(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5860237
(24)【登録日】2015年12月25日
(45)【発行日】2016年2月16日
(54)【発明の名称】パラメータ決定方法および装置
(51)【国際特許分類】
G06N 99/00 20100101AFI20160202BHJP
【FI】
G06N99/00 180
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-162843(P2011-162843)
(22)【出願日】2011年7月26日
(65)【公開番号】特開2013-25735(P2013-25735A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年3月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成23年5月17日〜19日 「第55回 システム制御情報学会 研究発表講演会講演論文集(CD−ROM)」において文書をもって発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】西口 純也
(72)【発明者】
【氏名】近田 智洋
(72)【発明者】
【氏名】中山 弘隆
(72)【発明者】
【氏名】尹 禮分
【審査官】
石川 亮
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−236786(JP,A)
【文献】
Virginia Torczon et al.,USING APPROXIMATIONS TO ACCELERATE ENGINEERING DESIGN OPTIMIZATION, [online],American Institute of Aeronautics and Astronautics, AIAA-98-4800,1998年,p.1-11,[平成27年5月7日検索], インターネット<URL:http://www.cs.wm.edu/~va/research/aiaa98.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 3/00
G06N 99/00
F24F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定変更対象のパラメータの値を第1のパラメータの値、設定変更対象外のパラメータの値を第2のパラメータの値、前記第1のパラメータの値および前記第2のパラメータの値のもとで対象システムを運用した結果から得られる値を目的関数の値とし、前記第1のパラメータの値と前記第2のパラメータの値と前記目的関数の値とをセットとして前記対象システムから取得されるデータに基づいて、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとを入力変数とする前記目的関数を近似目的関数として推定する第1ステップと、
前記第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の前記第1のパラメータの各値に対応する前記近似目的関数の各値を求める第2ステップと、
前記第1のパラメータの各値について、前記第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の前記第1のパラメータの各値からの前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとからなる入力変数空間上に射影された最も距離の近い前記データまでの距離を近傍距離として求める第3ステップと、
前記第2ステップで求められた、前記第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の前記第1のパラメータの各値に対応する前記近似目的関数の各値と、前記第3ステップで求められた前記第1のパラメータの各値に対応する近傍距離とに基づいて、前記第1のパラメータの値を決定する第4ステップと
を備えることを特徴とするパラメータ決定方法。
【請求項2】
請求項1に記載されたパラメータ決定方法において、
前記第4ステップで決定された第1のパラメータの値を設定値として前記対象システムを運用して次のデータを得る第5ステップ
を備えることを特徴とするパラメータ決定方法。
【請求項3】
設定変更対象のパラメータの値を第1のパラメータの値、設定変更対象外のパラメータの値を第2のパラメータの値、前記第1のパラメータの値および前記第2のパラメータの値のもとで対象システムを運用した結果から得られる値を目的関数の値とし、前記第1のパラメータの値と前記第2のパラメータの値と前記目的関数の値とをセットとして前記対象システムから取得されるデータに基づいて、前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとを入力変数とする前記目的関数を近似目的関数として推定する近似目的関数推定手段と、
前記第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の前記第1のパラメータの各値に対応する前記近似目的関数の各値を求める近似目的関数値算出手段と、
前記第1のパラメータの各値について、前記第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の前記第1のパラメータの各値からの前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとからなる入力変数空間上に射影された最も距離の近い前記データまでの距離を近傍距離として求める近傍距離算出手段と、
前記近似目的関数値算出手段で求められた、前記第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の前記第1のパラメータの各値に対応する前記近似目的関数の各値と、前記近傍距離算出手段で求められた前記第1のパラメータの各値に対応する近傍距離とに基づいて、前記第1のパラメータの値を決定するパラメータ値決定手段と
を備えることを特徴とするパラメータ決定装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたパラメータ決定装置において、
前記パラメータ値決定手段で決定された第1のパラメータの値を設定値として前記対象システムを運用して次のデータを得る手段
を備えることを特徴とするパラメータ決定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、対象システムから得られるデータに基づいて目的関数を推定し、この推定された目的関数から次の取得データにより更新される目的関数上の最適値を改善する確率の高いパラメータの値を決定するパラメータ決定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、対象システムから得られるデータを逐次学習することで目的関数を推定し、この推定された目的関数の値を最小化、または最大化するパラメータの値を求め、この求めたパラメータの値を最適な設定値として設定することによって対象システムの最適化制御を行う学習型の最適化手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
なお、この学習型の最適化手法において、目的関数とは、対象システムを評価する指標(例えば、対象システムを運用することに伴う「コスト」、「エネルギー消費量」、「二酸化炭素排出量」、「運用効率」など)と、入力変数(入力パラメータ)との関係を示す関数である。この目的関数において、対象システムを評価する指標(目的関数の値)を最小化または最大化する入力パラメータの値を求め、この入力パラメータの値を最適な設定値として設定すれば、対象システムを最適化制御することが可能となる。
【0004】
以下、対象システムから得られるデータに基づいて推定される目的関数を近似目的関数と呼び、この推定された近似目的関数上の最適値に対応する入力パラメータの値を求めることをパラメータの最適化と呼ぶ。
【0005】
例えば、建物全体のエネルギー消費の約4割を占める空調・熱源システム(以下、単に空調システムと呼ぶ)において、パラメータの最適化は、既存設備での省エネルギー/省CO2が実現できるため、ビルオーナなどに対してのメリットが大きい。さらに、パラメータの最適化に際して用いる近似目的関数をシステムから得られるデータよりオンラインで学習することで、機器スペックや計装図面などの詳細情報を必要とせず、機器劣化や運用変化に対応可能な空調システムを提供することができる。
【0006】
このような近似目的関数を用いたパラメータの最適化手法では、対象システムから得られるデータの質が性能に大きく影響を与える。特に初期導入時は、対象システムから得られるデータが少ないので、推定される近似目的関数の信頼性が低い。このため、近似目的関数からパラメータを最適化し続けても、真の最適値が見つからないことがある。
【0007】
この問題について
図9を用いて説明する。なお、この例では、説明を簡単とするために、入力パラメータの数は1つとする。同図において、横軸は入力パラメータの値(設定値)、縦軸は目的関数の値(目的関数値)であり、D1〜D6は対象システムから得られたデータ(取得データ)、実線で示す曲線IはデータD1〜D6より推定された近似目的関数、点線で示す曲線IIは真の目的関数、MINxは近似目的関数I上の最小値(最適値)、MINsは真の目的関数II上の最小値(真の最適値)である。この場合、真の最適値MINsに対応する入力パラメータの値は取得データの数が少ない粗の部分に位置しているので、近似目的関数Iの信頼性が低いため、近似目的関数Iの値を最小化する入力パラメータの値を求め続けても、近似目的関数I上の最小値MINxに対応する入力パラメータの値は真の最適値MINsに対応する設定値には近づかず、真の最適値が見つからない。
【0008】
これに対して、最適設計分野では、最適性を表す局所的特性と、取得データの入力変数値の粗密を表す大域的特性を共に考慮した指標に基づき、次に取得すべき取得データの入力変数値を決定する手法が知られている。例えば、非特許文献1に示されているEGO(Efficient Global Optimization)では、取得データから近似目的関数を推定し、この推定した近似目的関数に対してその近似目的関数上の既に取得している最適値が改善される確率を示すEI(Expected Improvement)と呼ばれる指標を定義する。このEIは最適性を表す局所的特性とサンプル点の粗密を表す大域的特性を共に考慮した指標、すなわち既に明らかになっている近似目的関数上の最適値またはサンプルが粗に存在する領域でサンプルを採取したほうが、より真の最適値を見落とす確率が低減することを考慮した指標である。
【0009】
図10に近似目的関数に対して定義されたEIを例示する。この例でも、説明を簡単とするために、入力パラメータの数は1つとしている。同図において、横軸は入力パラメータの値(設定値)、左側の縦軸は目的関数の値(目的関数値)、右側の縦軸はEIの値であり、D1〜D5は対象システムから得られたデータ(取得データ)、実線で示す曲線IはデータD1〜D5より推定された近似目的関数、点線で示す曲線IIは真の目的関数、一点鎖線で示す曲線IIIはEIである。
【0010】
EGOでは、EIの大きさに基づいて、すなわち近似目的関数値から求められる真の最適値が存在する見込みを表す指標と、近似目的関数の不確実性を表す指標とを組み合わせることで、次の取得データにより更新される近似目的関数上の最適値が改善される確率の高い入力パラメータの値を求め、この求めた入力パラメータの値を設定値として新たなデータの取得を行い、再び近似目的関数の推定を行う。この繰り返しによって、効率よくデータの取得を行い、少ないデータ数で、真の最適値を見落とす確率を低減させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−236786号
【特許文献2】特開平6−95880号(特許第2632117号)公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】D.R.Jones et.al:Efficient Global Optimization of Expensive Black-Box functions,Journal of Global Optimization,vol.13,no.4,pp.455-492,1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述したEGOは、入力変数が全て設定変更対象のパラメータ(制御パラメータ)であることを前提としており、入力変数に設定変更対象外のパラメータ(非制御パラメータ)が含まれているようなシステムへの適用は難しかった。
【0014】
このようなシステムにおいて、非制御パラメータは設定変更の対象でないため、取得したい点のデータを取得できるとは限らない。上述したように、EIは既に取得している最適値(既知の最適値)を改善する確率で定義される。そのため、既知の最適値を定義する非制御パラメータの条件が問題になる。既知の最適値を非制御パラメータの定義域全体の条件で定義すると、既知の最適値に対応する非制御パラメータは固定した特定の値と一般的には異なり、既知の最適値を改善できる制御パラメータが存在しないことがある。この場合、制御パラメータをどの値に設定してもEIがゼロをとり、EIが適切に定義できていない。一方、既知の最適値を、非制御変数を固定した特定の値の条件で定義すると、その条件では過去の取得データは存在せずEIが定義できないことがある。
【0015】
このように、入力変数に設定変更対象でないパラメータ(非制御パラメータ)が含まれているようなシステムでは、推定された近似目的関数に対してEIを適切に設定できない場合がある。EGOにおいて、EIは重要な指標であり、EIを定義することができなければ、次の取得データにより更新される近似目的関数上の最適値を改善する確率の高い制御パラメータの値を決定することができない。
【0016】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、入力変数に設定変更対象でないパラメータが含まれているようなシステムであっても、次の取得データにより更新される近似目的関数上の最適値を改善する確率の高いパラメータの値を決定し、効率よくデータの追加取得を行い、少ないデータ数で、真の最適値を見落とす確率を低減させることが可能なパラメータ決定方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような目的を達成するために、本発明によるパラメータ決定方法は、設定変更対象のパラメータの値を第1のパラメータの値、設定変更対象外のパラメータの値を第2のパラメータの値、第1のパラメータの値および第2のパラメータの値のもとで対象システムを運用した結果から得られる値を目的関数の値とし、第1のパラメータの値と第2のパラメータの値と
目的関数の値とをセットとして対象システムから取得されるデータに基づいて、第1のパラメータと第2のパラメータとを入力変数とする目的関数を近似目的関数として推定する第1ステップと、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値に対応する近似目的関数の各値を求める第2ステップと、第1のパラメータの各値について、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値からの第1のパラメータと第2のパラメータとからなる入力変数空間上に射影された最も距離の近いデータまでの距離を近傍距離として求める第3ステップと、第2ステップで求められた、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値に対応する近似目的関数の各値と、第3ステップで求められた第1のパラメータの各値に対応する近傍距離とに基づいて、第1のパラメータの値を決定する第4ステップとを備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係るパラメータ決定装置は、設定変更対象のパラメータの値を第1のパラメータの値、設定変更対象外のパラメータの値を第2のパラメータの値、第1のパラメータの値および第2のパラメータの値のもとで対象システムを運用した結果から得られる値を目的関数の値とし、第1のパラメータの値と第2のパラメータの値と
目的関数の値とをセットとして対象システムから取得されるデータに基づいて、第1のパラメータと第2のパラメータとを入力変数とする目的関数を近似目的関数として推定する近似目的関数推定手段と、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値に対応する近似目的関数の各値を求める近似目的関数値算出手段と、第1のパラメータの各値について、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値からの第1のパラメータと第2のパラメータとからなる入力変数空間上に射影された最も距離の近いデータまでの距離を近傍距離として求める近傍距離算出手段と、近似目的関数値算出手段で求められた、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値に対応する近似目的関数の各値と、近傍距離算出手段で求められた第1のパラメータの各値に対応する近傍距離とに基づいて、第1のパラメータの値を決定するパラメータ値決定手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
この発明において、対象システムから得られるデータは、「第1のパラメータの値」、「第2のパラメータの値」、および「これらの値に対する目的関数の値」のセット(組)である。「第1のパラメータの値」および「第2のパラメータの値」は、いずれも対象システムに対して設定されるものであるのに対し、「目的関数の値」は、対象システムを上記「第1のパラメータの値」および「第2のパラメータの値」のもとで運用した結果から測定または算出される。
【0020】
本発明において、例えば、「対象システム」が空調システムであると仮定すると、第1のパラメータの例としては、「送水温度、流量、風量、冷却水温度、給気温度、冷凍機の運転台数」等が考えられ、第2のパラメータの例としては、「外気温度、外気湿度、外気露点温度、外気エンタルピー、負荷熱量、在室者数」等が考えられる。第1のパラメータおよび第2のパラメータは、それぞれ一つ(例えば、「送水温度」と「外気温度」)であっても良いが、本発明においてこれらのパラメータは1つとは限らず、それぞれ複数ずつあってもよい。
【0021】
本発明において、第1のパラメータは、その値を対象システムの運用者または制御装置等が任意に設定を変更する対象とする
設定変更対象のパラメータ(制御パラメータ)であるのに対し、第2のパラメータは、外気温度や在室者数等、その値を対象システムの運用者または制御装置等が変更する対象としない
設定変更対象外のパラメータ(非制御パラメータ)である。
【0022】
本発明において、「目的関数」は、対象システムを評価する指標(例えば、対象システムを運用することに伴う「コスト」、「エネルギー消費量」、「二酸化炭素排出量」「運用効率」など)と、第1のパラメータおよび第2のパラメータとの関係である。いわゆる最適化制御は、この指標を最小化(または最大化)する制御パラメータを求める問題として捉えられる。「目的関数」は、入力変数となる第1、第2のパラメータとその出力変数となる上記評価指標とが対応づけられれば、その表現形態はどのようなものであってもよい。例えば、数式で表される関数であってもよいし、事例ベースシステム(例えば、特許文献2参照)を用いて構築されたモデルも、ここでいう「目的関数」に該当する。
【0023】
本発明において、第1のパラメータ、第2のパラメータ(目的関数の入力変数)、および対象システムの評価指標(目的関数の出力変数(評価パラメータ))からなるN次元空間(Nは3以上の整数。)に対し、m個(mは1以上N−2以下の整数。)の第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合とは、上記N次元空間を、(N−m)次元空間に射影(projection)することに等しい。また、本発明において、「第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値に対応する近似目的関数の各値」は、近似目的関数のN次元空間から(N−m)次元空間への射影(より直感的には、近似目的関数の上記(N−m)次元空間における「断面」)に含まれる。
【0024】
本発明における「距離」は、第1のパラメータ、第2のパラメータ(目的関数の入力変数)からなるN―1次元空間(Nは2以上の整数。)における距離となる。この「距離」は、一般的には上記N−1次元空間における任意の2点に対して観念され、いわゆる三角不等式を満足する実数ということができ、例えば、n次元空間における2点間の距離が次式によって定義されるユークリッド距離がその代表的なものである。なお、この式において、fi、giはn次元空間における2点の各次元に対応する値を示している。
【0025】
【数1】
【0026】
本発明における「距離」としてユークリッド距離を採用することはもとより可能であるが、ユークリッド距離以外の距離を用いてもよい。また、距離を算出するにあたり、各パラメータのスケールの取り方は任意であるし、いずれかのパラメータの値に重み付けした上で距離を求めてもよい。
【0027】
本発明において、推定された近似目的関数は、有限の個数のデータから推定されるため、真の目的関数となっているか否かは定かではない。すなわち、実際のデータが存在しないパラメータの領域については、近似目的関数は「不確か」なものとなり、この「不確かさ」は、推定に用いたデータの「空間的な密度」に応じた大きさとなるはずである。本発明において、「第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値からの第1のパラメータと第2のパラメータとからなる入力変数空間上に射影された最も距離の近いデータまでの距離」と定義される「近傍距離」は、「第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合」という制約の下で低次元空間に射影された近似目的関数に対する、近似目的関数の推定に用いたデータの「空間的な密度」(推定の基礎となったデータの粗密)を示す指標であり、ひいては、「第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合」という制約の下で低次元空間に射影された近似目的関数の「不確かさ」を示す指標ということができる。一方で、得られている近似目的関数値から求められる真の最適値が存在する見込みを表す指標を考慮する必要があり、これについては、近似目的関数の値によって代用することが可能である。本発明では、この「不確かさ」を示す指標である「近傍距離」を、近似目的関数の値と共に考慮することで、既に明らかになっている近似目的関数上の最適値または取得データが粗に存在する領域で第1のパラメータの値を決定する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、設定変更対象のパラメータの値を第1のパラメータの値、設定変更対象外のパラメータの値を第2のパラメータの値、第1のパラメータの値および第2のパラメータの値のもとで対象システムを運用した結果から得られる値を目的関数の値とし、第1のパラメータの値と第2のパラメータの値と
目的関数の値とをセットとして対象システムから取得されるデータに基づいて、第1のパラメータ(設定変更対象のパラメータ)と第2のパラメータ(設定変更対象外のパラメータ)とを入力変数とする目的関数を近似目的関数として推定し、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値に対応する近似目的関数の各値を求め、第1のパラメータの各値について、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値からの第1のパラメータと第2のパラメータとからなる空間上に射影された最も距離の近いデータまでの距離を近傍距離として求め、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合の第1のパラメータの各値に対応する近似目的関数の各値と第1のパラメータの各値に対応する近傍距離とに基づいて第1のパラメータの値を決定するようにしたので、第2のパラメータの値が特定の値に固定された場合という制約の下で低次元空間に射影された目的関数の「不確かさ」を示す近傍距離という指標を、得られている近似目的関数値から求められる真の最適値が存在する見込みを表す指標と組み合わせることで、第1のパラメータの値が決定されるものとなり、入力変数となるパラメータに設定変更対象外のパラメータが含まれているようなシステムであっても、次の取得データにより更新される近似目的関数上の最適値を改善する確率の高いパラメータの値を決定することができるようになる。これにより、効率よくデータのサンプリングを行い、少ないデータ数で、真の最適値を見落とす確率を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明に係るパラメータ決定方法の実施に用いるパラメータ決定装置の一実施の形態の要部を示すブロック図である。
【
図2】パラメータ決定装置における各部が有する機能を説明するためのフローチャートである。
【
図3】パラメータ決定装置の近似目的関数推定部において推定された近似目的関数を例示する図である。
【
図4】近似目的関数推定部において推定される近似目的関数に対する真の目的関数を例示する図である。
【
図5】パラメータ決定装置の近傍距離算出部において制御パラメータの各値について近傍距離が求められる様子を説明する図である。
【
図6】近傍距離算出部において求められた制御パラメータの各値に対する近傍距離を示す図である。
【
図7】パラメータ決定装置の追加計測点決定指標算出部において追加計測点決定指標が求められる様子を説明する図である。
【
図8】近似目的関数推定部で推定される近似目的関数の変化を例示する図である。
【
図9】従来の近似目的関数を用いたパラメータの最適化手法の問題点を説明するための図である。
【
図10】最適設計分野で採用されているEGOにおいて近似目的関数に対して定義されるEI(近似目的関数が改善される確率を示す指標)を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係るパラメータ決定方法の実施に用いるパラメータ決定装置の一実施の形態の要部を示すブロック図である。
【0031】
同図において、100は対象システムであり、この対象システム100に対して本発明に係るパラメータ決定装置200が設けられている。また、パラメータ決定装置200と対象システム100との間には、パラメータ決定装置200において決定される後述する制御パラメータXの値が次の制御パラメータXの設定値Xnextとして入力されるコントローラ300が設けられている。
【0032】
パラメータ決定装置200は、プロセッサや記憶装置からなるハードウェアと、これらのハードウェアと協働して各種機能を実現させるプログラムとによって実現されており、分析用データ取得部1と、分析用データ記憶部2と、近似目的関数推定部3と、近似目的関数値算出部4と、近傍距離算出部5と、追加計測点決定指標算出部6と、制御パラメータ値決定部7とを備えている。
【0033】
パラメータ決定装置200において、分析用データ取得部1は、対象システム100からの分析用データ(取得データ)として、対象システム100における現在の制御パラメータ(設定対象のパラメータ)Xの値と、対象システム100における現在の非制御パラメータ(設定対象外のパラメータ)Yの値と、対象システム100における現在の評価パラメータ(評価指標)Zの値とをセット(組)として取得し、分析用データ記憶部2に記憶させる。
【0034】
この実施の形態において、対象システム100は空調システムとされ、制御パラメータXは空調システム内の熱源機からの負荷機器への送水温度とされ、非制御パラメータYは外気温度とされ、評価パラメータZは空調システムを運用することに伴うエネルギー消費量とされている。
【0035】
以下、
図2に示すフローチャートに従って、パラメータ決定装置200における各部が有する機能について、その動作を交えて説明する。
【0036】
〔分析用データの取得〕
分析用データ取得部1は、コントローラ300からの指令を受けて、対象システム100における現在の分析用データ(X,Y,Zの組)を取得し、分析用データ記憶部2に記憶させる。この例では、初期状態として、対象システム100からの分析用データが6点取得され、分析用データ記憶部2に記憶されているものとする。
【0037】
〔近似目的関数の推定〕
近似目的関数推定部3は、分析用データ記憶部2に記憶されている6点の分析用データに基づいて、制御パラメータXと非制御パラメータYとを入力変数とし評価パラメータZを出力変数とする近似目的関数を推定する(ステップS101)。
【0038】
なお、この実施の形態において、近似目的関数推定部3は、予め規定された関数式に対応する近似目的関数を推定するものとするが、入力変数となる制御パラメータXおよび非制御パラメータYと出力変数となる評価パラメータZとが対応づけられれば、その表現形態はどのようなものであってもよい。例えば、事例ベースシステム(例えば、特許文献2参照)を用いて構築されるモデルであっても構わない。
【0039】
図3(a)に近似目的関数推定部3において推定された近似目的関数を例示する。同図において、D1〜D6は分析用データであり、MD
1は分析用データD1〜D6に基づいて推定された近似目的関数である。この例において、近似目的関数MD
1は分析用データから関数補間して作成され、制御パラメータ(制御変数)Xと非制御パラメータ(非制御変数)Yと評価パラメータ(目的変数)Zとからなる3次元空間中に成されている。
【0040】
〔近似目的関数値(推定値)の算出〕
近似目的関数値算出部4は、近似目的関数推定部3が近似目的関数MD
1を推定すると、この近似目的関数MD
1において、現在の非制御パラメータYの値で固定した場合の制御パラメータXの各値に対応する評価パラメータZの各値(近似目的関数の各値(推定値))を算出する(ステップS102)。
【0041】
これをより直感的に表現すると、
図3(a)に点線で示すように、制御パラメータXと非制御パラメータYと評価パラメータZとからなる3次元空間を現在の非制御パラメータYの値で切断し、この切断面(制御パラメータXと評価パラメータZとの2次元空間)への近似目的関数MD
1の射影(断面)を求める(
図3(b)参照)。この場合、分析用データの数が少なく、目的関数を十分正確に近似できてないため、近似目的関数MD
1の断面上の最小値MIN
1は真の最適値とはなっていない。
【0042】
図4(a)に参考として近似目的関数MD
1に対する真の目的関数MDsを例示する。この場合、制御パラメータXと非制御パラメータYと評価パラメータZとからなる3次元空間を現在の非制御パラメータYの値で切断し、この切断面(制御パラメータXと評価パラメータZとの2次元空間)への真の目的関数MDsの射影(断面)を求めた場合(
図4(b)参照)、この真の目的関数MDsの断面上の最小値MINsが真の最適値となる。
【0043】
ここで、
図3(b)と
図4(b)とを比較して分かるように、
図3(b)における近似目的関数MD
1の断面上の最小値MIN
1に対応する制御パラメータXの値は真の最適値MINsに対応する制御パラメータXの値に対して大きくずれている。したがって、近似目的関数推定部3で推定される近似目的関数の断面上の最小値を最適値としていくら学習しても、真の最適値MINsには到達しない。
【0044】
〔近傍距離の算出〕
近傍距離算出部5は、近似目的関数値算出部4が近似目的関数MD
1における現在の非制御パラメータYの値で固定した場合の制御パラメータXの各値に対応する評価パラメータZの各値(推定値)を算出すると、制御パラメータXの各値について、現在の非制御パラメータYの値で固定した場合の制御パラメータXの各値からの制御パラメータXと非制御パラメータYとからなる入力変数空間上に射影された最も距離の近い分析用データ(近傍データ)までの距離を近傍距離sとして算出する(ステップS103)。
【0045】
図5にステップ
S103において近傍距離sが求められる様子を示す。
図5は
図3(a)における制御パラメータXと非制御パラメータYとからなる入力変数空間を評価パラメータZの軸方向から見た図である。この図において、分析用データD1〜D6は、3次元空間上に存在する点を制御パラメータXと非制御パラメータYとからなる入力変数空間に射影した点として示している。近傍距離算出部5は、分析用データ記憶部2に記憶されている分析用データD1〜D6を対象とし、制御パラメータXの各値について、制御パラメータXの各値からの制御パラメータXと非制御パラメータYとからなる入力変数空間上に射影された最も距離の近い分析用データ(近傍データ)までの距離を近傍距離sとして求める。例えば、2次元空間における2点間の距離として、ユークリッド距離(s=〔(x−x’)
2+(y−y’)
2)〕
1/2を求める。なお、この場合の距離として、ユークリッド距離以外の距離を用いてもよい。また、距離を算出するにあたり、各パラメータのスケールの取り方は任意であるし、いずれかのパラメータの値に重み付けした上で距離を求めるようにしてもよい。
【0046】
図6に制御パラメータXの各値について求められた近傍距離sを示す。
図6中、S1で示す領域は近くに分析用データが存在するために不確かさが小さい領域を示しており、S2で示す領域は近くに分析用データが存在しないために不確かさが大きい領域を示している。この制御パラメータXの各値について求められる近傍距離sは、ステップS101での近似目的関数の推定に用いた分析用データの「空間的な密度」(推定の基礎となったデータの粗密)を示す指標であり、ひいては、「現在の非制御パラメータYの値で固定した場合」という制約の下で低次元空間に射影された近似目的関数の「不確かさ」を示す指標ということができる。
【0047】
〔追加計測点決定指標の算出〕
追加計測点決定指標算出部6は、近傍距離算出部5が制御パラメータXの各値について近傍距離sを求めると、近似目的関数値算出部4で求められた近似目的関数MD
1における現在の非制御パラメータYの値で固定した場合の制御パラメータXの各値に対応する評価パラメータZの各値(推定値)(
図7(a)参照)から、近傍距離算出部5で求められた制御パラメータXの各値に対応する近傍距離s(
図7(b)参照)に所定の係数αを乗じた値を差し引いて、制御パラメータXの各値に対応する追加計測点決定指標P(P=推定値−係数α×近傍距離s)を求める(
図7(c)参照、ステップS104)。
【0048】
なお、
図7では、所定の係数αを1としているが、この係数αは対象システム100の複雑さや制御方針などによって調整するとよい。例えば、収束の速さを優先させる場合には係数αを小さくし、安定性を優先させる場合には係数αを大きくする。
【0049】
〔制御パラメータ値の決定〕
制御パラメータ値決定部7は、追加計測点決定指標算出部6が制御パラメータXの各値に対応する追加計測点決定指標Pを求めると、その求められた追加計測点決定指標Pが最小となる制御パラメータXの値を求め、コントローラ300への次の制御パラメータXの設定値Xnextとする(ステップS105)。
【0050】
本実施の形態において、追加計測点決定指標Pは、「現在の非制御パラメータYの値で固定した場合」という制約の下で低次元空間に射影された近似目的関数の「不確かさ」を示す指標である近傍距離sという指標を、得られている近似目的関数値から求められる真の最適値が存在する見込みを表す指標と組み合わせることで、求められた指標である。この追加計測点決定指標Pが最小となる制御パラメータXの値を求めることによって、推定された近似目的関数の不確実性から、不確実性の大きい領域を取得する価値が高いとみなし、一方、近似目的関数値が最適値と大きくかけ離れている場合は、真の最適値が存在する見込みを表す指標としてみれば、最適値が存在する見込みが少ないということになるので、たとえ不確実性が大きい領域であっても取得する価値が低いとみなすことで、あたかもEGOにおいてEIを定義したかのようにして、次の取得データにより更新される近似目的関数上の最適値を改善する確率の高い制御パラメータXが次の制御パラメータXの設定値Xnextとして決定されるものとなる。
【0051】
コントローラ300は、制御パラメータ値決定部7からの制御パラメータXの設定値Xnextを受けて、対象システム100における制御パラメータX(この例では、送水温度)を設定値Xnextに合致させるような制御を行う。そして、コントローラ300は、対象システム100における制御パラメータXが設定値Xnextに合致したことを確認した後、所定時間の経過を待って、分析用データ取得部1にデータの取得指令を送る。
【0052】
分析用データ取得部1は、コントローラ300からのデータの取得指令を受けて、その時の制御パラメータXの値と非制御パラメータYの値と評価パラメータZの値とをセット(組)として取得し(ステップS106)、対象システム100から得られた次の分析用データとして分析用データ記憶部2に記憶させる。
【0053】
以下同様にして、ステップS101での近似目的関数の推定、ステップS102での近似目的関数値(推定値)の算出、ステップS103での近傍距離sの算出、ステップS104での追加計測点決定指標Pの算出、ステップS105での次の制御パラメータXの設定値Xnextの決定が繰り返される。
【0054】
このようにして、本実施の形態では、次の取得データにより更新される近似目的関数上の最適値を改善する確率の高い制御パラメータXの値を決定しながら、制御パラメータXと非制御パラメータYとを入力変数とし評価パラメータZを出力変数とする近似目的関数が学習されて行き、入力変数に非制御パラメータYが含まれている対象システム100であっても、効率よくデータのサンプリングを行い、少ないデータ数で、真の最適値を見落とす確率を低減させることができるようになる。
【0055】
図8(a),(b),(c)に近似目的関数推定部3で推定される近似目的関数の変化を例示する。
図8(a)は6点の分析用データに基づく初期計測点での近似目的関数MD
1を示し、次の分析用データの取得によって、
図8(b)に示すような近似目的関数MD
2に改善され、少ないデータ数で、真の目的関数MDs(
図8(c))に近づいて行き、最適値を見落とす確率を低減させることができる。
【0056】
なお、上述した実施の形態では、制御パラメータXを送水温度とし、非制御パラメータYを外気温度としたが、制御パラメータXを「流量、風量、冷却水温度、給気温度、冷凍機の運転台数」等としてもよく、非制御パラメータYを「外気湿度、外気露点温度、外気エンタルピー、負荷熱量、在室者数」等としてもよい。
【0057】
また、制御パラメータXおよび非制御パラメータYは、それぞれ複数ずつあってもよい。例えば、制御パラメータXを2つ、非制御パラメータYを2つ(m=2)とした場合、現在の非制御パラメータYの値で固定した場合とは、2つの制御パラメータXと2つの非制御パラメータYと評価パラメータZとからなる5次元空間(N=5)を、2つの制御パラメータXと評価パラメータZとからなる3次元空間(N−m=3)に射影することに等しい。この場合、現在の非制御パラメータYの値で固定した場合の制御パラメータXの各値に対応する近似目的関数の各値は、近似目的関数の5次元空間(N次元空間)から3次元空間((N−m)次元空間)への射影(より直感的には、近似目的関数の3次元空間((N−m)次元空間における「断面」)に含まれる。
【0058】
また、上述した実施の形態においては、評価パラメータZをエネルギー消費量としたが、対象システム100を運用することに伴うコストや二酸化炭素排出量や運転効率などを評価パラメータZとしてもよい。また、対象システム100も空調システムに限られるものではなく、石油化学プラントなどのプロセスの最適運転などでも同様にして適用することが可能である。
【0059】
また、上述した実施の形態では、追加計測点決定指標算出部6において追加計測点決定指標Pを算出し、制御パラメータ値決定部7において追加計測点決定指標Pが最小となる制御パラメータの値を決定するものとしたが、すなわち追加計測点決定指標算出部6と制御パラメータ値決定部7とでパラメータ値決定部を構成するものとしたが、近似目的関数値算出部4からの近似目的関数値(推定値)と近傍距離算出部5からの近傍距離sの2つの情報を利用して次の取得データにより更新される近似目的関数上の最適値が改善される確率が高い制御パラメータを求めることが本質であり、追加点決定指標Pの演算処理が限定されることはない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のパラメータ決定方法および装置は、対象システムから得られるデータに基づいて近似目的関数を推定し、この推定された近似目的関数から次に推定される近似目的関数を改善する確率の高いパラメータの値を決定するパラメータ決定方法および装置として、空調システムや石油化学プラントなどのプロセスの最適運転など様々なシステムで利用することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…分析用データ取得部、2…分析用データ記憶部、3…近似目的関数推定部、4…近似目的関数値算出部、5…近傍距離算出部、6…追加計測点決定指標算出部、7…制御パラメータ値決定部、100…対象システム、200…パラメータ決定装置、300…コントローラ。