(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5871376
(24)【登録日】2016年1月22日
(45)【発行日】2016年3月1日
(54)【発明の名称】微生物燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/16 20060101AFI20160216BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20160216BHJP
H01M 8/04186 20160101ALI20160216BHJP
H01M 8/06 20160101ALI20160216BHJP
【FI】
H01M8/16
H01M8/02 H
H01M8/04 L
H01M8/06 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-4983(P2012-4983)
(22)【出願日】2012年1月13日
(65)【公開番号】特開2013-145660(P2013-145660A)
(43)【公開日】2013年7月25日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000201582
【氏名又は名称】前澤化成工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直之
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 典彦
(72)【発明者】
【氏名】村上 祥隆
【審査官】
太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−065821(JP,A)
【文献】
特開2006−179223(JP,A)
【文献】
特開2010−102953(JP,A)
【文献】
特開2011−240226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/02
H01M 8/04 − 8/06
H01M 8/08 − 8/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機汚染物質を含有する排水から電気エネルギーを取り出す微生物燃料電池であって、
前記排水と接触する一主面側に前記排水の有機汚染物質を分解する嫌気性微生物膜が位置する一の電極と、
一主面が空気中に曝され、他主面が前記排水と接触する他の電極と、
これら一及び他の電極の間に介在され、前記一の電極側から前記他の電極側への陽イオンの移動を許容する隔膜と、
前記他の電極の一主面に所定の洗浄水を供給して前記他の電極の一主面上に形成される液膜中の水素イオン濃度を高める洗浄水供給部を備え、この洗浄水供給部により前記他の電極の一主面に供給された後の洗浄水を前記他の電極の一主面に対して繰り返し再供給する再供給部と
を具備したことを特徴とする微生物燃料電池。
【請求項2】
洗浄水供給部は、他の電極の一主面の上側から洗浄水をかけ流す
ことを特徴とする請求項1記載の微生物燃料電池。
【請求項3】
再供給部は、洗浄水を回収して貯留する貯留タンクを備えた
ことを特徴とする請求項1または2記載の微生物燃料電池。
【請求項4】
再供給部は、pH調整材を貯留する調整材貯留部を備えた
ことを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の微生物燃料電池。
【請求項5】
再供給部は、pH調整材を洗浄水に供給する調整材供給部を備えた
ことを特徴とする請求項1ないし4いずれか一記載の微生物燃料電池。
【請求項6】
再供給部は、検知したpHに対応して調整材供給部の動作を制御するpH制御器を備えた
ことを特徴とする請求項5記載の微生物燃料電池。
【請求項7】
洗浄水は、pH10以下の水溶液である
ことを特徴とする請求項1ないし6いずれか一記載の微生物燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機汚染物質を含有する排水から電気エネルギーを取り出す微生物燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオマス資源の有効利用の観点から、水中の有機汚染物質から電気エネルギーを回収する方法として微生物燃料電池が注目を浴びている。微生物燃料電池では、一の電極としてのアノード上に嫌気性微生物膜を生成させ、嫌気性微生物が有機汚染物質を分解する過程で生じる電子をアノードで集めて外部回路に取り出す。この電子は、外部回路を経由し、他の電極としての対電極であるカソードに移動し、このカソードにおいて水素イオンと酸素分子と反応し、水を生成する。カソード側に有機物が存在するとアノード側と同様の生分解反応が起こって発電できなくなるため、アノードとカソードとは(陽)イオン交換膜に代表される隔膜により分離されており、嫌気性微生物の有機汚染物質分解過程で生成した水素イオンが隔膜を通ってカソードに移動することにより電気回路が完成する。
【0003】
微生物燃料電池には水中に没したカソードを有するいわゆる二室型と空気中に曝されたカソード(エアカソード)を有するいわゆる一室型とがある。二室型では酸素供給のために曝気が必要であり、また、酸素の水への溶解度が低く酸素供給が律速になりやすいことから、一般に一室型が実用上有利であると考えられている。
【0004】
このような一室型の微生物燃料電池の発電効率に影響する因子は種々考えられるが、影響因子の一つにエアカソード表面に形成される液膜のpHが指摘されている(例えば、非特許文献1参照。)。すなわち、エアカソードで水の生成反応が進行した結果、水素イオンの消費によって液膜のpHが上昇することで、水素イオンの不足(水素イオン供給律速)により発電効率が低下する。
【0005】
この課題に対し、カソード上に形成される液膜のpHを制御する方法が提案されている(例えば、非特許文献2及び特許文献1参照。)。
【0006】
非特許文献2に記載されている方法は、エアカソードに供給する酸素含有ガスに二酸化炭素を混合し、この二酸化炭素をカソード上に形成される液膜に溶け込ませることで、カソード液膜のpHを下げるものである。
【0007】
また、特許文献1に記載されている方法は、炭素の布をエアカソードとし、炭素の布の一端を酸性にpH調整したカソード液に浸すことによって毛細管現象を利用してエアカソードにカソード液を供給し、エアカソードの液膜のpHを低下させるものである。
【0008】
上記非特許文献2及び特許文献1のいずれに記載されている方法もエアカソード上に形成される液膜のpHを下げることによって、発生電力密度もしくは発生電流を向上できることを示している。
【0009】
しかしながら、これらの方法には、エアカソード上に形成される液膜での塩の蓄積という共通した課題がある。すなわち、上記非特許文献2に記載されている方法の場合、二酸化炭素が溶け込むことにより生成する炭酸イオンが排出される経路がないため、最終的に炭酸塩が析出し、持続的な利用が容易でない。また、上記特許文献1に記載されている方法でも、カソード液は徐々に蒸発し、水分が失われていく一方で、このカソード液に含まれる陰イオンは排出される経路がなく、最終的に塩として析出し、持続的な利用が容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2011−508938号公報(第10−12頁、
図1)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Rozendal R. A.、Hamelers H. V. M.、and Buisman C. J. N. "Effects of membrane cation transport on pH and microbial fuel cell performance" Environmental Science and Technology、2006、40、5206-5211
【非特許文献2】藤木一到、石崎創、木村善一郎、岡部聡 「一槽型バイオ燃料電池における正極反応の促進による電力上昇」 第45回日本水環境学会年会講演集、2011年、p.168
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、発電効率を向上しつつ、持続的な利用を可能とした微生物燃料電池が望まれている。
【0013】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、発電効率を向上しつつ持続的に利用可能な微生物燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1記載の微生物燃料電池は、有機汚染物質を含有する排水から電気エネルギーを取り出す微生物燃料電池であって、前記排水と接触する一主面側に前記排水の有機汚染物質を分解する嫌気性微生物膜が位置する一の電極と、一主面が空気中に曝され、他主面が前記排水と接触する他の電極と、これら一及び他の電極の間に介在され、前記一の電極側から前記他の電極側への陽イオンの移動を許容する隔膜と、前記他の電極の一主面に所定の洗浄水を供給して前記他の電極の一主面上に形成される液膜中の水素イオン濃度を高める洗浄水供給部
を備え、この洗浄水供給部により前記他の電極の一主面に供給された後の洗浄水を前記他の電極の一主面に対して繰り返し再供給する再供給部とを具備したものである。
【0015】
請求項2記載の微生物燃料電池は、請求項1記載の微生物燃料電池において、洗浄水供給部は、他の電極の一主面の上側から洗浄水をかけ流すものである。
【0016】
請求項3記載の微生物燃料電池は、請求項1または2記載の微生物燃料電池において、再供給部は、洗浄水を回収して貯留する貯留タンクを備えたものである。
【0017】
請求項4記載の微生物燃料電池は、請求項1ないし3いずれか一記載の微生物燃料電池において、再供給部は、pH調整材を貯留する調整材貯留部を備えたものである。
【0018】
請求項5記載の微生物燃料電池は、請求項1ないし4いずれか一記載の微生物燃料電池において、再供給部は、pH調整材を洗浄水に供給する調整材供給部を備えたものである。
【0019】
請求項6記載の微生物燃料電池は、請求項5記載の微生物燃料電池において、再供給部は、検知したpHに対応して調整材供給部の動作を制御するpH制御器を備えたものである。
【0020】
請求項
7記載の微生物燃料電池は、請求項1
ないし6いずれか一記載の微生物燃料電池において、洗浄水は、pH10以下の水溶液であるものである
。
【発明の効果】
【0021】
請求項1記載の発明によれば、空気中に曝された他の電極の一主面に対して、洗浄水供給部によって所定の洗浄水を供給することにより、この一主面上に形成される液膜に蓄積された水酸化物イオンを洗い出してこの液膜中の水素イオン濃度を高め、発電効率を向上しつつ、他の電極の一主面への塩の析出を抑制して、持続的な利用が可能になる
とともに、洗浄水供給部により他の電極の一主面に供給された後の洗浄水を、再供給部によって他の電極の一主面に対して繰り返し再供給することにより、洗浄水の使用量を抑制でき、より安価に実施できる。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、洗浄水供給部が他の電極の一主面の上側から洗浄水をかけ流すことで、他の電極の一主面への塩の析出を抑制して、持続的な利用が可能になる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、貯留タンクから洗浄水供給部により他の電極の一主面に供給された後の洗浄水を他の電極の一主面に対して繰り返し再供給できる。
【0024】
請求項4記載の発明によれば、調整材貯留部内のpH調整液により洗浄水を例えばpH10以下に保つことができる。
【0025】
請求項5記載の発明によれば、pH調整材を調整材供給部により洗浄水に供給することで、洗浄水を例えばpH10以下に保つことができる。
【0026】
請求項6記載の発明によれば、検知したpHに対応してpH制御器が調整材供給部の動作を制御することで、洗浄水を例えばpH10以下に保つことができる。
【0027】
請求項
7記載の発明によれば、洗浄水をpH10以下の水溶液とすることにより、他の電極の一主面に対して、水素イオンの供給及び水酸化物イオンの洗い出しを、より効果的に行うことができる
。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の
一関連技術の微生物燃料電池を模式的に示す説明図である。
【
図2】本発明の
一実施の形態の微生物燃料電池を模式的に示す説明図である。
【
図3】同上微生物燃料電池の洗浄水の第1の測定実験の各実施例及び比較例のpHと発電効率との関係を示すグラフである。
【
図4】同上微生物燃料電池の各実施例の洗浄水をpH調整しなかった場合の洗浄水のpHの経時変化を示すグラフである。
【
図5】同上微生物燃料電池の洗浄水の第2の測定実験の各実施例及び比較例のpHと発電効率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の
一関連技術の構成を、図面を参照して説明する。
【0030】
図1において、11は微生物燃料電池(バイオ燃料電池)であり、この微生物燃料電池11は、燃料電池本体12と、この燃料電池本体12に有機汚染物質を含む排水W1を供給する排水供給部としての排水供給ポンプ13と、燃料電池本体12に洗浄水W2を供給する洗浄水供給部としての洗浄水供給ポンプ14とを備えた、カソード室を省略したいわゆる一室型(一槽型)のものである。そして、この微生物燃料電池11は、この微生物燃料電池11に対して電気的に接続された外部回路15へと電力を供給可能となっている。
【0031】
燃料電池本体12は、排水W1が内部に供給される枠状の排水収容部16の両側に、一の電極としてのアノード17と他の電極としてのカソード18とがそれぞれ取り付けられ、これらアノード17とカソード18との間にてカソード18に接するように隔膜としての陽イオン交換膜19が配置された、フローセル構造となっている。そして、この燃料電池本体12は、少なくとも使用状態で、上下方向に沿うように、すなわち縦置き状態に配置される。
【0032】
排水収容部16は、内部に反応セルを区画する部分であり、例えば発泡シリコンなどにより板状に形成されている。さらに、この排水収容部16には、排水供給ポンプ13と処理水W3を排出する処理水排出部である排水管21とがそれぞれ接続されている。そして、この排水収容部16内(反応セル)には、排水供給ポンプ13から排水W1が常時供給されている。
【0033】
また、アノード17は、導電部材、例えばカーボングラファイトなどにより板状に形成されている。また、アノード17の一主面である排水収容部16(反応セル)側の側面17aには、排水収容部16内の排水W1と接触する位置に嫌気性微生物膜22が形成されている。この嫌気性微生物膜22には、各種の嫌気性微生物が担持され、排水収容部16内の排水W1に含まれる有機性汚染物質を嫌気分解するように構成されている。
【0034】
また、カソード18は、例えばメッシュ状に形成された薄膜状のカーボンクロスなどであり、導電部材、例えばカーボングラファイトなどにより枠状に形成された保持部材25によって外縁部が排水収容部16に保持されている。この保持部材25は、カソード18と電気的に接続されており、外部回路15に対して接続可能となっている。そして、このカソード18は、一主面である排水収容部16(反応セル)と反対側の側面18aが空気中(外気)に曝された、いわゆるエアカソードである。そして、このカソード18は、上下方向に沿って、すなわち略垂直状に配置されている。なお、このカソード18の側面18aには、陽イオン交換膜19を通った排水収容部16(反応セル)側の水分により薄膜状の液膜が形成される。
【0035】
また、陽イオン交換膜19は、アノード17側からカソード18側への陽イオンの移動を許容するもので、カソード18の他主面である排水収容部16(反応セル)側の側面18bに位置し、排水収容部16内の排水W1と接触している。
【0036】
そして、洗浄水供給ポンプ14は、カソード18の側面18aに対して所定の洗浄水W2を供給してかけ流すものであり、図示しない洗浄水供給源と接続されている。そして、この洗浄水供給ポンプ14は、カソード18の側面18aの上側寄りに位置しており、この側面18aの全面に対して、上側から洗浄水W2を所定の流量(微小流量)かけ流すことが可能となっている。
【0037】
さらに、洗浄水W2は、本
関連技術では、pH10以下、好ましくは酸性の水溶液である。
【0038】
また、外部回路15としては、任意の回路を接続することができるが、例えば本
関連技術では微生物燃料電池11からの電流(電荷)量を計測するための回路であり、例えば電流計Aと所定の抵抗値のセメント抵抗などの抵抗Rとの直列回路であって、アノード17とカソード18との間に電気的に接続されている。
【0039】
次に、上記
一関連技術の動作を説明する。
【0040】
微生物燃料電池11においては、排水供給ポンプ13によって有機性汚染物質を含有した排水W1が排水収容部16にてアノード17側に流入し、このアノード17の側面17aに形成された嫌気性微生物膜22により、有機性汚染物質が嫌気分解される。この嫌気分解によって発生した電子はアノード17で集電され、外部回路15を経由してカソード18へと移動する。そして、カソード18では、水素イオンと空気中の酸素とが電子を受け取り、水が生成する。アノード17での嫌気分解によって生成した水素イオンが陽イオン交換膜19を通ってカソード18へと移動することにより、電気回路が完成する。
【0041】
ここで、アノード17及びカソード18では、以下のような反応が進行する。
【0042】
(アノード反応) CH
2O+H
2O → CO
2+4H
++4e
-
(カソード反応) O
2+4H
++4e
- → 2H
2O
(総括反応) CH
2O+H
2O+O
2 → CO
2+2H
2O
【0043】
上記の総括反応から、原理上はカソード18の側面18aに形成される液膜中の水素イオン濃度は変化しないが、実際には陽イオン交換膜19を介した水素イオンの移動には濃度差が必要であるため、カソード18側の水素イオン濃度がアノード17側よりも低くなる。換言すれば、カソード18の側面18aの液膜中には、水酸化物イオンが蓄積するため、この液膜のpHが上昇する。
【0044】
そこで、本
関連技術では、洗浄水供給ポンプ14によって所定の洗浄水W2をカソード18の空気中に曝された側面18a側の液膜にかけ流し式で連続供給することにより、液膜中に蓄積された水酸化物イオンを洗い流す(洗い出す)ことで、カソード18の側面18aの液膜中の水素イオン濃度を上昇させ、pHを低下させる。その結果、上記のカソード反応(水生成反応)が促進され、微生物燃料電池11の発電効率が向上するとともに、カソード18の側面18aへの塩の析出を抑制して、持続的な利用が可能になる。
【0045】
特に、洗浄水W2としてpH10以下の水溶液を用いることにより、カソード18の側面18aに対して、水素イオンの供給及び水酸化物イオンの洗い出しを、より効果的に行うことができる。
【0046】
次に、
一実施の形態を、
図2を参照して説明する。なお、上記
一関連技術と同様の構成及び作用については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0047】
この
一実施の形態は、洗浄水W2を循環させて繰り返し供給するための再供給部31を備えるものである。
【0048】
この再供給部31は、洗浄水W2を回収して貯留する貯留部としての貯留タンク32と、この貯留タンク32に貯留された洗浄水W2をカソード18の側面18aに供給する洗浄水供給ポンプ14と、例えば硫酸などのpH調整材である酸性のpH調整液を貯留する調整材貯留部としての調整液貯留部33と、この調整液貯留部33と接続されこの調整液貯留部33に貯留されたpH調整液を貯留タンク32に貯留された洗浄水W2に対して供給する調整材供給部としての調整液ポンプ34と、貯留タンク32中の洗浄水W2のpHを検知するとともに、この検知したpHに対応して調整液ポンプ34の動作を制御する制御部としてのpH制御器35と、貯留タンク32内の洗浄水W2を攪拌する攪拌機36とを有している。
【0049】
そして、洗浄水W2は、カソード18の側面18aの液膜に含まれる水酸化物イオンを洗い出すため、貯留タンク32に回収し、洗浄水供給ポンプ14によってカソード18の側面18aに対して所定の流量(微小流量)かけ流す、という作業を繰り返すことによって、徐々にアルカリ性に近づく。そして、洗浄水W2がアルカリ性に近づくと、カソード18への水素イオンの供給能率が低下し、カソード反応の促進が低下する。したがって、貯留タンク32に回収されて貯留されている洗浄水W2のpHをpH制御器35が検知し、この検知したpHに応じて調整液ポンプ34を適宜駆動させて調整液貯留部33内のpH調整液を貯留タンク32に供給し、攪拌機36によって攪拌することにより、洗浄水W2を例えばpH10以下に保つ。そして、このpH10以下に保たれた洗浄水W2を洗浄水供給ポンプ14によりカソード18の側面18aに対して繰り返しかけ流すことで、カソード反応を効果的に促進させ続けることができる。
【0050】
このように、洗浄水供給ポンプ14によりカソード18の側面18aに供給された後の洗浄水W2を、再供給部31によってカソード18の側面18aに対して繰り返し再供給することにより、順次新たな洗浄水を用いる場合と比較して洗浄水W2の使用量を抑制でき、より安価に実施できる。
【0051】
なお、上記
一実施の形態において、貯留タンク32中の洗浄水W2のpHを調整する機構、すなわち調整液貯留部33、調整液ポンプ34、pH制御器35及び攪拌機36については、必須の構成ではない。つまり、例えば洗浄水W2として酸性溶液を用い、複数回循環利用した後、pHが中性付近まで上昇した段階で貯留タンク32中の洗浄水W2を入れ替えるという操作を行ってもよい。
【0052】
また、上記
一実施の形態において、洗浄水W2は、例えば連続的にかけ流す以外でも、所定時間毎に(間欠的に)かけ流すようにしてもよい。
【0053】
さらに、上記
一実施の形態は、本発明を明確にするために例示したものであり、本発明は上記
一実施の形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0054】
次に、上記
一実施の形態の微生物燃料電池11の発電効率の第1の測定実験について説明する。
【0055】
この第1の測定実験では、微生物燃料電池11は、排水W1として、スクロース、酢酸ナトリウム、プロピオン酸を主体とする有機汚染物質を含有する人工排水を処理するものとし、この処理の際の除去された二クロム酸カリウム法による化学的酸素要求量(COD
Cr)当たりに外部回路15に取り出された電流(電荷)を
図3に示す。なお、外部回路15の抵抗Rとしては、43Ωのセメント抵抗を用いた。また、実施例としては、洗浄水W2として、硫酸(H
2SO
4)もしくは水酸化ナトリウム(NaOH)を用いてpH3.5(実施例1)に調整した純水、pH7(実施例2)に調整した純水、pH10(実施例3)に調整した純水、及び、水道水(実施例4)を用いたものを挙げる。さらに、比較例として、カソード18に対して洗浄水W2を供給しなかった場合(従来例に対応)を挙げる。なお、電子生産効率は以下の式により計算した。
【0056】
η=I/(ΔCOD×Q)[mC/mg]
η:電子生産効率[mC/mg]
I:電流[mA]
ΔCOD:(流入COD)−(処理水COD)[mg/L]
Q:排水流量[L/s]
【0057】
図3に示すように、カソード18に対して洗浄水W2を供給しなかった比較例では、電子生産効率(発電効率)が62mC/mg−CODであったのに対して、洗浄水W2を用いた各実施例では、電子生産効率(発電効率)が向上していることが分かる。
【0058】
この電子生産効率(発電効率)の向上効果は、カソード18の側面18aの液膜に供給する洗浄水W2のpHが低いほど大きく、実施例3(pH10)の場合で129mC/mg−COD、実施例2(pH7)の場合で165mC/mg−CODと比較例の2倍以上となり、実施例1(pH3.5)の場合では、253mC/mg−CODと比較例の4倍以上となった。
【0059】
さらに、実施例4(水道水)の場合でも、163mC/mg−CODとなり、実施例2と同等であった。すなわち、用いる洗浄水W2に含まれる陽イオン、陰イオンの種類によらず、pHが微生物燃料電池11の電子生産効率(発電効率)の改善に決定的な役割を果たしていることを示している。
【0060】
さらに、
図4には、洗浄水W2として純水を循環供給したときの洗浄水W2のpH変化を示す。貯留タンク32の貯水量は2L、循環流量は5.5mL/分であり、調整液ポンプ34及びpH制御器35を用いた貯留タンク32中の洗浄水W2のpH調整は行っていない。
【0061】
この
図4に示すように、洗浄水W2のpHは経過時間とともに徐々に上昇していった。これは、洗浄水W2を洗浄水供給ポンプ14によりカソード18に循環供給することにより、カソード18の側面18aに形成された液膜に蓄積された水酸化物イオンが洗い流されて洗浄水W2に蓄積されたことを示しており、上記
一実施の形態が想定どおりに機能していることを示している。
【0062】
また、洗浄水W2のpHが上昇していることから、
図3に示す各実施例の結果とあわせると、貯留タンク32中の洗浄水W2のpHを調整することで洗浄水W2を繰り返し利用できることが分かる。
【0063】
次に、上記
一実施の形態の微生物燃料電池11の発電効率の第2の測定実験について説明する。
【0064】
この第2の測定実験では、微生物燃料電池11は、排水W1として、学校法人龍谷大学瀬田学舎生協食堂排水をガラス繊維ろ紙(GF/Dグレード、保持粒径2.7μm)にてろ過したろ液を用いた。ろ液のCOD
Crは432±47mg/Lであった。
【0065】
カソード18のpH制御は、硫酸もしくは水酸化ナトリウムを用いてpH調整した水溶液(実施例5(pH3.5)、実施例6(pH7)、実施例7(pH10))をカソード18の側面18aに流量5.5mL/分で滴下することにより行った。
【0066】
そして、
図5に示すように、電子生産効率(発電効率)は、実施例5(pH3.5)の場合では、221±20mC/mg−COD、実施例6(pH7)の場合では、158±14mC/mg−COD、実施例7(pH10)の場合では、98±7mC/mg−CODとなった。
【0067】
なお、排水W1として実排水を用いた第2の測定実験の各実施例は、人工排水を用いた第1の測定実験の各実施例と比較して、電子生産効率(発電効率)が低下していた。これは、人工排水ではスクロースや酢酸、プロピオン酸といった生物利用性のよい基質を供給しているのに対し、実排水では、排水W1中の有機物を加水分解により糖類や有機酸に変化することが必要であり、その結果として、加水分解段階でのCOD
Crの損失が発生するためであると考えられる。しかしながら、カソード18のpH制御の効果については、実排水を排水W1として用いた場合でも人工排水を排水W1として用いた場合と同様に酸性側で電子生産効率(発電効率)の向上効果が大きくなることが認められ、上記
一実施の形態が実排水処理においても有効であることが示された。
【符号の説明】
【0068】
11 微生物燃料電池
14 洗浄水供給部としての洗浄水供給ポンプ
17 一の電極としてのアノード
18 他の電極としてのカソード
19 隔膜としての陽イオン交換膜
22 嫌気性微生物膜
31 再供給部
32 貯留タンク
33 調整材貯留部としての調整液貯留部
34 調整材供給部としての調整液ポンプ
35 pH制御器
W1 排水
W2 洗浄水