(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5915028
(24)【登録日】2016年4月15日
(45)【発行日】2016年5月11日
(54)【発明の名称】ガラス微粒子堆積体の焼結方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20160422BHJP
C03B 8/04 20060101ALI20160422BHJP
C03B 37/029 20060101ALI20160422BHJP
【FI】
C03B37/012 Z
C03B8/04 P
C03B37/029
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-185683(P2011-185683)
(22)【出願日】2011年8月29日
(65)【公開番号】特開2013-47156(P2013-47156A)
(43)【公開日】2013年3月7日
【審査請求日】2014年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100116182
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 照雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165227
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 純
(72)【発明者】
【氏名】楠 浩二
(72)【発明者】
【氏名】広田 弘
【審査官】
増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−223833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B8/00−8/04
C03B37/00−37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発種棒にガラス微粒子を堆積させたガラス微粒子堆積体をヒータの熱により加熱焼結させるガラス微粒子堆積体の焼結方法であって、
焼結後のガラス微粒子堆積体を線引きする線引炉と同一の線引炉のヒートゾーンの長さに比例する線引き変形長さをL2とし、
焼結後のガラス微粒子堆積体上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部における上部透明長さをL1としたとき、L1/L2で定義される上部透明化率を、0.4以上にするように、前記ガラス微粒子堆積体を焼結させることを特徴とする、ガラス微粒子堆積体の焼結方法。
【請求項2】
上記請求項1に記載のガラス微粒子堆積体の焼結方法において、
前記ガラス微粒子堆積体上部の前記テーパ状ガラス微粒子堆積部の上部近傍に、前記ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整が可能な遮熱治具を配置して、前記ヒータ及び前記テーパ状ガラス微粒子堆積部から前記ガラス微粒子が堆積されていない種棒部へ伝わる熱を遮熱しながら、前記ガラス微粒子堆積体を焼結することを特徴とする、ガラス微粒子堆積体の焼結方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス微粒子堆積体を加熱炉内で焼結させるガラス微粒子堆積体の焼結方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス微粒子堆積体を焼結する焼結炉には、例えば、特許文献1に記載されているようなものが知られている。
図5に示すように、焼結炉である焼結装置100は、蓋109を有する炉心管106と、炉心管106の周囲に配置され熱源104を有する加熱炉105とを備えている。また、焼結装置100は、炉心管106の下端にHeガス等を供給する不活性ガス導入管102を備え、炉心管106の上方に排気装置108を備えている。
【0003】
前記焼結装置100は、多孔質ガラス母材111の上方に上部熱遮蔽具107を設置して、多孔質ガラス母材111の焼結完了部位116である下方に下部熱遮蔽具103が設置されている。上部熱遮蔽具107及び下部熱遮蔽具103は、石英ガラスからなり、多孔質ガラス母材111の上下に設置されることで、コーン体113からの輻射熱の逃散を制御して炉心管106の温度ムラや自然対流を抑制している。
【0004】
そして、上記焼結装置100では、種棒である出発棒112にガラス微粒子を堆積させたガラス微粒子堆積体である多孔質ガラス母材111を炉心管106内に挿入して、多孔質ガラス母材111を回転させながら降下させて加熱炉105により加熱し、焼結させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−219519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多孔質ガラス母材111を焼結させる工程では、熱が十分伝わらなかったり、散逸してしまったりするため、多孔質ガラス母材111の上部を完全に透明にすることはできず、未焼結部が生じる。多孔質ガラス母材111の上部に未焼結部ができると、焼結部との収縮の違いにより割れが入り、多孔質ガラス母材111が落下してしまうことがある。また、その後の火炎研磨時に、未焼結部と焼結部の境界で、熱膨張率の差により割れて落下するなどの問題が生じることもある。
【0007】
さらに、焼結時の未焼結部が大きいと、その後の線引き工程で未焼結部が焼結されるため、多孔質ガラス母材111が線引き炉内で変形したり、偏心したりすることがある。
【0008】
一方、未焼結部を小さくするために必要以上に多孔質ガラス母材111の上部を加熱し過ぎると、出発棒112に過度に熱が加わり、出発棒112が引き伸ばされ、多孔質ガラス母材111の曲がりや落下などの問題が生じる。
【0009】
本発明の目的は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、焼結時に未焼結部をできるだけ小さくすることにより、多孔質ガラス母材の割れや落下を防ぎ、また、線引き時の変形や偏心などの不具合を最小限に抑えることができるガラス微粒子堆積体の焼結方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決することができる本発明に係るガラス微粒子堆積体の焼結方法は、出発種棒にガラス微粒子を堆積させたガラス微粒子堆積体をヒータの熱により加熱焼結させるガラス微粒子堆積体の焼結方法であって、焼結後のガラス微粒子堆積体上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部における上部透明化率を、0.4以上にすることを特徴としている。
【0011】
前記ガラス微粒子堆積体の焼結方法において、前記ガラス微粒子堆積体上部の前記テーパ状ガラス微粒子堆積部の上部近傍に、前記ガラス微粒子堆積体の長手方向に位置調整が可能な遮熱治具を配置して、前記ヒータ及び前記テーパ状ガラス微粒子堆積部から前記ガラス微粒子が堆積されていない種棒部へ伝わる熱を遮熱しながら、前記ガラス微粒子堆積体を焼結することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るガラス微粒子堆積体の焼結方法によれば、焼結後のガラス微粒子堆積体の上部にあるテーパ状ガラス微粒子堆積部における焼結部分の割合を示す上部透明化率を0.4以上としているので、多孔質ガラス母材の割れや落下を防ぎ、また、線引き時の変形や偏心などの不具合を最小限に抑えることができ、高品質な光ファイバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るガラス微粒子堆積体の焼結方法の一実施形態を示す概略図である。
【
図3】本発明に係る上部透明化率の説明図であり、(a)は上部透明長さを示し、(b)は線引変形長さを示している。
【
図4】本発明に係る上部透明化率と不良発生率との関係を示すグラフである。
【
図5】従来のガラス微粒子堆積体を焼結する焼結炉を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るガラス微粒子堆積体の焼結方法の一実施形態について、
図1〜
図4を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のガラス微粒子堆積体1を焼結する焼結炉10は、上部を蓋部13により閉塞され、出発種棒3にガラス微粒子を堆積させたガラス微粒子堆積体1を収容する炉心管11と、炉心管11の外周側にガラス微粒子堆積体1を加熱焼結させる熱源であるヒータ12とを備えている。
【0016】
ガラス微粒子堆積体1は、円柱状のガラス微粒子定常堆積部4と、ガラス微粒子定常堆積部4の上下端部にテーパ状ガラス微粒子堆積部2,5と、上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2の上部部分でガラス微粒子が堆積されていない種棒部8と、を有している。ガラス微粒子堆積体1は、炉心管11内に連結部材14によって吊り下げられている。炉心管11の下部には、Heガス等の不活性ガスを供給するガス供給部15と、上部にガス排出部16を備えている。
【0017】
図2に示すように、焼結炉10は、ガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2近傍に、該ガラス微粒子堆積体1の長手方向の位置調整が可能なカーボン製の遮熱治具20を備えている。なお、遮熱治具の構造は、
図2の構造に限定されるものではなく、特許文献1に記載のように1枚の板であっても構わないが、固定位置を調整できることが必要である。位置調整可能な遮熱治具の一例について、次に詳細説明する。
【0018】
遮熱治具20は、出発種棒3の所定位置に固定される上部治具21と、遮熱機能を有する円板状の下部治具22と、3本の吊りボルト23と、各吊りボルト23に螺合された調整ナット26A,26Bと、から構成されている。
【0019】
上部治具21は、3方に延設され、各先端部近傍にボルト貫通孔を有し、中心に出発種棒3を挿通する取付孔27を有している。
【0020】
下部治具22は、種棒部8への取り付け時用の切欠部を有する第1遮熱板24と、第1遮熱板24に嵌合する第2遮熱板25とから構成されている。第1遮熱板24は、中心に種棒部8が貫通する種棒貫通孔を有し、外側に吊りボルト23を挿通する3つのボルト貫通孔を有している。第2遮熱板25は、第1遮熱板24の上方から嵌合させることで切欠部を覆うような、例えば扇形状となっている。
【0021】
遮熱治具20の外径D1は、炉心管11の内径をD0とすると、0.3D0<D1<0.98D0の範囲内に収まる外径寸法に設定されている。例えば、内径D0が200mmであると、略外径D1は、60mm〜196mmの範囲内に設定される。遮熱治具20の高さH1は、下部治具22の位置H0が出発種棒3の上端から例えば300mmであると、約400mm程度に設定される。
【0022】
次に、遮熱治具20のガラス微粒子堆積体1への取付けとガラス微粒子堆積体1の炉心管11内への取付け手順を説明する。
(遮熱治具の組み立て)
図2に示すように、下部治具22の第1遮熱板24の下方側から3本の吊りボルト23を貫入させる。次に、第1調整ナット26Aを各吊りボルト23に螺合させ、上部治具21のボルト貫通孔に吊りボルト23を貫入させる。その後、第2調整ナット26Bを各吊りボルト23に螺合させる。調整ナット26A,26Bの螺合位置は、遮熱治具20を連結部材14の係止部15に係合させたときに、下端の第1遮熱板24がガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2の上部近傍に配置されるように調整される。
【0023】
(遮熱治具の取付け)
遮熱治具20は、出発種棒3を接続する連結部材14が炉心管11内に貫入される前に、予め連結部材14に固定される。連結部材14は、遮熱治具20の上部治具21を係合する係止部15を有している。遮熱治具20は、第2遮熱板25を外した状態で、上部治具21の取付孔27が連結部材14の上方から係止部15に係合される。
【0024】
(ガラス微粒子堆積体の取付け)
ガラス微粒子堆積体1は、遮熱治具20を連結部材14に固定した状態で、炉心管11内に吊り下げられる。即ち、下部治具22の第2遮熱板25は外れており、連結部材14に出発種棒3と一体のガラス微粒子堆積体1が連結され、炉心管11内に吊り下げられる。
【0025】
このとき、ガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2と種棒部8との境界部分は、予め炉心管11内に係合されている第1遮熱板24の切欠部付近に配置される。第1遮熱板24がガラス微粒子堆積体1に接触せず、且つ境界部分に正確に配置されるように、3組の調整ナット26A,26Bによって位置の微調整を行う。最後に、第1遮熱板24上に第2遮熱板25を嵌合させて、焼結前のガラス微粒子堆積体1の取付けが完了する。
【0026】
次に、ガラス微粒子堆積体の焼結方法について説明する。
(ガラス微粒子堆積体の焼結工程)
ヒータ12により炉心管11内を約1600℃に加熱することで、ガラス微粒子堆積体1を焼結して透明化する。このとき、ガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2と種棒部8との境界部分に、遮熱治具20の下部治具22が配置されている。これにより、ヒータ12及び透明化されたガラス母材などから種棒部8へ伝わる熱を遮熱しながら、ガラス微粒子堆積体1を焼結する。
【0027】
これにより、ヒータ12の熱による出発種棒3の引き伸びを防止しつつ、ガラス微粒子堆積体1上部の未焼結部の領域を小さくすることができる。
【0028】
本実施形態のガラス微粒子堆積体の焼結方法によれば、上記した構成の遮熱板などを用い、焼結後のガラス微粒子堆積体1の上部にあるテーパ状ガラス微粒子堆積部2における焼結部分の割合を示す上部透明化率を0.4以上にする。未焼結部の割合を小さくすることにより、多孔質ガラス母材の割れや落下を防ぎ、また、線引き時の変形や偏心などの不具合を最小限に抑えることができ、高品質な光ファイバを得ることができる。
【0029】
前記上部透明化率は、(上部透明長さL1)/(線引き変形長さL2)によって算出することができる。
図3に示すように、上部透明長さL1は、テーパ状ガラス微粒子堆積部2における未焼結部9の下端からガラス微粒子堆積体1の中心にあるコア部7上端までの距離であり、目視で光が通り抜けていることがわかる部分(透明な部分)の長さである。また、線引き変形長さL2は、線引き時におけるガラス微粒子堆積体1の溶融開始端P0から、ガラス微粒子堆積体1の外径が有効部径E0(線引き時の母材溶融の開始端位置での外径)の半分のE0/2になる位置P1までの距離である。ここで云う上部透明化率が0.4以上である、とは、例えば、線引き変形長さL2が100mmとなる線引炉を使用する場合、ガラス微粒子堆積体1の上部透明長さL1が40mm以上であることを意味する。
【0030】
線引き変形長さL2は、線引き炉のヒートゾーンの長さに比例する。したがって、上部透明長さL1(未焼結部9の体積割合に依存する)が同じでも、線引き変形長さL2が長い場合には、未焼結部9がヒートゾーンに掛かり易くなり、未焼結であることの影響(不良の発生)が出やすくなる。つまり、同じ上部透明長さL1であっても、線引き変形長さL2によってその影響は異なり、上部透明化率は、この影響の度合いを示していることになる。
【0031】
この上部透明化率(0.4以上)となるようにするため、上記したように、ガラス微粒子堆積体1上部のテーパ状ガラス微粒子堆積部2の上部近傍に、ガラス微粒子堆積体1の長手方向に位置調整が可能な遮熱治具20を配置して、ヒータ12及びテーパ状ガラス微粒子堆積部2から種棒部8へ伝わる熱を遮熱しながら、ガラス微粒子堆積体1を焼結する。これにより、種棒部8をヒータ12による焼結炉10内の加熱領域であるヒートゾーンぎりぎりまで近づけても種棒部8側へ伝わる熱を遮熱でき、種棒部8の引き伸びを防止しつつ、テーパ状ガラス微粒子堆積部2の未焼結部9の体積を小さくすることができる。
【0032】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置場所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0033】
例えば、上記実施形態では焼結工程について説明したが、線引工程での線引炉にも適用することができる。また、遮熱治具の取付位置は、出発種棒や連結部材以外に、焼結炉の炉心管や蓋部であっても良い。
【実施例】
【0034】
次に、本発明に係るガラス微粒子堆積体の焼結方法の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0035】
(焼結炉)
・使用焼結炉の内径D0:200mm
・焼結温度:1600℃
(遮熱治具)
・使用遮熱治具:連結部材に固定するカーボン製タイプ
・遮熱治具の外径D1:185mm
・遮熱治具の高さH1:400mm
・下部治具の位置H0:出発種棒の上端から300mm
(ガラス母材)
・使用多孔質ガラス母材:外径180mmのガラス微粒子堆積体
【0036】
遮熱治具の位置を調整するなどして上部透明長さL1を変化させ、上部未焼結部の大きさが異なるガラス母材を、同一の線引炉内(線引き変形長さL2は約100mm)で線引きしたときの、線引き終了端でのコア偏心等の不良事態が発生する頻度を集計する。結果を
図4に示す。
【0037】
図4に示したように、上部透明化率が0.1から0.2の間では不良発生率が50パーセント以上と高く、上部透明化率が0.2から0.3の間では不良発生率が約40パーセントから10パーセント程度まで下がることが分かる。そして、上部透明化率が0.4付近では不良発生率が約10パーセント以下になり、上部透明化率0.4以上になると不良事態がほぼ発生しないことが分かる。
【0038】
以上のように焼結後のガラス微粒子堆積体の上部透明化率を0.4以上にすることにより、線引き工程での変形や偏心などの不具合を最小限に抑えることができ、高品質な光ファイバを得ることができる。
【符号の説明】
【0039】
1…ガラス微粒子堆積体、2…テーパ状ガラス微粒子堆積部、3…出発種棒、8…種棒部、10…焼結炉、11…炉心管、12…ヒータ、14…連結部材、20…遮熱治具、21…上部治具、22…下部治具、23…吊りボルト、24…第1遮熱板、25…第2遮熱板、26…調整ナット、27…取付孔、L1…上部透明長さ、L2…線引き変形長さ