特許第6024004号(P6024004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6024004角膜細胞の製造方法及び角膜細胞シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6024004
(24)【登録日】2016年10月21日
(45)【発行日】2016年11月9日
(54)【発明の名称】角膜細胞の製造方法及び角膜細胞シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20161027BHJP
【FI】
   C12N5/071
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-196658(P2010-196658)
(22)【出願日】2010年9月2日
(65)【公開番号】特開2012-50394(P2012-50394A)
(43)【公開日】2012年3月15日
【審査請求日】2013年7月8日
【審判番号】不服-16469(P-16469/J1)
【審判請求日】2015年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】高田 哲生
(72)【発明者】
【氏名】原口 和敏
(72)【発明者】
【氏名】横尾 誠一
【合議体】
【審判長】 佐々木 秀次
【審判官】 中島 庸子
【審判官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4430124(JP,B2)
【文献】 国際公開第2009/150931(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/064810(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 5/00
C08L33/00
C08K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるモノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)との共重合体(A)と、無機材料(B)であるコロイダルシリカとを含有する細胞培養基材上で角膜細胞を培養して培養細胞を得る工程と、
前記培養細胞を前記細胞培養基材から剥離する工程と、
を含む角膜細胞の製造方法。
【化1】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数1〜3のアルキル基、nは4〜30の整数を表す。)
【請求項2】
前記重合体(A)と前記コロイダルシリカとの質量比((シリカ)/(A))が、0.01〜0.5の範囲にある請求項1記載の角膜細胞の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法であって、前記培養細胞をシート状に前記細胞培養基材から剥離する、角膜細胞シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレングリコール系アクリルモノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)との共重合体(A)と、無機材料(B)とを含有する細胞培養基材上での角膜細胞の培養方法、及びそれによって得られる培養角膜細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、動物組織等の細胞培養基材としては、主にプラスチック(例えばポリスチレン)製容器が使用されてきた。これら容器は、細胞培養を有効に行わせるために、その表面にプラズマ処理や、シリコンや細胞接着因子等のコーティングなどの表面処理が施されている。これら細胞培養容器を培養基材として用いた場合には、培養(増殖)した細胞が容器表面に接着しており、細胞を単離・回収するためには、トリプシ等のタンパク質加水分解酵素や化学薬品を用いて、容器表面から剥離する必要があった。このような酵素や化学薬品により細胞を剥離する操作は、細胞と基材の結合部分が切断されるだけではなく、細胞同士の結合も切断されるため、細胞を増殖している形状(例えばシート状)のままで取り出すことができなかったり、予期せぬ細胞の性質変化を引き起こす可能性があった。
【0003】
近年、細胞培養容器の表面にポリN−イソプロピルアクリルアミドのような下限臨界溶解温度(LCST)を有するポリマーを極薄く被覆した基材を使用して、細胞培養温度ではポリマーが疎水性状態を示し細胞がポリマーに接着し、培養後にポリマーを低温処理して親水性状態にすることにより、細胞とポリマーとの接着性を低下させ、細胞を加水分解酵素や化学薬品を使用せずに基材から細胞をシート状に剥離する技術が報告されている(例えば特許文献1及び2、非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、このような培養基材は細胞の種類により、培養後基材表面から剥離できないケースも多く存在する。例えば、角膜細胞は其の一つであり、培養後、低温処理しても、培養角膜細胞を完全に剥離することができなかった。
また、前記培養基材は放射線(例えばγ線)滅菌処理を行うと、LCSTを有するポリマーの温度応答性が大きく低下してしまい、本来の細胞の剥離しやすさが無くなる問題もあった。
【0005】
一方、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー(a)を含むモノマーの重合体(P)と、水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合体粒子(X)の分散液を乾燥してなる有機無機複合体(X)の乾燥皮膜を表面に有する細胞培養基材が開示されている(例えば特許文献3参照)。
しかし、上記従来文献においては、角膜細胞の培養及び剥離方法に関する具体的手段は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平6−104061公報
【特許文献2】特開平5−192138公報
【特許文献3】特許第4430124
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】大和雅之、岡野光夫「ナノバイオテクノロジーの最前線」第6章、P.340−P.347、シーエムシー出版(2003年出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、培養基材表面と角膜細胞間の接着力を制御し、培養後の低温処理により、細胞膜を破れずに容易に剥離できる角膜細胞の培養方法、及び培養角膜細胞を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ポリエチレングリコール系アクリルモノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)との共重合体(A)と、無機材料(B)とを含有する細胞培養基材上で、基材表面と細胞間の接着力を低く維持しながら、角膜細胞を培養し、培養後低温処理により、角膜細胞膜(または細胞シート)を破れずに、基材表面から容易に剥離できる、角膜細胞の培養方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記式(1)で表されるモノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)との共重合体(A)と、無機材料(B)であるコロイダルシリカとを含有する細胞培養基材上で角膜細胞を培養して培養細胞を得る工程と、前記培養細胞を前記細胞培養基材から剥離する工程と、を含む角膜細胞の製造方法を提供する。
【0011】
【化1】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数1〜3のアルキル基、nは4〜30の整数を表す。)
【0012】
また、本発明は、前記重合体(A)と前記シリカとの質量比((シリカ)/(A))が、0.01〜0.5の範囲にある、角膜細胞の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、前記培養細胞をシート状に前記細胞培養基材から剥離する、角膜細胞シートの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の細胞培養基材の最大の特徴は、上記無機材料(B)の構成部分が角膜細胞の増殖を担い、モノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)との共重合体(A)は、角膜細胞との間の低接着性の維持、及び温度変化による角膜細胞の剥離を担うことにある。この二つの部分を角膜細胞の増殖、剥離の状況に応じてそれぞれ単独に調節できることにある。例えば、培養時(37℃)、角膜細胞が培養表面との間弱い接着性を維持しながら、高い増殖能で増殖し、培養終了後、温度を30℃以下に下げることにより(例えば室温)、共重合体(A)の部分がより高い親水性を示し、培養表面と細胞間の接着力が更に弱くなり、細胞が破れずにシート(または膜)状に剥離させることができる。ここでいう角膜細胞とは、角膜と角膜近縁に位置する角膜上皮幹細胞が存在する角膜輪部の基底膜上に存在する細胞であり、角膜上皮細胞および角膜上皮細胞を供給する角膜上皮幹細胞が含まれる角膜輪部上皮細胞と角膜内皮細胞のことをいう。
【0015】
共重合体(A)は主にイオン結合や水素結合などにより無機材料(B)と相互作用し結合している。この結合力は強く、容易にポリマーと無機材料(B)を引き離すことはできない。
【発明の効果】
【0016】
本発明の角膜細胞の培養方法は、細胞と培養表面の間に弱い接着力を維持しながら、高い増殖能を有し、培養した細胞を、薬剤(トリプシン等)を使用することなく、細胞膜を破断させずに、容易に培養基材表面から剥離、回収できる特徴を有する。
また、本培養方法に用いられる培養基材は、γ線や電子線などの放射線滅菌が可能である特徴を有する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で用いるモノマー(a)は、メトキシエチルアクリレート(b)との共重合体(A)が無機材料(B)と相互作用し、有機無機複合体を形成できるものであれば、好適に使用できるが、中でも、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコールやポリエチレングリコールエステル系モノマーが好ましく用いられ、特に好ましくは下記式(1)のモノマー(a)が用いられる。
【0018】
【化2】
(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素原子数1〜3のアルキル基、nは4〜30の整数を表す。)
【0019】
これらのモノマー(a)の使用により、角膜細胞の初期接着性を低く維持でき、細胞増殖性と剥離性が良好な細胞培養基材が得られる。また、メトキシエチルアクリレート(b)の使用により、この細胞培養基材をポリスチレンなどのプラスチック製基材等の支持体の表面に積層させる場合は、両者間の接着性が強く、製造が簡便にできる。
【0020】
上記のモノマー(a)は、要求される表面性質などにより、一種以上を混合して使用してもよい。また、培養性や物性に影響を及ぼさない程度に、必要に応じてその他の共重合モノマーとして、例えば、スルホン基やカルボキシル基のようなアニオン基を有するアクリル系モノマー、4級アンモニウム基のようなカチオン基を有するアクリル系モノマー、4級アンモニウム基と燐酸基とを持つ両性イオン基を有するアクリル系モノマー、カルボキシル基とアミノ基とをもつアミノ酸残基を有するアクリル系モノマー、糖残基を有するアクリル系モノマー、また、水酸基を有するアクリル系モノマー、更にポリエチレングリコールのような親水性鎖とノニルフェニル基のような疎水基を合わせ持つ両親媒性アクリル系モノマー、N−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N’−メチレンビスアクリルアミドなどを併用することができる。
【0021】
本発明に用いる無機材料(B)は、水膨潤性粘土鉱物及びシリカから選択される1種以上の無機材料である。水膨潤性粘土鉱物としては、層状に剥離可能な水膨潤性粘土鉱物が挙げられ、好ましくは水または水と有機溶剤との混合溶液中で膨潤し均一に分散可能な粘土鉱物、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な無機粘土鉱物が用いられる。具体的にはナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリライト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母、等が挙げられる。これらの粘土鉱物を混合して用いても良い。
【0022】
本発明に用いるシリカ(SiO)としては、コロイダルシリカが挙げられ、好ましくは水溶液中で均一に分散可能で、粒径が10nm〜500nmのコロイダルシリカ、特に好ましくは粒径が10〜50nmのコロイダルシリカが用いられる。
【0023】
本発明の細胞培養基材において、モノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)との質量比((a)/(b))が0.1〜1.0であることが好ましく、0.1〜0.5がより好ましく、0.1〜0.3が特に好ましい。質量比((a)/(b))がこの範囲であると、角膜細胞と培養表面間の低い接着性と、良好な増殖性を維持でき、培養後の細胞も容易に剥離でき、好ましい。
また、本発明の細胞培養基材において、重合体(A)と無機材料(B)との質量比((B)/(A))が、0.01〜0.5であることが好ましく、0.01〜0.3がより好ましく、0.04〜0.2が特に好ましい。質量比((B)/(A))がこの範囲であると、角膜細胞に対し良好な培養性と高い剥離性を兼ね備えることができ、好ましい。
【0024】
更に、本発明の細胞培養基材で培養した角膜細胞を、培地温度を30℃以下に下げ、培地を除き、少量の培地を残した状態で、親水性の多孔質支持体を細胞の上に乗せた後、該支持体を持ち上げることにより、剥離させることができるが、本発明の細胞培養基材と角膜細胞との接着力は比較的弱いため、培地を低温処理せずに、例えば、以下に列挙した物理的引き剥がし力により、細胞を容易に剥離させることができる。
(1)培養後ピンセット等を用いて直接細胞シートの周りを挟んで持ち上げる方法、
(2)ガラス棒、ピペットの先や、ゴムヘラ等を細胞シートと細胞培養基材間に差し込んで、細胞シートを持ち上げるように剥離させる方法、
(3)細胞シートをストロー状の器材で吸引しながら剥離させる方法、
(4)ピペットで培地を吸ったり出したりするピペッティング操作で剥離させる方法等がある。
【0025】
本発明の培養方法で製造された角膜細胞シートは、トリプシンなどのタンパク分解酵素を使用しないため、細胞の基底タンパクがダメージを受けず、生体内の細胞形態により近い状態にあり、細胞活性も高く、移植後の定着性や治癒性が高いと考えられる。
【0026】
本発明の培養基材の製造方法は、モノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)との共重合体(A)が無機材料(B)と相互作用し、有機無機複合体を形成できるものであれば、特に限定されない。例えば、前記モノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)と前記無機材料(B)および重合開始剤(D)とを混合した水媒体(C)を支持体に塗布して、前記モノマー(a)とメトキシエチルアクリレート(b)を共重合させることにより、重合体(A)と前記無機材料(B)との複合体(X)の薄層を形成する製造方法が挙げられる。
前記製造方法に用いる水媒体(C)は、モノマー(a)、(b)や無機材料(B)などを含むことができ、重合によって、物性のよい有機無機複合体が得られれば良く、特に限定されない。例えば水、または水と混和性を有する溶剤及び/またはその他の化合物を含む水溶液であってよく、その中には更に、防腐剤や抗菌剤、着色料、香料、酵素、たんぱく質、コラーゲン、糖類、アミノ酸類、DNA類、塩類、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、高分子化合物、レベリング剤などを含むことができる。
本発明に用いられる重合開始剤(D)としては、公知のラジカル重合開始剤を適時選択して用いることができる。好ましくは水溶性または水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが好ましく用いられる。具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)の他、Fe2+と過酸化水素との混合物などが例示される。
【0027】
触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどは好ましく用いられる。但し、触媒は必ずしも用いなくてもよい。重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて例えば0℃〜100℃が用いられる。重合時間も数十秒〜数十時間の間で行うことが出来る。
【0028】
一方、光重合開始剤は、酸素阻害の影響を受けにくく、重合速度が速いため、重合開始剤(D)として好適に用いられる。具体的には、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2−メチルチオキサントンなどのケトン類、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ヒドロキシケトン類、メチルベンゾイルホルメートなどのフェニルグリオキシレート類、メタロセン類などが挙げられる。
【0029】
本工程に用いられる光としては、電子線、γ線、X線、紫外線、可視光などを用いることができるが、中でも装置や取り扱いの簡便さやモノマー(b)の重合と同時に架橋を起こさせない観点から紫外線を用いることが好ましい。照射する紫外線の強度は10〜500mW/cmが好ましく、照射時間は一般に0.1秒〜200秒程度である。通常の加熱によるラジカル重合においては、酸素が重合の阻害因子として働くが、本発明では、必ずしも酸素を遮断した雰囲気で溶液の調製および紫外線照射による重合を行う必要がなく、空気雰囲気でこれらを行うことが可能である。但し、紫外線照射を不活性ガス雰囲気下で行うことによって、更に重合速度を速めることが可能で、望ましい場合がある。
【0030】
また、本発明の培養基材の第二の製造例としては、水媒体(C)中の前記無機材料(B)の濃度が下記式(2)又は式(3)で表される範囲となるように、前記モノマー(a)、(b)、と前記無機材料(B)と重合開始剤(D)とを水媒体(C)に混合した後、前記モノマー(a)、(b)を共重合させることにより重合体(A)と前記無機材料(B)との複合体(X)の分散液(L)を製造する第1工程、
前記分散液(L)を基材に塗布し、その後乾燥することにより前記複合体(X)の薄層を形成する第2工程を順次行なうことを特徴とする細胞培養基材の製造方法が挙げられる。
式(2) Ra<0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<12.4Ra+0.05
式(3) Ra≧0.19のとき
無機材料(B)の濃度(質量%)<0.87Ra+2.17
(式中、無機材料(B)の濃度(質量%)は、無機材料(B)の質量を水媒体(C)と無機材料(B)の合計質量で除して100を掛けた数値、Raは無機材料(B)と重合体(A)との質量比((B)/(A))である。)
【0031】
無機材料(B)の水媒体に対する濃度(質量%)は式(2)又は式(3)で表される範囲内であると、良好な複合体(X)の分散液(L)が得られ、支持体への塗布が容易で、平滑で均一な薄い塗膜が得られ、好ましい。
【0032】
本発明の製造方法で製造される分散液(L)は、そのまま使用してもよいし、水洗などによる精製工程を経てから使用してもよい。また該分散液(L)に更にレベリング剤や界面活性剤、ペプチド、たんぱく質、コラーゲン、アミノ酸類、高分子化合物などを添加して使用してもよい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)(参考例)
[モノマー(a)、(b)、無機材料(B)、水媒体(C)を含む反応溶液の調製]
モノマー(a)としてポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製 商品名「AM−90G」、式(1)におけるRが水素原子、Rが炭素原子数1のアルキル基、nが9の整数である化合物)1.2g、メトキシエチルアクリレート(b)2.9g、無機材料(B)として水膨潤性粘土鉱物Laponite XLG(Rockwood AdditivesLtd.社製)0.2g、水媒体(C)として水100g、を均一に混合して反応溶液(1)を調製した。
【0035】
[重合開始剤(D)を溶媒(E)に溶解させた溶液の調整]
溶媒(E)として、メタノール9.8g、重合開始剤(D)として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)0.2gを、均一に混合して溶液(2)を調製した。
【0036】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(1)全量に、溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L1)を作製した。
この反応系のRa=0.05、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.67
【0037】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)に、上記複合体(X)の分散液(L1)を入れ、スピンコーターを用いて3000回転で該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材1を得た。
【0038】
[正常ヒト角膜上皮細胞の培養]
上記得られた細胞培養基材1を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培地DMEM/F12(B27supplement,20ng/mL EGF)を適量入れ、正常ヒト角膜輪部上皮細胞(Rocky Mountain Lions’ Eye Bankから提供された研究用輸入ヒト角膜より採取)を播種して(播種濃度は2×10個/cm)、5%二酸化炭素中、37℃で培養を行った。細胞が十分増殖したのを確認して、該培養基材1を氷水の上に5分間静置した後、培地を吸い取り、少量の培地を残した状態で、幅約5mmのリング状ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製多孔質膜を細胞の上に載せ、細胞をPVDF膜に吸いつけてから、PVDF膜を持ち上げたところ、すべての培養細胞が一枚のシート状に基材から完全に剥離した。
【0039】
(実施例2)
[モノマー(a)、(b)、無機材料(B)、水媒体(C)を含む反応溶液の調製]
モノマー(a)としてポリエチレングリコールアクリレート(新中村化学工業株式会社製 商品名「AM−90G」、式(1)におけるRが水素原子、Rが炭素原子数1のアルキル基、nが9の整数である化合物。)0.8g、メトキシエチルアクリレート(b)3.0g、無機材料(B)としてスノーテックス20(20重量%のコロイダルシリカ水溶液、日産化学工業株式会社製)1.0g(固形分0.2g)、水媒体(C)として水100g、を均一に混合して反応溶液(2)を調製した。
【0040】
[複合体(X)の分散液(L)の調製(第1工程)]
上記反応溶液(2)全量に、実施例1の溶液(2)を250μl入れ、均一に分散させた後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外 線を180秒照射し乳白色の複合体(X)の分散液(L2)を作製した。
この反応系のRa=0.05、無機材料(B)の濃度(質量%)=0.20(%)<12.4Ra+0.05=0.67
【0041】
[培養基材(複合体(X)の薄層)の調製(第2工程)]
直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)に、上記複合体(X)の分散液(L2)を入れ、スピンコーターを用いて3000回転で該分散液をシャーレの表面に薄く塗布した後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させ、次いで、滅菌水によりシャーレを洗浄した後、滅菌袋中でシャーレを40℃、5時間乾燥させて、細胞培養基材2を得た。
【0042】
[正常ヒト角膜上皮細胞の培養]
上記得られた細胞培養基材2を照射線量10kGyの電子線で滅菌した(日本照射サービス株式会社)後、培地DMEM/F12 (B27supplement, 20ng/mL EGF)を適量入れ、正常ヒト角膜上皮細胞(Rocky Mountain Lions’ Eye Bankから提供された研究用輸入ヒト角膜より採取)を播種して(播種濃度は2×10個/cm)、5%二酸化炭素中、37℃で培養を行った。細胞が十分増殖したのを確認して、該培養基材を室温で5分間静置した後、シャーレ縁部の細胞を二本のピンセットで摘んで持ち上げたところ、すべての培養細胞が一枚のシート状に基材から完全に剥離した。
【0043】
(比較例1)
和光純薬工業株式会社より購入した温度応答性細胞培養器材「UpCell 3.5cm Petri Dishes」(株式会社セルシード製)を2個用いて、実施例1と同様にして正常ヒト角膜上皮細胞の培養を行った。細胞が十分増殖したのを確認して、1個目の培養基材を氷水の上に5分間静置した後、培地を吸い取り、少量の培地を残した状態で、幅約5mmのリング状ポリフッ化ビニリデン(PVDF)製多孔質膜を細胞の上に載せ、細胞をPVDF膜に吸いつけてから、PVDF膜を持ち上げたところ、培養細胞が破れ、一枚のシート状に基材から完全に剥離することはできなかった。
また2個目の培養基材を室温で5分間静置した後、シャーレ縁部の細胞を二本のピンセットで摘んで持ち上げてみたところ、培養細胞が破れ、一枚のシート状に基材から完全に剥離することはできなかった。
【0044】
(実施例3)(参考例)
実施例1の複合体(X)の分散液(L1)をそれぞれ、直径35mmのポリスチレン製シャーレ(IWAKIティッシュカルチャデイッシュ3000−035)、とスライドガラス「S9224」(松浪硝子工業株式会社製)に、実施例1と同様にしてコートした後、80℃の熱風乾燥器中で10分間乾燥させた。次いで、これらの塗膜にカッターナイフを用いて、1×1mm四方の碁盤目の切り傷を入れた後、碁盤目を入れた所にセロハンテープを強く圧着させ、テープの端を45°の角度で急速に引き剥がし、碁盤目の状態を光学顕微鏡で観察したところ、塗膜は全く剥離せず、基材との接着性が良好であることが確認された。
【0045】
上記実施例から、本発明の細胞培養基材は、他の材質の支持体との間、良好な接着性を有し、また角膜細胞に対し優れた細胞培養と剥離機能を有している。
また、この細胞培養基材は、酸素を除去することなく極短時間で、容易に製造できることが明らかであった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の角膜細胞の培養方法は、再生医療分野で、移植用のシート状角膜細胞の調製に利用できる。