(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6011714
(24)【登録日】2016年9月30日
(45)【発行日】2016年10月19日
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
F02D 41/34 20060101AFI20161006BHJP
F02D 41/02 20060101ALI20161006BHJP
F02D 41/20 20060101ALI20161006BHJP
F02D 41/12 20060101ALI20161006BHJP
F02D 41/10 20060101ALI20161006BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20161006BHJP
F02M 63/00 20060101ALI20161006BHJP
F02P 5/15 20060101ALI20161006BHJP
【FI】
F02D41/34 C
F02D41/02 330A
F02D41/02 330F
F02D41/20 305
F02D41/12 305
F02D41/10 305
F02D43/00 301B
F02D43/00 301H
F02M63/00 P
F02P5/15 B
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-506618(P2015-506618)
(86)(22)【出願日】2014年1月10日
(86)【国際出願番号】JP2014050289
(87)【国際公開番号】WO2014148067
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年3月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-57493(P2013-57493)
(32)【優先日】2013年3月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】間野 忠樹
(72)【発明者】
【氏名】小野田 尚徳
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英二
【審査官】
有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−351011(JP,A)
【文献】
特開平06−193496(JP,A)
【文献】
特開2006−336621(JP,A)
【文献】
特開2005−220887(JP,A)
【文献】
特開2012−202373(JP,A)
【文献】
特開2009−191662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00─41/40
F02D 43/00─45/00
F02M 39/00─71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁と、を備え、一方の燃料噴射弁を主燃料噴射弁とし、他方を特定の機関運転条件で補助的に動作する副燃料噴射弁とし、機関運転条件に応じて上記副燃料噴射弁の噴射・停止の切換を行う内燃機関の制御装置において、
上記主燃料噴射弁のみでの燃料噴射と上記主燃料噴射弁と上記副燃料噴射弁との双方での燃料噴射を切り換えるべく行う上記副燃料噴射弁の噴射・停止の切換を、上記主燃料噴射弁の燃料噴射量による空燃比が理論空燃比よりも濃い条件下で行う、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
内燃機関の負荷と回転速度とをパラメータとした運転領域について、内燃機関の目標空燃比が理論空燃比よりも濃い出力空燃比である運転領域と目標空燃比が理論空燃比である運転領域との境界よりも高速高負荷側において上記副燃料噴射弁の噴射・停止の切換を行う、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
上記副燃料噴射弁の噴射・停止の切換が要求されたときに、上記主燃料噴射弁の燃料噴射量の増量によって空燃比を理論空燃比よりも濃くする、請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
上記の燃料噴射量の増量とともに点火時期のリタードを行う、請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
上記主燃料噴射弁は、運転領域の全域で燃料噴射を行う、請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁と、を備え、一方の燃料噴射弁を主燃料噴射弁とし、他方を特定の機関運転条件で補助的に動作する副燃料噴射弁とし、機関運転条件に応じて上記副燃料噴射弁の噴射・停止の切換を行う内燃機関の制御方法において、
上記主燃料噴射弁のみでの燃料噴射と上記主燃料噴射弁と上記副燃料噴射弁との双方での燃料噴射を切り換えるべく行う上記副燃料噴射弁の噴射・停止の切換を、上記主燃料噴射弁の燃料噴射量による空燃比が理論空燃比よりも濃い条件下で行う、内燃機関の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁と、を備え、機関運転条件に応じて一方の燃料噴射弁の噴射・停止の切換を行う内燃機関の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁と燃焼室内に直接に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁とを備え、機関運転条件に応じて適宜に切り換えて使用する燃料噴射装置を備えた内燃機関が、特許文献1に記載されている。この特許文献1では、機関の負荷と回転速度とから定まる運転領域を、低速低負荷側の成層リーン燃焼領域と、中速中負荷の均質リーン燃焼領域と、高速高負荷側の均質ストイキ燃焼領域と、の3つに区分し、成層リーン燃焼領域では筒内噴射用燃料噴射弁を用いた筒内噴射を行い、均質リーン燃焼領域ではポート噴射用燃料噴射弁を用いた吸気ポート噴射を行い、均質ストイキ燃焼領域では、双方の燃料噴射弁を用いた燃料噴射を行う。
【0003】
ここで、特許文献1は、吸気ポート噴射と筒内噴射との燃料噴射量の比率に応じて点火時期の補正を行う点火時期制御に関するものであり、噴射量比率の変更に伴う適正点火時期の変化量が所定量以上のときには、噴射量比率の変更の幅を制限する構成となっている。つまり、目標とする噴射量比率が例えば0%から100%に変化したような場合でも、実際の噴射量比率の変更が段階的に行われることとなる。
【0004】
上記のように、特許文献1の技術では、例えば一方の燃料噴射弁からの燃料噴射による運転中に、機関運転条件の変化に伴い、それまで停止状態にあった他方の燃料噴射弁の燃料噴射を開始する際に、噴射量比率が徐々に変化するように少量の燃料噴射から開始されることになる。しかし、駆動パルス信号に応答して開動作する燃料噴射弁には、駆動パルス信号でもって計量し得る最小燃料噴射量が定まっており、これよりも少量の燃料を噴射することはできない。
【0005】
従って、一方の燃料噴射弁の燃料噴射中に他方の燃料噴射弁の噴射を極少量から開始しようとしても、上記最小燃料噴射量に相当する燃料量がステップ的に増減することは回避できない。なお、吸気ポート噴射と筒内噴射とでは燃焼室までの燃料の輸送遅れに差があるため、上記の最小燃料噴射量のステップ的な増減を一方の燃料噴射弁の噴射量によって相殺することは極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−57594号公報
【発明の概要】
【0007】
この発明は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁と、燃焼室に燃料を噴射する筒内噴射用燃料噴射弁と、を備え、一方の燃料噴射弁を主燃料噴射弁とし、他方を特定の機関運転条件で補助的に動作する副燃料噴射弁とし、機関運転条件に応じて上記副燃料噴射弁の噴射・停止の切換を行う内燃機関の制御装置において、
上記主燃料噴射弁のみでの燃料噴射と上記主燃料噴射弁と上記副燃料噴射弁との双方での燃料噴射を切り換えるべく行う上記副燃料噴射弁の噴射・停止の切換を、上記主燃料噴射弁の燃料噴射量による空燃比が理論空燃比よりも濃い条件下で行う。
【0008】
例えば、主燃料噴射弁の燃料噴射による機関の運転中に副燃料噴射弁の噴射を開始するときに、主燃料噴射弁の燃料噴射量でもって空燃比が理論空燃比よりも濃くなっていると、副燃料噴射弁の噴射開始(例えば上述した最小燃料噴射量での噴射開始)により総燃料量が増加したとしても、トルクの増加は殆ど生じない。つまり、既に空燃比が過濃な状態では、発生するトルクは筒内の空気量に依存するので、総燃料量の増加により空燃比がさらにリッチとなり、気化熱によるいわゆる燃料冷却作用が増大するものの、トルクは殆ど増加しない。従って、運転者にトルク段差感を与えることがない。
【0009】
主燃料噴射弁と副燃料噴射弁の双方による燃料噴射を行っている状態から副燃料噴射弁の噴射を停止する場合も同様であり、主燃料噴射弁の燃料噴射量による空燃比(換言すれば副燃料噴射弁停止後の空燃比)が理論空燃比よりも濃い空燃比であれば、例えば副燃料噴射弁の最小燃料噴射量に相当する燃料量がステップ的に減少しても、トルクは殆ど減少しない。従って、運転者にトルク段差感を与えることがない。
【0010】
この発明によれば、副燃料噴射弁の噴射の開始もしくは停止の際のトルクの増減が抑制され、運転者に切換に伴うトルク段差感を与えることがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】この発明の一実施例に係る制御装置のシステム構成を示す構成説明図。
【
図2】実施例の内燃機関の運転領域におけるポート噴射用燃料噴射弁の噴射・停止の切換線を示す特性図。
【
図3】切換線を横切ることに伴う切換を説明するタイムチャート。
【
図4】理論空燃比領域におけるポート噴射用燃料噴射弁の切換要求に伴う切換を説明するタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1は、この発明が適用された自動車用内燃機関1のシステム構成を示している。この内燃機関1は、例えば複リンク式ピストンクランク機構を利用した可変圧縮比機構2を備えた4ストロークサイクルのターボ過給器付き火花点火内燃機関であって、燃焼室3の天井壁面に、一対の吸気弁4および一対の排気弁5が配置されているとともに、これらの吸気弁4および排気弁5に囲まれた中央部に点火プラグ6が配置されている。
【0014】
上記吸気弁4によって開閉される吸気ポート7の下方には、燃焼室3内に燃料を直接に噴射する筒内噴射用燃料噴射弁8が配置されている。また吸気ポート7には、該吸気ポート7内へ向けて燃料を噴射するポート噴射用燃料噴射弁41が配置されている。これらの筒内噴射用燃料噴射弁8およびポート噴射用燃料噴射弁41は、いずれも駆動パルス信号が印加されることによって開弁する電磁式ないし圧電式の噴射弁であって、駆動パルス信号のパルス幅に実質的に比例した量の燃料を噴射する。
【0015】
上記吸気ポート7に接続された吸気通路18のコレクタ部18a上流側には、エンジンコントローラ9からの制御信号によって開度が制御される電子制御型スロットルバルブ19が介装されており、さらにその上流側に、ターボ過給器のコンプレッサ20が配設されている。このコンプレッサ20の上流側に、吸入空気量を検出するエアフロメータ10が配設されている。
【0016】
また、排気ポート11に接続された排気通路12には、三元触媒からなる触媒装置13が介装されており、その上流側に、空燃比を検出する空燃比センサ14が配置されている。
【0017】
上記エンジンコントローラ9には、上記のエアフロメータ10、空燃比センサ14のほか、機関回転速度を検出するためのクランク角センサ15、冷却水温を検出する水温センサ16、運転者により操作されるアクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ17、等のセンサ類の検出信号が入力されている。エンジンコントローラ9は、これらの検出信号に基づき、燃料噴射弁8,41による燃料噴射量および噴射時期、点火プラグ6による点火時期、スロットルバルブ19の開度、等を最適に制御している。
【0018】
一方、可変圧縮比機構2は、公知の複リンク式ピストンクランク機構を利用したものであって、クランクシャフト21のクランクピン21aに回転自在に支持されたロアリンク22と、このロアリンク22の一端部のアッパピン23とピストン24のピストンピン24aとを互いに連結するアッパリンク25と、ロアリンク22の他端部のコントロールピン26に一端が連結されたコントロールリンク27と、このコントロールリンク27の他端を揺動可能に支持するコントロールシャフト28と、を主体として構成されている。上記クランクシャフト21および上記コントロールシャフト28は、シリンダブロック29下部のクランクケース内で図示せぬ軸受構造を介して回転自在に支持されている。上記コントロールシャフト28は、該コントロールシャフト28の回動に伴って位置が変化する偏心軸部28aを有し、上記コントロールリンク27の端部は、詳しくは、この偏心軸部28aに回転可能に嵌合している。上記の可変圧縮比機構2においては、コントロールシャフト28の回動に伴ってピストン24の上死点位置が上下に変位し、従って、機械的な圧縮比が変化する。
【0019】
また、上記可変圧縮比機構2の圧縮比を可変制御する駆動機構として、クランクシャフト21と平行な回転中心軸を有する電動モータ31がシリンダブロック29下部に配置されており、この電動モータ31と軸方向に直列に並ぶように減速機32が接続されている。この減速機32としては、減速比の大きな例えば波動歯車機構が用いられており、その減速機出力軸32aは、電動モータ31の出力軸(図示せず)と同軸上に位置している。従って、減速機出力軸32aとコントロールシャフト28とは互いに平行に位置しており、両者が連動して回動するように、減速機出力軸32aに固定された第1アーム33とコントロールシャフト28に固定された第2アーム34とが中間リンク35によって互いに連結されている。
【0020】
すなわち、電動モータ31が回転すると、減速機32により大きく減速された形で減速機出力軸32aの角度が変化する。この減速機出力軸32aの回動は第1アーム33から中間リンク35を介して第2アーム34へ伝達され、コントロールシャフト28が回動する。これにより、上述したように、内燃機関1の機械的な圧縮比が変化する。なお図示例では、第1アーム33および第2アーム34が互いに同方向に延びており、従って、例えば減速機出力軸32aが時計回り方向に回動するとコントロールシャフト28も時計回り方向に回動する関係となっているが、逆方向に回動するようにリンク機構を構成することも可能である。
【0021】
上記可変圧縮比機構2の目標圧縮比は、エンジンコントローラ9において、機関運転条件(例えば要求負荷と機関回転速度)に基づいて設定され、この目標圧縮比を実現するように上記電動モータ31が駆動制御される。
【0022】
なお、本発明においては、可変圧縮比機構2は必須のものではなく、固定圧縮比内燃機関であってもよい。
【0023】
図2は、上記内燃機関1の負荷と回転速度とをパラメータとして内燃機関1の運転領域を示しているが、図中に符号L1でもって示す線は、目標空燃比が理論空燃比である運転領域A1と、目標空燃比が理論空燃比よりも濃いいわゆる出力空燃比である高速高負荷側の運転領域A2と、の境界を示している。なお、理論空燃比領域A1では、基本的に、上記空燃比センサ14の検出信号に基づく公知の空燃比フィードバック制御によって理論空燃比を目標として燃料供給量が制御される。これに対し、出力空燃比領域A2は、基本的に、オープンループ制御によって燃料供給量が制御される。また、出力空燃比領域A2の中では、高速高負荷側ほど目標空燃比がリッチとなっている。
【0024】
ここで、本実施例では、筒内噴射用燃料噴射弁8が主燃料噴射弁として用いられており、運転領域A1,A2の双方を含む全域で筒内噴射用燃料噴射弁8が駆動される。これに対し、ポート噴射用燃料噴射弁41は、特定の運転条件のときに補助的に動作する副燃料噴射弁として位置づけられている。すなわち、理論空燃比領域A1では、基本的に、主燃料噴射弁である筒内噴射用燃料噴射弁8のみで必要な燃料の全量が噴射供給され、副燃料噴射弁であるポート噴射用燃料噴射弁41は、停止されている。しかし、単位時間当たりに必要な燃料量が大(換言すれば単位時間当たりの空気量が大)となる高速高負荷域では、筒内噴射用燃料噴射弁8のみでは必要な燃料量を供給することができず、ポート噴射用燃料噴射弁41による燃料供給が付加的に必要となる。
【0025】
図2に符号L2でもって示す線は、主燃料噴射弁である筒内噴射用燃料噴射弁8の最大噴射量に対応する運転条件を示しており、図示するように、理論空燃比領域A1の全域ならびに出力空燃比領域A2の中の低速低負荷側の一部領域を包含している。従って、これらの運転領域では、筒内噴射用燃料噴射弁8のみで必要な燃料量を賄うことができるが、この線L2よりも高速高負荷側では、筒内噴射用燃料噴射弁8のみでは燃料量が不十分となる。そのため、副燃料噴射弁であるポート噴射用燃料噴射弁41による付加的な燃料噴射が行われることとなるが、本実施例では、このポート噴射用燃料噴射弁41の噴射・停止の切換を行う境界が、切換線L3として示すように、上記の2つの境界線L1,L2の中間に設定されている。すなわち、切換線L3は、理論空燃比領域A1と出力空燃比領域A2との境界線L1よりも高速高負荷側(つまり出力空燃比領域A2内)にあり、かつ同時に、筒内噴射用燃料噴射弁8の最大噴射量に対して適当な余裕を与えるために最大噴射量相当境界線L2よりも低速低負荷側に設定されている。なお、実際の制御の上では、ポート噴射用燃料噴射弁41の動作の開始時と停止時とで適宜なヒステリシスが与えられるが、
図2では、説明の簡略化のために、開始時と停止時の双方を1本の切換線L3として図示してある。
【0026】
上記の切換線L3よりも高速高負荷側の領域では、筒内噴射用燃料噴射弁8によって供給される燃料量は一定であり、必要な燃料量に対する不足分がポート噴射用燃料噴射弁41から噴射供給される。
【0027】
図3は、運転者の加速・減速操作によって機関運転条件が上記の切換線L3を横切り、ポート噴射用燃料噴射弁41の噴射の開始および停止が行われた場合のタイムチャートを示している。なお、
図3を含め、各図中の「GDI」は筒内噴射用燃料噴射弁8による筒内噴射を意味し、「MPI」はポート噴射用燃料噴射弁41によるポート噴射を意味する。
【0028】
このタイムチャートの前半は、運転者の加速操作によって内燃機関の要求トルクが上昇していく状態を示しており、時間t1までは機関運転条件は理論空燃比領域A1内にある。従って、筒内噴射用燃料噴射弁8の噴射量は増加していくが、理論空燃比を1としたときの燃料増量率は1のままである。時間t1において、
図2に示す境界線L1を横切り、理論空燃比領域A1から出力空燃比領域A2に移行する。そのため、以後は、筒内噴射用燃料噴射弁8の噴射量が増加するとともに、燃料増量率が徐々に増加していく。そして、時間t2において切換線L3を横切る結果、ポート噴射用燃料噴射弁41による燃料噴射が開始される。同時に、筒内噴射用燃料噴射弁8の噴射量の増加が停止する。このとき、ポート噴射用燃料噴射弁41は、最も少ない噴射量でもって燃料噴射を開始するが、前述したように燃料噴射弁41は固有の最小燃料噴射量を有するため、少なくともこの最小燃料噴射量による燃料供給が開始直後から行われる。従って、このポート噴射用燃料噴射弁41から吸気ポート7に噴射された燃料が燃焼室3に到達すると、総燃料量がステップ的に増加することとなる。
【0029】
しかしながら、このようにポート噴射用燃料噴射弁41の燃料噴射が開始されるときに、機関運転条件は出力空燃比領域A2内にあり、筒内噴射用燃料噴射弁8のみで既に理論空燃比よりも濃い出力空燃比となっているため、総燃料量がステップ的に増加しても、トルク増加は殆ど生じない。前述したように、既に空燃比が過濃な状態では、発生するトルクは筒内の空気量に依存するので、総燃料量の増加により空燃比がさらにリッチとなり、気化熱によるいわゆる燃料冷却作用が増大するものの、トルクは殆ど増加しない。従って、運転者にトルク段差感を与えることがない。
【0030】
図示例では、時間t2から時間t3まではさらに加速操作が継続されているため、要求トルクの増加に伴ってポート噴射用燃料噴射弁41の噴射量が増加していく。
【0031】
時間t3において加速が終了し、時間t4からは減速操作となる。この減速操作に伴い、時間t4から時間t5まではポート噴射用燃料噴射弁41の噴射量が徐々に減少する。筒内噴射用燃料噴射弁8の噴射量は一定である。時間t5において、機関運転条件が切換線L3を横切るため、ポート噴射用燃料噴射弁41による燃料噴射が停止する。このとき、やはり少なくとも最小燃料噴射量に相当する燃料量がステップ的に減少するが、上記の噴射開始時と同様に、筒内噴射用燃料噴射弁8のみで理論空燃比よりも濃い出力空燃比であるため、トルクの減少は少なく、運転者にトルク段差感を与えることがない。
【0032】
要するに、
図3の最下段に示すように、主燃料噴射弁である筒内噴射用燃料噴射弁8により燃料増量を行っている期間内に、ポート噴射用燃料噴射弁41の噴射・停止の切換が実行される。これにより、少なくとも最小燃料噴射量に相当する燃料量のステップ的な増減に対するトルクの感度が低くなり、トルク段差感を抑制できるのである。
【0033】
このように上記実施例では、筒内噴射用燃料噴射弁8を主燃料噴射弁とし、その噴射量が不十分となる高速高負荷域ではポート噴射用燃料噴射弁41により燃料量を補うことになるので、過給による空気量(ひいては要求燃料量)の広範な変化に対し、比較的容量の小さな筒内噴射用燃料噴射弁8を用いることが可能となり、例えばアイドル時などの噴射量制御が容易となる。また、ポート噴射用燃料噴射弁41として、最小燃料噴射量が比較的大きなものを用いることが可能となる。
【0034】
次に、上記の理論空燃比領域A1内で運転中に、燃焼形態の変更などのために、筒内噴射用燃料噴射弁8のみでの燃料噴射から筒内噴射用燃料噴射弁8とポート噴射用燃料噴射弁41との双方での燃料噴射に切り換える場合の処理について、
図4のタイムチャートを用いて説明する。
【0035】
ここでは、運転者の加速・減速操作によらずに燃料噴射の態様の切換が行われるものとし、従って、空気量は一定である。
図4に示すように、理論空燃比領域A1内で切換を行う場合、切換のために燃料増量を行い、空燃比を理論空燃比よりも濃い空燃比とした状況下で切換を実行する。
【0036】
すなわち、
図4の時間t1までは、筒内噴射用燃料噴射弁8のみで理論空燃比とした運転が行われ、ポート噴射用燃料噴射弁41は停止している。時間t1においてポート噴射用燃料噴射弁41の作動を要求するトリガ信号がONとなるが、このとき直ちに切換を行わずに、筒内噴射用燃料噴射弁8の噴射量の増量を行い、空燃比をリッチとする。また燃料増量に合わせて点火時期をリタードし、リッチ化に伴うトルクの増加を抑制する。そして、空燃比が所定レベルAF1までリッチとなった時間t2において、切換の実行つまりポート噴射用燃料噴射弁41の噴射を開始する。このとき、前述したように、ポート噴射用燃料噴射弁41からは少なくとも最小燃料噴射量の燃料が噴射されるが、既に過濃な空燃比となっていることから、総燃料量のステップ的な増加に伴うトルク段差は比較的小さなものとなる。ポート噴射用燃料噴射弁41の噴射開始後、筒内噴射用燃料噴射弁8の噴射量は少なくなり、時間t4〜t5の間は、適宜な分担率としつつ、筒内噴射用燃料噴射弁8とポート噴射用燃料噴射弁41の双方の燃料噴射によって理論空燃比に維持されるように、空燃比センサ14の検出信号に基づき少なくとも一方の噴射量がフィードバック制御される。なお、時間t4〜t5の間、オープンループ制御によって理論空燃比を維持するようにしてもよい。
【0037】
点火時期は、時間t1〜t2の間、燃料増量(リッチ化)に対応するように徐々にリタードされるが、空燃比が所定レベルAF1よりもリッチとなる時間t2〜t3の間は、総燃料量の増加に伴うトルクの増加が殆ど生じないので、点火時期は一定となる。そして、空燃比が所定レベルAF1よりも理論空燃比に近くなる時間t3〜t4の間は、燃料増量率の低下に伴ってトルクが低下していくため、これを相殺するように、それまでリタードしていた点火時期を進角していく。時間t4以降は、理論空燃比相当の総燃料量に対応した点火時期に復帰するが、筒内噴射用燃料噴射弁8による筒内噴射時とポート噴射用燃料噴射弁41によるポート噴射時とでは最適点火時期が異なるため、時間t1以前の点火時期ADV0よりは僅かに遅角側となる。
【0038】
時間t5以降はポート噴射用燃料噴射弁41の噴射を停止して筒内噴射用燃料噴射弁8のみでの運転に戻る過程を示しており、時間t5でポート噴射用燃料噴射弁41の噴射要求信号(トリガ信号)がOFFとなると、実際の切換に先だって筒内噴射用燃料噴射弁8による燃料増量を行い、空燃比をリッチ化する。このとき、少なくとも筒内噴射用燃料噴射弁8のみの噴射量でもって理論空燃比よりも濃い空燃比(所定レベルAF1)となるように燃料増量を行う。また、空燃比のリッチ化に伴うトルク増加を相殺するように点火時期をリタードする。なお、時間t6〜t7の間は、前述した時間t2〜t3と同様の理由により点火時期は一定となる。そして、上記のようなレベルまで空燃比がリッチとなった時間t7において、ポート噴射用燃料噴射弁41を停止する。このポート噴射用燃料噴射弁41の停止に伴い総燃料量がステップ的に減少したときも、空燃比は理論空燃比よりも濃い空燃比(トルクへの影響が少ない所定レベルAF1以上のリッチ状態)に維持されているので、総燃料量の減少に伴うトルク段差は比較的小さなものとなる。切換(ポート噴射用燃料噴射弁41の停止)の後、筒内噴射用燃料噴射弁8の噴射量は徐々に減少し、これに合わせて点火時期が通常の点火時期に復帰する。時間t8以降は、筒内噴射用燃料噴射弁8のみで理論空燃比とした運転が行われる。
【0039】
このように、理論空燃比領域A1内で運転中に燃料噴射の態様を切り換える場合でも、トルク段差を抑制しつつ燃料噴射弁8,41の切換を行うことができる。
【0040】
なお、時間t1〜t4の間および時間t5〜t8の間の筒内噴射用燃料噴射弁8による噴射量の増減は、トルク段差感を生じないように、徐々に行うことが可能であり、従って、点火時期のリタードによるトルクの調整は必ずしも必須のものではない。
【0041】
また、
図4の例では、筒内噴射用燃料噴射弁8のみでの燃料噴射から筒内噴射用燃料噴射弁8とポート噴射用燃料噴射弁41との双方での燃料噴射に切り換えるようにしているが、さらに、ポート噴射用燃料噴射弁41のみでの燃料噴射へ移行させることも可能である。