特許第5942899号(P5942899)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5942899
(24)【登録日】2016年6月3日
(45)【発行日】2016年6月29日
(54)【発明の名称】シリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/02 20060101AFI20160616BHJP
   C01B 33/037 20060101ALI20160616BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20160616BHJP
   B09B 5/00 20060101ALI20160616BHJP
   H01L 31/04 20140101ALI20160616BHJP
【FI】
   C01B33/02 ZZAB
   C01B33/037
   B09B3/00 303Z
   B09B3/00 304Z
   B09B5/00 Z
   H01L31/04
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-39578(P2013-39578)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-166933(P2014-166933A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2015年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇尾野 宏之
(72)【発明者】
【氏名】宮元 幸博
(72)【発明者】
【氏名】片山 利昭
(72)【発明者】
【氏名】有田 陽二
(72)【発明者】
【氏名】山原 圭二
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−526171(JP,A)
【文献】 特開2001−048697(JP,A)
【文献】 特開2006−027923(JP,A)
【文献】 特開平10−251007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 33/193
B09B 3/00
B09B 5/00
H01L 31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンインゴットまたはシリコンウェーハの、切削または研削時に発生した削屑を、溶融する工程を有する、シリコンを製造する方法であって、
該溶融工程は、シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hが、0.5cm以上となる条件で、該削屑を誘導加熱するものであり、
さらに、該溶融工程は、以下の(1)および/または(2)を満たすものである
ことを特徴とする、シリコンの製造方法。
(1)原料シリコンを溶融したシリコン融液に、該シリコン融液全量に対して5重量%以上、95重量%以下の該削屑を溶融する
(2)該削屑をシリコンの融点以上に加熱した状態で、治具を用いて削屑を突く
【請求項2】
前記削屑が炭化ケイ素の砥粒を含まない
ことを特徴とする、請求項1に記載のシリコンの製造方法。
【請求項3】
前記溶融工程が前記(1)を満たすものであり、かつ、
前記シリコン融液が、該溶融工程に先立ち、前記原料シリコンを溶融することにより得られたものである
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のシリコンの製造方法。
【請求項4】
前記溶融工程が前記(1)を満たすものであり、かつ、
前記シリコン融液が、前記原料シリコンを、前記削屑と共に誘導加熱し溶融することにより得られたものである
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のシリコンの製造方法。
【請求項5】
前記溶融工程を、減圧下で行なう
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシリコンの製造方法
【請求項6】
前記溶融工程の前に、
前記削屑を、pH0以上5以下の酸性水溶液、または、該水溶液と1重量%以上90重量%以下の金属フッ化物水溶液との混合水溶液で洗浄する工程を有する
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリコンの製造方法。
【請求項7】
前記溶融工程において、
アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物の存在下で、前記削屑を溶融する
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のシリコンの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のシリコンの製造方法により得られたシリコンを、鋳造する工程を有する
ことを特徴とする、シリコンインゴットの製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンの製造方法に関する。具体的には、原料としてシリコンインゴットまたはシリコンウェーハの、切削または研削時に発生した削屑を用いるシリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
削屑からのシリコンの回収方法として、シリコンインゴットまたはシリコンウェーハの切削または研削時に発生する、炭化ケイ素を含む削屑からシリコンを回収する方法であって、該炭化ケイ素を含む削屑とシリカ原料とを加熱してシリコンを製造する工程を含むシリコンの回収方法が知られている(特許文献1)。この方法では、削屑中に炭化ケイ素を含む場合の回収方法であり、アーク炉を用いることが好適である。
【0003】
また、削屑中に炭化ケイ素を含まない場合のリサイクル方法としては、不活性ガス或は酸素ガスの存在下、若しくは真空状態下で、加熱温度を室温から300℃の範囲、300℃から850℃の範囲、及び850℃から1200℃の範囲の温度条件でシリコン固形物を焼成するシリコン再生システムが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2011/111767国際公開パンフレット
【特許文献2】特開2011−121049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、炭化ケイ素の砥粒を含む削屑の回収を対象とした、アーク炉を用いた熱還元法による製造例が開示されている。しかしながら、特許文献1のようにアーク炉熱還元法を用いると、充分な不活性雰囲気処理ができなかったり、アーク炉の炉体構成材として使用される耐火物からの不純物の混入によりシリコン純度が低下してしまったり、アーク炉自体が大型で運転管理が煩雑であったり、運転を安定化させるための技術が高度であったりするなど、工業化において問題がある。
【0006】
特許文献2に記載の製造方法は、炭化ケイ素の砥粒を含まない削屑を原料とし、アーク炉を用いていないが、加熱処理手段として、第1の温度制御手段と第2の温度制御手段を必要とし、さらに、加熱溶融手段も必要とするので、量産時のコストが高くなったり、安定生産するためには高度な運転技術が必要となったりする傾向にある。
本発明は、削屑からシリコンを製造する技術であって、炭化ケイ素の砥粒を含まない削屑にも適用可能であり、かつ、安定して量産可能な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、削屑からシリコンを製造する際、削屑の表面には強固な酸化ケイ素被膜が形成され、これが、削屑の融解を阻害していることを見出し、さらには、削屑の表面に形成される酸化ケイ素被膜を効率的に破壊する手段を見出すことにより、本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、以下の[1]〜[8]に存する。
[1]シリコンインゴットまたはシリコンウェーハの、切削または研削時に発生した削屑を、溶融する工程を有する、シリコンを製造する方法であって、該溶融工程は、シリコン
溶湯の表面における液面の最大高低差hが、0.5cm以上となる条件で、該削屑を誘導加熱するものであり、さらに、該溶融工程は、以下の(1)および/または(2)を満たすものであることを特徴とする、シリコンの製造方法。
(1)原料シリコンを溶融したシリコン融液に、該シリコン融液全量に対して5重量%以上、95重量%以下の該削屑を溶融する
(2)該削屑をシリコンの融点以上に加熱した状態で、治具を用いて削屑を突く
[2]前記削屑が炭化ケイ素の砥粒を含まないことを特徴とする、[1]に記載のシリコンの製造方法。
[3]前記溶融工程が前記(1)を満たすものであり、かつ、前記シリコン融液が、該溶融工程に先立ち、前記原料シリコンを溶融することにより得られたものであることを特徴とする、[1]または[2]に記載のシリコンの製造方法。
[4]前記溶融工程が前記(1)を満たすものであり、かつ、前記シリコン融液が、前記原料シリコンを、前記削屑と共に誘導加熱し溶融することにより得られたものであることを特徴とする、[1]または[2]に記載のシリコンの製造方法。
[5]前記溶融工程を、減圧下で行なうことを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載のシリコンの製造方法。
[6]前記溶融工程の前に、前記削屑を、pH0以上5以下の酸性水溶液、または、該水溶液と1重量%以上90重量%以下の金属フッ化物水溶液との混合水溶液で洗浄する工程を有することを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のシリコンの製造方法。
[7]前記溶融工程において、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物の存在下で、前記削屑を溶融することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載のシリコンの製造方法。
[8][1]〜[7]のいずれかに記載のシリコンの製造方法により得られたシリコンを、鋳造する工程を有することを特徴とする、シリコンインゴットの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、削屑からシリコンを安定して量産することが可能であり、かつ、高純度のシリコンが得られる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に用いることができるシリコン製造装置の一例の概要を示した断面の概略図である。
図2】本発明に用いることができるシリコン製造装置の一例の概要を示した断面の概略図である。
図3】本発明に用いることができるシリコン製造装置の一例の概要を示した断面の概略図である。
図4】本発明に用いることができるシリコン製造装置の一例の概要を示した断面の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、シリコンインゴットまたはシリコンウェーハの、切削または研削時に発生した削屑を、溶融する工程を有する、シリコンを製造する方法であって、該溶融工程は、シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hが、0.5cm以上となる条件で、該削屑を誘導加熱するものであり、さらに、該溶融工程は、以下の(1)および/または(2)を満たすことを特徴とするものである。
(1)原料シリコンを溶融したシリコン融液の存在下で、該シリコン融液全量に対して5重量%以上、95重量%以下の該削屑を溶融する。
(2)該削屑をシリコンの融点以上に加熱した状態で、治具を用いて削屑を突く。
以下、本発明の製造方法において原料として用いる削屑について説明した上で、本発明の製造方法、および本発明の製造方法により得られるシリコンについて説明する。
【0011】
[削屑]
本発明の製造方法では、その原料として、シリコンインゴットまたはシリコンウェーハを、切削または研削する際に発生した削屑(以下、単に「削屑」と称する場合がある)を用いることができる。このような削屑には、比較的高純度のシリコンが含まれることが多く、本発明の製造方法によれば、このような削屑から高純度のシリコンをリサイクルすることが可能となる。
【0012】
ここで、「切削」とは、例えば、インゴットの上下端部や側面部を切断すること、インゴットからウェーハの縦横寸法の角柱を切り出すこと、該角柱や円柱状インゴットからウェーハを切り出すことを意味する。切削には、例えば、ワイヤーソーおよびブレードソー等が用いられる。
「研削」とは、例えば、インゴットの側面を削ること、およびウェーハの表面または裏面を研削することを意味する。
【0013】
本発明に用いる削屑としては、炭化ケイ素の砥粒を含むものと含まないものがあり、本発明においては、いずれも原料として用いることができるが、炭化ケイ素の砥粒を含まない削屑の方が好ましい。炭化ケイ素の砥粒を含む削屑を用いると、炭化ケイ素の除去、炭化ケイ素砥粒由来の不純物の混入が生じやすいためである。
本発明に用いる削屑中のシリコンと炭化ケイ素との割合は、質量比で、5:95〜100:0(シリコン:炭化ケイ素)とすることが好ましく、50:50〜100:0(シリコン:炭化ケイ素)とすることがさらに好ましく、70:30〜100:0(シリコン:炭化ケイ素)とすることが特に好ましい。本発明の製造方法では、シリコンの含有量が大きいほど効率的にシリコンを製造することができる。
【0014】
削屑中のシリコンの含有量は、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、80質量%であることがさらに好ましい。
削屑中の炭化ケイ素の含有量は、60質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、もっとも好ましくは0質量%である。この範囲であると、炭化ケイ素の除去がしやすく、かつ炭化ケイ素由来の不純物混入が少なく、効率的に高純度のシリコンが得られるため得られるため好ましい。すなわち、削屑中の炭化ケイ素の含有量は、少ないほど効率的にシリコンを製造することができる。
【0015】
なお、削屑中のシリコンおよび炭化ケイ素の含有量は、従来公知の方法により測定することができ、例えば、燃焼赤外線吸収法により測定することができる。
削屑中に含まれる不純物としては、例えば、鉄、アルミニウム、カルシウム、チタン等が挙げられる。
削屑中の鉄、アルミニウム、カルシウムおよびチタン(以下、「主要金属不純物」と称する場合がある。)の含有量は、何れも0.1質量%(1000質量ppm)以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以下であることが更に好ましい。
【0016】
また、削屑中の主要金属不純物の合計の含有量は、0.1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましく、0.002質量%以下であることが更に好ましい。
削屑中の主要金属不純物の含有量を前記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られるシリコンの純度を高くすることができ、さらに精製工程を行なう場合は、精製工程での不純物除去における負荷を抑えることができる。また、高純度のシリコンの収率を向上することができる。
【0017】
削屑中の主要金属不純物の含有量は、少ないほど好ましく、特に限定されないが、下限は通常0.0001質量%以上であり、場合によっては0.0002質量%以上である。
また、削屑中のボロン及びリンの含有量は特に限定されるものではないが、通常各々10質量ppm(0.001質量%)以下であることが好ましく、5質量ppm以下であることがより好ましく、1質量ppm以下であることがさらに好ましく、0.5質量ppm以下であることが特に好ましく、0.1質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0018】
削屑中のボロン及びリンの含有量を前記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られるシリコンの純度を高くすることができ、さらに精製工程を行なう場合は、精製工程での不純物除去における負荷を抑えることができる。また、高純度のシリコンの収率を向上することができる。
削屑中のボロン及びリンの含有量は、少ないほど好ましく、下限は特に限定されるものではないが、通常0.001質量ppm以上であり、場合によっては0.01質量ppm以上である。
【0019】
また、本発明に用いる削屑の粒径は、体積基準メジアン径で、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.8μm以上であり、また、通常10mm以下、好ましくは1mm以下、さらに好ましくは50μm以下である。この範囲であると、誘導加熱による削屑の溶融効率が高くなる傾向にあり、好ましい。
なお、体積基準メジアン径は、従来公知の方法により測定することができる。具体的には、例えば、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(例として、Tween20(登録商標))の0.2質量%水溶液10mLに、測定粒子0.01gを懸濁させ、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−920、HORIBA製)に導入し、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、測定装置における体積基準のメジアン径として測定したものを、粒径とする。
【0020】
また、本発明に用いる削屑は、必要に応じて、洗浄、表面処理等の前処理が行われていてもよい。
例えば、後述する本発明の製造方法における溶融工程の前に、削屑を、pH0以上5以下の酸性水溶液、または、該水溶液と1重量%以上90重量%以下の金属フッ化物水溶液との混合水溶液で洗浄することができる。このような洗浄を行なうと、削屑に含まれる不純物が減少するので好ましい。
【0021】
pH0以上5以下の酸性水溶液としては、フッ酸、硫酸、硝酸、塩酸等が挙げられ、中でも塩酸が好ましい。
1重量%以上90重量%以下の金属フッ化物水溶液の金属フッ化物としては、アルカリ金属フッ化物、およびアルカリ土類金属フッ化物からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらの中でも、公知のシリコン精製プロセスにおけるスラグ法等で一般的に用いられるものが工業的に容易に使用可能であり、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウムがより好ましく、フッ化ナトリウムが特に好ましい。
削屑の洗浄を行なう際は、必要に応じて、撹拌することが好ましい。
【0022】
[本発明の製造方法]
本発明の製造方法は、前記削屑を溶融する工程を有する製造方法であって、該溶融工程が、シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hが、0.5cm以上となる条件で、該削屑を誘導加熱するものであり、さらに、該溶融工程が、以下の(1)および/または(2)を満たすことを特徴とするものである。
(1)原料シリコンを溶融したシリコン融液の存在下で、該シリコン融液全量に対して5重量%以上、95重量%以下の該削屑を溶融する。
(2)該削屑をシリコンの融点以上に加熱した状態で、治具を用いて削屑を突く。
【0023】
ここで、本発明において、原料シリコンとは、前記(1)を満たす溶融工程を有する方法で製造した場合に、シリコン融液(下湯)の元となるシリコン、すなわち、シリコン融液の融解前のシリコンのことをいう。
また、本発明において、シリコン溶湯とは、前記削屑が溶融したものをいい、前記(1)を満たす溶融工程を有する方法で製造した場合には、前記削屑が溶融したものと、原料シリコンを溶融したシリコン融液とを合わせたものをいう。
【0024】
このような本発明の製造方法は、太陽電池用パネルを制作する際の素材に使用される高純度シリコンの工業的な製造方法として特に好適に用いることができる。
(溶融工程)
本発明の溶融工程は、削屑を誘導加熱することにより行われる。誘導加熱は、撹拌力に優れており、また、直接加熱により、急速加熱、局所加熱が可能であり、加熱効率が高いため、好ましい。
【0025】
本発明で用いることのできる製造装置については、特に制限はないが、例えば、後述の(製造装置の具体例)に例示されるものを用いることができる。なお、溶融工程において、原料を溶融する容器としては、グラファイト製、シリコンカーバイド製、炭素・炭素複合材製等の容器を用いることができ、中でも、黒鉛製の容器が好ましい。
本発明の溶融工程では、原料である削屑が誘導加熱によりすべて溶融し、シリコン溶湯となった時点で、該シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差Hが、0.5cm以上となる条件で、誘導加熱を行なう。即ち、シリコン溶湯の液面が盛り上がるような条件で誘導加熱を行なう。このようにすると、誘導される電流が誘導コイルの電流と逆方向に流れることで反発力が生じ、撹拌力が生じるので好ましい。
【0026】
シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hは、撹拌力と自重が平衡するところで決まる(式(1)参照)。式(1)において、hはシリコン溶湯の表面における液面の最大高低差(cm)を、Fは後述する式(2)で求められる値を、γは 溶湯の比重(kg
/cm)を示す。ここで、溶湯の比重(kg/cm)とは、アルキメデス法等の公知の方法により求めることができる。シリコンの融点における液体比重は、2.6×10−3(kg/cm)である。
【0027】
したがって、式(1)において、シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hが0.5cm以上となるように、式(2)で求められるF値を調整すること、すなわち、式(2)における、μs:比透磁率、ρ: 抵抗率 (Ω cm)、f:周波数 (Hz)、P: 誘導炉入力 (kW)、S: 溶湯外周面積 (cm)を調整することにより、シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hが、0.5cm以上となるようにすることができる。
【0028】
ここで、比透磁率μsとは、磁場 (磁界)の強さHと磁束密度Bとの間の関係をB=μHで表した時の比例定数μと、真空の透磁率μ0との比μs=μ/μ0により求めることが
できる。本発明においては、比透磁率μsを1として計算する。
抵抗率(Ω cm)とは導体の電気抵抗を意味するものであり、材料によって固有に決ま
るものである。一般にシリコンの抵抗率は、10−3〜10(Ωcm)であるが、不純物量に影響される。そのため、正確には、用いる原料シリコン及び削屑の不純物濃度を参考にして概算するか、あるいは、直接、抵抗率を測定して値を求めることができる。
【0029】
周波数(Hz)とは、1秒間に繰り返される波のサイクル数を意味するものであり、周波数測定のための専用計器で測定することにより求めることができる。
誘導炉入力 (kW)とは、コイルに流れる電力を意味するものであり、製造装置に付
属する計器で設定することができ、設定した値を読み取ることにより求めることができる

溶湯外周面積 (cm)とは、コイルに対面する溶湯の外周面積を意味するものであ
り、シリコンが溶融した状態での溶湯深さ、および、るつぼの内径(あるいは、加熱に用いる容器の内径に相当する長さ)を実測して計算するか、溶湯密度等を用いて事前に計算することにより求めることができる。
【0030】
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
このような条件で誘導加熱を行なうと、電磁力によってシリコン溶湯の攪拌効果が得られるので、効率的かつ均一に溶解することが可能となり、さらに削屑表面に形成される酸化ケイ素膜を刺激または破壊することができ、好ましい。
本発明における溶融工程は、上述のようにシリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hが、0.5cm以上となる条件で行なうが、例えば、以下のような加熱条件で行なうことができる。
【0033】
溶融工程における加熱温度(最高到達温度)は、通常1400℃以上、好ましくは1420℃以上であり、また、通常2000℃以下、好ましくは1800℃以下である。これ以上低温であると、シリコンが溶融しにくくなる傾向にあり、これ以上高温だと装置構成部材が消耗したり、加熱を維持するためのコストが高くなったりするためである。
溶融工程における加熱時間(最高到達温度での保持時間)は、通常5分間以上、好ましくは10分間以上であり、また、通常48時間以下、好ましくは24時間以下である。これ以上短時間であると、シリコン溶湯が不均一となってしまう傾向にあり、また、これ以上長時間であると、生産性が低下する傾向にあるためである。この範囲は、用いる削屑の重量やその他条件により変動するので、限定されるものではない。
【0034】
溶融工程における圧力は、通常0.01Pa以上、好ましくは0.1Pa以上であり、また、通常2.0×10Pa以下、好ましくは1.0×10Pa以下である。溶湯表面に生成する酸化ケイ素や、不純物であるリン(P)を蒸発除去することが可能であるため、減圧とすることが好ましい。
また、原料である削屑は、複数回に分けて、製造装置へ添加することもできる。複数回に分けて添加すると、攪拌効果が有効に働きやすく、の点で好ましい。
【0035】
また、本発明の溶融工程は、上述のシリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hに加えて、以下の(1)および/または(2)を満たすことを特徴とするものである。
(1)原料シリコンを溶融したシリコン融液の存在下で、該シリコン融液全量に対して5重量%以上、95重量%以下の該削屑を溶融する。
(2)該削屑をシリコンの融点以上に加熱した状態で、治具を用いて削屑を突く。
本発明の溶融工程では、前記(1)、前記(2)のいずれかを満たしていればよいが、効率的に溶融するために、前記(2)を満たしていることが好ましい。
以下、前記(1)、および(2)について順に説明する。
【0036】
(前記(1):シリコン融液)
本発明の溶融工程では、原料シリコンを溶融したシリコン融液(すなわち、下湯)の存在下で、該シリコン融液全量に対して5重量%以上、95重量%以下の該削屑を溶融することが好ましい。下湯の存在により、削屑が溶融しやすくなり、上述のように溶湯が盛り上がる条件で誘導加熱を行なうので、下湯と削屑が混ざりやすく、削屑がさらに溶融しやすくなる。
【0037】
ここで用いる原料シリコンの純度は、通常90%位上、好ましくは99.9%以上、さらに好ましくは99.99%以上である。また、原料シリコンの純度は、高いほど好ましいが、その上限としては、半導体級シリコン(純度99.999999999%(11N)以上)が挙げられ、精製の必要性等を考慮すれば、最も好ましくは6N(99.9999%)以上である。
【0038】
また、原料シリコンの体積基準メジアン粒径は、通常0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であり、また、通常200mm以下、好ましくは100mm以下である。
シリコン融液全量に対する削屑の割合は、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上であり、また、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下である。
シリコン融液は、その全部または一部が、溶融工程に先立ち、前記原料シリコンを溶融することにより得られたものであることが好ましい。シリコン融液を別工程で生成すると、シリコン融液の搬送や保管が煩雑となることがあるので、削屑の溶融に用いる製造装置を用いて、原料シリコンを予め溶融しておくことが好ましい。この態様には、先に製造したシリコンの、シリコン融液を鋳込むことなく、容器内に残しておくことも含まれる。
また、シリコン融液は、その全部または一部が、前記原料シリコンを、前記削屑と共に誘導加熱することにより得られたものであることが好ましい。シリコン融液を別工程で生成する場合には、シリコン融液の搬送や保管が煩雑かつ高コストとなり、生産性が低下することがあるためである。
【0039】
シリコン融液と、削屑の位置関係については、特に制限はないが、削屑を、シリコン融液の上に配置すると、どの程度、溶融したのかが確認しやすく、また適宜、後述する冶具で突くことが容易となり、好ましい。必要に応じて、削屑を溶融している途中で、その上にシリコン融液を流すこともできる。
【0040】
(前記(2):治具)
削屑をシリコンの融点以上に加熱した状態で、治具を用いて削屑を突くことが好ましい。
本発明における治具とは、削屑と直接接触し、打突または攪拌するための道具のことをいう。
治具は、例えば、グラファイト製、シリコンカーバイド製、炭素・炭素複合材製のものを用いることができるが、中でも黒鉛製のものが好ましい。
治具の形状に特に制限はないが、棒状のものが好ましい。
治具の太さは、通常10mmφ以上、好ましくは20mmφ以上であり、また、通常500mmφ以下、好ましくは100mmφ以下である。
【0041】
治具の大きさは、製造に用いる装置や容器の大きさによって適宜選択され、削屑を突くという目的が達せられ、人力または自動操作において扱いやすければよい。重量が重すぎると、人や装置への負荷が大きくなる傾向にある。
治具の強度は、シリコン溶湯や高温の削屑に接触する条件下で、削屑を打突、掻き混ぜる操作などにおいて、破損せずに耐え得るものであれば、特に制限はない。
【0042】
また、シリコンの融点とは、文献値は1410℃であるが、運転条件下における原料となる削屑の融点を意味する。通常1400℃以上、1800℃以下である。シリコンの融点以上に削屑を加熱すると、酸化ケイ素被膜に内包されたシリコンが融液となり、治具で酸化ケイ素被膜を破壊した際に、融液が染み出ることで被膜破壊が促進されるためである。
【0043】
治具を用いて削屑を突く際は、削屑の粒子表面に存在する酸化ケイ素被膜が破壊され、その中に存在する粒状の溶融シリコンが見えるようになるまで突くことが好ましい。原料の量や製造装置(加熱炉)の構成によっても変わってくるが、例えば、5〜10分間くらいの間隔で、3〜50回程度、1mm程度の厚みの石英ガラス板を割るくらいの力で突くことが好ましい。
【0044】
(溶融塩)
本発明の溶融工程は、アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物の存在下で行なうことができる。このようにすると、削屑に含まれる不純物(特に、ホウ素)の含有量をさらに低減させることができる。
アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類フッ化物としては、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化カルシウム等が挙げられ、中でもフッ化ナトリウムが好ましい。
【0045】
アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物は、削屑の重量(前記(1)シリコン融液を用いる場合は、シリコン融液と削屑との合計重量)に対して、通常1重量%以上、好ましくは3重量%以上であり、また、通常99重量%以下、好ましくは90重量%以下である。
アルカリ金属フッ化物またはアルカリ土類金属フッ化物は、溶融工程に先立ち、削屑と混合しておいてもよいし、溶融工程の途中で添加することもできる。
【0046】
(鋳造工程)
鋳造工程は、溶融工程で得られた溶融シリコンを鋳型に鋳込み、シリコンインゴットを得る工程である。
鋳造工程としては、その方法に特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。
【0047】
(製造装置の具体例)
図1は、本発明に用いることができるシリコン製造装置の一例の概要を示した断面図である。この装置は、密閉可能なチャンバー7、その内部に配置したるつぼ3、誘導加熱用のコイル4、断熱材8、るつぼの支持台10、およびシリコン溶湯を鋳込むための鋳型9などから成る。
【0048】
密閉可能なチャンバー7には、ガスの導入口11、排気口12、連続原材料投入口6、削屑添加用バケット15等が取り付けられており、チャンバー7の中を0.01〜2×10Pa(真空から2気圧)程度の圧力範囲まで制御することができる。冶具16により、必要に応じて、削屑を突くことが可能である。
また、加熱用の誘導コイル4、断熱材8、るつぼ3は、一体で傾動できるようになっており、溶融工程により得られるシリコン(シリコン溶湯)1は、鋳型9に流しこまれる。
【0049】
誘導加熱は、電源の周波数が比較的低い、例えば、1〜30KHz程度の電源を用いると、誘導電流がシリコン溶湯内で発生し、特有の攪拌現象が発生するので望ましい。特に、この場合、攪拌板等をシリコン融液内に挿入することなく融液を攪拌できるので、汚染
の点からも最も好ましい。
【0050】
図2は、本発明に用いることができるシリコン製造装置の他の一例の概要を示した断面図である。図2の装置においては、シリコン溶湯の界面を効率的に動かすことができ、図1の説明で記載した誘導加熱による攪拌効果と併せて、液相の中に不活性ガスであるアルゴン等をパイプ5で吹き込むことによって液相を攪拌し、改善することができる。
図3は、本発明に用いることができるシリコン製造装置の他の一例の概要を示した断面図である。図3においては、図2で示したパイプ5の代わりに、攪拌板13を用いて液相を攪拌する方法が記載されているが、その他の部分については、図2とほぼ同じである。なお、攪拌板を用いると、誘導加熱による攪拌効果をさらに向上させることができる。冶具16に加えて、撹拌板を用いてもよい。
【0051】
図4は、本発明に用いることができるシリコン製造装置の他の一例の概要を示した断面図である。図4においては、粉または粒状の削屑は連続原材料投入口6から連続的に溶融シリコン表面に投入され、また、蒸発物は、吸引口14から、やはり連続的に系外に排気される。その他の部分については、図1〜5のいずれかとほぼ同じである。
また、図1〜4において、ガス排気口12、または吸引口14の先には、蒸発した反応生成物をトラップするための例えばサイクロン、フィルタ、真空排気装置(いずれも図示せず)が設置される。
また、加熱用のコイル4には、通常、1〜30KHzの高周波電流を電源(図示せず)から供給し、黒鉛製るつぼ3、または、溶融シリコンに誘導電流を発生させることによって内容物を加熱溶融、さらに誘導撹拌する。
【0052】
[シリコン]
本発明の製造方法によれば、以下に説明するように不純物の少ないシリコンを製造することができる。本発明の製造方法では、以下に説明する不純物元素の中でも特にホウ素(B)、リン(P)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)を低減することができ、これにより高効率の太陽電池用シリコンが得られるので好ましい。
本発明の製造方法により得られるシリコンのホウ素(B)濃度は、通常1.6ppm以下、好ましくは1.4ppm以下であり、より好ましくは0.38ppm以下、さらに好ましくは0.1ppm以下である。
本発明の製造方法により得られるシリコンのリン(P)濃度は、通常20ppm以下、好ましくは0.2ppm以下であり、より好ましくは0.1ppm以下である。
【0053】
本発明の製造方法により得られるシリコンの鉄(Fe)濃度は、通常1300ppm以下、好ましくは88ppm以下であり、より好ましくは33ppm以下、さらに好ましくは15ppm以下である。
本発明の製造方法により得られるシリコンのチタン(Ti)濃度は、通常22ppm以下、さらに好ましくは1ppm以下である。
【0054】
本発明の製造方法により得られるシリコンのカルシウム(Ca)濃度は、通常22ppm以下、好ましくは2.1ppm以下であり、より好ましくは1.2ppm以下、さらに好ましくは1.5ppm以下である。
本発明の製造方法により得られるシリコンのアルミニウム(Al)濃度は、通常20ppm以下、好ましくは18ppm以下であり、より好ましくは2ppmSpectrometer:高周波誘導結合プラズマ重量分析計)により分析することができる。
【0055】
なお、シリコン中の不純物濃度は、例えば、ICP−MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer:高周波誘導結合プラズマ重量分析計)により分析することができる。
また、本発明の製造方法により得られるシリコンは、さらに他の精製方法を組み合せてより純度を高めてもよい。他の精製方法としては、凝固偏析が挙げられる。また、上述したように溶融塩(NaF等)の存在下で、本発明の溶融工程を行なうと、B濃度を低減させることができる。
得られたシリコンは、公知の方法で加工することにより、例えば、太陽電池用のシリコンインゴットやシリコンウエハとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0056】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
シリコン削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)の溶解を富士電波工業株式会社の3KHz高周波真空溶解炉(型式FVM30型)を用いて、次の手順で行った。
【0057】
まず、外径145mmφ、内径125mmφ、長さ200mmLの黒鉛るつぼに、削屑粉250gを入れた。この削屑粉を入れた黒鉛るつぼに断熱材を巻き、その後、この黒鉛るつぼをアルミナ外るつぼに入れた。このアルミナ外るつぼを、10kg溶解用コイルにセットし、チャンバー内をロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、オイル拡散ポンプを順次用いて高真空とし、0.53Paになるまで排気した。温度測定用のBタイプ熱電対を、断熱材と黒鉛坩堝の間に挟み、以降、この熱電対を用いて温度測定を行なった。予備排気後、アルゴンガスをチャンバー内に導入し、0.09MPaまで復圧した。その後、加熱を開始し、徐々に高周波出力を上げた。約1200℃で、削屑粉からヒュームが上がり始めたのを確認できたとき、25mmφの黒鉛棒(治具)で削屑粉を突きながら、チャンバー予備室を介して約100gの削屑粉を坩堝内に添加した。1600℃で温度を一定とし、黒鉛棒(治具)を用いて削屑粉を突く操作を、粒状の溶融シリコンが見えるまで繰り返したところ、溶融シリコンは徐々に集合した。この後、さらに、削屑粉を100gずつ計2100g添加して黒鉛棒により突く操作を行ない、トータル2450gの削屑粉をすべて溶解した。このとき、シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hは、12cmであった。溶解したシリコンを黒鉛製の組み鋳型に鋳込み、シリコンインゴットを回収した。
【0058】
[実施例2]
シリコン削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)の溶解を、富士電波工業株式会社の30KHz高周波真空溶解炉(型式FTR−15−30VM)を用いて次の手順で行った。
まず、外径62mmφ、内径52mmφ、長さ140mmLの黒鉛るつぼに削屑粉を64g入れた。この削屑粉を入れた黒鉛るつぼを断熱材で巻き、その後、この黒鉛るつぼをアルミナ外るつぼに入れた。このアルミナ外るつぼを1kg溶解用コイルにセットし、チャンバー内をロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、オイル拡散ポンプを順次用いて高真空とし、1.5×10−2Paになるまで排気した。添加用の削屑粉はチャンバーのバケット内に予め126g入れておき、同時に予備排気した。予備排気後、アルゴンガスをチャンバー内に導入し、0.05MPaまで復圧した。なお、以降の温度測定については、実施例1と同様の方法で行なった。
【0059】
その後、加熱を開始し、徐々に高周波出力を上げた。
1500℃に保持して、12mmφの黒鉛棒(治具)を用いて削屑粉を突きながら、チャンバー内のバケットから、予め入れておいた削屑粉126gを5回に分けて添加し、黒鉛棒(治具)を用いて削屑粉を突く操作を、粒状の溶融シリコンが見えるまで繰り返したところ、溶融シリコンは徐々に集合した。削屑粉190gをすべて溶解した。
このとき、シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差hは、8cmであった。溶解したシリコンを黒鉛製の組み鋳型に鋳込み、シリコンインゴットを回収した。
【0060】
[実施例3]
シリコン削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)の溶解を、富士電波工業株式会社の30KHz高周波真空溶解炉(型式FTR−15−30VM)を用いて次の手順で行った。
まず、外径62mmφ、内径52mmφ、長さ140mmLの黒鉛るつぼに下湯用のポリシリコン(純度11N)を156g入れた。ポリシリコンを入れた黒鉛るつぼを断熱材
で巻き、その後、アルミナ外坩堝に入れた。このアルミナ外るつぼを、1kg溶解用コイルにセットし、チャンバー内を、ロータリーポンプ、メカニカルブースターポンプ、オイル拡散ポンプを順次用いて、高真空とし1.5×10−2Paになるまで排気した。添加用の削屑粉はチャンバーのバケット内に予め81g入れ、同時に予備排気を行なった。予備排気後、アルゴンガスをチャンバー内に導入し、0.05MPaになるまで復圧した。なお、以降の温度測定については、実施例1と同様の方法で行なった。
【0061】
その後、加熱を開始し、徐々に高周波出力を上げていき、原料シリコンを溶解した(溶解したポリシリコンを「シリコン融液」と呼ぶ)。チャンバー内のバケットから削屑粉を添加するため、温度を1500℃まで上げて保持した。チャンバー内のバケットから削屑粉81gを坩堝内のシリコン融液に添加した。黒鉛棒(治具)を用いて削屑粉を突く操作を行なわずに、1500℃で1時間保持した後、添加した削屑粉81gが完全に溶解するのを確認した。このとき、シリコン溶湯の表面における液面の最大高低差Hは、8cmであった。溶解したシリコンを黒鉛製の組み鋳型に鋳込み、シリコンインゴットを回収した。
【0062】
[比較例1]
シリコン削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)の溶解を株式会社第一機電製の7KHz高周波真空溶解炉にて(型式DB602674)次の手順で行った。
まず、外径70mmφ、内径50mmφ、長さ230mmLの黒鉛るつぼに削屑粉を予め150gを入れ炉内にセットした。次いで、炉内を7Paまで減圧し1000℃まで60分で加熱し炉内をアルゴンで1気圧まで復圧、以後アルゴンを1l/minでフローしながら1700℃まで30分で加熱した。以後90分間そのまま静置保持した。このとき、シリコンは溶解しておらず、溶湯の表面における液面の最大高低差hは、計測できなかった。加熱をやめて、炉内にて室温まで冷却し取り出した。
冷却品の断面を見るとシリコンが一部酸化物(SiO2)の殻を破り液状化した形跡が
伺えるが、殆どはシリコンがまだ酸化物殻(SiO2)の中に存在する状態でありシリコ
ンのみの回収は困難であった。
【0063】
[比較例2]
シリコン削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)の溶解を株式会社第一機電製の7KHz高周波真空溶解炉にて(型式DB602674)次の手順で行った。
まず、外径70mmφ、内径50mmφ、長さ230mmLの黒鉛るつぼに予めポリシリコン塊(5〜10mm程度の粒状)480gと削屑粉を240g入れ炉内にセットした。次いで炉内を7Paまで減圧し1000℃まで60分で加熱し炉内をアルゴンで1気圧まで復圧、以後アルゴンを1l/minでフローしながら1700℃まで30分で加熱、以後180分間そのまま静置保持した。このとき、シリコンは溶解しておらず、溶湯の表面における液面の最大高低差hは、計測できなかった。加熱を止めて、炉内にて室温まで冷却し取り出した。
【0064】
冷却品の断面を見ると上部及び中にも一部削屑粉の酸化物殻(SiO)の中に存在するシリコンが見られ、シリコンのみの回収は困難であった。
上述の実施例1〜3、および比較例1〜2で得られた結果をまとめて表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
[実施例4]
実施例2で用いたものと同じ削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)2.5gを室温で、塩酸20%水溶液50mlに投入、攪拌して、10分間、保持した。特に発泡は認められなかった。保持後、イオン交換水で洗浄、乾燥した。その結果、処理前後で、P、Al、Feの各元素濃度の低下し、B濃度は増加しないことが確認された。
この乾燥した処理後削屑粉を原料として、実施例2と同様の処理を行ない、シリコンインゴットを回収する。
【0067】
[実施例5]
実施例2で用いたものと同じ削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)2.5gを室温で、フッ化カリウム5.0gを混合した塩酸20%水溶液50mlに投入、攪拌して、10分間、保持した。その際、反応により発泡が認められた。保持後、イオン交換水で洗浄、乾燥した。その結果、処理前後で、P、Al、Feの各元素濃度の低下し、B濃度は増加しないことが確認された。
この乾燥した処理後削屑粉を原料として、実施例2と同様の処理を行ない、シリコンインゴットを回収する。
【0068】
[実施例6]
実施例2で用いたものと同じ削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)2.5gを室温で、フッ化ナトリウム2.5gを混合した塩酸20%水溶液50mlに投入、攪拌して、10分間、保持した。その際、反応により発泡が認められた。保持後、イオン交換水で洗浄、乾燥した。その結果、処理前後で、P、Al、Feの各元素濃度の低下し、B濃度は増加しないことが確認された。
この乾燥した処理後削屑粉を原料として、実施例2と同様の処理を行ない、シリコンインゴットを回収する。
【0069】
[実施例7]
実施例2で用いたものと同じ削屑粉(SiC砥粒を含まない。粒径1μm。Fe0.05重量%以下。)64gにフッ化ナトリウム200gを混合したものを初期原料としたこ
と以外は、実施例2と同様の方法で実施して、シリコンインゴットを回収する。
上述の実施例4〜7で得られた結果をまとめて表2に示す。
【0070】
【表2】
【符号の説明】
【0071】
1 原料シリコン
3 るつぼ
4 誘導加熱用コイル
5 パイプ
6 連続原料投入口
7 チャンバー
8 断熱材
9 鋳型
10 るつぼの支持台
11 ガスの導入口
12 排気口
13 撹拌板
14 ガスの吸引口
15 削屑添加用バケット
16 治具
図1
図2
図3
図4