(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896470
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】AlN単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 19/04 20060101AFI20160317BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
C30B19/04
C30B29/38 C
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-252291(P2012-252291)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-101235(P2014-101235A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2014年12月24日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物:2012年秋季 第73回応用物理学会学術講演会「講演予稿集」(発行日:平成24年8月27日) 学会名:2012年秋季 第73回応用物理学会(開催日:平成24年9月11日〜9月14日) 刊行物:International Workshop on Nitride Semiconductors(発行日:平成24年10月14日) 学会名:International Workshop on Nitride Semiconductors(開催日:平成24年10月14日〜10月19日) 刊行物:第42回結晶成長国内会議NCCG−42予稿集(発行日:平成24年11月2日) 学会名:第42回結晶成長国内会議NCCG−42(開催日:平成24年11月9日〜11月11日)
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘明
(72)【発明者】
【氏名】水野 恒平
(72)【発明者】
【氏名】宇治原 徹
(72)【発明者】
【氏名】木藤 泰男
【審査官】
宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−306638(JP,A)
【文献】
特開2005−082439(JP,A)
【文献】
特開2011−178623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 19/04
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内に配置された基板の基板面に対して平行方向に温度勾配を設けることが可能な横型の成長炉(2)を用い、成分aがCr、Mn、Fe、Co、Cu及びNiから選択した1種以上の金属、成分bがSc、Ti、V、Y、Zr及びNbから選択した1種以上の金属、成分cがAl、成分dがSiであるabcd系合金の溶液(10)と、表面を窒化していないサファイア基板(9)とを用い、炉内に配置された前記サファイア基板(9)の基板面(9a)に対して平行方向に温度勾配を設けた状態で前記サファイア基板(9)上にAlN単結晶(11)を溶液法により成長させ、AlN単結晶(11)を製造することを特徴とするAlN単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlN単結晶を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN(窒化アルミニウム)は、バンドギャップが6.2[eV]と大きく、pn接合を実現することにより、紫外領域の発光ダイオードやレーザー等の新しい発光素子を作成する点で優位である。又、AlNは、大きなバンドギャップを有することにより、放射線下や高温下で動作する高耐圧の電力素子への適用が可能である。更に、AlNは、負の電子親和力を示すことにより、高効率の電子放出素子への適用も期待されている。このように優れた特性を有するAlNを発光素子や電力素子や電子放出素子等の素子として利用する場合には、半導体シリコンと同様に、単結晶ウエハとして使用することが望ましい。
【0003】
AlN単結晶を製造する方法としては、縦型の成長炉を採用すると共に種結晶基板としてSiC基板を用い、SiC基板上にAlN単結晶を成長させる方法が開示されている(例えば特許文献1及び2参照)。又、種結晶基板として表面を窒化したサファイア基板を用い、表面を窒化したサファイア基板上にAlN単結晶をGa−Al溶液を用いた溶液法により成長させる方法も開示されている(例えば非特許文献1参照)。更に、種結晶基板として表面を窒化していないサファイア基板を用い、表面を窒化していないサファイア基板上にAlN単結晶を気相法(HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法)により成長させる方法も開示されている(例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−82439号公報
【特許文献2】特開2006−306638号公報
【非特許文献1】M.Adachi et al.,Phys.Status Solidi A208 No.7 1494-1497(2011).
【非特許文献2】Y.Kumagai et al.,Journal of Crystal Growth 312(2010)2530-2536.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示されている方法では、種結晶基板として用いるSiC基板が高価であるので、AlN単結晶を安価に製造することができないという問題があった。又、縦型の成長炉を用いるので、AlN単結晶を水平方向に成長(ラテラル成長)させることができず、欠陥の少ない高品質なAlN単結晶を製造することができないという問題もあった。
【0006】
非特許文献1に開示されている方法では、種結晶基板として用いる表面を窒化したサファイア基板がSiC基板と同様に高価であるので、AlN単結晶を安価に製造することができないという問題があった。非特許文献2に開示されている方法では、種結晶基板として用いる表面を窒化していないサファイア基板はSiC基板や表面を窒化したサファイア基板に比べて安価であるが、AlN単結晶を気相法により成長させるので、AlN単結晶を成長させる過程で塩素が混入する可能性があった。仮に塩素が混入すると、その混入した塩素を水素により除去する必要があり、その分、工程が複雑となり、コスト高になる。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、欠陥の少ない高品質なAlN単結晶を大きな成長速度で安価に製造することができるAlN単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載した発明によれば、
炉内に配置された基板の基板面に対して平行方向に温度勾配を設けることが可能な横型の成長炉を用い、成分aがCr、Mn、Fe、Co、Cu及びNiから選択した1種以上の金属、成分bがSc、Ti、V、Y、Zr及びNbから選択した1種以上の金属、成分cがAl、成分dがSiであるabcd系合金の溶液と、表面を窒化していないサファイア基板とを用い、
炉内に配置された前記サファイア基板の前記基板面に対して平行方向に温度勾配を設けた状態で前記サファイア基板上にAlN単結晶を溶液法により成長させ、AlN単結晶を製造する。
【0009】
これにより、種結晶基板としてSiC基板や表面を窒化したサファイア基板に比べて安価な表面を窒化していないサファイア基板を用いるので、AlN単結晶を安価に製造することができる。又、サファイア基板上にAlN単結晶を溶液法により成長させ、更に横型の成長炉を用いるので、サファイア基板の表面の一部が部分的に溶解して凹部が生成されると共に、その凹部を覆うようにAlN単結晶を水平方向に成長させることができ、サファイア基板とAlN単結晶との間に空隙を形成することができる。その結果、その空隙によりサファイア基板とAlN単結晶との界面に発生する応力が緩和され、AlN単結晶中に発生する欠陥を低減することができ、欠陥の少ない高品質なAlN単結晶を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態を示すもので、AlN単結晶の製造装置及び温度勾配を示す図
【
図3】走査型電子顕微鏡により撮像した画像を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、AlN単結晶の製造装置1は、横型の成長炉2であり、円筒状の石英管3と、石英管3の周囲に配置された加熱用の高周波コイル4とを有する。石英管3の内部には、カーボンヒータ5と、石英管3とカーボンヒータ5とを隔離するインシュレータ6とが配置されている。カーボンヒータ5にはアルミナボート7が配置可能になっている。アルミナボート7には凹部7aが形成されている。又、石英管3の内部にはアルゴンガス(Ar)や窒素ガス(N
2)がガス管8から流入されるようになっている。
【0012】
このように構成されたAlN単結晶の製造装置1を用い、窒化していないサファイア基板上にAlN単結晶を成長させる方法について説明する。最初に、アルミナボート7の凹部7aに、表面を窒化していないサファイア基板9を配置し、Cu−Ti−Al−Siを成分とする金属(合金)を配置する。尚、本実施形態では、サファイア基板9を凹部7aの一端側(
図1では右側)に寄せて配置しているが、サファイア基板9を凹部7aの中央部に配置しても良い。サファイア基板9は、例えば(0001)面の30×5[mm]であり、Cu−Ti−Al−Siを成分とする金属は、その組成比が例えば57:3:10:30[at%]である。
【0013】
次に、石英管3の内部(炉内)を所定圧力まで(例えば10
−2[Torr]以下まで)真空引きした後に、
図2に示すように、アルゴンガス(非酸化ガス)をガス管8から炉内に流しながら炉内の温度を1700[℃]まで昇温させる。次に、炉内の温度が1700[℃]まで達した後に、サファイア基板9及びCu−Ti−Al−Siを成分とする金属を配置したアルミナボート7をカーボンヒータ5上の所定位置に配置する。このとき、Cu−Ti−Al−Siを成分とする金属は、炉内の温度が1700[℃]まで達しているので、溶解して溶液10となり、その溶液10はサファイア基板9の基板面(上面)9a上に均一に分散する(
図1参照)。
【0014】
次に、炉内に流すガスをアルゴンガスから窒素ガスに切換え、窒素ガスをガス管8から例えば1[L/min]の流量で炉内に流して常圧の窒素雰囲気を形成する。窒素ガスを炉内に流してから炉内の温度を1700[℃]で5時間保持し、サファイア基板9上にAlN単結晶を成長させる。このとき、Cu−Ti−Al−Siを成分とする溶液10中のCuは、Alと窒素ガスとの反応を促進するようにAlを均質に分散させて溶解させるように作用する。又、Cu−Ti−Al−Siを成分とする溶液10中のTiは、常圧下でも窒素ガスが溶液10中に取り込まれるように作用する。そして、サファイア基板9上にAlN単結晶を5時間にわたって成長させた後に常温まで冷却し、サファイア基板9上に成長したAlN単結晶をアルミナボート7から取出す。このとき、サファイア基板9を研削等して除去すれば、AlN単結晶の自立基板(単結晶ウエハ)を製造することができる。
【0015】
上記した条件下では、
図3(a)に示すように、平坦な表面を観察することができ、六角形の成長ステップを観察することができた。これらの結果より、AlN単結晶がサファイア基板9上に成長したことを示唆することができる。更に、XRD(X-Ray Diffraction)により、サファイア(0001)面基板9上にAlN(0001)面単結晶が成長していることを確かめることができた。AlN(0002)面回折のXRC半値全幅は414[arcsec]という比較的低い値であり、特開2008−44809号公報に準じた論文であるK.Kamei,et al.phys.Stat.sol.(c) 4 No.7,2211-2214(2007).に開示されているSiC基板上に成長したAlN単結晶のXRC半値全幅が632[arcsec]という値であることを考慮すると、本実施形態により製造したAlN単結晶は高品質であると言える。又、本実施形態により製造したAlN単結晶の転位密度は1×10
8[/cm
2]であり、GaNの転位密度を考えると、発光素子として使用可能であると言える。又、
図3(b)に示す断面SEM(Scanning Electron Microscope)画像より、本実施形態により製造したAlN単結晶の厚さは約400[nm]であった。又、
図3(c)に示すように、サファイア基板9とAlN単結晶との界面に空隙(Void)が見られる部分もあった。
【0016】
これらの結果を勘案すると、以下の(1)乃至(4)に示す成長メカニズムを想定することができる。即ち、
図4に示すように、
(1)サファイア基板9上にAlN単結晶11の核が生成する(核生成する)。
(2)サファイア基板9の一部が部分的に溶解し、サファイア基板9の基板面9aに凹部12が生成される。この場合、AlN単結晶11の核生成と、サファイア基板9の一部の部分的な溶解とは因果関係はなく、それらが同時に発生する場合もあり得るし、それらが前後に発生する場合もあり得る。
(3)核生成したAlN単結晶11が水平方向に成長(ラテラル成長)し、凹部12が覆われ、サファイア基板9とAlN単結晶11との界面に空隙13が形成される。
(4)AlN単結晶11の水平方向への成長が進み、AlN単結晶11がサファイア基板9の全面に形成される。このとき、(3)で説明したように、サファイア基板9とAlN単結晶11との界面に空隙13が形成されているので、その空隙13によりサファイア基板9とAlN単結晶11との界面に発生する応力が緩和され、AlN単結晶11中に発生する欠陥が低減され、その結果、高品質となる。又、空隙13が形成されることにより、AlN単結晶11をサファイア基板9から分離させることが容易となり、AlN単結晶の自立基板を容易に製造することも可能である。非特許文献2として示したKumagaiらは、表面を窒化していないサファイア基板を用い、AlN単結晶をHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法により成長させ、本実施形態により製造したAlN単結晶と同程度の転位密度である1.5×10
8[/cm
2]のAlN単結晶を製造した。しかしながら、HVPE法により製造したAlN単結晶は塩素が混入する可能性があり、その混入した塩素を水素により除去する必要があるので、本実施形態によりAlN単結晶を製造する方法は、非特許文献2として示したKumagaiらによる方法よりも工程が少ない点で優位である。
【0017】
ところで、AlN単結晶の製造装置1においては、炉内に温度分布が発生している。即ち、カーボンヒータ5は中央部で発熱量が相対的に大きく、端部で発熱量が相対的に小さい。そのため、本実施形態では、
図1に示したように、サファイア基板9の一端側(
図1では右側)がカーボンヒータ5の中央部に位置するようにアルミナボート7を配置すると、サファイア基板9は一端側で温度が相対的に高く、他端側(
図1では左側)で温度が相対的に低くなる。一方、Cu−Ti−Al−Siを成分とする溶液10は、液体として対流しているので、サファイア基板9の基板面9aの全体にわたって均一な温度である。その結果、カーボンヒータ5の中央部から遠い領域は、サファイア基板9と溶液10との温度差が相対的に大きく、過飽和度が相対的に高い高温度勾配域となり(
図1にて「ΔT1」にて示す)、一方、カーボンヒータ5の中央部に近い領域は、サファイア基板9と溶液10との温度差が相対的に小さく、過飽和度が相対的に低い低温度勾配域となる(
図1にて「ΔT2」にて示す)。本実施形態では、50[℃/cm]の高温度勾配域では、
図5(a)に示すように、島成長を観察することができ、一方、30[℃/cm]の低温度勾配域では、
図5(b)に示すように、沿面成長を観察することができた。このように50[℃/cm]の高温度勾配域では、六角形の成長ステップを観察することができないが、30[℃/cm]の低温度勾配域では、六角形の成長ステップを観察することができたので、炉内に温度分布が発生している場合には、30[℃/cm]前後の温度勾配域がAlN単結晶11の成長に適していると言える。尚、本実施形態では、温度勾配が30〜50[℃/cm]の場合を説明したが、例えば温度勾配が30[℃/cm]以下でも、AlN単結晶11の成長に適していると想定することができる。
【0018】
以上に説明したように本実施形態によれば、横型の成長炉2を用い、Cu−Ti−Al−Siを成分とする溶液10と、表面を窒化していないサファイア基板9とを用い、サファイア基板9上にAlN単結晶11を溶液法により成長させ、AlN単結晶11を製造するようにした。種結晶基板としてSiC基板や表面を窒化したサファイア基板に比べて安価な表面を窒化していないサファイア基板9を用いるので、AlN単結晶11を安価に製造することができる。又、サファイア基板9上にAlN単結晶11を溶液法により成長させるので、気相法により成長させる場合に比べて成長速度を大きくすることができる。更に、横型の成長炉2を用いるので、サファイア基板9の表面の一部が部分的に溶解して凹部12が生成されると、その凹部12を覆うようにAlN単結晶11を水平方向に成長させることができ、サファイア基板9とAlN単結晶11との間に空隙13を形成することができる。その結果、その空隙13によりサファイア基板9とAlN単結晶11との界面に発生する応力が緩和され、AlN単結晶11中に発生する欠陥を低減することができ、欠陥の少ない高品質なAlN単結晶11を製造することができる。
【0019】
又、サファイア基板9の基板面9aに対して平行方向に温度勾配を設けたので、所定の温度勾配域(本実施形態では30[℃/cm]前後の温度勾配域)でAlN単結晶11を良好に成長させることができる。更に、窒素ガスをサファイア基板9の基板面9aに流しながらAlN単結晶11を成長させるようにしたので、窒素ガスの流量を制御することで、AlN単結晶11の成長量(膜厚)を容易に制御することができる。
【0020】
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、以下のように変形又は拡張することができる。
成分aに相当する金属、即ち、Alと窒素ガスとの反応を促進するようにAlを均質に分散させて溶解させるように作用する金属は、Cr、Mn、Fe、Co、Cu及びNiから選択した1種以上の金属であれば良い。又、成分bに相当する金属、即ち、常圧下でも窒素ガスが溶液中に取り込まれるように作用する金属は、Sc、Ti、V、Y、Zr及びNbから選択した1種以上の金属であれば良い。
【符号の説明】
【0021】
図面中、2は横型の成長炉、9はサファイア基板、9aは基板面、10は溶液、11はAlN単結晶である。