(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電性粒子が、カーボン粒子、および、無機材料又は有機材料の核粒子とこの核粒子を被覆する導電層とを有する複合粒子からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2のプリプレグ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0016】
図1は、本発明のプリプレグの一実施形態を示す断面図である。
図1に示すプリプレグ100は、シート状に引き揃えられた複数の炭素繊維1と、複数の炭素繊維1によって形成された炭素繊維層10に含浸しているマトリックス樹脂5とを備える。プリプレグ100は、対向する一対の主面S1,S2を有するシート状のプリプレグである。
【0017】
プリプレグ100は、両主面S1,S2側の表層に形成された炭素繊維1を含まない層間形成層50を有している。この層間形成層50の作用により、2枚以上のプリプレグを積層して炭素繊維強化複合材料を形成したときに、隣り合う炭素繊維層10の間に炭素繊維が含まれない層間領域が形成される。この層間領域に熱可塑性樹脂の粒子30が存在することにより、複合材料の耐衝撃性が高められる。層間形成層50は、プリプレグ100の片面側にのみ形成されていてもよいが、炭素繊維強化複合材料を製造するときの利便性向上の観点から、プリプレグ100の表裏両面に存在することが好ましい。層間形成層50がプリプレグ100の片面側のみに形成されている場合、その層間形成層50の厚さは、プリプレグ100の厚さTに対して30%以下が好ましい。より好ましくは20%以下である。層間形成層50がプリプレグ100の表裏両面に形成されている場合、それぞれの層間形成層50の厚さは、プリプレグ100の厚さTに対して30%以下が好ましい。より好ましくは20%以下である。
【0018】
層間形成層の厚さは次の方法により求める。複数枚積層したプリプレグを、2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の間に挟持して互いに密着させ、その状態で7日間かけて徐々に硬化温度まで温度を上昇させることにより樹脂をゲル化および硬化させて板状のプリプレグ硬化物を作製する。この硬化プリプレグの断面写真を観察して、層間形成層の厚さを測定する。具体的には、写真上で隣り合う炭素繊維層10の間の距離を任意に選んだ少なくとも10カ所で測り、その平均を層間形成層の厚さとする。
【0019】
炭素繊維1は、より高い導電性を発現することから、260GPa以上の引張弾性率を有する炭素繊維であることが好ましい。耐衝撃性との両立の点からは、炭素繊維1の引張弾性率は440GPa以下であることが好ましい。同様の観点から、炭素繊維1の引張弾性率は、より好ましくは280〜400GPaである。また、耐衝撃性に優れ、高い剛性および機械強度を有する複合材料が得られることから、炭素繊維1は、引張強度が4.4〜6.5GPaであり、引張伸度が1.7〜2.3%の高強度高伸度炭素繊維であることが好ましい。従って、高い導電性および耐衝撃性を両立する点から、引張弾性率が280GPa以上で、引張強度が4.4GPaで、引張伸度が1.7%以上である炭素繊維が最も適している。引張弾性率、引張強度および引張伸度は、JIS R7601−1986に記載されるストランド引張試験により測定することができる。
【0020】
プリプレグ100における炭素繊維の質量分率は40〜90%が好ましい。より好ましくは50〜80%である。炭素繊維の質量分率が低すぎると、得られる複合材料の重量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が損なわれる可能性がある。また、炭素繊維の質量分率が高すぎると、樹脂の含浸不良が生じ、得られる複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。また、プリプレグの単位面積当たりの炭素繊維の質量は100〜300g/m
2が好ましい。
【0021】
マトリックス樹脂5は、絶縁性の熱硬化性樹脂組成物3と、
平均粒径が1μm以下の第1の導電性粒子21と、
平均粒径が5μm以上の導電性粒子22と、熱可塑性樹脂の粒子30とを含有する。
【0022】
第1の導電性粒子21は、プリプレグ100の厚さ方向において、プリプレグ100の両方の主面S1,S2のそれぞれに最も近い位置にある炭素繊維1よりも内側に偏って分布している。言い換えると、第1の導電性粒子21は、炭素繊維層10内に偏って分布している。ここで、「炭素繊維層10内に偏って分布している」とは、プリプレグ100内に存在する第1の導電性粒子21のうちの50質量%より多くが、炭素繊維10内に存在していることである。第1の導電性粒子21は、プリプレグ100内に存在する第1の導電性粒子21のうちの90〜100質量%が、炭素繊維層10内に存在してい
る。
【0023】
第2の導電性粒子22および熱可塑性樹脂の粒子30は、プリプレグ100の厚さ方向において、それぞれプリプレグ100の表層に偏って分布している。ここで、「第2の導電性粒子22が表層に偏って分布している」とは、プリプレグ100内に存在する第2の導電性粒子22のうちの50質量%より多く、および熱可塑性樹脂の粒子30のうちの50質量%より多くが、プリプレグ100の厚さ方向において、プリプレグ100の両方の主面S1,S2のそれぞれからプリプレグ100の厚さTに対して20%の深さまでの範囲内に存在していることである。つまり、主面S1から20%の深さまでの範囲内に存在する第2の導電性粒子22の量と、主面S2から20%の深さまでの範囲内に存在する第2の導電性粒子22の量との合計値が50質量%より多いことである。したがって、主面S1から20%の深さまでの範囲内に第2の導電性粒子22が存在しないが、主面S2から20%の深さまでの範囲内に第2の導電性粒子22の50質量%より多くが存在していてもよい。あるいは、主面S2から20%の深さまでの範囲内に第2の導電性粒子22が存在しないが、主面S1から20%の深さまでの範囲内に第2の導電性粒子22の50質量%より多くが存在していてもよい。同様に、「熱可塑性樹脂の粒子30が表層に偏って分布している」とは、主面S1から20%の深さまでの範囲内に存在する熱可塑性樹脂の粒子30の量と、主面S2から20%の深さまでの範囲内に存在する熱可塑性樹脂の粒子30の量との合計値が50質量%より多いことである。
【0024】
第2の導電性粒子22は、炭素繊維層10の外側に偏って分布してい
る。言い換えると、第2の導電性粒子22は、層間形成層50内に偏って分布してい
る。ここで、「第2の導電性粒子22が層間形成層50に偏って分布している」とは、プリプレグ100内に存在する第2の導電性粒子22のうちの50質量%より多くが、層間形成層50に存在していることである。つまり、主面S1側の層間形成層50に存在する第2の導電性粒子22の量と、主面S2側の層間形成層50に存在する第2の導電性粒子22の量との合計値が50質量%より多いことである。したがって、主面S1側の層間形成層50に第2の導電性粒子22が存在しないが、主面S2側の層間形成層50に第2の導電性粒子22の50質量%より多くが存在していてもよい。あるいは、主面S2側の層間形成層50に第2の導電性粒子22が存在しないが、主面S1側の層間形成層50に第2の導電性粒子22の50質量%より多くが存在していてもよい。
【0025】
同様に、熱可塑性樹脂の粒子30は、炭素繊維層10の外側に偏って分布してい
る。言い換えると、熱可塑性樹脂の粒子30は、層間形成層50内に偏って分布してい
る。この詳細な意味は、前述の第2の導電性粒子22が層間形成層50に偏って分布していることの説明において、「第2の導電性粒子22」を「熱可塑性樹脂の粒子30」に読み替えた場合と同じである。
【0026】
また、第2の導電性粒子22は、プリプレグ100内に存在する第2の導電性粒子22のうちの90〜100質量%が、プリプレグ100の厚さ方向において、プリプレグ100の両方の主面S1,S2のそれぞれからプリプレグ100の厚さTに対して20%の深さまでの範囲内に存在してい
る。つまり、主面S1から20%の深さまでの範囲内に存在する第2の導電性粒子22の量と、主面S2から20%の深さまでの範囲内に存在する第2の導電性粒子22の量との合計値が90〜100質量%であ
る。したがって、主面S1から20%の深さまでの範囲内に第2の導電性粒子22が存在しないが、主面S2から20%の深さまでの範囲内に第2の導電性粒子22の90〜100質量%が存在していてもよい。あるいは、主面S2から20%の深さまでの範囲内に第2の導電性粒子22が存在しないが、主面S1から20%の深さまでの範囲内に第2の導電性粒子22の90〜100質量%が存在していてもよい。
【0027】
同様に、熱可塑性樹脂の粒子30は、プリプレグ100内に存在する熱可塑性樹脂の粒子30のうちの90〜100質量%が、プリプレグ100の厚さ方向において、プリプレグ100の両方の主面S1、S2のそれぞれからプリプレグの厚さに対して20%の深さまでの範囲内に存在してい
る。この詳細な意味は、前述の第2の導電性粒子22の90〜100質量%が、20%の深さの範囲内に存在していることの説明において、「第2の導電性粒子22」を「熱可塑性樹脂の粒子30」に読み替えた場合と同じである。
【0028】
第2の導電性粒子22が、プリプレグ100の表層に偏って分布していることで、層間形成層50に含まれる第2の導電性粒子22が隣り合う炭素繊維層間に導電パスを形成することから、炭素繊維強化複合材料に対して積層方向における高い導電性が付与されると考えられる。
【0029】
また、熱可塑性樹脂の粒子30が、プリプレグ100の表層に偏って分布していることで、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が向上する。
【0030】
炭素繊維層10内に存在している第1の導電性粒子21の割合(存在率)、ならびに、プリプレグ100の表面から20%の深さまでの範囲内に存在している第2の導電性粒子22の割合(存在率)および熱可塑性樹脂の粒子30の割合(存在率)は、下記の方法により評価する。
【0031】
1枚のプリプレグを2枚の表面の平滑なポリ四フッ化エチレン樹脂板の間に挟持し、その状態で7日間かけて徐々に硬化温度まで温度を上昇させることにより、樹脂をゲル化および硬化させて、板状のプリプレグ硬化物を作製する。このプリプレグ硬化物の、主面の垂線方向の断面の拡大写真を撮影する。得られた断面写真において、プリプレグ全体にわたって存在する第1の導電性粒子の合計面積S
10、第2の導電性粒子の合計面積S
20、熱可塑性樹脂の粒子の合計面積S
30を求める。そして、炭素繊維層10内に含まれる第1の導電性粒子の合計面積S
1を求める。S
1のS
10に対する割合(質量%)を、炭素繊維層10内に存在する第1の導電性粒子の割合(存在率)とする。また、プリプレグ硬化物の表面からプリプレグ硬化物の厚さの20%の深さ位置に、プリプレグの表面と平行な線を2本引く。これら2本の線それぞれと、プリプレグの表面との間に存在する第2の導電性粒子の合計面積S
2および熱可塑性樹脂の粒子の合計面積S
3を求める。なお、20%深さ位置の線をまたいでいる第2の導電性粒子および熱可塑性樹脂の粒子は、それぞれ合計面積S
2および合計面積S
3に含める。S
2のS
20に対する割合(質量%)を、プリプレグ100の表面から20%の深さまでの範囲内に存在している第2の導電性粒子22の割合(存在率)とする。S
3のS
30に対する割合(質量%)を、プリプレグ100の表面から20%の深さまでの範囲内に存在している熱可塑性樹脂の粒子の割合(存在率)とする。
【0032】
上記方法において、各粒子の合計面積は、断面写真から刳り抜いた粒子部分の質量から換算して求めることができる。樹脂中に分散する粒子の写真撮影後の判別が困難な場合は、粒子を染色する手段も採用できる。
【0033】
本明細書において、粒子の「粒径」は、粒子を任意の方向から見たときに、粒子が外接する円の直径を意味する。粒径は、例えば、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡により1000倍以上に拡大し写真撮影することにより測定できる。平均粒径は、50個以上の粒子を無作為に選び、それらの粒径の平均値とする。
以下、本明細書において、「粒径」は全て「平均粒径」を意味するものとする。
【0034】
第1の導電性粒子21の粒径は1μm以下である。好ましくは0.5μm以下である。第1の導電性粒子21の粒径が小さいと、炭素繊維の間に効率良く分散するという効果が得られる。第1の導電性粒子22の粒径は好ましくは0.01μm以上である。第1の導電性粒子が0.01μm以上であることにより、粒子同士がストラクチャーを形成し導電性が向上するという効果が得られる。
【0035】
第2の導電性粒子の粒径22は100μm以下が好ましい。より好ましくは70μm以下、特に好ましくは40μm以下である。第2の導電性粒子の粒径が大きくなりすぎると、炭素繊維の配列が乱れたり、炭素繊維強化複合材料における層間が過度に厚くなったりして、材料の物性低下を招く可能性がある。第2の導電性粒子22の粒径は5μm以上である。好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上である。第2の導電性粒子の粒径が小さすぎると、導電性向上の効果が小さくなる傾向がある。
【0036】
第1の導電性粒子21および第2の導電性粒子22は、良好な導電体であればよく、その形状は特に限定されない。また、これら導電性粒子は、導体のみからなる粒子に限定されない。第1の導電性粒子21と第2の導電性粒子は、同種の粒子であってよいし、異なる種類の粒子であってもよい。これら導電性粒子の体積固有抵抗値は10〜10
−9Ωcmが好ましい。より好ましくは1〜10
−9Ωcm、特に好ましくは10
−1〜10
−9Ωcmである。体積固有抵抗は、4探針電極を有する円筒型セルに試料をセットし、試料に60MPaの圧力を加えた状態で試料の厚さと抵抗値を測定し、測定された値から算出することができる。
【0037】
導電性粒子は、例えば、金属粒子、ポリアセチレン粒子、ポリアニリン粒子、ポリピロール粒子、ポリチオフェン粒子、ポリイソチアナフテン粒子およびポリエチレンジオキシチオフェン粒子等の導電性ポリマー粒子、カーボン粒子、ならびに、無機材料又は有機材料の核粒子と該核粒子を被覆する導電層とを有する複合粒子から選らばれる少なく1種である。これらの中でも、高い導電性および安定性を示すことから、カーボン粒子、または、無機材料もしくは有機材料の核粒子とこの核粒子を被覆する導電層とを有する複合粒子が好ましい。
【0038】
カーボン粒子としては、例えば、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラックおよびケッチェンブラックなどのカーボンブラックが挙げられる。
【0039】
複合粒子を構成する核粒子の無機材料としては、例えば、無機酸化物、無機有機複合物、および炭素が挙げられる。無機酸化物としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ・アルミナ、シリカ・ジルコニア等の、単一の無機酸化物、および2種以上の金属を含む複合無機酸化物が挙げられる。無機有機複合物としては、例えば、金属アルコキシドおよび/または金属アルキルアルコキシドを加水分解して得られるポリオルガノシロキサンが挙げられる。炭素は、好ましくは、結晶質炭素又は非晶質炭素である。非晶質炭素としては、例えば、“ベルパール(登録商標)”C−600、C−800、C−2000(エア・ウォーター(株)製)、“NICABEADS(登録商標)”ICB、PC、MC(日本カーボン(株)製)、グラッシーカーボン(東海カーボン(株)製)、高純度人造黒鉛SGシリーズ、SGBシリーズ、SNシリーズ(SECカーボン(株)製)、真球状カーボン(群栄化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0040】
複合粒子を構成する核粒子の有機材料としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、アクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂およびジビニルベンゼン樹脂等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは2種類以上組みあせてもよい。なかでも、優れた耐熱性を有するアクリル樹脂およびジビニルベンゼン樹脂、ならびに、優れた耐衝撃性を有するポリアミド樹脂が好ましい。
【0041】
導電性粒子としての複合粒子を構成する導電層は、良好な導電体として振舞う材料から形成されていればよく、必ずしも導体のみから形成されているとは限らない。導電層を構成する材料の固有抵抗値は10〜10
−9Ωcmが好ましい。より好ましくは1〜10
−9Ωcm、さらに好ましくは10
−1〜10
−9Ωcmである。
【0042】
導電層を形成する導電性物質は、例えば、炭素および金属から選ばれる。導電層は連続した膜状であってもよいし、繊維状または粒子状の導電性物質が集合したものであってもよい。
【0043】
導電層を形成する炭素は、好ましくは、チャネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラックおよびケッチェンブラックなどのカーボンブラック、ならびに、中空カーボンファイバー等から選ばれる。
【0044】
導電層が金属から形成される場合、導電層は好ましくはメッキにより形成される金属層である。金属は、炭素繊維との電位差による金属の腐蝕を防止できることから、白金、金、銀、銅、錫、ニッケル、チタン、コバルト、亜鉛、鉄、クロム、アルミニウムおよびこれらの組み合わせから選ばれる。これらの中でも、体積固有抵抗が10〜10
−9Ωcmという高い導電性および安定性を示すことから、白金、金、銀、銅、錫、ニッケルおよびチタンが特に好ましい。これら金属は単独で用いられてもよいし、これら金属を主成分とする合金として用いられてもよい。
【0045】
熱可塑性樹脂の粒子30は球状でもよいし、繊維状および針状等の非球状でもよい。また、熱可塑性樹脂の粒子30は多孔質であってもよい。熱硬化性樹脂の流動特性を低下させ難いこと、および、特に高い耐衝撃性を発現する炭素繊維強化複合材料が得られ易いことから、熱可塑性樹脂の粒子は球状であることが好ましい。
【0046】
熱可塑性樹脂の粒子30は、好ましくは、ポリアミドの粒子である。ポリアミドの中でも、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン11およびナイロン6/12共重合体が、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性の向上効果が高いため好ましい。
【0047】
第2の導電性粒子22の質量に対する熱可塑性樹脂の粒子30の質量の比は1〜1000が好ましい。この質量比が1よりも小さくなると、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性向上の効果が小さくなる傾向がある。質量比が1000よりも大きくなると、炭素繊維強化複合材料の導電性向上の効果が小さくなる傾向がある。同様の観点から、上記質量比はより好ましくは10〜500、特に好ましくは10〜100である。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物3は、熱硬化性樹脂およびその硬化剤を含む。熱硬化性樹脂は、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する樹脂であれば特に限定されない。熱硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであってもよいし、硬化剤および/又は硬化促進剤の作用により硬化するものであってもよい。かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂およびポリイミド樹脂等が挙げられる。これらの変性体および2種類以上ブレンドした樹脂なども用いることができる。
【0049】
これらの熱硬化性樹脂の中でも、耐熱性、力学特性および炭素繊維との接着性のバランスに優れているエポキシ樹脂が好ましい。特に、アミン類、フェノール類、炭素−炭素二重結合を有する化合物を前駆体とするエポキシ樹脂が好ましい。
【0050】
アミン類を前駆体とするグリシジルアミン型エポキシ樹脂として、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル−p−アミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体が挙げられる。テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンは、耐熱性に優れているため航空機構造材としての複合材料用樹脂として好ましい。
【0051】
熱硬化性樹脂として、フェノールを前駆体とするグリシジルエーテル型エポキシ樹脂も好ましい。このようなエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0052】
液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂およびレゾルシノール型エポキシ樹脂は、低粘度であるために、他のエポキシ樹脂と組み合わせることが好ましい。
【0053】
室温(25℃程度)で固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、室温(25℃程度)で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂に比較して架橋密度の低い構造を与えるため、硬化樹脂の耐熱性を低下させる傾向があるものの、硬化樹脂の靭性より高くなる傾向がある。そのため、固形のビスフェノールA型エポキシ樹脂は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、およびビスフェノールF型エポキシ樹脂等と組み合わせることが好ましい。
【0054】
ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂は、低吸水率かつ高耐熱性の硬化樹脂を与える。ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂およびジフェニルフルオレン型エポキシ樹脂も、低吸水率の硬化樹脂を与えることができる。ウレタン変性エポキシ樹脂およびイソシアネート変性エポキシ樹脂は、破壊靱性と伸度の高い硬化樹脂を与えることができる。
【0055】
これらエポキシ樹脂は、単独で用いてもよいし2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
エポキシ樹脂の硬化剤として、エポキシ基と反応し得る活性基を有する化合物を用いることができる。硬化剤としては、アミノ基、酸無水物基およびアジド基を有する化合物が適している。硬化剤としては、より具体的には、例えば、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタンやジアミノジフェニルスルホンの各種異性体、アミノ安息香酸エステル類、各種酸無水物、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ポリフェノール化合物、イミダゾール誘導体、脂肪族アミン、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミン、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物のようなカルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アミド、ポリメルカプタンおよび三フッ化ホウ素エチルアミン錯体のようなルイス酸錯体などが挙げられる。これらの硬化剤は、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0057】
芳香族ジアミンを硬化剤として用いることにより、耐熱性の良好な硬化樹脂が得られる。特に、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化樹脂を得るため最も適している。芳香族ジアミンの添加量は、化学量論的に当量となるように添加することが好ましいが、場合によって、例えば、当量比0.7〜0.8付近を用いることにより高弾性率の硬化樹脂が得られる。
【0058】
また、ジシアンジアミドと尿素化合物、例えば、3,4−ジクロロフェニル−1,1−ジメチルウレアとの組合せ、あるいはイミダゾール類を硬化剤として用いることにより、比較的低温で硬化しながら高い耐熱耐水性が得られる。酸無水物を用いて硬化することは、アミン化合物硬化に比べ吸水率の低い硬化樹脂を与える。その他、これらの硬化剤を潜在化したもの、例えば、マイクロカプセル化したものを用いることにより、プリプレグの保存安定性が良くなり、特にタック性やドレープ性が室温放置しても変化しにくい。
【0059】
熱硬化性樹脂組成物3は、熱硬化性樹脂組成物中に溶解した熱可塑性樹脂をさらに含んでいてもよい。この熱可塑性樹脂としては、一般に、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、チオエーテル結合、スルホン結合およびカルボニル結合から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂は、部分的に架橋構造を有していてもよいし、結晶性を有していて非晶性であってもよい。特に、ポリアミド、ポリカーボナート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フェニルトリメチルインダン構造を有するポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリエーテルニトリルおよびポリベンズイミダゾールからなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0060】
本発明のプリプレグは、好ましくは、シート状に引き揃えられた複数の炭素繊維に、熱硬化性樹脂、硬化剤および粒径が1μm以下の第1の導電性粒子を含有する第1の樹脂を含有させて、シート状の一次プリプレグを得る工程と、この一次プリプレグの片面上又は両面上に、熱硬化性樹脂、硬化剤、粒径が5μm以上の第2の導電性粒子および熱可塑性樹脂の粒子を含有する第2の樹脂の層を設ける工程と、を有する方法により製造される。
【0061】
第1の樹脂および第2の樹脂は、それぞれの成分を配合し混錬する通常の方法により調製することができる。第1の樹脂および第2の樹脂のうち、導電性粒子および熱可塑性樹脂の粒子以外の成分および配合比は、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0062】
一次プリプレグは、例えば、第1の樹脂を離型紙などの基材上にコーティングして第1の樹脂のフィルムを形成する工程と、第1の樹脂のフィルムをシート状に引き揃えた複数の炭素繊維の両面又は片面に当て、加熱および加圧して第1の樹脂を炭素繊維に含浸させる工程とを含む方法により得ることができる。
【0063】
第2の樹脂の層(主として層間形成層)は、例えば、第2の樹脂を離型紙などの基材上にコーティングして第2の樹脂のフィルムを形成する工程と、第2の樹脂のフィルムを一次プリプレグの片面又は両面に貼着する工程とを含む方法により設けられる。
【0064】
第1の樹脂における第1の導電性粒子の比率は、第1の樹脂の質量に対して0.01〜20質量%が好ましい。第2の樹脂における第2の導電性粒子の比率は、第2の樹脂の質量に対して0.01〜50質量%が好ましい。
【0065】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグを2枚以上含む積層構成を有する。炭素繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグ以外のプリプレグに由来する層を含んでいてもよいが、本発明のプリプレグのみから構成されることが好ましい。なお、炭素繊維複合強化材料に含まれる「本発明のプリプレグ」には、本発明の製造方法により得られるプリプレグも含まれる。
【0066】
炭素繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグを2枚以上含む積層体を形成する工程と、この積層体を加熱および加圧して、積層体中の第1の樹脂および第2の樹脂を硬化する工程とを有する方法により製造することができる。上記積層体において、2枚以上の本発明のプリプレグのうち少なくとも2枚は、隣り合う位置に積層される。
【0067】
積層体の加熱および加圧は、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法等の方法により行うことができる。特にボイドが少ない成形体が得られることからオートクレーブ成形法が好ましい。
【0068】
得られる炭素繊維強化複合材料において、2枚の隣り合う本発明のプリプレグの間には、層間形成層50に主として由来し、スペーサーとして機能する熱可塑性樹脂の粒子30および第2の導電性粒子22が配置されている層間領域が形成される。
【0069】
この層間領域において、層間領域に存在する第2の導電性粒子のうちの30%以上の個数が、隣接する2枚のプリプレグの境界面を挟んで、この2枚のプリプレグのそれぞれに含まれていた隣り合う炭素繊維の両方と接触していることが好ましい。これにより、積層方向の高い導電性が得られる。
【0070】
本発明の炭素繊維強化複合材料は、強度、剛性、耐衝撃性および導電性等に優れていることから航空宇宙用途、一般産業用途等に広く用いられる。より具体的には、航空宇宙用途では、胴体、主翼、尾翼およびフロアビーム等の航空機一次構造部材用途、フラップ、エルロン、カウル、フェアリングおよび内装材等の航空機二次構造部材用途、ロケットモーターケースおよび人工衛星構造材用途等に炭素繊維強化複合材料が好ましく用いられる。このような航空宇宙用途の中でも、特に耐衝撃性および耐雷性が必要な航空機一次構造材用途、特に胴体スキン、主翼スキン、および尾翼スキンにおいて、本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料が特に好ましく用いられる。また、一般産業用途では、自動車、船舶および鉄道車両等の移動体の構造材、ドライブシャフト、板バネ、風車の羽根、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、補強筋、ICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途および補修補強材料等の土木・建築材料用途等に炭素繊維強化複合材料が好ましく用いられる。これらの中でも、自動車外板、船舶外板、鉄道外板、風車の羽根、および、ICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)において、本実施形態に係る炭素繊維強化複合材料が特に好ましく用いられる。
【0071】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変形できる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0073】
プリプレグおよび炭素繊維強化複合材料の作製方法、衝撃後圧縮強度の評価方法、体積固有抵抗の評価方法を次に示す。プリプレグの作製環境および評価は、特に断りのない限り、温度25℃±2℃、相対湿度50%の雰囲気で行った。
【0074】
1.原材料
(1)炭素繊維
・“トレカ(登録商標)”T800S−24K−10E(繊維数24000本、引張強度5.9GPa、引張弾性率290GPa、引張伸度2.0%の炭素繊維、総繊度1.03g/m、東レ(株)製)。
【0075】
(2)マトリックス樹脂
<[A]熱硬化性樹脂>
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”825(ジャパンエポキシレジン(株)製)
・テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(ELM434、住友化学(株)製)。
【0076】
<[B]硬化剤>
・4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(三井化学ファイン(株)製)。
【0077】
<熱可塑性樹脂>
・末端に水酸基を有するポリエーテルスルホン、“スミカエクセル(登録商標)”PES5003P、住友化学(株)製)。
【0078】
<[C1]粒径が1μm以下の導電性粒子(第1の導電性粒子)>
・三菱カーボンブラック#3030B(カーボンブラック、三菱化学(株)製、平均粒径:55nm)
・三菱カーボンブラック#3230B(カーボンブラック、三菱化学(株)製、平均粒径:23nm)
・カーボンECP(カーボンブラック、ライオン(株)製)(平均粒径:40nm)
・カーボンECP600JD(カーボンブラック、ライオン(株)製、平均粒径:34nm)
・銀ナノ粒子A(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径300nm)
・銀ナノ粒子B(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径100nm)
・銀ナノ粒子C(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径60nm)
・銀ナノ粒子D(DOWAエレクトロニクス(株)製、平均粒径20nm)。
【0079】
<[C2]粒径が5μm以上の導電性粒子(第2の導電性粒子)>
・“NICABEADS(登録商標)”ICB−2020(日本カーボン(株)製)(平均粒径:26.69μm、変動係数:4.87%)
上記の粒子は分級を繰り返し、粒径の変動係数を5%以下にしてから使用した。
・“NICABEADS(登録商標)”MC−2020(日本カーボン(株)製)(平均粒径:24.35μm、変動係数:2.12%)
上記の粒子は分級を繰り返し、粒径の変動係数を5%以下にしてから使用した。
・“NICABEADS(登録商標)”PC−2020(日本カーボン(株)製)(平均粒径:25.05μm、変動係数:3.87%)
上記の粒子は分級を繰り返し、粒径の変動係数を5%以下にしてから使用した。
・グラッシーカーボン(東海カーボン(株)製)(平均粒径:25.57μm、変動係数:3.83%)
上記の粒子は分級を繰り返し、粒径の変動係数を5%以下にしてから使用した。
・真球状カーボン(群栄化学工業(株)製)(平均粒径:26.27μm、変動係数:4.18%)
上記の粒子は分級を繰り返し、粒径の変動係数を5%以下にしてから使用した。
・フェノール樹脂の粒子(マリリン HF−050、群栄化学工業(株)製)を2000℃で焼成し、分級を繰り返して得られたカーボン粒子A(平均粒径:25.02μm、変動係数:3.54%)
・フェノール樹脂の粒子(“ベルパール(登録商標)”R−800、エア・ウォーター(株)製)を2000℃で焼成し、分級を繰り返して得られたカーボン粒子B(平均粒径:24.37μm、変動係数:4.87%)
・フェノール樹脂の粒子(“ベルパール(登録商標)”S−870、エア・ウォーター(株)製)を2000℃で焼成し、分級を繰り返して得られたカーボン粒子C(平均粒径:26.12μm、変動係数:3.11%)
・“ミクロパール(登録商標)”AU225(ポリジビニルベンゼン粒子およびポリジビニルベンゼン粒子を覆う金層を有する複合粒子、平均粒径:25.0μm)。
【0080】
<[D]熱可塑性樹脂の粒子>
・ナイロン12粒子 SP−10(東レ(株)製、形状:真球)
・下記の方法で得られたエポキシ変性ナイロン粒子A
透明ポリアミド(商品名“グリルアミド(登録商標)”−TR55、エムザベルケ社製)90質量部、エポキシ樹脂(商品名“jER(登録商標)”828、ジャパンエポキシレジン(株)製)7.5質量部および硬化剤(商品名“トーマイド(登録商標)”#296、富士化成工業(株)社製)2.5質量部を、クロロホルム300質量部とメタノール100質量部の混合溶媒中に添加して、均一な溶液を得た。塗装用のスプレーガンを用いて霧状にした溶液を、3000質量部のn−ヘキサンの液面に向かって、良く撹拌しながら吹き付けて、溶質を固体粒子として析出させた。析出した固体粒子を濾別し、n−ヘキサンでよく洗浄した後に、100℃で24時間の真空乾燥を行い、エポキシ変性ナイロン粒子Aを得た(平均粒径:12.5μm)。
【0081】
<カップリング剤>
・Z−6011(3−アミノプロピルトリエトキシシラン、東レ・ダウコーニング(株)製)。
【0082】
(3)導電性フィルム
・導電性フィルムB(厚さ:13.7μm、体積固有抵抗値:3.8×10
−5Ωcm)(特許文献5の実施例10に記載の導電性フィルムと同一の導電性フィルム)。
【0083】
2.評価方法
(1)プリプレグの厚さに対して20%の深さの範囲に存在する粒径5μm以上の導電性粒子および熱可塑性樹脂粒子の存在率
2枚のポリ四フッ化エチレン樹脂板の間に、プリプレグを、ポリ四フッ化エチレン樹脂板の平滑な表面に密着するように挟持した。この状態で7日間かけて徐々に150℃まで温度を上昇させ、プリプレグ中の樹脂をゲル化および硬化させて、樹脂硬化物を含む板状の試験片を作製した。この試験片を厚さ方向に切断し、その断面を研磨後、光学顕微鏡で200倍以上に拡大し試験片の上下面が視野内に納まるように写真撮影した。同様な操作により、断面写真の横方向の5ヵ所でポリ四フッ化エチレン樹脂板間の間隔を測定し、その平均値(n=5)をプリプレグの厚さとした。
【0084】
断面写真において、プリプレグの両面それぞれから厚さの20%の深さの位置に、プリプレグの表面と平行な線を2本引いた。引いた2本の線それぞれとプリプレグの両面との間に存在する粒径5μm以上の導電性粒子の合計面積S
X(両側の合計面積)と、プリプレグの厚さ全体にわたって存在する粒径5μm以上の導電性粒子の合計面積S
x0とを求めた。なお、20%深さ位置の線をまたいでいる粒径5μm以上の導電性粒子は、合計面積S
Xに含める。S
X0に対するS
Xの比率(質量%)を、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する粒径5μm以上の導電性粒子の存在率とした。同様にして、引いた2本の線それぞれとプリプレグの両面との間に存在する熱可塑性樹脂粒子の合計面積S
Y(両側の合計面積)と、プリプレグの厚さ全体にわたって存在する熱可塑性樹脂粒子の合計面積S
Y0とを求めた。なお、20%深さ位置の線をまたいでいる熱可塑性樹脂粒子は、合計面積S
Yに含める。S
Y0に対するS
Yの比率(質量%)を、プリプレグの表面から20%の深さの範囲に存在する熱可塑性樹脂粒子の存在率とした。それぞれの粒子の合計面積は、断面写真から刳り抜いた粒子部分の質量から換算して求めた。マトリックス樹脂中に分散する粒子の写真撮影後の判別が困難な場合は、粒子を染色する手段を用いた。また、断面写真により粒径5μm以上の導電性粒子と熱可塑性樹脂粒子の区別は、コントラストの違いにより判別した。
【0085】
(2)プリプレグの厚さ方向に対して、両方の主面のそれぞれに最も近い位置にある炭素繊維よりも内側に存在する粒径1μm以下の導電性粒子の存在率
上記(1)と同様にしてプリプレグの断面写真を撮影し、プリプレグの厚さを求めた。
【0086】
断面写真において、プリプレグの両方の主面のそれぞれに最も近い位置にある炭素繊維の位置に、プリプレグの表面と平行な線を2本引いた。引いた2本の線の間に存在する粒子の合計面積S
Zと、プリプレグの厚さ全体にわたって存在する粒子の合計面積S
Z0とを求めた。S
Z0に対するS
Zの比率(質量%)を、プリプレグの厚さ方向に対して、両方の主面のそれぞれに最も近い位置にある炭素繊維よりも内側に存在している粒径1μm以下の導電性粒子の存在率とした。粒子の合計面積は、断面写真から刳り抜いた粒子部分の質量から換算して求めた。マトリックス樹脂中に分散する粒子の写真撮影後の判別が困難な場合は、粒子を染色する手段を用いた。あるいは、SEM−EDXやTEMの手段を用いた。
【0087】
(3)炭素繊維強化複合材料の衝撃後圧縮強度測定
一方向プリプレグを、[+45°/0°/−45°/90°]
3Sの構成で、擬似等方的に24プライ積層した。この積層体をオートクレーブにて、180℃の温度で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分で成形して25個の平板状の炭素繊維複合材料を作製した。これらの各複合材料から、縦150mm×横100mm(厚さ4.5mm)のサンプルを切り出し、SACMA SRM 2R−94に従い、サンプルの中心部に6.7J/mmの落錘衝撃を与え、衝撃後圧縮強度を求めた。
【0088】
(4)炭素繊維強化複合材料の導電性測定
一方向プリプレグを、それぞれ[+45°/0°/−45°/90°]
2Sの構成で、擬似等方的に16プライ積層した。この積層体をオートクレーブにて、180℃で2時間、0.59MPaの圧力下、昇温速度1.5℃/分の条件で成形して、25個の平板状の炭素繊維強化複合材料を作製した。これらの各複合材料から、縦40mm×横40mm(厚さ3.0mm)のサンプルを切り出し、両表面の樹脂層をサンドブラスターにより除去後、両面に導電性ペースト“ドータイト(登録商標)”D−550(藤倉化成(株)製)を塗布して、導電性評価用のサンプルを作製した。これらのサンプルの積層方向の抵抗を、アドバンテスト(株)製R6581デジタルマルチメーターを用いて四端子法により測定し、測定値を炭素繊維複合材料の体積固有抵抗とした。
【0089】
(5)炭素繊維の層間の導電性の粒子と、それぞれの炭素繊維との接触の判定
(4)で作製した炭素繊維強化複合材料を炭素繊維の層と炭素繊維の層が観察できるよう積層方向とは垂直に切断した。その断面を研磨後、レーザー顕微鏡(KEYENCE VK−9510)で200倍以上に拡大し炭素繊維の層と炭素繊維の層が2層以上視野内に納まるようにして写真撮影した。同様の操作から導電性の粒子が存在する100箇所を任意に選択した。導電性の粒子は、平均粒径よりも小さい粒径の断面で切断される確率が高いため、導電性の粒子を平均粒径のサイズとみなし、そのサイズの導電性の粒子がそれぞれの炭素繊維と接する、あるいは、交差するとき、それらは接触しているとして接触の有無を判定した。判定基準として、導電性の粒子100個の内、導電性の粒子が層間の上面の炭素繊維と下面の炭素繊維の両方で接している数が、70個以上(70%以上)の場合はAAA、69個〜50個(50%以上70%未満)の場合はAA、49個〜30個(30%以上50%未満)の場合はA、3個〜29個(3%以上30%未満)の場合はB、2個以下(3%未満)の場合はCとした。
【0090】
(実施例1)
[第1の樹脂の調製]
混練装置内で、エポキシ樹脂である50質量部の“jER”825および50質量部のELM434の混錬物に、10質量部のPES5003Pを加え、エポキシ樹脂中に溶解させた。その後、樹脂を混錬しながら、1質量部の三菱カーボンブラック #3030Bを加え、さらに40質量部の4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを加えて、第1の樹脂を調製した。
【0091】
[第2の樹脂の調製]
混練装置内で、エポキシ樹脂である50質量部の“jER”825および50質量部のELM434の混錬物に、10質量部のPES5003Pを加え、エポキシ樹脂中に溶解させた。その後、樹脂を混錬しながら、20質量部のエポキシ変性ナイロン粒子Aおよび1.5質量部の“NICABEADS”ICBを加え、さらに40質量部の4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを加えて、第2の樹脂を調製した。
【0092】
[プリプレグの作製]
第1の樹脂を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して、単位面積当たりの質量が31.5g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製した。次に2枚の樹脂フィルムを、シート状に一方向に配列させた炭素繊維(T800S−24K−10E)の両面から重ね、加熱および加圧により第1の樹脂を炭素繊維に含浸させて、炭素繊維の単位面積当たりの質量が190g/m
2で、マトリックス樹脂の質量分率が24.9%である一次プリプレグを作製した。
続いて、第2の樹脂を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して、単位面積当たりの質量が20.5g/m
2の樹脂フィルムを2枚作製した。この2枚の樹脂のフィルムを、上記一次プリプレグの両面から重ねて、加熱および加圧により第2の樹脂を炭素繊維に含浸させて、二次プリプレグを作製した。得られた二次プリプレグの単位面積当たりの炭素繊維の質量は190g/m
2で、マトリックス樹脂の重量分率は35.4%であった。
【0093】
[評価]
得られたプリプレグ(二次プリプレグ)を用い、プリプレグの両方の表面それぞれから20%の深さの範囲に存在する粒径5μm以上の導電性粒子の存在率Xおよび熱可塑性樹脂粒子の存在率Y、プリプレグの厚さ方向に対して、両方の主面のそれぞれに最も近い位置にある炭素繊維よりも内側に分布している粒径1μm以下の導電性粒子の存在率Zを、上記「2.(1)」、「2.(2)」項の方法により測定した。さらに、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を作製し、上記「2.(3)」、「2.(4)」又は「2.(5)」の方法により、衝撃後圧縮強度、導電性(体積固有抵抗)および炭素繊維の層間の導電性の粒子と、それぞれの炭素繊維との接触の判定を記載の通り実施した。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例2〜20)
第1の樹脂および第2の樹脂の各原料の種類および配合比を表1〜6に示す通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、二次プリプレグを作製した。作製した二次プリプレグを用いて、実施例1と同様にして各種測定および評価を行った。結果を表1〜6にまとめて示す。
【0095】
(実施例21)
[第1の樹脂の調製]
実施例1と同様にして第1の樹脂を調製した。
[第2の樹脂の調製]
実施例1と同様にして第2の樹脂を調製した。
[プリプレグの作製]
実施例1と同様にして一次プリプレグを作成した。続いて、第2の樹脂を、ナイフコーターを用いて離型紙上に塗布して、単位面積当たりの質量が41g/m
2の樹脂フィルムを1枚作製した。この1枚の樹脂のフィルムを、上記一次プリプレグの片面から重ねて、加熱および加圧により第2の樹脂を炭素繊維に含浸させて、二次プリプレグを作製した。得られた二次プリプレグの単位面積当たりの炭素繊維の質量は190g/m
2で、マトリックス樹脂の重量分率は35.4%であった。
【0096】
[評価]
得られたプリプレグ(二次プリプレグ)を用い、プリプレグの第2の樹脂を重ねた側の主面から20%の深さの範囲に存在する粒径5μm以上の導電性粒子の存在率Xおよび熱可塑性樹脂粒子の存在率Y、プリプレグの厚さ方向に対して、両方の主面のそれぞれに最も近い位置にある炭素繊維よりも内側に分布している粒径1μm以下の導電性粒子の存在率Zを、上記「2.(1)」、「2.(2)」項の方法により測定した。さらに、プリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を作製し、上記「2.(3)」、「2.(4)」又は「2.(5)」の方法により、衝撃後圧縮強度、導電性(体積固有抵抗)および炭素繊維の層間の導電性の粒子と、それぞれの炭素繊維との接触の判定を記載の通り実施した。プリプレグは、プリプレグの粒子層を片面のみに存在させるため、粒子層が存在する面が同じ方向に向くようにプリプレグを積層した。結果を表6に示す。
【0097】
(比較例1〜12)
第1の樹脂および第2の樹脂の各原料の種類および配合比を表7〜10に示す通りに変更したこと以外は実施例1と同様にして、二次プリプレグを作製した。作製した二次プリプレグを用いて、実施例1と同様にして各種測定と評価を行った。結果を表7〜10にまとめて示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
【表4】
【0102】
【表5】
【0103】
【表6】
【0104】
【表7】
【0105】
【表8】
【0106】
【表9】
【0107】
【表10】
【0108】
表1〜6に示すように、実施例で製作したプリプレグはいずれも、粒子の存在率X、Yは、それぞれ90質量%を超えていた。すなわち、粒径5μm以上の導電性粒子および熱可塑性樹脂の粒子が、プリプレグの厚さ方向において、プリプレグの表層に偏って分布していた。また、粒子の存在率Zは90質量%を超えていた。すなわち、粒径1μm以下の導電性粒子のうち90質量%が、プリプレグの厚さ方向において、プリプレグの両方の主面のそれぞれに最も近い位置にある炭素繊維よりも内側に分布していることが確認された。
【0109】
以上の実験結果から明らかなように、粒径が1μm以下の第1の導電性粒子(C1)を含む第1の樹脂、および粒径が5μm以上の第2の導電性粒子(C2)を含む第2の樹脂を用いて作製した各実施例のプリプレグによれば、高い導電性を有する炭素繊維複合材料を製造することができる。さらには、第2の導電性粒子(C2)と熱可塑性樹脂の粒子との相乗的な効果により、優れた耐衝撃性が達成されることが確認された。