特許第5928335号(P5928335)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5928335炭化珪素基板の製造方法および半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5928335
(24)【登録日】2016年5月13日
(45)【発行日】2016年6月1日
(54)【発明の名称】炭化珪素基板の製造方法および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/12 20060101AFI20160519BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20160519BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20160519BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20160519BHJP
【FI】
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 658E
   H01L29/78 658K
   H01L21/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-526396(P2012-526396)
(86)(22)【出願日】2011年7月6日
(86)【国際出願番号】JP2011065470
(87)【国際公開番号】WO2012014645
(87)【国際公開日】20120202
【審査請求日】2014年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2010-170346(P2010-170346)
(32)【優先日】2010年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信
(72)【発明者】
【氏名】原田 真
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 里美
(72)【発明者】
【氏名】沖田 恭子
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2001/018872(WO,A1)
【文献】 特開2009−187966(JP,A)
【文献】 特開2007−027630(JP,A)
【文献】 特開2009−130266(JP,A)
【文献】 特開2010−041021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/02
H01L21/336
H01L29/12
H01L29/78−29/792
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素からなるインゴットを準備する工程と、
前記インゴットから基板を採取する工程と、
採取された前記基板における少なくとも一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において0.5°以下であることを確認する工程とを備え
採取された前記基板における前記一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が、<−2110>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において10°以下であることを確認する工程をさらに備えた、炭化珪素基板の製造方法。
【請求項2】
前記基板は50.8mm以上の直径を有する、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項3】
採取された前記基板を別途準備されたベース基板上に配置する工程と、
前記ベース基板と前記基板とを接合する工程とをさらに備えた、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項4】
前記一方の主面上にエピタキシャル成長層を形成する工程をさらに備えた、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項5】
前記確認する工程において0.5°以下であるという条件を満たさない前記基板を除外する工程を備えた、請求項1に記載の炭化珪素基板の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の炭化珪素基板の製造方法により炭化珪素基板を準備する工程と、
前記エピタキシャル成長層上に電極を形成する工程とを備えた、半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭化珪素基板および半導体装置ならびにこれらの製造方法に関し、より特定的には、炭化珪素基板を含む半導体装置の特性を安定させることが可能な炭化珪素基板および半導体装置ならびにこれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体装置の高耐圧化、低損失化、高温環境下での使用などを可能とするため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素の採用が進められつつある。炭化珪素は、従来から半導体装置を構成する材料として広く使用されている珪素に比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体である。そのため、半導体装置を構成する材料として炭化珪素を採用することにより、半導体装置の高耐圧化、オン抵抗の低減などを達成することができる。また、炭化珪素を材料として採用した半導体装置は、珪素を材料として採用した半導体装置に比べて、高温環境下で使用された場合の特性の低下が小さいという利点も有している。
【0003】
このような状況の下、半導体装置の製造に用いられる炭化珪素結晶および炭化珪素基板の製造方法については、種々の検討がなされ、様々なアイデアが提案されている(たとえば、特開2002−280531号公報(特許文献1)参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−280531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、半導体装置に対しては、たとえばチャネル移動度の向上など、さらなる特性の向上が求められている。また、特性の向上ばかりでなく、製品間における当該特性のばらつきが小さいことも、半導体装置においては重要である。
【0006】
そこで、本発明の目的は、半導体装置のチャネル移動度の向上と特性の安定とを両立させることが可能な炭化珪素基板および半導体装置ならびにこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に従った炭化珪素基板は、炭化珪素からなり、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、少なくとも一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が0.5°以下である。
【0008】
本発明者は、半導体装置のチャネル移動度の向上と特性の安定との両立について詳細な検討を行なった。その結果、以下のような知見を得て本発明に想到した。
【0009】
すなわち、炭化珪素基板を用いて半導体装置が作製される場合、当該炭化珪素基板上にエピタキシャル成長層が形成され、さらにエピタキシャル成長層上に電極が形成される。MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの製造においては、エピタキシャル成長層上に酸化膜などの絶縁膜が形成され、当該絶縁膜上にゲート電極が形成される。そして、エピタキシャル成長層においてゲート電極直下の絶縁膜と接する領域がチャネル領域となる。
【0010】
ここで、炭化珪素基板の少なくとも一方の主面を、当該炭化珪素基板を構成する炭化珪素の{03−38}面に近い面とし、当該主面上にエピタキシャル成長層を形成して上記MOSFETやIGBTなどの半導体装置を作製すると、上記チャネル領域は{03−38}面に近い面を含むように形成される。そして、このようにすることにより、半導体装置のチャネル移動度を向上させることができる。
【0011】
さらに、本発明者は、{03−38}面に近い主面を有する炭化珪素基板を用いて半導体装置を作製した場合、当該半導体装置の特性のばらつきが大きくなる傾向があり、その原因が上記主面の{03−38}面からのずれにあることを見出した。
【0012】
より具体的には、半導体装置の製造においては、上記エピタキシャル成長層にキャリアを生成させるための不純物が導入される。しかし、不純物の導入が正常に行なわれた場合でも、上記主面の面方位が{03−38}面から特定の面内、具体的には<01−10>方向および<0001>方向を含む平面内において僅かにずれただけで、生成するキャリアの密度が大きくばらつくことが分かった。そして、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、上記主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角を0.5°以下とすることにより、キャリア濃度のばらつきを十分に抑え、半導体装置の特性のばらつきを抑制できることが明らかとなった。
【0013】
このように、本発明の炭化珪素基板においては、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、少なくとも一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が0.5°以下であることにより、これを用いて製造される半導体装置のチャネル移動度が向上するとともに、キャリア濃度のばらつきを十分に抑えることができる。その結果、本発明の炭化珪素基板によれば、半導体装置のチャネル移動度の向上と特性の安定とを両立させることが可能な炭化珪素基板を提供することができる。
【0014】
上記炭化珪素基板においては、<−2110>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、上記一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が10°以下であってもよい。
【0015】
<01−10>方向および<0001>方向を含む平面内におけるずれに比べると影響は小さいものの、<−2110>方向および<0001>方向を含む平面におけるずれによっても、生成するキャリアの密度がばらつく。そして、<−2110>方向および<0001>方向を含む平面内におけるずれを10°以下とすることにより、キャリア濃度のばらつきを一層抑制することができる。
【0016】
上記炭化珪素基板は、50.8mm以上の直径を有していてもよい。これにより、当該炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造効率が向上する。
【0017】
上記炭化珪素基板は、ベース層と、ベース層上に形成された単結晶炭化珪素層とを備え、上記一方の主面は、単結晶炭化珪素層の、ベース層の側とは反対側の表面であってもよい。
【0018】
このようにすることにより、たとえばベース層として安価なベース基板、具体的には欠陥密度の大きい単結晶炭化珪素からなる基板や多結晶炭化珪素基板、あるいは金属からなるベース基板を準備し、このベース基板上に良質な炭化珪素単結晶からなる基板を配置することにより、炭化珪素基板を比較的安価に製造することができる。特に、炭化珪素基板は大口径化の困難であるため、たとえばベース基板上に良質であるものの大きさが小さい単結晶炭化珪素基板を平面的に見て複数並べて配置し、ベース層上に単結晶炭化珪素層がベース層の主面に沿って複数並べて配置された炭化珪素基板を作製することにより、安価で、かつ大口径な炭化珪素基板を得ることができる。
【0019】
上記炭化珪素基板においては、上記一方の主面上に形成されたエピタキシャル成長層をさらに備えていてもよい。これにより、当該炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造が容易となる。なお、上記エピタキシャル成長層は、半導体装置におけるバッファ層、耐圧保持層(ドリフト層)などとして利用することができる。
【0020】
本発明に従った半導体装置は、上記エピタキシャル成長層を含む炭化珪素基板と、当該エピタキシャル成長層上に形成された電極とを備えている。本発明の半導体装置によれば、上記本発明の炭化珪素基板を含んでいることにより、チャネル移動度の向上と特性の安定とを両立させることが可能な半導体装置を提供することができる。
【0021】
本発明に従った炭化珪素基板の製造方法は、炭化珪素からなるインゴットを準備する工程と、インゴットから基板を採取する工程と、採取された基板における少なくとも一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において0.5°以下であることを確認する工程とを備えている。
【0022】
これにより、上記本発明の炭化珪素基板を確実に製造することができる。なお、インゴットからの基板の採取は、たとえば少なくとも一方の主面が{03−38}面に近い面となるようにインゴットをスライスすることにより達成することができる。また、採取された基板における少なくとも一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角の確認は、たとえばX線回折法を利用して実施することができる。
【0023】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、採取された基板における上記一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が、<−2110>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において10°以下であることを確認する工程をさらに備えていてもよい。これにより、半導体装置におけるキャリア濃度のばらつきを抑制することが可能な炭化珪素基板をより確実に製造することができる。なお、上記一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が、上記<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において0.5°以下であることを確認する工程と<−2110>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において10°以下であることを確認する工程とは、別々に実施されてもよいし、同時に実施されてもよい。
【0024】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記基板は50.8mm以上の直径を有していてもよい。これにより、当該炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造効率を向上させることが可能な炭化珪素基板を製造することができる。
【0025】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、採取された上記基板を別途準備されたベース基板上に配置する工程と、ベース基板と上記基板とを接合する工程とをさらに備えていてもよい。
【0026】
これにより、ベース層と、ベース層上に形成された単結晶炭化珪素層とを備え、上記一方の主面は、単結晶炭化珪素層の、ベース層の側とは反対側の表面である上記炭化珪素基板を製造することができる。
【0027】
上記炭化珪素基板の製造方法においては、上記一方の主面上にエピタキシャル成長層を形成する工程をさらに備えていてもよい。これにより、当該炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造が容易な炭化珪素基板を製造することができる。
【0028】
本発明に従った半導体装置の製造方法は、エピタキシャル成長層を形成する工程を含む上記本発明の炭化珪素基板の製造方法により炭化珪素基板を準備する工程と、エピタキシャル成長層上に電極を形成する工程とを備えている。これにより、特性の安定した上記本発明の半導体装置を製造することができる。
【0029】
なお、炭化珪素基板の外周から2mm以内の領域は、通常半導体装置の製造には用いられない。そのため、上記一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角の条件は、外周から2mm以内の領域を除いた領域において達成されていればよい。
【発明の効果】
【0030】
以上の説明から明らかなように、本発明の炭化珪素基板および半導体装置ならびにこれらの製造方法によれば、半導体装置のチャネル移動度の向上と特性の安定とを両立させることが可能な炭化珪素基板および半導体装置ならびにこれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
図2】炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
図3】炭化珪素基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図4】縦型MOSFETの構造を示す概略断面図である。
図5】縦型MOSFETの製造方法の概略を示すフローチャートである。
図6】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
図7】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
図8】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
図9】縦型MOSFETの製造方法を説明するための概略断面図である。
図10】実施の形態3における炭化珪素基板の構造を示す概略断面図である。
図11】実施の形態3における炭化珪素基板の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図12】{03−38}面からのずれ角とキャリア濃度のずれとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。また、本明細書中においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。
【0033】
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態である実施の形態1について説明する。図1を参照して、本実施の形態における炭化珪素基板1は、炭化珪素からなり、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、一方の主面1Aの法線と{03−38}面の法線とのなす角が0.5°以下である。
【0034】
このように、炭化珪素基板1の主面1Aを、当該炭化珪素基板を構成する炭化珪素の{03−38}面に近い面とし、当該主面1A上にエピタキシャル成長層を形成してMOSFETやIGBTなどの半導体装置を作製すると、チャネル領域は{03−38}面に近い面を含むように形成される。その結果、半導体装置のチャネル移動度を向上させることができる。
【0035】
また、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、上記主面1Aの法線と{03−38}面の法線とのなす角が0.5°以下であることにより、これを用いて製造される半導体装置のキャリア濃度のばらつきを十分に抑えることができる。その結果、本実施の形態における炭化珪素基板1は、半導体装置のチャネル移動度の向上と特性の安定とを両立させることが可能な炭化珪素基板となっている。
【0036】
さらに、本実施の形態における炭化珪素基板1においては、<−2110>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、上記主面1Aの法線と{03−38}面の法線とのなす角が10°以下であることが好ましい。
【0037】
上述のように、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面内におけるずれは、キャリア濃度のばらつき(ずれ)に及ぼす影響が非常に大きい。これに比べて影響は小さいものの、上記平面に垂直な<−2110>方向および<0001>方向を含む平面におけるずれによっても、生成するキャリアの密度がばらつく。そして、<−2110>方向および<0001>方向を含む平面内におけるずれを10°以下とすることにより、キャリア濃度のばらつきを一層抑制することができる。
【0038】
また、上記本実施の形態における炭化珪素基板1は、50.8mm以上の直径を有していることが好ましい。このように口径の大きい炭化珪素基板1を用いることにより、半導体装置の製造効率を向上させることができる。
【0039】
また、図2を参照して、本実施の形態においては、上記主面1A上にエピタキシャル成長層20を形成することにより、エピタキシャル成長層20を含む炭化珪素基板2の形態を採用してもよい。この場合、エピタキシャル成長層20の主面2Aにおいても上記所定の面への正射影における主面2Aの法線と{03−38}面の法線とのなす角が上記条件を満たす範囲となる。その結果、この炭化珪素基板2を用いて半導体装置を作製した場合でも、当該半導体装置におけるキャリア濃度のばらつき(ずれ)を抑制することができる。
【0040】
次に、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法について説明する。図3を参照して、まず工程(S10)としてインゴット準備工程が実施される。この工程(S10)においては、炭化珪素からなるインゴットが準備される。具体的には、たとえば(0001)面を主面とする種基板を準備し、当該主面上に炭化珪素単結晶を[0001]方向に成長させることにより、炭化珪素からなるインゴットを作製することができる。
【0041】
次に、工程(S20)としてスライス工程が実施される。この工程(S20)では工程(S10)において準備されたインゴットがスライスされることにより、基板が採取される。具体的には、たとえば上述のように(0001)面を主面とする種基板を準備し、[0001]方向に成長させてインゴットを準備した場合、インゴットの{0001}面に対して所定の角度だけ傾いた面でインゴットをスライスすることにより、主面が{03−38}面に近い基板が採取される。このとき、採取される基板の直径を50.8mm以上とすることにより、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法によって得られる炭化珪素基板を用いた半導体装置の製造効率を向上させることができる。
【0042】
次に、工程(S30)として研磨工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において採取された基板の主面が研磨され、平坦化される。
【0043】
次に、工程(S40)として面方位確認工程が実施される。この工程(S40)では、採取された基板における少なくとも一方の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角(ずれ角)が、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において0.5°以下であることが確認される。具体的には、炭化珪素単結晶の{03−38}面は禁制面であるため、たとえば(1−102)面を回折面として用いてX線回折法により基板の主面の面方位を確認することができる。ここで、Cu(銅)をターゲットとしたX線回折装置を採用した場合、(1−102)面と{03−38}面とは7.4°の角度をなすため、これを考慮して上記ずれ角を算出することができる。
【0044】
また、工程(S40)においては、採取された基板の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が、<−2110>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において10°以下であることも確認されることが好ましい。上記基板の主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角との確認は、一方ずつ実施されてもよいし、同時に実施されてもよい。
【0045】
そして、上記工程(S40)の結果、上記角度の条件が満たさなかったものが除外され、上記条件を満たしたもののみが製品とされる。以上の手順により、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法が完了し、上記本実施の形態における炭化珪素基板1が得られる。
【0046】
さらに、工程(S50)としてエピタキシャル成長工程が実施されてもよい。この工程(S50)では、工程(S40)において得られた炭化珪素基板1の一方の主面1A上にエピタキシャル成長層20が形成される(図1および図2参照)。これにより、エピタキシャル成長層20を含む本実施の形態における炭化珪素基板2が得られる。
【0047】
(実施の形態2)
次に、上記本発明の炭化珪素基板を用いて作製される半導体装置の一例を実施の形態2として説明する。図4を参照して、本実施の形態における半導体装置101は、縦型DiMOSFET(Double Implanted MOSFET)であって、基板102、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n領域124、p領域125、酸化膜126、ソース電極111および上部ソース電極127、ゲート電極110および基板102の裏面側に形成されたドレイン電極112を備える。具体的には、導電型がn型の炭化珪素からなる基板102の表面上に、炭化珪素からなるバッファ層121が形成されている。基板102としては、上記実施の形態1において説明した炭化珪素基板1を含む本発明の炭化珪素基板が採用される。そして、上記実施の形態1の炭化珪素基板1が採用される場合、バッファ層121は、炭化珪素基板1の主面1A上に形成される。バッファ層121は導電型がn型であり、その厚みはたとえば0.5μmである。また、バッファ層121におけるn型の導電性不純物の濃度はたとえば5×1017cm−3とすることができる。このバッファ層121上には耐圧保持層122が形成されている。この耐圧保持層122は、導電型がn型の炭化珪素からなり、たとえばその厚みは10μmである。また、耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の濃度としては、たとえば5×1015cm−3という値を用いることができる。
【0048】
この耐圧保持層122の表面には、導電型がp型であるp領域123が互いに間隔を隔てて形成されている。p領域123の内部においては、p領域123の表面層にn領域124が形成されている。また、このn領域124に隣接する位置には、p領域125が形成されている。一方のp領域123におけるn領域124上から、p領域123、2つのp領域123の間において露出する耐圧保持層122、他方のp領域123および当該他方のp領域123におけるn領域124上にまで延在するように、酸化膜126が形成されている。酸化膜126上にはゲート電極110が形成されている。また、n領域124およびp領域125上にはソース電極111が形成されている。このソース電極111上には上部ソース電極127が形成されている。そして、基板102において、バッファ層121が形成された側の表面とは反対側の面である裏面にドレイン電極112が形成されている。
【0049】
本実施の形態における半導体装置101においては、基板102として上記実施の形態1において説明した炭化珪素基板1を含む本発明の炭化珪素基板が採用される。すなわち、半導体装置101は、炭化珪素基板としての基板102と、基板102上に形成されたエピタキシャル成長層としてのバッファ層121および耐圧保持層122と、耐圧保持層122上に形成されたソース電極111およびゲート電極110とを備えている。そして、当該基板102は、本発明の炭化珪素基板である。
【0050】
ここで、上述のように、本発明の炭化珪素基板は、半導体装置のチャネル移動度の向上と特性の安定とを両立させることが可能な炭化珪素基板となっている。そのため、半導体装置101は、高いチャネル移動度を備えつつ特性の安定した半導体装置となっている。より具体的には、基板102の主面が{03−38}面に近い面であるため、エピタキシャル成長層である耐圧保持層122の主面122Aは{03−38}面に近い面となっている。その結果、チャネル領域(p領域123においてゲート電極110直下の酸化膜126に接する領域)における移動度が高くなっている。また、基板102の主面における{03−38}面からのずれが適切に抑制されているため、バッファ層121、耐圧保持層122、p領域123、n領域124、p領域125などにおけるキャリア濃度のばらつき(ずれ)が十分に抑制されている。その結果、半導体装置101は、閾値電圧、耐圧などの特性が安定したMOSFETとなっている。
【0051】
次に、図5図9を参照して、図4に示した半導体装置101の製造方法を説明する。図5を参照して、まず、炭化珪素基板準備工程(S110)を実施する。ここでは、炭化珪素からなる基板102(図6参照)を準備する。この基板102としては、上記実施の形態1において説明した炭化珪素基板1を含む上記本発明の炭化珪素基板が準備される。
【0052】
また、この基板102(図6参照)としては、たとえば導電型がn型であり、基板抵抗が0.02Ωcmといった基板を用いてもよい。
【0053】
次に、図5に示すように、エピタキシャル層形成工程(S120)を実施する。具体的には、基板102の表面上にバッファ層121を形成する。このバッファ層121は、基板102として採用される炭化珪素基板1の主面1A上(図1参照)に形成される。バッファ層121としては、導電型がn型の炭化珪素からなり、たとえばその厚みが0.5μmのエピタキシャル層を形成する。バッファ層121における導電型不純物の密度は、たとえば5×1017cm−3といった値を用いることができる。そして、このバッファ層121上に、図6に示すように耐圧保持層122を形成する。この耐圧保持層122としては、導電型がn型の炭化珪素からなる層をエピタキシャル成長法によって形成する。この耐圧保持層122の厚みとしては、たとえば10μmといった値を用いることができる。また、この耐圧保持層122におけるn型の導電性不純物の密度としては、たとえば5×1015cm−3といった値を用いることができる。
【0054】
次に、図5に示すように注入工程(S130)を実施する。具体的には、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成した酸化膜をマスクとして用いて、導電型がp型の不純物を耐圧保持層122に注入することにより、図7に示すようにp領域123を形成する。また、用いた酸化膜を除去した後、再度新たなパターンを有する酸化膜を、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて形成する。そして、当該酸化膜をマスクとして、n型の導電性不純物を所定の領域に注入することにより、n領域124を形成する。また、同様の手法により、導電型がp型の導電性不純物を注入することにより、p領域125を形成する。その結果、図7に示すような構造を得る。
【0055】
このような注入工程の後、活性化アニール処理を行なう。この活性化アニール処理としては、たとえばアルゴンガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度1700℃、加熱時間30分といった条件を用いることができる。ここで、基板102の主面における{03−38}面からのずれが適切に抑制されているため、活性化が十分に達成され、ねらい値に近いキャリア濃度を得ることができる。
【0056】
次に、図5に示すようにゲート絶縁膜形成工程(S140)を実施する。具体的には、図8に示すように、耐圧保持層122、p領域123、n領域124、p領域125上を覆うように酸化膜126を形成する。この酸化膜126を形成するための条件としては、たとえばドライ酸化(熱酸化)を行なってもよい。このドライ酸化の条件としては、加熱温度を1200℃、加熱時間を30分といった条件を用いることができる。
【0057】
その後、図5に示すように窒素アニール工程(S150)を実施する。具体的には、雰囲気ガスを一酸化窒素(NO)として、アニール処理を行なう。アニール処理の温度条件としては、たとえば加熱温度を1100℃、加熱時間を120分とする。この結果、酸化膜126と下層の耐圧保持層122、p領域123、n領域124、p領域125との間の界面近傍に窒素原子が導入される。また、この一酸化窒素を雰囲気ガスとして用いたアニール工程の後、さらに不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用いたアニールを行なってもよい。具体的には、アルゴンガスを雰囲気ガスとして用いて、加熱温度を1100℃、加熱時間を60分といった条件を用いてもよい。
【0058】
次に、図5に示すように電極形成工程(S160)を実施する。具体的には、酸化膜126上にフォトリソグラフィ法を用いてパターンを有するレジスト膜を形成する。当該レジスト膜をマスクとして用いて、n領域124およびp領域125上に位置する酸化膜の部分をエッチングにより除去する。この後、レジスト膜上および当該酸化膜126において形成された開口部内部においてn領域124およびp領域125と接触するように、金属などの導電体膜を形成する。その後、レジスト膜を除去することにより、当該レジスト膜上に位置していた導電体膜を除去(リフトオフ)する。ここで、導電体としては、たとえばニッケル(Ni)を用いることができる。この結果、図9に示すように、ソース電極111を得ることができる。なお、ここでアロイ化のための熱処理を行なうことが好ましい。具体的には、たとえば雰囲気ガスとして不活性ガスであるアルゴン(Ar)ガスを用い、加熱温度を950℃、加熱時間を2分といった熱処理(アロイ化処理)を行なう。
【0059】
その後、ソース電極111上に上部ソース電極127(図4参照)を形成する。また、酸化膜126上にゲート電極110(図4参照)を形成する。また、ドレイン電極112を形成する(図4参照)。このようにして、図4に示す半導体装置101を得ることができる。
【0060】
なお、上記実施の形態2においては、本発明の炭化珪素基板を用いて作製可能な半導体装置の一例として、縦型MOSFETに関して説明したが、作製可能な半導体装置はこれに限られない。たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)など、他の半導体装置が本発明の炭化珪素基板を用いて作製可能である。
【0061】
また、上記{03−38}面は(0−33−8)面であることが好ましい。これにより、炭化珪素基板を用いてMOSFET等を作製した場合におけるチャネル移動度を、より一層向上させることができる。ここで、六方晶の単結晶炭化珪素の(0001)面はシリコン面、(000−1)面はカーボン面と定義される。つまり、上記{03−38}面はカーボン面側の面であることが好ましい。
【0062】
なお、パワーデバイスへの適用を考慮すると、炭化珪素基板を構成する炭化珪素のポリタイプは4H型であることが好ましい。
【0063】
(実施の形態3)
次に、本発明に係る炭化珪素基板の他の実施の形態である実施の形態3について説明する。実施の形態3における炭化珪素基板は、基本的には実施の形態1の炭化珪素基板と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、図10および図1を参照して、実施の形態3における炭化珪素基板は、ベース層11および単結晶炭化珪素層12を備えている点において、実施の形態1の場合とは異なっている。
【0064】
具体的には、図10を参照して、実施の形態3における炭化珪素基板1は、ベース層11と、ベース層11上に形成された単結晶炭化珪素層12とを備えている。そして、単結晶炭化珪素層12の、ベース層11の側とは反対側の主面12Aが、上記実施の形態1における主面1Aに対応する。
【0065】
本実施の形態における炭化珪素基板1においては、ベース層11として安価なベース基板、たとえば欠陥密度の大きい単結晶炭化珪素からなる基板や多結晶炭化珪素基板、あるいは金属からなるベース基板を採用し、ベース層11上に良質な炭化珪素単結晶からなる基板を配置して単結晶炭化珪素層12とされている。そのため、本実施の形態における炭化珪素基板1は、製造コストが抑制された炭化珪素基板となっている。また、本実施の形態の炭化珪素基板1は、大口径のベース層11上に、複数の単結晶炭化珪素層12が平面的に見て並べて配置された構造を有している。その結果、本実施の形態における炭化珪素基板1は、製造コストが抑制され、かつ大口径な炭化珪素基板となっている。
【0066】
次に、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法について説明する。図11を参照して、本実施の形態における炭化珪素基板の製造方法では、まず実施の形態1の場合と同様に工程(S10)および(S20)が実施される。その後、工程(S21)として単結晶基板成形工程が実施される。この工程(S21)では、工程(S10)〜(S20)の結果得られた基板が、図10に示す単結晶炭化珪素層12を構成するのに適した形状に成形される。具体的には、たとえば工程(S10)〜(S20)の結果得られた基板が成形されることにより、複数の矩形の基板が準備される。
【0067】
次に、工程(S22)として貼り合せ工程が実施される。この工程(S22)では、別途準備されたベース基板上に、工程(S21)において作製された複数の基板が平面的に見て並べて、たとえばマトリックス状に配置される。その後、所定の温度に加熱する処理が実施されることにより、ベース基板と工程(S21)において作製された基板とが接合されて一体化し、図10に示すように、ベース層11上に複数の単結晶炭化珪素層12が平面的に見て並べて配置された構造体が得られる。
【0068】
その後、工程(S30)〜(S40)が上記実施の形態と同様に実施されることにより、図10に示す実施の形態3における炭化珪素基板1が完成する。さらに、実施の形態1の場合と同様に、工程(S50)を実施することにより、単結晶炭化珪素層12上にエピタキシャル成長層を形成してもよい。
【0069】
なお、上記実施の形態3においては、ベース層11と単結晶炭化珪素層12とが加熱により直接接合されて形成される場合について説明したが、これらは接着剤等の中間層を介して接合されてもよい。
【0070】
(実施例1)
炭化珪素基板の主面の{03−38}面からのずれ角と、炭化珪素基板上に形成されたエピタキシャル成長層におけるキャリア濃度のずれとの関係を調査する実験を行なった。
【0071】
まず、<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角が異なる複数の炭化珪素基板を準備した。その後、当該主面上に1×1016cm−3のキャリア濃度となるように不純物を導入したエピタキシャル成長層を形成し、試料とした。その後、各試料のエピタキシャル成長層におけるキャリア濃度を測定し、上記ねらい値(1×1016cm−3)からのずれを算出した。実験結果を図12に示す。図12において、横軸は<01−10>方向および<0001>方向を含む平面への正射影において、主面の法線と{03−38}面の法線とのなす角(ずれ角)、縦軸はキャリア濃度のねらい値(1×1016cm−3)からのずれの比率(キャリア濃度のずれ)を示している。
【0072】
図12を参照して、ずれ角が小さくなるに従ってキャリア濃度のずれは急激に減少している。そして、ずれ角を0.5°以下とすることにより、キャリア濃度のずれを十分に抑制できることが確認される。
【0073】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の炭化珪素基板および半導体装置ならびにこれらの製造方法は、炭化珪素基板を含む半導体装置の特性を安定させることが求められる炭化珪素基板および半導体装置ならびにこれらの製造方法に、特に有利に適用され得る。
【符号の説明】
【0075】
1,2 炭化珪素基板、1A,2A 主面、11 ベース層、12 単結晶炭化珪素層、12A 主面、20 エピタキシャル成長層、101 半導体装置、102 基板、110 ゲート電極、111 ソース電極、112 ドレイン電極、121 バッファ層、122 耐圧保持層、123 p領域、124 n領域、125 p領域、126 酸化膜、127 上部ソース電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12