(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5899317
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】高分子電解質膜
(51)【国際特許分類】
H01M 8/02 20160101AFI20160324BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20160324BHJP
H01B 1/08 20060101ALI20160324BHJP
H01B 1/12 20060101ALI20160324BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20160324BHJP
【FI】
H01M8/02 P
H01M8/02 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
H01B1/12 Z
H01M8/10
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-521575(P2014-521575)
(86)(22)【出願日】2012年7月30日
(65)【公表番号】特表2014-525127(P2014-525127A)
(43)【公表日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】KR2012006059
(87)【国際公開番号】WO2013019047
(87)【国際公開日】20130207
【審査請求日】2014年1月16日
(31)【優先権主張番号】10-2011-0075531
(32)【優先日】2011年7月29日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】314003797
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドン−フン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ム−ソック
(72)【発明者】
【氏名】キム,ナ−ヨン
(72)【発明者】
【氏名】シン,ヨン−チョル
【審査官】
太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2007/029346(WO,A1)
【文献】
特開2006−294323(JP,A)
【文献】
特開2006−244920(JP,A)
【文献】
特開2002−110200(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/025259(WO,A1)
【文献】
特表2007−523066(JP,A)
【文献】
特開平10−312815(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0146766(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0233451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00 − 8/02
H01M 8/08 − 8/24
H01B 5/00 − 5/16
H01B 1/06
H01B 1/08
H01B 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素基含有高分子によって形成された多孔性支持体、
前記多孔性支持体内に分散されているプロトン伝導性物質及び
前記多孔性支持体内に含浸され、スルホン酸基を有する炭化水素基含有高分子からなるイオン伝導体を含み、
前記プロトン伝導性物質は、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール又はテトラゾールで官能化された、シリコン酸化物、金属酸化物又はアルカリ土類金属酸化物からなる無機粒子を含むことを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項2】
前記多孔性支持体はポリイミドの不織布である請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項3】
前記多孔性支持体は3次元ネットワークを形成する繊維を含み、
前記プロトン伝導性物質は前記繊維の表面上に存在する請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項4】
前記多孔性支持体は3次元ネットワークを形成する繊維を含み、
前記プロトン伝導性物質は前記繊維の内部に存在する請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項5】
前記多孔性支持体上にコーティングされている親水性基を有する高分子をさらに含む請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項6】
前記多孔性支持体は3次元ネットワークを形成する繊維を含み、
前記繊維の少なくとも一部は、親水性基を有する高分子を含む請求項1に記載の高分子電解質膜。
【請求項7】
前記親水性基を有する高分子は、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドメタクリレート、ポリエチレンオキサイドアクリレート、ポリエチレンオキサイドジメタクリレート、ポリエチレンオキサイドジアクリレート、ポリヒドロキシエチルメチルアクリレート又はこれらの共重合体である請求項5又は6に記載の高分子電解質膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用高分子電解質膜及びその製造方法に関し、より具体的には、低加湿及び高温の条件下でも優れたイオン伝導性を有する燃料電池用高分子電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、一般の電池とは異なり、電池の交換や充電が必要でないだけでなく、供給される水素やメタノールなどの燃料を酸化させることによって化学エネルギーを発生させ、この化学エネルギーを電気エネルギーに変換させる発電型電池である。燃料電池は、約60%程度のエネルギー変換効率を可能にする高効率発電装置であるので、燃料使用量が少ないだけでなく、環境汚染物質を発生させない環境にやさしいエネルギー源である。このような長所を有する燃料電池は、多様な分野に応用可能であるが、特に、自動車などの輸送用電源として注目を受けている。
【0003】
燃料電池は、作動する温度と電解質の種類に応じて多様な種類に分類できるが、そのうち、特に高分子電解質膜燃料電池(Polymer Electrolyte Membrane Fuel Cell:PEMFC)が未来の電源として注目を受けている。
【0004】
高分子電解質膜燃料電池は、アノード、カソード、及びこれらの間の高分子電解質膜を含む。アノードに供給される燃料としては、通常、水素又は水素含有ガスが使用される。カソードに供給される酸化剤は、通常、酸素又は酸素含有ガスである。アノードでは、燃料が酸化され、水素イオンと電子が生成される。水素イオンは電解質膜を通してカソードに伝達され、電子は外部回路に伝達される。カソードでは、電解質膜を通して伝達された水素イオン、外部回路から伝達された電子、及び酸素の結合によって水が生成される。
【0005】
燃料電池の発電効率又はシステム効率の観点では、100℃ないし300℃の高温条件及び50%以下の低湿条件下で電解質膜が良好な陽イオン伝導性を有することが要求されている。
【0006】
しかし、スルホン酸基を有する高分子で形成される通常の電解質膜が良好な水素イオン伝導機能を行うためには、十分な水分供給が補償されなければならない。水分が容易に蒸発する100℃以上の高温下で又は50%以下の低湿条件下では、既存の電解質膜は陽イオン伝導機能を十分に行うことができない。
【0007】
このような問題を解決するために、水に取って代わる陽イオン伝導体として、イミダゾール、ピラゾール、及びベンズイミダゾールなどのヘテロ環化合物が提案された(非特許文献1)。
【0008】
しかし、前記ヘテロ環化合物は、小さい分子量のため揮発性を有するので、高温用燃料電池に応用するためには電解質膜に堅固に固定されなければならないが、このための具体的な手段又は方法が現在まで提示されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society、2007、154(4)、pp.290―294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、前記のような関連技術の制限及び短所に起因した問題を防止できる燃料電池用高分子電解質膜及びその製造方法に関する。
【0011】
本発明の一観点は、低加湿及び高温の条件下でも優れたイオン伝導性を有する燃料電池用高分子電解質膜を提供することにある。
【0012】
本発明の他の観点は、低加湿及び高温の条件下でも優れたイオン伝導性を有する燃料電池用高分子電解質膜の製造方法を提供することにある。
【0013】
以上言及した本発明の観点の他にも、本発明の他の特徴及び利点は、以下で説明されたり、そのような説明から本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に明確に理解され得るだろう。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記のような本発明の一観点によって、多孔性支持体;前記多孔性支持体内に分散されている自己陽性子伝導性物質(self proton conducting material);及び前記多孔性支持体内に含浸されているイオン伝導体;を含み、前記自己陽性子伝導性物質は、アゾール環(azole ring)が接合された無機粒子を含むことを特徴とする高分子電解質膜が提供される。
【0015】
本発明の他の観点によって、自己陽性子伝導性物質が分散されている多孔性支持体を製造する段階;及び前記多孔性支持体内にイオン伝導体を含浸させる段階;を含み、前記自己陽性子伝導性物質は、アゾール環が接合された無機粒子を含むことを特徴とする高分子電解質膜の製造方法が提供される。
【0016】
前記のような本発明に対する一般的敍述は、本発明を例示又は説明するためのものに過ぎなく、本発明の権利範囲を制限するものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、100℃以上の高温条件及び50%以下の低湿条件下でも電解質膜が良好な陽イオン伝導性を示す。また、本発明の電解質膜は、多孔性支持体上にイオン伝導体が含浸された複合膜構造を有するので、優れた機械的強度及び耐久性を有する。
【0018】
結果的に、本発明によると、燃料電池の発電効率及びシステム効率を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の技術的思想及び範囲を逸脱しない範囲内で本発明の多様な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって自明であろう。したがって、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明及びその均等物の範囲内の変更及び変形を全て含む。
【0020】
以下では、本発明に係る燃料電池用高分子電解質膜を詳細に説明する。
【0021】
本発明の燃料電池用高分子電解質膜は、多孔性支持体と、前記多孔性支持体内に分散されている自己陽性子伝導性物質と、前記多孔性支持体内に含浸されているイオン伝導体とを含む。
【0022】
前記多孔性支持体は、電解質膜の機械的強度を増進させ、水分による体積膨張を抑制することによって、電解質膜の寸法安定性を増進させる役割をする。
【0023】
価格及び耐化学性を考慮して、本発明の多孔性支持体は、有機溶媒に対して不溶性である炭化水素系高分子で形成することができる。有機溶媒に対して"不溶性"であることは、常温でDMAc、NMP、DMF、DMAなどの有機溶媒に対して溶けない特性を意味する。
【0024】
例えば、多孔性支持体として利用できる炭化水素系高分子は、ナイロン、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、それらの共重合体、又はそれらの混合物であり得る。特に、ポリイミド又はポリベンゾオキサゾールは、500℃以上の高い融点と優れた機械的強度を有するので、高温で作動する燃料電池用電解質膜の分野に適している。
【0025】
多孔性支持体は、高分子電解質膜で1重量%ないし15重量%で含ませることができる。前記多孔性支持体が1重量%未満で含まれる場合は、複合電解質膜の機械的強度及び寸法安定性が急激に低下し、前記多孔性支持体が15重量%を超えて含まれる場合は、複合電解質膜のイオン伝導度が急激に低下し得る。
【0026】
多孔性支持体は、各短繊維が3次元的に連結された不織布形態であり得る。すなわち、多孔性支持体は、3次元ネットワークを形成する繊維を含む。このような多孔性支持体は、60%ないし90%の多孔度を有することができる。前記多孔性支持体の多孔度が60%未満である場合は、その比表面積が小さいため、十分な量のイオン伝導体が含浸されなく、複合電解質膜のイオン伝導度を要求される水準に高めることができない。その一方、多孔性支持体の多孔度が90%を超える場合は、電解質膜の機械的強度及び寸法安定性が急激に低下し得る。
【0027】
前記多孔性支持体は、平均孔径(気孔の直径)を0.05μmないし20μmの範囲内で形成できるが、前記平均孔径が0.05μm未満で形成される場合は、複合電解質膜のイオン伝導度が急激に低下し、前記平均孔径が20μmを超える場合は、複合電解質膜の機械的強度及び寸法安定性が急激に低下し得る。
【0028】
前記多孔性支持体は、0.005μmないし10μmの断面直径を有する短繊維を含んで構成することができる。前記短繊維の断面直径が0.005μm未満である場合は、複合電解質膜の機械的強度が急激に低下し、前記断面直径が10μmを超える場合は、複合電解質膜の多孔度の調節が容易でないこともある。
【0029】
本発明の一実施例によると、前記多孔性支持体は、電気紡糸を通して形成されたポリイミドナノウェブである。ポリイミド前駆体を電気紡糸することによってポリイミド前駆体ウェブを製造し、続いて、乾燥及び加熱工程を通してポリイミド前駆体ウェブをイミド化させることによって、ポリイミドナノウェブを最終的に製造することができる。
【0030】
本発明の燃料電池用高分子電解質膜は、前記多孔性支持体内に分散されている自己陽性子伝導性物質をさらに含む。前記自己陽性子伝導性物質は、アゾール環が接合された無機粒子を含む。
【0031】
前記無機粒子は、ナノサイズの粒子であって、シリコン酸化物、金属酸化物、又はアルカリ土類金属酸化物であり得る。具体的に、前記無機粒子は、SiO
2、TiO
2、SnO
2、CaO、SrO、又はBaOであり得る。
【0032】
前記アゾール環は、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、チアゾール、又はオキサゾールであり得る。以下で概略的にそれぞれ例示した水とイミダゾールの陽イオン伝導メカニズムから分かるように、アゾール環は、水と同一の陽イオン伝導メカニズムで水素イオンを自ら伝達することができる。
【0035】
[イミダゾールの陽イオン伝導メカニズム]
本発明によると、前記アゾール環が接合された無機粒子が、多孔性支持体を構成する繊維の表面上に又は繊維の内部に存在することによって、多孔性支持体が水素イオン伝導のための媒介体としての役割をすることができる。したがって、本発明の電解質膜は、100℃以上の高温下で水分が蒸発する場合にも、又は50%以下の低湿条件下でも優れた水素イオン伝導性を示すことができる。
【0036】
下記の反応式1は、アゾール環を無機粒子に接合させる方法を例示するものである。まず、1H―テトラゾールの水素原子を酢酸基に置換することによって1H―テトラゾール―5―酢酸を製造する。続いて、空気中の水分と反応して水酸基を有するシリカナノ粒子と前記1H―テトラゾール―5―酢酸とを反応させることによって、1H―テトラゾールをシリカナノ粒子に接合させることができる。
【0038】
本発明の多孔性支持体内にはイオン伝導体が含浸されている。
【0039】
イオン伝導体は、高分子電解質膜の主な機能である水素イオンを伝導する機能を行う。イオン伝導性に優れ、経済的な面でも有利な炭化水素系高分子をイオン伝導体として用いることができる。特に、有機溶媒に溶解可能な炭化水素系高分子が含浸性の面で有利である。有機溶媒に溶解可能であることは、常温及び大気圧で有機溶媒に溶けることを意味する。
【0040】
具体的に、本発明のイオン伝導体は、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリアリーレンエーテルスルホン、スルホン化ブタジエンスチレン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾール、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリホスファゼン又はそれらの混合物であり得る。イオン伝導体が多孔性支持体と同様に炭化水素系高分子であるので、両者間の接着性が向上し得る。
【0041】
本発明の高分子電解質膜は、親水性基を有する高分子をさらに含むことができる。アゾール環が接合された無機粒子の自己陽性子伝導性に加えて、親水性基を有する高分子の水分貯蔵能力のため、前記高分子電解質膜は、高温及び低湿条件下でも優れたイオン伝導性を示すことができる。
【0042】
前記親水性基を有する高分子は、多孔性支持体上にコーティングされているか、又は多孔性支持体を形成する繊維の少なくとも一部を構成することができる。
【0043】
前記親水性基を有する高分子は、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイドメタクリレート、ポリエチレンオキサイドアクリレート、ポリエチレンオキサイドジメタクリレート、ポリエチレンオキサイドジアクリレート、ポリヒドロキシエチルメチルアクリレート、又はこれらの共重合体であり得る。
【0044】
前記親水性基を有する高分子は、水分を容易に吸い込んで貯蔵することができ、低湿条件下でイオン伝導体のイオン伝導性が急激に低下することを防止することができる。
【0045】
以下では、本発明の高分子電解質膜の製造方法について説明する。
【0046】
本発明の方法は、自己陽性子伝導性物質が分散されている多孔性支持体を製造する段階と、前記多孔性支持体内にイオン伝導体を含浸させる段階とを含む。以上説明したように、前記自己陽性子伝導性物質は、アゾール環が接合された無機粒子を含む。
【0047】
本発明の第1の実施例によると、前記多孔性支持体を製造する段階は、ナノウェブを形成する段階と、前記自己陽性子伝導性物質が分散された分散液を前記ナノウェブ上にコーティングする段階とを含む。
【0048】
前記ナノウェブを形成する段階は、紡糸ドープを製造する段階と、前記紡糸ドープを電気紡糸する段階とを含むことができる。
【0049】
有機溶媒に対して不溶性である炭化水素系高分子でナノウェブを製造する場合、前記紡糸ドープは、炭化水素系高分子を溶融させることによって製造することができる。選択的に、前駆体を有機溶媒に溶解させて紡糸ドープを製造した後、これを電気紡糸することによって前駆体ナノウェブを形成することもできる。例えば、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸をN―メチル―2―ピロリドン(N―methyl―2―pyrrolidone;NMP)、ジメチルホルムアミド(dimethylformamide;DMF)、ジメチルアセトアミド(dimethyl acetamide;DMA)などの有機溶媒に溶解させることによって製造された紡糸ドープを電気紡糸し、ポリイミド前駆体ナノウェブを先に製造し、続いて、ポリイミド前駆体ナノウェブのイミド化工程を行うことによってポリイミドナノウェブを完成することができる。前記イミド化工程は、熱的イミド化又は化学的イミド化によって行うことができる。例えば、高温及び高圧に設定されたホットプレスを用いてポリイミド前駆体ナノウェブを熱処理することによって、有機溶媒に対して不溶性であるポリイミドナノウェブを形成することができる。
【0050】
電気紡糸工程のために、常温から100℃でスプレージェットノズル(sprayed jet nozzle)に1kVから1,000kVの高電圧を印加して紡糸ドープを吐出させることによって、各フィラメントを形成させる。そして、これらフィラメントがコレクターに収集されながらナノウェブが形成される。
【0051】
前記分散液は、自己陽性子伝導性物質を分散媒に分散させることによって製造することができる。前記分散媒は、水又はアルコールであり得るが、自己陽性子伝導性物質の分散を可能にするものであればその種類に制限はない。このように製造された分散液をナノウェブ上にコーティングした後、乾燥工程を行うと、アゾール環が接合された無機粒子が、ナノウェブを構成する繊維の表面上に存在する多孔性支持体が完成する。
【0052】
選択的に、自己陽性子伝導性物質を分散媒(水又はアルコール)に分散させる前又はその後に、前記分散媒に親水性基を有する高分子を溶解させることができる。このように製造された分散液をナノウェブ上にコーティングした後、乾燥工程を行うと、アゾール環が接合された無機粒子が、ナノウェブを構成する繊維の表面上に存在し、親水性基を有する高分子がナノウェブ上にコーティングされている多孔性支持体が完成する。
【0053】
このように製造された多孔性支持体にイオン伝導体を含浸させることによって、高分子電解質膜が最終的に完成する。イオン伝導体が多孔性支持体に含浸されることによって、多孔性支持体の気孔内にイオン伝導体が充填される。前記含浸のためには、ディッピング(dipping)、スプレー、スクリーンプリンティング、ドクターブレードなどの当業界に公知となった多様な方法を用いることができる。
【0054】
例えば、ディッピング方法の場合、5分から30分間2回から5回繰り返して多孔性支持体をイオン伝導体溶液内にディッピングした後、60℃から150℃の温度で2時間から5時間乾燥させて有機溶媒を除去することによって、含浸工程を行うことができる。
【0055】
本発明の第2の実施例によると、前記自己陽性子伝導性物質が添加された紡糸ドープを電気紡糸することによって、自己陽性子伝導性物質が分散されている多孔性支持体を製造する。このように製造された多孔性支持体の3次元ネットワークを形成する繊維の内部には、アゾール環が接合された無機粒子が存在する。
【0056】
前記自己陽性子伝導性物質が添加された紡糸ドープは、炭化水素系高分子を溶融させた後、前記の溶融された炭化水素系高分子に自己陽性子伝導性物質を添加することによって製造することができる。選択的に、前記炭化水素系高分子と共に、親水性基を有する高分子を溶融させた後、自己陽性子伝導性物質を添加することができる。このように製造された紡糸ドープを電気紡糸すると、アゾール環が接合された無機粒子が、多孔性支持体を構成する繊維の内部に存在し、親水性基を有する高分子が、多孔性支持体の3次元ネットワークを形成する繊維の少なくとも一部を構成する多孔性支持体が完成し得る。
【0057】
親水性基を有する高分子が多孔性支持体上にコーティングされる場合、前記支持体の気孔を塞ぐことによって、後続のイオン伝導体含浸工程が適宜行われないという問題が発生し得るが、これは、高分子電解質膜の水素イオン伝導性を低下させる原因になり得る。したがって、親水性基を有する高分子を含む紡糸ドープを電気紡糸することによって、親水性基を有する高分子が、多孔性支持体の3次元ネットワークを形成する繊維の少なくとも一部を構成することがさらに望ましい。
【0058】
一方、ポリイミド多孔性支持体を形成するためにポリアミック酸溶液を紡糸ドープとして使用する場合、前記ポリアミック酸溶液に自己陽性子伝導性物質を添加した後、電気紡糸工程を行う。選択的に、自己陽性子伝導性物質の他に、親水性基を有する高分子を前記ポリアミック酸溶液にさらに添加することもできる。このように製造された紡糸ドープを電気紡糸することによってポリイミド前駆体ナノウェブが形成されると、前記で説明した方法でイミド化工程を行う。
【0059】
以下では、実施例及び比較例を通して本発明の効果をより具体的に説明する。以下で例示する各実施例は、本発明の理解を促進するためのものであって、本発明の権利範囲を制限するものではない。
【0060】
自己陽性子伝導性物質の製造
1H―テトラゾール―5―酢酸(>99.9%)(Aldrich Chemical)1gをエタノール50mLに1時間溶解させた。シリカナノ粒子(Cabot Corporation)1gをエタノール50mLに入れた後、常温で超音波粉砕機で1時間分散させた。続いて、エタノールに溶けているテトラゾール酢酸溶液をシリカナノ粒子が分散されている溶液に投与し、常温で3時間撹拌させた。続いて、60℃の真空オーブンで24時間乾燥させて溶媒を除去した後、シリカナノ粒子とテトラゾール酢酸の重さの割合が1:1である自己陽性子伝導性物質を製造した。
【0061】
実施例1
15重量%のポリアミック酸をテトラヒドロフラン(THF)紡糸溶媒に溶かして製造した紡糸ドープを25℃の温度及び30kVの電圧が印加された状態で電気紡糸してポリイミド前駆体ナノウェブを形成した後、350℃のオーブンで5時間熱処理してポリイミドナノウェブを製造した。
【0062】
続いて、10gのエタノールに1gの自己陽性子伝導性物質を分散させて製造された分散液10gを前記ポリイミドナノウェブに加えた後、60℃で24時間乾燥させることによって多孔性支持体を完成した。N―メチル―2―ピロリドン(NMP)にスルホン化ポリスルホンを溶解させて製造した10重量%のイオン伝導体溶液に、前記多孔性支持体を常温で20分間3回ディッピングし、このとき、微細気泡の除去のために減圧雰囲気を1時間にわたって適用した。その後、120℃に維持された熱風オーブンで3時間乾燥させてNMPを除去し、高分子電解質膜を完成した。
【0063】
実施例2
15重量%のポリビニルアルコール1gを10gの水に溶解させた後、自己陽性子伝導性物質を分散させることによって分散液を製造し、前記分散液10gをポリイミドナノウェブに加えたことを除いては、実施例1と同一の方法で高分子電解質膜を完成した。
【0064】
実施例3
15重量%のポリアミック酸をテトラヒドロフラン(THF)紡糸溶媒に溶かした後、10gの自己陽性子伝導性物質を添加することによって製造された紡糸ドープを25℃の温度及び30kVの電圧が印加された状態で電気紡糸してポリイミド前駆体ナノウェブを形成した後、350℃のオーブンで5時間熱処理してポリイミドナノウェブを製造した。
【0065】
続いて、N―メチル―2―ピロリドン(NMP)にスルホン化ポリスルホンを溶解させて製造した10重量%のイオン伝導体溶液に、前記ポリイミドナノウェブを常温で20分間3回ディッピングし、このとき、微細気泡の除去のために減圧雰囲気を1時間にわたって適用した。その後、120℃に維持された熱風オーブンで3時間乾燥させてNMPを除去し、高分子電解質膜を完成した。
【0066】
実施例4
15重量%のポリアミック酸と共に、15重量%のポリビニルアルコール10gをテトラヒドロフラン(THF)紡糸溶媒に溶かした後、10gの自己陽性子伝導性物質を添加することによって紡糸ドープを製造したことを除いては、実施例3と同一の方法で高分子電解質膜を完成した。
【0067】
比較例1
15重量%のポリアミック酸をテトラヒドロフラン(THF)紡糸溶媒に溶かして製造した紡糸ドープを25℃の温度及び30kVの電圧が印加された状態で電気紡糸してポリイミド前駆体ナノウェブを形成した後、350℃のオーブンで5時間熱処理してポリイミドナノウェブを製造した。続いて、N―メチル―2―ピロリドン(NMP)にスルホン化ポリスルホンを溶解させて製造した10重量%のイオン伝導体溶液に、前記ポリイミドナノウェブを常温で20分間3回ディッピングし、このとき、微細気泡の除去のために減圧雰囲気を1時間にわたって適用した。その後、120℃に維持された熱風オーブンで3時間乾燥させてNMPを除去し、高分子電解質膜を完成した。
【0068】
比較例2
15重量%のポリアミック酸と共に、15重量%のポリビニルアルコール10gをテトラヒドロフラン(THF)紡糸溶媒に溶かして紡糸ドープを製造したことを除いては、比較例1と同一の方法で高分子電解質膜を完成した。
【0069】
前記のように製造された実施例1―4及び比較例1―2の各高分子電解質膜の水素イオン伝導性を下記の方法によってそれぞれ測定し、その結果を下記の表1に示した。
【0070】
相対湿度別の水素イオン伝導性測定
実施例及び比較例によって製造された電解質膜のコンダクタンスを定電流4端子法によって測定した。具体的には、1*3cm
2の矩形状にサンプリングされた電解質膜を蒸留水に浸漬した状態の100%相対湿度条件で20分ないし30分安定化させた後、一定の交流電流を電解質膜の両端に印加しながら中央で発生する交流電位差を測定し、水素イオン伝導性を得た。続いて、前記相対湿度を80%、60%、40%、及び20%にそれぞれ変更させながら、同一の方法で水素イオン伝導性を測定した。このとき、水素イオン伝導性測定装置としては、試料の厚さ方向での伝導度を測定できるスルー―プレーンメンブレンテストシステム(Thgrough―Plane Membrane Test System)(Scribner Associates社、MTS 740)を用いた。その結果は、下記の表1に示す通りである。
【0071】
厚さ方向の伝導度(Through―Plane conductivity)の測定は、面方向の伝導度(In―Plane conductivity)を測定する方式とは異なり、燃料電池の性能測定方向と同一であるので、燃料電池の製作がなくても燃料電池の性能を予測可能にするという長所を有する。特に、強化膜のようにイオン伝導体の中間に支持体が挿入されている場合、既存の面方向の伝導度測定では内部の抵抗を知ることができないが、厚さ方向の伝導度測定を通して、膜の内部で支持体がイオン伝導度に及ぼす影響のみならず、燃料電池性能に及ぼす影響も予測できるという長所がある。