【文献】
Hideharu NIWA et al.,X-ray photoemission spectroscopy analysis of N-containing carbon-based cathode catalysts for polymer,Journal of Power Sources,1 February 2011, Vol.196, No.3,pp.1006-1011
【文献】
F.F. KURP et al.,Electron momentum density of graphite from (γ,eγ) spectroscopy,Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B,1997, Vol.122,pp.269-273
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施態様を詳細に説明する。
(1)表面酸素濃度の測定
本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は、7940eVの硬X線を用いたHAX−PES測定により得られるO
1sのピーク強度において、粒子の表面から深さ方向に対し40nmまでの間の酸素量a(質量%)が、0.010≦a≦0.04である。
従来、材料の表面酸素濃度の測定はXPSにより行われていた。しかし、従来法では、材料表面から、せいぜい1〜2nm程度までの酸素濃度しか測定することができず、より深い部分の測定は非常に困難であった。しかし、負極材として使用する黒鉛材料においては、1〜2nm程度の深さの酸素濃度と、界面反応を主とする電池の初期効率との間には実質的に相関性がなく、実際にはもう少し深い部分の情報を入手する必要があった。最近SPring−8(大型放射光施設)等により高出力の光源を利用することが可能となり、この領域の酸素濃度を測定することが可能となった。
表面から深さ方向に対し40nmまでの間の酸素量aが0.010〜0.04質量%の範囲にある黒鉛材料は、高い放電容量を維持したまま初期効率を93%以上の材料を安定的に得ることができる。この理由は定かではないが、表面構造が所定の酸素量を含むことによりSEI膜が安定して生成できることによるものであり、酸素量が多すぎるとSEI膜生成時の副反応が増大し、逆に初期効率の低下をまねくものと考える。また、天然黒鉛のように酸素量が低すぎるとフレッシュで活性の高い黒鉛のエッジ部分が表面に多く露出していることから、かえって反応性が増し、初期効率は逆に低下してしまう。好ましい酸素量aの上限は0.040質量%であり、より好ましくは0.030質量%である。
人造黒鉛の表面酸素濃度は、製造の最終工程である黒鉛化工程での処理条件によって左右されると考えられる。
酸素量aの具体的測定方法は実施例の欄に記載した通りである。
【0015】
(2)結晶性
本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は、X線回折法による(002)面の平均面間隔d
002が0.3356〜0.3375nmであることが好ましく、さらに好ましくは0.3356〜0.3360nmである。また、結晶のC軸方向の厚さ(Lc)は30〜1000nmが好ましく、50〜200nmがより好ましく、80〜100nmがさらに好ましい。d
002及びLcは、既知の方法により粉末X線回折(XRD)法を用いて測定することができる(野田稲吉、稲垣道夫,日本学術振興会,第117委員会資料,117−71−A−1(1963)、稲垣道夫他,日本学術振興会,第117委員会資料,117−121−C−5(1972)、稲垣道夫,「炭素」,1963,No.36,25−34頁参照)。
平均面間隔d
002が0.3356〜0.3375nmにあることにより全体的に黒鉛の結晶性が高く、Lcが上記範囲にあることにより厚み方向の結晶子サイズが大きくなり、共にリチウムイオンがインターカレーション可能な空間が増すことが示される。
【0016】
(3)アスペクト比
本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は、その一次粒子の平均アスペクト比が、最大長Dmax/最大長垂直長DNmax(Dmax:粒子画像の輪郭上の2点における最大の長さ;DNmax:最大長に平行な2本の直線で画像を挟んだとき、2直線間を垂直に結ぶ最短の長さ)として、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましく、1.00〜1.32がさらに好ましく、1.00〜1.20が最も好ましい。粒子のアスペクト比を小さくすることで、大型電池に要求されるエネルギー密度を満たす高密度電極を作製することが可能となる。アスペクト比は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
(4)粒度
本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は、レーザー回折法により測定した体積基準の粒子径分布において平均粒子径(D50)が3〜20μmであることが好ましい。さらに好ましいD50は5〜18μmである。レーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばマルバーン製マスターサイザーが利用できる。
また、本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料には、粒径が0.5μm以下の粒子を実質的に含まないことが好ましい。0.5μm以下の粒子は、表面の活性ポイントが大きく、電池の初期効率を低下させる。ここで実質的に含まないとは粒径が0.5μm以下の粒子が0.1質量%以下であることを意味する。0.5μm以下の粒子の含有量は前記したようなレーザー回折式粒度分布測定装置により測定できる。
また、詰め粉の粒度の測定についても上記と同じ方法で測定した。
【0018】
(5)比表面積
本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は、BET比表面積が0.5〜4m
2/gであることが好ましく、0.6〜2m
2/gがより好ましく、0.8〜1.8m
2/gがさらに好ましい。比表面積が高すぎると、黒鉛粉末の表面活性が高くなり、電解液の分解等によって、初期効率が低下する傾向にある。さらには、電極に成形する際にバインダーを多く必要とし、バインダーによる黒鉛粒子の被覆率が高くなり、電池の放電容量が低下し易くなるので好ましくない。
【0019】
(6)嵩密度
本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は、ゆるめ嵩密度(0回タッピング)が0.7g/cm
3以上で、かつ400回タッピングを行った際の粉体密度(タップ密度)が0.8〜1.6g/cm
3であることが好ましい。さらに好ましくは、0.9〜1.6g/cm
3であり、最も好ましくは1.1〜1.6g/cm
3である。
ゆるめ嵩密度は、高さ20cmから試料100gをメスシリンダーに落下させ、振動を加えずに体積と質量を測定して得られる密度である。また、タップ密度は、カンタクローム製オートタップを使用して400回タッピングした100gの粉の体積と質量を測定して得られる密度である。
これらはASTM B527及びJIS K5101−12−2に準拠した測定方法であるが、タップ密度測定におけるオートタップの落下高さは5mmとした。
ゆるめ嵩密度が0.7g/cm
3以上であることにより、電極へ塗工した際の、プレス前の電極密度をより高めることが可能となる。この値により、ロールプレス一回で十分な電極密度を得ることが可能かどうかを予測できる。また、タップ密度が上記範囲内にあることによりプレス時に到達する電極密度が充分高くすることが可能となる。
【0020】
(7)黒鉛材料の製造方法
本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は、炭素原料を2000〜3300℃の熱処理をすることにより製造することができる。
炭素原料としては、例えば、石油ピッチ、石炭ピッチ、石炭コークス、石油コークス及びこれらの混合物から選択することが好ましく、その最大熱履歴が500〜1800℃であることが好ましい。中でも石油コークスが好ましく、原油を石油精製プロセスにおいて常圧、減圧蒸留してなる残渣や、熱分解タール等にしたものをコーキングしたものが使用できる。このような炭素原料の一例として、アスファルテン分と樹脂分の組成の合計が30〜80質量%、硫黄分が0.3〜6質量%の原油蒸留残渣を、コークスドラム前の加熱炉ヒーター出口温度を550〜580℃に制御したディレードコーキングを行ない得られたものが挙げられる。これは特許第4738553号(米国特許出願公開第2012/0045642号明細書)の請求項15に記載された炭素材料であり、詳しくはその明細書段落0039〜0044に記載されている。
【0021】
炭素原料は、不活性雰囲気下で300℃から1200℃まで加熱した際の加熱減量分(例えば、炭化に伴う炭化水素の揮発分)が5〜20質量%のものであることが好ましい。
この加熱減量分が5質量%未満のものでは粉砕後の粒子形状が板状になりやすい。また、粉砕面(エッジ部分)が露出しており比表面積が大きくなり副反応も多くなる。逆に20質量%を超えるものは黒鉛化後の粒子同士の結着が多くなり、収率に影響する。
【0022】
炭素原料は黒鉛化前に粉砕される。粉砕には公知のジェットミル、ハンマーミル、ローラーミル、ピンミル、振動ミル等が用いられる。粉砕はできるだけ熱履歴が低い状態で行うことが好ましい。熱履歴が低い方が、硬度が低く、粉砕が容易である上、破砕時の亀裂方向がランダムに近く、アスペクト比が小さくなりやすい。また、後の加熱プロセスで粉砕面に露出したエッジ部分が修復される確率が高まり、充放電時の副反応を低減できる効果がある。
粉砕した炭素原料はレーザー回折法により測定した体積基準の平均粒子径(D50)が3〜20μmになるように分級することが好ましい。D50が大きいと電極密度が上がりにくい傾向になり、逆に小さいと充放電時に副反応が起きやすくなる。なお、D50はマルバーン製マスターサイザーなどのレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
粉砕した炭素原料の平均アスペクト比は、1〜4が好ましく、1〜2がより好ましく、1.00〜1.32がさらに好ましく、1.00〜1.20が最も好ましい。アスペクト比は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
粉砕した炭素原料は、黒鉛化処理をする前に、非酸化性雰囲気下で500〜1800℃程度で低温焼成することができる。好ましい温度は800〜1500℃である。この低温焼成によって次に行う黒鉛化処理でのガス発生を低減させることができ、また、嵩密度を下げられることから黒鉛化処理コストも低減することが可能となる。
また、粉砕後の低温焼成に代わりに、粉砕前に800〜1500℃で予備加熱することもできる。
【0024】
(8)黒鉛化処理
黒鉛化処理としては、アチソン炉や黒鉛ヒーターを用いた炉で行うことができる。
人造黒鉛製造における工業的な黒鉛化処理は、人造黒鉛電極の製造に使用されるアチソン炉で行われることが多い。アチソン炉は、直方体の容器の中に詰め粉と呼ばれるコークス粒を詰め、この中に被加熱物を埋め込んで詰め粉に通電し、そこから発生するジュール熱で被加熱物を間接加熱することにより3000℃程度の温度を得て黒鉛化処理を行う。この場合、発熱した詰め粉が先に酸素の攻撃を受けることにより、内部の被加熱物は大気中の酸素の攻撃からある程度防御される。
【0025】
しかし、この詰め粉のコークス粒の大きさは、通常数mm〜数cmレベルである。この通常の条件下では酸素の攻撃が被加熱物にまで及ぶことから、表面から深さ方向に対し40nmまでの間の酸素量a(質量%)を0.010≦a≦0.04に制御することは非常に困難であった。その解消のため、本発明の一態様においては詰め粉を微細化し酸素の進入を遮断する。その場合の詰め粉の平均粒子径は、レーザー回折法による体積基準の平均粒子径(D50)が500μm以下、好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下である。ただ、制限なく細かくなった場合、飛散しやすく取り扱いが非常に難しくなるため、D50で2μm以上が好ましい。
また、D50が1μm以下となった場合、加熱時に発生したガス分が抜けにくくなり、爆発する可能性がある。
【0026】
詰め粉粒子のアスペクト比は、5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。アスペクト比を5以下とすることにより、ガス発生時の詰め粉の流動性が高くなり、急激なガス発生を抑制し、細かいガスを頻繁に発生させることが可能である。また、アスペクト比は1.2以上が好ましい。アスペクト比が1.2未満だと、詰め粉粒子の流動性が激しくなりすぎて加熱時に粉が噴出することがある。
【0027】
被加熱物を詰め粉に埋め込む厚さは、好ましくは20cm以上、さらに好ましくは25cm以上、最も好ましくは30cm以上である。さらに厚くしても問題はないが、あまり厚いと炉体の大きさに対して、熱処理できる粉の量が少なくなり、製造効率が低下する。
なお、ここでの厚さとは、アチソン炉の詰め粉の上表面から被加熱物上端までの距離だけではなく、アチソン炉の側壁及び底面から被加熱物までの距離をも含む。アチソン炉の壁材は多少の通気性がある(密閉機能がない)ため、酸素も透過する。すなわち、詰め粉の上表面から20cm以上の深さであって、アチソン炉の側壁及び底面から20cm以上離して埋め込むことが好ましい。
厚さが20cmを下回ると黒鉛化処理時に酸化されやすくなる。
詰め粉の物性としては、アチソン炉として通電できる程度の導電性があれば、特に制限はない。
【0028】
被加熱物は、蓋ができる容器に詰めることが一般的である。本発明の好ましい実施態様で使用できる容器としては3000℃程度の熱処理に耐えられる材料からなり、かつ被加熱物と著しい反応を起こす材料でなければ特に制限はなく、例えば黒鉛るつぼが挙げられる。また、詰め粉から被加熱物へのコンタミを問題としない場合には、容器を用いずに被加熱物を熱処理することも可能である。この場合は、被加熱物を埋めた深さ等のエリアを確認しておき、黒鉛化終了後に、そのエリアの粉を回収することにより黒鉛化した被加熱物を得ることが可能である。
また、条件が合えば、炉全体を被加熱物で満たし、通電・黒鉛化後に、当該エリアの粉を回収することにより、目的の表面酸素濃度の黒鉛化粒子を得ることもできる。この場合、被加熱物が詰め粉の役割をも果たす。
【0029】
黒鉛化処理を、黒鉛ヒーターを用いた炉で行う場合でも酸素量を調整しつつ加熱することが必要となる。黒鉛ヒーター炉では、通常純度99.99%以上のアルゴンガスが不活性ガスとして用いられる。これにより、黒鉛ヒーターの酸化消耗を抑制し、同時に被加熱物である黒鉛粉の酸化も低減されている。しかし、実際にこのような条件で熱処理を行っても、酸素量aを0.04質量%以下にすることは困難である。これは、置換ガスである高純度アルゴンには酸素はわずかに含まれるに過ぎないが、ガスを連続で流すため、酸素量が積算されて炭素粒子表面が酸化されるためと推定している。
【0030】
黒鉛ヒーターで行う場合の酸素量の調整は、例えば黒鉛るつぼを二重に用いて行うことができる。すなわち、黒鉛るつぼAに被加熱物を詰め、黒鉛るつぼAよりも大きな黒鉛るつぼBに黒鉛るつぼAを投入し、黒鉛るつぼAと黒鉛るつぼBとの間にできた空間一杯に、上記アチソン炉で使用したものと同じ詰め粉を詰めて蓋をし、それを黒鉛ヒーター炉に設置しアルゴン雰囲気下で加熱する方法である。上記の場合と同様に詰め粉により酸素による攻撃を低減させる。そのため、黒鉛るつぼAと黒鉛るつぼBとの隙間の距離(すなわち詰め粉を入れた厚み)が重要であり、距離が短いと被加熱物の表面酸素濃度は規定範囲上限の0.04質量%より高くなり、距離を大きくとりすぎると下限の0.01質量%を下回るため、その調整が必要である。距離は、黒鉛ヒーターの大きさ、詰め粉の大きさ、ガス中の酸素量、及びその他の条件に左右されるので一概に言えないが、通常1〜20cm程度である。
【0031】
黒鉛化処理温度の下限は、通常2000℃、好ましくは2500℃、さらに好ましくは2900℃、最も好ましくは3000℃である。黒鉛化処理温度の上限は特に限定されないが、高い放電容量が得られやすいという観点から、好ましくは3300℃である。
黒鉛化処理後は、黒鉛材料を解砕または粉砕しないことが好ましい。黒鉛処理化後に解砕または粉砕すると、滑らかになった表面が傷つき、性能が低下するおそれがある。
【0032】
(9)複合材・混合材
本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料は他の炭素材料で被覆して使用することができる。
例えば、前記黒鉛材料を構成する黒鉛粒子は、表面に光学等方性炭素によるコーティングを行うことができる。コーティングにより、充電時の入力特性を改善でき、大型電池要求特性が向上する。コーティング量は特に限定はないが、芯材に対し、0.1〜10質量%が好ましい。
コーティング方法は公知の技術が利用でき、特に制限されない。例えば、直径0.1〜1μmのコールタールピッチと黒鉛材料をホソカワミクロン製メカノフージョンを用いてメカノケミカル法により黒鉛粒子のコーティングを行い、非酸化性雰囲気下、800〜3300℃で加熱することにより表面に光学等方性炭素を形成する方法や、黒鉛粒子の少なくとも一部の表面に重合体を含む組成物を付着させ、非酸化性雰囲気下、800〜3300℃で熱処理することにより表面に光学等方性炭素を形成する方法などが挙げられる。前記重合体を含む組成物は、例えば、乾性油またはその脂肪酸及びフェノール樹脂を含む組成物を用いることができる。後者の方法は、例えば、特開2003−100293号公報(国際公開第03/028128号パンフレット)や特開2005−019397号公報(国際公開第2004/109825号パンフレット)に記載されている。
【0033】
また、本発明の好ましい実施態様における黒鉛粒子は、炭素繊維の一部が前記粒子表面に接着させることもできる。炭素繊維を黒鉛粒子表面に接着することで、電極中の炭素繊維の分散が容易となり、芯材である黒鉛粒子の特性との相乗効果で、サイクル特性と電流負荷特性がさらに高まる。炭素繊維の接着量は特に限定されないが、芯材である黒鉛材料に対し0.1〜5質量%が好ましい。
接着方法は公知の方法が利用でき、特に制限されない。例えば、直径0.1〜1μmのコールタールピッチと黒鉛材料と炭素繊維をホソカワミクロン製メカノフージョンを用いてメカノケミカル法により黒鉛粒子のコーティングと同時に炭素繊維の接着を行い、非酸化性雰囲気下、800〜3300℃で加熱することにより行うことができる。また、黒鉛粒子の少なくとも一部の表面に重合体を含む組成物を付着させ、これに繊維状炭素を混合し、重合体を含む組成物を介して黒鉛粒子に繊維状炭素を付着させ、次いで黒鉛粒子を、非酸化性雰囲気下、800〜3300℃で熱処理することにより行うことができる。前記重合体を含む組成物は、例えば、乾性油またはその脂肪酸及びフェノール樹脂を含む組成物を用いることができる。後者の方法は、例えば、特開2003−100293号公報(国際公開第03/028128号パンフレット)や特開2005−019397号公報(国際公開第2004/109825号パンフレット)に記載されている。
【0034】
炭素繊維としては、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維などの有機系カーボンファイバー、気相法炭素繊維などが挙げられる。これらのうち、特に、結晶性が高く、熱伝導性の高い、気相法炭素繊維が好ましい。炭素繊維を黒鉛粒子の表面に接着させる場合には、特に気相法炭素繊維が好ましい。
気相法炭素繊維は、例えば、有機化合物を原料とし、触媒としての有機遷移金属化合物をキャリアーガスとともに高温の反応炉に導入し生成し、続いて熱処理して製造される(特開昭60−54998号公報(米国特許第4572813号明細書)、特許第2778434号公報等参照)。その繊維径は2〜1000nm、好ましくは10〜500nmであり、アスペクト比は好ましくは10〜15000である。
炭素繊維の原料となる有機化合物としては、トルエン、ベンゼン、ナフタレン、エチレン、アセチレン、エタン、天然ガス、一酸化炭素等のガス及びそれらの混合物が挙げられる。中でもトルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素が好ましい。
有機遷移金属化合物は、触媒となる遷移金属を含むものである。遷移金属としては、周期律表第IVa、Va、VIa、VIIa、VIII族の金属が挙げられる。有機遷移金属化合物としてはフェロセン、ニッケロセン等の化合物が好ましい。
【0035】
炭素繊維は、気相法等で得られた長繊維を粉砕または解砕したものであってもよい。また、炭素繊維はフロック状に凝集したものであってもよい。
炭素繊維は、その表面に有機化合物等に由来する熱分解物が付着していないもの、または炭素構造の結晶性が高いものが好ましい。
熱分解物が付着していない炭素繊維または炭素構造の結晶性が高い炭素繊維は、例えば、不活性ガス雰囲気下で、炭素繊維、好ましくは気相法炭素繊維を焼成(熱処理)することによって得られる。具体的には、熱分解物が付着していない炭素繊維は、約800〜1500℃でアルゴン等の不活性ガス中で熱処理することによって得られる。また、炭素構造の結晶性が高い炭素繊維は、好ましくは2000℃以上、より好ましくは2000〜3000℃でアルゴン等の不活性ガス中で熱処理することによって得られる。
【0036】
炭素繊維は分岐状繊維が含まれているものが好ましい。また繊維全体が互いに連通した中空構造を有している箇所があってもよい。そのため繊維の円筒部分を構成している炭素層が連続している。中空構造とは炭素層が円筒状に巻いている構造であって、完全な円筒でないもの、部分的な切断箇所を有するもの、積層した2層の炭素層が1層に結合したものなどを含む。また、円筒の断面は完全な円に限らず楕円や多角化のものを含む。
また炭素繊維は、X線回折法による(002)面の平均面間隔d
002が、好ましくは0.344nm以下、より好ましくは0.339nm以下、特に好ましくは0.338nm以下である。また、結晶のC軸方向の厚さ(Lc)が40nm以下のものが好ましい。
【0037】
(10)電池電極用炭素材料
本発明の好ましい実施態様における電池電極用炭素材料は、上記黒鉛材料を含んでなる。上記黒鉛材料を電池電極用炭素材料として用いると、高容量、高エネルギー密度高、高サイクル特性を維持したまま、高い初期効率を有する電池電極を得ることができる。
電池電極用炭素材料としては、例えば、リチウムイオン二次電池の負極活物質及び負極導電付与材として用いることができる。
本発明の好ましい実施態様における電池電極用炭素材料は、上記黒鉛材料のみを使用することができるが、黒鉛材料100質量部に対して、d
002が0.3370nm以下の球状の天然黒鉛または人造黒鉛を0.01〜200質量部、好ましくは0.01〜100質量部配合したもの、あるいはd
002が0.3370nm以下で、アスペクト比が2〜100の天然黒鉛または人造黒鉛(例えば、鱗片状黒鉛)を0.01〜120質量部、好ましくは0.01〜100質量部配合したものを使用することもできる。他の黒鉛材料を混合して用いることにより、本発明の好ましい実施態様における黒鉛材料の優れた特性を維持した状態で、他の黒鉛材料が有する優れた特性を加味した黒鉛材料とすることが可能である。具体的には、例えば球状人造黒鉛としてメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)を混合した場合には、MCMBが有する優れた潰れ性により、電極としたときの密度が上がり、体積エネルギー密度を向上させることができる。これらの混合は、要求される電池特性に応じて適宜、混合材料を選択し、混合量を決定することができる。
また、電池電極用炭素材料には炭素繊維を配合することもできる。炭素繊維は前述のものと同様のものが使用できる。配合量は、前記黒鉛材料100質量部に対して、0.01〜20質量部であり、好ましくは0.5〜5質量部である。
【0038】
(11)電極用ペースト
本発明の好ましい実施態様における電極用ペーストは、前記電池電極用炭素材料とバインダーとを含んでなる。この電極用ペーストは、前記電池電極用炭素材料とバインダーとを混練することによって得られる。混錬には、リボンミキサー、スクリュー型ニーダー、スパルタンリューザー、レディゲミキサー、プラネタリーミキサー、万能ミキサー等公知の装置が使用できる。電極用ペーストは、シート状、ペレット状等の形状に成形することができる。
【0039】
電極用ペーストに用いるバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系ポリマー、SBR(スチレンブタジエンラバー)等のゴム系等公知のものが挙げられる。
バインダーの使用量は、電池電極用炭素材料100質量部に対して1〜30質量部が適当であるが、特に3〜20質量部程度が好ましい。
混練する際に溶媒を用いることができる。溶媒としては、各々のバインダーに適した公知のもの、例えばフッ素系ポリマーの場合はトルエン、N−メチルピロリドン等;SBRの場合は水等;その他にジメチルホルムアミド、イソプロパノール等が挙げられる。溶媒として水を使用するバインダーの場合は、増粘剤を併用することが好ましい。溶媒の量は集電体に塗布しやすい粘度となるように調整される。
【0040】
(12)電極
本発明の好ましい実施態様における電極は前記電極用ペーストの成形体からなるものである。電極は例えば前記電極用ペーストを集電体上に塗布し、乾燥し、加圧成形することによって得られる。
集電体としては、例えばアルミニウム、ニッケル、銅、ステンレス等の箔、メッシュなどが挙げられる。ペーストの塗布厚は、通常50〜200μmである。塗布厚が大きくなりすぎると、規格化された電池容器に負極を収容できなくなることがある。ペーストの塗布方法は特に制限されず、例えばドクターブレードやバーコーターなどで塗布後、ロールプレス等で成形する方法等が挙げられる。
【0041】
加圧成形法としては、ロール加圧、プレス加圧等の成形法を挙げることができる。加圧成形するときの圧力は1〜3t/cm
2程度が好ましい。電極の電極密度が高くなるほど体積あたりの電池容量が通常大きくなる。しかし電極密度を高くしすぎるとサイクル特性が通常低下する。本発明の好ましい実施態様における電極用ペーストを用いると電極密度を高くしてもサイクル特性の低下が小さいので、高い電極密度の電極を得ることができる。この電極用ペーストを用いて得られる電極の電極密度の最大値は、通常1.7〜1.9g/cm
3である。このようにして得られた電極は、電池の負極、特に二次電池の負極に好適である。
【0042】
(13)電池、二次電池
前記電極を構成要素(好ましくは負極)として、電池または二次電池とすることができる。
リチウムイオン二次電池を具体例に挙げて本発明の好ましい実施態様における電池または二次電池を説明する。リチウムイオン二次電池は、正極と負極とが電解液または電解質の中に浸漬された構造をしたものである。負極には本発明の好ましい実施態様における電極が用いられる。
リチウムイオン二次電池の正極には、正極活物質として、通常、リチウム含有遷移金属酸化物が用いられ、好ましくはTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Mo及びWから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属元素のモル比が0.3〜2.2の化合物が用いられ、より好ましくはV、Cr、Mn、Fe、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素とリチウムとを主として含有する酸化物であって、リチウムと遷移金属のモル比が0.3〜2.2の化合物が用いられる。なお、主として存在する遷移金属に対し30モル%未満の範囲でAl、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、P、Bなどを含有していても良い。上記の正極活物質の中で、一般式Li
xMO
2(MはCo、Ni、Fe、Mnの少なくとも1種、x=0〜1.2)、またはLiyN
2O
4(Nは少なくともMnを含む。y=0〜2)で表わされるスピネル構造を有する材料の少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0043】
さらに、正極活物質はLi
yM
aD
1-aO
2(MはCo、Ni、Fe、Mnの少なくとも1種、DはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Zn、Cu、Mo、Ag、W、Ga、In、Sn、Pb、Sb、Sr、B、Pの中のM以外の少なくとも1種、y=0〜1.2、a=0.5〜1)を含む材料、またはLi
z(N
bE
1-b)
2O
4(NはMn、EはCo、Ni、Fe、Mn、Al、Zn、Cu、Mo、Ag、W、Ga、In、Sn、Pb、Sb、Sr、B、Pの少なくとも1種、b=1〜0.2、z=0〜2)で表わされるスピネル構造を有する材料の少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
【0044】
具体的には、Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
aNi
1-aO
2、Li
xCo
bV
1-bOz、Li
xCo
bFe
1-bO
2、Li
xMn
2O
4、Li
xMn
cCo
2-cO
4、Li
xMn
cNi
2-cO
4、Li
xMn
cV
2-cO
4、Li
xMn
cFe
2-cO
4(ここでx=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.8〜0.98、c=1.6〜1.96、z=2.01〜2.3。)が挙げられる。最も好ましいリチウム含有遷移金属酸化物としては、Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
aNi
1-aO
2、Li
xMn
2O
4、Li
xCo
bV
1-bO
z(x=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.9〜0.98、z=2.01〜2.3)が挙げられる。なお、xの値は充放電開始前の値であり、充放電により増減する。
【0045】
正極活物質の平均粒子サイズは特に限定されないが、レーザー回折法による体積基準の平均粒子径(D50)の値として0.1〜50μmが好ましい。0.5〜30μmの粒子の体積が95%以上であることが好ましい。粒径3μm以下の粒子群の占める体積が全体積の18%以下であり、かつ15μm以上25μm以下の粒子群の占める体積が、全体積の18%以下であることがさらに好ましい。これらの値はマルバーン製マスターサイザーなどのレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
比表面積は特に限定されないが、BET法で0.01〜50m
2/gが好ましく、特に0.2〜1m
2/gが好ましい。また正極活物質5gを蒸留水100mlに溶かしたときの上澄み液のpHとしては7以上12以下が好ましい。
【0046】
リチウムイオン二次電池では正極と負極との間にセパレーターを設けることがある。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、微孔フィルムまたはそれらを組み合わせたものなどを挙げることができる。
【0047】
本発明の好ましい実施態様におけるリチウムイオン二次電池を構成する電解液及び電解質としては公知の有機電解液、無機固体電解質、高分子固体電解質が使用できるが、電気伝導性の観点から有機電解液が好ましい。
【0048】
有機電解液の溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル等のエーテル;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄化合物;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のジアルキルケトン;エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、2−メトキシテトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソラン等の環状エーテル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;γ−ブチロラクトン;N−メチルピロリドン;アセトニトリル、ニトロメタン等が好ましい。さらに、好ましくはエチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル類、ジオキソラン、ジエチルエーテル、ジエトキシエタン等のエーテル類、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、テトラヒドロフラン等が挙げられ、特に好ましくはエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系非水溶媒を用いることができる。これらの溶媒は、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0049】
これらの溶媒の溶質(電解質)には、リチウム塩が使用される。一般的に知られているリチウム塩にはLiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAlCl
4、LiSbF
6、LiSCN、LiCl、LiCF
3SO
3、LiCF
3CO
2、LiN(CF
3SO
2)
2等がある。
【0050】
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体及び該誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、ポリカーボネート誘導体及び該誘導体を含む重合体等が挙げられる。
なお、上記以外の電池構成上必要な部材の選択についてはなんら制約を受けるものではない。
【実施例】
【0051】
以下に本発明について代表的な例を示し、さらに具体的に説明する。
なお、実施例及び比較例の黒鉛材料についての、X線回折法による平均面間隔(d002)、Lc及びタップ密度(嵩密度)は、本明細書の「発明を実施するための形態」に詳述した方法により測定する。また、その他の物性の測定方法は以下の通り。
【0052】
(1)表面酸素量測定
SPring−8(ビームラインBL46XU)に常設の装置を用いて、入射エネルギー7940eVのHAX−PES測定を行い、黒鉛材表面の酸素量を定量する。
測定条件は、C
1sのナロースペクトルでは光電子のKinetic Energyが7638〜7658eVのエネルギー範囲を測定し、O
1sのナロースペクトルでは光電子のKinetic Energyが7396〜7416eVのエネルギー範囲を測定する。
黒鉛材料表面の酸素量は以下の方法に従って定量する。
・光電子スペクトルのエネルギー校正
標準試料として板状のAu試料の測定を行う。Au
4fのナロースペクトルとしてKinetic Energyが7648〜7859eVのエネルギー範囲を測定し、測定で得られたAu
4f7/2のピーク位置とAu
4f7/2の理論ピーク位置(83.9eV)との差を計算することでBL46XUの常設装置の仕事関数φ値を算出した。算出したφ値を元に、黒鉛材のナロースペクトルのエネルギー校正を行う。
図1はエネルギー校正を実施する前のAu標準試料のAu
4fナロースペクトルである。この場合、Au
4f7/2のBinding Energyは85.05eVであり、よってBL46XUの常設装置の仕事関数φ値は1.15eVと算出される。
・光電子スペクトル強度の規格化
黒鉛材のO
1sナロースペクトル強度を任意のC
1sナロースペクトル強度と測定で得られたC
1sナロースペクトル強度をもとに規格化する。ノーマライズ強度x(O
1s)は下記式1から算出する。
[式1]
ノーマライズ強度x(O
1s)=測定強度(O
1s)×任意の強度(C
1s)/測定強度(C
1s)
・黒鉛材表面の酸素量の定量
上記に基づき、実施例及び比較例の黒鉛材のノーマライズ強度(O
1s)から、黒鉛材料の表面酸素量を下記式2より定量する。ここで、式2における任意の強度(C
1s)は式1で用いた値である。
[式2]
黒鉛材料表面酸化量a(mol%)=(ノーマライズ強度x(O
1s)/c任意の強度(C
1s))×測定積算回数d(C
1s)/測定積算回数e(O
1s)
本測定は、非常に高輝度の放射光を用いることで、黒鉛材料表面から40nm程度の深度までの情報を積算している。そのため、黒鉛材料表面の汚染の影響をほとんど受けずに、精度の高い測定結果が得られる。
黒鉛材料は主成分の炭素の占める割合が圧倒的に高いため、炭素のC
1sナロースペクトル強度から規格化した上記方法による酸素量の算出は妥当である。
【0053】
(2)平均粒子径(D50)
レーザー回折式粒度分布測定装置として、マルバーン製マスターサイザーを用いて、体積基準の平均粒子径(D50)を求めた。
【0054】
(3)比表面積
比表面積測定装置NOVA−1200(ユアサアイオニクス(株)製)を用いて、一般的な比表面積の測定方法であるBET法により測定した。
【0055】
(4)アスペクト比
粒子のアスペクト比は、シスメックス製のFPIA3000を用い、画像解析で測定する。測定点数は少なくとも3000点以上、好ましくは30000点以上、さらに好ましくは50000点以上測定し、算出した平均値を使用する。
また、詰め粉のアスペクト比の測定については、上記と同じ方法で測定する。
【0056】
(5)電池評価方法
a)ペースト作製:
黒鉛材料1質量部に呉羽化学社製KFポリマーL1320(ポリビニリデンフルオライド(PVDF)を12質量%含有したN−メチルピロリドン(NMP)溶液品)0.1質量部を加え、プラネタリーミキサーにて混練し、主剤原液とした。
【0057】
b)電極作製:
主剤原液にNMPを加え、粘度を調整した後、高純度銅箔上でドクターブレードを用いて250μm厚に塗布した。これを120℃で1時間真空乾燥し、18mmφに打ち抜いた。打ち抜いた電極を超鋼製プレス板で挟み、プレス圧が電極に対して約1×10
2〜3×10
2N/mm
2(1×10
3〜3×10
3kg/cm
2)となるようにプレスした。その後、真空乾燥器で120℃、12時間乾燥して、評価用電極とした。
【0058】
c)電池作製:
下記のようにして3極セルを作製した。なお以下の操作は露点−80℃以下の乾燥アルゴン雰囲気下で実施した。
ポリプロピレン製のねじ込み式フタ付きのセル(内径約18mm)内において、上記(2)で作製した銅箔付き炭素電極と金属リチウム箔をセパレーター(ポリプロピレン製マイクロポーラスフィルム(セルガード2400))で挟み込んで積層した。さらにリファレンス用の金属リチウムを同様に積層した。これに電解液を加えて試験用セルとした。
【0059】
d)電解液:
EC(エチレンカーボネート)8質量部及びDEC(ジエチルカーボネート)12質量部の混合液に、電解質としてLiPF
6を1モル/リットル溶解した。
【0060】
e)ハイレート放電容量維持率の測定試験
電流密度0.2mA/cm
2(0.1C相当)で定電流低電圧放電試験を行った。試験は25℃に設定した恒温槽内で行った。
充電(炭素へのリチウムの挿入)はレストポテンシャルから0.002Vまで0.2mA/cm
2でCC(コンスタントカレント:定電流)充電を行った。次に0.002VでCV(コンスタントボルト:定電圧)充電に切り替え、電流値が25.4μAに低下した時点で停止させた。
放電(炭素からの放出)は所定電流密度でCC放電を行い、電圧1.5Vでカットオフした。
【0061】
実施例1:
ベネズエラ産原油を減圧蒸留した残渣(比重3.4°API、アスファルテン分21%、樹脂分11%、硫黄分3.3%)を原料とし、これを、ディレードコーキングプロセスに投入した。この際、コークスドラム前の加熱炉ヒーター出口温度を570℃で運転した。内部圧力は20psigとした。次に水冷してコーキングドラムから排出し、その後120℃で加熱し、水分含有率0.5%以下まで乾燥し、乾燥コークス1とした。この時点で、コークスの300℃から1200℃まで間のアルゴン雰囲気下中における加熱減量分は11.8質量%であった。これをホソカワミクロン製バンタムミルで粉砕した。次に、日清エンジニアリング製ターボクラシファイアーTC−15Nで気流分級し、D50=17.5μmの炭素材料を得た。これを、窒素雰囲気下でこの粉砕された炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼに充填した。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が17.5μmに粉砕したもの(アスペクト比2.5)を詰め粉1として充填した。このアチソン炉の中に上記黒鉛るつぼを深さ50cmとなるように埋め込んだ。アチソン炉の底面から黒鉛るつぼ底面までは50cm、アチソン炉側面から黒鉛るつぼ側面までの最も短い距離は50cmであった。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得た。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
実施例2:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼに充填した。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が450μmに粉砕したもの(アスペクト比2.5)を詰め粉2として充填した。このアチソン炉の中に上記黒鉛るつぼを深さ50cmとなるように埋め込んだ。アチソン炉の底面から黒鉛るつぼ底面までは50cm、アチソン炉側面から黒鉛るつぼ側面までの最も短い距離は50cmであった。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得た。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
実施例3:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼに充填した。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が17.5μmに粉砕したものを詰め粉1として充填した。このアチソン炉の中に上記黒鉛るつぼを深さ30cmとなるように埋め込んだ。アチソン炉の底面から黒鉛るつぼ底面までは50cm、アチソン炉側面から黒鉛るつぼ側面までの最も短い距離は50cmであった。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得た。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
実施例4:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼに充填した。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が450μmに粉砕したものを詰め粉2として充填した。このアチソン炉の中に上記黒鉛るつぼを深さ30cmとなるように埋め込んだ。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得た。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
実施例5:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。これを試料1とする。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が17.5μmに粉砕したものを詰め粉1として充填した。このアチソン炉の中に上記試料1を容器に入れず、実施例1のるつぼが埋まっていたと同等の空間に深さ50cmとなるように埋め込んだ。粉を埋め込んだ位置については、アチソンン炉の炉壁から計測し、黒鉛化後に回収する際、確認できるようにした。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を回収した。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
実施例6:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼに充填した。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が450μmに粉砕したものを詰め粉1として充填した。このアチソン炉の中に上記試料1を容器に入れず、実施例3のるつぼが埋まっていたと同等の空間に深さ30cmとなるように埋め込んだ。粉を埋め込んだ位置については、アチソンン炉の炉壁から計測し、黒鉛化後に回収する際、確認できるようにした。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を回収した。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
実施例7:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼ3(直径3cm長さ10cm)に充填した。これを、それより大きな黒鉛るつぼ4(直系10cm、長さ20cm)の中に、るつぼ4の内壁とるつぼ3の外壁の間に、厚さ2cm以上となるように実施例1の詰め粉1を充填しネジ蓋をした。
次に、倉田技研製黒鉛ヒーター炉(高さ35cm、幅35cm、奥行き35cm)内にるつぼ3入りのるつぼ4を入れ、真空置換によりアルゴン雰囲気とした。次に高純度アルゴン(純度99.99%)を1リットル/分で流した。この状態で、室温から2時間で3100℃まで昇温し、20分間保持し停止した。室温まで冷却後、アルゴンを止めてるつぼ4からるつぼ3を取り出し、実施例1と同様の分析を行った。結果を表1に示す。
【0068】
比較例1:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼに充填した。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が17.5μmに粉砕したものを詰め粉2として充填した。このアチソン炉の中に上記黒鉛るつぼを深さ10cmとなるように埋め込んだ。アチソン炉の底面から黒鉛るつぼ底面までは50cm、アチソン炉側面から黒鉛るつぼ側面までの最も短い距離は50cmであった。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得た。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
比較例2:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼに充填した。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が750μmに粉砕したものを詰め粉2として充填した。このアチソン炉の中に上記黒鉛るつぼを深さ50cmとなるように埋め込んだ。アチソン炉の底面から黒鉛るつぼ底面までは50cm、アチソン炉側面から黒鉛るつぼ側面までの最も短い距離は50cmであった。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を得た。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0070】
比較例3:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。これを試料1とする。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が17.5μmに粉砕したものを詰め粉1として充填した。このアチソン炉の中に上記試料1を容器に入れず、比較例1のるつぼが埋まっていたと同等の空間に深さ10cmとなるように埋め込んだ。粉を埋め込んだ位置については、アチソンン炉の炉壁から計測し、黒鉛化後に回収する際、確認できるようにした。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を回収した。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0071】
比較例4:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼに充填した。
次に人造黒鉛電極黒鉛化用のアチソン炉に、石油系コークス1をD50が750μmに粉砕したものを詰め粉1として充填した。このアチソン炉の中に上記試料1を容器に入れず、実施例1のるつぼが埋まっていたと同等の空間に深さ50cmとなるように埋め込んだ。粉を埋め込んだ位置については、アチソンン炉の炉壁から計測し、黒鉛化後に回収する際、確認できるようにした。この炉に通電して3100℃で加熱処理して、黒鉛材料を回収した。本サンプルについて各種物性を測定後、上記のように電極を作製し、サイクル特性等を測定した。結果を表1に示す。
【0072】
比較例5:
マダガスカル産天然黒鉛を、バンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。これを実施例1と同等の分析評価を実施した。結果を表1に示す。
【0073】
比較例6:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼ3(直径3cm長さ10cm)に充填した。
次に、倉田技研製黒鉛ヒーター炉(高さ35cm、幅35cm、奥行き35cm)内にるつぼ3を入れ、真空置換によりアルゴン雰囲気とした。次に高純度アルゴン(純度99.99%)を1リットル/分で流した。この状態で、室温から2時間で3100℃まで昇温し、20分間保持し停止した。室温まで冷却後、アルゴンを止めてるつぼ3を取り出し、実施例1と同様の分析を行った。結果を表1に示す。
【0074】
比較例7:
実施例1で使用した乾燥コークス1をバンタムミル及びターボクラシファイアーでD50が17.5μmになるように調整した。この粉砕炭素材料をネジ蓋つき黒鉛るつぼ3(直径3cm長さ10cm)に充填した。これを、それより大きな黒鉛るつぼ5(直系20cm、長さ25cm)の中に、るつぼ5の内壁とるつぼ3の外壁の間に、厚さ5cm以上となるように実施例1の詰め粉1を充填しネジ蓋をした。
次に、倉田技研製黒鉛ヒーター炉(高さ35cm、幅35cm、奥行き35cm)内にるつぼ3入りのるつぼ5を入れ、真空置換によりアルゴン雰囲気とした。次に高純度アルゴン(純度99.99%)を1リットル/分で流した。この状態で、室温から2時間で3100℃まで昇温し、20分間保持し停止した。室温まで冷却後、アルゴンを止めてるつぼ5からるつぼ3を取り出し、実施例1と同様の分析を行った。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】