(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による伝達関数推定装置、プログラム、および、伝達関数推定方法を図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態の伝達関数推定装置10は、被測定物30の伝達関数を推定するものであって、測定装置20から各種データを取得可能に構成されている。本実施形態では被測定物30の振動特性を取得する場合を例に説明を行う。
測定装置20は、インパルスハンマ21、加速度ピックアップ22、チャージアンプ23、および、FFTアナライザ24を備える。
【0013】
インパルスハンマ21は、被測定物30の入力点P1に打撃力を入力する。入力され打撃力(
図2参照)は、FFTアナライザ24に取得される。
加速度ピックアップ22は、被測定物30において、入力点P1に入力された力が伝達されて出力点P4から出力される加速度データを取得する。加速度ピックアップ22にて取得された加速度信号は、チャージアンプ23により増幅される。増幅された加速度データは、
図3に示す如くである。増幅された加速度データは、FFTアナライザ24にて高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform、以下「FFT変換」という。)により、周波数領域のデータに変換される。周波数領域のデータである周波数応答特性G
mnは、所定の周波数(例えば1Hz)毎に、周波数f
i、ゲインG(f
i)、および、位相∠G(f
i)が関連付けられた行列データである。FFTアナライザ24にて算出された周波数応答特性G
mnは、伝達関数推定装置10に出力される。
【0014】
図4に示すように、本実施形態の被測定物30は、2つの分系31、32から構成される。第1分系31は、入力点P1および出力点P2を有する。第2分系32は、入力点P3および出力点P4を有する。第1分系31の出力点P2と第2分系32の入力点P3とは、剛結合により接続される。これにより、第1分系31の入力点P1に入力された力F
1は、第1分系31および第2分系32に伝達され、出力点P4から加速度A
4として出力される。
なお、第1分系31の出力点P2および第2分系32の入力点P3は、「接続点」に対応している。
【0015】
ここで、被測定物30の全系の伝達関数H
41_simを推定する推定式について、
図4を参照して説明する。以下、点Pnに加わる力をF
n、点Pnの加速度をA
n、点Pnに加わる力からPmの加速度までの伝達関数をH
mnと記載する。
【0016】
各点P1〜P4の加速度A
1〜A
4は、以下の式(1)〜(4)で表される。
A
1=H
11F
1+H
12F
2 ・・・(1)
A
2=H
21F
1+H
22F
2 ・・・(2)
A
3=H
33F
3 ・・・(3)
A
4=H
43F
3 ・・・(4)
【0017】
また、本実施形態では、第1分系31の出力点P2と第2分系32の入力点P3とは剛結合にて接続されているので、以下の式(5)が成り立つ。
A
2=A
3 ・・・(5)
【0018】
さらにまた、内力のつり合いから、以下の式(6)が成り立つ。
F
2+F
3=0 ・・・(6)
【0019】
上記式(1)〜(6)を連立して解くと、被測定物30の全系の伝達関数H
41_simを推定する推定式は、式(7)のように表される。
【数1】
【0020】
なお、全系の伝達関数を推定する推定式は、分系の数や接続方法に応じて導出可能であるので、推定したい被測定物30に応じて、伝達関数推定装置10に予め格納しておく。
【0021】
式(7)に示すように、入力点P1に入力された力F1から出力点P4の加速度までの伝達関数H
41を算出するためには、分系の伝達関数として、伝達関数H
21、H
22、H
33、H
43が必要である。そこで本実施形態では、
図1に示す測定装置20を用い、伝達関数H
21、H
22、H
33、H
43に係る周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43を取得する。なお、本実施形態では、測定装置20を用いて周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43を取得しているが、例えば有限要素法などを用い、内部的に取得するように構成してもよい。
【0022】
図4(c)に示すように、入力点P1にある力を加えたときの出力点P2の加速度A
2を取得し、FFTアナライザ24にてFFT変換した周波数応答特性G
21を取得する(
図5参照)。また、出力点P2にある力を加えたときの出力点P2の加速度A
2を取得し、FFTアナライザ24にてFFT変換した周波数応答特性G
22を取得する(
図6参照)。また、入力点P3にある力を加えたときの入力点P3の加速度A
3を取得し、FFTアナライザ24にてFFT変換した周波数応答特性G
33を取得する(
図7参照)。また、入力点P3にある力を加えたときの出力点P4の加速度A
4を取得し、FFTアナライザ24にてFFT変換した周波数応答特性G
43を取得する(
図8参照)。
【0023】
なお、周波数応答特性G
21、G
43が「分系の入力点に入力された力が、当該分系における出力点へ伝達される物理量に係る周波数応答特性である分系内周波数応答特性」に対応し、周波数応答特性G
22、G
33が「他の分系と接続される接続点に入力された力が、当該接続点に伝達される物理量に係る接続点周波数応答特性」に対応する。なお、本実施形態における「物理量」は、加速度A
2、A
3、A
4である。
なお、周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43には、上述の通り、所定の周波数毎にゲインおよび位相が関連付けられているが、
図5〜
図8では位相については記載を省略し、周波数とゲインとの関係についてのみを図示している。
【0024】
ところで、従来、伝達関数H
41_simの推定式(式(7))を演算するためには、得られた周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43から、カーブフィッティング等により伝達関数H
21、H
22、H
33、H
43を算出する必要があった。しかしながら、周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43において、共振成分や反共振成分が多い場合、適切な伝達関数の次数や伝達関数の各項の初期値を設定することが難しいためにカーブフィッティングの精度が低くなったり、場合によっては演算負荷が過大であるためにカーブフィッティングができず伝達関数が算出できなかったりする。また、例えば一部の周波数における共振成分のみに着目して伝達関数を算出する場合、得られた伝達関数は、実際の周波数応答特性との乖離が大きいという問題点がある。
【0025】
そこで本実施形態では、周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43から伝達関数H
21、H
22、H
33、H
43を算出せず、式(7)中の伝達関数H
21、H
22、H
33、H
43に替えて、周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43を用いて全系の伝達関数H
41_simの推定式を演算している。本実施形態における全系の伝達関数H
41_simの推定方法を
図9に示すフローチャートに基づいて説明する。
【0026】
最初のステップS101(以下、「ステップ」を省略し、単に記号「S」で示す。)では、予め格納されている全系の伝達関数H
41_simを推定する推定式(式(7))を取得する。
S102では、S101で取得された推定式(式(7))の演算に必要な周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43を、打撃試験、振動試験、または、有限要素法等により取得する。なお、周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43が伝達関数推定装置10の記憶部等に予め格納されており、演算部が内部的に取得するように構成してもよい。
【0027】
S103では、伝達関数H
41_simを推定する推定式(式(7))の各演算において、周波数応答特性の加算または減算を行うか否かを判断する。加算または減算を行わないと判断された場合(S103:NO)、S107へ移行する。加算または減算を行うと判断された場合(S103:YES)、S104へ移行する。
【0028】
S104では、周波数領域においては、周波数応答特性同士の加減算は困難なので、加減算する周波数応答特性を時間応答特性に変換する。例えば式(7)では、周波数応答特性G
22、G
33を加算しているので、周波数応答特性G
22、G
33を時間応答特性g
22、g
33に変換する。周波数応答特性を時間応答特性に変換する変換方法については、後述する。
S105では、S104にて変換された時間応答特性g
22、g
33を用い、時間領域において加減算する。
S106では、S105で得られた加減算結果であるg
22+g
33をフーリエ変換により周波数領域に再変換し、G
22+G
33を得る。
【0029】
周波数応答特性の加算または減算を行わないと判断された場合(S103:NO)、すなわち、乗算または除算を行う場合に移行するS107では、周波数領域において周波数応答特の乗除算を行う。周波数領域における周波数応答特性同士の乗除算は、ゲインの加減算として取り扱うことができるので、容易に演算可能である。
S108では、S102で取得した推定式について、全ての計算が終わったか否かを判断する。全ての計算が終わっていないと判断された場合(S108:NO)、S103へ戻る。全ての計算が終わったと判断された場合(S108:YES)、本処理を終了する。
【0030】
ここで、S104における周波数応答特性を周波数領域から時間領域に変換する変換方法について、
図10および
図11に基づいて説明する。
図10(a)に示すように、ある周波数応答特性G
mnにおいて、周波数f
1=1HzのときのゲインがG(f
1)、周波数f
2=2HzのときのゲインがG(f
2)、周波数f
3=3HzのときのゲインがG(f
3)、といった具合に、1Hz毎に周波数f
iとゲインG(f
i)とが関連づけられている。
また、
図10(b)に示すように、ある周波数応答特性G
mnにおいて、周波数f
1=1Hzのときの位相が∠G(f
1)、周波数f
2=2Hzのときの位相が∠G(f
2)、周波数f
3=3Hzのときの位相が∠G(f
3)といった具合に、1Hz毎に周波数f
iと位相∠G(f
i)とが関連づけられている。
【0031】
本実施形態では、入力された入力波形が単位インパルス応答であるものと仮定し、周波数応答特性G
mnを時間応答特性g
mnに変換する。すなわち、本実施形態では、仮想入力波形を単位インパルス応答としている、ということである。
仮想入力波形として単位インパルス応答を用いた場合、時間領域に変換された時間応答特性は、全周波数帯の情報を位相遅れなく均等に有しており、仮想入力波形の周波数特性に依存しない。また、単位インパルス応答の伝達関数は、H(s)=1であって、
図28中の実線L1で示すように、全周波数帯において、ゲインが0dB、かつ、位相が0degであるので、仮想入力波形の周波数特性によるゲインおよび位相の補正を行う必要がなく、周波数応答特性G
mnのゲインG(f
n)および位相∠G(f
n)をそのまま演算に用いることができるので、演算の手間が少なくすむ。
【0032】
ここで、周波数f
1=1HzのときのゲインG(f
1)および位相∠G(f
1)に基づいて時間応答g(1)を算出すると、以下の式(8)のようになる。時間応答g(1)は、
図11(a)に示す如くである。
g(1)=|G(f
1)|×cos(2πf
1t+∠G(f
1)) ・・・(8)
【0033】
同様に、周波数f
2=2Hzのとき、および、f
3=3Hzのときの時間応答g(2)およびg(3)は、以下の式(9)、(10)のように表される。また、時間応答g(2)は
図11(b)、時間応答g(3)は
図11(c)に示す如くである。
g(2)=|G(f
2)|×cos(2πf
2t+∠G(f
2)) ・・・(9)
g(3)=|G(f
3)|×cos(2πf
3t+∠G(f
3)) ・・・(10)
なお、周波数fiのときの時間応答g(i)は、式(11)のように表される。
g(i)=|G(fi)|×cos(2πf
it+∠G(f
i)) ・・・(11)
【0034】
各周波数における時間応答は、上述のように三角関数で表されており、容易に加算することができる。例えば、g(1)+g(2)+g(3)は、
図11(d)に示す如くとなる。
このように、所定の周波数帯において、各周波数における時間応答を加算することにより、周波数領域の周波数応答特性G
mnを時間領域に変換した時間応答特性g
mnを算出することができる。例えば、周波数間隔を1、周波数帯を1〜Nとしたとき、周波数応答特性G
mnを時間領域に変換した時間応答特性g
mnは、以下の式(12)のように表すことができる。
【0036】
なお、周波数間隔は、FFTアナライザ24の分解能等に応じて適宜設定可能である。また、周波数帯は、シミュレーションしたい周波数帯を適宜設定可能である。例えば周波数間隔を0.1Hz、シミュレーションする周波数帯の幅が数千Hzであれば、加算する三角関数の数は数万のオーダーである。数万のオーダーの三角関数の加算は、現在世に普及している一般的なPCの能力で十分演算可能であることから、周波数応答特性G
mnを時間応答特性g
mnに変換可能である。
【0037】
次に、周波数応答特性G
mnから伝達関数H
mnを算出せず、周波数応答特性G
mnを時間応答特性g
mnに変換して時間領域にて加減算して周波数領域に再変換した結果と、周波数応答特性G
mnから伝達関数H
mnを算出して伝達関数同士を加減算した結果と、が一致することについて、
図12〜
図14に示す周波数応答特性G
x、G
yを用いて説明する。なお、
図12および
図14において、周波数応答特性G
x、G
yについては、ゲインのみを示し、位相については省略する。
【0038】
図12(a)に示すように、実線で示す周波数応答特性G
xについて、カーブフィッティングにより伝達関数H
xを算出すると、破線で示す如くとなる。また、
図12(b)に示すように、実線で示す周波数応答特性G
yについて、カーブフィッティングにより伝達関数H
yを算出すると、破線で示す如くとなる。
【0039】
また、周波数応答特性G
xを時間領域に変換した時間応答特性g
x(
図13(a)参照)、および、周波数応答特性G
yを時間領域に変換した時間応答特性g
y(
図13(b)参照)を算出する。算出された時間応答特性g
x、g
yを用い、時間領域にて、g
x+g
xを算出する(
図13(c)参照)。時間領域における時間応答特性同士の加減算は、加速度の加減算として取り扱うことができるので、容易に演算可能である。
そして、算出されたg
x+g
yをFFT変換により周波数領域に変換し、周波数領域におけるG
x+G
yを得る。得られたG
x+G
yは、
図14中に実線で示す如くである。
【0040】
また、周波数応答特性G
xの伝達関数H
xと周波数応答特性G
yの伝達関数H
yとを加算したH
x+H
yは、
図14中に破線で示す如くである。
図14に示すように、時間領域にて加算して周波数領域に再変換したG
x+G
yと、周波数領域にて伝達関数同士を加算したH
x+H
yとは、略一致している。
そこで、本実施形態では、伝達関数同士の加減算に替えて、周波数応答特性を時間応答特性に変換して加減算を行い、時間領域における加減算結果を周波数領域に再変換している。
【0041】
ここで、被測定物30の全系の伝達関数H
41_simの推定式(式(7))の演算について具体的に説明する。
式(7)の分母を見ると、H
22とH
33を加算している(
図9中のS103:YES)。そこで、伝達関数H
22およびH
33に対応する周波数応答特性であるG
22(
図6参照)およびG
33(
図7参照)を、時間領域に変換し、時間応答特性g
22(
図15参照)およびg
33(
図16参照)を得る(S104)。また、得られた時間応答特性g
22、g
33を用い、g
22+g
33を算出し(S105、
図17参照)、算出されたg
22+g
33をFFT変換により周波数領域に再変換し、G
22+G
33を得る(S106、
図18参照)。
【0042】
また、式(7)の分子を見ると、H
21とH
43を乗算している(S103:NO)。乗除算は周波数領域で演算可能なので、伝達関数H
21およびH
43に対応する周波数応答特性であるG
21およびG
43は、時間領域に変換せず、そのまま周波数領域にて乗算し、G
21×G
43を得る(S107、
図19参照)。なお、周波数領域における乗算は、ゲインの加算により算出される。
【0043】
さらに式(7)では、H21×H43をH22+H33で除しているので(S103:NO)、周波数領域にて除算し、(G
21×G
43)/(G
22+G
33)を得る(S107、
図20参照)。なお、周波数領域における除算は、ゲインの減算により算出される。
【0044】
このように、加減算のときは周波数応答特性を時間領域に変換した時間応答特性を用いて時間領域にて演算し、乗除算のときは周波数応答特性を用いて周波数領域で演算することにより、分系の伝達関数を求めることなく、全系の伝達関数H
41_simの推定式(式(7))を演算することができる。
【0045】
以上詳述したように、伝達関数推定装置10は、複数の分系31、32から構成される被測定物30における伝達関数H
41_simを推定する。伝達関数推定装置10では、以下の処理を行う。すなわち、分系31、32の数および接続方法に応じて決定される被測定物30の伝達関数H
41_simを推定する推定式(式(7))を取得する(
図9中のS101)。また、被測定物30の入出力に係るゲインおよび位相を含む周波数領域のデータである周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43を取得する(S102)。
【0046】
推定式(式(7))の演算において、演算毎に加減算か乗除算かを判断し(S103)、乗除算であると判断された場合(S103:NO)、周波数領域にて周波数応答特性G
21、G
43の乗除算を行う(S107)。加減算であると判断された場合(S103:YES)、加減算すべき周波数応答特性G
22、G
33を周波数領域から時間領域に変換した時間応答特性g
22、g
33を算出し(S104)、時間領域にて時間応答特性g
22、g
33の加減算を行う(S105)。そして、算出された加減算結果g
22+g
33を周波数領域に再変換し、G
22+G
33を得る(S106)。
【0047】
本実施形態では、被測定物30の全系の伝達関数H
41_simの推定式である式(7)の演算に周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43を用いている。周波数応答特性の乗除算は、周波数領域で演算可能なので、周波数領域で演算する。一方、周波数応答特性の加減算は、周波数領域では演算が困難なので、周波数応答特性を時間領域に変換し、時間領域にて演算している。これにより、被測定物30の分系の伝達関数H
21、H
22、H
33、H
43を算出することなく、全系の伝達関数H
41_simの推定式である式(7)を演算することができる。また、また、被測定物30における周波数応答特性G
21、G
22、G
33、G
43をそのまま用いているので、例えば一部の共振成分のみに着目してカーブフィッティングする場合とは異なり、全系の伝達関数H
41_simを精度よく推定することができる。これにより、例えば車両の電動パワーステアリング装置のように被測定物30の構造が複雑である場合でも、振動や音などを精度よくシミュレーション可能となる。
【0048】
また本実施形態では、周波数応答特性G
mnの時間領域への変換に用いる仮想入力波形として単位インパルス応答を用い、周波数応答特性G
mnのゲインG(f
i)および位相∠G(f
i)に基づく三角関数である時間応答g(f
i)を所定の周波数毎に算出し、算出された全ての周波数における時間応答を加算して時間応答特性g
mnを算出する。本実施形態において仮想入力波形として用いられている単位インパルス応答は、ゲインおよび位相が全周波数帯で0である。したがって、時間領域への変換の際、周波数応答特性G
mnのゲインG(f
i)および位相∠G(f
i)をそのまま用いることができるので、演算が簡素であり、演算負荷を低減することができる。
【0049】
本実施形態では、それぞれの分系31、32に入力された力が、それぞれの分系31、32における出力点P2、P4へ伝達される物理量に係る分系内周波数応答特性である周波数応答特性G
21、G
43を取得する。また、他の分系32と接続される接続点である出力点P2に入力された力が、当該出力点P2に伝達される物理量に係る接続点周波数応答特性である周波数応答特性G
22、および、他の分系31と接続される接続点である入力点P3に入力された力が、当該入力点P3に伝達される物理量に係る接続点周波数応答特性である周波数応答特性G
33を取得する。これらの周波数応答特性G
21、G
43、G
22、G
33を用いることにより、被測定物30の全系の伝達関数H
41_simの推定式(式(7))を適切に演算することができる。
【0050】
なお、本実施形態では、
図9中のS101が「推定式取得手段」の機能としての処理に相当し、S102が「周波数応答特性取得手段」の機能としての処理に相当し、S103が「四則演算判断手段」の機能としての処理に相当し、S107が「乗除演算手段」の機能としての処理に相当し、S104が「変換手段」の機能としての処理に相当し、S105が「加減演算手段」の機能としての処理に相当し、S106が「再変換手段」の機能としての処理に相当する。
【0051】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は、周波数応答特性G
mnを周波数領域から時間領域に変換する変換方法、および、時間領域から周波数領域に再変換する再変換方法のみが異なっているので、この点を中心に説明し、他の演算方法等についての説明は省略する。
第1実施形態では、周波数応答特性G
mnを周波数領域から時間領域への変換に際し、仮想入力波形を単位インパルス応答としていたが、第2実施形態では、仮想入力波形がステップ応答である点が異なっている。
【0052】
仮想入力波形としてステップ応答を用いた場合、変換されたデータは、高周波振動成分が励起されない。そのため、低周波領域におけるデータの精度が必要な場合や高周波領域におけるデータの信頼度が低い場合などは、仮想入力波形としてステップ応答を用いることが好ましい。
また、仮想入力波形が単位インパルス応答以外である場合、すなわち仮想入力波形のゲインおよび位相が0でない場合、周波数領域から時間領域に変換するとき、および、時間領域から周波数領域に再変換するときに、用いる仮想入力波形自体のゲインおよび位相を考慮して、周波数応答特性を補正する必要がある。
【0053】
そこで、仮想入力波形としてステップ応答を用いる場合における周波数応答特性G
mnを時間領域に変換する方法、および、周波数領域に再変換する方法について説明する。
本実施形態にて仮想入力波形として用いるステップ応答は、伝達関数がH(s)=1/sであって、波形は
図21に示す如くである。このようなステップ応答をFFT変換すると、
図22(a)および
図28(a)の実線L2に示すように、仮想入力ゲインG
inは傾きが−20dB/decであり、
図22(b)および
図28(b)の実線L2に示すように、仮想入力位相∠G
inは全周波数帯で−90degの位相遅れとなる。
【0054】
ここで、時間領域に変換する周波数応答特性G
mnのゲインをG(
図23(a)参照)、位相を∠G(
図23(b)参照)とする。まず、時間領域に変換する前に、周波数領域において、周波数応答特性G
mnのゲインGおよび位相∠Gを、ステップ応答の仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inで補正し、補正ゲインG
aおよび補正位相∠G
aを算出する。
【0055】
具体的には、ある周波数f
iにおける周波数応答特性G
mnのゲインGをG(f
i)、仮想入力ゲインG
inをG
in(f
i)とし、式(13)に示すように、周波数応答特性G
mnのゲインG(f
i)にステップ応答の仮想入力ゲインG
in(f
i)を加算して補正ゲインG
a(f
i)を算出する(
図24(a)参照)。
G
a(f
i)=|G
in(f
i)+G(f
i)| ・・・(13)
【0056】
また、ある周波数f
iにおける周波数応答特性G
mnの位相∠Gを∠G(f
i)、仮想入力位相∠G
inを∠G
in(f
i)とし、式(14)に示すように、周波数応答特性G
mnの位相∠G(f
i)にステップ応答の仮想入力位相∠G
in(f
i)を加算して補正位相∠G
a(f
i)を算出する(
図24(b)参照)。
∠G
a(f
i)=∠G
in(f
i)+∠G(f
i) ・・・(14)
【0057】
さらに、各周波数において、周波数f
iのときの補正された補正ゲインG
a(f
i)および補正位相∠G
a(f
i)に基づく三角関数を時間応答g(f
i)として算出する。時間応答g(f
i)は、式(15)のように表される
g(f
i)=|G
in(f
i)+G(f
i)|×cos(2πf
it+∠G(f
i))
=|G
a(f
i)|×cos(2πf
it+∠G
a(f
i))
・・・(15)
【0058】
そして、所定の周波数帯において、算出された各周波数における時間応答を加算することにより、仮想入力波形をステップ応答とし、周波数領域の周波数応答特性G
mnを時間領域に変換した時間応答特性g
mnを算出することができる。例えば、周波数間隔を1、周波数帯を1〜Nとし、仮想入力波形がステップ応答である場合において、周波数応答特性G
mnを時間領域に変換した時間応答特性g
mnは、以下の式(16)のように表すことができる(
図25参照)。
【0060】
算出された時間応答特性g
mnは、第1実施形態で説明したように、時間領域における加減算に用いることができる。時間領域にて加減算された加減算結果g
calaは、FFT変換により周波数領域に再変換される。周波数領域に再変換された加減算結果には、再変換ゲインG
cala(
図26(a)参照)、および、再変換位相∠G
cala(
図26(b)参照)が含まれる。
【0061】
本実施形態では、仮想入力波形としてステップ応答を用いているので、周波数応答特性G
mnのゲインGおよび位相∠ゲインGにステップ応答の仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inが加算された補正ゲインG
aおよび補正位相∠G
aを用いて、時間領域に変換して加減算を行っている。そのため、加減算後に周波数領域に変換した再変換ゲインG
calaおよび位相∠G
calaにおいても、ステップ応答の仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inが加算された状態となっている。
【0062】
そこで、周波数領域において、再変換ゲインG
calaおよび再変換位相∠G
calaを、ステップ応答の仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inで再補正する。
【0063】
具体的には、ある周波数f
iにおける再変換ゲインG
calaをG
cala(f
i)、仮想入力ゲインをG
in(f
i)とし、式(17)に示すように、再変換ゲインG
cala(f
i)からステップ応答の仮想入力ゲインG
in(f
i)を減算して再補正ゲインG
cal(f
i)を算出する(
図27(a)参照)。
G
cal(f
i)=G
cala(f
i)−∠G
in(f
i) ・・・(17)
【0064】
また、ある周波数f
iにおける再変換位相∠G
calaを∠G
cala(f
i)、仮想入力位相∠G
inを∠G
in(f
i)とし、式(18)に示すように、再変換位相∠G
cala(f
i)からステップ応答の仮想入力位相∠G
in(f
i)を減算して再補正位相∠G
cal(f
i)を算出する(
図27(b)参照)。
∠G
cal(f
i)=∠G
cala(f
i)−∠G
in(f
i) ・・・(18)
【0065】
本実施形態では、周波数応答特性G
mnの時間領域への変換に用いる仮想入力波形における仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inを取得し、仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inで周波数応答特性G
mnを補正する。また、仮想入力ゲインG
inで補正された補正ゲインG
a、および、仮想入力位相∠G
aで補正された補正位相∠G
aに基づく三角関数を時間応答g(f
i)として算出し、算出された各周波数における時間応答g(f
i)を加算することにより時間応答特性g
mnを得ることができる。さらに、仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inで周波数領域に再変換された加減算結果である再変換ゲインG
calaおよび再変換位相∠G
calaを再補正する。
【0066】
これにより、上記実施形態と同様の効果を奏する。また、仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inにより周波数応答特性G
mnを補正し、周波数領域に再変換された加減算結果を仮想入力ゲインG
inおよび仮想入力位相∠G
inにより再補正することにより、単位インパルス応答以外のゲインおよび位相が0ではない波形を仮想入力波形として用いることが可能となる。
【0067】
なお、本実施形態では、仮想入力波形としてステップ応答を用いた例を説明した。仮想入力波形には、例えば、低周波領域におけるデータの精度をさらに高めるべく、ランプ応答を用いてもよい。ランプ応答は、伝達関数がH(s)=1/s
2であり、
図28に実線L3で示すように、ゲインの傾きが−40dB/dec、位相が全周波数帯で−180degであって、ステップ応答よりもさらに高周波振動成分を励起させない。このように、シミュレーションしたい周波数帯等に適した仮想入力波形を適宜選択することができる。
また、実験データにより即したシミュレーションを行いたい場合には、インパルスハンマ21により入力された実際の入力波形(
図2参照)をFFT変換し、仮想入力波形として用いてもよい。
【0068】
(他の実施形態)
(ア)上記実施形態では、被測定物の分系の数は2つであったが、他の実施形態では分系の数は3以上であってもよい。また、分系同士の接続形態は、直線状の接続に限らず、例えば分岐している等、どのような形態であってもよい。また、上記実施形態では、1つの分系における入力点および出力点は各1つずつであった。他の実施形態では、1つの分系に複数の入力点および出力点を有するように構成してもよい。
また、上記実施形態では、被測定物の分系同士は剛結合にて接続されていたが、他の実施形態では、剛結合に限らない。この場合、例えば上記式(5)において、所定の定数や伝達関数が係数として入ることになる。
【0069】
(イ)上記実施形態では、周波数応答特性から伝達関数に変換することなく四則演算を行う方法について説明した。他の実施形態では、予め伝達関数がわかっている場合や、周波数応答特性から比較的容易に伝達関数を導出可能な場合には、伝達関数を用いて演算してもよい。例えば、伝達関数と周波数応答特性との加減算を行う場合は、伝達関数から周波数応答特性を算出し、上記実施形態の如く演算することができる。また、伝達関数のみからなる演算が含まれる場合、当該演算においては伝達関数にて演算を行ってもよい。これにより、演算負荷をさらに低減することができる。
また、各種演算に用いられる周波数応答特性は、分系の周波数応答特性(例えば、G
21、G
22、G
33、G
43等)に限らず、周波数領域にて乗除算がなされた演算結果、および、時間領域にて加減算された後に周波数領域に変換された演算結果であってもよい。
【0070】
(ウ)上記実施形態では、被測定物に打撃力を加えたときの力の伝達に係る伝達関数を推定していたが、他の実施形態では、例えば熱等、他の伝達に係る伝達関数の推定に用いてもよい。
(エ)上記実施形態にて説明した伝達関数を推定する推定方法は、伝達関数推定装置10にて実行されるものである。伝達関数推定装置10においては、これらの処理をソフトウェアで処理する伝達関数推定プログラムを備えていてもよいし、例えば一部の処理をハードウェアにて実行するように構成されていてもよい。
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。