特許第5903391号(P5903391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5903391
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月13日
(54)【発明の名称】摺動部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 3/30 20060101AFI20160331BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20160331BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20160331BHJP
【FI】
   B32B3/30
   B05D5/00 B
   B05D7/24 303H
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-21779(P2013-21779)
(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2014-151499(P2014-151499A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2014年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正友
(72)【発明者】
【氏名】柴田 正人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英司
(72)【発明者】
【氏名】太田 佳吾
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−001384(JP,A)
【文献】 特開平04−083914(JP,A)
【文献】 特開平11−106779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00〜 43/00
B05D 1/00〜 7/26
C10M101/00〜177/00
C10N 10/00〜 80/00
F04B 39/00〜 39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位面積あたりのエネルギー強度が0.053J/mm2以上であるレーザ光を連続的に照射して、垂直方向に凹凸部を基材に形成し、
前記基材の前記凹凸部上に溶解、凝固した一部を形成し、
前記基材の一部は、粒状、直方体、ひし形を含む不均質な形状であり、
前記基材上に固体潤滑剤及びバインダー樹脂を含む樹脂膜を形成することを特徴とする摺動部材の製造方法。
【請求項2】
前記凹凸部の凹部は、前記基材の垂直方向に深さが45μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材の製造方法。
【請求項3】
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン(MoS2)、グラファイト、h−BN、二硫化タングステン(WS2)、Pb、CFのいずれかで1種から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材及びその製造方法並びに摺動部材を用いたコンプレッサ用斜板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の摺動部材では、アルミニウム、鉄又は銅などの金属からなる基材にショットブラストやレーザ光を照射して基材表面を粗面化し、粗面化した基板上に樹脂などを形成することが行われていた。
【0003】
しかし、従来の摺動部材では、基材表面にショットブラストやレーザ光を照射して粗面化して、粗面化した基材上に樹脂などを形成しても、粗面化した基材と基材上に形成した樹脂との密着力が十分ではなく、基材から樹脂が剥離することがあった。
【0004】
基材にレーザ光を照射することで基材表面を粗面化して樹脂が剥離しないようにする方法として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1に記載された母材表面をレーザ照射で粗面化して樹脂が剥離しないようにする方法では、母材表面に照射するレーザ光の照射率を44%以上にして、母材表面を粗面化し、粗面化した母材表面に樹脂をコーティングして樹脂が剥離しないようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−289963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の母材表面にレーザ照射をして母材表面を粗面化する方法では、母材の垂直方向に対する凹みが十分ではなく、母材にコーティングする樹脂とのアンカー効果が得られないため、母材からコーティングした樹脂が剥離し、母材と樹脂との密着力が不十分となるとともに、過酷な負荷条件下では母材と樹脂との密着に対する耐久性が不十分であった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、基材に単位面積あたりのエネルギー強度を最適化したレーザ光を照射することで、基材の垂直方向に対する凹部を、基材上に形成する樹脂膜が剥離しない最適な深さに設定することで、基材と樹脂との密着力を向上させるとともに、過酷な負荷条件下でも長時間の摺動に対して基材から樹脂膜の剥離が起こらない優れた耐久性を有する摺動部材及びその製造方法並びに摺動部材を用いたコンプレッサ用斜板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る摺動部材の製造方法は、単位面積あたりのエネルギー強度が0.053J/mm以上であるレーザ光を連続的に照射して、垂直方向に凹凸部を基材に形成し、前記基材の前記凹凸部上に溶解、凝固にした一部を形成し、前記基材上に固体潤滑剤及びバインダー樹脂を含む樹脂膜を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基材に単位面積あたりのエネルギー強度を最適化したレーザ光を照射することで、基材の垂直方向に対するに凹部を、基材上に形成する樹脂膜が剥離しない最適な深さに設定することで、基材と樹脂との密着力を向上させるとともに、過酷な負荷条件下でも長時間の摺動に対して基材から樹脂膜の剥離が起こらない優れた耐久性を有する摺動部材及びその製造方法並びに摺動部材を用いたコンプレッサ用斜板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る摺動部材の製造方法を示す概略断面図である。
図2】(a)及び(b)は、図1(b)に示した基材の垂直方向に対する形状を示す概略断面図である。
図3】(a)〜(d)は、図1(b)に示した基材の凹凸部の形状を示す概略平面図である。
図4】本発明の実施形態に係る摺動部材を用いたコンプレッサ用斜板を示す概略断面図である。
図5】(a)及び(b)は、本発明の実施例1に係る摺動部材を用いたコンプレッサ用斜板を示す概略断面図である。
図6】比較例1に係る基材の凹凸部上に形成される基材の一部を示す概略表面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1(a)〜(c)は、本発明の実施形態に係る摺動部材10の製造方法を示す概略断面図である。図1(c)に示すように、本発明の実施形態に係る摺動部材10は、レーザ光の照射により凹凸部13が形成された基材11と、基材11上に形成された樹脂膜12と、を有する。
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る摺動部材10の製造方法について説明する。図1(a)に示すように、まず基材11を準備する。基材11は、油脂などの不純物を除くために洗浄してもよいが、そのあとの工程で、基材11の全面にレーザ光を照射するため洗浄しなくてもよい。レーザ光が照射される基材11の材質は、特に限定されず、鉄系、アルミニウム系、銅系の金属材料やアルミニウム、銅等を固着、接合させた複合材料等を用いてもよい。また基材11は特に平板に限らず、円筒物や特殊曲面を有するものでもよい。基材11の厚さは、0.5mm以上であることが好ましい。この厚さを有する基材11を用いることで、レーザ光を照射したときに貫通することがなく、かつ、基材11上に形成される樹脂膜12を隙間なく容易に形成することができる。
【0015】
次に、図1(b)に示すように、基材11に単位面積あたりの所望のエネルギー強度を有するレーザ光を照射することで例えば正弦波状の凹凸部13が形成される。正弦波の凹凸部13は、基材11にレーザ光を連続的に照射することで凹部131が形成され、レーザ光を照射しない範囲を所望の距離設けることで凸部132が形成される。凸部132は、照射するレーザ光を所望の距離離隔することで、レーザ光を照射したときに、レーザ光の基材11の一部が積層されて形成される。凹凸部13は、後述するように、基材11に対して照射されるレーザ光の位置を変えることで様々な形状の凹凸部13が形成される。
【0016】
ここで、基材11に照射するレーザ光について説明する。レーザ光を用いたレーザ加工は、被加工物に工具等接触させずに、微細な加工を精度良く行うことができる。基材11に照射するレーザ光は、例えば、YAGレーザ、半導体レーザ、液体レーザ、気体レーザのいずれかを選択して用いてもよいが、その中でも特に加工性からYAGレーザを用いることが好ましい。
【0017】
本発明の実施形態に係る基材11の凹凸部13は、レーザ光の単位面積あたりのエネルギー強度を最適化して基材11に照射することで、凹凸部13上に溶解、凝固した基材の一部14が形成される。ここで、凹凸部13上に基材の一部14が形成されるとは、基材11にレーザ光を所望のエネルギー強度で照射することで、基材11が溶解、凝固して付着したものや、基材11に付着せずに、基材11から伸びて凝固したものをいう。レーザ光の単位面積あたりのエネルギー強度は、基材11の垂直方向に対して後述する深さを有する凹凸部13を形成し、かつ、その凹凸部13上に基材11の一部14が形成されるような強度であることが好ましい。レーザ光の単位面積あたりのエネルギー強度は、0.053J/mm以上であることが好ましい。レーザ光の強度が単位面積あたり0.053J/mm未満だと、基材11に凹凸部13が形成されないばかりか、基材11の凹凸部13上に基材の一部14が形成されなくなってしまう。レーザ光の単位面積あたりのエネルギー強度を0.053J/mm以上にすることによって、基材11に凹凸部13を形成するとともに、基材11の凹凸部13上に基材の一部14が形成され、この基材の一部14に樹脂膜12(後述する)が入り込みアンカー効果が発揮され、基材11と樹脂膜12との密着力を向上させる。なお、図1図3では、説明の便宜上、基材の一部14は粒状で示しているが、基材の一部14は粒状でなくてもよい。
【0018】
基材11の全面に単位面積あたりのエネルギー強度が0.053J/mm以上であるレーザ光を照射して形成される凹凸部13の凹部131は、基材11の垂直方向に45μm以下の深さを有することが好ましい。基材11の垂直方向の深さが45μmを超えると、基材11の凹凸部13の全面に樹脂膜12が充填されなくなり、凹凸部13上の基材の一部14による樹脂膜12とのアンカー効果が得られず、密着力が低下する。
【0019】
レーザ光は、凹凸部13の凹部131を形成するときに、レーザ光のスポット径を1/4程度重なるように連続して照射する。レーザ光のスポット径を重なるように照射することで、凹凸部13の凹部131及び凹凸部13上に形成される基材の一部14を制御することができる。また、凹凸部13の凸部132は、レーザ光を照射しない範囲を、例えば、レーザ光のスポット径中心から1μm以上80μm以下に離隔して形成することが好ましい。レーザ光を照射しない範囲を1μm以上80μm以下に設定することで、基材11に形成される凹凸部13及び基材11上に形成される基材の一部14を制御でき、基材11と樹脂膜12との密着力を向上させることができる。なお、基材11と樹脂膜12との密着力が低下しなければ、レーザ光を照射しない範囲を設けずに、レーザ光を重ねて照射してもよい。
【0020】
ここで、基材11に単位面積あたりの所望のエネルギー強度を有するレーザ光を照射することで形成される垂直方向に対する凹凸部13の形状について説明する。図2(a)及び(b)は、図1(b)に示した基材11の凹凸部13の別の形状を示す概略断面図である。図2(a)に示すように、基材11の凹凸部13は、矩形波状に形成してもよい。また、図2(b)に示すように、ノコギリ波状に形成してもよい。基材11の凹凸部13の形状は、単位面積あたりの所望のエネルギー強度を有するレーザ光を制御することで所望の形状で形成することができ、これらの形状は、凹凸部13を有する基材11上に樹脂膜12を形成するとき、基材11の全面に樹脂膜を充填できれば、特に限定されるものではない。
【0021】
単位面積あたりのエネルギー強度が0.053J/mm以上であるレーザ光を照射して基材11の凹凸部13上に付着する基材の一部14は、粒状、直方体、ひし形を含む不均質な形状であることが好ましい。基材の一部14が、粒状、直方体、ひし形を含む不均質な形状を有することによって、基材11上に形成する樹脂膜12が基材11の凹凸部13上に形成される基材の一部14に入り込みアンカー効果を発揮し、過酷な条件下でも十分な密着力を得ることができる。また、この基材11の凹凸部13上に形成される基材の一部14は、レーザ光の強度を単位面積あたり0.053J/mm以上にすることで、基材の一部14の大きさ及び箇数を制御することができる。この基材の一部14の大きさは15μm以下であり、基材の一部14の箇数は単位面積あたり75個/mm以上であることが好ましい。この範囲から外れると、アンカー効果が得られず、基材11と樹脂膜12との密着力が低下する。
【0022】
図3(a)〜(d)は、図1(b)に示した凹凸部13を示す平面図である。図3(a)〜()に示すように、レーザ光の照射は、基材11に凹凸部13を形成することができれば、どんな形状であってもよい。凹凸部13の形状は、例えば、図3(a)に示すようにストライプ状、図3(b)に示すように千鳥状、図3(c)に示すように波状、図3(d)に示すように渦巻状であってもよく、樹脂膜13との密着力を確保できれば、基材11にレーザ光を照射して形成される凹凸部13の形状は特に限定されない。
【0023】
次に、図1(c)に示すように、凹凸部13を形成した基材11上に樹脂膜12を形成する。樹脂膜12は、固体潤滑剤とバインダー樹脂とからなる皮膜である。本発明の実施形態に用いることができる固体潤滑剤としては、特に限定されないが、二硫化モリブデン(MoS)、グラファイト、h−BN、二硫化タングステン(WS)、ポリ四フッ化エチレン(以下、PTFEと称する)、フッ素系樹脂、Pb、CF等が挙げられる。これらの固体潤滑剤は、摩擦係数を低く且つ安定にする作用とともに、焼付きを防止する作用を有する。これらの作用を十分に発揮させるため、固体潤滑剤の平均粒径は15μm以下であることが好ましく、特に0.2μm〜10μmであることが好ましい。
【0024】
固体潤滑剤は1種また複数種を合わせて用いてもよい。これらの固体潤滑剤は、摩擦係数を低く且つ安定にする作用とともに、焼付きを防止する作用を有する。また樹脂膜12の材料中に含まれる固体潤滑剤の含有量は好ましくは10質量%〜80質量%、より好ましくは40質量%〜60質量%であり、含有量がその範囲にあることにより摩擦特性や耐摩耗性に優れた固体潤滑剤の膜となる。
【0025】
バインダー樹脂は特に限定されないが、耐熱性の高いものが好ましく、例えばポリアミドイミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド(ナイロン)、フッ素樹脂(PTFE,FEP等)、エラストマ等が挙げられる。これらのバインダー樹脂は固体潤滑剤の保持及び耐摩耗性の付与を有する。バインダー樹脂の樹脂膜12への含有量は10質量%〜80質量%であることが好ましい。含有量がこの範囲にあることにより樹脂膜中の固体潤滑剤の保持性が維持され、固体潤滑剤の保持及び耐摩耗性の付与を得ることができる。
【0026】
また樹脂膜12の材料は、上記以外にも添加剤を含んでもよい。例えばAl、Si、TiO及びSiO等の硬質粒子や極圧剤が挙げられる。
【0027】
樹脂膜12の基材11表面への形成方法は特に限定されないが、例えば、凹凸部13を有する基材11表面に樹脂膜12の材料を混合してスプレーで塗布後、150℃〜300℃で乾燥、焼成することによって形成してもよい。スプレー塗装法(例えばエアスプレー、エア静電塗装等)の他に、タンブリング法、浸漬法、はけ塗り法、ロール型法等を用いてもよい。樹脂膜12の厚みは1μm〜50μmであることが好ましい。
【0028】
基材11上に形成された樹脂膜12は、その摺動面に開口する油溜まりとなる複数の穴を有してもよい。穴の開口面の形状は、特に限定されない。例えば円形、楕円形、多角形等であってもよい。この穴は、上述したYAGレーザを用いて形成してもよい。また穴の深さは5μm以上40μm以下であることが好ましい。この範囲の深さを有することにより、潤滑油等の流出を抑え、潤滑油、異物などを保持することができる。また上記穴の深さは、樹脂膜12の厚みより小さいことが望ましい。また穴は必ずしも摺動面全体に形成されている必要はなく、摺動時に力のかかる特定部位に形成されていてもよい。
【0029】
また、基材11上に形成された樹脂膜12は、初期なじみ性を向上させ、厳しい摺動条件下においても優れた摺動特性を有するようにするため、隣接する溝が山部を形成してもよい。この場合、隣接する溝が山部を形成していればよく、溝の谷部形状については特に限定されない。潤滑油を確保することができればよく、例えば、半円状、三角形状、台形状等が挙げられる。山部の形成率が高く、初期の接触面圧が高くなるため、摩耗、変形が生じやすく、初期なじみ性が良好に達成できる点で、半円状、三角形状が好ましい。特に半円状は、潤滑油を多く確保できるため好ましい。
【0030】
周溝の深さ及びピッチは特に限定されず、基材の形状や大きさ、及び必要とする摺動特性などによって適宜設定する。周溝の深さは、通常1μm〜20μm、特に1μm〜7μmが好ましい。周溝のピッチは、通常0.05μm〜1mm、特に0.1μm〜0.5mmが好ましい。また、摺動表面において、周溝の深さ又はピッチが全て均等である必要はなく、周速差や摺動特性の差等に応じて、摺動表面上で暫時変化させてもよい。
【0031】
次に、本発明の実施形態に係る摺動部材10をコンプレッサ40用の斜板17として用いた例について説明する。図5は、本発明の実施形態に係る摺動部材10を斜板に用いたコンプレッサ40を示す概略断面図である。図5に示すように、本発明の実施形態に係る摺動部材10を斜板に用いたコンプレッサ40は、回転軸の外周部に傾斜して設けられた摺動部材10としての斜板17と、斜板17の外周部を包み込んで回転軸に沿って配置された一端の切り欠き部、一端の切り欠き部内に形成された一対の半球状の凹部を有するピストン20と、ピストン20の一対の半球状の凹部に配置された一対の半球状のシュー30、31と、を備える。
【0032】
本発明の実施形態に係る摺動部材10を用いたコンプレッサ用斜板は、摺動部材10に付着していた潤滑オイルが流通ガスによって洗い流される場合、すなわち貧潤滑下や無潤滑元などの過酷な状態であっても、樹脂膜12が基材11から剥離することなく用いることができる。また、運転初期の表面に潤滑油等がない状態でも油溜まりとなる穴内に保持された潤滑油等がしみ出すことによって固体接触を低減し、耐焼き付け性を向上することができる。
【0033】
本発明の実施形態に係る摺動部材10は、過酷な状態で用いた場合でも、基材11と樹脂膜12との密着力を十分に確保できるとともに、初期なじみ性と樹脂膜の耐摩耗性を合わせ持つことができる。
【0034】
本発明の実施形態に係る摺動部材10は、例えばコンプレッサ40用の斜板17に用いることについて説明したが、基材11が例えば鉄系、アルミニウム系、銅系の金属材料である場合だけでなく、密着力を向上させることが必要なものであれば、上述したレーザ光を用いることができる。例えば本発明の実施形態に係る摺動部材10は、ピストン20、シュー30、31に用いてもよい。
【0035】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。まず、図1(a)〜(c)を参照して、本発明の実施例1に係る摺動部材10について説明し、次に、摺動部材10を用いたコンプレッサ用斜板について説明する。
【0036】
[実施例1]
本実施例1に係る摺動部材10は、図1(a)に示すように、厚さ6mmの鉄系の基材11を準備し、研磨加工し、油脂などの不純物などを除くため、洗浄した。
【0037】
次に、図1(b)に示すように、基材11に単位面積あたりのエネルギー強度が0.05J/mmのレーザ光を連続的に照射して、基材11の垂直方向に深さ2μmの凹部131を形成する。また、レーザ光のスポット中心からレーザ光を照射していない凸部132の頂点までの距離は60μmである。レーザ光を照射しない範囲は、凸部132の頂点を中心に形成し、基材11に凹凸部13及び凹凸部上に基材の一部14を形成した。ここで、本実施例において基材11に照射されるレーザ光は、YAGレーザ光である。
【0038】
基材11に形成された凹凸部13及び基材11の凹凸部13上に形成された基材の一部14について説明する。図5(a)は、本発明の実施例1に係る基材11の凹凸部13上に形成される基材の一部14を示す概略表面図であり、(b)は、本発明の実施例1に係る基材11の凹凸部13上に形成される基材の一部14を示す概略表面図である。図5(a)及び(b)に示すように、基材11の凹凸部13上の基材の一部14は、レーザ光を単位面積あたりのエネルギー強度が0.05J/mmで基材11に照射することで、基材11の凹部131上に付着する場合や、基材11の凹部131上に液体がはねたときのようなものが凝固する。このときの基材の一部14は、凹凸部13上に単位面積あたり75個/mm形成された。この結果を表1に示す。
【0039】
次に、図1(c)に示すように、凹凸部13を形成した基材11上に樹脂膜12を形成した。樹脂膜12は、固体潤滑皮膜組成物として、二硫化モリブデン25質量%、グラファイト30質量%、市販のポリアミドイミド樹脂残部となるように原料を用意した。樹脂の溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを原料に添加して全体を混合し、ロール印刷法にて、レーザ光を照射して基材の一部14を含む凹凸部13の基材11上に被着し、60μmの厚さの樹脂膜12を形成した。その後、220℃にて1時間の焼成を行い、引き続いて旋盤でノーズR0.8のダイヤモンドチップを用い、送り速度0.16mmで切削加工し、周溝の深さ4μm、ピッチ0.16mmの周溝を形成した。これにより本実施例1に係る摺動部材10を形成した。
【0040】
[実施例2]
本実施例2に係る摺動部材10は、レーザ光の単位面積あたりのエネルギー強度が0.10J/mmを基材11に照射したこと以外は実施例1と同様の方法で形成した。このときの摺動部材10は、凹凸部13の垂直方向の深さが5μmであり、単位面積あたりの基材の一部14は、100個/mm形成された。この結果を表1に示す。
【0041】
[実施例3]
本実施例3に係る摺動部材10は、レーザ光の単位面積あたりのエネルギー強度が0.24J/mmを基材11に照射したこと以外は実施例1と同様の方法により摺動部材10形成した。このときの摺動部材10は、凹凸部13の垂直方向の深さが10μmであり、単位面積あたりの基材の一部14は、7000個/mm形成された。この結果を表1に示す。
【0042】
[実施例4]
本実施例4に係る摺動部材10は、レーザ光の単位面積あたりのエネルギー強度が0.34J/mmを基材11に照射したこと以外は実施例1と同様の方法により摺動部材10形成した。このときの摺動部材10は、凹凸部13の垂直方向の深さが15μmであり、単位面積あたりの基材の一部14は、8000個/mm形成された。この結果を表1に示す。
【0043】
[比較例1]
レーザ光は、単位面積あたりのエネルギー強度が0.04J/mmを基材11に照射したこと以外は実施例1と同様の方法により摺動部材10を形成した。ここで、図6は、比較例1に係る基材11の凹凸部13上に形成される基材の一部14を示す概略表面図である。図6に示すように、基材11の凹凸部13上の基材の一部14は、レーザ光を単位面積あたりのエネルギー強度が0.04J/mmで基材11に照射することで、基材11の凹部131上に液体が輪のようなものが凝固する。このときの摺動部材10は、凹凸部13の垂直方向の深さが1μmであり、単位面積あたりの基材の一部14は、0個/mm形成された。この結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
本実施例1〜4及びに比較例1に係る摺動部材10をコンプレッサ用の斜板として用いて、下記の条件で剥離試験及び摩耗試験を行った。そのときの結果を表2に示す。
試験形態:3シュー/平板
回転数:7200rpm
荷重:1735N
潤滑:冷媒/冷凍機油混合、コンプレッサ吸入雰囲気
相手材:シュー(SUJ2焼入れ)
【0046】
【表2】
【0047】
表2に示すように、本実施例1〜4は、基材11に照射されるレーザ光の単位面積あたりのエネルギー強度を調整することによって、基材11の凹凸部13上に基材の一部14が形成されることで、密着力が向上するとともに、初期なじみ性が向上し、摩擦特性がよく、耐摩耗性が優れたことがわかる。一方、比較例1は、密着力が得られず、樹脂層の剥離が発生していることがわかる。
【符号の説明】
【0048】
10…摺動部材、11…基材、12…樹脂膜、13…凹凸部、14…基材の一部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6