特許第5897762号(P5897762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897762
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】吸収性物品
(51)【国際特許分類】
   A61F 13/15 20060101AFI20160317BHJP
   A61F 13/472 20060101ALI20160317BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20160317BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20160317BHJP
   A61F 13/539 20060101ALI20160317BHJP
   A61F 13/49 20060101ALI20160317BHJP
   A61F 13/42 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   A61F13/18 Z
   A61F13/18 301
   A61F13/18 310A
   A61F13/18 331
   A41B13/02 C
   A41B13/02 E
   A41B13/02 G
   A41B13/02 L
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-235512(P2015-235512)
(22)【出願日】2015年12月2日
(62)【分割の表示】特願2014-122038(P2014-122038)の分割
【原出願日】2014年6月13日
(65)【公開番号】特開2016-28785(P2016-28785A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2015年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-3126(P2014-3126)
(32)【優先日】2014年1月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】栗原 涼子
【審査官】 山本 杏子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−234031(JP,A)
【文献】 特開2013−176509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 13/00
A61F 13/15−13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透液性表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記透液性表面シートの面側にエンボスが形成された吸収性物品において、
前記エンボスは、体液排出部に対応する領域に、吸収性物品の長手方向に沿って形成されるとともに、吸収性物品の幅方向外側に膨出する形状線からなる体液排出部エンボスと、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ、吸収性物品の長手方向に沿って形成される長手方向エンボスと、前記長手方向エンボスの外方側端部から延びるとともに、吸収性物品の幅方向中央側に向けて傾斜する傾斜部エンボスとを含み、
左右の前記傾斜部エンボスの端部同士が幅方向に離間して設けられ
前記長手方向エンボスは、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ、互いに長手方向に離間して2組以上形成されるとともに、前記体液排出部エンボスに隣接する長手方向エンボスが前記体液排出部エンボスと接続して形成され、前記長手方向エンボスの外方側端部にそれぞれ前記傾斜部エンボスが形成されていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項2】
透液性表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記透液性表面シートの面側にエンボスが形成された吸収性物品において、
前記エンボスは、体液排出部に対応する領域に、吸収性物品の長手方向に沿って形成されるとともに、吸収性物品の幅方向外側に膨出する形状線からなる体液排出部エンボスと、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ、吸収性物品の長手方向に沿って形成される長手方向エンボスと、前記長手方向エンボスの外方側端部から延びるとともに、吸収性物品の幅方向中央側に向けて傾斜する傾斜部エンボスとを含み、
左右の前記傾斜部エンボスの端部同士が幅方向に離間して設けられ、
前記長手方向エンボスは、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ2組以上形成されるとともに、前記体液排出部エンボスに隣接する長手方向エンボスが前記体液排出部エンボスと接続して形成され、前記長手方向エンボスの外方側端部にそれぞれ前記傾斜部エンボスが形成されるとともに、前記傾斜部エンボスの外方側に隣接する前記長手方向エンボスが、この傾斜部エンボスと接続して形成されていることを特徴とする吸収性物品。
【請求項3】
相対的に外方側に配置される長手方向エンボスは、その内方側に隣接する長手方向エンボスを外方側に延長した延長線と一致しない位置に設けられている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項4】
相対的に外方側に配置される長手方向エンボスは、その内方側に隣接する長手方向エンボスを外方側に延長した延長線より内側に設けられている請求項1〜3いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項5】
前記体液排出部エンボスに隣接する前記長手方向エンボスは、吸収性物品の幅方向内側に膨出する単一の円弧状曲線に沿って形成され、左右の前記円弧状曲線の離隔幅が最小となる最狭部の位置と、左右の前記体液排出部エンボスの幅方向外側への膨出幅が最大となる最膨出部の位置とが一致するか近接している請求項1〜いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項6】
前記傾斜部エンボスのうち、最も前記体液排出部エンボスの近くに形成される傾斜部エンボスは、吸収性物品の幅方向線との成す角αが45°以下に設定され、これより外方側に形成される傾斜部エンボスは、吸収性物品の幅方向線との成す角βが60°以下に設定されている請求項1〜5いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項7】
左右の前記傾斜部エンボスの端部同士の離間幅は、前記傾斜部エンボスの吸収性物品幅方向長さの1〜3倍である請求項1〜いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項8】
前記長手方向エンボスは、吸収性物品の長手方向線に対し外方側が幅方向外側に傾斜する傾斜角を有するように形成され、
相対的に外方側に配置される長手方向エンボスは、その内方側に隣接する長手方向エンボスより、前記傾斜角が大きくなるように設定されている請求項1〜7いずれかに記載の吸収性物品。
【請求項9】
前記傾斜部エンボスの溝幅は、前記長手方向エンボスの溝幅より大きく設定されている請求項1〜いずれかに記載の吸収性物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経血やおりものなどを吸収するための生理用ナプキン、パンティライナー、失禁パッド等の吸収性物品に係り、詳しくは吸液量を認識できる目盛り機能を備えた吸収性物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パンティライナー、生理用ナプキン、失禁パッドなどの吸収性物品として、ポリエチレンシートまたはポリエチレンシートラミネート不織布などの不透液性裏面シートと、不織布又は透液性プラスチックシートなどの透液性表面シートとの間に粉砕パルプ等の紙綿からなる吸収体を介在したものが知られている。
【0003】
この種の吸収性物品にも幾多の改良が重ねられ、前記透液性表面シートの面側に、種々の目的で線状のエンボスを施すようにした吸収性物品が知られている。たとえば下記特許文献1では、着用後の液の吸収および拡散程度を直ちに理解でき、その後の製品の選択を容易にすることなどを目的として、受液部に与えられた液が受液部で拡がる度合いを確認する基準マークが、前記受液部の表面に設けられており、前記基準マークは、吸収層と表面シートとを圧縮して形成した連続または不連続の輪郭線を有しており、前記輪郭線は、前記受液部の表面で所定の面積を囲むように形成され、この輪郭線は、内側の輪郭線の外側に間隔を空けて外側に輪郭線が位置するように少なくとも2つ形成された吸収性物品が開示されている。
【0004】
また、下記特許文献2では、エンボスが排尿口対応エンボスとその前後の前側エンボス及び後側エンボスとから構成され、前記排尿口対応エンボスが吸収性物品の幅方向外側に膨出する形状で形成されるとともに、前記前側エンボス及び後側エンボスはそれぞれ、少なくとも前記排尿口対応エンボスに近接する部分が、吸収性物品の幅方向外側に曲率中心を有するとともに前記排尿口対応エンボスの長手寸法以上の曲率半径を有する曲線状または直線状に形成することにより、前記排尿口対応エンボスの膨出形状がその前後の前側エンボス及び後側エンボスの形状と比較して際立って目立つようになり、この排尿口対応エンボスで囲まれた部分を的として排尿口部に当接させるようにして装着することによって、吸収性物品が身体の適正な位置に容易に装着できるようにした吸収性物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3971150号公報
【特許文献2】特開2013−176509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
体液の拡散面積により正確な吸収量を判断するには、表面を伝う体液の拡がりではなく、吸収体内部に浸透した体液の拡散を生じさせる必要がある。しかしながら、上記特許文献1記載の吸収性物品では、エンボスによって形成された輪郭線が受液部を囲むように形成してあるため、体液排出部から排出された体液が吸収体に吸収された後、前記エンボスによって吸収体の内部を拡散するのが抑制され、吸収体内の拡散による正確な吸収範囲を把握することができなかった。
【0007】
また、吸収体での拡散が抑制されることによって、体液排出部に体液が溜まりやすく、ベタツキが増加して不快感を生じる問題があった。
【0008】
一方、上記特許文献2記載の吸収性物品では、排尿口対応エンボスで囲まれた部分を的として正確な位置に装着できるようになっているが、エンボスが全体として閉合しているため拡散が抑制される場合があり、ベタツキ感を生じる場合があった。
【0009】
また、透液性表面シートの表面側から施すエンボスを分断して設けた場合、流れ方向に対してエンボスを押す力が分断されるため、エンボスによる圧搾力が弱まることがあった。また、厚みがある吸収体では、透液性表面シートの表面側から施すエンボスは、透液性表面シート、吸収体及び吸収体を囲繞する被包シートなどを一体的に圧搾するものであるので、表面材が元に戻る力に負けて、表面材が吸収体から浮いてしまうエンボスの浮きが発生する場合があった。特にエンボス端部では、エンボスの多方向から戻る力が働くため、エンボスの浮きが発生しやすかった。
【0010】
そこで本発明の第1の課題は、エンボスによる体液の拡散を抑制せず、正確な体液の拡散状況が認識できるようにするとともに、ベタツキによる不快感を感じさせない吸収性物品を提供することにある。また、第2の課題は、エンボスの浮きの発生を極力抑えた吸収性物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記第1の課題を解決するために請求項1に係る本発明として、透液性表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記透液性表面シートの面側にエンボスが形成された吸収性物品において、
前記エンボスは、体液排出部に対応する領域に、吸収性物品の長手方向に沿って形成されるとともに、吸収性物品の幅方向外側に膨出する形状線からなる体液排出部エンボスと、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ、吸収性物品の長手方向に沿って形成される長手方向エンボスと、前記長手方向エンボスの外方側端部から延びるとともに、吸収性物品の幅方向中央側に向けて傾斜する傾斜部エンボスとを含み、
左右の前記傾斜部エンボスの端部同士が幅方向に離間して設けられ
前記長手方向エンボスは、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ、互いに長手方向に離間して2組以上形成されるとともに、前記体液排出部エンボスに隣接する長手方向エンボスが前記体液排出部エンボスと接続して形成され、前記長手方向エンボスの外方側端部にそれぞれ前記傾斜部エンボスが形成されていることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明では、前記エンボスとして、前記体液排出部エンボスと、この体液排出部エンボスの前後にそれぞれ、吸収性物品の長手方向に沿って形成される長手方向エンボスと、この長手方向エンボスの外方側端部から延びるとともに、吸収性物品の幅方向中央側に向けて傾斜する傾斜部エンボスとを含んでいる。このため、前記傾斜部エンボスを目盛りとして、吸収体での体液の拡散の程度を認識でき、この拡散の程度から今後使用する吸収性物品の大小を選択する目安とすることができる。
【0013】
また、本吸収性物品では、左右の前記傾斜部エンボスの端部同士が幅方向に離間して設けられているため、エンボスによって吸収体内を拡散する体液の拡がりが抑制されることなく、正確な吸収体内での拡散状況が把握できるようになる。更に、体液の拡散が抑制されないため、体液が体液排出部近傍に滞留せず、ベタツキによる不快感が軽減できるようになる。
【0014】
また、上記請求項記載の発明では、前記長手方向エンボスを、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ、互いに長手方向に離間して2組以上形成し、各長手方向エンボスの外方側端部にそれぞれ前記傾斜部エンボスを形成することによって、傾斜部エンボスが長手方向に2つ以上配置されるため、この傾斜部エンボスが目盛りとしてより一層明確に機能するようになる。また、2組以上の長手方向エンボスを互いに長手方向に離間して設けることによって、内方側の長手方向エンボスから外方側の長手方向エンボスに体液が表面を伝って流れるのが防止でき、表面を伝う体液の拡散ではなく、吸収体内に浸透した体液の拡散状況を把握できるようになる。
【0015】
更に、前記体液排出部エンボスに隣接する長手方向エンボスが前記体液排出部エンボスと接続しているため、体液排出部エンボスから長手方向エンボスへ体液が横漏れせずに移行できるようになる。
【0016】
上記第2の課題を解決するために請求項に係る本発明として、透液性表面シートと裏面シートとの間に吸収体が介在されるとともに、前記透液性表面シートの面側にエンボスが形成された吸収性物品において、
前記エンボスは、体液排出部に対応する領域に、吸収性物品の長手方向に沿って形成されるとともに、吸収性物品の幅方向外側に膨出する形状線からなる体液排出部エンボスと、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ、吸収性物品の長手方向に沿って形成される長手方向エンボスと、前記長手方向エンボスの外方側端部から延びるとともに、吸収性物品の幅方向中央側に向けて傾斜する傾斜部エンボスとを含み、
左右の前記傾斜部エンボスの端部同士が幅方向に離間して設けられ、
前記長手方向エンボスは、前記体液排出部エンボスの前後にそれぞれ2組以上形成されるとともに、前記体液排出部エンボスに隣接する長手方向エンボスが前記体液排出部エンボスと接続して形成され、前記長手方向エンボスの外方側端部にそれぞれ前記傾斜部エンボスが形成されるとともに、前記傾斜部エンボスの外方側に隣接する前記長手方向エンボスが、この傾斜部エンボスと接続して形成されていることを特徴とする吸収性物品が提供される。
【0017】
上記請求項記載の発明では、前記長手方向エンボスを体液排出部エンボスの前後にそれぞれ2組以上形成し、前記傾斜部エンボスの外方側に隣接する長手方向エンボスを、この傾斜部エンボスと接続するように形成している。すなわち、前記体液排出部エンボス、長手方向エンボス及び傾斜部エンボスが分断されることなく連続線によって形成されている。これによって、エンボス線を分断して形成したときよりエンボスの端部が減少するので、エンボスを押す力が一定になり、表面材の元に戻る力によるエンボスの浮きが防止できるようになる。
【0018】
請求項に係る本発明として、相対的に外方側に配置される長手方向エンボスは、その内方側に隣接する長手方向エンボスを外方側に延長した延長線と一致しない位置に設けられている請求項1、2いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0019】
上記請求項記載の発明では、相対的に外方側に配置される長手方向エンボスを、その内方側に隣接する長手方向エンボスの延長線と一致しない位置に設けることによって、内方側の長手方向エンボスから外方側の長手方向エンボスに連続的に流れるのが確実に防止できるようになる。
【0020】
請求項に係る本発明として、相対的に外方側に配置される長手方向エンボスは、その内方側に隣接する長手方向エンボスを外方側に延長した延長線より内側に設けられている請求項1〜3いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0021】
上記請求項記載の発明では、相対的に外方側に配置される長手方向エンボスを、その内方側に隣接する長手方向エンボスの延長線より内側に設けることによって、体液の幅方向への拡がりが抑制できるようになる。
【0022】
請求項に係る本発明として、前記体液排出部エンボスに隣接する前記長手方向エンボスは、吸収性物品の幅方向内側に膨出する単一の円弧状曲線に沿って形成され、左右の前記円弧状曲線の離隔幅が最小となる最狭部の位置と、左右の前記体液排出部エンボスの幅方向外側への膨出幅が最大となる最膨出部の位置とが一致するか近接している請求項1〜いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0023】
上記請求項記載の発明では、前記体液排出部エンボスの前後に隣接する長手方向エンボスを、吸収性物品の幅方向内側に膨出する単一の円弧状曲線に沿って形成し、左右の前記円弧状曲線の離隔幅が最小となる最狭部の位置と、左右の前記体液排出部エンボスの幅方向外側への膨出幅が最大となる最膨出部の位置とを一致又は近接させることによって、体液排出部エンボスの膨出形状の中央部に体液排出部を合わせるように装着したときに、吸収性物品が正しい位置に装着できるようになる。
【0024】
請求項に係る本発明として、前記傾斜部エンボスのうち、最も前記体液排出部エンボスの近くに形成される傾斜部エンボスは、吸収性物品の幅方向線との成す角αが45°以下に設定され、これより外方側に形成される傾斜部エンボスは、吸収性物品の幅方向線との成す角βが60°以下に設定されている請求項1〜5いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0025】
上記請求項記載の発明では、前記傾斜部エンボスのうち、最も体液排出部エンボスの近くに形成される傾斜部エンボス、即ち体液排出部エンボスの前後に隣接する長手方向エンボスの外方側端部から延びる傾斜部エンボスの吸収性物品幅方向線との成す角αと、これより外方側に形成される傾斜部エンボスの吸収性物品幅方向線との成す角βを、それぞれ所定の角度で形成することにより、エンボスに沿って流れる体液を内側に誘導できるとともに、吸収体内を拡散する体液を内側に誘導できるようになる。
【0026】
請求項に係る本発明として、左右の前記傾斜部エンボスの端部同士の離間幅は、前記傾斜部エンボスの吸収性物品幅方向長さの1〜3倍である請求項1〜いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0027】
上記請求項記載の発明では、左右の前記傾斜部エンボスの端部同士の離間幅を、前記傾斜部エンボスの吸収性物品幅方向長さより長い1〜3倍とすることにより、体液の吸収体前後方向への自然拡散を阻害することなく、体液排出部から前後方向に体液が拡散できるので、体液排出部のベタツキによる不快感が抑えられるようになる。
【0028】
請求項に係る本発明として、前記長手方向エンボスは、吸収性物品の長手方向線に対し外方側が幅方向外側に傾斜する傾斜角を有するように形成され、
相対的に外方側に配置される長手方向エンボスは、その内方側に隣接する長手方向エンボスより、前記傾斜角が大きくなるように設定されている請求項1〜7いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0029】
上記請求項記載の発明では、相対的に外方側に配置される長手方向エンボスは、その内方側に隣接する長手方向エンボスより、幅方向外側に傾斜する傾斜角が大きくなるように設定してあるため、前記長手方向エンボスを体液排出部エンボスの前後にそれぞれ2組以上設け、体液排出部エンボス、長手方向エンボス及び傾斜部エンボスを連続線によって形成した場合でも、傾斜角が大きな外方側の長手方向エンボスにおいてエンボス溝に沿って流れる体液の拡散が抑制され、吸収体に吸収された体液の拡散状態が把握しやすくなる。
【0030】
請求項に係る本発明として、前記傾斜部エンボスの溝幅は、前記長手方向エンボスの溝幅より大きく設定されている請求項1〜いずれかに記載の吸収性物品が提供される。
【0031】
上記請求項記載の発明では、前記傾斜部エンボスの溝幅を前記長手方向エンボスの溝幅より大きく設定することにより、前記長手方向エンボスを体液排出部エンボスの前後にそれぞれ2組以上設け、体液排出部エンボス、長手方向エンボス及び傾斜部エンボスを連続線によって形成した場合でも、前記傾斜部エンボスに体液が一時貯留され、エンボス溝に沿った体液の拡散が抑制されるので、吸収体に吸収された体液の拡散状態が把握しやすくなる。
【発明の効果】
【0032】
以上詳説のとおり本発明によれば、エンボスによる体液の拡散を抑制せず、正確な体液の拡散が認識できるようになるとともに、ベタツキによる不快感を感じない吸収性物品が提供できるようになる。また、エンボスの浮きの発生を極力抑えた吸収性物品が提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の第1形態例に係る失禁パッド1の一部破断展開図である。
図2】そのII−II線矢視図である。
図3】失禁パッド1の平面図である。
図4】失禁パッド1の平面図である。
図5】失禁パッド1の平面図である。
図6】失禁パッド1の平面図である。
図7】他の形態例に係る失禁パッド1Aの平面図である。
図8】エンボス10の平面図である。
図9】第2形態例に係る失禁パッド30の一部破断展開図である。
図10】エンボスの戻る力を示す、(A)は断面図、(B)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
〔第1形態例〕
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述すると、
本発明に係る失禁パッド1は、図1及び図2に示されるように、ポリエチレンシートなどからなる不透液性裏面シート2と、尿などを速やかに透過させる透液性表面シート3と、これら両シート2、3間に介装された綿状パルプまたは合成パルプなどからなる吸収体4と、前記吸収体4の形状保持および拡散性向上のために前記吸収体4を囲繞するクレープ紙や不織布等からなる被包シート5と、前記吸収体4の略側縁部を起立基端とし、かつ少なくとも体液排出部位Hを含むように長手方向に所定の区間内において肌側に突出して設けられた左右一対の立体ギャザーBS、BSを形成するサイド不織布7、7とから主に構成され、かつ前記吸収体4の周囲においては、その長手方向端縁部では前記不透液性裏面シート2と透液性表面シート3との外縁部がホットメルトなどの接着剤やヒートシール等の接着手段によって接合され、またその両側縁部では吸収体4よりも側方に延出している前記不透液性裏面シート2と前記サイド不織布7とがホットメルトなどの接着剤やヒートシール等の接着手段によって接合されている。また、必要に応じて、前記透液性表面シート3と吸収体4との間に、親水性のセカンドシート(図示せず)を配置してもよい。
【0035】
以下、さらに前記失禁パッド1の構造について詳述すると、
前記不透液性裏面シート2は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の少なくとも遮水性を有するシート材が用いられるが、この他に防水フィルムを介在して実質的に不透液性を確保した上で不織布シート(この場合には、防水フィルムと不織布とで不透液性裏面シートを構成する。)などを用いることができる。近年はムレ防止の観点から透湿性を有するものが好適に用いられる傾向にある。この遮水・透湿性シート材としては、ポリエチレンやポリプロピレン等のオレフィン系樹脂中に無機充填剤を溶融混練してシートを成形した後、一軸または二軸方向に延伸することにより得られる微多孔性シートが好適に用いられる。
【0036】
次いで、前記透液性表面シート3は、有孔または無孔の不織布や多孔性プラスチックシートなどが好適に用いられる。不織布を構成する素材繊維としては、たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系等の合成繊維の他、レーヨンやキュプラ等の再生繊維、綿等の天然繊維とすることができ、スパンレース法、スパンボンド法、サーマルボンド法、メルトブローン法、ニードルパンチ法等の適宜の加工法によって得られた不織布を用いることができる。これらの加工法の内、スパンレース法は柔軟性、ドレープ性に富む点で優れ、サーマルボンド法は嵩高でソフトである点で優れている。
【0037】
前記吸収体4は、たとえばフラッフ状パルプ等の吸収性繊維と高吸水性ポリマーとにより構成され、図示例では平面形状がパッド長手方向に長い縦長の略小判形とされている。前記高吸水性ポリマーは例えば粒状粉とされ、吸収体4を構成するパルプ中に分散混入されている。
【0038】
前記パルプとしては、木材から得られる化学パルプ、溶解パルプ等のセルロース繊維や、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維からなるものが挙げられ、広葉樹パルプよりは繊維長の長い針葉樹パルプの方が機能および価格の面で好適に使用される。本失禁パッド1では、吸収体4を被包シート5で囲繞するため、結果的に透液性表面シート3と吸収体4との間に被包シート5が介在することになり、吸収性に優れる前記被包シート5によって体液を速やかに拡散させるとともに、これら尿等の逆戻りを防止するようになる。前記パルプの目付は、100g/m〜600g/m、好ましくは150g/m〜400g/mとするのがよい。
【0039】
前記高吸水性ポリマーとしては、たとえばポリアクリル酸塩架橋物、自己架橋したポリアクリル酸塩、アクリル酸エステル−酢酸ビニル共重合体架橋物のケン化物、イソブチレン・無水マレイン酸共重合体架橋物、ポリスルホン酸塩架橋物や、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミドなどの水膨潤性ポリマーを部分架橋したもの等が挙げられる。これらの内、吸水量、吸水速度に優れるアクリル酸またはアクリル酸塩系のものが好適である。前記吸水性能を有する高吸水性ポリマーは製造プロセスにおいて、架橋密度および架橋密度勾配を調整することにより吸水力(吸収倍率)と吸水速度の調整が可能である。前記ポリマーの目付は、体液排出部及びその近傍に所定の吸収能力を持たせるため、60g/m〜400g/m、好ましくは100g/m〜300g/mとするのがよい。
【0040】
また、前記吸収体4には合成繊維を混合しても良い。前記合成繊維は、例えばポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロンなどのポリアミド系、及びこれらの共重合体などを使用することができるし、これら2種を混合したものであってもよい。また、融点の高い繊維を芯とし融点の低い繊維を鞘とした芯鞘型繊維やサイドバイサイド型繊維、分割型繊維などの複合繊維も用いることができる。前記合成繊維は、体液に対する親和性を有するように、疎水性繊維の場合には親水化剤によって表面処理したものを用いるのが望ましい。
【0041】
前記吸収体4には、吸収体基部よりパルプやポリマー量を多くした中高部やポリマーシートを部分的に配置してもよい。前記中高部を形成する場合、後段で詳述するエンボス10は、この中高部の外側に形成するのが好ましい。
【0042】
本失禁パッド1の表面側両側部にはそれぞれ長手方向に沿って、かつ失禁パッド1の全長に亘ってサイド不織布7,7が設けられ、このサイド不織布7,7の外側部分が側方に延在されるとともに、前記不透液性裏面シート2が側方に延在され、これら側方に延在されたサイド不織布7部分と不透液性裏面シート2部分とをホットメルト接着剤等により接合して側部フラップが形成されている。
【0043】
前記サイド不織布7としては、重要視する機能の点から撥水処理不織布または親水処理不織布を使用することができる。たとえば、尿等が浸透するのを防止する、あるいは肌触り感を高めるなどの機能を重視するならば、シリコン系、パラフィン系、アルキルクロミッククロリド系撥水剤などをコーティングしたSSMSやSMS、SMMSなどの撥水処理不織布を用いるのが望ましく、体液の吸収性を重視するならば、合成繊維の製造過程で親水基を持つ化合物、例えばポリエチレングリコールの酸化生成物などを共存させて重合させる方法や、塩化第2スズのような金属塩で処理し、表面を部分溶解し多孔性とし金属の水酸化物を沈着させる方法等により合成繊維を膨潤または多孔性とし、毛細管現象を応用して親水性を与えた親水処理不織布を用いるのが望ましい。かかるサイド不織布7としては、天然繊維、合成繊維または再生繊維などを素材として、適宜の加工法によって形成されたものを使用することができる。
【0044】
前記サイド不織布7は、図2に示されるように、幅方向中間部より外側部分を吸収体4の内側位置から吸収体側縁を若干越えて不透液性裏面シート2の外縁までの範囲に亘ってホットメルトなどの接着剤によって接着されている。一方、サイド不織布7の内方側部分は幅方向に折り返されるとともに、少なくとも折り返し先端部が二重シートによって構成され、この二重シート内部に、両端または長手方向の適宜の位置が固定された少なくとも1本の、図示例では2本の糸状弾性伸縮部材8、8が配設されている。この幅方向に折り返された部分は、ナプキン長手方向の前後端部では下層側に接着されている。その他の前記糸状弾性伸縮部材8、8が配設されたナプキン長手方向の中間部では、図2に示されるように、前記糸状弾性伸縮部材8、8の収縮作用によって表面側に起立する立体ギャザーBS、BSが形成されている。
【0045】
前記透液性表面シート3の面側には、図1に示されるように、左右に離間する一対のエンボス10、10が形成されている。この左右一対のエンボス10、10は、透液性表面シート3の表面側からの圧搾により、透液性表面シート3、被包シート5及び吸収体4を一体的に圧縮して形成したものである。
【0046】
前記エンボス10は、図1に示されるように、体液排出部エンボス11、長手方向エンボス12、傾斜部エンボス13から構成されている。前記長手方向エンボス12は、図1に示される例では、前記体液排出部エンボス11側(内方側)に形成される第1の長手方向エンボス12Aと、これより長手方向外方側に離間して形成される第2の長手方向エンボス12Bとから構成されている。また、前記傾斜部エンボス13は、前記第1の長手方向エンボス12Aの外方側端部から延びる第1の傾斜部エンボス13Aと、前記第2の長手方向エンボス12Bの外方側端部から延びる第2の傾斜部エンボス13Bとから構成されている。
【0047】
前記体液排出部エンボス11は、体液排出部位Hに対応する領域とパッド幅方向に重なる領域を含む範囲に形成され、失禁パッド1の長手方向に沿って形成されるとともに、失禁パッド1の幅方向外側に膨出する形状線からなる左右に離間する一対のエンボスラインである。この体液排出部エンボス11は、左右の体液排出部エンボス11、11間の吸収体4に吸収された体液が幅方向外側に拡散して横漏れが生じるのを防止するとともに、表面の中央部から幅方向外側に流れる体液を凹溝内に流入させて幅方向外側に流れ出るのを防止するためのものである。左右の体液排出部エンボス11、11は、パッド幅方向に離間して左右にそれぞれ独立的に設けられている。前記体液排出部エンボス11は、長手方向中央部が長手方向両端部より幅方向外側に位置する全体として幅方向外側に膨出した形状線によって形成され、円弧状や長円の外形線状など種々の形態で形成されている。前記体液排出部エンボス11は、前後方向への体液の拡散が同じになるように、体液排出部エンボス11の前後方向中央部を基準に前後対称となる形状で形成することが好ましい。
【0048】
本書において、失禁パッド1の長手方向に沿って形成されるとは、エンボスの端部同士を結ぶ直線が概ね失禁パッド1の長手方向に沿うことであり、長手方向線と平行する場合の他、この長手方向線に対し±40°程度までの角度差を有するものも含まれる。また、エンボスラインは、直線である必要はなく、曲線、折れ線、波状線などで形成することも可能である。
【0049】
前記長手方向エンボス12は、体液排出部エンボス11の前後にそれぞれ、失禁パッド1の長手方向に沿って形成された左右に離間する一対のエンボスラインである。この長手方向エンボス12は、吸収体内を拡散する体液がパッド幅方向に拡散して横漏れが生じるのを防止するとともに、パッド長手方向に体液が拡散するように誘導するためのものである。前記長手方向エンボス12は、後段で詳述する傾斜部エンボス13に目盛りとしての機能を持たせるため、互いに長手方向に離間して2組以上で形成することが好ましい。図示例では、体液排出部エンボス11の前後にそれぞれ、互いに長手方向に離間して2組形成され、内方側から順に第1の長手方向エンボス12A、第2の長手方向エンボス12Bが配置されている。
【0050】
前記長手方向エンボス12は、略パッド長手方向に対し直線又は曲線で構成することが好ましい。前記長手方向エンボス12は、パッド長手方向の外方側が、パッド長手方向線に対し、パッド幅方向の外方側に傾斜して設けることが好ましい。これにより、体液排出部エンボス11、11で挟まれた範囲から外方側に拡散した体液が、パッド長手方向外方側にいくに従ってパッド幅方向外方側に拡散する自然拡散を阻害せず、体液の拡散がスムーズに進行するようになる。
【0051】
また、前記長手方向エンボス12は、直線で構成してもよいが、図4に示されるように、吸収体内での体液の拡散をよりスムーズにするため、パッド幅方向内側に膨出する曲線で構成することが好ましい。
【0052】
前記第1の長手方向エンボス12Aは、前記体液排出部エンボス11の前後に隣接して配置され、前記体液排出部エンボス11の長手方向端部に接続するとともに、体液排出部エンボス11の長手方向端部を基点として略パッド長手方向に連続して延びる左右に離隔する一対のエンボスラインである。
【0053】
体液排出部エンボス11の前後に接続する前記第1の長手方向エンボス12A、12Aは、図3に示されるように、これら第1の長手方向エンボス12A、12A同士を繋ぐ第1の長手方向エンボス12Aの延長線を描いたときに、失禁パッド1の幅方向内側に膨出する単一の円弧状曲線14に沿って形成することが好ましい。このような円弧状曲線14上に配置することにより、体液排出部エンボス11がその前後の第1の長手方向エンボス12A、12Aと比較して際立って目立つようになり、この左右の体液排出部エンボス11、11で挟まれた部分を的として体液排出部位Hに当接させるようにして装着することによって、失禁パッド1が身体の適正な位置に容易に装着できるようになる。なお、図3に示される例では、前記円弧状曲線14の曲率中心を失禁パッド1の幅方向中心線CW上に位置させることにより、第1の長手方向エンボス12A、12Aが幅方向中心線CWを基準として前後対称に設けられるようにしている。
【0054】
前記第1の長手方向エンボス12Aは、左右の前記円弧状曲線14、14の離隔幅が最小となる最狭部15の位置と、左右の前記体液排出部エンボス11、11の幅方向外側への膨出幅が最大となる最膨出部16の位置とが一致するか近接するように配置することが好ましい。前記円弧状曲線14、14の最狭部15の位置と体液排出部エンボス11、11の最膨出部16の位置とは、パッド長手方向に一致するのが最も好ましく、パッド長手方向に近接している(パッド長手方向の離隔距離が10mm以内である)のが好ましい。図示例では、前記円弧状曲線14、14の最狭部15の位置と体液排出部エンボス11、11の最膨出部16の位置とが、失禁パッド1の幅方向中心線CWで一致するように配置されている。これによって、体液排出部エンボス11の膨出形状の中央部に体液排出部位Hを合わせるように装着することによって、失禁パッド1が正しい位置に装着できるようになる。
【0055】
前記第2の長手方向エンボス12Bは、前記第1の長手方向エンボス12Aの長手方向外方側に、該第1の長手方向エンボス12A及び第1の傾斜部エンボス13Aと離間して形成されるとともに、失禁パッド1の略長手方向に沿って形成された左右に離隔する一対のエンボスラインである。この第2の長手方向エンボス12Bは、第1の長手方向エンボス12Aより外側に拡散した体液を長手方向に誘導するためのものである。前記第2の長手方向エンボス12Bを第1の長手方向エンボス12Aの長手方向外方側に離間して設けることにより、第1の長手方向エンボス12Aのエンボスラインに沿って流れる体液が、第2の長手方向エンボス12Bに連続的に流れるのが防止でき、表面を流れる体液の拡散が抑えられるようになる。
【0056】
前記第2の長手方向エンボス12Bは、図4に示されるように、前記第1の長手方向エンボス12Aと同様に、パッド幅方向内側に膨出する単一の円弧状曲線14B上に配置することが好ましい。このとき、第2の長手方向エンボス12Bにおける体液拡散が第1の長手方向エンボス12Aにおける体液拡散より緩やかに進むことを考慮して、第2の長手方向エンボス12Bを形成する14Bの曲率半径は、第1の長手方向エンボス12Aを形成する円弧状曲線14の曲率半径より大きくすることが好ましい。
【0057】
前記第2の長手方向エンボス12Bは、図4に示されるように、第1の長手方向エンボス12Aのエンボスラインを外方側に延長した延長線17と一致しない位置に設けることが好ましい。これにより、第1の長手方向エンボス12Aに沿って流れた体液が、第2の長手方向エンボス12Bに流れ込みにくくなり、エンボス溝に沿った体液の拡散が抑えられるようになる。第2の長手方向エンボス12Bが前記延長線17と一致しないとは、第1の長手方向エンボス12Aの溝幅の中心を通る延長線を引いたとき、この延長線17が第1の長手方向エンボス12Bの溝幅内を通らないことが好ましく、第2の長手方向エンボス12Bの縁部と延長線17とが第2の長手方向エンボス12Bの溝幅以上に離隔しているのがより好ましい。前記延長線17は、第1の長手方向エンボス12Aの形状をそのままに延長した線のことであり、例えば図示例のように円弧によって第1の長手方向エンボス12Aが形成される場合、その円弧を外方側に延長した円弧線が前記延長線17である。
【0058】
前記第2の長手方向エンボス12Bは、図4に示されるように、前記第1の長手方向エンボス12Aの延長線17よりパッド幅方向内側に設けることが好ましい。これにより、パッド幅方向への体液の拡散が抑制され、体液の横漏れが確実に防止できるようになる。
【0059】
前記傾斜部エンボス13は、図1に示されるように、前記長手方向エンボス12の外方側端部から延びるとともに、失禁パッド1の幅方向中央側に向けて傾斜して形成された左右一対のエンボスラインである。前記傾斜部エンボス13は、長手方向エンボス12に沿ってパッド外方側に拡散する体液の流れをパッド幅方向の内側に誘導するためのものである。前記傾斜部エンボス13は、図1に示される例では、前記第1の長手方向エンボス12Aの外方側端部から延びる第1の傾斜部エンボス13Aと、前記第2の長手方向エンボス12Bの外方側端部から延びる第2の傾斜部エンボス13Bとから構成されている。
【0060】
前記傾斜部エンボス13は、直線又は曲線で構成することが好ましい。特に、図5に示されるように、長手方向エンボス12に沿って拡散する体液を内側に誘導しやすくするため、パッド長手方向の外方側に膨出する円弧状の曲線によって構成することが望ましい。
【0061】
左右の傾斜部エンボス13、13同士は、先端部同士が幅方向に離間して設けられ、パッド幅方向中央部においてエンボスが形成されない離間部18を有している。即ち、前記傾斜部エンボス13は、左右に離隔して形成された長手方向エンボス12の外方側端部からそれぞれ、パッド幅方向の中央側に向けて、パッド幅方向の中間部まで延びている。前記離間部18を設けることによって、吸収体内を拡散する体液が、前記エンボス10によって長手方向に拡散するのが抑制されるのが防止できる。
【0062】
前記傾斜部エンボス13のパッド幅方向の内方側端部は、その外方側に長手方向エンボス12が配置される場合には、その外方側に配置される長手方向エンボス12のパッド長手方向内方側端部より、パッド幅方向の内方側に位置するように設けることが好ましい。これにより、傾斜部エンボス13に沿ってパッド内方側に誘導された体液が、パッド長手方向外方側に拡散したときに、その外方側に配置された長手方向エンボス12によってパッド幅方向外側に拡散して横漏れを生ずるのが抑制されるようになる。
【0063】
前記第1の傾斜部エンボス13Aと、その外方側に形成される第2の長手方向エンボス12Bとの配置関係は、図1に示されるように、パッド幅方向に重なり代を有さず、前記長手方向エンボス12Bが傾斜部エンボス13Aの外方側端部からパッド長手方向に離間する位置から設けられるようにしてもよいし、パッド幅方向に重なり代を有さず、前記長手方向エンボス12Bが傾斜部エンボス13Aの外方側端部位置から設けられるようにしてもよいし、前記傾斜部エンボス13と長手方向エンボス12とが接続しない範囲でパッド幅方向に重なり代を有するように設けてもよい。
【0064】
前記第1の傾斜部エンボス13Aは、図5に示されるように、失禁パッド1の幅方向線との成す角αが45°以下、好ましくは20°〜45°に設定するのがよい。これにより、第1の長手方向エンボス12Aを流れた体液が確実に内側に誘導されるようになり、この内側に誘導された体液が確実に吸収体に吸収させるようになる。また、前記吸収体内を拡散する体液が内側に向けて拡散するようになる。前記角αは、前記第1の傾斜部エンボス13Aを曲線によって構成する場合、第1の長手方向エンボス12Aとの接続部分と先端部とを結ぶ線との成す角をとればよい。
【0065】
前記第2の傾斜部エンボス13Bは、同図5に示されるように、失禁パッド1の幅方向線との成す角βが60°以下、好ましくは前記角α以上60°以下に設定するのがよい。これにより、第2の長手方向エンボス12Bと第2の傾斜部エンボス13Bとで囲まれる面積が広く確保され、第1の長手方向エンボス12Aを超えて外方側に延出する体液がより確実に吸収体に吸収されるようになる。
【0066】
図6に示されるように、左右の前記傾斜部エンボス13、13の離間部18の離間幅19は、傾斜部エンボス13のパッド幅方向長さである傾斜部幅20の1〜3倍、好ましくは1.5〜2.5倍とするのが望ましい。前記離間幅19を前記傾斜部幅20よりも広くすることによって、吸収体内を拡散する体液のパッド長手方向への拡散通路を十分な幅で確保でき、体液の吸収体前後方向への自然拡散を阻害しなくなるとともに、体液が体液排出部エンボス11、11間に溜まることがなく、ベタツキが抑制できる。
【0067】
前記体液排出部エンボス11、長手方向エンボス12及び傾斜部エンボス13の溝幅は同じでもよいし、違えてもよい。図1などに示される例では、全てのエンボス11、12、13の溝幅を同じに形成している。一方、後段の第2形態例で説明するように、傾斜部エンボス13の溝幅を長手方向エンボス12の溝幅より大きくするなど、異なる溝幅で形成してもよい。溝幅とは、エンボスを横断する断面視で底部の幅のことである。本例のように、低圧搾部のエンボス底部に高圧搾部が設けられる場合には、低圧搾部の幅を採用する。
【0068】
前記エンボス10の配置は、体液排出部エンボス11の中心位置、図3に示される失禁パッド1ではパッド幅方向中心線CWを基準に前後対称にすることが好ましく、特に傾斜部エンボス13の配置を前後対称にすることで、使用後に体液の拡散状況から体液の吸収量が正確に認識できるようになる。
【0069】
以上の構成からなる失禁パッド1では、前記エンボス10を、体液排出部エンボス11と、この体液排出部エンボス11の前後にそれぞれ、パッド長手方向に沿って形成される長手方向エンボス12と、この長手方向エンボス12の外方側端部から延びるとともに、パッド幅方向中央側に向けて傾斜する傾斜部エンボス13とから構成することにより、使用後にパッド表面を目視で確認するだけで、前記傾斜部エンボス13を目盛りとして、吸収体内での体液の拡散の程度が認識でき、この体液の拡散状況をその後のパッド大小の選択の目安とすることができるようになる。
【0070】
このとき、本失禁パッド1では、左右の前記傾斜部エンボス13、13の端部同士が幅方向に離間する離間部18が設けられているため、エンボス10によって吸収体内での体液の前後方向の拡散が制限されるのが防止でき、正確な吸収体内での体液の拡散状況が認識できるようになる。また、体液の拡散が抑制されないため、体液が体液排出部付近に滞留せず、ベタツキによる不快感が軽減できるようになる。
【0071】
次に、他の形態例に係る失禁パッド1Aとして、図7に示されるように、臀部の溝を伝う後ろ漏れを防止するため臀部側の広い範囲を覆うことができるようにした、体液排出部エンボス11の中心部(体液排出部位Hの中心部)を基準にパッド前方の長さよりパッド後方の長さを長くしたものについて説明する。この場合、前記体液排出部エンボス11は、該体液排出部エンボス11のパッド長手方向の中心部をパッド前端から120mm程度の位置に設けるのが好ましい。この位置に体液排出部エンボス11を設けることによって、体液排出部エンボス11の中心部を的として体液排出部に当接するように装着したとき、パッド前側が長くなりすぎて違和感が生じたりすることなく装着できるようになる。
【0072】
本例のようにパッド後方の長さが長い場合、エンボス10の配置は、体液排出部エンボス11の中心位置を基準に前後対称にすることが好ましいが、前後で長手方向エンボス12及び傾斜部エンボス13の数を必ずしも同じにする必要はなく、パッド前方よりパッド後方の方が長手方向エンボス12及び傾斜部エンボス13の数を多く設けるようにしてもよい。図示例では、パッド前方に長手方向エンボス12及び傾斜部エンボス13を2組ずつ(12A、12B及び13A、13B)設けているのに対し、パッド後方には長手方向エンボス12及び傾斜部エンボス13を4組ずつ(12A〜12D及び13A〜13D)設けている。
【0073】
ところで、前記エンボス10の溝底部は、一定の深さで圧搾した平坦なパターンとしてもよいが、図8に示されるように、エンボス溝の底部に種々のパターンで高圧搾部10a(塗りつぶし箇所)と低圧搾部10b(白箇所)とを設けるのが好ましい。図8(A)は、溝底面の中央部に円形の高圧搾部10aを所定の間隔で設けたものであり、図8(B)は、溝底面の両側部に交互に半円形の高圧搾部10aを設けたものであり、図8(C)は、溝底面に沿って斜線状の高圧搾部10aを設けたものである。このように種々の形態で前記高圧搾部10aを設けることにより、エンボス溝に沿う体液の流れが抑えられ、吸収体内に体液が浸透しやすくなるとともに、エンボス溝の保形性を高めることができるようになる。
【0074】
一方、前記透液性表面シート3、被包シート5又は必要に応じて配設されるセカンドシートのいずれか又は2以上のシート材に対し、前記エンボス溝底部やエンボスで挟まれた範囲などに、着色によるデザインを施すことによって、エンボス10と組み合わせて、装着位置や目盛り機能を視認しやすくしてもよい。例えば、第1の長手方向エンボス12A及び第1の傾斜部エンボス13Aと、第2の長手方向エンボス12B及び第2の傾斜部エンボス13Bとを、エンボス溝底部の着色を異ならせることによって、体液の拡散範囲が明確に認識できるようになる。また、体液との接触によって呈色反応を示す物質を傾斜部エンボス13の底面などに塗布することによって、色相が変化した範囲まで体液が拡散したことを視認しやすくすることも可能である。
【0075】
〔第2形態例〕
次に、本発明の第2形態例に係る失禁パッド30について、図9に基づいて説明する。以下では上記第1形態例に係る失禁パッド1と相違する部分のみを説明し、特に説明しない点については上記第1形態例に係る失禁パッド1と同様である。
【0076】
第2形態例に係る失禁パッド30では、透液性表面シート3の面側に左右一対で形成されたエンボス31として、長手方向エンボス12が体液排出部エンボス11の前後にそれぞれ2組以上形成されている。図9に示される例では、体液排出部エンボス11の前後にそれぞれ2組の長手方向エンボス12、12(内方側から順に、第1の長手方向エンボス12A及び第2の長手方向エンボス12B)が形成されている。
【0077】
前記体液排出部エンボス11に隣接する長手方向エンボス12(第1の長手方向エンボス12A)は、上記第1形態例に係る失禁パッド1と同様に、体液排出部エンボス11と接続して形成されている。つまり、体液排出部エンボス11のパッド長手方向の外方側端部が第1の長手方向エンボス12Aのパッド長手方向の内方側端部と接続して形成され、連続するエンボス溝が形成されている。
【0078】
また、上記第1形態例に係る失禁パッド1と同様に、前記長手方向エンボス12の外方側端部にそれぞれ傾斜部エンボス13が形成されている。図示例では、第1の長手方向エンボス12Aの外方側端部に第1の傾斜部エンボス13Aが形成され、第2の長手方向エンボス12Bの外方側端部に第2の傾斜部エンボス13Bが形成されている。つまり、第1の長手方向エンボス12Aのパッド長手方向の外方側端部が第1の傾斜部エンボス13Aのパッド幅方向の外方側端部と接続して形成され、連続するエンボス溝が形成されている。また、第2の長手方向エンボス12Bのパッド長手方向の外方側端部が第2の傾斜部エンボス13Bのパッド幅方向の外方側端部と接続して形成され、連続するエンボス溝が形成されている。
【0079】
そして、本第2形態例に係る失禁パッド30では、前記傾斜部エンボス13の外方側に隣接する長手方向エンボス12が、この傾斜部エンボス13と接続して形成されている。図9に示される例では、第1の傾斜部エンボス13Aの外方側に隣接する第2の長手方向エンボス12Bが、この第1の傾斜部エンボス13Aの内方側端部と接続して形成されている。つまり、第1の傾斜部エンボス13Aのパッド幅方向の内方側端部が第2の長手方向エンボス12Bのパッド長手方向の内方側端部と接続して形成され、連続するエンボス溝が形成されている。
【0080】
上記第1形態例に係る失禁パッド1では、図1などに示されるように、エンボス10は、第1の傾斜部エンボス13Aと、この外方側に隣接する第2の長手方向エンボス12Bとの間で離隔した分断線によって形成されていたが、本第2形態例に係る失禁パッド30では、図9に示されるように、エンボス31は、体液排出部エンボス11、長手方向エンボス12及び傾斜部エンボス13が連続する連続線によって形成されている。
【0081】
透液性表面シート3の表面側からエンボスを施した場合、図10(A)に示されるように、このエンボスによって透液性表面シート3などの表面材が強く引っ張られるため、これが元に戻ろうとする戻る力が発生する。この戻る力は、吸収体から表面材が浮くエンボスの浮きを引き起こし、エンボスの見栄えが悪化するとともに、エンボスの効果が低下することが問題となっていた。特に、エンボスの端部では、図10(B)に示されるように、前述の戻る力が、エンボスの両側方向に加え、エンボスの端部方向にもかかるため、この先端から浮きが発生し、徐々に拡大していくことが想定される。従って、前記エンボスを分断線によって形成した場合、分断した部分でエンボスの端部が多く形成され、そこからエンボスの浮きが発生するようになる。
【0082】
そこで、本第2形態例に係る失禁パッド30では、エンボスの端部が極力形成されないようにするため、前述の通り、エンボス31を失禁パッド30の長手方向に連続する連続線によって形成している。
【0083】
また、本第2形態例に係る失禁パッド30では、第2の長手方向エンボス12Bを第1の傾斜部エンボス13Aの内方側端部に接続しているため、第1の傾斜部エンボス13Aの目盛りとしての機能が損なわれることなく、吸収体での体液の拡散の程度を認識できるようになる。
【0084】
前記エンボス31を連続線で形成することにより、このエンボス31に沿って体液が失禁パッド30の長手方向に拡散しやすくなり、本失禁パッドの本来の目的である吸収体に吸収された体液の拡散状態の認識性に影響を与えるおそれがあるため、以下の手段を施すのが望ましい。これらの手段は単独又は組み合わせて施すことができる。なお、これらの手段は上記第1形態例に係る失禁パッド1に採用してもよい。
【0085】
先ず第1の手段として、前記長手方向エンボス12は、前述の通り、失禁パッド30の長手方向線に対しパッド長手方向の外方側が幅方向外側に傾斜する傾斜角を有するように形成し、相対的に外方側に配置される第2の長手方向エンボス12Bを、その内方側に隣接する第1の長手方向エンボス12Aより、前記傾斜角が大きくなるように設定することができる。具体的には、図9に示されるように、第1の長手方向エンボス12Aとパッド長手方向線との成す角を第1の長手方向エンボス12Aの傾斜角γとし、第2の長手方向エンボス12Bとパッド長手方向線との成す角を第2の長手方向エンボス12Bの傾斜角δとしたとき、γ<δの関係で形成されている。前記傾斜角δは、傾斜角γより15〜20°程度大きく設定するのが好ましい。なお、第1の長手方向エンボス12Aの前記傾斜角γは、20°以下、好ましくは5°〜15°、より好ましくは8°〜12°とするのがよく、第2の長手方向エンボス12Bの前記傾斜角δは、37°以下、好ましくは22°〜32°、より好ましくは25°〜29°とするのがよい。
【0086】
このようにパッド長手方向の外方側で傾斜角を大きくすることによって、本第2形態例に係る失禁パッド30のように長手方向に連続するエンボスを形成した場合でも、特に傾斜角が大きなパッド長手方向の外方側でエンボスに沿ったパッド長手方向への体液拡散が抑制されるようになる。このため、吸収体に吸収された体液の拡散状態が認識しやすくなる。
【0087】
次に第2の手段として、傾斜部エンボス13の溝幅を長手方向エンボス12の溝幅より大きく設定することができる。具体的には、図9に示されるように、傾斜部エンボス13の溝幅をS13、長手方向エンボス12の溝幅をS12としたとき、S13>S12の関係で形成されている。前記傾斜部エンボス13の溝幅S13は、長手方向エンボス12の溝幅S12に対して1.2〜2.0倍、好ましくは1.4〜1.7倍とするのがよい。
【0088】
傾斜部エンボス13の溝幅を大きくすることによって、長手方向エンボス12に沿って流れた体液が傾斜部エンボス13に一時貯留され、エンボス溝に沿った体液の拡散が抑制されるので、吸収体に吸収された体液の拡散状態が認識しやすくなる。
【0089】
〔他の形態例〕
上記形態例では、前記エンボス10として、体液排出部エンボス11、長手方向エンボス12及び傾斜部エンボス13から構成していたが、この他に本発明の趣旨を逸脱しない範囲で所要のエンボスを適宜付与することが可能である。
【符号の説明】
【0090】
1・30…失禁パッド、2…不透液性裏面シート、3…透液性表面シート、4…吸収体、5…被包シート、7…サイド不織布、8…糸状弾性伸縮部材、10・31…エンボス、11…体液排出部エンボス、12…長手方向エンボス、12A…第1の長手方向エンボス、12B…第2の長手方向エンボス、13…傾斜部エンボス、13A…第1の傾斜部エンボス、13B…第2の傾斜部エンボス、14…円弧状曲線、15…最狭部、16…最膨出部、18…離間部
図1
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図3
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図9
図10