【実施例1】
【0013】
図1は本発明の斜板式液圧回転機械の第1の実施の形態を一部断面にて示す側面図である。
図1において、斜板式液圧回転機械1は、フロントケーシング2とリアケーシング3とから構成されるケーシングと、ケーシング内に、回転自在に支持された回転軸4と、回転軸4の外周に連結され、回転軸4と一体に回転するシリンダブロック5とを備えている。シリンダブロック5の周方向には、複数のシリンダ6が回転軸4の軸線方向と平行に円筒状に形成されている。各シリンダ6内には、ピストン8が往復摺動自在に嵌挿されている。ここで、ピストン8は、シリンダブロック5が一回転する間にシリンダ6内を往復動する。
【0014】
これらの各ピストン8の端部には、シュー9が後述する球面継手により揺動可能にそれぞれ連設されている。各シュー9はピストン8によって斜板10の表面に押し付けられ、シリンダブロック5の回転に伴って斜板10の表面上を環状の軌跡を描くように摺動する。
【0015】
斜板10は、シリンダブロック5と対向してフロントケーシング2内に配置されていて、シリンダブロック5と対向する面は、回転軸4の軸中心に対して傾斜していて、この面上を各シュー9が摺動する。
【0016】
リテーナ11は、各シュー9と各ピストン8の端部との間に位置して回転軸4に挿通した環状の板体であって、中心部に形成された軸挿通孔の内周面に当接するリテーナガイド12により各シュー9を斜板10の表面の当接させ、その状態を保持するものである。
【0017】
リテーナガイド12は、リテーナ11とシリンダブロック5との間に位置して、リテーナ11の内周面に当接する外周面を備えている。この外周面によって、リテーナ11を斜板10に向けて押圧する。
【0018】
リアケーシング3には、シリンダブロック5の底部が摺接する弁板7が固定されている。この弁板7には図示しない吸い込みポートと吐き出しポートとが形成されている。各シリンダ6は、弁板7に開口するポートを介して、図示しない吸込通路または吐出通路と選択的に連通するようになっている。
【0019】
本実施の形態における斜板式液圧回転機械1は、回転軸4を図示しない原動機にて回転駆動した場合には、吸い込みポートからシリンダ6に供給された作動油がピストン8にて圧縮されて、吐き出しポートから吐出され、油圧ポンプとして機能する。また、吸い込みポートからシリンダ6内に圧油を供給した場合には、圧油の圧力によってピストン8が駆動され、それに伴って回転軸4及びシリンダブロック5が回転駆動されるので、油圧モータとして機能する。
【0020】
次に、本実施の形態におけるピストンとシューの構成を
図2を用いて説明する。
図2は本発明の斜板式液圧回転機械の第1の実施の形態を構成するピストンとシューを示す縦断面図である。
図2において、
図1に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0021】
図2に示すように、ピストン8は、最大外径の寸法をrとする軸方向中空の円筒部材であって、軸方向に中空部の径の寸法r1で設けた通油孔8bと、一端側に形成されたシュー9の凸球面継手9aに嵌め合わせる凹球面継手8aと、他端側に形成された開口部8cとを備えている。
【0022】
シュー9は、ピストン8の凹球面継手8aに嵌め合わせる凸球面継手9aが形成されている継手部91と、この継手部91の端部に配設され、軸心から周方向に拡径するフランジ状の円板部92と、この円板部92の端面部に平面状に形成された底面部93とを備えている。
【0023】
シュー9の底面部93の中央部には、凹状の静圧ポケット13が設けられている。静圧ポケット13と円形の底面部93の外周との間には、斜板10の表面と摺動するパッド部14が形成されている。
【0024】
シュー9の円板部92の軸心部と継手部91の軸心部には、ピストン8の通油孔8bから静圧ポケット13へ圧油を供給する第1絞り9bと,内部空洞部9cと,第2絞り9dとが設けられている。内部空洞部9cは、シュー9の継手部91の軸心の軸方向に径の寸法r2で設けられた油路であり、第1絞り9bは、内部空洞部9cの径の寸法より小さい径で形成した油路で、ピストン8の通油孔8bと内部空洞部9cとを連通させるものである。第2絞り9dは、シュー9の円板部92の軸心部に設けられ、内部空洞部9cの径の寸法より小さい径で形成した油路で、内部空洞部9cと静圧ポケット13とを連通させるものである。
【0025】
図2に示すように、ピストン8の凹球面継手8aの最大径とシュー9の凸球面継手9aの最大径は、ピストン8の最大外径の寸法rより小さい。このため、シュー9の内部空洞部9cの径の寸法r2よりも、ピストン8の通油孔8bの径の寸法r1を大きく形成することができる。この結果、ピストン8を軽量化することができ、斜板式液圧回転機械1の効率の向上に寄与する。
【0026】
この構成により、ピストン8の通油孔8bと、シュー9の第1絞り9bと、内部空洞部9cと、第2絞り9dとを介して供給された潤滑油の圧力が、静圧ポケット13に伝わり、ピストンからの押し付け力とバランスする。このことにより、ピストン8の通油孔8bに供給された潤滑油の圧力変動は、2重に設けられた第1絞り9b及び第2絞り9dと、内部空洞部9cとにより緩和されるので、静圧ポケット13にその圧力変動が伝わりにくい構造となっている。
【0027】
また、シュー9の内部に2重の絞りを設けて静圧ポケット13と連通する油路を設けたので、球面継手部8a,9aの隙間から流体の流出があっても、吸入、吐出行程の切替時に発生する流体圧の衝撃的な変化および、それに誘起される流体圧の変動を緩和することができる。
【0028】
次に、本実施の形態の製作方法を
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は
図2に示す本発明の斜板式液圧回転機械の第1の実施の形態を構成するピストンとシューの製作方法の一例を示す縦断面図、
図4は
図2に示す本発明の斜板式液圧回転機械の第1の実施の形態を構成するピストンとシューの製作方法の他の例を示す縦断面図である。
図3及び
図4において、
図1又は
図2に示す符号と同符号のものは同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
【0029】
図3において、破線部は、継手部91と円板部92との溶接部15を示している。シュー9の製作方法の一例としては、まず、球体状の継手部91を単独で作成し、軸心方向の両端部に開口を有する油路状態の内部空洞部9cを内側に設ける。ピストン8の通油口8bと連通する側の開口部には、内部空洞部9cの径方向長さより縮径した油路となるように第1絞り9bを設ける。
【0030】
次に、シューの円板部92において、底面部93の中央部に油室状の静圧ポケット13と、その外周にパッド部14とを形成し、円板部92の軸心部に内部空洞部9cの径方向長さより縮径した油路であって、静圧ポケット13と溶接部15とを連通させる第2絞り9dを設ける。
【0031】
次に、継手部91の軸心と円板部92の軸心とが一致するように配設して、溶接部15を溶接することで両者を接合する。なお、継手部91の製作時に、内部空洞部9cのみを作成し、継手部91と円板部92との接合の後に、第1絞り9bを設けても良い。
【0032】
次に、シュー9の製作方法の他の例としては、
図4に示すように、円板部92と継手部91とを一体的に製作する。この際、内部空洞部9cは、継手部91の軸心方向に同一径の油路として形成され、ピストン8の通油口8bと連通する開口部の径は軸心方向の内部の径と等しい。次に、第1絞り9bとなる円筒部材16を製作する。具体的には、シュー9とは別部材であって、円筒外径を内部空洞部9cの径と略等しい円筒外径と、第1絞りが必要とする径の円筒内径を備えたものとする。次に、この円筒部材16を内部空洞部9cのピストン8の通油口8bと連通する開口部に圧入またはねじ込みにより接合する。
【0033】
なお、本実施の形態においては、第1絞り9bを別部材の円筒部材16で形成した例を説明したが、これに限るものではない。第2絞り9dを別部材の円筒部材16で形成しても良い。
【0034】
上述した本発明の斜板式液圧回転機械の第1の実施の形態によれば、シュー9の内部に2重の絞り9b,9dを設けて静圧ポケット13と連通する内部空洞部9cを設けたので、球面継手部8a,9aの隙間から流体の流出があっても、吸入、吐出行程の切替時に発生する流体圧の衝撃的な変化および、それに誘起される流体圧の変動を緩和することができる。このことにより、高圧高回転の運用において、シュー9と斜板10との摺動面のバランスの崩れを防止し、機械自体の振動を減少させ、騒音を低下させることのできる斜板式液圧回転機械1を提供できる。
【0035】
さらに、シュー9の内部を空洞化することで、従来よりも軽量化が可能であり、より高効率な斜板式液圧回転機械1を提供することが可能となる。
【実施例2】
【0036】
以下、本発明の斜板式液圧回転機械の第2の実施の形態を図面を用いて説明する。
図5は本発明の斜板式液圧回転機械の第2の実施の形態を構成するピストンとシューを示す縦断面図である。
本発明の斜板式液圧回転機械の第2の実施の形態において、シュー9とピストン8の構成は、大略第1の実施の形態と同じであるが、第1絞り9b及び第2絞り9dの形態が異なる。第1の実施の形態と異なる点について以下に説明する。
【0037】
図5に示すように、シュー9の円板部92の軸心部と継手部91の軸心部には、ピストン8の通油孔8bから静圧ポケット13へ圧油を供給する軸方向同一径の油路が形成されている。この油路には、ピストン8の通油孔8b側の開口部側に中心部に絞り孔を設けた円板状の第1絞り9bが設けられ、静圧ポケット13側の開口部側に中心部に絞り孔を設けた円板状の第2絞り9dが設けられている。この油路において、第1絞り9bと第2絞り9dとの間の油路を内部空洞部9cと定義する。
【0038】
この構成により、ピストン8の通油孔8bと、シュー9の第1絞り9bと、内部空洞部9cと、第2絞り9dとを介して供給された潤滑油の圧力が、静圧ポケット13に伝わり、ピストンからの押し付け力とバランスし、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0039】
上述した本発明の斜板式液圧回転機械の第2の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【実施例3】
【0040】
以下、本発明の斜板式液圧回転機械の第3の実施の形態を図面を用いて説明する。
図6は本発明の斜板式液圧回転機械の第3の実施の形態を構成するピストンとシューを示す縦断面図である。
本発明の斜板式液圧回転機械の第3の実施の形態においては、ピストンとシューとの組合せにおいて、第1絞りと内部空洞部と第2絞りとを備えることは、第1の実施の形態と同じであるが、これらを形成する部位の形態が異なる。第1の実施の形態と異なる点について以下に説明する。
【0041】
図6に示すように、ピストン18は、最大外径の寸法をrとする中空の円筒部材からなる円筒部81と円筒部81の端部に接合する凸状の継手部82とを備えている。円筒部81は、一端側に形成された開口部18cと、開口部18cと連通して軸方向に中空部の径の寸法r1で設けた通油孔18bとを備え、円筒部81の他端側に継手部82が接合されている。継手部82は、シュー19の凹球面継手19aに嵌め合わせる凸球面継手18aを備えている。
【0042】
シュー19は、ピストン18の凸球面継手18aに嵌め合わせる凹球面継手19aが形成されている継手部91と、この継手部91の端部に配設され、軸心から周方向に拡径するフランジ状の円板部92と、この円板部92の端面部に平面状に形成された底面部93とを備えている。
【0043】
凸球面継手18aの軸心部には、ピストン18の通油孔18bから静圧ポケット13へ圧油を供給する第1絞り18dと,内部空洞部18eと,第2絞り18fとが設けられている。シュー19の円板部92の軸心部には、静圧ポケット13と第2絞り18fとを連通する絞り油路19bが設けられている。内部空洞部18eは、ピストン18の継手部82の軸心の軸方向に径の寸法r2で設けられた油路であり、第1絞り18dは、内部空洞部18eの径の寸法より小さい径で形成した油路で、ピストン18の通油孔18bと内部空洞部18eとを連通させるものである。第2絞り18fは、内部空洞部18eの径の寸法より小さい径で形成した油路で、内部空洞部18eと円板部92の絞り油路19bとを連通させ得るものである。
【0044】
図6に示すように、ピストン18の凸球面継手18aの最大径は、ピストン18の最大外径の寸法rより小さい。このため、ピストン18の内部空洞部18eの径の寸法r2よりも、ピストン18の通油孔18bの径の寸法r1を大きく形成することができる。この結果、ピストン18を軽量化することができ、斜板式液圧回転機械1の効率の向上に寄与する。
【0045】
この構成により、ピストン18の通油孔18bと、第1絞り18dと、内部空洞部18eと、第2絞り18fとを介して供給された潤滑油の圧力が、静圧ポケット13に伝わり、ピストンからの押し付け力とバランスし、第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【0046】
上述した本発明の斜板式液圧回転機械の第3の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様の効果を奏する。
【実施例4】
【0047】
以下、本発明の斜板式液圧回転機械の第4の実施の形態を図面を用いて説明する。
図7は本発明の斜板式液圧回転機械の第4の実施の形態を構成するピストンとシューを示す縦断面図である。
本発明の斜板式液圧回転機械の第4の実施の形態においては、ピストンとシューとの組合せにおいて、第1絞りと内部空洞部と第2絞りとを備えることは、第1の実施の形態と同じであるが、内部空洞部の形態が異なる。第1の実施の形態と異なる点について以下に説明する。
【0048】
図7に示すように、シュー9の内部空洞部9cは、軸方向断面が円の中空管状に形成されている。本実施の形態においては、この中空管状の内部の径方向外側部に、例えばゴムや発泡ウレタン等からなる弾性部材17を装着している。この結果、例えば、圧油が内部空洞部9cに流入し高い圧力を受けた場合、内部空洞部9cの容積を変化させることが可能となる。この容積変化により、圧油の圧力変動をさらに緩和することができるので、より大きな圧力変動の低減効果が期待できる。
【0049】
上述した本発明の斜板式液圧回転機械の第3の実施の形態によれば、上述した第1の実施の形態と同様の効果を奏する。