特許第5910278号(P5910278)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5910278
(24)【登録日】2016年4月8日
(45)【発行日】2016年4月27日
(54)【発明の名称】光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/027 20060101AFI20160414BHJP
【FI】
   C03B37/027 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-95857(P2012-95857)
(22)【出願日】2012年4月19日
(65)【公開番号】特開2013-220988(P2013-220988A)
(43)【公開日】2013年10月28日
【審査請求日】2015年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越水 成樹
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−072469(JP,A)
【文献】 特開2007−063086(JP,A)
【文献】 特表2001−524441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ用母材を軟化させて線引きすることにより得られたガラスファイバを、冷却ガスの流れる冷却装置の中を通過させて冷却した後、前記ガラスファイバの外周に被覆層を形成して光ファイバを製造する方法であって、
一対の冷却装置本体を有する開閉可能な半割り構造の冷却装置を用い、前記冷却ガスを流し始めてから前記冷却装置を閉じ、
前記冷却ガスを流し始める際に、前記ガラスファイバに当たる冷却ガスの流速を漸増させることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバの製造方法であって、
前記冷却ガスの流量を漸増させることを特徴とする光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用母材から線引きされるガラスファイバを冷却した後、ガラスファイバの外周に被覆層を形成して光ファイバを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ファイバは、石英等の材料で製造された光ファイバ用母材の下端側を加熱して軟化させ、この軟化させた部分に張力をかけて引き伸ばすことで細径化されたガラスファイバとし、さらにその周囲に樹脂を被覆することにより得られる。この光ファイバ用母材を細径化して光ファイバとする工程は、線引きと呼ばれ、線引きされた光ファイバは、キャプスタンローラ等の引き取り手段によりそのパスラインの下流側に引き取られてボビン等に巻き取られる。
【0003】
上記のように光ファイバを製造する際には、光ファイバ用母材から引き伸ばしたガラスファイバを冷却装置内へ通し、この冷却装置で、例えば、ヘリウムガス等の熱伝達率の高い冷却ガスをガラスファイバへ吹き付けることで強制的に冷却している(例えば、特許文献1〜3参照)。また、ガラスファイバを冷却する冷却装置としては、相互に突き合わされることによりガラスファイバが挿通可能な挿通孔を形成する一対の冷却装置本体を備えた半割り構造のものが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−153541号公報
【特許文献2】特開平11−130458号公報
【特許文献3】特開平11−171582号公報
【特許文献4】特開2007−63086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラスファイバを冷却する効率を高めるためには、ガラスファイバが挿通される冷却装置の挿通孔の径を小さくすることが有効である。
但し、線引き開始時には、光ファイバ用母材から溶融させたガラスを自重で下方へ延ばした落とし種と呼ばれる部分をパスラインに掛けていく工程があり、冷却装置の挿通孔の径を単に小さくすると落とし種を通すことができない。また、線引き開始時では線速が低速であり、線振れが大きい。
【0006】
このため、特許文献4に記載の技術のように、冷却装置を半割り構造にして、ガラスファイバの線引き開始からしばらくは冷却装置を開いた状態にして挿通孔を大きい状態にしておき、定常線速となる前に冷却装置を閉じて、冷却を開始する方法が採用されている。
【0007】
しかしながら、ガラスファイバを冷却するために冷却ガスの噴出を開始すると、噴出された冷却ガスがガラスファイバへ急激に強く吹き付けられ、ガラスファイバに線振れが発生することがある。すると、ガラスファイバが冷却装置に接触して強度低下や断線等の不具合が生じることがある。
【0008】
本発明の目的は、強度低下や断線などの不具合なくガラスファイバを良好に冷却することが可能な光ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできる光ファイバの製造方法は、光ファイバ用母材を軟化させて線引きすることにより得られたガラスファイバを、冷却ガスの流れる冷却装置の中を通過させて冷却した後、前記ガラスファイバの外周に被覆層を形成して光ファイバを製造する方法であって、
前記冷却ガスを流し始める際に、前記ガラスファイバに当たる冷却ガスの流速を漸増させることを特徴とする。
【0010】
上記の光ファイバの製造方法において、一対の冷却装置本体を有する開閉可能な半割り構造の冷却装置を用い、前記冷却ガスを流し始めてから前記冷却装置を閉じることが好ましい。
【0011】
上記の光ファイバの製造方法において、前記冷却ガスの流量を漸増させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記の光ファイバの製造方法によれば、冷却装置から冷却ガスを流し始める際に、冷却ガスの流速を漸増させるので、ガラスファイバに冷却ガスが急激に強く吹き付けられることがない。したがって、ガラスファイバの線振れの発生を防止することができ、ガラスファイバが冷却装置に接触することによるガラスファイバの強度低下や断線等の不具合を防止し、ガラスファイバを良好に冷却して線引きすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】冷却装置を備えた光ファイバの製造装置の概略構成図である。
図2】開いた状態の冷却装置を示す図であって、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図3】閉じた状態の冷却装置を示す図であって、(a)は側面図、(b)は平面図である。
図4】冷却ガスの流し始めにおけるガラスファイバが受ける冷却ガスの流速を示すグラフである。
図5】冷却装置における冷却ガスの流出面積を概略的に示す図であって、(a)は冷却装置を開いた状態における一方の冷却装置本体の概略平面図、(b)は冷却装置を閉じた状態における一方の冷却装置の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る光ファイバの製造方法の実施の形態の例について説明する。
まず、本発明に係る光ファイバの製造方法が適用される光ファイバの製造装置の例について説明する。
【0015】
図1に示すように、光ファイバの製造装置1は、その最も上流側に、光ファイバ用母材Gを加熱する加熱炉2を備えている。加熱炉2は、内側に光ファイバ用母材Gが供給される円筒状の炉心管3と、この炉心管3を囲む発熱体4とを備え、発熱体4を発熱させることで炉心管3の内側の空間に光ファイバ用母材Gを軟化させる加熱領域が形成される。また、加熱炉2には、加熱領域にヘリウムや窒素等のパージガスを供給するガス供給部5が設けられている。
【0016】
光ファイバ用母材Gは、送り手段6によってその上部が支持されて、炉心管3の内側の加熱領域にその下端部分が位置するように加熱炉2内に送られる。このように、加熱炉2内に供給された光ファイバ用母材Gは、その下端側が加熱領域内で加熱されて軟化し、下方に引き伸ばされて細径化され、樹脂被覆前のガラスファイバG1が形成される。
【0017】
加熱炉2の下(下流側)には、ヘリウムガス等の冷却ガスを用いた冷却装置7が設けられており、加熱炉2を出た直後のガラスファイバG1は、この冷却装置7によって強制的に冷却される。これにより、ガラスファイバG1が数百℃から室温近くまで急速に冷却される。
【0018】
また、冷却装置7の下流側には、例えばレーザ光式の外径測定器8が設けられており、冷却装置7を出たガラスファイバG1は、この外径測定器8によりその外径が測定され、線引き時におけるガラスファイバG1の外径が管理される。
【0019】
外径測定器8の下流側には、ガラスファイバG1に紫外線硬化型樹脂を塗布するダイス9及び塗布された紫外線硬化型樹脂を硬化させるための紫外線照射装置10が順に設けられている。このダイス9及び紫外線照射装置10を通過したガラスファイバG1は、その外周に紫外線硬化型樹脂の被覆層が形成され、被覆付きの光ファイバG2とされる。
【0020】
その後、光ファイバG2は、ガイドローラ11,12を介してキャプスタン13に引き込まれ、スクリーニング装置14及びダンサローラ15,16を介して巻き取りボビン17に送られて巻き取られる。
【0021】
次に、上記の光ファイバの製造装置1に設けられた冷却装置7の構造を説明する。
図2及び図3に示すように、冷却装置7は、一対の冷却装置本体21A,21Bを備えた開閉可能な半割り構造とされている。各冷却装置本体21A,21Bは、互いに接近する方向および離れる方向へスライド可能である。そして、冷却装置7では、これらの冷却装置本体21,21Bが互いに離れる方向へ移動されることで隙間が形成された開状態となり、冷却装置本体21,21Bが互いに接近する方向へ移動されることで隙間なく突き合わされた閉状態となる。なお、ここでは一対(2分割)の例について説明するが、3分割(断面形状が三角形で、3方向で冷却装置が互いに接近したり離れたりする)や、4分割(断面形状が四角形で、4方向で冷却装置が互いに接近したり離れたりする)など、2分割以外の形態であってもよい。
【0022】
冷却装置本体21A,21Bは、互いの対向面側に、平面視半円弧状の凹部28が形成されており、冷却装置本体21A,21B同士が相互に突き合わされることにより、これらの凹部28によって挿通孔29が形成される。そして、この挿通孔29に、光ファイバ用母材Gから線引きされたガラスファイバG1が挿通される。
【0023】
冷却装置本体21A,21Bには、ガラスファイバG1に沿う長手方向の2箇所に、吹出口25A,25Bが設けられており、これらの吹出口25A,25Bには、ヘリウムガス等の冷却ガスを供給する冷却ガス供給管27A,27Bがそれぞれ接続されている。そして、各冷却装置本体21A,21Bでは、冷却ガス供給管27A,27Bから冷却ガスが供給されることで、各吹出口25A,25Bから挿通孔29の中心へ向かって冷却ガスを吹き出させる。
【0024】
上記の冷却装置7としては、例えば、次のようなものが用いられる。なお、本発明に係る冷却装置は、上記の形態および下記の形態のものに限定されない。例えば、吹出口は2つより多くてもよく、帯状に開口した形状であってもよい。また、挿通孔や吹出口の形状は四角など他の形状であってもよく、径も変更可能である。
【0025】
挿通孔29の径:直径5mm
ガラスファイバG1に沿う長さ寸法:5m
吹出口25A,25Bの径:直径5mm
各吹出口25A,25Bからの冷却ガスの1秒当たりの最大流量:12500mm
各冷却装置本体21A,21Bの移動距離:50mm
各冷却装置本体21A,21Bの移動速度:50mm/秒
【0026】
次に、上記構造の冷却装置7によるガラスファイバG1の冷却の仕方について説明する。
まず、冷却装置本体21A,21Bが開いた状態(図2参照)で、各吹出口25A,25Bから一定流量の冷却ガスを流し始める。
そして、このように冷却ガスを流し始めてから冷却装置本体21A,21Bを移動させて冷却装置7を閉じる。
このとき、各吹出口25A,25BがガラスファイバG1に近づいてくるため、ガラスファイバG1に当たる冷却ガスの流速は、漸増する。
【0027】
冷却装置7によるガラスファイバG1の冷却開始(冷却ガスの流出開始)後の時間に対するガラスファイバG1に当たる冷却ガスの流速の変化を、図4に示す。
【0028】
本実施形態では、図4中Aの場合のように、冷却装置7によるガラスファイバG1の冷却開始後に最大流速である636.6mm/秒とするまで、冷却ガスの流速を漸増させる。なお、このときの流速の最大変化の割合は、16062mm/秒である。
【0029】
また、冷却開始時に冷却装置7を開いておくことで、図5(a)に示すように、冷却ガスが流れる領域である流出面積Sは大きくなり、冷却開始後に各冷却装置本体21A,21Bを移動させて冷却装置7を閉じることで、図5(b)に示すように、流出面積Sは小さくなる。したがって、この流出面積Sは、冷却開始時から次第に減少することとなり、各冷却装置本体21A,21Bが突き合わされた状態では、冷却ガスは、挿通孔29内を上下方向だけに流れることとなる。
【0030】
図4中Bの場合のように、冷却装置本体21A,21B同士を互いに突き合わせて閉じた後に、吹出口25A,25Bから冷却ガスを突如として最大流速で噴出させると(流速がゼロから瞬時に最大になると)、ガラスファイバG1に冷却ガスが急激に強く吹き付けられることとなる。すると、ガラスファイバG1に線振れが生じる。この線振れにより、ガラスファイバG1が冷却装置7に接触して強度低下や断線等の不具合が生じることがある。
【0031】
これに対して、本実施形態によれば、冷却装置7から冷却ガスを流し始める際に、ガラスファイバG1に当たる冷却ガスの流速を漸増させるので、ガラスファイバG1に冷却ガスが急激に強く吹き付けられることがない。したがって、ガラスファイバG1の線振れの発生を防止することができ、ガラスファイバG1が冷却装置7に接触することによるガラスファイバG1の強度低下や断線等の不具合を防止し、ガラスファイバG1を良好に冷却して線引きすることができる。
【0032】
特に、各冷却装置本体21A,21Bを開いた状態で吹出口25A,25Bから冷却ガスを流し始めてから、冷却装置本体21A,21Bを移動させて半割り構造の冷却装置7を閉じることで、冷却ガスの流出面積を次第に小さくすることができる。これにより、ガラスファイバG1への冷却ガスの吹き付けの変化を緩やかにすることができる。
【0033】
なお、上記実施形態では、冷却装置本体21A,21Bを閉じる前に各吹出口25A,25Bから冷却ガスを流し始めて冷却ガスの流速を漸増させたが、冷却装置本体21A,21Bを閉じた後に各吹出口25A,25Bから冷却ガスを徐々に流し始めて冷却ガスの流速を漸増させても良い。
【0034】
この場合も、ガラスファイバG1に冷却ガスが急激に強く吹き付けられることがない。したがって、ガラスファイバG1の線振れの発生を防止することができ、ガラスファイバG1が冷却装置7に接触することによるガラスファイバG1の強度低下や断線等の不具合を防止し、ガラスファイバG1を良好に冷却して線引きすることができる。
【0035】
また、冷却ガスを流し始めてから冷却装置7を閉じることによりガラスファイバG1に当たる冷却ガスの流速を漸増させる場合、または冷却装置7を閉じてから冷却ガスを流し始めて冷却ガスの流速を漸増させる場合の何れの場合においても、冷却ガスの流量を漸増させることが好ましい。このようにすると、ガラスファイバG1への冷却ガスの吹き付けの変化をさらに緩やかにして、ガラスファイバG1の線振れの発生を防止することができ、ガラスファイバG1が冷却装置7に接触することによるガラスファイバG1の強度低下や断線等の不具合を防止し、ガラスファイバG1を良好に冷却して線引きすることができる。
【符号の説明】
【0036】
1:光ファイバの製造装置、7:冷却装置、21A,21B:冷却装置本体、25A,25B:吹出口、28:凹部、29:挿通孔、G:光ファイバ用母材、G1:ガラスファイバ、G2:光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5