特許第6019943号(P6019943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019943
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】スピンドル装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/80 20060101AFI20161020BHJP
   F16C 19/54 20060101ALI20161020BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20161020BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20161020BHJP
   B23Q 11/08 20060101ALI20161020BHJP
   B23B 19/02 20060101ALI20161020BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   F16C33/80
   F16C19/54
   F16C19/16
   F16J15/447
   B23Q11/08 Z
   B23B19/02 A
   B23Q11/00 E
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-191663(P2012-191663)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2014-47856(P2014-47856A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100108589
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 利光
(72)【発明者】
【氏名】小栗 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 好史
(72)【発明者】
【氏名】勝野 美昭
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−077529(JP,A)
【文献】 実開平02−116068(JP,U)
【文献】 実開昭62−130265(JP,U)
【文献】 実公昭51−025618(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/16,19/54,33/80
B23B 19/02
B23Q 11/00,11/08
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向一端側に加工工具が取り付けられる回転軸と、
前記回転軸を軸受を介して回転自在に支持するハウジングと、
前記回転軸に外嵌する環状の金属部材と、
前記金属部材の周囲に一体回転可能に固定され、前記軸受への液体の浸入を抑制する防水機能を有するフリンガーと、
を備えたスピンドル装置であって、
前記金属部材は、第1及び第2の金属部材からなり、
前記第1の金属部材は、軸方向に延びる円筒部を有する間座であり、
前記第2の金属部材は、前記円筒部よりも径方向外側に延在し、該円筒部の軸方向他端面及び前記軸受の内輪の軸方向一端面に当接する間座であり、
前記フリンガーは、前記第1の金属部材の円筒部に外嵌される円筒状の基部と、前記基部から径方向外側に延設する延設部と、を有するとともに、繊維強化複合材料からなり、
前記基部の軸方向長さをLとし、前記基部が外嵌される前記円筒部の外周面の軸方向長さをL´としたとき、L>L´である
ことを特徴とするスピンドル装置。
【請求項2】
軸方向一端側に加工工具が取り付けられる回転軸と、
前記回転軸を軸受を介して回転自在に支持するハウジングと、
前記回転軸に外嵌する環状の金属部材と、
前記金属部材の周囲に一体回転可能に固定され、前記軸受への液体の浸入を抑制する防水機能を有するフリンガーと、
を備えたスピンドル装置であって、
前記金属部材は、第1及び第2の金属部材からなり、
前記第1の金属部材は、軸方向に延びる円筒部を有する間座であり、
前記第2の金属部材は、軸方向に延びて前記円筒部の軸方向他端面及び前記軸受の内輪の軸方向一端面に当接する他の円筒部と、前記他の円筒部の軸方向他端側から径方向外側に延設される他の鍔部と、を有する鍔付き間座であり、
前記フリンガーは、前記第1の金属部材の円筒部及び前記第2の金属部材の他の円筒部に外嵌される円筒状の基部と、前記基部から径方向外側に延設する延設部と、を有するとともに、繊維強化複合材料からなり、
前記基部の軸方向長さをLとし、前記基部が外嵌される前記第1の金属部材の円筒部及び前記第2の金属部材の他の円筒部の外周面の軸方向長さの合計をL´としたとき、L>L´である
ことを特徴とするスピンドル装置。
【請求項3】
軸方向一端側に加工工具が取り付けられる回転軸と、
前記回転軸を軸受を介して回転自在に支持するハウジングと、
前記回転軸に外嵌する環状の金属部材と、
前記金属部材の周囲に一体回転可能に固定され、前記軸受への液体の浸入を抑制する防水機能を有するフリンガーと、
を備えたスピンドル装置であって、
前記金属部材は、軸方向に延びて前記軸受の内輪の軸方向一端面に当接する円筒部を有する間座であり、
前記フリンガーは、前記金属部材の円筒部に外嵌される円筒状の基部と、前記基部から径方向外側に延設する延設部と、を有するとともに、繊維強化複合材料からなり、
前記基部の軸方向長さをLとし、前記基部が外嵌される前記円筒部の外周面の軸方向長さをL´としたとき、L>L´である
ことを特徴とするスピンドル装置。
【請求項4】
所定の昇温による前記基部及び前記円筒部の外周面の軸方向長さの膨張量を、それぞれΔL及びΔL´としたとき、ΔL´−ΔL<L−L´である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のスピンドル装置。
【請求項5】
0.1≦L−L´≦1(mm)である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のスピンドル装置。
【請求項6】
ΔL´−ΔL+0.1<L−L´<ΔL´−ΔL+1(mm)である
ことを特徴とする請求項4に記載のスピンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピンドル装置に関し、より詳細には、防水機能を有し、工作機械に適用するのに好適なスピンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等に適用されるスピンドル装置の回転軸は、高速回転して被加工物の切削加工や研削加工を行っている。加工に際して、一般的に、刃具や砥石等の加工工具および加工部位の潤滑や冷却を目的として多量の加工液が加工部に供給される。即ち、潤滑により、被削特性の向上、加工刃先の摩耗抑制、工具寿命の延長などが図られる。また、冷却により、加工工具及び被加工物の熱膨張が抑制されて加工精度の向上、加工部位の熱溶着を防止して加工効率の向上や加工面の表面性状の向上が図られる。スピンドル装置と加工部との距離が近いこともあり、加工液がスピンドル装置の前面にも多量にかかる。この多量に供給される加工液が回転軸を支持する軸受内部に浸入しやすく、加工液が軸受内部に浸入すると、軸受の潤滑不良や焼付きなどの原因となるため軸受の防水性能が重要となる。特に、グリース封入潤滑やグリース補給潤滑される軸受においては、エアと共に潤滑油が供給されるオイル・エア潤滑やオイルミスト潤滑の軸受と比較して軸受内部が低圧であるため、加工液が軸受内部に浸入し易く、より高い防水性能が必要となる。
【0003】
一般的な防水機構としては、オイルシールやVリングなどの接触式シールが知られている。しかしながら、この接触式シールを、使用する軸受のdmn値が40万以上(より好適には、50万以上)の高速回転で使用されるスピンドル装置に適用した場合、接触式シールの接触部からの発熱が大きく、シール部材が摩耗して防水性能を長期間に亘って維持し難い問題がある。このため、工作機械では、スピンドル装置の前端部(工具側)に、回転軸と一体回転可能にフリンガーを固定し、該フリンガーとハウジングとの間の隙間を小さくした非接触シールである、所謂ラビリンスシールを構成して防水を図っている。高速で回転するフリンガーは、ラビリンス効果と共に、フリンガーに降りかかった加工液を遠心力で径方向外方に振り飛ばして、加工液の軸受内部への浸入を防止している。
【0004】
フリンガーによる遠心力及びラビリンス効果を利用した防水効果は、回転の高速化や大径のフリンガーを用いることで遠心力を大きくすると共に、フリンガーとハウジングとの間の隙間を極力小さく、且つ、長く設けることが効果的である。しかし、高速回転したり、フリンガーの直径を大きくすると、フリンガーに作用する遠心力及びフープ応力もこれに比例して大きくなる。
【0005】
遠心力による影響を抑制する従来の技術としては、工具に装着されたコレットを工具保持部のテーパ孔に挿入し、工具保持部に螺合するナットを締め付けて工具を工具保持部に固定するようにした工具ホルダにおいて、ナットの外周面に炭素繊維層を巻き付け、遠心力によるナットの膨張抑制を図ったものが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、特許文献2に記載の工作機械用主軸装置におけるシール装置においては、主軸の先端部と一体的に回転する遮蔽版を、ハウジングの先端面に対して隙間を隔てて対向するように配置し、遮蔽版とハウジングの先端面との間にラビリンス部を設けている。このように構成することによって、ワークなどに当たって跳ね返ったクーラントがハウジングの内部に浸入することを防止している。
【0007】
また、特許文献3に記載の工作機械用主軸装置においては、主軸キャップと端面カバーとで形成するラビリンスシールを備え、当該ラビリンスシールがラビリンス室を備えるように構成されており、ラビリンス室の容積を大きく設定することで、主軸キャップと端面カバーとの隙間からラビリンス室にクーラント液が浸入した場合、ラビリンス室内のクーラント液の圧力が低下しクーラント液の流動を減衰させることを図っている。そして、主軸と主軸ヘッドの主軸ハウジングとの隙間から主軸の先端側に向かって大量の圧縮エアを供給することなく、主軸の軸受部にクーラント液が浸入するのを防止している。
【0008】
また、特許文献4に記載のスピンドルユニットは、ハウジングと、該ハウジングにベアリングを介して回転自在に装着される回転軸と、該回転軸に螺着され該ベアリングの内輪を押える内輪押え部材と、該ハウジングに固着され該ベアリングの外輪を押える外輪押え部材と、を含み、内輪押え部材には、外輪押え部材を非接触で覆う防水カバーが形成されることが開示されている。そして、上記防水カバーによって、外輪押え部材と内輪押え部材との間、即ちベアリング部位への切削水の浸入を防止し、錆の発生等を解消させることを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−226516号公報
【特許文献2】特開2002−263982号公報
【特許文献3】特開2010−76045号公報
【特許文献4】特開平11−77529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、一般的にフリンガーは、SC材、SCM材、SUS材、CU材などの比較的比重が大きな金属材料で製作されている。従って、フリンガーに降りかかる加工液に大きな遠心力を作用させるために、フリンガーの直径を大きくすると、フリンガー自身、特に外径側に大きな遠心力が作用する。工作機械の回転軸のように使用する軸受のdmn値が100万以上となる高速回転においては、遠心力によってフリンガーが変形し、場合によってはフリンガー本来の防水機能が低下する虞があった。このため、遠心力による影響が許容される程度に、フリンガーの直径や回転軸の回転速度を制限する必要がある。
【0011】
従来の使用する軸受のdmn値が100万以上となる環境下で使用されるスピンドル装置では、遠心力の大きさを考慮してフリンガーの寸法を制限していたために、防水性能の点で改善の余地があった。
【0012】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、使用する軸受のdmn値が100万以上の高速回転可能、且つ、良好な防水機能を維持しながら、遠心力によるフリンガーの変形を防止することができるスピンドル装置及びスピンドル装置用フリンガーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 軸方向一端側に加工工具が取り付けられる回転軸と、
前記回転軸を軸受を介して回転自在に支持するハウジングと、
前記回転軸に外嵌する環状の金属部材と、
前記金属部材の周囲に一体回転可能に固定され、前記軸受への液体の浸入を抑制する防水機能を有するフリンガーと、
を備えたスピンドル装置であって、
前記金属部材は、第1及び第2の金属部材からなり、
前記第1の金属部材は、軸方向に延びる円筒部を有する間座であり、
前記第2の金属部材は、前記円筒部よりも径方向外側に延在し、該円筒部の軸方向他端面及び前記軸受の内輪の軸方向一端面に当接する間座であり、
前記フリンガーは、前記第1の金属部材の円筒部に外嵌される円筒状の基部と、前記基部から径方向外側に延設する延設部と、を有するとともに、繊維強化複合材料からなり、
前記基部の軸方向長さをLとし、前記基部が外嵌される前記円筒部の外周面の軸方向長さをL´としたとき、L>L´である
ことを特徴とするスピンドル装置。
(2) 軸方向一端側に加工工具が取り付けられる回転軸と、
前記回転軸を軸受を介して回転自在に支持するハウジングと、
前記回転軸に外嵌する環状の金属部材と、
前記金属部材の周囲に一体回転可能に固定され、前記軸受への液体の浸入を抑制する防水機能を有するフリンガーと、
を備えたスピンドル装置であって、
前記金属部材は、第1及び第2の金属部材からなり、
前記第1の金属部材は、軸方向に延びる円筒部を有する間座であり、
前記第2の金属部材は、軸方向に延びて前記円筒部の軸方向他端面及び前記軸受の内輪の軸方向一端面に当接する他の円筒部と、前記他の円筒部の軸方向他端側から径方向外側に延設される他の鍔部と、を有する鍔付き間座であり、
前記フリンガーは、前記第1の金属部材の円筒部及び前記第2の金属部材の他の円筒部に外嵌される円筒状の基部と、前記基部から径方向外側に延設する延設部と、を有するとともに、繊維強化複合材料からなり、
前記基部の軸方向長さをLとし、前記基部が外嵌される前記第1の金属部材の円筒部及び前記第2の金属部材の他の円筒部の外周面の軸方向長さの合計をL´としたとき、L>L´である
ことを特徴とするスピンドル装置。
(3) 軸方向一端側に加工工具が取り付けられる回転軸と、
前記回転軸を軸受を介して回転自在に支持するハウジングと、
前記回転軸に外嵌する環状の金属部材と、
前記金属部材の周囲に一体回転可能に固定され、前記軸受への液体の浸入を抑制する防水機能を有するフリンガーと、
を備えたスピンドル装置であって、
前記金属部材は、軸方向に延びて前記軸受の内輪の軸方向一端面に当接する円筒部を有する間座であり、
前記フリンガーは、前記金属部材の円筒部に外嵌される円筒状の基部と、前記基部から径方向外側に延設する延設部と、を有するとともに、繊維強化複合材料からなり、
前記基部の軸方向長さをLとし、前記基部が外嵌される前記円筒部の外周面の軸方向長さをL´としたとき、L>L´である
ことを特徴とするスピンドル装置。
(4) 所定の昇温による前記基部及び前記円筒部の外周面の軸方向長さの膨張量を、それぞれΔL及びΔL´としたとき、ΔL´−ΔL<L−L´である
ことを特徴とする(1)〜(3)の何れか1つに記載のスピンドル装置。
(5) 0.1≦L−L´≦1(mm)である
ことを特徴とする(1)〜(3)の何れか1つに記載のスピンドル装置。
(6) ΔL´−ΔL+0.1<L−L´<ΔL´−ΔL+1(mm)である
ことを特徴とする(4)に記載のスピンドル装置。
【発明の効果】
【0014】
上記(1)〜(3)に記載のスピンドル装置によれば、フリンガーが比較的比重の小さい繊維強化複合材料からなるので、遠心力の作用が小さくなる。これにより、スピンドル装置は、使用する軸受のdmn値が100万以上の高速回転可能、且つ、良好な防水機能を維持しながら、遠心力によるフリンガーの変形を防止することができる。
また、フリンガーの基部の軸方向長さをLとし、基部が外嵌される部位の軸方向長さをL´としたとき、L>L´となるように設定した。したがって、間座である(第1及び第2の)金属部材をナット等で軸方向に締め付けることによって軸受内輪を位置決め固定した場合、間座を介してフリンガーに軸方向の締結力を与えることができるので、固定を確実とすることが可能である。
【0015】
上記(4)に記載のスピンドル装置によれば、昇温した場合におけるフリンガーの基部及び基部が外嵌される部位の軸方向への膨張量差ΔL´−ΔLよりも、フリンガーの基部と内輪又は第2の金属部材とのシメシロL−L´を大きく設定した(ΔL´−ΔL<L−L´)。したがって、スピンドル装置の回転によって昇温した場合であっても、フリンガーに対する軸方向締結力を維持でき、クリープが発生してしまうことを防止できる。
【0016】
上記(5)に記載のスピンドル装置によれば、フリンガーの基部と内輪又は第2の金属部材とのシメシロL−L´について、0.1≦L−L´≦1(mm)を満たすように設定したので、フリンガーに適切な軸方向締結力が付与され、クリープ防止及び変形防止を両立することが可能である。
【0017】
上記(6)に記載のスピンドル装置によれば、ΔL´−ΔL+0.1<L−L´<ΔL´−ΔL+1(mm)を満たすように各パラメータを設定したので、スピンドル装置の回転によって各部材が昇温した場合であっても、フリンガーに適切な軸方向締結力が付与され、クリープ防止及び変形防止を両立することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るスピンドル装置の断面図である。
図2図1のスピンドル装置の要部拡大断面図である。
図3図1のフリンガー及び金属部材の寸法を示す図である。
図4】本発明の第1変形例に係るフリンガー及び金属部材の寸法を示す図である。
図5】本発明の第2変形例に係るフリンガー及び金属部材の寸法を示す図である。
図6】本発明の第3変形例に係るフリンガー及び金属部材の寸法を示す図である。
図7】本発明の第4変形例に係るフリンガー及び金属部材の寸法を示す図である。
図8】本発明の第5変形例に係るフリンガー及び金属部材の寸法を示す図である。
図9】本発明の第6変形例に係るフリンガーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係るスピンドル装置について、図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、スピンドル装置10は、工作機械用のモータビルトイン式スピンドル装置であり、回転軸11が、その工具側(軸方向前側、軸方向一端側)を支承する2列の前側軸受50,50と、反工具側(軸方向後側、軸方向他端側)を支承する2列の後側軸受60,60を介して、ハウジングHに回転自在に支持されている。ハウジングHは、工具側から順に、前側軸受外輪押え12、外筒13、後側ハウジング14、後蓋5によって構成されている。
【0021】
回転軸11の工具側には、軸中心を通り軸方向に形成された工具取付孔24及び雌ねじ25が設けられている。工具取付孔24及び雌ねじ25は、不図示の加工工具を回転軸11に取付けるために使用される。例えば、工具取付孔24及び雌ねじ25には、不図示の砥石クイルが取り付けられることで、研削加工が可能となる。
なお、回転軸11の構成は、一端側に加工工具が取り付けられるものであればよく、工具取付孔24及び雌ねじ25の代わりに、回転軸11の軸芯にドローバーを摺動自在に挿嵌するようにしてもよい。ドローバーは、工具ホルダを固定する不図示のコレット部を備え、皿ばねの力によってコレット部を反工具側方向に付勢する。
【0022】
回転軸11の前側軸受50,50と後側軸受60,60間の略軸方向中央には、回転軸11と一体回転可能に配置されるロータ26と、ロータ26の周囲に配置されるステータ27とを備える。ステータ27は、その外周面に焼き嵌めされた冷却ジャケット28を、ハウジングHを構成する外筒13に内嵌することで、外筒13に固定される。ロータ26とステータ27とはモータMを構成し、ステータ27に電力を供給することでロータ26に回転力を発生させて回転軸11を回転させる。
【0023】
各前側軸受50は、外輪51と、内輪52と、接触角を持って配置される転動体としての玉53と、図示しない保持器と、をそれぞれ有するアンギュラ玉軸受であり、各後側軸受60は、外輪61と、内輪62と、転動体としての玉63と、図示しない保持器と、を有するアンギュラ玉軸受である。前側軸受50,50(並列組合せ)と後側軸受60,60(並列組合せ)とは、互いに協働して背面組み合わせとなるように配置されている。
【0024】
前側軸受50,50の外輪51,51は、外筒13に内嵌されており、外筒13にボルト15で締結された前側軸受外輪押え12によって外輪間座54を介して外筒13に対し軸方向に位置決め固定されている。前側軸受50,50の内輪52,52は、回転軸11に外嵌されており、回転軸11に締結されたナット16によって、内輪間座55及び金属部材72を介して回転軸11に対し軸方向に位置決め固定されている。
【0025】
金属部材72は、SC材、SCM材、SUS材、CU材などの金属からなり、回転軸11に外嵌し、軸方向前側及び後側にそれぞれ位置して互いに当接する第1及び第2の金属部材70,71から構成される。なお、回転軸11と第1及び第2の金属部材70,71との嵌合は、すきま嵌合としてもよいし、しめしろ嵌合としてもよい。
【0026】
図2に示すように、第1の金属部材70は、軸方向に延びる円筒部70aと、該円筒部70aの軸方向前側から径方向外側に延出する鍔部70bと、を有する鍔付き間座である。鍔部70bの軸方向前面70cは、ナット16と全面が当接するように径方向長さが設定されている。
【0027】
図3も参照し、第2の金属部材71は、第1の金属部材70の円筒部70aよりも径方向外側に延在する間座であり、軸方向前面71aは第1の金属部材70の円筒部70aの軸方向後面70dと当接し、軸方向後面71bは内輪52の軸方向前面と当接する。
【0028】
後側軸受60,60の外輪61,61は、後側ハウジング14に対して軸方向に摺動自在に内嵌するスリーブ18に内嵌すると共に、このスリーブ18にボルト66で一体的に固定された後側軸受外輪押え19によって、外輪間座64を介してスリーブ18に対し軸方向に位置決め固定されている。
【0029】
後側軸受60,60の内輪62,62は、回転軸11に外嵌されており、回転軸11に締結された他のナット21によって、内輪間座65を介して回転軸11に対し軸方向に位置決め固定されている。後側ハウジング14と後側軸受外輪押え19との間にはコイルばね23が配設され、このコイルばね23のばね力が、後側軸受外輪押え19をスリーブ18と共に後方に押圧する。これにより、後側軸受60,60に予圧が付与される。
【0030】
ここで、本実施形態のようなスピンドル装置10を用いた研削加工では、一般的に研削液を多量に加工部に供給し、加工部の冷却及び加工粉の除去を行なっている。この加工液が前側軸受50,50に浸入しないように、本実施形態のスピンドル装置10では、フリンガー40が、前側軸受50,50より工具側(図中左側)において第1の金属部材70の円筒部70aに外嵌されることによって回転軸11と一体回転可能とされている。このように、フリンガー40は、ハウジングH(前側軸受外輪押え12及び外筒13)との間にラビリンスシールを構成して、外部からかかる研削液を回転軸11の回転と共に振り切り、前側軸受50,50への液体の浸入を抑制する防水機能が与えられる。
【0031】
フリンガー40は、アラミド繊維複合材料(AFRP)や炭素繊維複合材料(CFRP)等の樹脂製の繊維強化複合材料からなり、第1の金属部材70の円筒部70aに外嵌して固定された基部としての円筒状のボス部42と、該ボス部42の軸方向前端部から径方向外方に延設された円盤部43、及び該円盤部43の径方向外側端部から軸方向後側に向かってリング状に延設された円環部44を有する延設部45と、を有する。なお、ボス部42から径方向外側に延設する延設部45の構成は、本実施形態のように円盤部43及び円環部44を有するものに限定されず、例えば、円盤部43のみによって構成されてもよい。
【0032】
ボス部42は、前側軸受外輪押え12の内周面12cに対して僅かな隙間を介して径方向に対向配置されると共に、第1の金属部材70の鍔部70bの軸方向後面70eと当接することによって軸方向に位置決めされる。円盤部43は、前側軸受外輪押え12の軸方向前面12a(ハウジングHの軸方向前面)に対して僅かな隙間を介して対向配置され、これら円盤部43及び前側軸受外輪押え12の軸方向前面12aは、径方向外側に向かうに従って軸方向後側に傾斜するテーパ形状とされている。円環部44は、前側軸受外輪押えの外周面12b及び当該外周面12bに滑らかに接続する外筒13の外周面13a(ハウジングHの外周面)に対して僅かな隙間を介して径方向に対向配置されている。このように、フリンガー40は、ハウジングHを構成する前側軸受外輪押え12及び外筒13と僅かな軸方向隙間及び径方向隙間、例えば0.5mm程度の隙間を介して対向配置され、所謂ラビリンスシールを構成する。
【0033】
特に、円環部44の内周面と、前側軸受外輪押え12及び外筒13の外周面12b、13aと、の間にはその周速度の差によってエアカーテンが形成され、被加工物を加工する際、スピンドル装置10に降りかかる加工液が前側軸受50,50側に入ることを抑制するための防水機構を構成する。
【0034】
さらに、外筒13の外周面13aには、円環部44の内周面と径方向に対向しない軸方向後方位置において、径方向内方に向かう円環溝80が凹設されている。当該円環溝80の軸方向前側端部と、円環部44の軸方向後端面と、は回転軸11と直交する同一平面上に位置している。したがって、スピンドル停止時においても、加工液は円環溝80によって案内されて外部に排出されるので、加工液がラビリンス隙間に浸入することを防止することが可能である。
【0035】
また、本発明のフリンガー40は、上述したように、金属と比較して、引張強度が高く、比重が小さいアラミド繊維複合材料(AFRP)や炭素繊維複合材料(CFRP)等の樹脂製の繊維強化複合材料から形成されている。炭素繊維複合材料としては、例えば、PAN(ポリアクリルニトリル)を主原料とした炭素繊維からなる糸を平行に引きそろえたものや、炭素繊維からなる糸で形成した織物(シート状)に、硬化剤を含むエポキシ樹脂などの熱硬化樹脂を含浸させてなるシートを多数層重ね合わせて、芯金などに巻きつけ、加熱硬化させることで製造される。また、ピッチ系を主原料とした炭素繊維を使用することもできる。炭素繊維強化複合材料は、纖維方向・角度を最適化することで、引張強度、引張弾性率、線膨張係数などの物性値を用途に合わせて最適化することができる。
【0036】
繊維強化複合材料の特性としては、比重が、好ましくは4.5(g/cm)以下、より好ましくは2.7(g/cm)以下であり、引張強度(MPa)/密度(ρ:g/cm)と表した場合の比強度が、好ましくは74(kNm/kg)以上、より好ましくは160(kNm/kg)以上であることが望ましい。また、熱膨張係数は、繊維方向・角度を最適化することにより、−5〜+12×10−6−1にすることができるので、従来の炭素鋼に比べて1〜1/10程度にすることができる。
【0037】
このように、一般的な金属と比較して比強度(引張強度/密度)が高い炭素繊維複合材料を用いることで、直径が同じであればフリンガー40に作用する遠心力を大幅に小さくすることができる。従って、回転軸11の回転速度に対する制約や、フリンガー40の大きさ(径方向)に対する制限を大幅に緩和することができる。
【0038】
これにより、従来達成することが困難であった更なる高速回転化、或いはフリンガー40の大型化が可能となり、加工液に作用する遠心力を高めて、降りかかる加工液を確実に径方向外方に振り飛ばして軸受内部への浸入を防止することができる。また、フリンガー40の円環部44に作用する遠心力が小さくなることで、比較的強度が弱い片持ち構造となる円環部44の開口側(図中右側)が径方向外方へ拡径することを抑制することができる。これにより、円環部44の径方向長さ及び軸方向長さを長く設定して、ラビリンスシールの長さが長くなり防水効果が向上する。
【0039】
また、フリンガー40と第1の金属部材70との嵌合は、適度なすきまを持ったすきま嵌合として接着接合してもよく、或は、しめしろ嵌合としてもよい。
【0040】
ここで、図3に示すように、本実施形態のフリンガー40及び金属部材72は、フリンガー40のボス部42の軸方向長さをLとし、当該ボス部42が外嵌される円筒部70aの外周面の軸方向長さをL´としたとき、L>L´となるように設定されている。したがって、フリンガー40のボス部42を第1の金属部材70の円筒部70aの外周面に外嵌した状態で、第1の金属部材70をナット16で軸方向に締め付けた場合、フリンガー40のボス部42は、第2の金属部材71の軸方向前面71aに対して軸方向に固定される。したがって、フリンガー40には、軸方向の締結力が第1及び第2の金属部材70,71を介して与えられ、固定を強固とすることが可能である。
なお、フリンガー40のボス部42と第2の金属部材71とのシメシロL−L´は、スピンドル装置1の各構成部品の製作精度(特に軸方向の寸法精度)に応じて、適切に設定される。
【0041】
また、フリンガー40のボス部42と第2の金属部材71とのシメシロL−L´は、スピンドル装置1の各構成部品の大きさや形状にもよるが、フリンガー40がクリープせず繊維強化複合材料が変形しない程度の圧縮力等を考慮すると、概ね0.1〜1mm、好ましくは0.1〜0.5mmとすることが望ましい。
【0042】
また、スピンドル装置1の回転中は、モータM等の発熱によって、各構成部品に温度上昇が生じ得るが、繊維強化複合材料(例えば、PAN系CFRP)からなるフリンガー40は、第1の金属部材70よりも線膨張係数が小さいので、フリンガー40に対する軸方向の締結力が失われる虞がある。より具体的には、任意の温度に昇温した場合において、フリンガー40のボス部42の軸方向長さの膨張量をΔLとし、第1の金属部材70の円筒部70aの外周面の軸方向長さの膨張量をΔL´としたとき、ΔL<ΔL´であり、フリンガー40のボス部42と第2の金属部材71とのシメシロが(L−L´)−(ΔL´−ΔL)となるので、(L−L´)−(ΔL´−ΔL)≦0の場合は、フリンガー40のボス部42に対する軸方向の締結力が失われる。そこで、本実施形態においては、(L−L´)−(ΔL´−ΔL)>0、すなわち、ΔL´−ΔL<L−L´を満たすように設定することにより、スピンドル装置1の回転等によって昇温した場合であっても、フリンガー40に対する軸方向締結力を維持でき、クリープが発生してしまうことを防止できる。
【0043】
さらに、フリンガー40がクリープせず繊維強化複合材料が変形しない程度の圧縮力等を考慮すると、任意の温度に昇温した場合における、フリンガー40のボス部42と第2の金属部材71とのシメシロ(L−L´)−(ΔL´−ΔL)は、概ね0.1〜1mm、好ましくは0.1〜0.5mmとすることが望ましい。
【0044】
また、フリンガー40の円盤部43は、径方向外側に向かうに従って軸方向後側に傾斜するテーパ形状であるので、高速回転の際、円盤部43が軸方向に変形することで、円盤部43から軸へ延設されている面に圧縮側(半径方向内向き=回転軸芯に向かう放射線状)の応力が作用する。そして、この応力が、ボス部42の軸方向一端部から円盤部43にかけて働く遠心力に対して逆方向の抗力として働くので、該遠心力を抑制することができる。その結果、フリンガー40の回転中の内部応力が軽減されると共に、半径方向の変形を小さくできる。したがって、回転中の遠心力膨張による軸方向への応力を抑制することができ、主軸に使用される軸受50,60のdmn値(特に、フリンガー40が前方に配置される前側軸受50のdmn値)が100万以上のような高速回転であっても高い防水性能を得ることができる。
【0045】
なお、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0046】
例えば、上述の実施形態においては、金属部材72は、第1及び第2の金属部材70,71から構成されていたが、図4に示すように、1つの金属部材、より具体的には、ナット16及び前側軸受50の内輪52の軸方向前面に挟まれる円筒部72aと、該円筒部72aの軸方向前側から径方向外側に延出する鍔部72bと、を有する鍔付き間座であってもよい。この場合、フリンガー40のボス部42の軸方向長さLは、ボス部42が外嵌される円筒部72aの外周面の軸方向長さL´よりも大きくなるように設定される(L>L´)。このように構成した場合であっても、金属部材72をナット16で軸方向に締め付けることによって内輪52を位置決め固定した場合、フリンガー40のボス部42と内輪52とのシメシロがL−L´(>0)となり、金属部材72を介してフリンガー40に軸方向の締結力を与えることができるので、固定を確実とすることが可能である。
【0047】
また、図5図6に示すように、フリンガー40の円盤部43は、径方向に直線状に延び、径方向断面が略平面となるように形成されても構わない。この場合、前側軸受外輪押え12の軸方向前面12a(ハウジングHの軸方向前面)も同様に、径方向に直線状に延びる平面形状となるように形成され、これら円盤部43及び前側軸受外輪押え12の軸方向前面12aは僅かな隙間を介して軸方向に対向配置される。
【0048】
また、図7図8に示すように、第1の金属部材70及び金属部材72は、少なくとも軸方向に延びてフリンガー40が外嵌される円筒部70a、72aを有する限り、鍔部70b、72bを有する必要はない。
【0049】
また、図9に示すように、第2の金属部材71は、軸方向に延びて第1の金属部材70円筒部70aの軸方向後面70dと当接する他の円筒部71cと、当該円筒部71cの軸方向後側から径方向外側に延設される他の鍔部71dと、を有する鍔付き間座であってもよい。この場合、フリンガー40のボス部42は、第1及び第2の金属部材70,71の円筒部70a,71cに外嵌し、鍔部70d,71dに軸方向両側から挟持される。ここで、フリンガー40のボス部42の軸方向長さLは、ボス部42が外嵌される円筒部70a,71cの外周面の軸方向長さL0,L1の合計L´よりも大きくなるように設定される(L>L´=L0+L1)。このように構成した場合であっても、第1及び第2の金属部材70,71をナット16で軸方向に締め付けることによって内輪52を位置決め固定した場合、フリンガー40のボス部42と第2の金属部材71の鍔部71dとのシメシロがL−L´(>0)となり、金属部材72を介してフリンガー40に軸方向の締結力を与えることができるので、固定を確実とすることが可能である。
【0050】
また、モータビルトイン式スピンドル装置として説明したが、これに限定されず、ベルト駆動方式スピンドル装置、モータの回転軸とカップリング連結されたモータ直結駆動方式スピンドル装置にも同様に適用可能である。更に、工作機械用のスピンドル装置に限定されず、防水機能が要望される、他の高速回転機器のスピンドル装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 スピンドル装置
11 回転軸
12 前側軸受外輪押え
12a 軸方向前面(軸方向一端面)
12b 外周面
12c 内周面
13 外筒
13a 外周面
16 ナット
40 フリンガー
42 ボス部(基部)
43 円盤部
44 円環部
45 延設部
50 前側軸受(軸受)
51 外輪
52 内輪
53 玉
54 外輪間座
55 内輪間座
70 第1の金属部材
70a 円筒部
70b 鍔部
70c 軸方向前面
70d 軸方向後面(軸方向他端面)
70e 軸方向後面
71 第2の金属部材
71a 軸方向前面
71b 軸方向後面
71c 円筒部
71d 鍔部
72 金属部材
72a 円筒部
72b 鍔部
72e 軸方向後面
H ハウジング
M モータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9