(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属薄膜に励起光を照射することによって発生した表面プラズモン光でアナライトを標識した蛍光物質を励起して、発生した蛍光を光検出手段によって受光することにより、アナライトの検出を行う表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法であって、
第1の条件下で、前記光検出手段が蛍光を受光した場合に出力する第1蛍光シグナルと、前記第1の条件下よりも前記光検出手段が受光する蛍光の光量が小さくなるように調整された第2の条件下で、前記光検出手段が光量を調整された蛍光を受光した場合に出力する第2蛍光シグナルと、を比較することによって、前記第1蛍光シグナルが異常か否かを判別し、前記第1蛍光シグナルが異常であると判断した場合には、前記第2蛍光シグナルを補正することによって、正常な蛍光シグナルを得ることを特徴とする表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法。
前記発生した蛍光の光量を調整することによって、前記光検出手段が受光する蛍光の光量を調整することを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法。
前記励起光の光量を調整することによって、前記光検出手段が受光する蛍光の光量を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法。
誘電体部材上に形成された金属薄膜と、前記金属薄膜の上面に形成された微細流路と、前記微細流路中に形成されたセンサ部とを有するセンサチップが装填され、励起光を照射することで検体の検出を行う表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置であって、
前記誘電体部材を介して前記金属薄膜に励起光を照射する光源と、
前記センサチップの上方に配置された光検出手段と、を備え、
前記センサ部に固定化された、アナライトを標識する蛍光物質を、前記励起光を前記金属薄膜に照射した際に発生する表面プラズモン光によって励起することで発生した蛍光を、前記光検出手段で受光するように構成されるとともに、
蛍光量調整手段によって、前記光検出手段で受光する蛍光の光量を調整可能に構成されており、
第1の条件下で、前記光検出手段が蛍光を受光した場合に出力する第1蛍光シグナルと、前記第1の条件下よりも前記光検出手段が受光する蛍光の光量が小さくなるように調整された第2の条件下で、前記光検出手段が、前記蛍光量調整手段によって光量を調整された蛍光を受光した場合に出力する第2蛍光シグナルと、を比較することによって、前記第1蛍光シグナルが異常か否かを判別し、
前記第1蛍光シグナルが異常であると判断した場合には前記第2蛍光シグナルを補正することによって、正常な蛍光シグナルを得ることを特徴とする表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置。
前記金属薄膜に対する励起光の入射角を調整するための照射角調整手段を設けたことを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アッセイエリア(測定領域)にアナライトを集積させる高感度のSPFS装置の場合には、アナライト濃度の変化に対して、蛍光シグナル(光検出手段が出力するシグナル)の変動幅が非常に大きくなる。
【0009】
このため、アナライト濃度が高濃度の場合には、光電子倍増管やCCDカメラなどの光検出手段のダイナミックレンジをオーバーしてしまい、正確な測定をすることが出来ない場合があった。
【0010】
例えば、CCDなどの撮像素子を用いたカメラの場合、
図14に示すように、一定以上の光を受けると受光素子が飽和してしまい、実際の蛍光量を測定できないという問題が発生する。また、フォトンカウンティング方式の光電子増倍管を用いた場合にも、
図15に示すように、一定以上の光を受けるとパルスオーバーラップによる数え落としが発生し、蛍光シグナルが低下するという問題が発生する。
【0011】
特許文献1では、測定体積中の被分析物質の数を制限するために、サンプルプレート上の測定領域の面積を変えることによって、ダイナミックレンジの広域化を図ることが開示されている。
【0012】
また、特許文献2では、露光時間が異なる複数の信号を合成することによって、検体分析のダイナミックレンジを拡張するなど、ダイナミックレンジを拡張するための種々の方法や、集積光を定量化するための信号の算出や処理について開示されている。
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、アナライト濃度に応じて面積の異なる測定領域が必要となり、SPFS装置の大型化に繋がるか、もしくは、異なる濃度のアナライトを測定するたびに、面積の異なる測定領域が形成されたサンプルプレートを準備する必要がある。
【0014】
また一方で、SPFS装置特有の問題として、アッセイエリアに集積したアナライトに蛍光標識物質が結合した際、限定されたエリアに蛍光物質が密集することで濃度消光を起こし蛍光シグナルが減少したり、アナライトと結合した蛍光物質から発光した蛍光が、金属薄膜表面に発生した表面プラズモン光とカップリングしロスしてしまうことがある。
【0015】
このような蛍光シグナルのロスが金属薄膜上で発生しているのか、光検出手段のダイナミックレンジの問題によって、蛍光シグナルが低下しているのかを判別することは、SPFS装置の正確性を担保する上でも重要になってくる。しかしながら、特許文献1、2に開示された発明は、SPFS装置に適したダイナミックレンジの拡張に必ずしも繋がるものではなかったというのが実情である。
【0016】
本発明では、このような現状を鑑み、SPFS装置のダイナミックレンジを調整することによって、アナライト濃度が高濃度の場合であっても、光検出手段の種類によらず、正確に蛍光シグナルを測定することができる表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法および表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前述したような従来技術における課題及び目的を達成するために発明されたものであって、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法は、
金属薄膜に励起光を照射することによって発生した表面プラズモン光でアナライトを標識した蛍光物質を励起して、発生した蛍光を光検出手段によって受光することにより、アナライトの検出を行う表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法であって、
第1の条件下で、前記光検出手段が蛍光を受光した場合に出力する第1蛍光シグナルと、前記第1の条件下よりも前記光検出手段が受光する蛍光の光量が小さくなるように調整された第2の条件下で、前記光検出手段が光量を調整された蛍光を受光した場合に出力する第2蛍光シグナルと、を比較することによって、前記第1蛍光シグナルが異常か否かを判別し、前記第1蛍光シグナルが異常であると判断した場合には、前記第2蛍光シグナルを補正することによって、正常な蛍光シグナルを得ることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置は、
誘電体部材上に形成された金属薄膜と、前記金属薄膜の上面に形成された微細流路と、
前記微細流路中に形成されたセンサ部とを有するセンサチップが装填され、励起光を照射することで検体の検出を行う表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置であって、
前記誘電体部材を介して前記金属薄膜に励起光を照射する光源と、
前記センサチップの上方に配置された光検出手段と、を備え、
前記センサ部に固定化された、アナライトを標識する蛍光物質を、前記励起光を前記金属薄膜に照射した際に発生する表面プラズモン光によって励起することで発生した蛍光を、前記光検出手段で受光するように構成されるとともに、
蛍光量調整手段によって、前記光検出手段で受光する蛍光の光量を調整可能に構成されて
おり、
第1の条件下で、前記光検出手段が蛍光を受光した場合に出力する第1蛍光シグナルと、前記第1の条件下よりも前記光検出手段が受光する蛍光の光量が小さくなるように調整された第2の条件下で、前記光検出手段が、前記蛍光量調整手段によって光量を調整された蛍光を受光した場合に出力する第2蛍光シグナルと、を比較することによって、前記第1蛍光シグナルが異常か否かを判別し、
前記第1蛍光シグナルが異常であると判断した場合には前記第2蛍光シグナルを補正することによって、正常な蛍光シグナルを得ることを特徴とする。
【0019】
このように構成することによって、アナライト濃度が高濃度の検体溶液の検出を行う場合に、蛍光物質から光検出手段で計測不可能な光量の蛍光が発光した場合であっても、
光量を調整した蛍光を光検出手段が受光した場合に出力する第2蛍光シグナルを用いて、正常な蛍光シグナルを得ることができる。
このため、アナライト濃度が低濃度の検体溶液からアナライト濃度が高濃度の検体溶液まで正確に検出することができ、ダイナミックレンジの広いアナライトの検出を行うことができる。
【0020】
また、本発明においては、光検出手段が受光する蛍光の光量を調整するように構成しているため、光検出手段の種類によらず、正確でダイナミックレンジの広いアナライトの検出を行うことができる。
【0025】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法は、前記発生した蛍光の光量を調整することによって、前記光検出手段が受光する蛍光の光量を調整することを特徴とする。
【0026】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置は、前記蛍光量調整手段を、前記センサチップと光検出手段との間に設けたことを特徴とする。
【0027】
このように構成することによって、蛍光物質が表面プラズモン光によって励起されて発光した蛍光を、直接調整することができ、光検出手段が計測可能な光量に減光することが容易である。
【0028】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法は、前記励起光の光量を調整することによって、前記光検出手段が受光する蛍光の光量を調整することを特徴とする。
【0029】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置は、前記蛍光量調整手段を、前記光源と誘電体部材との間に設けたことを特徴とする。
【0030】
このように構成した場合であっても、金属薄膜に照射する励起光の光量を減光することによって、表面プラズモン光による電場強度を低下させ、その結果、アナライトを標識する蛍光物質から発光する蛍光の光量を、光検出手段が計測可能な光量に減光することができる。
【0031】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法は、前記金属薄膜に対する励起光の入射角を所定の範囲において変化させながら、前記光検出手段によって蛍光を受光し、
前記励起光の入射角と、前記光検出手段が蛍光を受光した場合に出力する蛍光シグナルとの関係に基づき、異常な蛍光シグナルを判別することを特徴とする。
【0032】
また、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置は、前記照射角調整手段を用いて、前記金属薄膜に対する励起光の入射角を所定の範囲において変化させながら、前記光検出手段によって蛍光を受光し、
前記励起光の入射角と、前記光検出手段が蛍光を受光した場合に出力する蛍光シグナルとの関係に基づき、異常な蛍光シグナルを判別することを特徴とする。
【0033】
このように構成した場合であっても、蛍光物質から光検出手段で計測不可能な光量の蛍光が発光した場合に、光検出手段から異常な蛍光シグナルが出力されていると判別することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、蛍光量調整手段によって、光検出手段が受光する蛍光量を調整することによって、光検出手段の測定可能範囲を上回る蛍光が発生したとしても、正確な測定をすることができ、表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法または表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置に適したダイナミックレンジの広いアナライトの検出を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態(実施例)を図面に基づいてより詳細に説明する。
【0037】
[実施例1]
1.発生した蛍光量を調整する場合の実施例
図1は、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法を説明する表面プラズモン励起増強蛍光分光測定装置(以下、「SPFS装置」と言う)の概略を模式的に示す概略図、
図2は、
図1の部分拡大図、
図3は、表面プラズモン励起増強蛍光分光測定の流れを説明するフローチャートである。
1−1.SPFS装置の構成
本発明のSPFS装置10は、鉛直断面形状が略台形であるプリズム形状の誘電体部材12と、この誘電体部材12の水平な上面12aに形成された金属薄膜14と、この金属薄膜14の上面14aに形成された微細流路16とからなるセンサチップ18を備えており、このセンサチップ18は、SPFS装置10のセンサチップ装填部20に装填されている。
【0038】
また、微細流路16の一部には、特定のアナライトと特異的に結合するリガンドが固定化されたセンサ部22が設けられている。このセンサ部22に微細流路16を介して特定のアナライトを含有した検体溶液を流入させ、その後、アナライトを標識する蛍光物質を、微細流路16を介して流入させることで、センサ部22に蛍光物質で標識されたアナライトが固定化された状態とすることができる。
【0039】
ここで、蛍光物質としては、所定の励起光を照射するか、または電界効果を利用することで励起し、蛍光を発する物質であれば、特に限定されない。なお、本明細書において、「蛍光」とは、燐光など各種の発光も含まれる。
【0040】
また、アナライトを含有した検体溶液としては、特に限定されるものではないが、このような検体としては、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水等)などが挙げられる。
【0041】
また、検体中に含有されるアナライトは、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられ、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)等のがん胎児性抗原や腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどであってもよく、特に限定されない。
【0042】
また、誘電体部材12の下方の一方の側面12bの側には、
図1に示すように、光源24が配置されており、この光源24からの励起光26が、誘電体部材12の外側下方から、誘電体部材12の側面12bに入射して、誘電体部材12を介して、誘電体部材12の上面12aに形成された金属薄膜14に向かって、励起光26が全反射減衰(ATR)する所定の入射角(共鳴角)α1で照射されるようになっている。
【0043】
また、センサチップ18の上方には、蛍光物質が励起されて発光した蛍光28を受光するための光検出手段30が備えられている。
【0044】
ここで、光検出手段30としては、特に限定されるものではないが、例えば、フォトンカウンティング方式の光電子増倍管や、多点計測が可能なCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどを用いることができる。なお、本実施例では、フォトンカウンティング方式の光電子倍増管を用いている。
【0045】
また、本実施例では、センサチップ18と光検出手段30との間には、発光した蛍光の光量を調整するための蛍光量調整手段32として、光量を99%カットすることができる減光(ND)フィルタ34が出し入れ自由に配置されている。
【0046】
なお、蛍光量調整手段32としては、光検出手段30における受光量を調整できるものであれば、特に限定されるものではなく、減光(ND)フィルタ34以外にも、例えば、波長選択フィルタやダイアフラムレンズなどが出し入れ自由に配置されていてもよいし、アパーチャーを設けてその開口の大きさによって光量を調整するようにしてもよい。
【0047】
また、本実施例の場合には、蛍光量調整手段32を光検出手段30のフォーカス調整手段とすることもでき、光検出手段30をデフォーカスすることによって、光検出手段30が受光する蛍光量を調整することもできる。
【0048】
本実施例において、光源24から照射される励起光としては、特に限定されるものではないが、波長200〜900nm、0.001〜1,000mWの励起光が好ましく、更には、波長230〜800nm、0.01〜100mWの励起光が好ましい。
【0049】
また、誘電体部材12としては、特に限定されるものではないが、光学的に透明な、例えば、ガラス、セラミックスなどの各種の無機物、天然ポリマー、合成ポリマーを用いることができ、化学的安定性、製造安定性、光学的透明性の観点から、二酸化ケイ素(SiO
2)または二酸化チタン(TiO
2)を含むものが好ましい。
【0050】
また、この実施例では、鉛直断面形状が略台形であるプリズム形状の誘電体部材12を用いたが、鉛直断面形状を三角形(いわゆる三角プリズム)、半円形状、半楕円形状にするなど、誘電体部材12の形状は、適宜変更可能である。
【0051】
また、金属薄膜14の材質としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなり、より好ましくは、金からなり、さらに、これら金属の合金から構成してもよい。
【0052】
このような金属は、酸化に対して安定であり、かつ、後述するように、表面プラズモン光(疎密波)による電場増強が大きくなるので、金属薄膜14として好適である。
【0053】
また、金属薄膜14の形成方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、スパッタリング法、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法など)、電解メッキ、無電解メッキ法などが挙げられる。好ましくは、スパッタリング法、蒸着法を使用するのが、薄膜形成条件の調整が容易であるので望ましい。
【0054】
さらに、金属薄膜14の厚さとしては、特に限定されるものではないが、好ましくは、金:5〜500nm、銀:5〜500nm、アルミニウム:5〜500nm、銅:5〜500nm、白金:5〜500nm、および、それらの合金:5〜500nmの範囲内であるのが望ましい。
【0055】
なお、後述する電解増強効果の観点から、より好ましい金属薄膜14の厚さとしては、金:20〜70nm、銀:20〜70nm、アルミニウム:10〜50nm、銅:20〜70nm、白金:20〜70nm、および、それらの合金:10〜70nmの範囲内であるのが望ましい。
【0056】
金属薄膜14の厚さが上記範囲内であれば、後述する表面プラズモン光(疎密波)が発生し易く好適である。また、このような厚さを有する金属薄膜14であれば、大きさ(縦×横)の寸法、形状は、特に限定されない。
1−2.蛍光量の測定方法について
このように構成される本発明のSPFS装置10を用いた、表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法について、
図3に示すフローチャートに沿って説明する。
【0057】
先ず、センサ部22に微細流路16を介してアナライトを含有する検体溶液を流入させ、その後、このアナライトを標識する蛍光物質を、同様に微細流路16を介して流入させることで、センサ部22に蛍光物質で標識されたアナライトが固定化された状態とする。
【0058】
そして、この状態で光源24から励起光26を照射して、誘電体部材12の外側下方から、誘電体部材12の側面12bに入射させる。そして、誘電体部材12を介して、誘電体部材12の上面12aに形成された金属薄膜14に向かって、励起光26が全反射減衰(ATR)する所定の入射角(共鳴角)α1で照射される。
【0059】
励起光26を照射することによって、金属薄膜14の表面から表面プラズモン光(疎密波)を放出させ、この表面プラズモン光(疎密波)によりセンサ部22に固定化されたアナライトを標識する蛍光物質が励起され、蛍光28が発光される。
【0060】
なお、このとき、蛍光量調整手段32は減光なしの状態、すなわち、減光(ND)フィルタ34を、センサチップ18と光検出手段30との間に挿入していない状態(第1の条件)とする。
【0061】
そして、この蛍光28を光検出手段30で検出することによって、センサ部22に固定化されたアナライトを検知し、光検出手段30からはアナライト濃度に応じた蛍光シグナル(第1蛍光シグナル)が出力される。
【0062】
次いで、蛍光量調整手段32によって減光した状態、すなわち、減光(ND)フィルタ34を、センサチップ18と光検出手段30との間に挿入した状態(第2の条件)として、蛍光28を光検出手段30で検出することで、光検出手段30からは第2蛍光シグナルが出力される。
【0063】
蛍光量調整手段32によって減光したことにより、光検出手段30が受光する蛍光28は、減光なしの状態と比べて、100分の1となる。このため、光検出手段30が正常に蛍光28を受光していれば、第2蛍光シグナルも、減光なしの状態で出力される第1蛍光シグナルと比べて100分の1となる。
【0064】
このことに基づき、減光ありの状態の第2蛍光シグナルが、減光なしの状態の第1蛍光シグナルの100分の1よりも大きい場合には、減光ありの状態の第2蛍光シグナルを後述するように補正することによって、正確な蛍光シグナルを得ることができる。
1−3.蛍光シグナルの補正について
表1は、アナライト濃度と、減光なしの状態で光検出手段30が出力する蛍光シグナル及び減光した状態で光検出手段30が出力する蛍光シグナルの関係を表しており、
図4は、この表1をグラフ化したものである。
【0066】
表1及び
図4に示すように、蛍光量調整手段32によって減光をしない場合には、アナライト濃度が高濃度になるにつれて、逆に、蛍光シグナルが低下してしまっている。
【0067】
このような蛍光シグナルの低下の判別は、上述したように、蛍光量調整手段32によって減光した場合の蛍光シグナルが、減光なしの場合の蛍光シグナルと比べて100分の1になることに基づいて行う。
【0068】
すなわち、本実施例においては、アナライト濃度が高濃度である1.0E−9〜1.0E−7[g/mL]の場合、減光ありの場合の蛍光シグナルが、減光なしの場合の蛍光シグナルの100分の1よりも大きな値となっている。
【0069】
この場合には、減光ありの場合の蛍光シグナルを用いて、値を補正する(本実施例であれば、減光ありの場合の蛍光シグナルの値を100倍する)ことによって正確な蛍光シグナルの値を得ることができる。
【0070】
一方で、アナライト濃度が低濃度である1.0E−13〜1.0E−12[g/mL]の場合も、減光ありの場合の蛍光シグナルが、減光なしの場合の蛍光シグナルの100分の1よりも大きな値となっているが、これは、光検出手段30の測定可能な光量の最低値に起因するものであり、減光ありの場合の蛍光シグナルが異常な値を出力しているためである。
【0071】
したがって、アナライト濃度が低濃度の場合には、減光なしの場合の蛍光シグナルを正常な値として得ることができる。
【0072】
このように、補正した蛍光シグナルを用いることによって、表2及び
図5に示すように、正常なアナライト濃度の測定をすることができる。
【0074】
[実施例2]
2.励起光量を調整する場合の実施例
図6は、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法を説明するSPFS装置の概略を模式的に示す概略図である。
【0075】
この変形例のSPFS装置10は、
図1〜
図5に示したSPFS装置と基本的には同様な構成であり、また、原理も同様であるので、同一の構成部材には、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
2−1.SPFS装置の構成
この変形例では、
図6に示すように、蛍光量調整手段32を、光源24とセンサチップ18との間に設けている。このように構成することによって、光源24から金属薄膜14に照射される励起光26の光量を調整(減光)し、その結果、金属薄膜14の表面に発生する表面プラズモン光による電場強度を低下させることができる。
【0076】
このため、アナライトを標識する蛍光物質から発光する蛍光量を調整することができ、実施例1と同様に、光検出手段30が受光する蛍光量を調整することができ、実施例1と同様な蛍光量の測定方法を用いて、アナライト濃度に応じた蛍光シグナルを得ることができる。
【0077】
なお、本実施例の場合、蛍光量調整手段32を光源24の光量調整機能とすることもでき、光源24が出射する励起光26の光量を調整することもできる。
2−2.蛍光シグナルの補正について
表3は、アナライト濃度と、減光なしの状態で光検出手段30が出力する蛍光シグナル及び減光した状態で光検出手段30が出力する蛍光シグナルの関係を表しており、
図7はこの表3をグラフ化したものである。
【0079】
表3及び
図7が示すように、蛍光量調整手段32によって励起光を減光しない場合には、アナライト濃度が高濃度になるにつれて頭打ちとなる異常な出力が生じている。
【0080】
このような蛍光シグナルの異常な出力の判別は、実施例1と同様に、蛍光量調整手段32によって減光した場合の蛍光シグナルが、減光なしの場合の蛍光シグナルと比べて100分の1になることに基づいて行う。
【0081】
すなわち、本実施例においては、アナライト濃度が高濃度である1.0E−9〜1.0E−7[g/mL]の場合、減光ありの場合の蛍光シグナルが、減光なしの場合の蛍光シグナルの100分の1よりも大きな値となっている。
【0082】
この場合には、減光ありの場合の蛍光シグナルを用いて、値を補正する(本実施例であれば、減光ありの場合の蛍光シグナルの値を100倍する)ことによって正確な蛍光シグナルの値を得ることができる。
【0083】
一方で、アナライト濃度が低濃度である1.0E−13〜1.0E−12[g/mL]の場合も、減光ありの場合の蛍光シグナルが、減光なしの場合の蛍光シグナルの100分の1よりも大きな値となっているが、これは、光検出手段30の測定可能な光量の最低値に起因するものであり、減光ありの場合の蛍光シグナルが異常な値を出力しているためである。
【0084】
したがって、アナライト濃度が低濃度の場合には、減光なしの場合の蛍光シグナルを正常な値として得ることができる。
【0085】
このように、補正した蛍光シグナルを用いることによって、表4及び
図8に示すように、正常なアナライト濃度の測定をすることができる。
【0087】
[実施例3]
3.発生した蛍光量及び励起光量を調整する場合の実施例
図9は、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法を説明するSPFS装置の概略を模式的に示す概略図である。
【0088】
この変形例のSPFS装置10は、
図1〜
図5に示したSPFS装置と基本的には同様な構成であり、また、原理も同様であるので、同一の構成部材には、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
3−1.SPFS装置の構成
この変形例では、
図9に示すように、蛍光量調整手段を、センサチップ18と光検出手段30との間に設ける(蛍光量調整手段32a)とともに、光源24とセンサチップ18との間にも設ける(蛍光量調整手段32b)ように構成されている。
【0089】
このように構成することによって、アナライトを標識する蛍光物質から発光する蛍光量を蛍光量調整手段32aによって調整できるとともに、光源24から金属薄膜14に照射される励起光26の光量を調整することができる。
【0090】
発生した蛍光量の調整だけではなく、蛍光28の発生に起因する励起光26の光量を調整することによって、より広いダイナミックレンジを提供することができる。
【0091】
このように構成される本発明のSPFS装置10では、実施例1及び2と同様に、蛍光量の調整を行いながら、センサ部22に固定化されたアナライトを検知することで、より広いダイナミックレンジにおける蛍光シグナルを得ることができ、より広い範囲のアナライト濃度の検体溶液の測定をすることができる。
【0092】
[実施例4]
4.光源に照射角調整手段を設けた場合の実施例
図10は、本発明の表面プラズモン励起増強蛍光分光測定方法を説明するSPFS装置の概略を模式的に示す概略図、
図11は、
図10の部分拡大図である。
【0093】
この変形例のSPFS装置10は、
図1〜
図5に示したSPFS装置と基本的には同様な構成であり、また、原理も同様であるので、同一の構成部材には、同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
4−1.SPFS装置の構成
この変形例では、
図10に示すように、光源24から誘電体部材12を介して、金属薄膜14に向かって照射される励起光26の、金属薄膜14に対する入射角を変えることができる照射角調整手段が蛍光量調整手段32として設けられている。
【0094】
一般的に、金属薄膜14に対する入射角度と蛍光シグナルには、
図12に示すような角度依存性が存在することが知られている。
【0095】
本実施例においては、この角度依存性に基づいて、励起光26の、金属薄膜14に対する入射角を共鳴角(すなわち、励起光26が全反射減衰(ATR)する角度)よりも小さくするか、もしくは、大きくすることによって、蛍光量を減光することができる。
4−2.蛍光シグナルの補正について
この変形例のように、光源24に照射角調整手段を設けた場合には、蛍光シグナルの異常な出力の判別に、上述した角度依存性を用いることもできる。
【0096】
すなわち、アナライトの検出を行う際に、励起光26の入射角を所定の範囲(本実施例においては、45°〜70°)で角度を変化させながら、蛍光シグナルを得ることによって、
図12に示すような、励起光の入射角と蛍光シグナルとの関係を得ることができる。
【0097】
通常は、アナライト濃度が高くなるにつれて、蛍光シグナルも上昇することになるが、アナライト濃度が高濃度になり、発光する蛍光量が光検出手段30のダイナミックレンジを超えてしまうと、
図13に示すように複数のピークが発生するなど、異常な蛍光シグナルを得るようになる。
【0098】
このように、異常な蛍光シグナルを得た場合には、実施例1〜3と同様に、蛍光量調整手段32を用いて光検出手段30が受光する蛍光量を減光した場合に得られた蛍光シグナルを補正することによって、正確でダイナミックレンジの広いアナライトの検出が可能となる。
【0099】
以上、本発明の好ましい実施の態様を説明してきたが、本発明はこれに限定されることはなく、例えば、上記実施例では、光検出手段30が受光する蛍光28の光量を100分の1となるように、蛍光量調整手段32によって減光しているが、必要とするダイナミックレンジに合わせて適宜変更可能であるなど、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。