特許第5966525号(P5966525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5966525非水系電解液二次電池用非水系電解液、それを用いた電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5966525
(24)【登録日】2016年7月15日
(45)【発行日】2016年8月10日
(54)【発明の名称】非水系電解液二次電池用非水系電解液、それを用いた電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20160728BHJP
【FI】
   H01M10/0567
【請求項の数】3
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2012-82155(P2012-82155)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211226(P2013-211226A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005968
【氏名又は名称】三菱化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三井 隆道
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−097060(JP,A)
【文献】 米国特許第06159640(US,A)
【文献】 特開2003−031260(JP,A)
【文献】 特開2004−296104(JP,A)
【文献】 特開平07−122296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質と非水溶媒を含む非水系電解液二次電池用非水系電解液において、下記一般式(1)で表される化合物を、非水系電解液二次電池用非水系電解液全体に対して0.001質量%以上10質量%以下の割合で含有することを特徴とする非水系電解液二次電池用非水系電解液。
【化1】
(式中、Rは水素基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の有機基を表し、nは1〜8の整数を表す。)
【請求項2】
炭素―炭素不飽和結合を有する環状カーボネート、ハロゲン原子を有する環状カーボネート、モノフルオロリン酸塩、ジフルオロリン酸塩及びニトリル化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を含有することを特徴とする請求項1に記載の非水系電解液二次電池用非水電解液。
【請求項3】
負極、正極及び非水系電解液を含む非水系電解液二次電池であって、非水系電解液が請求項1又は2に記載の非水系電解液二次電池用非水電解液であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液及びそれを用いたリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の急速な進歩に伴い、二次電池に対する高容量化への要求が高くなっており、ニッケル・カドミウム電池やニッケル・水素電池に比べてエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池が広く使用され、また活発に研究されている。
非水系電解液電池に用いる電解液は、通常、主として電解質と非水溶媒とから構成されている。リチウムイオン二次電池の電解液としては、LiPF、LiBF、LiN(CFSO等の電解質を 、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ
−ブチロラクトン等の高誘電率溶媒と、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の低粘度溶媒との混合溶媒に溶解させた非水系電解液が用いられている。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池は、従来より、充放電を繰り返すと容量の低下が起きたり、充電状態において高温条件下で保存するとガスが発生し、電池容量の低下などの劣化が起こり、最悪の場合には電池内部の暴走反応により電池の破裂、発火などの重篤な危険性があることが知られており、それを改善するために非水溶媒や電解質について種々の検討がなされている。
【0004】
特許文献1、2には、アジリジン化合物を電解液添加剤として用いることで、正極の不純物である水分を由来とするHFを抑制し、ガス発生や活物質の分解を防止し、サイクル特性を改善するという提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-342504号公報
【特許文献2】特開2004-235141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、記載の化合物では添加量が多くなると電導度が低下するという問題があった。さらには正極上で酸化分解を受けやすく、正極上に分解物が堆積することでリチウムイオンの挿入脱離反応を阻害するため、正極抵抗が著しく上昇するという問題があった。
本発明は、非水系電解液二次電池において、充電状態での高温保存時におけるガス発生を抑制し、かつ容量低下を抑制する二次電池用非水系電解液と、この非水系電解液を用いた二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々の検討を重ねた結果、窒素原子が三員環の一構成元素であるアジリジン骨格を有し、かつ窒素原子にカルボニル基が結合した構造を有する化合物を電解液中に含有することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の要旨は、電解質と非水溶媒を含む非水系電解液二次電池用非水系電解液において、下記一般式(1)で表される化合物を、非水系電解液全体に対して0.001質量%以上10質量%以下の割合で含有することを特徴とする非水系電解液二次電池用非水系電解液、に存する。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、Rは水素基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の有機基を表し、nは1〜8の整数を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の電解液は、これを電池の電解液として用いることで、電池の充電状態での高温保存時におけるガス発生を抑制し、かつ充電状態で高温保存したときの容量低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ただし、以下に記載する説明は本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明は請求項に記載の要旨を超えない限り、これらの内容に特定されるものではない。
(1.非水系電解液)
本発明の非水系電解液は、一般的な非水系電解液と同様に、電解質及びこれを溶解する非水溶媒を含有し、前記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。
【0012】
(1−1.電解質)
本発明の非水系電解液に用いる電解質に制限は無く、目的とsる非水系電解液に字電池に電解質として用いられるものであれば公知のものを任意に採用することが出来る。本発明の非水系電解液をリチウム二次電池に用いる場合には、通常は、電解質としてリチウム塩を用いる。
【0013】
電解質の具体例としては、電解質の具体例としては、LiClO4 、LiAsF
LiPF、LiCO、LiBF等の無機リチウム塩; LiCFSO、L
iN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,3−ヘキサフルオロプロパンジスルホニルイミド、リチウム環状1,2−テトラフルオロエタンジスルホニルイミド、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO等の含フッ素有機リチウム塩;リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムトリス(オキサラト)フォスフェート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、等の含ジカルボン酸錯体リチウム塩などが挙げられる。
【0014】
これらのうち、電池中での安定性の観点からLiPF、LiBF、LiN(CFSO、L iN(CSOが好ましく、特にLiPF、LiBF
好ましい。
また、電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。中でも、特定の無機リチウム塩の2種を併用したり、無機リチウム塩と
含フッ素有機リチウム塩とを併用したりすると、トリクル充電時のガス発生が抑制されたり、高温保存後の劣化が抑制されるので好ましい。特に、LiPFとLiBFとの併用や、LiPF、LiBF等の無機リチウム塩と、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO等の含フッ素有機リチウム塩とを併用することが好ましい。
【0015】
更に、LiPFとLiBFとを併用する場合、電解質全体に対して含有するLiBFが通常 0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0
.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上、また、通常50質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。比率が0.001質量%以上であることで、所望の効果を得やすくなり、比率が50質量%以下であることで、LiBFは解離度が低いため電解液の抵抗が高くなることが抑制される。
【0016】
一方、LiPF、LiBF等の無機リチウム塩と、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO等の含フッ素有機リチウム塩とを併用する場合、電解質全体に占める無機リチウム塩の割合は、通常70質量%以上、99質量%以下の範囲であることが望ましい。
本発明の非水系電解液中におけるリチウム塩の濃度は、本発明の要旨を損なわない限り任意であるが、通常0.5mol/L以上、好ましくは0.6mol/L以上、より好ましくは0.8mol/L以上である。また、通常3mol/L以下、好ましくは2mol/L以下、より好ましくは1.8モル/リットル以下、更に好ましくは1.6mol/L以下の範囲である。この濃度が上記範囲内にあることにより、非水系電解液の電気伝導率が十分となり、また、粘度上昇による電気伝導率の低下が抑制される。
【0017】
(1−2.非水溶媒)
本発明の非水系電解液が含有する非水溶媒としては、従来から非水系電解液の溶媒として公知のものの中から適宜選択して用いることができる。なお、非水溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組合せ及び比率で併用してもよい。
通常使用される非水溶媒の例としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、鎖状及び環状カルボン酸エステル、鎖状及び環状エーテル類、含リン有機溶媒、含硫黄有機溶媒などが挙げられる。
【0018】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート類及びフルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネートなどのフッ素化アルキレンカーボネート類が挙げられ、アルキレンカーボネート類、フッ素化アルキレンカーボネート類の炭素数は、通常3以上5以下である。
【0019】
これらの中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートは誘電率が高いため電解質が溶解しやすく、非水系電解液二次電池にしたときにサイクル特性が良いという点で好ましく、特にエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートが好ましい。
鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート等などのジアルキルカーボネート類が挙げられ、構成するアルキル基の炭素数は、それぞれ1以上5以下が好ましく、特に好ましくは1以上4以下である。また、アルキル基の水素の一部または全部をフッ素で置換していてもよい。中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチ
ルメチルカーボネートが電池特性向上の点から好ましい。
【0020】
鎖状カルボン酸エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸t−ブチル、酢酸アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、吉草酸メチル、吉草酸エチル等及びトリフルオロ酢酸プロピル、トリフルオロ酢酸ブチル等のこれらの化合物の水素の一部をフッ素で置換した化合物等が挙げられ、鎖状カルボン酸エステル類の総炭素数は、通常、3以上10以下、好ましくは4以上7以下である。これらの中でも、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、吉草酸メチルがより好ましい。
【0021】
環状カルボン酸エステルとしては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。 これらの中でも、γ−ブチロラクトンがより好ましい。
更に、鎖状エーテルとしては、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、ジエトキシエタン、エトキシメトキシメタン、エトキシメトキシエタン等が挙げられる。これらの中でも、ジメトキシエタン、ジエトキシエタンがより好ましい。
【0022】
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等が挙げられる。
更に、含リン有機溶媒の種類にも特に制限は無いが、通常使用されるものの例としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル等のリン酸エステル類; 亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル等、亜リン酸トリフェニル等の亜リン酸エステル類;トリメチルホスフィンオキシド、トリエチルフォスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類やホスファゼン類などが挙げられる。
【0023】
含硫黄有機溶媒としては、エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ブスルファン、スルホラン、スルホレン等が挙げられる。
上記の非水溶媒の中でも、環状カーボネートであるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネートより選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、更にこれらと砂上カーボネートであるジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートより選ばれる少なくとも1種を併用することが電解液の粘度と電気伝導度の点から好ましい。
【0024】
このように環状カーボネートと鎖状カーボネートとを非水溶媒として併用する場合、本発明の非水系電解液中の非水溶媒中に占める鎖状カーボネートの好適な含有量は、通常20体積%以上、好ましくは40体積%以上、また、通常95体積%以下、好ましくは90体積%以下である。一方、本発明の非水系電解液中の非水溶媒中に占める環状カーボネートの好適な含有量は、通常5体積%以上、好ましくは10体積%以上、また、通常80体積%以下、好ましくは60体積%以下である。鎖状カーボネートの割合が上記範囲内にあることにより、本発明の非水系電解液の粘度上昇を抑制し、また、電解質であるリチウム塩の解離度の低下による、本発明の非水系電解液の電気伝導率の低下を抑制する。ただし、フルオロエチレンカーボネートは溶媒として用いても添加剤として用いてもよく、その場合は上記の含有量に限定されない。
【0025】
なお、本明細書において、非水溶媒の容量は25℃での測定値であるが、エチレンカーボネートのように25℃で固体のものは融点での測定値を用いる。
(1−3.式(1)で表されるアジリジン骨格を有し、かつ窒素原子にカルボニル基が
結合した構造を有する化合物)
本発明の非水系電解液は、下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする。
【0026】
【化2】
【0027】
式中、Rは水素基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1〜30の有機基を表し、nは1〜8の整数を表す。
Rで示される有機基としては、通常の炭化水素基が挙げられ、不飽和結合や環構造を
有していてもよい。具体的には、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリール基などが挙げられ、好ましくは、アルキレン基、アルケニレン基、アリール基である。より具体的には、アルキレン基やヘテロ元素を鎖中に有するアルキレン基、置換基を有するアルキレン基、環状構造を形成するアルキレン基、アルケニレン基やヘテロ元素を鎖中に有するアルケニレン基、置換基を有するアルケニレン基、環状構造を形成するアルケニレン基、アリール基などが挙げられる。置換基を除いた有機基の炭素数は、1以上30以下であり、好ましくは25以下、より好ましくは20以下である。置換基としては、フッ素原子、炭素数4以下のアルキル基、フッ素原子を有する炭素数4以下のアルキル基、エステル基などが挙げられる。nは1以上、また、8以下、好ましくは4以下、より好ましく
は3以下、更に好ましくは2以下の整数を表す。
【0028】
【化3】
【0029】
前記式(1)で表されるアジリジン骨格を有し、かつ窒素原子にカルボニル基が結合した構造を有する化合物の具体例としては、例えば次のようなものが挙げられる。
N,N‘―メチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ジメチレ
ンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―トリメチレンー1,6―ビ
ス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―テトラメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ペンタメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカル
ボキシアミド)、N,N‘―ヘキサメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミ
ド)(化合物A)、N,N‘―ヘプタメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシア
ミド)、N,N‘―オクタメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ノナメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―デカメチ
レンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ウンデカメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ドデカメチレンー1,6―ビス(1
―アジリジンカルボキシアミド)、1―(N―(2―フルオロフェニル)カルバモイル)ア
ジリジン、1―(N―(3―フルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(4―フルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン(化合物B)、1―(N―(2,3―ジフル
オロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,4―ジフルオロフェニル)カ
ルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,5―ジフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,6―ジフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(
3,4―ジフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(3,5―ジフルオ
ロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,3,4―トdリフルオロフェニ
ル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,3,5―トリフルオロフェニル)カルバ
モイル)アジリジン、1―(N―(2,3,6―トリフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,4,5―トリフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,4,6―トリフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(3,4,5―トリフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(3,4,5―ト
リフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,3,4,5―テトラフ
ルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,3,4,6―テトラフルオ
ロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(2,3,5,6―テトラフルオロフ
ェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(ペンタフルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン
【0030】
【化4】
【0031】
上記の中でも、好ましくは、
N,N‘―メチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ジメチ
レンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―トリメチレンー1,6―
ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―テトラメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ペンタメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカ
ルボキシアミド)、N,N‘―ヘキサメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシア
ミド)(化合物A)、N,N‘―ヘプタメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシ
アミド)、N,N‘―オクタメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ノナメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―デカメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ウンデカメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、N,N‘―ドデカメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)、1―(N―(2―フルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(3―フルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン、1―(N―(4―フルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン(化合物B)、
より好ましくは、
N,N‘―ヘキサメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)(化合物A
)、1―(N―(4―フルオロフェニル)カルバモイル)アジリジン(化合物A)、
更に好ましくは、
N,N‘―ヘキサメチレンー1,6―ビス(1―アジリジンカルボキシアミド)(化合物A
)が挙げられる。
【0032】
上記好ましい化合物は、添加量が多くても電導度が低下しにくく、また、正極上で酸化分解を受けやすく、正極上に分解物が堆積することでリチウムイオンの挿入脱離反応を阻害するため、正極抵抗が著しく上昇することを防ぎ、電池特性の上昇、本発明の効果の発現という点から特に好ましい。
前記一般式(1)で表される化合物の含有量は特に限定されるものではないが、非水電解液に対し、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。前記一般式(1)で表される化合物の含有量が上記範囲にあることにより、本発明の効果が十分に発現し、また、抵抗増加による電池特性の悪化を防ぐ。尚、前記一般式(1)で表される化合物は、1種であっても、複数種を併用してもよいが、複数種を併用する場合、上記含有量は、複数種の合計量を表す。
【0033】
前記一般式(1)で表される化合物を含有する電解液を用いた場合、充電状態での高温保存時のガス発生量が減少し、かつ容量低下を抑制する。その詳細な機構は明らかになっていないが、特許文献1によればアジリジン環を持つ化合物は水分や溶媒の分解に由来するHFを抑制し、ガス発生や活物質の分解を防止する。しかしながら、特許文献1に記載のアジリジン化合物では、正極上で酸化分解を受けやすく、正極上に分解物が堆積することでリチウムイオンの挿入脱離反応を阻害するため、正極抵抗が著しく上昇するが、前記一般式(1)で表される化合物は窒素原子に隣接するカルボニル基の効果で窒素原子上の不対電子対を安定化させることにより酸化耐性が向上し、分解物の堆積による抵抗増加が抑制されるものと考えられる。これにより容量低下が抑制されると考えられる。
【0034】
(1−4.その他の添加剤)
本発明の非水系電解液は、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、各種の添加剤を含有していても良い。添加剤としては、従来公知のものを任意に用いることができる。 尚、添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で
併用してもよい。
【0035】
添加剤の例としては、過充電防止剤や、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を改善するための助剤などが挙げられる。
過充電防止剤の具体例としては、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物; 2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ物; 2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニオール等の含フッ素アニソール化合物; などが
挙げられる。
【0036】
なお、これらの過充電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
本発明の非水系電解液が過充電防止剤を含有する場合、その濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全体に対して、通常0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、また、通常5質量%以下
、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。非水系電解液に過充電防止剤を上記範囲で含有させることによって、過充電による非水系電解液二次電池の破裂・発火を抑制することができ、非水系電解液二次電池の安全性が向上するので好ましい。
【0037】
一方、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を改善するための助剤の具体例としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、トリフルオロメチルビニレンカーボネート等のビニレンカーボネート化合物、ビニルエチレンカーボネート、4−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、5−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート等のビニルエチレンカーボネート化合物;4−エチニルエチレンカーボネート、4,5−ジエチニルエチレンカーボネート、4−メチル−4−エチニルエチレンカーボネート、4−エチニル−5−メチルエチレンカーボネートなどにエチニルエチレンカーボネート化合物、4,4−ジメチル−5−メチレンエチレンカーボネート、4−メチレンエチレンカーボネート等のメチレンエチレンカーボネート化合物などが挙げられる。
【0038】
これらのうち、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4−メチル−4−ビニルエチレンカーボネートまたは4,5−ジビニルエチレンカーボネートがサイクル特性や高温保存後の容量維持特性向上の点から好ましく、なかでもビニレンカーボネートまたはビニルエチレンカーボネートがより好ましく、特にビニレンカーボネートが好ましい。これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0039】
2種類以上を併用する場合は、ビニレンカーボネートとビニルエチレンカーボネートとを併用するのが好ましい。
炭素―炭素不飽和結合を有する環状カーボネート化合物を含有する場合、非水系電解液中におけるその割合は、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下である。炭素−炭素不飽和結合を有する環状カーボネート化合物の割合が、上記範囲内にあることにより、電池のサイクル特性や高温保存後の容量維持特性を向上させるという効果を十分に発揮でき、また、高温保存時にガス発生量の増大が抑制される。
【0040】
また、ハロゲン原子を有する環状カーボネートとしては、フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,4,5−トリフルオロエチレンカーボネート、4,4,5,5−テトラフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,4,5−トリフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、トリフルオロメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。これらのうち、フルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネートがサイクル特性向上や高温保存特性向上の点から好ましい。これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
非水系電解液がフッ素原子を有する環状カーボネート化合物を含有する場合、非水系電解液中におけるその割合は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上、また、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。ただし、フルオロエチレンカーボネートは〔1−2.非水溶媒〕の項で説明したように、溶媒として用いてもよく、その場合は上記の含有量に限定されない。
【0042】
また、モノフルオロリン酸塩またはジフルオロリン酸塩としては、モノフルオロリン酸塩およびジフルオロリン酸塩のカウンターカチオンとしては特に限定はないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、及び、N(式中、R〜Rは、各々独立に、水素原子又は炭素数1〜12の有機基を表わす。)で表されるアンモニウム等が例示として挙げられる。
【0043】
上記アンモニウムのR〜Rで表わされる炭素数1〜12の有機基としては特に限定はないが、例えば、ハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル基、ハロゲン原子又はアルキル基で置換されていてもよいシクロアルキル基、ハロゲン原子又はアルキル基で置換されていてもよいアリール基、置換基を有していてもよい窒素原子含有複素環基等が挙げられる。中でもR〜Rとして、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、又は窒素原子含有複素環基等が好ましい。
【0044】
モノフルオロリン酸塩およびジフルオロリン酸塩の具体例としては、モノフルオロリン酸リチウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸ナトリウム、ジフルオロリン酸カリウム等が挙げられ、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウムが好ましく、ジフルオロリン酸リチウムがより好ましい。これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
非水系電解液がモノフルオロリン酸塩および/またはジフルオロリン酸塩を含有する場合、非水系電解液中におけるその割合は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上、また、通常5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0045】
なお、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩は、非水系電解液として実際に二次電池作製に供すると、その電池を解体して再び非水系電解液を抜き出しても、その中の含有量が著しく低下している場合が多い。従って、電池から抜き出した非水系電解液から、少なくとも1種のモノフルオロリン酸塩及び/又はジフルオロリン酸塩が検出できるものは、非水系電解液中にこれらを本発明で規定する所定割合で含む非水系電解液であるとみなされる。
【0046】
また、ニトリル化合物としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ヘキサンニトリル、ヘプタンニトリル、オクタンニトリル、ノナンニトリル、デカンニトリル、ドデカンニトリル(ラウロニトリル)、トリデカンニトリル、テトラデカンニトリル(ミリストニトリル)、ヘキサデカンニトリル、ペンタデカンニトリル、ヘプタデカンニトリル、オクタデカンニトリル(ステアノニトリル)、ノナデカンニトリル、イコサンニトリル等のモノニトリル;マロノニトリル、 スクシノニトリル、
グルタロニトリル、アジポニトリル、 ピメロニトリル、スベロニトリル、アゼラニトリ
ル、セバコニトリル、ウンデカンジニトリル、ドデカンジニトリル、メチルマロノニトリル、エチルマロノニトリル、イソプロピルマロノニトリル、tert−ブチルマロノニトリル、 メチルスクシノニトリル、2,2−ジメチルスクシノニトリル、2,3−ジメチルス
クシノニトリル、トリメチルスクシノニトリル、 テトラメチルスクシノニトリル 、3,3’−オキシジプロピオニトリル、3,3’−チオジプロピオニトリル、3,3’−(エチレンジオキシ)ジプロピオニトリル、3,3’−(エチレンジチオ)ジプロピオニトリル、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,3,5−ペンタントリカルボニトリル、1,2,3−トリス(2−シアノエトキシ)プロパン、トリス(2−シアノエチル)アミン等 のジニトリルが挙げられ、これらの中でも、ラウロニトリル、スクシノニトリ
ル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリルが好ましい。
【0047】
これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
非水系電解液がニトリル化合物を含有する場合、非水系電解液中におけるその割合は、通
常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.2質量%以上、また、通常10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
【0048】
その他、コハク酸無水物、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、シトラコン酸無水物等の酸無水物;エリスリタンカーボネート、スピロ−ビス−ジメチレンカーボネート等のカーボネート化合物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1,3−プロペンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、ジビニルスルホン、メチルフェニルスルホン、ジエチルジスルフィド、ジブチルジスルフィド、 N,N−ジメチル
メタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド、フルオロスルホン酸リチウム等の含硫黄化合物;3 ,9 − ジビニル− 2 ,4 ,8 ,1 0 − テトラオキサスピロ[5 .5 ]ウンデカン等のアセタール化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルスクシイミド、4−トリフルオロメチルフェニルイソシアネート、1,6−ジイソシアナトヘキサン等の含窒素化合物; ヘプタン、オクタ
ン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物;フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド、ペンタフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン等の含フッ素芳香族化合物; などが挙げられる。
【0049】
これらの助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。これらの助剤を含有する場合、その濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系電解液全体に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、また、通常5質量%以下、好ましくは2質量%以下である。
【0050】
(1−5.ゲル化剤)
非水系電解液は、本発明のリチウム二次電池に用いる際、通常は液体状態で存在するが、例えば、これを高分子によってゲル化して、半固体状電解質にしてもよい。ゲル化に用いる高分子は任意であるが、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどが挙げられる。なお、ゲル化に用いる高分子は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0051】
また、非水系電解液を半固体状電解質として用いる場合、半固体状電解質に占める非水系電解液の比率は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。好適な範囲としては、半固体状電解質の総量に対する非水系電解液の比率が、通常30質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは75質量%以上、また、通常99.95質量%以下、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。非水系電解液の比率が30質量%以上であることで、充放電効率や容量の点で十分となり、99.95質量%以下であることで、電解液の保持が困難となり液漏れが生じることが抑制される。
【0052】
(1−6.非水系電解液の製造方法)
本発明の非水系電解液は、上述した非水溶媒に、上述した電解質と、本発明の前記一般式(1)で表される化合物と、必要に応じて用いられるその他の添加剤などを溶解させることにより、調製することができる。
尚、非水系電解液中に水が存在すると、水の電気分解、水とリチウム金属との反応、リチウム塩の加水分解などが起こる可能性があり、好ましくない。従って、非水系電解液の調製に際して、非水溶媒などの各成分は、予め脱水しておくのが好ましい。具体的には、その水分含有率が通常50ppm以下、中でも20ppm以下の値となるまで脱水してお
くことが好ましい。脱水の手法は任意に選択することが可能であるが、例えば減圧下で加熱したり、モレキュラーシーブを通過させたりする等の手法が挙げられる。
【0053】
(2.非水系電解液二次電池)
本発明の非水系電解液二次電池は、非水系電解液以外の構成については、従来公知の非水系電解液二次電池と同様であり、通常は、本発明の非水系電解液が含浸されている多孔膜(セパレータ)を介して正極と負極が積層され、これらがケース(外装体)に収納された形態を有する。本発明の非水系電解液二次電池の形状は特に制限されるものではなく、円筒型、核型、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【0054】
(2−1.非水系電解液)
非水系電解液としては、上述の本発明の非水系電解液を用いる。なお、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において本発明の非水系電解液に対し、その他の非水系電解液を混合して用いることも可能である。
(2−2.負極)
以下に負極に使用される負極活物質について述べる。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、特に制限はない。具体例としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0055】
<負極活物質>
負極活物質としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。
炭素質材料としては、(1)天然黒鉛、(2)人造黒鉛、(3)非晶質炭素、(4)炭素被覆黒鉛、(5)黒鉛被覆黒鉛、(6)樹脂被覆黒鉛等が挙げられる。
【0056】
(1)天然黒鉛としては、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土壌黒鉛及び/又はこれらの黒鉛を原料に球形化や緻密化等の処理を施した黒鉛粒子等が挙げられる。これらの中でも、粒子の充填性や充放電レート特性の観点から、球形化処理を施した球状もしくは楕円体状の黒鉛が特に好ましい。
球形化処理に用いる装置としては、例えば、衝撃力を主体に粒子の相互作用も含めた圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を繰り返し粒子に与える装置を用いることができる。具体的には、ケーシング内部に多数のブレードを設置したローターを有し、そのローターが高速回転することによって、内部に導入された炭素材に対して衝撃圧縮、摩擦、せん断力等の機械的作用を与え、球形化処理を行なう装置が好ましい。また、炭素材を循環させることによって機械的作用を繰り返して与える機構を有するものであるのが好ましい。
例えば前述の装置を用いて球形化処理する場合は、回転するローターの周速度を30〜100m/秒にするのが好ましく、40〜100m/秒にするのがより好ましく、50〜100m/秒にするのが更に好ましい。また、処理は、単に炭素質物を通過させるだけでも可能であるが、30秒以上装置内を循環又は滞留させて処理するのが好ましく、1分以上装置内を循環又は滞留させて処理するのがより好ましい。
【0057】
(2)人造黒鉛としては、コールタールピッチ、石炭系重質油、常圧残油、石油系重質油、芳香族炭化水素、窒素含有環状化合物、硫黄含有環状化合物、ポリフェニレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、天然高分子、ポリフェニレンサイルファイド、ポリフェニレンオキシド、フルフリルアルコール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、イミド樹脂などの有機化合物を、通常2500℃以上、通常3200℃以下の範囲の温度で黒鉛化し、必要に応じて粉砕及び/又は分級して製造されたものが挙げられる。この際、珪素含有化合物やホウ素含有化合物などを黒鉛化触媒として用いることもできる。また、ピッチの熱処理過程で分離したメソカ
ーボンマイクロビーズを黒鉛化して得た人造黒鉛が挙げられる。更に一次粒子からなる造粒粒子の人造黒鉛も挙げられる。例えば、メソカーボンマイクロビーズや、コークス等の黒鉛化可能な炭素質材料粉体とタール、ピッチ等の黒鉛化可能なバインダと黒鉛化触媒を混合し、黒鉛化し、必要に応じて粉砕することで得られる、扁平状の粒子を複数、配向面が非平行となるように集合又は結合した黒鉛粒子が挙げられる。
【0058】
(3)非晶質炭素としては、タール、ピッチ等の易黒鉛化性炭素前駆体を原料に用い、黒鉛化しない温度領域(400〜2200℃の範囲)で1回以上熱処理した非晶質炭素粒子や、樹脂などの難黒鉛化性炭素前駆体を原料に用いて熱処理した非晶質炭素粒子が挙げられる。
(4)炭素被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の有機化合物である炭素前駆体を混合し、400〜2300℃の範囲で1回以上熱処理し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、非晶質炭素が核黒鉛を被覆している炭素黒鉛複合体が挙げられる。複合の形態は、表面全体または一部を被覆しても、複数の一次粒子を前記炭素前駆体起源の炭素をバインダーとして複合させたものであってもよい。また、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛にベンゼン、トルエン、メタン、プロパン、芳香族系の揮発分等の炭化水素系ガス等を高温で反応させ、黒鉛表面に炭素を堆積(CVD)さ
せることでも炭素黒鉛複合体を得ることもできる。
【0059】
(5)黒鉛被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、タール、ピッチや樹脂等の易黒鉛化性の有機化合物の炭素前駆体を混合し、2400〜3200℃程度の範囲で1回以上熱処理し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、黒鉛化物が核黒鉛の表面全体または一部を被覆している黒鉛被覆黒鉛が挙げられる。
(6)樹脂被覆黒鉛としては、天然黒鉛及び/又は人造黒鉛と、樹脂等を混合、400℃未満の温度で乾燥し得られる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛を核黒鉛とし、樹脂等が核黒鉛を被覆している樹脂被覆黒鉛が挙げられる。
【0060】
また、(1)〜(6)の炭素質材料は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記(2)〜(5)に用いられるタール、ピッチや樹脂等の有機化合物としては、石炭系重質油、直流系重質油、分解系石油重質油、芳香族炭化水素、N環化合物、S環化合物、ポリフェニレン、有機合成高分子、天然高分子、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂からなる群より選ばれた炭化可能な有機化合物などが挙げられる。また、原料有機化合物は混合時の粘度を調整するため、低分子有機溶媒に溶解させて用いても良い。
【0061】
また、核黒鉛の原料となる天然黒鉛及び/又は人造黒鉛としては、球形化処理を施した天然黒鉛が好ましい。
負極活物質として用いられる合金系材料としては、リチウムを吸蔵・放出可能であれば、リチウム単体、リチウム合金を形成する単体金属及び合金、又はそれらの酸化物、炭化物、窒化物、ケイ化物、硫化物若しくはリン化物等の化合物のいずれであってもよく、特に制限されない。リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、13族及び14族の金属・半金属元素(即ち炭素を除く)を含む材料であることが好ましく、より好ましくはアルミニウム、ケイ素及びスズの単体金属及びこれら原子を含む合金又は化合物である。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0062】
<炭素質材料の物性>
負極活物質として炭素質材料を用いる場合、以下の物性を有するものであることが望ましい。
(X線パラメータ)
炭素質材料の学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離)が、通常0.335nm以上であり、また、通常0.360nm以下であり、0.350nm以下が好ましく、0.345nm以下がさらに好ましい。また、学振法によるX線回折で求めた炭素質材料の結晶子サイズ(Lc)は、1.0nm以上であることが好ましく、中でも1.5nm以上であることがさらに好ましい。
【0063】
(体積基準平均粒径)
炭素質材料の体積基準平均粒径は、レーザー回折・散乱法により求めた体積基準の平均粒径(メジアン径)であり、通常1μm以上であり、3μm以上が好ましく、5μm以上がさらに好ましく、7μm以上が特に好ましく、また、通常100μm以下であり、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましく、25μm以下が特に好ましい。
【0064】
体積基準平均粒径が上記範囲を下回ると、不可逆容量が増大して、初期の電池容量の損失を招くことになる場合がある。また、上記範囲を上回ると、塗布により電極を作製する際に、不均一な塗面になりやすく、電池製作工程上望ましくない場合がある。
体積基準平均粒径の測定は、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約10mL)に炭素粉末を分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布計(例えば、堀場製作所社製LA−700)を用いて行なう。該測定で求められるメジアン径を、本発明の炭素質材料の体積基準平均粒径と定義する。
【0065】
(ラマンR値)
炭素質材料のラマンR値は、レーザーラマンスペクトル法を用いて測定した値であり、通常0.01以上であり、0.03以上が好ましく、0.1以上がさらに好ましく、また、通常1.5以下であり、1.2以下が好ましく、1以下がさらに好ましく、0.5以下が特に好ましい。
【0066】
ラマンR値が上記範囲を下回ると、粒子表面の結晶性が高くなり過ぎて、充放電に伴ってLiが層間に入るサイトが少なくなる場合がある。即ち、充電受入性が低下する場合がある。また、集電体に塗布した後、プレスすることによって負極を高密度化した場合に電極板と平行方向に結晶が配向しやすくなり、負荷特性の低下を招く場合がある。
一方、上記範囲を上回ると、粒子表面の結晶性が低下し、非水系電解液との反応性が増し、効率の低下やガス発生の増加を招く場合がある。
【0067】
ラマンスペクトルの測定は、ラマン分光器(例えば、日本分光社製ラマン分光器)を用いて、試料を測定セル内へ自然落下させて充填し、セル内のサンプル表面にアルゴンイオンレーザー光(若しくは半導体レーザー光)を照射しながら、セルをレーザー光と垂直な面内で回転させることにより行なう。得られるラマンスペクトルについて、1580cm−1付近のピークPの強度Iと、1360cm−1付近のピークPの強度Iとを測定し、その強度比R(R=I/I)を算出する。該測定で算出されるラマンR値を、本発明の炭素質材料のラマンR値と定義する。
【0068】
また、上記のラマン測定条件は、次の通りである。
・レーザー波長 :Arイオンレーザー514.5nm(半導体レーザー532nm)
・測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
・ラマンR値 :バックグラウンド処理、
・スムージング処理 :単純平均、コンボリューション5ポイント
(BET比表面積)
炭素質材料のBET比表面積は、BET法を用いて測定した比表面積の値であり、通常0.1m・g−1以上であり、0.7m・g−1以上が好ましく、1.0m・g
以上がさらに好ましく、1.5m・g−1以上が特に好ましく、また、通常100m・g−1以下であり、25m・g−1以下が好ましく、15m・g−1以下がさらに好ましく、10m・g−1以下が特に好ましい。
【0069】
BET比表面積の値がこの範囲を下回ると、負極材料として用いた場合の充電時にリチウムの受け入れ性が悪くなりやすく、リチウムが電極表面で析出しやすくなり、安定性が低下する可能性がある。一方、この範囲を上回ると、負極材料として用いた時に非水系電解液との反応性が増加し、ガス発生が多くなりやすく、好ましい電池が得られにくい場合がある。
【0070】
BET法による比表面積の測定は、表面積計(例えば、大倉理研製全自動表面積測定装置)を用いて、試料に対して窒素流通下350℃で15分間、予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用いて、ガス流動法による窒素吸着BET1点法によって行なう。
(円形度)
炭素質材料の球形の程度として円形度を測定した場合、以下の範囲に収まることが好ましい。なお、円形度は、「円形度=(粒子投影形状と同じ面積を持つ相当円の周囲長)/(粒子投影形状の実際の周囲長)」で定義され、円形度が1のときに理論的真球となる。
【0071】
炭素質材料の粒径が3〜40μmの範囲にある粒子の円形度は1に近いほど望ましく、また、0.1以上が好ましく、中でも0.5以上が好ましく、0.8以上がより好ましく、0.85以上がさらに好ましく、0.9以上が特に好ましい。高電流密度充放電特性は、円形度が大きいほど向上する。従って、円形度が上記範囲を下回ると、負極活物質の充填性が低下し、粒子間の抵抗が増大して、短時間高電流密度充放電特性が低下する場合がある。
【0072】
円形度の測定は、フロー式粒子像分析装置(例えば、シスメックス社製FPIA)を用いて行う。試料約0.2gを、界面活性剤であるポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレートの0.2質量%水溶液(約50mL)に分散させ、28kHzの超音波を出力60Wで1分間照射した後、検出範囲を0.6〜400μmに指定し、粒径が3〜40μmの範囲の粒子について測定する。
【0073】
円形度を向上させる方法は、特に制限されないが、球形化処理を施して球形にしたものが、電極体にしたときの粒子間空隙の形状が整うので好ましい。球形化処理の例としては、せん断力、圧縮力を与えることによって機械的に球形に近づける方法、複数の微粒子をバインダーもしくは、粒子自身の有する付着力によって造粒する機械的・物理的処理方法等が挙げられる。
【0074】
(タップ密度)
炭素質材料のタップ密度は、通常0.1g・cm−3以上であり、0.5g・cm−3以上が好ましく、0.7g・cm−3以上がさらに好ましく、1g・cm−3以上が特に好ましく、また、2g・cm−3以下が好ましく、1.8g・cm−3以下がさらに好ましく、1.6g・cm−3以下が特に好ましい。タップ密度が、上記範囲を下回ると、負極として用いた場合に充填密度が上がり難く、高容量の電池を得ることができない場合がある。また、上記範囲を上回ると、電極中の粒子間の空隙が少なくなり過ぎ、粒子間の導電性が確保され難くなり、好ましい電池特性が得られにくい場合がある。
【0075】
タップ密度の測定は、目開き300μmの篩を通過させて、20cmのタッピングセルに試料を落下させてセルの上端面まで試料を満たした後、粉体密度測定器(例えば、セイシン企業社製タップデンサー)を用いて、ストローク長10mmのタッピングを100
0回行なって、その時の体積と試料の質量からタップ密度を算出する。
(配向比)
炭素質材料の配向比は、通常0.005以上であり、0.01以上が好ましく、0.015以上がさらに好ましく、また、通常0.67以下である。配向比が、上記範囲を下回ると、高密度充放電特性が低下する場合がある。なお、上記範囲の上限は、炭素質材料の配向比の理論上限値である。
【0076】
配向比は、試料を加圧成型してからX線回折により測定する。試料0.47gを直径17mmの成型機に充填し58.8MN・m−2で圧縮して得た成型体を、粘土を用いて測定用試料ホルダーの面と同一面になるようにセットしてX線回折を測定する。得られた炭素の(110)回折と(004)回折のピーク強度から、(110)回折ピーク強度/(004)回折ピーク強度で表わされる比を算出する。
【0077】
X線回折測定条件は次の通りである。なお、「2θ」は回折角を示す。
・ターゲット:Cu(Kα線)グラファイトモノクロメーター
・スリット :
発散スリット=0.5度
受光スリット=0.15mm
散乱スリット=0.5度
・測定範囲及びステップ角度/計測時間:
(110)面:75度≦2θ≦80度 1度/60秒
(004)面:52度≦2θ≦57度 1度/60秒
(アスペクト比(粉))
炭素質材料のアスペクト比は、通常1以上、また、通常10以下であり、8以下が好ましく、5以下がさらに好ましい。アスペクト比が、上記範囲を上回ると、極板化時にスジ引きや、均一な塗布面が得られず、高電流密度充放電特性が低下する場合がある。なお、上記範囲の下限は、炭素質材料のアスペクト比の理論下限値である。
【0078】
アスペクト比の測定は、炭素質材料の粒子を走査型電子顕微鏡で拡大観察して行う。厚さ50μm以下の金属の端面に固定した任意の50個の黒鉛粒子を選択し、それぞれについて試料が固定されているステージを回転、傾斜させて、3次元的に観察した時の炭素質材料粒子の最長となる径Aと、それと直交する最短となる径Bを測定し、A/Bの平均値を求める。
【0079】
<負極の構成と作製法>
電極の製造は、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のいずれの方法を用いることができる。例えば、負極活物質に、バインダー、溶媒、必要に応じて、増粘剤、導電材、充填材等を加えてスラリーとし、これを集電体に塗布、乾燥した後にプレスすることによって形成することができる。
【0080】
また、合金系材料を用いる場合には、蒸着法、スパッタ法、メッキ法等の手法により、上述の負極活物質を含有する薄膜層(負極活物質層)を形成する方法も用いられる。
(電極密度)
負極活物質を電極化した際の電極構造は特に制限されないが、集電体上に存在している負極活物質の密度は、1g・cm−3以上が好ましく、1.2g・cm−3以上がさらに好ましく、1.3g・cm−3以上が特に好ましく、また、2.2g・cm−3以下が好ましく、2.1g・cm−3以下がより好ましく、2.0g・cm−3以下がさらに好ましく、1.9g・cm−3以下が特に好ましい。集電体上に存在している負極活物質の密度が、上記範囲を上回ると、負極活物質粒子が破壊され、初期不可逆容量の増加や、集電体/負極活物質界面付近への非水系電解液の浸透性低下による高電流密度充放電特性悪化
を招く場合がある。また、上記範囲を下回ると、負極活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し、単位容積当たりの容量が低下する場合がある。
【0081】
〔2−3.正極〕
<正極活物質>
以下に正極に使用される正極活物質(リチウム遷移金属系化合物)について述べる。
〈リチウム遷移金属系化合物〉
リチウム遷移金属系化合物とは、Liイオンを脱離、挿入することが可能な構造を有する化合物であり、例えば、硫化物やリン酸塩化合物、リチウム遷移金属複合酸化物などが挙げられる。硫化物としては、TiSやMoSなどの二次元層状構造をもつ化合物や、一般式MeMo(MeはPb,Ag,Cuをはじめとする各種遷移金属)で表される強固な三次元骨格構造を有するシュブレル化合物などが挙げられる。リン酸塩化合物としては、オリビン構造に属するものが挙げられ、一般的にはLiMePO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)で表され、具体的にはLiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPOなどが挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物としては、三次元的拡散が可能なスピネル構造や、リチウムイオンの二次元的拡散を可能にする層状構造に属するものが挙げられる。スピネル構造を有するものは、一般的にLiMe(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表され、具体的にはLiMn、LiCoMnO、LiNi0.5Mn1.5、LiCoVOなどが挙げられる。層状構造を有するものは、一般的にLiMeO(Meは少なくとも1種以上の遷移金属)と表される。具体的にはLiCoO、LiNiO、LiNi1−xCo、LiNi1−x−yCoMn、LiNi0.5Mn0.5、Li1.2Cr0.4Mn0.4、Li1.2Cr0.4Ti0.4、LiMnOなどが挙げられる。
【0082】
〈組成〉
また、リチウム含有遷移金属化合物は、例えば、下記組成式(A)または(B)で示されるリチウム遷移金属系化合物であることが挙げられる。
1)下記組成式(A)で示されるリチウム遷移金属系化合物である場合
Li1+xMO …(A)
ただし、xは通常0以上、0.5以下である。Mは、Ni及びMn、或いは、Ni、Mn及びCoから構成される元素であり、Mn/Niモル比は通常0.1以上、5以下である。Ni/Mモル比は通常0以上、0.5以下である。Co/Mモル比は通常0以上、0.5以下である。なお、xで表されるLiのリッチ分は、遷移金属サイトMに置換している場合もある。
【0083】
なお、上記組成式(A)においては、酸素量の原子比は便宜上2と記載しているが、多少の不定比性があってもよい。また、上記組成式中のxは、リチウム遷移金属系化合物の製造段階での仕込み組成である。通常、市場に出回る電池は、電池を組み立てた後に、エージングを行っている。そのため、充放電に伴い、正極のLi量は欠損している場合がある。その場合、組成分析上、3Vまで放電した場合のxが−0.65以上、1以下に測定されることがある。
【0084】
また、リチウム遷移金属系化合物は、正極活物質の結晶性を高めるために酸素含有ガス雰囲気下で高温焼成を行って焼成されたものが電池特性に優れる。
さらに、組成式(A)で示されるリチウム遷移金属系化合物は、以下一般式(A’)のとおり、213層と呼ばれるLiMOとの固溶体であってもよい。
αLiMO・(1−α)LiM’O・・・(A’)
一般式中、αは、0<α<1を満たす数である。
【0085】
Mは、平均酸化数が4である少なくとも一種の金属元素であり、具体的には、Mn、Zr、Ti、Ru、Re及びPtからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素である。
M’は、平均酸化数が3である少なくとも一種の金属元素であり、好ましくは、V、Mn、Fe、Co及びNiからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素であり、より好ましくは、Mn、Co及びNiからなる群より選択される少なくとも一種の金属元素である。
【0086】
2)下記一般式(B)で表されるリチウム遷移金属系化合物である場合。
Li[LiaMn2−b−a]O4+δ・・・(B)
ただし、Mは、Ni、Cr、Fe、Co、Cu、Zr、AlおよびMgから選ばれる遷移金属のうちの少なくとも1種から構成される元素である。
bの値は通常0.4以上、0.6以下である。
【0087】
bの値がこの範囲であれば、リチウム遷移金属系化合物における単位重量当たりのエネルギー密度が高い。
また、aの値は通常0以上、0.3以下である。また、上記組成式中のaは、リチウム遷移金属系化合物の製造段階での仕込み組成である。通常、市場に出回る電池は、電池を組み立てた後に、エージングを行っている。そのため、充放電に伴い、正極のLi量は欠損している場合がある。その場合、組成分析上、3Vまで放電した場合のaが−0.65以上、1以下に測定されることがある。
【0088】
aの値がこの範囲であれば、リチウム遷移金属系化合物における単位重量当たりのエネルギー密度を大きく損なわず、かつ、良好な負荷特性が得られる。
さらに、δの値は通常±0.5の範囲である。
δの値がこの範囲であれば、結晶構造としての安定性が高く、このリチウム遷移金属系
化合物を用いて作製した電極を有する電池のサイクル特性や高温保存が良好である。
ここでリチウム遷移金属系化合物の組成であるリチウムニッケルマンガン系複合酸化物におけるリチウム組成の化学的な意味について、以下により詳細に説明する。
【0089】
上記リチウム遷移金属系化合物の組成式のa,bを求めるには、各遷移金属とリチウムを誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)で分析して、Li/Ni/Mnの比を求める事で計算される。
構造的視点では、aに係るリチウムは、同じ遷移金属サイトに置換されて入っていると考えられる。ここで、aに係るリチウムによって、電荷中性の原理によりMとマンガンの平均価数が3.5価より大きくなる。
また、上記リチウム遷移金属系化合物は、フッ素置換されていてもよく、LiMn4‐x2xと表記される。
【0090】
〈ブレンド〉
上記の組成のリチウム遷移金属系化合物の具体例としては、例えば、Li1+xNi0.5Mn0.5、Li1+xNi0.85Co0.10Al0.05、Li1+xNi0.33Mn0.33Co0.33、Li1+xNi0.45Mn0.45Co0.1、Li1+xMn1.8Al0.2、Li1+xMn1.5Ni0.5等が挙げられる。これらのリチウム遷移金属系化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上をブレンドして用いても良い。
【0091】
〈異元素導入〉
また、リチウム遷移金属系化合物は、異元素が導入されてもよい。異元素としては、B,Na,Mg,Al,K,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Sr,Y,Zr,
Nb,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sb,Te,Ba,Ta,Mo,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Pb,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Bi,N,F,S,Cl,Br,I,As,Ge,P,Pb,Sb,SiおよびSnの何れか1種以上の中から選択される。これらの異元素は、リチウム遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれていてもよく、あるいは、リチウム遷移金属系化合物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在していてもよい。
【0092】
[リチウム二次電池用正極]
リチウム二次電池用正極は、上述のリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体及び結着剤を含有する正極活物質層を集電体上に形成してなるものである。
正極活物質層は、通常、正極材料と結着剤と更に必要に応じて用いられる導電材及び増粘剤等を、乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、或いはこれらの材料を液体媒体中に溶解又は分散させてスラリー状にして、正極集電体に塗布、乾燥することにより作成される。
【0093】
正極集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。
正極集電体として薄膜を使用する場合、その厚さは任意であるが、通常1μm以上、100mm以下の範囲が好適である。上記範囲よりも薄いと、集電体として必要な強度が不足する可能性がある一方で、上記範囲よりも厚いと、取り扱い性が損なわれる可能性がある。
【0094】
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であれば良いが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレンスチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0095】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1質量%以上、80質量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう可能性がある一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる可能性がある。
正極活物質層には、通常、導電性を高めるために導電材を含有させる。その種類に特に制限はないが、具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料や、天然黒鉛、人造黒鉛等の
黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などを挙げることができる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。正極活物質層中の導電材の割合は、通常0.01質量%以上、50質量%以下である。導電材の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
【0096】
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極材料であるリチウム遷移金属系化合物粉体、結着剤、並びに必要に応じて使用される導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良い。水系溶媒の例としては水、アルコールなどが挙げられ、有機系溶媒の例としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を挙げることができる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化する。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0097】
正極活物質層中の正極材料としてのリチウム遷移金属系化合物粉体の含有割合は、通常10質量%以上、99.9質量%以下である。正極活物質層中のリチウム遷移金属系化合物粉体の割合が多すぎると正極の強度が不足する傾向にあり、少なすぎると容量の面で不十分となることがある。
また、正極活物質層の厚さは、通常10〜200μm程度である。
【0098】
正極のプレス後の電極密度としては、通常、2.2g/cm以上、4.2g/cm以下である。
なお、塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
かくして、リチウム二次電池用正極が調製できる。
【0099】
〔2−4.セパレータ〕
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、本発明の非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0100】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0101】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機
械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、非水系電解液二次電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0102】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がさらに好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0103】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状もしくは繊維形状のものが用いられる。
【0104】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着材を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着材として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0105】
セパレータの非電解液二次電池における特性を、ガーレ値で把握することができる。ガーレ値とは、フィルム厚さ方向の空気の通り抜け難さを示し、100mlの空気が該フィルムを通過するのに必要な秒数で表されるため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方がフィルムの厚さ方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方がフィルムの厚さ方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは、フィルム厚さ方向の孔のつながり度合いである。本発明のセパレータのガーレ値が低ければ、様々な用途に使用することが出来る。例えば非水系リチウム二次電池のセパレータとして使用した場合、ガーレ値が低いということは、リチウムイオンの移動が容易であることを意味し、電池性能に優れるため好ましい。セパレータのガーレ値は、任意ではあるが、好ましくは10〜1000秒/100mlであり、より好ましくは15〜800秒/100mlであり、更に好ましくは20〜500秒/100mlである。ガーレ値が1000秒/100ml以下であれば、実質的には電気抵抗が低く、セパレータとしては好ましい。
【0106】
[電池設計]
<電極群>
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
【0107】
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液
成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0108】
<外装ケース>
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0109】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0110】
<保護素子>
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0111】
<外装体>
本発明の非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体内に収納して構成される。この外装体は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。具体的に、外装体の材質は任意であるが、通常は、例えばニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミウム又はその合金、ニッケル、チタン等が用いられる。
また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
【実施例】
【0112】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1-4、比較例1,2]
<非水系電解液の調製>
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートの混合物(容量比3:3:4)に、十分に乾燥したLiPFを1mol/Lとなるように加え、さらに各種化合物を表-1で示す化合物の組み合わせで、表記載の
濃度となるように溶解して、実施例及び比較例の非水系電解液を調製した。
なお、表中のVCはビニレンカーボネート、化合物Aは、以下に示す化合物である。
【0113】
【化5】
【0114】
<正極の作製>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO)94質量%と、導電材としてのアセチレンブラック3質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)3質量%とを、N−メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。得られたスラリーを1平方センチメートルあたり50ミリグラムになるように、厚さ12μmのアルミ箔の両面に塗布して乾燥し、プレス機で厚さ85μmに圧延したものを、活物質が幅30mm、長さ40mmとなるように切り出して正極とした。作成した正極は摂氏80度において12時間減圧乾燥をして用いた。
【0115】
<負極の作製>
負極活物質として、非炭素材料であるケイ素73.2質量部および銅8.1質量部と、人造黒鉛粉末(ティムカル社製商品名「KS−6」)12.2質量部とを用い、これらにポリフッ化ビニリデンを12質量部含有するN−メチルピロリドン溶液54.2質量部、および、N−メチルピロリドン50質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー状とした。得られたスラリーを、負極集電体である厚さ18μmの銅箔上に均一に塗布して負極とし、その後電極密度が1.5g・cm-3程度となるようにプレスし、活物質が幅
30mm、長さ40mmとなるように切り出して負極(ケイ素合金負極)とした。なお、この負極は摂氏60度で12時間減圧乾燥して用いた。
【0116】
<二次電池の作成>
上記の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極、セパレータ、負極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正・負極の端子を突設させながら挿入した後、非水系電解液を袋内に0.4mL注入し、真空封止を行ない、シート状電池を作製した。更に、電極間の密着性を高めるために、ガラス板でシート状電池を挟んで加圧した。
【0117】
<電池の評価>
1.高温保存試験
上記シート状の電池を、25℃において0.2Cに相当する定電流で充電終止電圧4.33V、放電終止電圧3Vで充放電を数サイクル行って安定させた。その後、4.33V−定電流定電圧充電(0.05Cカット)を行った後、85℃、1日間の条件で高温保存試験を行った。この高温保存の前後で、シート状電池をエタノール浴中に浸して、体積の変化から発生したガス量(高温保存ガス量)を求めた。またの保存前の放電容量に対する保存後の放電容量の割合を容量残存率(%)として評価した。結果を表−1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
本発明の化合物を含まない電解液を使用した比較例1に対し、本発明の化合物を含む電解液を使用した実施例1ないし2では、高温保存ガス量が低下した。
また、本発明の化合物を含まない電解液を使用した比較例1に対し、本発明の化合物を含む電解液を使用した実施例1ないし2では、容量残存率が向上した。
これらのことから、本発明の化合物は充電状態での高温保存時におけるガス発生を抑制し、かつ容量低下を抑制する効果があるといえる。
【0120】
また、ビニレンカーボネートを含有する場合においても、本発明の化合物を含まない電解液を使用した比較例2に対し、本発明の化合物を含む電解液を使用した実施例3ないし4では、高温保存ガス量が低下した。
また、本発明の化合物を含まない電解液を使用した比較例1に対し、本発明の化合物を含む電解液を使用した実施例3ないし4では、容量残存率が向上した。
これらのことから、本発明の化合物は充電状態での高温保存時におけるガス発生を抑制し、かつ容量低下を抑制する効果があるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の非水系電解液によれば、非水系電解液二次電池の電解液の分解を抑制し、電池を高温環境下で使用した際にガス発生および電池の劣化を抑制すると共に高容量で、サイクル特性に優れた高エネルギー密度の非水系電解液二次電池を製造することができる。従って、非水系電解液二次電池が用いられる電子機器等の各種の分野において好適に利用できる。
【0122】
本発明の二次電池用非水系電解液や非水系電解液二次電池の用途は特に限定されず、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、ゲーム機器、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、電動工具等の携帯電子機器用電源、ハイブリッド自動車、電気自動車、電動バイク、電動自転車のような移動体用大型電源装置、または電力負荷平準化等を目的とした家庭用電源装置やバックアップ用電源のような定置型の大型電源等が挙げられる。