモノフルオロリン酸リチウム化合物(LiPOF)を混合し、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で焼成して合成される。リン酸リチウム化合物としては、例えばLiPO、Li、LiPOからなる群より選択される一つである。
【0038】
本実施の形態に係る上記正極材料を用いて非水電解質の二次電池用正極を作製する場合、上記材料は通常粉末状で用いればよく、その平均粒径は0.1〜1μm程度とすればよい。平均粒径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置で測定される値である。また、正極中における上記材料の含有量は、用いる材料の種類、結着材(バインダー)、導電剤の使用量等に応じて適宜設定すればよい。また、正極の作製においては、正極材料として所定の正極特性が得られる限りは、上記材料単独、又は他の従来から知られている正極材料との混合物であってもよい。
【0039】
本実施の形態に係る二次電池の正極の作製に際しては、上記正極材料を用いる他は公知の正極の作成方法に従って行えばよい。例えば、上記材料の粉末を必要に応じて公知の結着材(ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、ポリビニルクロライド、エチレンプロピレンジエンポリマー、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、フッ素ゴム、ポリ酢酸ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ニトロセルロース等)、さらに必要に応じて公知の導電材(アセチレンブラック、カーボン、グラファイト、天然黒鉛、人造黒鉛、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェンナノシート等)と混合した後、得られた混合粉末をステンレス鋼製等の支持体上に圧着成形したり、金属製容器に充填すればよい。あるいは、例えば、上記混合粉末を有機溶剤(N−メチルピロリドン、トルエン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N−N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等)と混合して得られたスラリーをアルミニウム、ニッケル、ステンレス、銅等の金属基板上に塗布する等の方法によっても本実施の形態に係る二次電池の電極を作製することができる。
【0040】
負極は、銅等からなる集電体に負極合剤を塗布して形成される。負極合剤は、材料、導電材、結着材などを有する。負極の材料としては、金属リチウムや、炭素材料、リチウムを挿入もしくは化合物の形成が可能な材料を用いることができ、炭素材料が特に好適である。炭素材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛類及び石炭系コークス、石炭系ピッチの炭化物、石油系コークス、石油系ピッチの炭化物、ピッチコークスの炭化物などの非晶質炭素がある。好ましくは、これら上記の炭素材料に種々の表面処理を施したものを用いることが望ましい。これらの炭素材料は一種類で用いるだけでなく、二種類以上を組み合わせて用いることもできる。また、リチウムを挿入もしくは化合物の形成が可能な材料としては、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウム等の金属およびこれらの元素を含む合金、スズ、ケイ素等を含む金属酸化物が挙げられる。さらにまた、前述の金属や合金や金属酸化物と黒鉛系や非晶質炭素の炭素材料との複合材が挙げられる。
【0041】
図5は、本実施の形態に係る二次電池の一具体例であるコイン型リチウム二次電池の縦断面図である。本実施の形態では、直径6.8mm、厚さ2.1mmの寸法を有する電池を作製した。図5において、正極缶51は正極端子を兼ねており、耐食性の優れたステンレス鋼からなる。負極缶52は負極端子を兼ねており、正極缶51と同じ材質のステンレス鋼からなる。ガスケット53は正極缶51と負極缶52を絶縁しており、ポリプロピレン製である。正極缶51とガスケット53との接面および負極缶52とガスケット53との接面にはピッチが塗布されている。正極成型体(ペレット)54と負極成型体(ペレット)56との間には、ポリプロピレン製の不織布からなるセパレータ55が配されている。セパレータ55の設置の際に電解液を浸透させている。
【0042】
二次電池の形状はコイン型に限らず、電極の捲回による円筒形、例えば18650型による実施でもよい。また電極を積層させ角形として実施してもよい。
【0043】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。なお、実施例において電池の作製および測定は、アルゴン雰囲気下のドライボックス内で行った。電池は、一回目は放電から開始し、次いで充放電を行った。
【実施例1】
【0044】
本実施例では、原料として炭酸リチウム(LiCO)、リン酸2水素アンモニウム(NHPO)、酸化鉄Feを2:2:1所定モル比で混合し、その後、0.1モル比のモノフルオロリン酸リチウム化合物を添加し、キレート化剤として、クエン酸を添加して混合する。その後、加熱・撹拌しながら水分を蒸発させる。水分蒸発後、残った物質を回収して先駆体とし、この先駆体を雰囲気炉(アルゴンガス気流)を用いて800℃の焼成雰囲気で熱処理を4時間行い、フッ化ピロリン酸正極材料(LiFeP7―δδ)を作製する。
【0045】
クエン酸の代わりに、他の有機酸、例えば、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等を用いることもできる。また、この有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等のうち、複数種の有機酸を混合したものでもよい。
【0046】
焼成後の試料を流星型ボールミル(FRITSCH製、Planetary micro mill pulverisette 7)を用いて1時間粉砕した。その後、ふるいにより50μm以上の粗粒を除去する。
【0047】
自動X線回折装置(リガク社製:RINT−UltimaIII)を用い、いわゆる2θ/θ測定において、X線源:CuXα、出力40kV×40mAにてX線回折プロファイルを測定した。ピロリン酸型正極に特徴的な回折ピークが得られ、LiFeP7―δδが確認できる。なお、併せてエネルギ分散型X線元素分析の実施により、δ=0.3であることが確認できる。鉄に代えて、亜鉛やニッケル、コバルト等を用いることもできるが、鉄が最も実用的である。
【0048】
本正極材料を正極成型体54に用いて図5に示す二次電池を製造し、カットオフ電位を4.8Vまた1.0Vとして充放電試験を実施すると、160mAh/gの放電容量が確認できる。この放電容量は、従来確認されていた放電容量110mAh/gより45%の容量増大に相当する。
【0049】
以上、本実施例によれば、ピロリン酸型Pの酸素の一部をハロゲン元素に置換することにより、熱安定性の高いピロリン酸型P構造を基本骨格とした結晶構造を有し、高放電容量が得られる二次電池用正極材料およびそれを用いた二次電池を提供することができる。
【実施例2】
【0050】
本実施例では、正極材料作成の原料としてLiPO、酸化マンガン(III)(Mn)を使用する。なおLiPOに対し重量比で5%のモノフルオロリン酸リチウム(LiPOF)を添加する。原料比でLi:Mn:Pが2:1:2となるよう秤量し、粉砕機で湿式粉砕混合する。粉末を乾燥させ、アルゴン気流下650℃にて焼成する。得られた試料はLiMnP7―δδであることが確認できる。本試料に対し、エネルギ分散型X線元素分析を実施することにより、δ=0.04であることが確認できる。
【0051】
本正極材料を用いて製造した二次電池による充放電試験では、200mAh/gの放電容量が確認できる。この放電容量は実施例1よりも大きく、LiMnP7―δδにおけるフッ素置換効果が高いことを示す。
【0052】
以上、本実施例によれば、ピロリン酸型Pの酸素の一部をハロゲン元素に置換することにより、熱安定性の高いピロリン酸型P構造を基本骨格とした結晶構造を有し、高放電容量が得られる二次電池用正極材料およびそれを用いた二次電池を提供することができる。また、Mnを用いることにより、より高い放電容量を得ることができる。
【実施例3】
【0053】
本実施例では、正極材料作製の原料として炭酸リチウム、LiPO、二酸化コバルト、酸化ニッケルを使用し、原料比でLi:Co:Niが4.01:0.34:0.66となるように秤量し、粉砕機で湿式粉砕混合する。なおLiPOに対し重量比で5%のモノフルオロリン酸リチウム(LiPOF)を添加する。粉末は乾燥した後、高純度アルミナ容器に入れ、焼結性を高めるため大気中600℃で12時間の仮焼成を行う。次に、再び高純度アルミナ容器に入れ、大気中950℃、12時間保持の条件で本焼成し、空冷後、解砕分級する。得られた正極材料はLiCo1/3Ni2/37―δδである。本試料に対し、エネルギ分散型X線元素分析を実施することにより、δ=0.03であることが確認できる。本正極材料を用いて製造した二次電池による充放電試験では、120mAh/gの放電容量が確認できる。なお、正極材料の粒度分布を測定したところ、平均粒径は1μm(平均半径は0.5μm)である。
【0054】
以上、本実施例によれば、ピロリン酸型Pの酸素の一部をハロゲン元素に置換することにより、熱安定性の高いピロリン酸型P構造を基本骨格とした結晶構造を有し、高放電容量が得られる二次電池用正極材料およびそれを用いた二次電池を提供することができる。
【実施例4】
【0055】
本実施例では、実施例1にて得られたLiFeP7―δδの結晶構造を基に、第一原理計算に基づく量子シミュレーション技術により、リチウムイオンからナトリウムイオンへのイオン交換シミュレーションを行った。全てのリチウムイオンをナトリウムイオンに置換することでイオン交換を計算機上で再現し、密度汎関数法および短距離ハバード相関項を考慮した一般化密度勾配近似を用いることにより、NaFeP7―δδ結晶構造最適化計算を実施した。ここで酸素に対するハロゲン置換数をδ=0.5とし、結晶構造および格子長の最適化を行った結果、LiFeP7―δδと等しい結晶構造を持つNaFeP7―δδが得られた。NaFeP7―δδの単位胞の体積は1127.7Åであり、LiFeP7―δδより6%程度大きかった。この結果は、ナトリウムイオンがリチウムイオンよりイオン半径が大きいことから説明でき、NaFeP7―δδが実験的に作成可能であることを示している。なお、本正極材料を用いて製造した二次電池による充放電試験では、120mAh/gの放電容量が確認できる。
【0056】
以上、本実施例によれば、ピロリン酸型Pの酸素の一部をハロゲン元素に置換することにより、熱安定性の高いピロリン酸型P構造を基本骨格とした結晶構造を有し、高放電容量が得られる二次電池用正極材料およびそれを用いた二次電池を提供することができる。
【0057】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1:Li1サイト、2:Li2サイト、3:Li3サイト、4:Li4サイト、5:リン酸多面体、6:酸化鉄多面体(MOx多面体)、7:単位胞、21:Li1サイト、22:Li2サイト、23:単位胞、31:Li3サイト、32:Li4サイト、33:単位胞
、41:孤立電子対付酸素イオン、42:酸素イオン、43:リン酸多面体、44:酸化鉄多面体(MOx多面体)、51:正極缶、52:負極缶、53:ガスケット、54:正極成型体、55:セパレータ、56:負極成型体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6