【実施例1】
【0013】
図1は本発明の第1実施例である蛍光X線分析装置の概略的構成を示す図である。本実施例の蛍光X線分析装置10は下面照射型の蛍光X線分析装置であり、一次X線を生成するためのX線管球12、試料から発生する蛍光X線(二次X線)を検出するための検出器13(例えば半導体検出器、比例計数管)、X線の通過口141を備える試料台14等を備えている。
【0014】
試料台14の下部には分析チャンバ16が設けられている。分析チャンバ16には一次X線の導入口17と検出器13の先端部が取り付けられるハウジング18が設けられている。X線管球12から発せられた一次X線は導入口17から分析チャンバ16内を通り、通過口141を介して試料台14に保持された試料Sに照射される。また、ハウジング18の先端には検出口181が設けられており、試料Sから発せられ通過口141から出射された蛍光X線は、分析チャンバ16を通り、検出口181を経て検出器13に入射される。
【0015】
分析チャンバ16の内部は導入管20を通じてヘリウムガス供給源であるヘリウムガスボンベ22に連通している。導入管20には流量制御バルブ24が設置されており、制御装置25からの指示によって流量制御バルブ24の開度が調整され、分析チャンバ16内に適宜の流量のヘリウムガスが導入されるようになっている。
分析チャンバ16の下部壁161のうち導入口17の近傍にはガイドブッシュ171が取り付けられており、このガイドブッシュ171には第1ガス導入口162が設けられている。
【0016】
また、ハウジング18には第2ガス導入口164が設けられている。ヘリウムガスボンベ22から延びる導入管20は途中で二つに分岐しており、各分岐管201、202の先端部は第1ガス導入口162及び第2ガス導入口164にそれぞれ接続されている。分岐管201及び分岐管202がそれぞれ本発明の第1導入管及び第2導入管に相当する。流量制御バルブ24は分岐管201、202よりも手前(ヘリウムガスボンベ22側)の導入管20に設置されている。
【0017】
上記構成の蛍光X線分析装置10において、導入管20のヘリウムガスの流量を変えて分析チャンバ16内にヘリウムガスを導入したときのヘリウムガスの置換率(He置換率)を調べた。ここでは、プレス加工した硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)の粉末試料を用い、そのときのNa-Kα強度とS-Kα強度を測定した値(実測値)から次のようにしてHe置換率を求めた。
【0018】
分析チャンバ16内がヘリウムガスで置換されているときのNa-KαとS-Kαの蛍光X線強度は、理論上、次の(1)式及び(2)式で表すことができる。
(Na-Kα強度)=(真空でのNa-Kα強度)×(一次X線の減衰率)×(Na-Kαの減衰率) …(1)
(S-Kα強度)=(真空でのS-Kα強度)×(一次X線の減衰率)×(S-Kαの減衰率)
…(2)
(1)式及び(2)式において、一次X線の減衰率、Na-Kα及びS-Kαの減衰率はヘリウムガスによる減衰率を示す。つまり、分析チャンバ16内が完全に(100%)ヘリウムガスで置換されている場合、理論上は、真空でのNa-Kα強度にヘリウムガスによる一次X線及びNa-Kαの減衰率を乗じた値がNa-Kα強度の実測値となり、真空でのS-Kα強度にヘリウムガスによる一次X線及びS-Kαの減衰率を乗じた値がS-Kα強度の実測値となる。
【0019】
硫酸ナトリウムから発せられる蛍光X線の真空でのNa-Kα強度とS-Kα強度、当該Na-Kα及びS-Kαのヘリウムガスによる減衰率、一次X線のヘリウムガスによる減衰率は既知であることから、Na-KαとS-Kαの実測値からチャンバ16内の気体がヘリウムガスで置換された割合(He置換率)を求めることができる。
【0020】
ただし、実際は大気圧下の分析チャンバ16をヘリウムガスで置換するため、Na-Kα強度やS-Kα強度の実測値は、分析チャンバ16内の大気による一次X線や蛍光X線の吸収の影響を受ける。そこで、本実施例では、ヘリウムガスだけでなく大気による一次X線やNa-Kα及びS-Kαの減衰も考慮した、Na-Kαの実測値及びS-Kαの実測値とHe置換率との関係を表すデータテーブルを作成し、このデータテーブルをメモリに記憶しておくことにより、Na-Kαの実測値及びS-Kαの実測値からHe置換率を求めることとした。
【0021】
図2に、ヘリウムガスの流量とHe置換率との関係を示す。また、
図3にヘリウムガスの導入開始からのNa-Kα強度の変化を、
図4にヘリウムガスの導入開始からのS-Kα強度の変化を示す。なお、
図2〜
図4の(a)は、分析チャンバ16の下部壁161に設けたガス導入口からヘリウムガスを導入する従来の蛍光X線分析装置100(
図5参照、以下、従来装置という)の結果を、(b)は本実施例の蛍光X線分析装置10(以下、実施装置という)の結果を示す。また、
図2中、横軸はHe流量(L/min)を、縦軸はHe置換率(%)を示す。ただし、
図2では、分析チャンバ16内が真空状態のときのNa-Kα強度及びS-Kα強度のときを100%と表すこととする。また、
図2では、検出器13側(試料−検出器間)のHe置換率を*で、一次側(X線管球−試料間)のHe置換率を◆で示す。
【0022】
図2から明らかなように、従来装置では、全てのHe流量において検出器13側よりも一次側のHe置換率が低く、特に、He流量が0.5〜1.5L/minのときは一次側のHe置換率が非常に低かった。これに対して、実施装置では、He流量が0.5〜1.5L/minのときの一次側のHe置換率は検出器13側よりもわずかに低いが、大幅に改善されていた。また、He流量が1.5L/min以上のときは検出器13側及び一次側のHe置換率はほぼ同じとなり、しかも90%以上のHe置換率が得られた。
【0023】
また、
図3及び
図4から明らかなように、全てのHe流量において、He導入開始直後から実施装置のNa-Kα及びS-Kαの蛍光X線強度は従来装置よりも高くなった。さらに、従来装置では、He導入開始から300秒経過してもNa-KαとS-Kαの蛍光X線強度は平衡(安定)状態に達しなかったが、実施装置では、He流量が1.5L/min以上のときにHe導入開始から100秒程度で平衡状態に達した。従って、実施装置では、従来装置に比べてHe置換作業に要する時間を短縮できることがわかる。
【0024】
以上より次のことが分かる。本実施例では、一次X線の導入口17の近傍に第1ガス導入口162を設けると共に、検出器13のハウジング18に第2ガス導入口164を設け
、導入口17及び検出器13の検出口181を通じて分析チャンバ16内にHeを導入するようにした。一次X線の導入口17及び検出器13の検出口181はその構造上、ヘリウムガスの置換が難しく、従来はこれらの箇所のHe置換率が低かったが、本実施例では、導入口17及び検出器13の検出口181のHe置換率を向上させることができる。この結果、検出器13で検出される軽元素の蛍光X線強度が増加するため、検出感度や分析精度の向上を図ることができる。また、導入口17及び検出器13の検出口181を効率よくヘリウムガスで置換することができるため、ヘリウムガスの導入開始から蛍光X線強度が安定するまで(平衡状態に達するまで)の時間を短縮することができ、分析時間の短縮化を図ることができる。この結果、単位時間当たりのサンプル処理量が増大し、サンプル処理能力を向上することができる。
【実施例3】
【0026】
図7は本発明の第3実施例に係る蛍光X線分析装置10Bを示している。この蛍光X線分析装置10Bは、導入管20のうちヘリウムガスボンベ22と流量制御バルブ24の間に切換制御バルブ30を設置し、この切換制御バルブ30にコンプレッサ32を接続した点が第1実施例の蛍光X線分析装置10と異なる。そして、分析チャンバ16内にヘリウムガスを導入するときは、切換制御バルブ30を切り換えてヘリウムガスボンベ22と導入管20を連通させ、大気雰囲気下で分析を行う場合は、切換制御バルブ30を切り換えてコンプレッサ32と導入管20を連通させるようにした。
【0027】
本実施例によれば、次の作用、効果が得られる。すなわち、分析チャンバ16内をヘリウムで置換して分析を行った後に大気雰囲気で分析を行う場合は、分析チャンバ16(光学系)内を大気開放するが、導入口17やハウジング18内に溜まったヘリウムガスが完全に放出されずに残留分として残ることがある。この状態で分析を行うと、完全に大気で置換された状態で分析を行った場合よりも検出器13で検出される軽元素の蛍光X線強度が高くなり、軽元素の定量結果がヘリウムガスの残留量によって変動することになる。ファンダメンタル・パラメーター(FP)法による定量では、軽元素の分析結果が他の重元素の定量結果に大きく影響するため、軽元素の定量結果が変動することは好ましくない。
【0028】
これに対して、本実施例では、大気雰囲気下で分析を行う場合はコンプレッサ32により分析チャンバ16内に大気を強制導入することができる。従って、導入口17や検出器13の先端部のハウジング18内に溜まったヘリウムガスを効率よく大気で置換することができるため、定量分析精度を向上することができる。また、分析チャンバ16内を大気で置換するための時間も短縮することができる。