特許第5973829号(P5973829)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5973829
(24)【登録日】2016年7月22日
(45)【発行日】2016年8月23日
(54)【発明の名称】空調制御装置および方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/02 20060101AFI20160809BHJP
【FI】
   F24F11/02 G
   F24F11/02 103Z
   F24F11/02 102S
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-170970(P2012-170970)
(22)【出願日】2012年8月1日
(65)【公開番号】特開2014-31899(P2014-31899A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 光弘
(72)【発明者】
【氏名】斎数 由香子
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−089677(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0209435(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機器を制御する空調システムに対して、当該空調機器での操作量を指示することにより、空調空間を任意の空調環境へ制御する空調制御装置であって、
異なる複数の前記操作量について分布系流動解析することにより、これら操作量で得られる前記空調環境を示す状態分布それぞれ推定する分布系流動解析部と、
前記操作量および前記状態分布の組からなる解候補ごとに、予め設定された複数の目的関数に基づいて当該解候補を評価することにより、これら解候補のうちから前記目的関数に関するパレート解をそれぞれ特定するパレート解特定部と、
前記目的関数により計算した前記各パレート解の評価値に基づいて、前記各パレート解を、予め設定された複数の空調制御モードにそれぞれ分類するパレート解分類部と、
前記パレート解ごとに、当該パレート解に関する前記操作量または/および前記状態分布に基づいて、空調制御内容の類似性を評価するための1つまたは複数種類の指標を計算する指標計算部と、
前記パレート解ごとに、当該パレート解に関する前記指標からなる候補指標と、前記パレート解のうちから基準として選択した基準パレート解に関する前記指標からなる基準指標との差分に基づいて、当該基準パレート解に対する当該パレート解の類似度を計算する類似度計算部と、
前記空調空間に適用する空調制御モードを新たな空調制御モードに変更する際、当該新たな空調制御モードに属する前記パレート解のうち、前記基準パレート解に対する前記類似度が最も小さいパレート解に関する前記操作量を、前記空調システムに対して指示する空調指示部と
を備えることを特徴とする空調制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記指標計算部は、前記パレート解に関する前記指標を計算する際、当該パレート解に関する前記操作量に含まれる、前記空調空間へ供給する空調空気の給気温度、当該空調空気の総風量、または、前記空調空間の吹出口における吹出風量のうち、いずれか1つまたは複数の値を、前記指標として選択することを特徴とする空調制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の空調制御装置において、
前記類似度計算部は、前記パレート解の類似度を計算する際、前記種類ごとに前記候補指標と前記基準指標との差分を求め、これら差分の絶対値に関する平均値、これら差分の絶対値に関する最大値、または、これら差分の二乗平均平方根、のうちのいずれか1つを、前記類似度として計算することを特徴とする空調制御装置。
【請求項4】
空調機器を制御する空調システムに対して、当該空調機器での操作量を指示することにより、空調空間を任意の空調環境へ制御する空調制御装置で用いられる空調制御方法であって、
分布系流動解析部が、異なる複数の前記操作量について分布系流動解析することにより、これら操作量で得られる前記空調環境を示す状態分布それぞれ推定する分布系流動解析ステップと、
パレート解特定部が、前記操作量および前記状態分布の組からなる解候補ごとに、予め設定された複数の目的関数に基づいて当該解候補を評価することにより、これら解候補のうちから前記目的関数に関するパレート解をそれぞれ特定するパレート解特定ステップと、
パレート解分類部が、前記目的関数により計算した前記各パレート解の評価値に基づいて、前記各パレート解を、予め設定された複数の空調制御モードにそれぞれ分類するパレート解分類ステップと、
指標計算部が、前記パレート解ごとに、当該パレート解に関する前記操作量または/および前記状態分布に基づいて、空調制御内容の類似性を評価するための1つまたは複数種類の指標を計算する指標計算ステップと、
類似度計算部が、前記パレート解ごとに、当該パレート解に関する前記指標からなる候補指標と、前記パレート解のうちから基準として選択した基準パレート解に関する前記指標からなる基準指標との差分に基づいて、当該基準パレート解に対する当該パレート解の類似度を計算する類似度計算ステップと、
空調指示部が、前記空調空間に適用する空調制御モードを新たな空調制御モードに変更する際、当該新たな空調制御モードに属する前記パレート解のうち、前記基準パレート解に対する前記類似度が最も小さいパレート解に関する前記操作量を、前記空調システムに対して指示する空調指示ステップと
を備えることを特徴とする空調制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調制御技術に関し、特に分布系流動解析手法を用いて空調機器の操作量を算出する空調制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空調空間を所望の空調環境に制御・維持するために、空調機器から供給される調和空気の風量・風向・温度などの操作量を決定する技術として、空間内の温度分布や気流分布を推定する分布系流動解析手法を用いる技術が提案されている(例えば、特許文献1など参照)。
【0003】
この空調制御技術によれば、まず、空調空間の空調状況を分布系流動解析手法により順解析して、空調空間の温度および気流の分布を示す分布データを算出し、得られた分布データに空調空間内の特定場所に対する目標温度を加えた設定データに基づいて、空調空間の温度および気流の分布を分布系流動解析手法により逆解析して、特定場所を目標温度とするために必要な、吹出口での新たな調和空気の吹出速度や吹出温度を示す新たな操作量を逆算している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−089677号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】加藤信介・小林光・村上周三、「不完全混合室内における換気効率・温熱環境形成効率評価指標に関する研究 第2報-CFDに基づく局所領域の温熱環境形成寄与率評価指標の開発」、東大生研:空気調和・衛生工学論文集No.69、pp.39-47、1998.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した従来の分布系流動解析手法の順解析を利用すれば、想定した操作量のそれぞれについて、当該操作量を用いて空調空間を空調制御した場合に得られる空調環境を推定することができる。したがって、得られた操作量と空調環境との組を、様々な空調環境を実現するための解として予め推定しておき、これら解のうちから任意の解を選択し、その解に含まれる操作量で空調システムを制御すれば、任意の空調環境を容易に実現することができる。
【0007】
一方、実際に空調制御を行う場合、空調空間を管理する管理者の運用指針や空調空間を利用する利用者の意図など、空調制御に対する複数の目的が存在する。このような目的には、互いにトレードオフの関係を持つ目的もある。例えば、空調制御に対する目的の代表的なものとして省エネルギー性と快適性があるが、これらは互いにトレードオフの関係を有している。
このため、予め推定した解のうちから空調制御に用いる解を選択する場合、このような目的間のトレードオフが考慮された解として、パレート解(最適解)を抽出することが重要となる。パレート解とは、1つの目的関数値を改善する為には少なくとも他の1つ以上の目的関数値を改悪せざるを得ない解、つまり妥協解のことである。すなわち、パレート解は、ある条件において、他の解と比べて高い評価が得られる解である。
【0008】
図5は、パレート解を示す説明図である。ここでは、省エネルギー性と快適性というトレードオフの関係にある2つの空調制御の目的が選択されており、これら目的を評価するための目的関数で求めたそれぞれの評価値に基づいて、表示画面上の当該評価値と対応する座標位置に、パレート解を含む各解のシンボルがプロット表示されている。図5に示すように、これらパレート解は、一方の省エネルギー性(または快適性)の実現程度を選択すれば、この省エネルギー性(または快適性)の実現程度を満足しつつ、他方の快適性(または省エネルギー性)の実現程度が最も高くなる空調制御を実現する解である。したがって、パレート解は、これら目的間のバランスを考慮した解であることがわかる。
【0009】
このようにして、空調環境を制御するため操作量を示す複数のパレート解のうちから、いずれかのパレート解を選択し、そのパレート解に関する操作量を空調システムへ指示すれば、管理者の運用指針や、利用者の意図など、空調制御に対する複数の目的において、バランスを考慮した空調制御を行うことが可能となる。
【0010】
しかしながら、通常、空調空間を所望の空調環境に制御・維持するため操作量は、同一の空調環境について複数存在する。例えば、空調空間内の特定の場所の温度を目標温度まで低下させる場合、その近くに存在する吹出口から吹き出す調和空気の吹出速度を増加させる方法もあれば、吹出口から吹き出す調和空気の吹出温度を下げる方法もある。
したがって、省エネルギー性と快適性の実現程度が近しいパレート解であっても、それぞれのパレート解が示す操作量が大きく異なる場合がある。
【0011】
また、操作量が大きく異なる場合、元の操作量から新たな操作量へ移行させるのに時間を要する場合がある。例えば、吹出温度は、空調機での熱交換を調整する必要があり、熱交換の時定数による時間遅れが生じる。また、新たな吹出速度や吹出温度に制御した後についても、空調空間における空気分布や熱量分布の時定数により、新たな空調環境へ変化するまでに時間遅れが生じる。このため、操作量が大きく異なる場合、空調環境をスムーズに効率よく遷移させることができない。また、このような操作量の大きな違いは、空調空間の利用者に対して違和感を与える原因にもなる。
【0012】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、任意の空調環境を実現する各パレート解に基づいて、空調制御に対する目的に沿ってスムーズに違和感なく空調環境を遷移させることができる空調制御技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、本発明にかかる空調制御装置は、空調機器を制御する空調システムに対して、当該空調機器での操作量を指示することにより、空調空間を任意の空調環境へ制御する空調制御装置であって、異なる複数の前記操作量について分布系流動解析することにより、これら操作量で得られる前記空調環境を示す状態分布それぞれ推定する分布系流動解析部と、前記操作量および前記状態分布の組からなる解候補ごとに、予め設定された複数の目的関数に基づいて当該解候補を評価することにより、これら解候補のうちから前記目的関数に関するパレート解をそれぞれ特定するパレート解特定部と、前記目的関数により計算した前記各パレート解の評価値に基づいて、前記各パレート解を、予め設定された複数の空調制御モードにそれぞれ分類するパレート解分類部と、前記パレート解ごとに、当該パレート解に関する前記操作量または/および前記状態分布に基づいて、空調制御内容の類似性を評価するための1つまたは複数種類の指標を計算する指標計算部と、前記パレート解ごとに、当該パレート解に関する前記指標からなる候補指標と、前記パレート解のうちから基準として選択した基準パレート解に関する前記指標からなる基準指標との差分に基づいて、当該基準パレート解に対する当該パレート解の類似度を計算する類似度計算部と、前記空調空間に適用する空調制御モードを新たな空調制御モードに変更する際、当該新たな空調制御モードに属する前記パレート解のうち、前記基準パレート解に対する前記類似度が最も小さいパレート解に関する前記操作量を、前記空調システムに対して指示する空調指示部とを備えている。
【0014】
また、上記空調制御装置にかかる一構成例は、前記指標計算部が、前記パレート解に関する前記指標を計算する際、当該パレート解に関する前記操作量に含まれる、前記空調空間へ供給する空調空気の給気温度、当該空調空気の総風量、または、前記空調空間の吹出口における吹出風量のうち、いずれか1つまたは複数の値を、前記指標として選択するようにしたものである。
【0015】
また、上記空調制御装置にかかる一構成例は、前記類似度計算部が、前記パレート解の類似度を計算する際、前記種類ごとに前記候補指標と前記基準指標との差分を求め、これら差分の絶対値に関する平均値、これら差分の絶対値に関する最大値、または、これら差分の二乗平均平方根、のうちのいずれか1つを、前記類似度として計算するようにしたものである。
【0016】
また、本発明にかかる空調制御方法は、空調機器を制御する空調システムに対して、当該空調機器での操作量を指示することにより、空調空間を任意の空調環境へ制御する空調制御装置で用いられる空調制御方法であって、分布系流動解析部が、異なる複数の前記操作量について分布系流動解析することにより、これら操作量で得られる前記空調環境を示す状態分布それぞれ推定する分布系流動解析ステップと、パレート解特定部が、前記操作量および前記状態分布の組からなる解候補ごとに、予め設定された複数の目的関数に基づいて当該解候補を評価することにより、これら解候補のうちから前記目的関数に関するパレート解をそれぞれ特定するパレート解特定ステップと、パレート解分類部が、前記目的関数により計算した前記各パレート解の評価値に基づいて、前記各パレート解を、予め設定された複数の空調制御モードにそれぞれ分類するパレート解分類ステップと、指標計算部が、前記パレート解ごとに、当該パレート解に関する前記操作量または/および前記状態分布に基づいて、空調制御内容の類似性を評価するための1つまたは複数種類の指標を計算する指標計算ステップと、類似度計算部が、前記パレート解ごとに、当該パレート解に関する前記指標からなる候補指標と、前記パレート解のうちから基準として選択した基準パレート解に関する前記指標からなる基準指標との差分に基づいて、当該基準パレート解に対する当該パレート解の類似度を計算する類似度計算ステップと、空調指示部が、前記空調空間に適用する空調制御モードを新たな空調制御モードに変更する際、当該新たな空調制御モードに属する前記パレート解のうち、前記基準パレート解に対する前記類似度が最も小さいパレート解に関する前記操作量を、前記空調システムに対して指示する空調指示ステップとを備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パレート解を再選択する場合、目的に関する新たな実現程度に近しいパレート解のうちから、元の基準パレート解による空調制御内容と最も類似性の高いパレート解が、新たなパレート解として選択される。したがって、このような新たなパレート解に基づき空調環境を制御することにより、空調制御に対する空調空間の管理者や利用者の目的に沿った空調制御を実現できるとともに、空調空間の利用者に対して、不快感や違和感を与えることなく、効率よくスムーズに空調環境を遷移させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】空調制御装置の構成を示すブロック図である。
図2】空調制御装置での空調制御処理を示すフロー図である。
図3】パレート解の分類例を示す説明図である。
図4】空調制御処理を示すフローチャートである。
図5】パレート解を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[発明の原理]
分布系流動解析手法の順解析を利用して、想定した操作量のそれぞれについて、当該操作量を用いて空調空間を制御した場合に得られる空調環境を推定し、得られた操作量と空調環境との組からなる解のうちから、空調制御の各目的に沿ってパレート解を特定すれば、前述の図5に示したように、これら目的の実現程度についてバランスを考慮した解を得ることができる。したがって、これらパレート解のいずれかを選択して、そのパレート解に含まれる操作量で空調システムを制御すれば、管理者の運用指針や、利用者の意図など、空調制御に対する複数の目的についてバランスを考慮した空調環境を容易に実現することができる。
【0020】
しかしながら、これらパレート解は、前述したように、それぞれの目的の実現程度が近しいパレート解であっても、それぞれのパレート解が示す操作量が大きく異なる場合がある。このため、パレート解の分布位置と操作量の値とには関係性がないことになる。
また、操作量が大きく異なる場合、前述したように、元の操作量から新たな操作量へ移行させるのに時間を要する場合があり、空調環境をスムーズに効率よく遷移させることができない。また、このような操作量の大きな違いは、空調空間の利用者に対して違和感を与える原因にもなる。
【0021】
本発明は、このようなパレート解間における操作量の違いを、空調制御における知識に基づいた指標により、定量的かつ総合的に分析することが可能であることに着目したものである。
具体的には、遷移前の空調環境を実現するのに用いた基準パレート解と、遷移後の空調環境を実現するのに用いる新たなパレート解とについて、予め設定された1つまたは複数種類の指標をそれぞれ計算し、これら指標の差分をそれぞれ統合することにより、これら2つのパレート解の類似度を計算し、これら類似度に基づいて、指定された空調制御に対する目的の実現程度に近しいパレート解であって、かつ、基準パレート解と類似度が最も高いパレート解を、新たなパレート解として選択するようにしたものである。
【0022】
次に、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
[本実施の形態の構成]
まず、図1を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10について説明する。図1は、空調制御装置の構成を示すブロック図である。
この空調制御装置10は、全体として、パーソナルコンピュータやサーバ装置などの情報処理装置からなり、空調システム20を制御することにより、空調空間50を所望の空調環境に制御する機能を有している。
【0023】
空調システム20には、主な構成として、空調処理装置21および空調機器22が設けられている。
空調処理装置21は、全体として、パーソナルコンピュータやサーバ装置などの情報処理装置からなり、通信回線Lを介して空調制御装置10から指示された操作量に基づいて、空調機器22により各吹出口から空調空間50へ吹き出す調和空気を制御することにより、空調空間50全体の空調環境を制御する機能とを有している。
【0024】
空調制御装置10には、主な機能部として、通信I/F部11、操作入力部12、画面表示部13、記憶部14、および演算処理部15が設けられている。
通信I/F部11は、専用のデータ通信回路からなり、通信回線Lを介して接続された空調システム20などの外部装置との間でデータ通信を行う機能を有している。
操作入力部12は、キーボードやマウスなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出して演算処理部15へ出力する機能を有している。
画面表示部13は、LCDやPDPなどの画面表示装置からなり、演算処理部15からの指示に応じて、操作メニューや入出力データなどの各種情報を画面表示する機能を有している。
【0025】
記憶部14は、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置からなり、演算処理部15で用いる各種処理情報やプログラム14Pを記憶する機能を有している。
プログラム14Pは、演算処理部15に読み出されて実行されるプログラムであり、予め外部装置や記録媒体から通信I/F部11を介して記憶部14へ格納される。
【0026】
演算処理部15は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部14からプログラム14Pを読み込んで実行することにより、各種処理部を実現する機能を有している。図2は、空調制御装置での空調制御処理を示すフロー図である。
【0027】
演算処理部15で実現される主な処理部として、分布系流動解析部15A、パレート解特定部15B、パレート解分類部15C、指標計算部15D、類似度計算部15E、および空調指示部15Fがある。
【0028】
分布系流動解析部15Aは、操作量データ14Mに基づいて、空調機器22に対する操作量が取りうる範囲のうちから異なる操作量を選択する機能と、空間データ14Sに基づいて、選択した操作量を分布系流動解析することにより、これら操作量で得られる前記空調環境を示す状態分布をそれぞれ推定する機能と、これら操作量および状態分布の組を解候補データ14Aとして出力する機能とを有している。
【0029】
分布系流動解析手法とは、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)を基本として、境界条件から空間の温度や気流等の分布を数値計算によって求める技術である。一般的なCFDでは、対象空間を網目状の小空間に分割し、隣接する小空間間における熱流を解析する。分布系流動解析部15Aは、この分布系流動解析手法を用いて空調空間50を熱流動解析処理する機能を有しており、空調空間50に関する操作量データ14Mおよび空間データ14Sから、空調空間50内の温度分布や気流分布などの状態分布を推定する。この熱流動解析処理で実行する実際のCFD順解析処理については、非特許文献1などの公知技術を用いればよい。
【0030】
操作量データ14Mは、例えば空調空間50に設けられた各吹出口から送風される調和空気の吹出風量や吹出温度、さらには空調機における調和空気の総風量や温度など、空調システム20における調和空気の制御状況を示すデータが含まれている。
空間データ14Sは、空調空間50に関する位置および形状や、空調システム20で生成された調和空気の吹出口など、空調空間50の空調環境に影響を与える構成要素に関する位置および形状を示す空間条件データ、空調空間50に配置された各発熱体に関する配置位置および発熱量、さらには形状を示す発熱体データなど、熱流動解析処理を行う際の設定条件となる各種データが含まれている。
【0031】
パレート解特定部15Bは、分布系流動解析部15Aで得られた操作量と状態分布の組からなる解候補データ14Aごとに、予め設定された複数の目的関数に基づいて当該解候補を評価する機能と、これら目的関数で得られた各解候補の評価値に基づいて、これら解候補のうちからこれら目的関数に関するパレート解を特定する機能と、特定したパレート解に関する操作量と状態分布の組からなるパレート解データ14Bを出力する機能とを有している。
【0032】
パレート解とは、1つの目的関数値を改善する為には少なくとも他の1つ以上の目的関数値を改悪せざるを得ない解、つまり妥協解のことである。すなわち、パレート解は、ある条件において、他の解と比べて高い評価が得られる解である。
目的関数としては、各種の空調環境を実現するための操作量や、当該空調環境を示す状態分布に基づいて、当該解の省エネルギー性や快適性など、空調制御を評価するための公知の関数を用いればよい。例えば、省エネルギー性については、パレート解で得られる空調環境へ遷移する際に必要となるエネルギー量を示す熱量から求めてもよく、快適性については、空調空間50内における執務者の快適性指標PMVを用いてもよい。
【0033】
パレート解分類部15Cは、目的関数で得られた各パレート解の評価値に基づいて、パレート解データ14B内の各パレート解を、予め設定された複数の空調制御モードにそれぞれ分類する機能と、これらパレート解と空調制御モードとの対応関係を示す分類データ14Cを出力する機能とを有している。
【0034】
空調制御モードは、空調空間50の空調制御に対する各目的の実現程度、すなわち評価値に基づき予め分類して設けた、空調システム20の動作モードである。例えば、空調制御に対する目的が省エネルギー性と快適性からなり、省エネルギー性重視から快適性重視までを5段階に分ける場合、超省エネモード、省エネモード、ふつうモード、快適モード、超快適モードの5つの空調制御モードを設定すればよい。利用者は、これら空調制御モードのいずれかを選択操作することにより、空調システム20を容易に制御することができる。
【0035】
図3は、パレート解の分類例を示す説明図である。ここでは、省エネルギー性と快適性というトレードオフの関係にある2つの空調制御目的が選択されており、各パレート解が、これら指標のバランスを考慮した解であることがわかる。図中、小さい点がパレート解以外の一般解である。
これらパレート解は、前述した5つの空調制御モード、すなわち超省エネモード、省エネモード、ふつうモード、快適モード、超快適モードごとに、グループ51〜55の5つに分類されている。これらグループ51〜55は、空調空間50に取り付けられたリモコンパネル12Aのモード選択ボタン12B、すなわち「超省エネモード」、「省エネモード」、「ふつうモード」、「快適モード」、「超快適モード」に対応しており、これらモード選択ボタン12Bのいずれかが操作されることにより、空調制御モードが変更される。
【0036】
指標計算部15Dは、パレート解データ14B内のパレート解ごとに、当該パレート解に関する、操作量または/および状態分布に基づいて、空調制御内容の類似性を評価するための1つまたは複数種類の指標を計算する機能と、パレート解に関する各指標値を示す指標データ14Dを出力する機能とを有している。
この指標としては、給気温度、総風量、吹出風量などがある。これら指標は、いずれについても、その変化幅が大きくなるに連れて、空調制御の違いが大きく異なり、空調制御内容の類似性が小さくなる傾向を有している。これら指標については、空調制御に対する目的、遷移前や遷移後の空調制御モード、あるいは指示操作に応じて、指標計算部15Dが、複数の指標種類のうちから任意に選択するようにしてもよい。
【0037】
給気温度は、空調空間50へ供給される空調空気の温度を用いればよく、総風量は、空調空間50へ供給される空調空気の総風量を用いればよい。また、吹出風量は、空調空間50に設けられた各吹出口における空調空気の風量を用いればよい。
外気など、空調機に取り入れられた空気は、空調機での熱交換により温度調整された後、ファンからダクトを介して空調空間50の吹出口まで送風されて、吹出口に設置されたVAV(Variable Air Volume:可変定風量装置)のファンから空調空間50内へ供給される。
【0038】
この際、空調機での熱交換は、ある程度の時定数を有しており、給気温度の変化幅が大きいほど、遷移所要時間も長くなる。空調機に設けられているファンも時定数を有しており、回数の変化幅が大きいほど、総風量の変化も遅れる。また、VAVに設けられているファンも時定数を有しており、回数の変化幅が大きいほど、吹出風量の変化も遅れる。
【0039】
類似度計算部15Eは、指標データ14Dに含まれる各パレート解の指標値を正規化する機能と、パレート解ごとに、当該パレート解に関する候補指標と、パレート解のうちから基準として選択した基準パレート解に関する基準指標とに基づいて、当該基準パレート解に対する当該パレート解の類似度を計算する機能と、各パレート解の類似度を示す類似度データ14Eを出力する機能とを有している。
【0040】
正規化については、指標種類ごとに、当該指標の最小値から最大値までの範囲が0〜1となるよう、各指標値を補正すればよい。この際、指標種類間で、類似度計算時に考慮する度合いが違う場合、指標種類ごとに予め設定された重みに基づき、重み付けをしてもよい。
基準パレート解は、遷移前の空調環境に対応するパレート解であり、パレート解の再選択時の場合、それまで選択されていたパレート解に相当し、これ以外のパレート解が変遷先を示す候補となる。
【0041】
類似度は、基準パレート解の基準指標と候補となる1つのパレート解の候補指標とについて、指標種類ごとに基準指標と候補指標との差分求め、これら差分を統計処理して得られた代表値を用いればよい。ここでは、具体例として、3つの類似度計算方法について説明する。
【0042】
1つ目の類似度計算方法は、基準指標と候補指標との差分の絶対値について平均値を求める方法である。基準パレート解をYsとし、候補となるパレート解をYiとし、指標種類の数をN個とし、Ysのうち指標種類nの指標値をXsnとし、Yiのうち指標種類nの指標値をXinとした場合、Ysに対するYiの類似度Riは、次の式(1)により求められる。
【数1】
【0043】
2つ目の類似度計算方法は、基準指標と候補指標との差分の絶対値の最大値を求める方法である。複数の要素から最大値を選択する関数をmax()とした場合、Ysに対するYiの類似度Riは、次の式(2)により求められる。
【数2】
2つ目の類似度計算方法は、基準指標と候補指標との差分の二乗平均平方根を求める方法である。Ysに対するYiの類似度Riは、次の式(3)により求められる。
【数3】
【0044】
空調指示部15Fは、空調空間50に適用する空調制御モードを新たな空調制御モードに変更する際、分類データ14Cと類似度データ14Eとに基づいて、新たな空調制御モードに属するパレート解のうち、基準パレート解に対する類似度が最も小さいパレート解を選択する機能と、選択したパレート解に関する操作量を空調システム20に対して指示する機能を有している。
【0045】
[本実施の形態の動作]
次に、図2および図4を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の動作について説明する。図4は、空調制御処理を示すフローチャートである。
空調制御装置10の演算処理部15は、起動時あるいはオペレータ操作に応じて、図4の空調制御処理を開始する。なお、空調制御処理の実行開始に先立って、パレート解データ14Bおよび分類データ14Cがすでに記憶部14に格納されているものとする。
【0046】
まず、指標計算部15Dは、記憶部14から読み出したパレート解データ14Bに含まれるパレート解Yiごとに、当該パレート解に関する、操作量または/および状態分布に基づいて、N種類の指標Xinを計算し、指標データ14Dとして出力する(ステップ100)。
【0047】
続いて、類似度計算部15Eは、指標計算部15Dから出力された指標データ14Dに含まれる各パレート解Yiの指標Xinを正規化し(ステップ101)、パレート解Yiごとに、基準パレート解Ysに対する当該パレート解Yiの類似度Riを計算し、類似度データ14Eとして記憶部14に格納する(ステップ102)。
【0048】
この後、空調指示部15Fは、操作入力部12からの指示に応じて、空調空間50に適用する空調制御モードを新たな空調制御モードに変更する際、記憶部14から読み出した分類データ14Cと類似度データ14Eとに基づいて、新たな空調制御モードに属するパレート解Yiのうち、基準パレート解Ysに対する類似度が最も小さいパレート解Yiを選択し(ステップ103)、選択したパレート解Yiに関する操作量を空調システム20に対して指示し(ステップ104)、一連の空調制御処理を終了する。
【0049】
したがって、例えば前述した図3において、空調環境の遷移前において、空調制御モードとして「ふつう」が選択されており、これに対応するグループ53のうちからパレート解Pが選択されている状態において、新たな空調制御モードとして「省エネ」が選択された場合、これに対応するグループ52のうちから、パレート解Pとの分布位置に関係なく、空調制御内容の類似性が最も高いパレート解Qが選択されることになる。
【0050】
[本実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、指標計算部15Dが、パレート解ごとに、当該パレート解に関する操作量または/および状態分布に基づいて、空調制御内容の類似性を評価するための1つまたは複数種類の指標を計算し、類似度計算部15Eが、パレート解ごとに、当該パレート解に関する指標と、パレート解のうちから基準として選択した基準パレート解に関する指標とに基づいて、当該基準パレート解に対する当該パレート解の類似度を計算し、空調指示部15Fが、空調空間50に適用する空調制御モードを新たな空調制御モードに変更する際、当該新たな空調制御モードに属するパレート解のうち、基準パレート解に対する類似度が最も小さいパレート解に関する操作量を、空調システム20に対して指示するようにしたものである。
【0051】
これにより、パレート解を再選択する場合、目的に関する新たな実現程度に近しいパレート解のうちから、元の基準パレート解による空調制御内容と最も類似性が高い、新たなパレート解として選択される。
したがって、このような新たなパレート解に基づき空調環境を制御することにより、空調制御に対する空調空間の管理者や利用者の目的に沿った空調制御を実現できるとともに、空調空間の利用者に対して、不快感や違和感を与えることなく、効率よくスムーズに空調環境を遷移させることができる。
【0052】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0053】
10…空調制御装置、11…通信I/F部、12…操作入力部、13…画面表示部、14…記憶部、14A…解候補データ、14B…パレート解データ、14C…分類データ、14D…指標データ、14E…類似度データ、14M…操作量データ、14S…空間データ、14P…プログラム、15A…分布系流動解析部、15B…パレート解特定部、15C…パレート解分類部、15D…指標計算部、15E…類似度計算部、15F…空調指示部、20…空調システム、21…空調処理装置、22…空調機器、50…空調空間。
図1
図2
図3
図4
図5